説明

発泡ゴム部材

【課題】耐摩耗性・耐汚染性に優れた発泡ゴム部材を提供する。
【解決手段】 発泡弾性体をイソシアネート化合物と有機溶媒とを含有する処理液を用いて含浸処理したものであり、少なくともイソシアネート化合物の密度が前記発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、各種プリンター等の各種OA機器等に用いられる帯電ロール、転写ロール、現像ロール、導電性ロール、給紙・搬送用ロール等に用いて特に好適な発泡ゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種OA機器の帯電、転写、現像、あるいは給紙・搬送用のロールは、接触する部材、例えば、感光体等を傷つけることがないように、低硬度化が求められている。従来、このようなロールには、EPDMゴムが用いられてきた(特許文献1、2等参照)。しかしながら、これらの文献にあるように、ソリッドゴムで低硬度化を図る場合には、軟化剤を多量に添加する必要があり、ブリードによる汚染や耐久性の面で問題がある。
【0003】
一方、スポンジ、すなわち、発泡体を用いてロールを低硬度とすることがある。スポンジロールは、低硬度化が比較的容易であり、また、軽量化することができ、耐紙粉性にも優れる。しかしながら、スポンジロールは、長期間使用すると画像不良を起こしたり(帯電・転写ロール)、搬送力が低下したり(給紙・搬送用ロール)という問題が発生することがあった。
【0004】
また、ウレタンフォーム層表面にイソシアネート化合物を塗布含浸させたトナー供給ローラが提案されている(特許文献3参照)。このローラは、低硬度であり、ローラ表面に未反応ポリオール成分の染み出しがないものであったが、対向部材に圧接して長時間使用される状況においては、耐久性の面で満足が得られるものではなかった。
【0005】
また、従来よりもさらに耐汚染性に優れるものが求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−77508号公報
【特許文献2】特開平7−242779号公報
【特許文献3】特開2008−15008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、耐汚染性及び耐久性に優れた発泡ゴム部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、発泡弾性体をイソシアネート化合物と有機溶媒とを含有する処理液を用いて含浸処理したものであり、少なくともイソシアネート化合物の密度が前記発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となっていることを特徴とする発泡ゴム部材にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発泡ゴム部材において、前記処理液は、フッ素系ポリマー、シリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくも1種を含有することを特徴とする発泡ゴム部材にある。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の発泡ゴム部材がロール形状、ブレード形状、又はベルト形状であることを特徴とする発泡ゴム部材にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、イソシアネート化合物等の密度が発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となっていることにより、応力を分散させることができ、変形に対する追従性に優れる。また、内部までイソシアネート化合物等が含浸していることにより、耐久性に優れると共に耐汚染性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の発泡ゴム部材は、発泡弾性体をイソシアネート化合物と有機溶媒とを含有する処理液を用いて含浸処理したものであり、少なくともイソシアネート化合物の密度が前記発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となっている。これにより、耐摩耗性・耐汚染性に優れた発泡ゴム部材を実現するというものである。
【0013】
