説明

発泡繊維の製造方法と該方法により得られる発泡繊維

【課題】発泡剤の分解物による着色や副反応が抑制された、微細発泡が可能な発泡繊維の製造方法、および該製造方法により得られる発泡繊維に関するものである。
【解決手段】細孔内のみに発泡剤を担持する球状多孔粒子を、含有する熱可塑性ポリマーを、発泡剤が分解する温度以上で紡糸口金に導き、紡糸口金で高圧にしたのち吐出し、冷却した後に引き取る発泡繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡繊維の製造方法に関するものである。詳しくは、発泡剤の分解物による着色や副反応が抑制された、微細発泡が可能な発泡繊維の製造方法、および該製造方法により得られる発泡繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から、熱可塑性樹脂の内部に空隙(気泡)を含有する発泡成型材料が幅広く用いられている。発泡成型材料は内部に独立な気泡を有するため、軽量で保温性、断熱性および弾力性などに優れ、食品用の容器や、梱包剤および建材などの材料として実用化されている。該発泡成型材料は一般的に、熱可塑性樹脂に発泡剤を添加して溶融混合し、吐出時および/または吐出後に発泡させる製造方法によって製造され、内部に数mm〜数百μm程度の独立気泡を有している。従来、発泡剤としてはブタンなどの低沸点化合物や熱分解により分解ガスを発生する有機・無機化合物が用いられていたが、特に小さい材料を製造する際には溶融樹脂へ溶解性が低く、均一な気泡サイズを有する発泡成型材料を作ることが難く、また発泡性の優れた発泡剤は、えてして発泡剤の分解物に起因して着色する問題を抱えていた。
【0003】
ところで合成繊維においても、軽量性などの優れた特性が期待される発泡繊維の製造が長らく検討されているが、未だ実用化のレベルに至る発泡繊維はないのが現状である。その理由としては、繊維の大きさが衣料用、産業用を問わず、大体直径100μm以下と細く、成型材料で達成されているレベルの気泡サイズでは過度に大きく形成できないこと、また繊維の長手方向の直径あるいは糸物性の均質性が重要であるものの、発泡による繊維は太細斑や物性斑が生じ易いことが考えられる。
【0004】
このような発泡繊維の例として、例えば、ひも状の芳香族ポリエステル発泡体の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。この提案は、可塑性ポリマーに、発泡剤として低沸点化合物を添加し、紡糸口金から吐出する時に発泡させて発泡繊維を得るものであるが、得られる発泡繊維は繊維の断面積が1〜200mmと大きく、繊維としての汎用性は低いものであった。また用いられる低沸点化合物は熱可塑性ポリマーへの溶解性に乏しく均一混合しにくいため、形成される気泡が大きく、また長手方向の発泡構造も不均一になり易いものであった。
【0005】
また、有機・無機発泡剤を熱可塑性ポリマーに添加し、吐出時に発泡させることにより発泡繊維を得る技術も提案されている(特許文献2〜4参照)。しかしこれらの提案では、発泡剤あるいは発泡剤が熱分解して生成した残さと熱可塑性ポリマーとが反応してしまい繊維が着色し易く、また繊維表面に凹凸が形成され発泡構造が繊維の長手方向に不均一で品位が低下し易く、さらに発泡剤残さに起因した口金汚れが多発して製糸性も不良となりやすいものであった。
【0006】
また、繊維を形成する技術ではないが、樹脂組成物中に、ガスを発生可能な成分を含む粒子を含有させた発泡体の製造方法に関する技術が提案されている(特許文献5、6参照)。該技術においては、添加した粒子の細孔からガスが発生して発泡体を形成しうるものの、粒子の大きさが不定形で、発泡において生成した気泡の大きさも不均一である。また繊維用に適用した際には、粒子が過度に大きく繊維を形成し得ないものであり(特許文献5)、発泡剤を含んだ粒子の調製する際に、粒子表面に発泡剤が付着したままであったため、発泡時に分解・着色し、前述同様、発泡した成形品が着色してしまう問題があった。
【特許文献1】特開昭57−34931号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭55−93831号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平4−214407号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2004−19013号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2001−354793号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開昭59−98142号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、発泡繊維を製造するに際し、上記従来技術の問題点を解消し、発泡時に均一、微細かつ高効率で発泡し、さらに分解時に着色性分解物や反応性分解物の生成を防止できる、優れた球状多孔粒子を用いた発泡繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、優れた発泡繊維を得るべく上記目的を解決するために鋭意検討を重ね、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、上記の課題を解決するため、以下の構成を採用する。
(1)細孔内のみに発泡剤を担持する球状多孔粒子を、含有する熱可塑性ポリマーを、発泡剤が分解する温度以上で紡糸口金に導き、紡糸口金で高圧にしたのち吐出し、冷却した後に引き取る発泡繊維の製造方法。
(2)平均粒径が1μm以下の球状多孔粒子を用いることを特徴とする前記(1)に記載の発泡繊維の製造方法。
(3)細孔の平均直径Rが50nm以下の球状多孔粒子を用いることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の発泡繊維の製造方法。
(4)球状多孔粒子の主成分が酸化珪素からなることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
(5)発泡剤がテトラゾール系発泡剤であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
(6)球状多孔粒子Aを含有する熱可塑性ポリマーBの中での球状多孔粒子Aの含有量が0.1〜20重量%であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
(7)紡糸口金を通過する際の最大剪断速度γが5,000〜1000,000[sec−1]であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
