説明

発泡体

【課題】建材用・家電用・自動車用の断熱材として好適に活用できる断熱性能と耐熱性、環境性能に優れた樹脂発泡体を提供することを課題とする。
【解決手段】孔径が10μm以上500μm以下の空孔を空孔(L)、孔径が0.01μm以上1μm未満の空孔を空孔(S)とした際に、孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、もう1つのピークが空孔(S)に由来することを特徴とする、芳香族ポリエステル系樹脂発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性能と耐熱性能に優れた、芳香族ポリエステル系樹脂発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬質ウレタンフォームや軟質ウレタンフォーム、発泡スチロールに代表される樹脂発泡体は、住宅などの断熱材として用いられており、近年高まる省エネルギー意識の中で、冷暖房エネルギーを削減するという非常に重要な役割を担うものである。
【0003】
このような断熱材は一般に、樹脂発泡体内部のごく小容積に低熱伝導率の気体を内包することで優れた断熱性能を発現する。
【0004】
かつて断熱材中の低熱伝導率気体には、フロンガス(CFC)が広く用いられていたが、CFCがオゾン層破壊物質であるため、その代替としてハイドロフルオロカーボン(HFC)やブタン、プロパンなどの低分子炭化水素が使用されていた。さらに近年、HFCは地球温暖化係数が極めて大きいこと、低分子炭化水素は引火性であることから、より環境低負荷型でより安全な二酸化炭素を使用する動きが高まっている。
【0005】
樹脂発泡体における断熱性能は、内包されている低熱伝導気体を除けば、空隙率と気泡径によって左右される。空隙率が大きく気泡径が小さいほど高い断熱性能を発現するが、一般的な技術では、空隙率を大きくするためには気泡径を大きくするしかなかったため、ある空隙率において熱伝導率が極小値をもち、それ以上の空隙率になると断熱性能が悪化する傾向にあった。
【0006】
そこで近年、樹脂発泡体の気泡構造を制御し、樹脂発泡体自体の断熱性能を向上する技術がなされている。
【0007】
特に特許文献1では、ポリエステル樹脂のなかでも特に生分解性ポリエステルをベースに、二酸化炭素溶解度の異なる成分を微分散させて発泡させることで、気泡の微細化と気泡隔壁への微細孔の形成に成功し、低熱伝導率を達成している。該技術は、ウレタンやフェノールなどの熱硬化性樹脂がマテリアルリサイクルに不向きであるのに対し、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることでリサイクル性が向上し、かつ、高い断熱性能を有する素材を提供することができる技術である。
【0008】
また、芳香族ポリエステル発泡体について、特許文献2〜4の先行技術がある。なかでも特許文献4では、発泡に適した芳香族ポリエステル樹脂を開発し、20倍まで発泡することに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2009/110587号公報
【特許文献2】WO1993/01230号公報
【特許文献3】特開2008−223038号公報
【特許文献4】特開2004−35694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら特許文献1に記載の技術は、優れた断熱性能を有していながら、生分解性ポリエステルをベースにしているために、耐熱性が低くなる傾向にある。耐熱性の低下は、断熱材としての用途が限られて来ることから、耐熱性を少しでも向上することが望まれていた。
【0011】
また特許文献2〜4の技術では、いずれもタルクやステアリン酸といった発泡核剤を必要とし、これらを高度に分散させなければ発泡径に斑が生じるといった課題があった。また、20倍を超える発泡体については具体的な製造方法の開示はない。
【0012】
本発明は、前述の課題を解決し、断熱性能と耐熱性能に優れた、芳香族ポリエステル系樹脂発泡体に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の何れかの構成によって前記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
(1)孔径が10μm以上500μm以下の空孔を空孔(L)、孔径が0.01μm以上1μm未満の空孔を空孔(S)とした際に、孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、もう1つのピークが空孔(S)に由来することを特徴とする、芳香族ポリエステル系樹脂発泡体。
(2)前記芳香族ポリエステル系樹脂が、2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂からなる(1)に記載の発泡体。
(3)2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂のうち、質量的に最も多い樹脂を芳香族ポリエステルAとした際に、該芳香族ポリエステルAが、ジオール成分としてスピログリコール成分を含むことを特徴とする、(2)に記載の発泡体。
(4)前記芳香族ポリエステルAを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、スピログリコール成分を5モル%以上50モル%以下含有することを特徴とする、(3)に記載の発泡体。
(5)前記芳香族ポリエステルAが、非晶性樹脂であることを特徴とする、(3)又は(4)に記載の発泡体。
(6)2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂のうち、質量的に2番目に多い樹脂を芳香族ポリエステルBとした際に、該芳香族ポリエステルBが、ジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、又は、ポリエチレングリコール成分を含むことを特徴とする(2)〜(5)のいずれかに記載の発泡体。
(7)前記芳香族ポリエステルBが、非晶性樹脂であることを特徴とする、(6)に記載の発泡体。