ここで、段階的に疎とは、発泡弾性体の内部に向かって処理液の含有成分(主にイソシアネート化合物)の密度が段階的に小さくなっている状態のことを指す。通常、発泡弾性体にイソシアネート化合物を含む処理液を含浸させると、イソシアネート化合物が発泡弾性体の内部まで含浸して、イソシアネート化合物の密度が発泡弾性体の表面から内部まで均一な発泡ゴム部材が形成されるが、本願発明の発泡ゴム部材は、所定の方法により、イソシアネート化合物の密度が発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となったものである。発泡ゴム部材は、処理液が発泡弾性体の内部まで含浸したものであり、内部までイソシアネート化合物の密度の勾配がなくなることはなく、イソシアネート化合物等が段階的に疎となっているものである。かかる発泡ゴム部材は、発泡弾性体の表面から内部に向かってイソシアネート化合物等が段階的に疎となるように形成されているので、所定の押圧加重において応力を分散させることができ、追従性に優れたものとなる。従来の発泡ゴム部材のように、発泡弾性体の全体に均一にイソシアネート化合物が存在して追従性が低下したり、弾性が損なわれたりする虞のないものである。また、従来の発泡ゴム部材のように(特許文献3)、発泡弾性体の表面近傍のみに表面処理層が設けられて、所定の押圧加重において表面と内部との変形量に大きな差がでてしまうことがない。
【0014】
発泡ゴム部材は、処理液が発泡弾性体の径方向の内部まで含浸することにより形成されているのが好ましい。具体的には、処理液が、発泡ゴム部材を使用する際に変形してニップを形成する領域以上まで含浸していればよく、例えば、転写ロールなど比較的食い込み量の小さいものは、発泡弾性体の肉厚の5%以上、クリーニングロールなどの比較的食い込み量の大きいものは、発泡弾性体の肉厚の30%以上に含浸しているのが好ましい。勿論、イソシアネート化合物等の密度が発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となっていれば、全体まで含浸していてもよい。
【0015】
本発明の発泡ゴム部材は、処理液を発泡弾性体の径方向の内部まで含浸させたものであるため、所定の押圧加重で変形した際に発泡弾性体内部の未反応成分や導電性付与材などが表面まで溶出する虞がないものとなる。また、処理液を含浸させる前の発泡弾性体に比べて、耐久性、耐摩耗性に優れたものとなる。また、少なくともイソシアネート化合物の密度が発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となっていることにより、硬度を大幅に上昇させることなく、発泡弾性体の特性である低硬度を維持することができる。
【0016】
ここで、発泡弾性体はゴム基材を発泡させたものである。ゴム基材は、特に限定されず、例えば、エピクロルヒドリンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、アクリルウレタンゴムなどが挙げられる。これらのゴム基材は併用してもよく、用途・目的に応じて、種類、組み合わせを適宜選択する。
【0017】
また、発泡弾性体は、導電性付与剤により導電性が付与されていてもよい。導電性付与剤としては、カーボンブラック、金属粉などの電子導電性付与材や、イオン導電性付与材、又はこれらの両者を混合して用いることができる。カーボンブラックは種々の性質を持ったものがあるが、カーボン微粉末を用いるのが好ましい。なお、カーボンブラックを添加して発泡弾性体を成形する場合は、カーボンブラックを十分に分散させることが好ましい。カーボンブラックの分散性が不良であると、成形される発泡弾性体の圧縮永久歪みが大きくなりやすいためである。また、カーボンブラックを多量に添加する場合には、圧縮永久歪みに影響を与え難い、例えば、吸油量が小さいもの、粒径が大きいもの、ストラクチャーを形成し難いものなどを用いるのが好ましい。イオン導電性付与材としては、有機塩類、無機塩類、金属錯体、イオン性液体等が挙げられる。有機塩類、無機塩類としては、過塩素酸リチウム、4級アンモニウム塩、三フッ化酢酸ナトリウムなどが挙げられる。また、金属錯体としては、ハロゲン化第二鉄−エチレングリコールなどを挙げることができ、具体的には、特許第3655364号公報に記載されたものを挙げることができる。一方、イオン性液体は、室温で液体である溶融塩であり、常温溶融塩とも呼ばれるものであり、特に、融点が70℃以下、好ましくは30℃以下のものをいう。具体的には、特開2003−202722号公報に記載されたものを挙げることができる。
【0018】
また、発泡弾性体は、連続気泡でも独立気泡でもよいが、連続気泡が好ましい。発泡弾性体が連続気泡であることで、処理液が発泡弾性体に含浸しやすく、より形状安定性に優れた発泡ゴム部材を成形することができる。
【0019】
発泡弾性体は、上述したゴム基材、及び必要に応じて添加される導電性付与材を混合・発泡して成形するものであり、さらに、発泡剤、発泡助剤、加硫剤、加硫促進剤、充填剤等を混合して成形してもよい。
【0020】
処理液は、イソシアネート化合物及び有機溶媒を少なくとも含有するもの、言い換えれば、有機溶媒に少なくともイソシアネート化合物を溶解させたものである。
