説明

発汗マネキン

【課題】1つの注水ラインから複数の分配管を分岐させる構成を維持しつつ、パーツごとに均一な発汗を実現することが可能な発汗マネキンを提供する。
【解決手段】まず、注水ラインを通じて人体の各部位に対応するパーツに注水する注水ポンプと、このパーツ表面の複数の注水穴と注水ラインとを接続する複数の分配管と、この注水ポンプの注水量を制御する制御手段とを備える。そして、上記分配管に逆止弁を設ける。これにより、各分配管内の残留水が逆流することを防げるので、最下位の注水穴からしか発汗しないような不都合を回避することができる。また、上記制御手段が、最大注水速度による注水を時分割で実行することで上記注水量を制御するようにする。これにより、上記逆止弁の圧力特性に左右されない発汗を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発汗機能を持つマネキンに関し、特に、環境を模擬的に形成して発汗状態を把握することが可能な発汗マネキンに関する。
【背景技術】
【0002】
発汗機能を持つマネキン(発汗マネキン)が、衣料分野あるいは空調分野で注目され始めている。例えば、繊維業界では、衣服の断熱性、発汗作用下での快・不快感の測定が研究の対象になっており、このときに発汗マネキンが使用される。また、室内特に自動車の室内空調制御の評価用としても、発汗機マネキンの使用が希望されている。さらに、特殊な分野としては、火災時に着用する防護服の快適性を評価するためにも発汗マネキンが使用されている。
【0003】
従来の発汗マネキンは、まず、図3に示すように、人体の各部位に対応する複数(ここでは19個)のパーツP1〜P19を組み合わせて擬似人体31を構成している。また、図4に示すように、各パーツP1〜P19の体壁を貫通して複数個の注水穴S1〜S4が、単位面積当たり所定数の割合で設けられている。この単位面積当たりの注水穴の数は、擬似人体全体で均一であってもよいし、部位ごとの発汗の程度に応じた数としてもよい。
【0004】
これらの各注水穴S1〜S4に対して体壁内側で分配管41〜44の一端が接続され、該分配管41〜44の他端は1の注水ライン30に接続された構成になっており、該注水ライン30は注水ポンプ40に接続されている。なお、注水ポンプ40及び注水ライン30は、パーツP1〜P19ごとに設けられるため、擬似人体31全体ではパーツに応じた数の注水ポンプ40及び注水ライン30が設置されることになる。
【0005】
体壁310の内面あるいは体壁厚内部には体壁温度を調整可能な加温手段50が設けられ、温度制御手段50によって状況に応じた体温を呈することができるようになっている。また、体壁表面には保水材311が全面に張設された構成となっている。
【0006】
上記構成において、想定された状況(例えば、運動しているとき、歩行しているとき等)に応じて、注水制御手段10で制御された量の水が注水ポンプ40から注水穴S1〜S4を介して体壁表面に供給されると、該供給された水は保水材311に浸透し、一旦ここで保持されて、体温や外気の状態に応じた発汗現象を実現することになる。
【0007】
なお、上記においてはパーツの数を19個とし、また、1のパーツごとに4〜13個程度の注水穴が設けられているため、擬似人体31全体の注水穴の数は147個程度となる。この147個の注水穴の1つずつに1台の注水ポンプを用いて発汗させるのが、本来は理想的である。しかしながら、この場合147台の注水ポンプを設置しなければならず、設備が巨大化することやコスト高となる。このため、上記のように1台の注水ポンプ40を注水ライン30から分配管41〜44により分岐させて、注水穴S1〜S4へ接続させる分岐構成を採用するのが現実的である。
【特許文献1】特開2004−68230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の従来技術には以下のような問題点がある。
【0009】
まず、注水ポンプ40の注水量を微量にした場合、図5に示すように、水は自重にしたがってパーツP1における最下位の注水穴S4からしか注水しないか、あるいは、分配管41〜44のうち最も分配管抵抗が少ないものと接続された1の注水穴からしか注水できず、結果として、その近辺からしか発汗しないという問題点がある。
【0010】
次に、注水を停止すると、分配管41〜44のいずれかの口が大気と連通した状態を形成するために、最下位の分配管44へ上位の分配管41〜43内の残留水が流れ込み、最下位の注水穴S4から漏出するという問題点がある。
【0011】
また、その後に微量の注水を再開すると、上位の分配管41〜43内の空気が管抵抗となるため、最下位の注水穴S4のみから発汗されるという現象が起こり、これも不都合である。
【0012】
さらに、注水量が微量でなくとも、やはり最下位の注水穴S4よりも上位の注水穴S1〜S3のほうが最下位の注水穴からの落差分だけ発汗量が少なくなる傾向があり、発汗ムラが生ずるという問題点もある。
