説明

癌細胞抑制剤および癌細胞抑制シート

【課題】簡易にかつ副作用なく癌細胞の転移や再発を抑制する。
【解決手段】βリン酸三カルシウム多孔体粉末を含む癌細胞抑制剤1を提供する。βリン酸三カルシウム多孔体粉末も、シスプラチンと同様に、癌細胞の増殖、転移や再発を抑制する効果がある。βリン酸三カルシウム多孔体は生体親和性の高い材料のみによって構成されているので、副作用もなく癌細胞を抑制することができ、患者にかかる負担を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞抑制剤および癌細胞抑制シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、癌細胞の転移や再発を防止するために、シスプラチン等の抗癌剤を投与したり放射線治療したりすることが行われている(特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−90750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シスプラチン等の抗癌剤は副作用があり、また放射線治療は装置が大がかりであるという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易にかつ副作用なく癌細胞の転移や再発を抑制することができる癌細胞抑制剤および癌細胞抑制シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、βリン酸三カルシウム多孔体粉末を含む癌細胞抑制剤を提供する。
発明者らは、研究の結果、βリン酸三カルシウム多孔体粉末を癌細胞に付着させると、体内に異物が存在するときに反応する貪食細胞であるマクロファージの活動を活発化させ、これによってT細胞のような免疫細胞を癌細胞または癌細胞を切除した後の患部に集めることができることを見いだした。その結果、βリン酸三カルシウム多孔体粉末も、シスプラチンと同様に、癌細胞の増殖、転移や再発を抑制する効果があることがわかった。βリン酸三カルシウム多孔体は生体親和性の高い材料のみによって構成されているので、副作用もなく癌細胞を抑制することができ、患者にかかる負担を軽減することができる。
【0006】
上記発明においては、βリン酸三カルシウム多孔体が、25〜75μmの粒径を有することが好ましい。
粒径25μmより小さいβリン酸三カルシウム多孔体粉末の場合には、初期的には粒径25〜75μmの場合と同様の効果が認められたが、粒子どうしが凝集して大きな粒径となってしまいマクロファージの活動が活発化され難く、時間の経過とともに癌細胞の抑制効果が低くなる。また、粒径75〜106μmの場合には、粒径25〜75μmの場合よりも10〜20%低い抑制効果が認められた。さらに大きな粒径の場合には、βリン酸三カルシウム多孔体の気孔内に細胞が入り込んでマクロファージの活動が活発化され難い。これらの結果から粒径25〜75μmの場合に特に癌細胞を効果的に抑制することができる。
【0007】
また、上記発明においては、βリン酸三カルシウム多孔体が、気孔率75%以上の気孔率を有することが好ましい。
このようにすることで、βリン酸三カルシウム多孔体の成分が患部に溶出されやすく、マクロファージの活動を活発化させることができる。
【0008】
また、本発明は、柔軟性のあるシート部材の表面に粒径25〜75μmのβリン酸三カルシウム多孔体粉末をコーティングしてなる癌細胞抑制シートを提供する。
本発明によれば、癌細胞または癌細胞を切除した後の患部にβリン酸三カルシウム多孔体粉末のコーティングを宛うように配置することで、マクロファージがβリン酸三カルシウム多孔体に活動に集まり、免疫細胞を癌細胞または癌細胞を切除した後の患部に集めて、癌細胞の増殖、転移や再発を抑制することができる。
【0009】
上記発明においては、前記βリン酸三カルシウム多孔体が、75%以上の気孔率を有することが好ましい。
このようにすることで、βリン酸三カルシウム多孔体の成分が患部に溶出されやすく、マクロファージの活動を活発化させることができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記シート部材は、前記βリン酸三カルシウム多孔体粉末のコーティング領域の周囲の領域に粘着性材料がコーティングされていてもよい。
このようにすることで、βリン酸三カルシウム多孔体のコーティング領域を患部に宛った状態で、その周囲にコーティングされた粘着性材料を患部の周囲に粘着させてシート部材を固定することができる。これにより、βリン酸三カルシウム多孔体が患部に宛われた状態を簡易に維持することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記シート部材が、弾性材料により構成されていてもよい。
このようにすることで、シート部材に設けられた粘着性材料が患部の周囲に粘着させられる際に、シート部材が弾性変形させられるので、その弾性力によってβリン酸三カルシウム多孔体粉末が患部に押し付けられる。これにより、患部に存在するマクロファージがさらに刺激されて、活動が活発化させられる。
【0012】
また、上記発明においては、前記シート部材が、セルロース系高分子により構成されていてもよい。
また、上記発明においては、前記シート部材が、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロール硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム結晶セルロース、セルロース末を含んでいてもよい。
また、上記発明においては、前記シート部材が、ポリ乳酸により構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易にかつ副作用なく癌細胞の転移や再発を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る癌細胞抑制剤1および癌細胞抑制シート2について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る癌細胞抑制剤1は、気孔率75%の粒径25〜75μmのβリン酸三カルシウム多孔体粉末により構成されている。
【0015】
また、本実施形態に係る癌細胞抑制シート2は、図1に示されるように、一面に粘着性材料3をコーティングしてなるシート部材4と、該シート部材4の粘着性材料3側の表面中央部に所定の領域にわたってコーティングされた上記癌細胞抑制剤1とを備えている。
【0016】