(8)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法により得られる、細孔を有する粒子を含有した発泡繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、細孔内のみに発泡剤を担持した多孔粒子を用いることにより、細孔以外の粒子表面に発泡剤を有していないため、発泡性に優れた発泡剤の着色性・反応性の分解物が細孔内部に留まり、かつ発泡に寄与する気体のみが細孔外に排出される。従って、発泡繊維の製造時に多孔粒子を覆うマトリックス成分である熱可塑性ポリマーが着色しない、あるいは副反応によりポリマーが劣化するなどの悪影響を受けない。また多孔粒子をなす粒子が球状であることから、発泡により形成される空隙は均一かつ微細かつ緻密であり、発泡体として形成される繊維の力学物性は良好であり、軽量性、外形均一性、保温性、クッション性あるいは触感に優れている。そのため、本発明の製造方法にて得られる繊維は、スポーツ衣料、アウトドア衣料、白衣等のユニフォーム衣料、フォーマル衣料や、インナー、水着および裏地などの衣料用途に好適であり、また各種車両内装材や、クッション、布団、毛布、枕、カーペットおよびカーテン、さらには断熱材、梱包材などの土木・建築資材用途といった産資用途にも好適に用いられるほか、おむつ、生理用品および使い捨ておしぼりなどの一般消費材用途にも好適に用いられうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明での多孔粒子に用いられる粒子は球状の粒子である。該多孔粒子は後述するように繊維を形成する熱可塑性ポリマー中に含有せしめて用いるが、粒子が球状である故に、粒子と熱可塑性ポリマーとの濡れ性(親和性)が良好であり、加えて最密充填効果により熱可塑性ポリマー中に多孔粒子を高濃度で含有せしめることも可能となり、さらに該多孔粒子を含有せしめた繊維は、工程通過時や運搬時の接触摩擦やガイド摩耗なども少なくなるといったメリットも付与しうるため優れている。そして該球状多孔粒子の大きさは、繊維中に均一に含有せしめることが可能な大きさであることが好ましいことから、平均粒径が1μm以下の球状であることが好ましく、さらに熱可塑性ポリマーが微細発泡すべく、多くの細孔を有しうることから0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下が最も好ましい。なお平均粒径の下限については、熱可塑性ポリマー中で微細発泡しうることから小さいほど好ましいものの、凝集せず安定して繊維に含有せしめるという点で、0.001μm(1nm)以上であることが好ましく、0.005μm以上であることがより好ましく、0.01μm以上であることがさらにより好ましい。なおここで多孔粒子の球状についての判断(球状度)は、後述する実施例C.項の方法により判断を行うが、該多孔微粒子が「球状」でない場合、熱可塑性ポリマーとの濡れ性が悪く、多孔粒子同士が凝集しやすくなって、本発明で目的とする熱可塑性ポリマー中での微細発泡を達成できない。そして該球状度は2.0以下である、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましく、1.1以下であることが特に好ましい。また該球状度の下限は1.0であり、この場合が最も好ましい。
【0012】
本発明にて用いられる多孔粒子は、前述の通り、小さい平均粒径を有することが好ましく、同時に発泡剤を粒子の細孔内に担持するために、粒子の比表面積が大きいことが好ましい。該比表面積は多孔粒子単位重量当たりの粒子の総表面積(単位m/g)で表すが、具体的には、多孔粒子の比表面積は、50〜2000m/gであることが好ましく、100〜1500m/gであることがより好ましく、200〜1000m/gであることが特に好ましい。
【0013】
本発明にて用いられる多孔粒子は、発泡剤を担持するための細孔を有しているが、該細孔は細孔内に発泡剤を担持するという役割を担うほかに、発泡剤が分解して生成した気体のみを排出しつつ、発泡剤の分解により生成した着色性の分解物を内部に閉じこめるという役割も担う必要があり、これらを両立しうる細孔の入り口の大きさ(細孔の平均直径R)を持つことが好ましい。具体的には0.3〜50nmであることが好ましく、0.5〜10nmであることがより好ましく、0.5〜5nmであることが特に好ましい。
【0014】
本発明にて用いられる多孔粒子は、発泡剤を担持するための細孔を有しているが、発泡剤をより多く担持しうることから、細孔内の広さ、すなわち細孔容積が大きいことが好ましい。該細孔容積は、多孔粒子単位重量当たりの細孔の容積(単位ml/g)で表すが、好ましくは0.3ml/g以上、より好ましくは0.5ml/g以上、特に好ましくは0.6ml/g以上である。また該細孔容積は大きいほど好ましいものの、過度に大きい場合、粒子の形態が安定して保てない場合があることから、該細孔容積は5.0ml/g以下の多孔粒子を安定して製造することが可能で、好ましくは3.0ml/g以下である。
【0015】
本発明に用いられる多孔粒子に用いる粒子の主成分は、無機系材料、有機系材料、あるいは有機無機ハイブリッド材料など様々なものを用いうるものの、発泡剤が250℃以上で分解・発泡するものを用いる場合であっても安定した粒子形態を保持しうることから、無機系材料からなる多孔粒子であることが好ましい。この好ましい無機系材料としては、例えば金属酸化物(酸化珪素、酸化アルミ、酸化チタン、ジルコニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等)や金属水酸化物(水酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化チタン、水酸化ジルコニウム等)、金属炭酸塩(炭酸カルシウム等)、硫酸塩(硫酸バリウム、二硫化モリブテン等)のほか、天然鉱物(マイカ、タルク、石粉、ケイ藻土、カオリン、クレー、火山灰、石炭灰、ベントナイト等)などが挙げられ、その他にも金属(銀、銅、鉄、ニッケルなど)や合金など、多種多様のものが挙げられるが、耐熱性に優れ、熱可塑性ポリマーとの濡れ性が良好で、かつ粒子表面に容易に細孔を形成しうることから金属酸化物が好ましく、酸化珪素、酸化アルミ、酸化チタンが特に好ましく、細孔形態を容易に制御しうること、あるいは化学安定性に優れることなどから該多孔粒子に用いる粒子の主成分は酸化珪素が最も好ましい。なお、ここでいう「主成分」とは、本発明の多孔粒子に用いる粒子の50体積%以上を構成する成分のことを指すが、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。
【0016】