【0021】
処理液に含まれるイソシアネート化合物としては、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(TODI)等のイソシアネート化合物、および前記の多量体および変性体などを挙げることができる。さらに、ポリオールとイソシアネートからなるプレポリマーを挙げることができる。
【0022】
また、処理液には、フッ素系ポリマー及びシリコーン系ポリマーから選択される少なくも1種を含有させてもよい。これらのポリマーを処理液に配合することで、例えば、発泡ゴム部材を給紙ロール等に適用した場合に、トナー・紙粉等の付着を抑えることができる。これにより、発泡ゴム部材の表面のセルの目詰まりが抑えられ、発泡ゴム部材の特性を長期間に亘って維持することができる。
【0023】
フッ素系ポリマー及びシリコーン系ポリマーは、所定の有機溶媒に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものであるのが好ましい。フッ素系ポリマーとしてはアクリルフッ素系ポリマーが挙げられ、シリコーン系ポリマーとしてはアクリルシリコーン系ポリマーが挙げられる。アクリルフッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【0024】
また、処理液には、ポリエーテル系ポリマーを含有させてもよい。ここで、ポリエーテル系ポリマーは、有機溶媒に可溶であるのが好ましく、また、活性水素を有して、イソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものが好ましい。
【0025】
活性水素を有する好適なポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、エピクロルヒドリンゴムが挙げられる。ここでいうエピクロルヒドリンゴムは未加硫状態のものを指す。エピクロルヒドリンゴムは、発泡弾性体に導電性と共に弾性を付与することができるため好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムは、末端に活性水素(水酸基)を有しているが、ユニットに水酸基、アリル基などの活性水素を有しているものも好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体やその誘導体などを挙げることができる。
【0026】
活性水素を有する他の好適なポリエーテル系ポリマーとしては、水酸基又はアリル基を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリオール、グリコール等が挙げられる。このようなポリエーテル系ポリマーは活性水素を有する基を両末端に備えたものよりも片末端にのみ備えたものが好ましい。また、数平均分子量が300〜1000であることが好ましい。発泡弾性体に弾性を付与することができるためである。このようなポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル、ポリアルキレングリコールジメチルエーテル、アリル化ポリエーテル、ポリアルキレングリコールジオール、ポリアルキレングリコールトリオール等を挙げることができる。処理液にポリエーテル系ポリマーを添加することで、発泡ゴム部材の柔軟性や強度が向上し、その結果、発泡ゴム部材の表面が磨耗したり、当接する部材を傷つけたりする虞がなくなる。
【0027】
ゴム基材としてシリコーンゴムを用いる場合は、処理液がシリコーンゴムと相溶性のある反応性化合物を含んでいるのが好ましい。シリコーンゴムと相溶性のある反応性化合物とは、シリコーンゴムと相性がよく、シリコーンゴムや、イソシアネート化合物と反応し得る化合物をいう。シリコーンゴムとの相溶性が低いイソシアネート化合物のみ含有する処理液を用いた場合と比べて、このシリコーンゴムと相溶性のある反応性化合物を含む処理液は、弾性層に含浸しやすい。反応性化合物としては、ケイ素含有化合物、炭化水素化合物等が挙げられるが、特に、ケイ素含有化合物が好ましい。ケイ素含有化合物としては、シロキサン結合を有する化合物、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、クロロシリル基あるいはシラザンを有する機能性シラン、シリル化剤等が挙げられ、シロキサン結合を有する化合物、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。シロキサン結合を有する化合物としては、末端変性ジメチルシロキサン、縮合型および付加型の液状シリコーン、ケイ酸塩、上述したアクリルシリコーン系ポリマー等が挙げられる。