シート部材4は、セルロース系の高分子によって構成されている。セルロース系の高分子としては、ヒアルロン酸にカルボキシメチルセルロースを加えたもの(例えば、セプラフィルム:科研製薬社製)や、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロール硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム結晶セルロース、セルロース末を含むものを挙げることができる。
【0017】
このように構成された本実施形態に係る癌細胞抑制剤1および癌細胞抑制シート2の作用について説明する。
本実施形態に係る癌細胞抑制剤1を癌細胞に付着させると、癌細胞の周囲の組織に存在していて、異物が存在するときに反応する貪食細胞であるマクロファージの活動が活発化させられる。そして、マクロファージが活性化されると、T細胞のような免疫細胞が、癌細胞に集められ、癌細胞の増殖、転移や再発が抑制される。
【0018】
シスプラチンのような抗癌剤とは異なり、βリン酸三カルシウム多孔体は生体親和性の高い材料のみによって構成されているので、副作用もなく癌細胞を抑制することができ、患者にかかる負担を軽減することができるという利点がある。
【0019】
本実施形態に係る癌細胞抑制シート2によれば、癌細胞にβリン酸三カルシウム多孔体粉末からなる癌細胞抑制剤1のコーティングを宛うように配置して癌細胞抑制剤1の周囲の粘着性材料3を周囲の組織に粘着させることにより、癌細胞抑制剤1を癌細胞に宛った状態に容易に固定しておくことができる。また、シート部材4をセルロース系の高分子材料によって構成することで、粘着させられる際に、シート部材4が弾性変形させられるので、その弾性力によって癌細胞抑制剤1を癌細胞に押し付けることができる。これにより、周囲の組織に存在するマクロファージがさらに刺激されて、活動が活発化させられて、癌細胞の抑制効果を高めることができる。
【0020】
図2に、本実施形態に係る癌細胞抑制剤1による大腸癌細胞の抑制効果を表すグラフを示す。
図2は、大腸癌細胞の表面に本実施形態に係る癌細胞抑制剤1を付着させてからの経過日数と大腸癌細胞の体積増加率との関係を示している。図2においては、癌細胞抑制剤1を付着させた時点での体積を100%としたときの数値を示している。
【0021】
図2において、パラメータControlは、何ら処置を施さない場合、パラメータTCPは本実施形態に係る癌細胞抑制剤1を付着させた場合、パラメータCisplatinは、抗癌剤であるシスプラチンを付着させた場合をそれぞれ示している。
これによれば、何ら処置を施さない場合、大腸癌細胞は、43日間で20000%を超える体積増加率を示したのに対し、本実施形態に係る癌細胞抑制剤1は、抗癌剤を付着させた場合と同様に、6000%程度の体積増加率にとどまった。
【0022】
すなわち、本実施形態に係る癌細胞抑制剤1によれば、抗癌剤であるシスプラチンと同様に癌細胞を抑制する効果があり、しかも、生体親和性の高い材料のみによって構成されているので、シスプラチンを塗布した場合のような副作用がなく、患者にかかる負担を軽減することができるという利点がある。
【0023】
なお、本実施形態においては、癌細胞抑制剤1を構成するβリン酸三カルシウム多孔体粉末の粒径を25〜75μmに設定した。この粒径範囲のものが効果的に癌細胞を抑制することが確認されたが、この粒径範囲以外の粒径のβリン酸三カルシウム多孔体粉末も癌細胞抑制効果がある。例えば、粒径25μmより小さいβリン酸三カルシウム多孔体粉末は、初期的には粒径25〜75μmの場合と同様の細胞抑制効果が認められたが時間の経過とともに抑制効果が低下した。一方、粒径75〜106μmの場合には、粒径25〜75μmの場合の10〜20%程度低い癌細胞抑制効果が認められた。
【0024】
また、シート部材4としてセルロース系の高分子材料からなるものを例示したが、これに限定されるものではなく、ポリ乳酸等の他の任意の生体親和性を有する材料からなるシート部材4を採用することにしてもよい。
また、シート部材4の表面に粘着性材料3をコーティングすることとしたが、これに代えて、粘着性材料3をコーティングしていない癌細胞抑制シートを採用してもよい。この場合、包帯や他の粘着シート等によって固定することにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る癌細胞抑制剤および癌細胞抑制シートを示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る癌細胞抑制剤の癌細胞抑制効果のグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 癌細胞抑制剤
2 癌細胞抑制シート
3 粘着性材料
4 シート部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
βリン酸三カルシウム多孔体粉末を含む癌細胞抑制剤。
【請求項2】
βリン酸三カルシウム多孔体が、25〜75μmの粒径を有する請求項1に記載の癌細胞抑制剤。
【請求項3】
βリン酸三カルシウム多孔体が、75%以上の気孔率を有する請求項1または請求項2に記載の癌細胞抑制剤。
【請求項4】
柔軟性のあるシート部材の表面に粒径25〜75μmのβリン酸三カルシウム多孔体粉末をコーティングしてなる癌細胞抑制シート。
【請求項5】
前記βリン酸三カルシウム多孔体が、75%以上の気孔率を有する請求項4に記載の癌細胞抑制シート。
【請求項6】
前記シート部材は、前記βリン酸三カルシウム多孔体粉末のコーティング領域の周囲の領域に粘着性材料がコーティングされている請求項4または請求項5に記載の癌細胞抑制シート。
【請求項7】
前記シート部材が、弾性材料により構成されている請求項6に記載の癌細胞抑制シート。
【請求項8】
前記シート部材が、セルロース系高分子により構成されている請求項7に記載の癌細胞抑制シート。
【請求項9】
前記シート部材が、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロール硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム結晶セルロース、セルロース末を含む請求項8に記載の癌細胞抑制シート。
【請求項10】
前記シート部材が、ポリ乳酸により構成されている請求項7に記載の癌細胞抑制シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−126434(P2010−126434A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298942(P2008−298942)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】