本発明に用いられる多孔粒子の製造方法については、例えば前述で好ましいとする酸化珪素からなる粒子を挙げると、核となる直径100nm以下の粒子を含む分散水溶液を用いて、界面活性剤およびテトラエトキシシラン(TEOS)を加え、ゾルゲル重合により該核となる粒子の表面に酸化珪素および界面活性剤からなる被覆層を形成した後、焼成して界面活性剤を消失させて多数の細孔を有する酸化珪素粒子を得ることができる。この際、核となる粒子の大きさやモノマーとなるTEOSの量を制御することによって、焼成後に得られる酸化珪素粒子の大きさを所望の大きさとすることができる。また前述の核となる粒子は、例えばシリカ粒子や酸化亜鉛粒子などが好ましく採用できる他、酸化チタンや銀ナノ粒子、金ナノ粒子など、直径が100nm以下の粒子が核となる粒子として用いることができる。なお該核となる粒子が小さいほど、焼成後に得られる粒子を小さくすることが可能で、好ましくは50nm以下の核となる粒子と用いるとよい。また酸化珪素からなる粒子の製造方法については、その他にも、セルフアセンブリー(自己組織化)法による製造方法がある。具体的には前述の界面活性剤とTEOSの代わりにポリスチレンラテックス微粒子(PSP)とシリカ微粒子(SOP)とが分散されてなる水分散液から霧を発生させ、乾燥により凝集したこれらPSPとSOPとからなる微粒子を更に加熱処理して、PSPを分解除去して、多数の細孔を有する酸化珪素からなる球状粒子が得られる。該処方においては、乾燥時に凝集するPSPとSOPはセルフアセンブリー効果により球状となるため、加熱処理においても球状を維持しうる。
【0017】
本発明にて用いられる発泡剤は、後述するように、多孔粒子を含有させた熱可塑性ポリマーを発泡剤の分解温度以上に加熱することによって発泡剤が分解して、気体が生成し、熱可塑性ポリマーを発泡させることから、用いる熱可塑性ポリマーの融点(Tm)よりも、もしくは融点を示さない熱可塑性ポリマーであれば、熱可塑性ポリマーの軟化点温度よりも高い分解温度を有することが好ましく、所望の分解温度を有する無機系発泡剤や有機系発泡剤などを採用する。しかし、実用的な熱可塑性ポリマーの融点以上の分解温度を持ち、また本発明での目的、すなわち発泡時の着色回避を達成すべく、分解時に発生する分解物が着色性の化合物となりうる発泡剤であっても、細孔内に分解物が留まるため着色せず好ましい、という点から、有機系発泡剤が好ましい。
【0018】
用いられうる無機系発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、カルシウムアジド等が挙げられる。
【0019】
用いられうる有機系発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド(ABFA)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボン酸バリウム(ADCB)等のアゾ系発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)やN,N’−ジニトロソ−N,N’−ジメチルテレフタルアミド(DNDMTA)等のニトロソ系発泡剤、ベンゼンスルホニルヒドラジッド(BSH)、p−トルエンスルホニルヒドラジッド(TSH)、p、p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジッド(OBSH)等のスルホニルヒドラジッド系発泡剤、p−トルエンスルホニルセミカルバジッド(TSSH)等のスルホニルセミカルバジッド系発泡剤、ハイドロテトラゾール(HT)、メチルテトラゾール(MT)、フェニルテトラゾール(PT)、1,3−ビステトラゾールベンゼン(BTB)、1,3,5−トリステトラゾールベンゼン(TTB)、ビステトラゾールジアンモニウム(BTDA)、ビステトラゾールピペラジン(BTP)、アゾビステトラゾールジグアニジン(ABTDG)、アゾビステトラゾールジアミノグアニジン(ABTDAG)などのテトラゾール系発泡剤がそれぞれ挙げられるものの、分解温度が高温で、ポリマー加工時に取扱いが容易である点から、ADCA,ADCB,DPT,TSSCやテトラゾール系発泡剤が好ましく、そして着色性の分解物を生成しうるものの発泡剤の単位量(1g当たり)の分解時の発生気体量が多いことから、テトラゾール系発泡剤が特に好ましい。さらに、下記化学式1〜5で示すテトラゾール系発泡剤(化学式1:ハイドロテトラゾール(HT)、化学式2:メチルテトラゾール(MT)、化学式3:フェニルテトラゾール(PT)、化学式4:1,3−ビステトラゾールベンゼン(BTB)、化学式5:1,3,5−トリステトラゾールベンゼン(TTB))は、分解・発泡時に着色性の分解物を生成しうるものの、単位量当たりに発生しうる気体量が多くかつ主成分が不活性気体(N)であること、加えて分解温度が熱可塑性ポリマーの溶融温度に近いこと等を全て満たす点から、最も好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
本発明にて用いられる発泡剤の分解温度は、発泡繊維の製造に用いる熱可塑性ポリマーの融点(Tm)を勘案して、該Tmよりも高いものを採用すればよい。そして採用しうる熱可塑性ポリマーの融点を勘案すると、該分解温度は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることが特に好ましい。ただし、発泡剤の分解温度が過度に高い場合、発泡剤を分解させるために過度に加熱する必要が生じ、熱可塑性ポリマー自体の分解を促進してしまうこともあることから、該分解温度の上限としては、350℃以下であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましい。また熱可塑性ポリマーの融点(Tm)を考慮した場合には、発泡剤の分解温度は、(Tm)℃以上(Tm+70)℃以下であることが好ましく、(Tm)℃以上(Tm+50)℃以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明にて用いられる発泡剤は、分解する際に気体を生成して、粒子周辺の熱可塑性ポリマー中に気泡を生成(発泡)させることで機能を発揮するもので、該発泡剤が発生する気体は繊維を形成する熱可塑性ポリマーと反応しない、すなわち不活性気体であることが好ましい。そして、発泡剤の化学構造を勘案して二酸化炭素および/または窒素を発生する発泡剤であることがより好ましく、窒素を発生する発泡剤であることが特に好ましい。また発泡剤の種類によっては、1つの発泡剤から複数種の気体を生成しうるものがある。この場合は、発生する気体の成分分率で最も大きいもの(主成分)が二酸化炭素および/または窒素であることが好ましく、窒素が特に好ましい。
【0027】
前述の通り、本発明にて用いられる多孔粒子は、均一かつ高効率の発泡を達成することを1つの目的として、高効率の発泡を達成しうる発泡剤を採用して粒子内に担持せしめる。一般的に高効率発泡する発泡剤は、分解発泡時に着色性の分解物を副生することが多く、着色が問題とならない用途のみに使用が限定されることが多々あった。本発明では、高効率発泡する発泡剤の優れた発泡特性を十分に発揮させるため、発泡剤を粒子の細孔内部のみに担持させ、細孔内以外の粒子表面には実質的に発泡剤が付着していないものとすることによって、発泡剤が分解発泡した際にも着色性の、あるいは熱可塑性ポリマーと反応しうる分解物は細孔内部に留まって、多孔粒子の表面は着色せず、熱可塑性ポリマーの発泡に必要な気体のみが細孔外に発生し、結果として無着色かつ高効率の発泡繊維の製造を達成するのである。ここで「実質的に発泡剤が付着していない」とは、前述の通り、発泡剤が分解した際に本発明の多孔粒子が着色しないことからも判断できるが、定量的には、後述するような発泡剤が溶解する溶媒で本発明の多孔粒子を1分間洗浄した際、該多孔粒子の重量減少率が1%以下である場合に「実質的に発泡剤が付着していない」と判断する。