(8)空隙率(X)が80%以上99%以下である、(1)〜(7)のいずれかに記載の発泡体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、断熱性能と環境性能に優れた樹脂発泡体を提供することができる。この断熱材は、特に、建材用・家電用のノンフロン系断熱材として好適に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の発泡体の一例の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発泡体の構造)
本発明の発泡体は、断面を顕微鏡などで観察した際、例えば図1に示すように、孔径が大きな空孔(L)と、孔径が小さな空孔(S)を有している。空孔(L)と空孔(S)とが共存するため、断熱性能を高めることができる。
【0017】
本発明は、孔径が大きな空孔(L)によって高い空隙率(X)を達成し、その空孔(L)の壁面にサブミクロンまたはナノオーダーの微小な空孔(S)が存在することによって、壁面樹脂の伝熱を大幅に低減することも可能となる。本発明における空孔(L)と空孔(S)の分布は、実施例の欄で説明するように測定される孔径分布において、バイモーダル(Bimodal)分布であることが重要である。通常、樹脂発泡体における孔径はすべて均一の孔径ではなく、ある範囲で分布をもって存在している。バイモーダル分布とは、その分布が2つの独立した分布として存在する「離れ小島分布」、あるいは2つの分布が重なりピークが2つあるような「2山分布」であることを表すものである。
【0018】
孔径が10μm以上500μm以下の空孔を空孔(L)、孔径が0.01μm以上1μm未満の空孔を空孔(S)とした際に、本発明の発泡体の孔径分布は、所謂「離れ小島分布」であり、その2つのピークの内の一つが空孔(L)(孔径が10μm以上500μm以下の空孔)に由来し、他の1つは、空孔(S)(孔径が0.01μm以上1μm未満の空孔)に由来する分布とすることで、熱伝導率を下げることができるために重要である。
【0019】
より低い熱伝導率を達成させる場合、空孔(L)は孔径が10μm以上150μm未満の空孔であることが好ましく、空孔(S)は孔径が0.01μm以上0.5μm未満の空孔であることが好ましい。
【0020】
なお、本発明において孔径とは円換算直径をいい、円換算直径とは空孔の面積と同面積を有する円の直径をいう。
【0021】
また、発泡体の気泡構造としては、気泡同士が連なってなる連通気泡構造と、気泡が独立してなる独立気泡構造があるが、より高い断熱性能を求める場合、独立気泡を有した発泡体であることが好ましい。
【0022】
上記、孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、もう1つのピークが空孔(S)に由来する発泡体の製造方法は、次項(樹脂発泡体の製造方法)にて説明する。
【0023】
本発明でいう芳香族ポリエステル系樹脂発泡体とは、芳香族ポリエステル系樹脂を主として含む発泡体を意味する。
【0024】
ここで主としてとは、発泡体の全成分100質量%において、芳香族ポリエステル系樹脂を80質量%以上100質量%以下含むことを意味する。より好ましくは、発泡体の全成分100質量%において、芳香族ポリエステル系樹脂を90質量%以上100質量%以下含む態様である。
【0025】
本発明における芳香族ポリエステル系樹脂とは、ジカルボン酸成分とジオール成分の繰り返し単位から成るポリエステル系樹脂であり、特に該樹脂を構成するジカルボン酸成分の合計100モル%において、芳香族ジカルボン酸成分が80モル%以上100モル%以下であるものを意味する。芳香族ポリエステル系樹脂は、より好ましくは、該樹脂を構成するジカルボン酸成分の合計100モル%において、芳香族ジカルボン酸成分が95モル%以上100モル%以下、更に好ましくは98モル%以上100モル%以下、最も好ましいのは芳香族ジカルボン酸成分が100モル%の態様である。
【0026】
芳香族ポリエステル系樹脂を構成する前述の芳香族ジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、フタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、2,7−ナフタレンジカルボン酸成分、2,2’−ビフェニルジカルボン酸成分、3,3’−ビフェニルジカルボン酸成分、4,4’−ビフェニルジカルボン酸成分、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸成分、3,3’−ジフェニルスルホンジカルボン酸成分、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸成分等を例示することができる。これらのうち、安価で入手が容易であるテレフタル酸成分を用いたものが特に好ましい。
【0027】
また本発明でいう芳香族ポリエステル系樹脂は、該樹脂を構成するジカルボン酸成分の合計100モル%において芳香族ジカルボン酸成分が80モル%以上100モル%以下であるものを意味するので、ジカルボン酸成分の合計100モル%において脂肪族ジカルボン酸成分を0モル%以上20モル%以下含有することが可能である。このような本発明の芳香族ポリエステル系樹脂が含有可能な脂肪族ジカルボン酸成分は特に限定されないが、例えば、ポリグリコール酸成分、ポリブチレンアジペート成分、ポリブチレンサクシネート成分、ポリブチレンアジペート/ポリブチレンサクシネート共重合体成分、ポリヒドロキシ酪酸成分、ポリカプロラクトン成分、ポリ乳酸成分、などを挙げることができる。
【0028】