なお、勿論、シロキサン結合を有する化合物が、末端にアルコキシシリル基を有していてもよい。また、シリコーンゴムと相溶性のある反応性化合物は、イソシアネート化合物と反応するものであることが好ましく、例えば、水酸基、アミノ基、イソシアネート基等を有しているのが好ましい。イソシアネート化合物と化学的に結合することで、より強度に優れた発泡ゴム部材を形成することができるためである。また、ブリードの発生する虞がないものとなるためである。ただし、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤の場合は、活性水素を有するとイソシアネート化合物と容易に反応して安定性に乏しくなるため、イソシアネート基を有するのが好ましい。
【0028】
処理液には、さらに、導電性付与材として、上述したカーボンブラック、金属粉などの電子導電性付与材や、イオン導電性付与材、又はこれらの両者を混合して添加してもよい。
【0029】
また、処理液中のフッ素系ポリマー及びシリコーン系ポリマーは、イソシアネート化合物100質量部に対し、フッ素系ポリマー及びシリコーン系ポリマーの総量を2〜30質量部配合するのが好ましい。2質量部より少ないとカーボンブラック等を発泡ゴム部材に保持する効果が小さくなる。一方、ポリマー量が30質量部より多いと、発泡ゴム部材の電気抵抗値が上昇し放電特性が低下するという問題や、相対的にイソシアネート化合物が少なくなって有効な含浸処理ができないという問題がある。
【0030】
有機溶媒は、イソシアネート化合物、および必要に応じて含有されるこれらフッ素系ポリマー及びシリコーン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマーを溶解するものであり、且つイソシアネート化合物と反応しないものであればよく、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルエチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン等が挙げられる。有機溶媒は、発泡弾性体に含浸しやすいものが好ましく、発泡弾性体のゴム基材の種類にあわせて適宜選択するのが好ましい。
【0031】
処理液のイソシアネート化合物の濃度は、発泡弾性体の機械的特性を著しく低下させることがない濃度であれば、特に限定されない。処理液のイソシアネート化合物の濃度は、ゴム基材と有機溶媒の組み合わせ、塗布方法等によって異なるが、例えば、0.1〜20質量%、より好ましくは0.1〜10質量%程度が好ましい。なお、処理液のイソシアネート化合物の濃度が低いほど、発泡弾性体に含浸しやすい、すなわち、含浸深度が深くなる傾向にある。イソシアネート化合物の濃度が高くなりすぎると、発泡弾性体の内部に、後述する架橋構造が形成されすぎてしまい、処理液を含浸させる前の発泡弾性体に比べて硬度が大きく上昇したり、応力が上昇しゴム弾性が低下したりする虞がある。
【0032】
ここで、本発明の発泡ゴム部材の製造方法について説明する。
【0033】
ゴム基材を発泡して発泡弾性体を成形する。そして、この発泡弾性体にイソシアネート化合物と有機溶媒とを少なくとも含有する処理液を用いて含浸処理することにより発泡ゴム部材を形成する。このとき、イソシアネート化合物等の密度が発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となるようにする。
【0034】
ここで、含浸処理とは、発泡弾性体に処理液を含浸させた後、有機溶媒を除去し、イソシアネート化合物等の含有成分を硬化させる処理のことをいう。発泡弾性体に含浸したイソシアネート化合物が、他のイソシアネート化合物、他の含有成分(フッ素系ポリマー等)、発泡弾性体を構成するゴム基材などと反応し、これらの架橋構造が発泡弾性体の内部に形成される。これにより、処理液を含浸させる前の発泡弾性体に比べて、耐摩耗性に優れた発泡ゴム部材が形成される。
【0035】
処理液を弾性体に浸透させる方法としては、処理液に発泡弾性体を浸漬(ディッピング)する方法、発泡弾性体に処理液をスプレー塗布する方法等が挙げられる。処理液の浸透深さは、処理液の濃度や温度、処理時間、発泡弾性体と有機溶媒との相溶性等により適宜調整する。また、ディッピングの場合は、発泡弾性体を所望の深さまで処理液に浸漬させることにより調整してもよい。
【0036】
イソシアネート化合物の密度が段階的に疎となるようにする含浸処理としては、例えば、発泡弾性体に処理液を塗布させた後、所定時間回転させてからイソシアネート化合物等を硬化させる方法が挙げられる。所定時間回転させることで、発泡弾性体に浸透した処理液の含有成分(主にイソシアネート化合物等)が拡散して、弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎な状態となる。