【0028】
球状多孔粒子に、発泡剤を付着させるには、発泡剤を溶解しうる溶媒に発泡剤を溶解させ、また球状多孔粒子も分散させて、少なくとも0.5時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、特に好ましくは12時間以上攪拌することで、球状多孔粒子の細孔内部まで発泡剤を吸着させることができる。その後、遠心分離などの方法で、攪拌した粒子を取り出した後、発泡剤を含まない溶媒にて、長くとも15分間、好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内の短時間で、粒子表面の発泡剤を洗浄・除去して発泡用粒子を得る。この際、球状多孔粒子の細孔内部に吸着された発泡剤は、短時間の溶媒洗浄では、細孔外部に殆ど、もしくは発泡剤の種類によっては全く出てこない。そして、前述の発泡剤を溶解させる、あるいは発泡剤を洗浄・除去する溶媒は、発泡剤が溶解する溶媒であればよく、メタノール、エタノール、DMFなどの極性溶媒が好適に用いられる。
【0029】
発泡繊維を構成する熱可塑性ポリマーについては、繊維を安定して形成しうるもので、多種多様な熱可塑性ポリマーを採用することができる。例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニルポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、エラストマーおよびその他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。
【0030】
より具体的には、例えば、ラジカル重合、アニオン重合およびカチオン重合のようなビニル基を有したモノマーが付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニルポリマーなどにおいては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンおよびポリシアン化ビニリデンなどが挙げられる。これらは、例えば、ポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであってもよいし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであっても良く、例えば、スチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、このような共重合体であるポリマーであってもよい。
【0031】
また、熱可塑性ポリマーとして、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマーを挙げることができ、具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7およびナイロン5,6などが挙げられるほか、他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族および脂環族ジアミン成分が、あるいは芳香族、脂肪族および脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基を両方有したアミノカルボン酸化合物が単独で用いられたものであってもよく、あるいは第3および第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマーであってもよい。
【0032】
また熱可塑性ポリマーとして、例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステル系ポリマーを挙げることができる。具体的には、本発明でいうポリエステル系ポリマーとは、例えば、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどが挙げられる。そして、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーは、他の成分が共重合されたものであっても良く、共重合成分のジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸のような芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体が用いられたものであってもよく、またこれらジカルボン酸化合物は1種を単独で用いたものであってもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
【0033】
また共重合成分として、例えば、ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよびビスフェノールSのような芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノおよびハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体が用いられたものであってもよく、またこれらジオール化合物のうち1種を単独で用いたものであってもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
【0034】
また共重合成分として、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわちヒドロキシカルボン酸が用いられたものであっても良い。該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸およびヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸のような芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体が用いられてよく、これらヒドロキシカルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、また2種以上が組み合わせて用いられていてもよい。
【0035】