芳香族ポリエステル系樹脂を構成する前述のジオール成分は、特に限定されず、芳香族ジオール成分、脂肪族ジオール成分などを用いることができる。本発明の芳香族ポリエステル系樹脂を構成するジオール成分としては、例えば、エチレングリコール成分、1,3−プロパンジオール成分、1,2−プロパンジオール成分、2−メチル−1,3−プロパンジオール成分、1,3−ブタンジオール成分、1,4−ブタンジオール成分、1,2−ブタンジオール成分、1,5−ペンチルグリコール成分、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール成分、2−エチル−1,3−プロパンジオール成分、1,6−ヘキサンジオール成分、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール成分、1,8−オクタンジオール成分、1,10−デカンジオール成分、1,3−シクロブタンジオール成分、1,3−シクロブタンジメタノール成分、1,3−シクロペンタンジメタノール成分、1,2−シクロヘキサンジメタノール成分、1,3−シクロヘキサンジメタノール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、スピログリコール成分等を例示することができる。これらのうち、安価で入手が容易であるエチレングリコール成分や、ポリエチレングリコール成分、環状構造を有する1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、スピログリコール成分を用いたものが特に好ましい。
【0029】
本発明における発泡体に用いられる芳香族ポリエステル系樹脂は、単一の芳香族ジカルボン酸成分と単一のジオール成分により形成されたポリエステル系樹脂、2つ以上の芳香族ジカルボン酸成分と単一のジオール成分により形成されたポリエステル系樹脂、単一の芳香族ジカルボン酸成分と2つ以上のジオール成分により形成されたポリエステル系樹脂、2つ以上の芳香族ジカルボン酸成分と2つ以上のジオール成分により形成されたポリエステル系樹脂のいずれであってもよい。
【0030】
また、本発明の樹脂発泡体を得る際は、その製造方法によって求められる樹脂の重要特性は異なるが、特に押出発泡によって製造を行う際は、押出機内での粘弾性変化を少なくすることができる事から、非晶性成分を含有したジオールを用いた芳香族ポリエステルが好適に用いられる。
【0031】
例えば前述の例の中でも、非晶性成分を有するジオール成分を含有した芳香族ポリエステル系樹脂としては(つまり、非晶性成分を有するジオールを用いて得られる芳香族ポリエステル系樹脂としては、)、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分、ジオール成分としてエチレングリコール成分及びスピログリコール成分を含有する芳香族ポリエステル、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分、ジオール成分としてエチレングリコール成分及びポリエチレングリコール成分を含有する芳香族ポリエステル、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分、ジオール成分としてエチレングリコール成分及び1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を含有する芳香族ポリエステルが好適に用いられる。
【0032】
孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、もう1つのピークが空孔(S)に由来する発泡体を製造する方法として、本発明の発泡体中の芳香族ポリエステル系樹脂を、2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂からなる態様とすることが好ましい。より好ましくは、発泡体中の芳香族ポリエステル系樹脂が、2種類の芳香族ポリエステル系樹脂からなる態様とすることである。
【0033】
2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂のうち、質量的に最も多い樹脂を芳香族ポリエステルAとして、質量的に2番目に多い樹脂を芳香族ポリエステルBとした際に、芳香族ポリエステルBを芳香族ポリエステルA中に微分散させることにより、空孔(L)と空孔(S)を得ることができる。
【0034】
このように、2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂のうち、質量的に最も多い樹脂を芳香族ポリエステルA、質量的に2番目に多い樹脂を芳香族ポリエステルBとしたとき、芳香族ポリエステルAは空孔(L)の形成に寄与すると考えられ、芳香族ポリエステルBは空孔(S)の形成に寄与すると考えられる。
【0035】
孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、もう1つのピークが空孔(S)に由来する発泡体を得るために、発泡体が含有する芳香族ポリエステルAと芳香族ポリエステルBは、その溶融特性や同一の発泡剤に対する溶解度が異なるように制御された樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
製造方法により重要特性は異なるが、特に押出発泡によって本発明の発泡体を得る際は、芳香族ポリエステルA中に微分散された芳香族ポリエステルBの溶融特性や同一の発泡剤に対する溶解度が互いに異なることで、押出系内から射出された時の気泡生成の速度や、発泡核となる発泡剤の溶解状態が異なることで、孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、もう1つのピークが空孔(S)に由来する発泡体を得ることが出来る。
【0037】
芳香族ポリエステルAと芳香族ポリエステルBとの好適な含有比率は、芳香族ポリエステルA100質量部に対して、芳香族ポリエステルBが1質量部以上30質量部以下である。芳香族ポリエステルA100質量部に対して、芳香族ポリエステルBが1質量部未満であると、空孔(S)が充分に形成されない場合があり、また芳香族ポリエステルA100質量部に対して、芳香族ポリエステルBが30質量部を越えると、空孔(L)が形成し難くなることがある。
【0038】
空孔(L)を好適に形成させて、孔径分布におけるピークの一つを空孔(L)とするために、芳香族ポリエステルAは、ジオール成分としてスピログリコール成分を含むことが好ましい。芳香族ポリエステルA中にスピログリコール成分を導入することで、結晶性が崩れ、芳香族ポリエステルAが非晶性樹脂になることで、押出機内での粘弾性変化が少なくなり、発泡条件幅が広がる。また、ベンゼン環間の距離が広がることで、分子鎖の絡み合いが増大し、張力が高まることで溶融粘度及び溶融張力が増大し、空孔(L)が小さくなりやすい。芳香族ポリエステルAは、ジオール成分としてスピログリコール成分だけでなく、さらにエチレングリコール成分を含むことがより好ましい。