【0013】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、1つの注水ラインから複数の分配管を分岐させる構成を維持しつつ、パーツごとに均一な発汗を実現することが可能な発汗マネキンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の目的を達成するために、本発明では以下のような手段を採用している。
【0015】
まず、本発明は、擬似人体の表面に開口する複数の注水穴のそれぞれに、注水ポンプよりの注水を注水ラインを介して分配する分配管を備え、注水制御手段によって該注水ポンプの注水量を制御する発汗マネキンを前提としている。
【0016】
本発明は上記発汗マネキンにおいて、上記分配管に逆止弁を備える構成となっている。
これにより、各分配管内の残留水が逆流することを防げるので、最下位の注水穴からしか発汗しないような不都合を回避することができる。
【0017】
また、本発明は上記擬似人体が所定の部位ごとのパーツに分割され、各パーツに対応して注水ポンプと注水ラインと該注水ラインより分配される分配管を備えた構成としている。これによって、各パーツごとに注水量を調整することができることになる。
【0018】
また、上記注水制御手段が、最大注水速度による注水を時分割で実行することで上記注水量を制御するようにする。これにより、上記逆止弁の圧力特性に左右されない発汗を実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、安価な構成で、パーツごとに均一な発汗を実現することが可能な発汗マネキンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本発明の発汗マネキンは、上記背景技術と同様な擬似人体31を採用している(図3参照)。即ち、人体の各部位に対応する複数(ここでは19個)のパーツP1〜P19を組み合わせて擬似人体31を構成している。そして、各パーツP1〜P19には、擬似人体の体壁310を貫通して、所定数(ここでは4〜13個)の注水穴S1〜S4が設けられている。本実施の形態では擬似人体31全体でのパーツ数を19、注水穴を4〜13個/パーツとして、全体の注水穴の数は147個程度である。
【0022】
また、各注水穴S1〜S4には擬似人体31の内側で分配管11〜14の一端に接続され、分配管11〜14の他端は注水ライン30に接続され、1のパーツに属する複数の分配管は共通の注水ライン30より分配された構成となっている。さらに、各注水ライン30は注水ポンプ40を介して水源(図示せず)に接続された構成となっている。上記注水ライン30は1パーツに1本の割合で配設され、また、注水ポンプ40は注水ライン30ごとに設けられるため、擬似人体31全体では上記パーツの数と同じ数だけの注水ポンプ40及び注水ライン30が設置されることになる。
【0023】
注水ポンプ40としては、例えば、内容積が50mlの注射器型ピストンビュレットをパルスモータで駆動する構成を採用することができる。これによれば、最大注水速度75ml/min、最小発汗量20ml/m2hr、最大発汗量1000ml/m2hrが、実現可能である。擬似人体31を構成している各パーツP1〜P19に、各々、1分配管であるために各パーツP1〜P19の表面積に発汗量を比例配分します。
【0024】
本発明では、さらに、図1に示すように、上記の分配管11〜14それぞれに、逆止弁B1〜B4が備えられている。この逆止弁B1〜B4としては、例えば、コイルバネ弁座形式の医療用逆止弁を採用することができ、本例の場合スローリーク開始圧力は30kpa、全開圧力は40kpaという圧力特性を持つが、これに限定されるものではない。
【0025】
擬似人体31の体壁310の外側には保水材(例えば布)311が張設され、上記分配管11〜14より送られてきた水は保水材311に浸透し、一旦保持され、体温や運動量に応じた量の汗として外部に排出されることになる。
上記の構成において、注水ポンプ40による注水量は、注水制御手段10によって制御することができるようになっているが、注水量の具体的な制御の方法に関しては後に説明する。
【0026】
また、擬似人体31の体壁310の内側あるいは、体壁の厚み内にはヒータ等の加温手段312が設けられ、加温制御手段50によって、擬似人体の表面温度を調整できるようになっている。この温度調整は擬似人体全体に対して均一の温度となるように制御してもよいし、また、パーツごとに制御する構成としてもよい。
【0027】
上記の構成において、注水ポンプ40より分配管11〜14に流入した水は、注水ポンプからの注水を停止しても、逆止弁B1〜B4の効果により、分配管11〜14内を逆流することがない。このため、分配管11〜14内の水は、それぞれ注水穴S1〜S4から確実に保水材311に供給され、発汗される。従って、上記背景技術のように、最下位の注水穴S4からしか発汗しないという不都合は生じない。同様に、分配管11〜14のうち最も分配管の管抵抗が少ないものと接続された注水穴からしか発汗しないという不都合も生じない。