また、ポリエステル系ポリマーとしては、芳香族、脂肪族および脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体が用いられてもよく、例えば、これらにかかる重合体としては、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)およびポリ(3−ヒドロキシブチレートバリレート)のようなポリ(ヒドロキシカルボン酸)が好適に用いられ得る。これらポリ(ヒドロキシカルボン酸)は、芳香族、脂肪族および脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族および脂環族ジオール成分が共重合されていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されたものであってもよい。
【0036】
その他に、本発明の熱可塑性ポリマーとしては、アルコールと炭酸誘導体のエステル交換反応により形成されるポリカーボネート系ポリマー、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマー、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマーや、そのほかにもポリスルホン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルケトンケトン系ポリマーなどの合成ポリマーやセルロース系ポリマーや、キチンおよびキトサンの誘導体など、天然高分子由来のポリマーなどが好適に用いられるものとして挙げられる。そしてこれら例示した熱可塑性ポリマーは1種を単独で用いてもよく、また複数種をブレンドして用いてもよい。
【0037】
これら例示した熱可塑性ポリマーの中で、発泡繊維となした場合に力学的特性や熱的特性などの物性にバランス良く優れるだけでなく、発泡構造自体の耐熱性も優れる点で、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーが好ましく用いられ、ポリエステル系ポリマーおよびポリアミド系ポリマーがより好ましく用いられる。
【0038】
ポリエステル系ポリマーの中では、発泡繊維の発泡構造の耐熱性が高く、特に耐久性の高い発泡繊維となる点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリ乳酸がより好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが特に好ましく、ポリエチレンテレフタレートが最も好ましく用いられる。
【0039】
また、ポリアミド系ポリマーも同様に、発泡繊維の耐久性の観点から、ナイロン6とナイロン6,6がより好ましく用いられる。
【0040】
本発明の発泡繊維の製造方法においては、紡糸口金から吐出された吐出糸が冷却される際に気泡の合一・破泡が起こり難い易い点から、溶融粘度の高い熱可塑性ポリマーであることが好ましい。ここで溶融粘度は、発泡繊維の材料となる熱可塑性ポリマーが結晶性ポリマーである場合、融点(Tm)よりも30℃高い温度で測定した剪断速度12.16[sec−1]における溶融剪断粘度(以下、剪断粘度と略記)によって評価した。剪断粘度は、50[Pa・秒]以上であることが好ましく、100[Pa・秒]以上であることがより好ましく、さらに好ましくは200[Pa・秒]以上である。また、気泡成長させるためには、剪断粘度は、10,000[Pa・秒]以下であることが好ましく、8,000[Pa・秒]以下であることがより好ましく、さらに好ましくは5,000[Pa・秒]以下である。また、融点を示さない非晶性ポリマーについては紡糸温度と同一の温度で同様に剪断粘度を測定することで求められた剪断粘度をもって、評価する。
【0041】
発泡用粒子を熱可塑性ポリマーに含有せしめる方法は、例えば、粉体もしくは粒体とした発泡用粒子と、発泡用粒子と同程度の大きさの粉体もしくは粒体の熱可塑性ポリマーとをドライブレンドして調製して、その後後述する混練手法によって溶融混練してもよく、あるいは溶融した熱可塑性ポリマーに発泡用粒子を添加して、後述する各種混練手法によって混練して含有せしめてもよい。ここで熱可塑性ポリマーと発泡用粒子との溶融混練は、1軸エクストルーダーや2軸エクストルーダーなどの機械混練や、スタティックミキサーやハイミキサーなどの静置混練により混練されることが好ましく、さらにスクリューの設計によってエクストルーダーのバレル中を加圧条件としながら、発泡剤の分解により発生した気体が熱可塑性ポリマーに混練され、均一に溶解し易い点で、1軸エクストルーダーや2軸エクストルーダーなどの機械混練により混練されることがより好ましく、より混練性能が高い点で2軸エクストルーダーにより混練されることが特に好ましい態様である。これらの混練手法は1種のみ1個を用いてもよいし、2種以上を併用してもよいし、1種を複数個用いてもよい。
【0042】
熱可塑性ポリマーにおける発泡用粒子の含有量は、多いほど口金から吐出される際に多くの気泡核が形成される。そのため、該含有量は具体的には、0.1wt%以上であることが好ましく、0.5wt%以上であることがより好ましく、1.0wt%以上であることがより好ましく、特に好ましくは2.0wt%以上である。ただし過度に発泡用粒子を含有させると、気泡の合一・破泡が起こり易くなる傾向にあることから、20wt%以下であることが好ましく、15wt%以下であることがより好ましく、10wt%以下であることが特に好ましい。
【0043】
以下、発泡用粒子を用いた発泡繊維の製造方法について具体的に述べる。
【0044】
本発明の製造方法により得られる、発泡用粒子を用いた発泡繊維は、前述の通り、あらかじめエクストルーダー中で溶融させた熱可塑性ポリマーに発泡用粒子を添加、含有せしめるか、あるいはエクストルーダーに供給する以前の任意の段階で、粉状あるいは粒状の熱可塑性ポリマーと発泡用粒子とを混合しておいて、その後エクストルーダーに供給、溶融混練することで、熱可塑性ポリマーと発泡用粒子の混合体を得る。ここで、エクストルーダー中で既に加圧されている条件下であれば、混練されてなる該混合体の温度は発泡剤の分解温度以上の温度である。該混合体は、紡糸パック内に導入され、好ましくは3MPa以上の加圧下、発泡剤が分解して気体を生成する分解温度以上に加熱し、好ましくは口金背面圧3MPa以上で、より好ましくは口金背面圧10MPa以上で、紡糸口金に導いて高剪断速度を付与して吐出し、紡糸パック内よりも低圧領域である大気下に押し出される際に、溶融ポリマーからなる繊維状物が発泡して、さらに発泡した吐出糸を冷却した後、引き取って巻き取る方法によって、発泡繊維が得られる。発泡の際には、発泡用粒子の粒子表面の無数の細孔から発泡剤の分解により生成した気体が膨張し、熱可塑性ポリマー内に無数の空隙が生成することで発泡した繊維が得られる。
【0045】
紡糸パック内部においては、紡糸パック内の流路、濾層およびフィルターなどの構成は任意であるが、微細発泡をより促進するために、紡糸パック内の圧力が高くなる構成とすることが好ましく、このために紡糸パックの各部材はその圧力に耐える機械設計とすることが好ましい。より発泡繊維の気泡が微細化する点で、紡糸パック内の耐圧力は5MPa以上とすることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることが特に好ましい。ただし紡糸パック内の耐圧力は高いほど好ましいが、あまりに高くすると、紡糸パック、口金、ポリマー流路およびギヤポンプなどの耐圧設計のために装置が大型化になるので、110MPa以下とすることが好ましい。