【0039】
芳香族ポリエステルAが、ジオール成分としてスピログリコール成分を含む場合、芳香族ポリエステルAを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、スピログリコール成分を5モル%以上50モル%以下含有することが好ましい。スピログリコール成分のより好ましい含有量は、芳香族ポリエステルAを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、10モル%以上50モル%以下であり、さらに好ましくは15モル%以上45モル%以下である。
【0040】
芳香族ポリエステルAを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、スピログリコール成分の含有量が5モル%未満では、芳香族ポリエステルAの溶融粘度、張力が充分でなく、空孔の孔径が大きくなり、孔径分布におけるピークの一つが空孔(L)には存在しなくなったり、発泡しないことがある。芳香族ポリエステルAを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、スピログリコール成分の含有量が50モル%を越えると、粘度が高くなりすぎて、装置の負荷が大きくなり、加工性が低下し易くなることがある。
【0041】
また前述の通り、芳香族ポリエステルAがジオール成分としてスピログリコール成分を含む場合、芳香族ポリエステルAを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、スピログリコール成分を5モル%以上50モル%以下含有することが好ましく、残りの50モル%以上95モル%以下のジオール成分は特に限定されないが、エチレングリコール成分であることが特に好ましい。このような組成とすることにより、芳香族ポリエステルAを非晶性樹脂とすることができる。またこの場合、芳香族ポリエステルAを構成するジカルボン酸成分は特に限定されないが、安価で入手が容易な点から、テレフタル酸成分であることが好ましい。
【0042】
芳香族ポリエステルAは、前述の通り、ジオール成分としてスピログリコール成分を含むものが好適に用いられるが、その限りではい。特に、高い空隙率の発泡体を得る際には、押出機内での粘弾性変化が少なくなり発泡させるための条件の幅が広がることから、芳香族ポリエステルAは非晶性樹脂であることが好ましい。なお、後述するDSC測定を行った際に、結晶化による吸熱ピークが観察されない樹脂を非晶性樹脂という。そのため、芳香族ポリエステルAが非晶性樹脂であるか否かは、発泡体を製造する際に用いる原料である芳香族ポリエステルAに、このDSC測定による方法を適用することによって判断できる。
【0043】
孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(S)に由来するピークとするためには、芳香族ポリエステルBは、ジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、又は、ポリエチレングリコール成分を含む芳香族ポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0044】
芳香族ポリエステルBに好適に用いられるジオール成分として、前記であげた2つの例の内、まず1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を含む芳香族ポリエステル系樹脂を用いた場合について説明する。
【0045】
前述の通り芳香族ポリエステルAと芳香族ポリエステルBとは、溶融特性や同一の発泡剤に対する溶解度が互いに異なる樹脂とすることが好ましい。そして、芳香族ポリエステルBとして、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を含む芳香族ポリエステル系樹脂を用いると、芳香族ポリエステルAに対し、溶融特性が異なる樹脂に制御することができ、小気泡である空孔(S)が形成されやすくなる。
【0046】
芳香族ポリエステルBがジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を含む場合、芳香族ポリエステルBを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を10モル%以上70モル%以下含有する事が好ましい。
【0047】
また前述の通り、芳香族ポリエステルBがジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を含む場合、芳香族ポリエステルBを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を10モル%以上70モル%以下含有することが好ましく、残りの30モル%以上90モル%以下のジオール成分は特に限定されないが、安価で入手が容易であることから、エチレングリコール成分であることが特に好ましい。またこの場合、芳香族ポリエステルBを構成するジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、安価で入手が容易であるテレフタル酸成分が好ましい。
【0048】
芳香族ポリエステルBは、非晶性樹脂であることが好ましい。後述する方法でDSC測定を行った際に、結晶化による吸熱ピークが観察されない樹脂を非晶性樹脂という。そして芳香族ポリエステルBが非晶性樹脂であるか否かは、発泡体を製造する際に用いる原料である芳香族ポリエステルBにこの方法を適用することによって判断できる。
【0049】
非晶性の芳香族ポリエステルBは、例えば、芳香族ポリエステルBを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を30モル%以上60モル%以下、より好ましくは30モル%以上50モル%含有する樹脂である。
【0050】
次に、芳香族ポリエステルBに好適に用いられるジオール成分として、前記であげた2つの例の内のポリエチレングリコール成分を含む芳香族ポリエステルを用いた場合について説明する。
【0051】