【0037】
他の方法としては、処理液を発泡弾性体に浸透させる操作を複数回行う含浸処理が挙げられる。このとき、処理液の浸透深さが厚さ方向に順次浅くなるように調整する。例えば3回含浸させた場合は、発泡弾性体の表面から内部に向かって、処理液が3回浸透した部位、処理液が2回浸透した部位、処理液が1回浸透した部位が形成される。すなわち、弾性体の表面から内部に向かって処理液の浸透量が除々に少なくなり、イソシアネート化合物等の密度が段階的に疎な状態となる。ここでは、処理液を発泡弾性体に3回含浸させた場合を例として説明したが、処理液を発泡弾性体に浸透させる回数は、特に限定されず、2回であっても、4回以上であってもよい。また、複数回処理液を浸透させる操作では、すべて同じ処理液を用いてもよく、異なる処理液を用いてもよい。異なる処理液としては、例えば、イソシアネート化合物の濃度が異なる処理液、イソシアネート化合物等の含有成分及び有機溶媒の少なくとも一方の種類が異なる処理液が挙げられる。イソシアネート化合物の濃度が異なる処理液を用いる場合は、濃度の薄い順に浸透させることにより、発泡弾性体の内部まで処理液が含浸しやすくなると共に、より容易にイソシアネート化合物等の密度を段階的に疎な状態とすることができる。
【0038】
なお、この処理液を浸透させる操作は、処理液を浸透させて弾性体のイソシアネート化合物等を硬化させた後に、再び行ってもよい。すなわち、処理液を2回以上浸透させた後にイソシアネート化合物等を硬化させてもよく、処理液を浸透させた後イソシアネート化合物等を硬化させるのを繰り返してもよい。ディッピングにより処理液を弾性体に浸透させる場合は、処理液を浸透させた後に弾性体のイソシアネート化合物等を硬化させるというのを繰り返して含浸処理するのが好ましい。弾性体に浸透したイソシアネート化合物等がその後に使用する処理液中に溶け出すのを防止することができるためである。また、処理液を2回以上浸透させた後にイソシアネート化合物等を硬化させる場合は、処理液を2回以上浸透させた後に所定時間放置して、処理液を拡散させてから硬化させてもよい。所定時間放置することにより、イソシアネート化合物等の密度がゆるやかに疎な状態とすることができる。
【0039】
イソシアネート化合物等の硬化の方法は、特に限定されず、イソシアネート化合物等の凝固点以下の温度に冷却した後、雰囲気の水分により硬化させる方法や、減圧下で溶媒を揮発させた後、熱や水分により硬化させる方法があり、一般的には、常温乾燥後、必要に応じて加熱処理する。なお、このときの加熱温度は、例えば、40〜150℃である。
【0040】
上述した方法により、イソシアネート化合物等の密度が発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となった発泡ゴム部材となる。この発泡ゴム部材は、発泡弾性体の機械的特性(例えば、低硬度で低比重、ゴム弾性)を維持しつつ、耐摩耗性・耐汚染性に優れたものとなる。また、変形に対する追従性に優れたものとなる。
【0041】
また、発泡ゴム部材の含浸処理前の発泡弾性体に対する応力の上昇率は、50%以下とするのが好ましく、より好ましくは20%以下とするのがよい。これよりも大きくなると、発泡弾性体が本来持つゴム弾性が著しく低下してしまう。
【0042】
また、発泡ゴム部材は、硬度がAsker Cで40°以下の範囲であることが好ましい。
【0043】
本発明の発泡ゴム部材は、複写機、ファクシミリ、各種プリンター等の各種OA機器等の各種給紙・搬送を行う給紙搬送用ロールや、画像形成装置に用いられる帯電ロール、転写ロール、現像ロール、導電性ロール、クリーニングブレード、弾性ベルト等に用いて特に好適なものである。
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明について説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
(発泡弾性体1)
3官能ポリエーテル系ポリオールであるMN−3050(三井化学ポリウレタン社製)100質量部に、水、整泡剤を添加・混合したものに、コスモネートT−80(三井化学ポリウレタン社製)50質量部を、あらかじめφ6mmのシャフトが配置されている60℃に予熱した金型に注型し、60分加熱することでロールを得た。得られたロールを研磨、突っ切りし、外径φ18mm×内径φ6mm×幅320mmで発泡倍率30.0倍の発泡弾性体1を得た。
【0046】
(発泡弾性体2)