【0046】
本発明の発泡繊維の製造方法において、前述のように紡糸パック内は加圧条件で、3MPa以上であることが好ましい。その理由としては2つを推測している。1点は、紡糸口金の背面圧が高圧状態ほど発泡剤の分解により生成した気体の熱可塑性ポリマーへの溶解量(以後、溶解度と記載する)が大きい(逆に低圧状態では溶解度は低い)ことである。もう1点は、紡糸口金の背面圧が高圧状態では、発泡剤の分解により生成した気体は熱可塑性ポリマー中に溶解して、気体と熱可塑性ポリマーからなる混合ポリマーの単一相を形成するが、該混合ポリマーの紡糸口金からの吐出における発泡数、すなわち気泡核の生成数(または量)は、吐出時の圧力降下の大きさ、すなわち、吐出前の混合ポリマーに高い圧力が掛かっているほど、吐出前後での気体の溶解度差が大きくなり、多くの気泡が形成されることである。従って、紡糸口金における背面圧は高いほど好ましく、8MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、15MPa以上であることが特に好ましい。また、口金の背面圧の上限については、耐圧設計の観点から、100MPa以下とすることが好ましい。
【0047】
紡糸口金内部で高剪断とすることで、より好適に微細発泡を達成することができる。高剪断の最大剪断速度γは5,000[sec−1]以上であることが好ましく、10,000[sec−1]以上であることがより好ましく、15,000[sec−1]以上であることが特に好ましい。該剪断速度γは、下記の式によって算出するものとする。
(A)剪断速度領域が丸孔である場合、γ=32Q/πD
(B)剪断速度領域がスリット孔の場合、γ=6Q/TW
(C)剪断速度領域がY孔の場合、γ=6Q/3TW
ただし、γ:紡糸口金内部でもっとも大きな剪断が付与される際の剪断速度
Q:単孔当たりの体積吐出量[cm/sec]
D:剪断速度領域が丸孔である場合の孔の直径[cm]
T:剪断速度領域のスリット長[cm]
W:高剪断速度領域のスリット幅[cm]。
【0048】
また、例えば、孔形状が、丸孔、スリット孔およびY孔以外の孔形状である場合は、孔の横断面積を計算してその断面積に相当する直径Dを求め、上記(A)の式を用いて算出するものとする。
【0049】
ここで単孔当たりの体積吐出量Q[cm/sec]は、単孔当たりの重量吐出量[g/sec]を熱可塑性ポリマーのみの溶融密度[g/cm]で除することによって算出する。熱可塑性ポリマーの溶融密度は、例えば、ポリエチレンテレフタレートであれば1.18、ポリプロピレンテレフタレートであれば1.14、ポリ乳酸であれば1.08、ナイロン6であれば1.00を用いた。上記の熱可塑性ポリマー以外のポリマーの場合は、ギヤポンプの吐出効率が100%となるように、ギヤポンプの入口、出口の圧力を調整し、ギヤポンプの1回転当たりの吐出容積と、回転数を用いて計算により算出した。なお剪断速度の上限については、紡糸安定性と生産性の観点から100,000[sec−1]であることが好ましく、80,000[sec−1]であることがより好ましく、50,000[sec−1]であることが特に好ましい。
【0050】
最大剪断速度γを付与するには、紡糸口金内部でもっとも大きな剪断を付与する領域が丸孔である場合(または丸孔として計算される場合)は、孔の直径D[cm]を調整すること、スリット孔やY孔である場合は、スリット長(T)とスリット幅(W)を調整すること、あるいは単孔あたりの体積吐出量を調整することによって達成することができる。
【0051】
紡糸口金から吐出された吐出糸は、冷却されることで得られる。吐出糸に冷却を施さないと、過度に発泡して破泡して繊維状物が繋がらないか、もしくは吐出糸から気体が流出し易く、逆に気泡核がほとんど成長せずに発泡効率が悪くなり、発泡繊維の横断面における気泡の占有率が低くなってしまうことがある。冷却方法については、吐出糸よりも低い温度の物質を吐出糸に接触させる手法により達成され、例えば、冷却風を吐出糸に吹き付ける方法、冷水に吐出糸を浸す方法、水蒸気を吐出糸に吹き付ける方法など挙げられ、吐出糸を均一に冷却でき、引取速度を高くできるなどの利点のある冷却風を吐出糸に吹き付けて冷却する方法が好ましい。この場合、冷却風の温度が低いほど、冷却風吹き付け開始点と口金からの距離が短いほど、吐出糸が急冷される。ここで、発泡繊維の繊維横断面における気泡占有率をより高くできる点で、冷却風の温度は、30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、さらに好ましくは20℃以下である。冷却風の温度の下限については、0℃以上が適当である。また、上述のように冷却風吹き付け開始点と口金の距離が短いほど吐出糸条が急冷される。
【0052】
冷却風吹き付け開始点と紡糸口金との距離は、20cm以下であることが好ましく、10cm以下であることがより好ましく、5cm以下であることが特に好ましい。口金直下から冷却風を吹き付ける場合、口金面自身が冷却されて口金面の温度が下がることがある。口金面の温度が過度に低下すると、未溶融のポリマーが吐出され、結果として発泡繊維の発泡構造が不均一になることがあるため、口金付近を局所的に加熱するヒーターを用いることも好ましい手法である。
【0053】
本発明の発泡繊維の製造方法においては、吐出後に冷却された後、600〜6,000m/分の速度で引き取る(以後、引取速度と略記)ことで繊維状物が得られる。引取速度を高くすることにより吐出糸は、短時間でガラス転移温度(Tg)以下に冷却されて固化するため、気泡の成長が抑制され過度に大きな気泡が成長することが無く、発泡剤の分解のより生成した気体が吐出糸から系外へ流出しにくくなる。さらに、気泡が発泡繊維の長手方向に伸長され、長くなることで発泡繊維の力学物性が向上するという利点もある。ここで引取速度を600m/分以上とすることにより、吐出糸が十分に冷却され気体が系外に流出し難く、吐出糸内部に気体の濃度斑がおこらず、気泡を均一で成長させることにより粗大な気泡を含まない発泡繊維となる。引取速度は、1,000m/分以上であることがより好ましく、1,500m/以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは2,000m/分以上である。一方で、引取速度が高いほど気泡の成長が抑えられて気泡の占有率の低い発泡繊維となる傾向にあるが、6,000m/分以下とすることにより、適度に気泡が成長した発泡繊維を得られる。より気泡占有率の高い発泡繊維となる点で、引取速度は、5,500m/分以下であることがより好ましく、5,000m/分以下であることがさらにより好ましく、特に好ましくは4,500m/分以下である。
【0054】