芳香族ポリエステルBとして、ジオール成分としてポリエチレングリコール成分を含む芳香族ポリエステルを用いた場合には、芳香族ポリエステルAに対し、同一の発泡剤に対する溶解度が互いに異なる樹脂に制御することができ、小気泡である空孔(S)が形成されやすくなる。
【0052】
本発明の芳香族ポリエステルBのジオール成分として用いられるポリエチレングリコール成分は、数平均分子量200〜10,000であることが好ましく、数平均分子量200〜5,000であることが特に好ましい。つまり、芳香族ポリエステルBを製造する際に、数平均分子量が200〜10,000のポリエチレングリコールをジオールとして用いることが好ましく、数平均分子量200〜5,000のポリエチレングリコールをジオールとして用いることが特に好ましい。なお、本発明において数平均分子量は、後述する方法によって測定された値を意味する。
【0053】
芳香族ポリエステルBは、該ポリエステルBを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、ポリエチレングリコール成分を0.01モル%以上20モル%以下含有する事が好ましい。
【0054】
また前述の通り、芳香族ポリエステルBがジオール成分としてポリエチレングリコール成分を含む場合、芳香族ポリエステルBを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、ポリエチレングリコール成分を0.01モル%以上20モル%以下含有することが好ましく、残りの80モル%以上99.99モル%以下のジオール成分は特に限定されないが、安価で入手が容易であることから、エチレングリコール成分であることが特に好ましい。またこの場合、芳香族ポリエステルBを構成するジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、安価で入手が容易であるテレフタル酸成分が好ましい。
【0055】
芳香族ポリエステルAと芳香族ポリエステルBの環状構造や極性といった特徴によって、溶融特性や同一の発泡剤に対する溶解度が互いに異なるように制御されることで、気泡生成の速度や、発泡核となる発泡剤の溶解状態に差を出し、空孔(L)と空孔(S)を得ることが出来るため、上記に芳香族ポリエステルAと芳香族ポリエステルBについて例示したが、組み合わせはこの限りではない。
【0056】
本発明における発泡体は、空隙率(X)が80%以上であることが好ましい。空隙率(X)が80%未満であると、発泡体中の樹脂による伝熱が大きくなるため、発泡体を断熱材に用いた際に断熱性の点などに問題が生じやすくなるため好ましくない。発泡体中の樹脂の伝熱を効果的に抑制する点から、発泡体の空隙率(X)は90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、空隙率(X)が99%を超えると、樹脂発泡体の強度が低下し、取扱が困難となるため、空隙率(X)は99%以下であることが好ましい。より好ましくは98%以下である。
【0057】
なお、空隙率(X)の算出方法は、後述するように、発泡前の樹脂の比重と発泡後の発泡体比重から算出する。
【0058】
空隙率(X)を80%以上99%以下に制御するための手段として、例えば押出発泡の場合、芳香族ポリエステル系樹脂のうち、質量的に1番目に多い樹脂の張力と粘度を適切な範囲に調整することが好ましい。その質量的に1番目に多い樹脂の張力と粘度の適切な範囲としては、張力5mN以上500mN以下であり、粘度400Pa・s以上6000Pa・s以下であることが好ましい。そして、製造時の張力を5mN以上500mN以下として、製造時の粘度400Pa・s以上、6000Pa・s以下に制御するためには、ジオール成分としてスピログリコール成分を含む芳香族ポリエステルAと、ジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、又は、ポリエチレングリコール成分を含む芳香族ポリエステルBとを用いる方法を挙げることができる。
【0059】
本発明における発泡体を断熱材として用いる場合、その断熱性能としては、樹脂発泡体作成直後の熱伝導率が30(mW/mK)以下であることが好ましく、さらに好ましくは25(mW/mK)以下である。なお、熱伝導率は低いほど好ましいが現実的に達成可能な下限は10(mW/mK)程度である。
(発泡体の製造方法)
本発明の孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、他の1つのピークが空孔(S)に由来する発泡体の製造方法は特に限定されないが、前述の好ましい芳香族ポリエステルAと前述の好ましい芳香族ポリエステルBとをコンパウンドした樹脂組成物に、発泡剤を含浸して発泡させる方法を挙げることができる。
【0060】
この方法は、均一に微分散化した島成分と海成分の間の溶融特性の差や、溶解度差(同一の発泡剤に対する芳香族ポリエステル樹脂Aの溶解度と芳香族ポリエステルBの溶解度との差)により、空孔(L)と空孔(S)を生成する方法である。
【0061】
ここで用いられる発泡剤としては、熱分解により各種のガスを発生する化学発泡剤、または、各種ガスそのものを使用する物理発泡剤が挙げられる。押出発泡においては、化学発泡剤、物理発泡剤いずれも好適に用いることができ、バッチ発泡法においては、物理発泡剤を用いることが好ましい。物理発泡剤としては、ブタンやプロパン、窒素、二酸化炭素などが好適に用いられる。しかしながら、ブタンやプロパンは引火性であるため、安全性や環境性能を重視する場合、窒素、二酸化炭素が好ましく、より好適には、二酸化炭素が用いられる。また物理発泡剤としては、二酸化炭素を超臨界状態、もしくは気体状態で用いることもできる。樹脂発泡体の製造が押出発泡法の場合は、押出機内が高温高圧状態となることから、拡散が早く、密度が大きい超臨界状態で用いることが好ましく、バッチ発泡の場合は、超臨界状態、気体状態のいずれも好適に用いることができる。
【0062】
中でも、二酸化炭素の超臨界状態を発泡剤に用いた押出発泡がより好ましく用いられる。
【0063】
押出発泡に用いる押出機は、単軸押出機、二軸押出機や、単軸押出機と単軸押出機、または二軸押出機と単軸押出機を組み合わせたタンデム型押出機などを用いることができる。これらの中でも、タンデム型押出機を用いることが最も好ましい。