エピクロルヒドリンゴム(ECO)を100質量部に、加硫剤として硫黄1.0質量部、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(ADCA)6.8質量部、発泡助剤として尿素化合物5.4質量部を添加して混練りし、ロールミキサーで混練りし、これを押出し成型してφ6mmのシャフトに装着し、160℃×1時間で加硫・発泡を行うことでロールを得た。得られたロールを研磨、突っ切りし、外径φ18mm×内径φ6mm×幅6mmで発泡倍率3.0倍の発泡弾性体2を得た。
【0047】
(実施例1)
2−メチルピロリドンにイソシアネート化合物(MDI)を添加混合し、10質量%濃度の処理液を作製した。横向きに回転させた発泡弾性体1に、25℃に保った処理液をスプレーで2回吹きつけ含浸させた後、発泡弾性体1を回転させつつ5分間放置した。その後、さらに発泡弾性体1を高速で回転させることで余分な処理液を除去した。この発泡弾性体1を1時間自然乾燥させ、120℃に保持されたオーブンでさらに1時間加熱硬化させて、実施例1の発泡ゴムロールを得た。
【0048】
(実施例2)
トルエンにイソシアネートプレポリマー(VIBRATHANE8585:ユニロイヤルケミカル社製)を添加混合して1%と5%濃度の処理液を作製し、一方で2−メチルピロリドンにイソシアネート化合物(MDI)を添加混合して10質量%濃度の処理液を作製した。次に、横向きに回転させた発泡弾性体1に、25℃に保った1質量%濃度の処理液をスプレーで2回吹きつけて含浸させた後、発泡弾性体1を回転させつつ5分間放置した。その後、さらに発泡弾性体1を高速で回転させることで、余分な処理液を除去した。この操作を5質量%、10質量%濃度の処理液で繰り返した後、発泡弾性体1を1時間自然乾燥させ、120℃に保持されたオーブンでさらに1時間加熱硬化させて、実施例2の発泡ゴムロールを得た。
【0049】
(実施例3)
酢酸エチルに、イソシアネート化合物(MDI)を添加混合し、1質量%、5質量%、10質量%濃度の処理液を作製した。次に、横向きに回転させた発泡弾性体2を、表面から4.5mmの位置まで25℃に保った1質量%濃度の処理液に10秒間浸漬させた後、発泡弾性体2を液面から引き上げ、さらに高速で回転させることで余分な処理液を除去した。この操作を5%、10%濃度の処理液で繰り返した後、発泡弾性体2を1時間自然乾燥させ、120℃に保持されたオーブンでさらに1時間加熱硬化させて、実施例3の発泡ゴムロールを得た。なお、5質量%濃度の処理液では発泡弾性体2の表面から3mmの位置まで、10質量%濃度の処理液では発泡弾性体2の表面から1.5mmの位置まで浸透させた。
【0050】
(実施例4)
酢酸エチルにイソシアネート化合物(MDI)を添加混合させた10質量%濃度の処理液を作製した。次に、横向きに回転させた発泡弾性体2に、10質量%濃度の処理液をスプレーで2回吹きつけて含浸させた後、発泡弾性体2を回転させつつ5分間放置した。その後、高速で回転させて余分な処理液を除去して、発泡弾性体2を1時間自然乾燥させ、120℃に保持されたオーブンでさらに1時間加熱硬化させることにより、実施例4の発泡ゴムロールを得た。
【0051】
(比較例1)
酢酸エチルに、イソシアネート化合物(MDI)を添加混合させた20%濃度の処理液を作製し、この処理液をスプレーで吹きつける代わりに、発泡弾性体1の全体を30秒間処理液に浸漬した以外は実施例1と同様に作製して、比較例1の発泡ゴムロールを得た。
【0052】
(比較例2)
処理液の濃度を1%とした以外は比較例1と同様に作製して、比較例2の発泡ロールを得た。
【0053】
(比較例3)
ウレタン塗料(ネオレッツR−940;楠本化成社製)をスプレーで2回吹きつけてコーティング層を形成した以外は実施例3と同様に作製して、比較例3の発泡ゴムロールを得た。
【0054】
(試験例1)機械的特性の評価
発泡弾性体1〜2、各実施例、及び各比較例の発泡ゴムロールを、肉厚方向に25%圧縮し、このときにかかる応力を測定した。
【0055】
また、このときのロールの径方向の各部位における厚さの変化を確認した。具体的には、発泡ゴムロールの表面0〜2mmの部分を上部、ロールの表面2〜4mmの部分を中央部、ロールの表面4〜6mmの部分を下部として、肉厚方向に25%圧縮したときの各部位の厚さを測定した。結果を表1〜2及び図1〜4に示す。
【0056】
(試験例2)耐久試験
発泡弾性体1〜2、各実施例、及び各比較例の発泡ロールを、NN環境(25℃、50%RH)下食い込み量3mmで感光体に当接させ、10万回転させた後、ロールの外径を測定してロールの外径変化量を求めた。また、このときのロールの状態及び感光体の状態を観察した。結果を表1〜2、図5〜6に示す。
【0057】
(試験例3)汚染試験
発泡弾性体1〜2、各実施例及び各比較例の発泡ロールを、HH環境(50℃、90%RH)下食い込み量3mmで感光体に当接させ、14日間保持した後、感光体表面における汚染の有無を確認した。感光体表面が汚染されていなかった場合を○、ほとんど汚染されていなかった場合を△、汚染されていた場合を×とした。結果を表1〜2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