本発明の発泡繊維の製造方法においては、吐出後に冷却され、引き取られる。引き取った後に巻き取って未延伸糸を得ることも可能であるが、該発泡繊維は引き取った後に巻き取ることなく、引き取りに続けて熱処理されることが好ましい。熱可塑性ポリマーに対する、発泡剤の分解により生成した気体の溶解度は、通常低温ほど大きいため、引き取られた発泡繊維の内部には該気体が溶存することがある。そこで、熱処理を施すことによって、発泡繊維の内部に溶存した該気体の溶解度を低下・気泡核を生成させ、発泡繊維内部の気泡数を増やすことができる。同時に溶存した該気体が既に存在する気泡に流入して気泡が成長するため、気泡占有率を高い発泡繊維となる。このような熱処理による発泡構造の変化は、紡糸直後の発泡繊維特有の現象であるため、引き取られた発泡繊維を巻き取る前に熱処理することで発現されうる。ここで熱処理を施す温度は、熱可塑性ポリマーのTg以上であることが好ましく、(Tg+10)℃以上であることがより好ましく、さらに好ましくはTg+20℃以上である。熱処理温度があまり高いと、熱可塑性ポリマーの流動性が高くなりすぎて気泡の合一・破泡あるいは繊維の破断を招くことがあるので、熱可塑性ポリマーが結晶性ポリマーの場合は融点Tm以下で処理し、非晶性ポリマーの場合は(Tg+150)℃より低い温度で処理することが好ましい。また、熱処理を施す時間は長いほど好ましいが、1ミリ秒以上であれば十分な効果を発揮する。
【0055】
熱処理する際の加熱方法は、汎用の装置を用いればよいものの、熱伝達能力が高い加熱方法が好ましいことから、加熱ローラー、加熱ピン、加熱プレート、加熱液体および加熱蒸気を用いた装置や、あるいは炭酸ガスレーザー等に代表される分子振動の励起を利用した加熱手法などを採用することが好ましい。1つの熱源を用いて1段階で熱処理を行ってもよいし、複数個の熱源を組み合わせて多段階で熱処理を施してもよい。
【0056】
本発明の発泡繊維の製造方法において、吐出糸は引き取った後、延伸を施すことが好ましい。延伸することによって発泡繊維の内部の気泡が長手方向に伸長されて、発泡構造の長手方向への均一性が高まるからである。また、延伸によって発泡繊維の気泡と気泡の間に存在する熱可塑性ポリマーの壁が繊維軸方向に伸長され、長手方向に配向することによって十分な力学物性を持つものとなる。
【0057】
該延伸時の加熱方法は、汎用の装置を用いればよいものの、熱伝達能力の高い加熱方法が好ましく、加熱ピン、加熱プレート、加熱液体や加熱気体を用いた装置あるいは炭酸ガスレーザー等に代表される分子振動の励起を利用した加熱手法などを採用することができる。なお、延伸した後、再度(Tg+10)℃以上の温度で熱処理する方法が好ましい。延伸後に熱処理を施すことで気泡の周りが熱固定され、耐熱性に優れた発泡繊維となる。ここで延伸後の再熱処理の方法は、汎用の装置を用いればよいものの、加熱効率の高い方式ほど繊維内部の構造が緩和されることなく固定され、気泡の耐久性が高い発泡繊維が得られることから、加熱ピン、加熱ローラー、加熱プレート、加熱液体や加熱気体を用いた装置あるいは炭酸ガスレーザー等に代表される分子振動の励起を利用した加熱手法などを採用することができる。
【0058】
これら延伸および延伸後の再熱処理は、発泡繊維を巻き取った後、巻き取る前のいずれの段階で行ってもよいが、上述したように、引き取った発泡繊維を巻き取る前に熱処理することによる効果も同時に発現できる点で、引き取った後、巻き取る前に加熱延伸し、その後、再熱処理する手法が特に好ましい。具体的には、吐出糸を引き取った後、複数のローラー間でローラーの速度差を利用して延伸する際に、いくつかのローラーを加熱ローラーすることで熱処理を施しながら延伸する手法や、ローラー間に加熱ピンや、加熱プレートや、加熱液体などの熱源を配置して熱処理を施しながら延伸する手法を採用することができる。延伸倍率は、発泡繊維が所望の残留伸度となるように調整すればよい。
【0059】
また、前述の発泡繊維の製造方法において、吐出糸は、延伸を施さずに、あるいは延伸を施した後に仮撚加工されてもよい。仮撚加工において延伸糸を用いる場合には、接触型もしくは非接触型の方法により加熱され、ディスク状物、ベルト状物、あるいはピン状物によって仮撚加工される。未延伸糸を用いる場合には、同様に接触型もしくは非接触型のヒーターなどにより加熱した後もしくは加熱されることなく延伸を施しながら、施撚体(ディスク、ピン、ベルト)によって仮撚加工される。仮撚加工された発泡繊維は、そのまま巻き取ることが可能であるものの、再度熱セットされた後に巻き取られる。
【0060】
本発明により得られる発泡繊維に関し、繊維とは、細く長い形状を指し、一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であってもよく、あるいは電気植毛加工などに用いられる短い繊維、すなわちパイルであってもよく、これらの繊維形状を有すると認められるものであればよいものの、長手方向の均一性が高い特徴を活かしやすい点で、フィラメントであることが好ましい。
【0061】
発泡繊維がマルチフィラメントである場合、単繊維の本数は、衣料用途あるいは産業資材用途などの使用目的に応じて設定すれば良い。もちろん用途によっては、発泡繊維はモノフィラメントでもよい。そして本発明においては、発泡繊維の繊維横断面形状は目的用途に応じて選択すれば良く、例えば、丸形、多角形型、歯車型、花びら型、多葉型、星型およびC型等のような多種多様な断面形状をとることができる。また目的に応じて、同一および/または異種の熱可塑性ポリマーが接着された、芯鞘型、海島型あるいは貼り合わせ(バイメタル)型などの複合繊維とすることもできる。この場合、低コストで、リサイクル性も良好である点で1種類の熱可塑性ポリマー単独で形成された発泡繊維であることが好ましい。また、前述の芯鞘型、海島型あるいはバイメタル型においては、繊維を構成する全ての成分が発泡していてもよく、必要に応じて、特定の成分のみを発泡させてもよい。具体的には、たとえば芯鞘型繊維において、芯と鞘の両方が発泡していてもよく、芯のみあるいは鞘のみが発泡していてもよい。
【0062】
本発明の製造方法により得られる発泡繊維の大きさは、微細な発泡構造を形成しうることから、平均繊維直径が下限は0.5μm以上、また上限は1000μm以下の範囲で、さらに微細発泡のメリットを生かせば500μm以下の範囲であることが好ましい。ここで平均繊維直径とは、単繊維の直径を意味するものであり、繊維軸方向に垂直な繊維横断面(以下「繊維横断面」と略記することがある)の形状が真円の繊維であればその直径である。なお該平均繊維直径は、具体的には、繊維横断面の観察を行い、繊維を形成する部分の断面積を画像解析により算出し、その断面積から円に相当する直径を求めて、これを平均繊維直径とするものである。平均繊維直径が100μm以下である発泡繊維であれば、繊維の剛性が低く品位が高いため、衣料用と産業用のいずれの用途においても好適に用いられ、汎用性が高い。また、単繊維の平均繊維直径が0.5μm以上であることによって、発泡繊維の力学物性が維持され実用的な耐久性を有する発泡繊維となりうる。上記の範囲を満たす発泡繊維であれば目的用途に応じて繊維直径を選択すればよく、例えば、衣料用途として用いる場合は、平均繊維直径は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは15μm以下である。また、産業用途については、平均繊維直径は50μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは30μm以下である。また、気泡の存在により繊維直径の変動が起こりにくく、均一な繊維を得やすい点で、平均繊維直径は3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、8μm以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは10μm以上の発泡繊維が製造されうる。