【0064】
本発明の発泡体は、溶融樹脂組成物に超臨界状態の発泡剤が含浸された状態の樹脂組成物を形成させることで製造できる。超臨界二酸化炭素供給ラインを備えたタンデム式押出機を用いて、ホッパーより樹脂組成物を供給し、該樹脂組成物を混練して加熱溶融しながら発泡剤を導入し、押出機先端で溶融樹脂組成物に超臨界状態の発泡剤を供給する。第2押出機で温度を降温させ、ガスを十分含浸したのち、ダイから大気中に吐出することで、発泡体を得ることが出来る。
【0065】
押出機内で溶融樹脂組成物中に発泡剤を含浸させる方法は特に制限はないが、例えば発泡剤をガス状態で加圧、注入する方法、液体状態の発泡剤をプランジャーポンプ等で注入する方法、超臨界状態の発泡剤を注入する方法等が挙げられる。
【0066】
また、必要に応じて、押出機とダイの間にギヤポンプなどを設置してもよい。押出機やギヤポンプなどの先端に取り付けるダイとしては、Tダイやサーキュラーダイなどの公知のものを取り付けることができる。
【0067】
本発明において、発泡体には、本発明の効果を損なわない範囲で、押出安定性を付与する滑剤、発泡核剤などの粒子を添加することができる。具体的には、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウムモンモリロナイト、ゼオライト、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、エルカ酸アミドなどが挙げられる。
【実施例】
【0068】
(1)空孔(L)(10μm以上500μm以下の径の空孔)と空孔(S)(0.01μm以上1μm未満の径の空孔)の有無の確認法
日本電子社製走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、発泡体の厚さ方向断面を100倍に拡大した画像を取り込んだ。そして該画像から、空孔(L)の有無を確認した。次に空孔(L)の周辺を20000倍に拡大した画像を取り込んだ。そして該画像から、空孔(S)の有無を確認した。
【0069】
発泡体の断面出しには、アルゴンイオンビームを用いたクロスセクションポリッシャ(CP)法を用いた。
【0070】
なお、空孔(L)の有無は、円換算直径が1μm以上500μm以下の空孔の有無で判断し、空孔(S)の有無は、円換算直径が0.01μm以上1μm未満の空孔の有無で判断した。ここで言う円換算直径とは空孔の面積と同面積を有する円の直径である。また、円換算直径は、上記倍率で取り込んだSEM画像を、前項(1)と同様に画像処理装置((株)ピアス製、品番:PIAS−II)で処理し、空孔断面積から求めた。つまり、画像処理装置によって黒く塗られた空孔部分の断面積を計算することができ、この断面積と同面積を有する円の直径を円換算直径とした。
【0071】
(2)空孔(L)と空孔(S)の平均孔径
日本電子社製走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、発泡体の厚さ方向断面を100倍に拡大した画像を取り込んだ。取り込んだ画像から、円換算直径が1μm以上1000μm以下の空孔を選択し、総数の平均を空孔(L)の平均孔径とした。
【0072】
次に気泡壁面を中心に10000倍に拡大した画像を取り込んだ。取り込んだ画像を上下左右4ブロックに分割し、1ブロック当たり円換算直径が0.01μm以上1μm未満の空孔を選択し、総数の平均を空孔(S)の平均孔径とした。
【0073】
発泡体1サンプルにつき5箇所のSEM画像を用いて(n=5)、5回の平均を空孔(L)と空孔(S)の平均孔径とした。
【0074】
(3)発泡体の孔径分布
発泡体の厚さ方向断面を、日本電子社製走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、表1の倍率で観察した。各倍率における空孔のサンプリングは、表1に従って行うことで、同一空孔の2重計測が無いようにした。
【0075】
表1に示した顕微鏡の各倍率において、無作為に空孔100個ずつを選択し、1つの空孔につき短径部分(Ls)と長径部分(Ll)を「2点間距離」にて測定した。(Ls)と(Ll)の平均を1つの空孔の平均空孔径(La)n(但しn=1〜100)とし、測定した全てのデータ(n=600)を用い、平均空孔径(La)nについてヒストグラムを作成した。因みに、SEM画像の端にあるような孔径の全容が観察できない空孔は測定しなかった。
【0076】
ヒストグラムの作成は、級(柱)数が60本(級(柱)数の60本は、全てのデータにおける最小値と最大値との差を均等に割ることで、区分けした。)、級(柱)の境界値に(La)nの値が存在する場合は、大きな孔径を含む側の級(柱)にカウントすることで、作成した(但し、最大値については最も大きな孔径を含む級(柱)にカウントした。)。得られたヒストグラムを発泡体の孔径分布とし、孔径分布における各度数の中央値を繋げた曲線において、傾きが極限値となる度数の中央値、即ち、曲線の傾きが正から負に転換する度数の中央値をピークとした。
【0077】
【表1】

【0078】
(4)空隙率(X)
発泡前の樹脂比重(Gp)と発泡体の樹脂比重(Gf)を測定し、下記式を用いて算出した。
<計算式>
空隙率(X)=(1−Gf/Gp)×100[%]
<比重測定>
測定機器 :ミラージュ貿易社製電子比重計「SD−120L」
測定水温 :23℃(純水使用)
測定試料数 :5 (平均値を使用)
サンプリング:比重(Gp)用と比重(Gf)用にて異なる。(以下詳細)
・比重(Gp)用サンプリング
発泡体を加熱プレスし、得られたシートを任意のサイズにカットしたものを使用。
・比重(Gf)用サンプリング
発泡体を任意のサイズにカットしたものを使用。
【0079】
(5)熱伝導率測定
Hot Disk社製熱伝導率測定装置「TPS−2500」を用いて測定した。測定箇所は、発泡体の中心部と四隅の5箇所を測定し、それぞれの平均を熱伝導率とした。
【0080】
発泡体を断熱材として用いる場合、発泡体の熱伝導率は、35mW/mK以下が実用範囲と考えられ、また30mW/mK以下であることが好ましい。
<熱伝導率測定条件>
温度:23℃
湿度:65%RH
センサー:7mmφ(ポリイミド被覆)
(6)断熱性能