(試験結果のまとめ)
実施例1の発泡ゴムロールは、応力が発泡弾性体1の1.1倍程度であった。また、圧縮による変形に対する厚さの変化が上部、中央部、下部と除々に小さくなっており、応力を分散させてロール全体をソフトに保っていることが確認された。耐久試験における外径変化量は0.22mmであり、発泡弾性体1よりも耐久性が2倍以上向上していることが確認された。
【0061】
処理液をスプレー塗布により、複数回含浸させた後に所定時間回転させてイソシアネート化合物等が緩やかに疎となるようにした実施例2の発泡ゴムロールは、実施例1の発泡ゴムロールよりもさらに、応力の上昇が抑えられ、外径変化量が小さくなり、耐久性が向上していることが確認された。
【0062】
また、実施例1及び2の発泡ゴムロールは、いずれも汚染試験における汚染は確認されなかった。
【0063】
これに対し、発泡弾性体の全体に処理液を含浸させた比較例1の発泡ゴムロールは、ロール全体をソフトに保つことができず、結果として、応力が大きく上昇しており、耐久試験では感光体表面にキズが発生していることが確認された。
【0064】
応力の上昇や感光体表面のキズの発生を防ぐために処理液の濃度を1質量%とした比較例2では、応力は発泡弾性体1と同程度となり、耐久試験においては、感光体表面にキズの発生は確認されなかったものの、外径変化量は、発泡弾性体1に対して1.2倍ほどしか改善されなかった。なお、汚染試験においては、比較例1、2ともに、感光体表面における汚染は見られなかった。
【0065】
一方、発泡弾性体を処理液に複数回浸漬させて形成した実施例3の発泡ゴムロールは、応力は発泡弾性体2の1.1倍程度であり、耐久性が発泡弾性体2の3倍以上向上していることが確認された。また、汚染試験において感光体表面における汚染は見られなかった。
【0066】
また、表面近傍のみを処理した実施例4は、ゴムロール全体をソフトに保つことができることから、応力も低く、耐久試験においては、外径変化量も少なかった。しかしながら、処理された弾性体の厚さよりも食い込み量の方が大きいために、汚染試験においては、未処理部分が感光体に接触し、結果として、わずかに感光体の汚染が見られた。
【0067】
また、コート層を有する比較例3の発泡ゴムロールは、ロール全体としてはソフトであるため応力が低く、耐久試験における外径変化量も少なく、汚染試験においても感光体表面に汚染は見られなかった。しかしながら、コート層と発泡弾性体との硬度が大きく異なることから、変位(回転)に対して、互いが十分に追随することが出来ず、結果として、発泡弾性体とコート層の界面付近には亀裂が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の試験例1の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の試験例1の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の試験例1の結果を示すグラフである。
【図4】本発明の試験例1の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の試験例2の結果を示すグラフである。
【図6】本発明の試験例2の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡弾性体をイソシアネート化合物と有機溶媒とを含有する処理液を用いて含浸処理したものであり、少なくともイソシアネート化合物の密度が前記発泡弾性体の表面から内部に向かって段階的に疎となっていることを特徴とする発泡ゴム部材。
【請求項2】
請求項1に記載の発泡ゴム部材において、前記処理液は、フッ素系ポリマー、シリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくも1種を含有することを特徴とする発泡ゴム部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発泡ゴム部材がロール形状、ブレード形状、又はベルト形状であることを特徴とする発泡ゴム部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−42896(P2010−42896A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207409(P2008−207409)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】