【0028】
次に、注水を停止した場合を考察すると、逆止弁B1〜B4が存在するため、分配管11〜14のいずれかの口が大気に解放した状態を形成することはない。従って、最下位の分配管14へ上位の分配管11〜13内の残留水が流れ込み、最下位の注水穴S4から漏出するという不都合は生じない。
【0029】
また、一旦注水を停止した後に微量の注水を再開した場合を考えてみると、逆止弁B1〜B4が存在するために、上位の分配管11〜13内の残留空気が管抵抗となることがない。このため、上記背景技術のような、最下位の注水穴S4のみから発汗されるという不都合は生じない。
【0030】
さらに、注水量が微量でなくとも、従来は、最下位の注水穴S4よりも上位の注水穴S1〜S3のほうが最下位の注水穴からの落差分だけ発汗量が少なくなる傾向があり、発汗ムラが生ずるという問題点があった。しかし、本発明によれば、逆止弁B1〜B4を通過した水はそれぞれ注水穴S1〜S4から確実に発汗されることになるため、このような発汗ムラの問題が解消されるのである。
【0031】
以上のように、本発明の発汗マネキンは、各分配管11〜14に設けられた逆止弁の特性(スローリーク開始圧力、全開圧力)をそろえることによって、注入された水をそれぞれ注水穴S1〜S4から保水材311に確実に供給することができるため、パーツごとに均一な発汗を実現することができる。また、1つの注水ラインから複数の分配管を分岐させる構成を維持しているため、安価に製造することができる。
【0032】
ところで、上記逆止弁B1〜B4の圧力特性にバラツキがある場合が考えられる。即ち、各逆止弁のスローリーク開始圧力、全開圧力に個体差があることが考えられる。この個体差は、擬似人体31全体で147個もの逆止弁を設置する以上避けがたいが、次のような技術を採用することで、この個体差による発汗のバラツキを抑制することが可能となる。
【0033】
即ち、注水ポンプ40の注水量を制御する注水制御手段10(具体的には上記パルスモータを駆動するプログラムである)が、時分割によってこの注水量を制御するようにする。
【0034】
図2は、横軸に時間、縦軸に注水ポンプ40の注水速度をとったグラフである。上記の時分割とは、この図2に示すように、まず、1時間を60分割して、60秒を最小時間単位とする。そして、毎分00秒に、注水速度を上記最大注水速度75ml/minに固定して所定時間Tの注水を行う。その他の時間には注水を行わない。この所定時間Tと最小時間単位の注水を1時間に60回行ない、所定時間Tを制御することで、上記のような最小発汗量20ml/m2hr〜最大発汗量1000ml/m2hrの発汗を実現することができる。
【0035】
このような時分割の制御によれば、1回ずつの注水は最大注水速度で行われているため、逆止弁の圧力特性の影響を受けない。これにより、本発明の発汗マネキンは、さらに均一な発汗を実現することができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る発汗マネキンは、1つの注水ポンプから複数の分配管を分岐させる構成を維持しているため安価であり、かつ、パーツごとに均一な発汗を実現することが可能である。従って、衣服の断熱性試験などに用いる発汗マネキンとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の発汗マネキンに係るパーツの構造図。
【図2】時分割による制御の説明図。
【図3】発汗マネキンの全体構成図。
【図4】従来の発汗マネキンに係るパーツの構造図。
【図5】従来の発汗マネキンにおける不具合の説明図。
【符号の説明】
【0038】
10 注水制御手段
11〜14 分配管
B1〜B4 逆止弁
S1〜S4 注水穴
30 注水ライン
31 擬似人体
40 注水ポンプ
P1〜P19 パーツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似人体の表面に開口する複数の注水穴のそれぞれに、注水ポンプよりの注水を注水ラインを介して分配する複数の分配管を備え、注水制御手段によって該注水ポンプの注水量を制御する発汗マネキンにおいて、
上記分配管に逆止弁を備える
ことを特徴とする、発汗マネキン。
【請求項2】
上記擬似人体が所定の部位ごとのパーツに分割され、各パーツに対応して注水ポンプと注水ラインと該注水ラインより分配される複数の分配管を備えた請求項1に記載の発汗マネキン。
【請求項3】
上記注水制御手段が、最大注水速度による注水を時分割で実行することで上記注水量を制御する、請求項1に記載の発汗マネキン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−249800(P2009−249800A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103395(P2008−103395)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】