〔実施例1〕〜〔実施例5〕、〔比較例1〕〜〔比較例4〕において、主成分となる樹脂にてほぼ同空隙率の単一孔径分布(ピークが1つのもの)の発泡体を作成した。
【0081】
製造方法は、実施例、比較例に記載のタンデム押出発泡と同様の方法で発泡体を得た。倍率の制御は、押出温度や超臨界二酸化炭素の供給量を変化させて制御した。
【0082】
実施例、比較例の発泡体の熱伝導率(λA)、ほぼ同空隙率の単一孔径分布の発泡体の熱伝導率(λB)とし、次式により熱伝導率の差(λC)を求め、λCにおいて以下の基準で断熱性能評価を行った。
<計算式>
λC=λB−λA
◎:λC=0.5mW/mK以上
○:λC=0.05mW/mK以上0.5mW/mK未満
×:λC=0mW/mK以上0.05mW/mK未満
(7)耐熱性1(比重測定)
発泡体を60℃15%RH条件の恒温恒湿層内で処理し、一定期間(11日)ごとに発泡体を取りだし、前記(4)と同様の方法で発泡体の比重を測定した。処理前の発泡体の比重(Gf1)と、110日後の比重(Gf2)を測定し、次式によりその比重の変化率を求め、耐熱性として以下の基準で判断した。○以上が実用範囲である。
<計算式>
比重の変化率(%)=(Gf2−Gf1)/Gf1×100
◎:7%未満
○:7%以上 9%未満
×:9%以上
(8)耐熱性2(熱伝導率測定)
発泡体を60℃15%RH条件の恒温恒湿層内で処理し、一定期間(11日)ごとに発泡体を取りだし、(5)と同様に熱伝導率を測定した。処理前の発泡体の熱伝導率(λA)と、110日後の熱伝導率(λD)を測定し、次式によりその熱伝導率の変化率を求め、耐熱性として以下の基準で判断した。○以上が実用範囲である。
<計算式>
熱伝導率の変化率(%)=(λD−λA)/λA×100
◎:10%未満
○:10%以上 20%未満
×:20%以上
(9)溶融粘度測定
東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて溶融粘度測定を行った。
キャピラリー:L=10mm D=φ1.0mm
測定温度:200℃
予熱:試料をシリンダーに充填後、約6分間予熱し、その後、押出速度10mm/minで、4分間で押出す。
試験速度:10mm/min(剪断速度:122s−1
(10)溶融張力測定
東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用い、一定試験速度でキャピラリーから押し出された溶融樹脂を滑車状のテンション測定ジグを介し、ローラーで引取を行い、溶融張力測定を行った。
キャピラリー:L=10mm D=φ1.0mm
測定温度:200℃
予熱:試料をシリンダーに充填後、約6分間予熱し、その後、押出速度10mm/minで、4分間で押出す。
試験速度:10mm/min(剪断速度:122s−1
引取速度:5mm/min
(11)DSC測定(示差走査熱量測定)
JIS K7121(1999)に基づいて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置”ロボットDSC−RDC220”を、データ解析にはディスクセッション”SSC/5200”を用いて測定した。サンプルパンにサンプルを5mgずつ秤量し、昇温速度は20℃/minで走査した。結晶化による吸熱ピークが観察された樹脂を結晶性とし、吸熱ピークが観察されなかった樹脂を非晶性樹脂とした。
【0083】
(12)数平均分子量測定(GPC:ゲル浸透クロマトグラフ分析)
下記の条件でGPC測定を行い、温度50℃で試料の溶出容量を求めた。数平均分子量(Mn)は、下記のポリエチレングリコールを用いて作成した分子量較正曲線から換算分子量として求めた。
<測定条件>
標準物質 : 分子量106、194、440、600、1,470、4,100、7,100、10,300、12,600、23,000の10種のポリエチレングリコール
溶離液 : N,N−ジメチルホルムアミド
カラム温度: 50℃
カラム : Shodex GPC KD−802(1本)、Shodex GPC KD−806(2本)、計3本をつなげたもの

(13)表中の略号について
スピログリコール共重合PET(樹脂A、B)
樹脂A:三菱瓦斯化学「ALTESTER20」(スピログリコール20mol%共重合PET、溶融粘度:3,600Pa・s、溶融張力:80mN、非晶性樹脂)
樹脂B:三菱瓦斯化学「ALTESTER45」(スピログリコール45mol%共重合PET、溶融粘度:5,400Pa・s、溶融張力:170mN、非晶性樹脂)
1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合PET(樹脂C)
樹脂C:イーストマンケミカル「GN001」(1,4−シクロヘキサンジメタノール33mol%共重合PET、溶融粘度:3,500Pa・s、溶融張力:17mN、非晶性樹脂)
ポリエチレングリコール共重合PET(樹脂D)
樹脂D:ポリエチレンテレフタレート-ポリエチレングリコール共重合体(数平均分子量4,000のポリエチレングリコール6質量%共重合ポリエチレンテレフタレート)(結晶性樹脂)
その他樹脂(樹脂E、樹脂F)
樹脂E:ポリ乳酸 ネイチャーワークス「4042D」(溶融粘度:1,400、溶融張力:5.6mN、非晶性樹脂)
樹脂F:ポリ乳酸−ポリエステル共重合体
(次のように調製したもの。即ち、減圧ラインと加熱装置を備えた密閉容器に、数平均分子量8,500のポリエチレングリコール0.85kgを投入し、140℃、30分間減圧脱水したのち、L−ラクチド0.5kgを投入する。次に、容器内を不活性ガスに置換し、ポリエチレングリコールとL−ラクチドを溶融攪拌しながら2−エチルヘキサン酸スズ(II)を10g加え、160℃、3時間不活性ガス雰囲気下で攪拌を行ったのち、触媒失活剤としてリン酸ジメチルを7.5g加え、30分間攪拌する。次に140℃、2時間減圧攪拌し揮発物を除去したのち、不活性ガスで大気圧まで戻すことで、分子量13,500のポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得た。)(非晶性樹脂)
樹脂G:イーストマンケミカル「DN011」(1,4−シクロヘキサンジメタノール66mol%共重合PET、非晶性樹脂)
[実施例1]
超臨界二酸化炭素供給ラインを備えたタンデム式押出機を用いて、樹脂A、樹脂Cを表2の割合で混合し、第1押出機に供給し、260℃で溶融させたのち、押出機先端で超臨界二酸化炭素を供給した。次に、第2押出機で、150℃〜160℃に降温させ、幅100mm、厚さ1mmのスリットダイから大気中に吐出することで発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表2に示す。
[実施例2]
超臨界二酸化炭素供給ラインを備えたタンデム式押出機を用いて、樹脂A、樹脂Dを表1の割合で混合し、実施例1と同様に、押出発泡により発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表2に示す。
[実施例3]
樹脂A、樹脂Cを用いて、実施例1と同様に、押出発泡により発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表2に示す。
[実施例4]
樹脂B、樹脂Cを表2の割合で混合し、第1押出機に供給し、260℃で溶融させたのち、押出機先端で超臨界二酸化炭素を供給した。次に、第2押出機で、170℃〜180℃に降温させ、幅100mm、厚さ1mmのスリットダイから大気中に吐出することで発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表2に示す。
[実施例5]
樹脂B、樹脂Gを用いて、実施例4と同様に、押出発泡により発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表2に示す。
[比較例1]
超臨界二酸化炭素供給ラインを備えたタンデム式押出機を用いて、樹脂Eと樹脂Fを表3の割合で混合し、第1押出機に供給し、200℃〜220℃で溶融させたのち、押出機先端で超臨界二酸化炭素を供給した。次に、第2押出機で120〜170℃に降温させ、幅100mm、厚さ1mmのスリットダイから大気中に吐出することで発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表3に示す。
[比較例2]
超臨界二酸化炭素供給ラインを備えたタンデム式押出機を用いて、樹脂Aを第1押出機に供給し、260℃で溶融させたのち、押出機先端で超臨界二酸化炭素を供給した。次に、第2押出機で、150℃〜160℃に降温させ、幅100mm、厚さ1mmのスリットダイから大気中に吐出することで発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表3に示す。
[比較例3]
超臨界二酸化炭素供給ラインを備えたタンデム式押出機を用いて、樹脂Bを第1押出機に供給し、260℃で溶融させたのち、押出機先端で超臨界二酸化炭素を供給した。次に、第2押出機で、160℃〜180℃に降温させ、幅100mm、厚さ1mmのスリットダイから大気中に吐出することで発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表2に示す。
[比較例4]
超臨界二酸化炭素供給ラインを備えたタンデム式押出機を用いて、樹脂Cを第1押出機に供給し、260℃で溶融させたのち、押出機先端で超臨界二酸化炭素を供給した。次に、第2押出機で、140℃〜150℃に降温させ、幅100mm、厚さ1mmのスリットダイから大気中に吐出することで発泡体を得た。得られた発泡体の評価結果を表3に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔径が10μm以上500μm以下の空孔を空孔(L)、孔径が0.01μm以上1μm未満の空孔を空孔(S)とした際に、孔径分布において2つのピークが存在し、その内の1つのピークが空孔(L)に由来し、もう1つのピークが空孔(S)に由来することを特徴とする、芳香族ポリエステル系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記芳香族ポリエステル系樹脂が、2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂からなる請求項1に記載の発泡体。
【請求項3】
2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂のうち、質量的に最も多い樹脂を芳香族ポリエステルAとした際に、該芳香族ポリエステルAが、ジオール成分としてスピログリコール成分を含むことを特徴とする、請求項2に記載の発泡体。
【請求項4】
前記芳香族ポリエステルAを構成するジオール成分の合計を100モル%とした際に、スピログリコール成分を5モル%以上50モル%以下含有することを特徴とする、請求項3に記載の発泡体。
【請求項5】
前記芳香族ポリエステルAが、非晶性樹脂であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の発泡体。
【請求項6】
2種類以上の芳香族ポリエステル系樹脂のうち、質量的に2番目に多い樹脂を芳香族ポリエステルBとした際に、該芳香族ポリエステルBが、ジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、又は、ポリエチレングリコール成分を含むことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の発泡体。
【請求項7】
前記芳香族ポリエステルBが、非晶性樹脂であることを特徴とする、請求項6に記載の発泡体。
【請求項8】
空隙率(X)が80%以上99%以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の発泡体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−214708(P2012−214708A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−46154(P2012−46154)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19〜23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的ノンフロン系断熱材技術開発プロジェクト」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】