【0063】
本発明の製造方法により得られる発泡繊維は、均質な発泡繊維となりうることから繊維長手方向の繊維直径の変動を示すU%(half)は5以下を達成しうる。該U%(half)が5以下である場合、発泡繊維の工程通過性が良好となる。例えば、仮撚加工時の毛羽抑制や織物とする場合には、皺の発生を抑え、染色加工において濃淡斑が生じ難く、衣料用や産業用の繊維として汎用性に優れる繊維となる。本発明の発泡繊維の製造方法においては、紡糸口金吐出時に通常の溶融紡糸では想定されない、非常に微細な発泡によって、気泡核の生成数を劇的に増やせることを見出し、繊維内部に微細な気泡を均一に有する発泡繊維を得るに至ったのである。工程通過性、品位が高く、汎用性の高い発泡繊維を製造しうる点で、本発明の発泡用粒子により製造される発泡繊維のU%(half)はより好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。なお該U%(half)は低いほど好ましいことから、下限については制限されないが、現状では、0.01以上が製造上の達成しうる最も好ましい値である。
【0064】
本発明の製造方法により得られる発泡繊維とは、繊維内部に気泡を有するものであるが、具体的には繊維横断面において熱可塑性ポリマーの隔壁により分割された、10個以上の独立な気泡を有するものである。この気泡は繊維長手方向に伸ばされた形態を持ち、繊維長手方向に不連続に存在している。前述の通り、本発明により得られる発泡繊維は、溶融紡糸において、熱可塑性ポリマーと発泡剤の分解により発生した気体とが混合された混合ポリマーを紡糸口金に導き、口金から吐出する際の圧力低下(低圧領域吐出(大気)での圧力開放)によって、吐出糸の内部に気泡が生成され発泡繊維が得られる。
本発明により得られる発泡繊維は、繊維横断面における気泡占有率が10〜90%であることが好ましい。気泡占有率を10%以上にすることで、保温性などの各種特性の向上効果が発現する。また、気泡占有率を90%以下にすることで、繊維としての力学物性が実用レベルを保持することができる。より軽量性や保温性などの特性の高い発泡繊維となる点で、繊維横断面における気泡の占有率は20%以上であることが好ましく、気泡占有率はより好ましくは25%以上である。また、気泡占有率の高いほど発泡繊維は軽量性に優れ好ましいものの、力学物性が低下する場合があるため、気泡占有率は75%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは50%以下である。
【0065】
本発明により得られる発泡繊維の繊維横断面における気泡の数は10個以上であることが好ましい。微細な気泡を10個以上有する発泡構造により、外力が熱可塑性ポリマーに分散され、気泡の耐久性に優れ、屈曲や摩耗によって潰れにくい構造となる。また、クッション性と弾力性に優れる発泡繊維となる。そして、本発明により得られる発泡繊維は、延伸や仮撚などの糸加工や、製品使用時においても気泡が潰れにくく、気泡が維持される。発泡構造の耐久性がより優れたものとなる点で気泡の数が多いことが好ましく、気泡の数は30個以上であることが好ましく、より好ましくは50個以上であり、さらに好ましくは100個以上であり、特に好ましくは500個以上である。空隙の数の上限については、概ね1,000,000個程度となりうる。空隙の数は、実施例I.項で確認することができる。
【0066】
本発明の発泡繊維は、繊維横断面における気泡の最大直径と繊維直径との関係が、気泡の最大直径/繊維直径≦0.1を満たすことが好ましい。気泡の最大直径が繊維直径の0.1以下である発泡構造をとることにより、繊維長手方向の均一性を高くすることができると共に、力学物性も実用レベルを保持することができる。気泡の最大直径/繊維直径の値は小さいほど、均一な発泡繊維となるだけでなく、上述した気泡の占有率を高くしても力学物性が良好な発泡繊維となる。以上の点から、気泡の最大直径と繊維直径との関係は、0.08以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。気泡の最大直径/繊維直径の値の下限については、現状では、0.0001以上が製造上の限界である。
【0067】
本発明により得られる発泡繊維の繊維横断面における気泡は微細となりうるが、該気泡の最大直径が微細であるほど均一性の高い発泡繊維となり、また力学物性も良好となることから、気泡の最大直径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは2μm以下であり、特に好ましくは1μm以下である。気泡の最大直径は小さいほど好ましいが、0.001μm以上である場合に気泡として認識しうるのであって、また安定した気泡として軽量化にも寄与しうる。
【0068】
また前述の通り、発泡繊維中に発生する気泡は微細であるものの、繊維の力学物性が良好となる点で、繊維横断面内における気泡の平均直径が小さいことが好ましく、気泡の平均直径は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。気泡の平均直径は小さいほど好ましく、気泡の平均直径の下限についての制限はないが、適度な大きさを持つことで、気泡の耐久性が高い発泡繊維となる。このため、気泡の平均直径は0.001μm以上であることが好ましく、0.005μm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.01μm以上である。
【0069】
本発明にて得られる発泡繊維は、微細発泡により生成する気泡は均質であるが、定量的には、繊維横断面における気泡の直径の分布が狭いほど、すなわち気泡の直径の標準偏差が小さいほど、外力が熱可塑性ポリマーに均一に分散され、力学物性に優れる発泡繊維となるため好ましい。発泡繊維において気泡の直径の標準偏差は3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらにより好ましく、特に好ましくは0.3μm以下である。また、下限については、0.01μmが現状の製造で達成しうる最も好ましい値である。
【0070】
本発明により得られる発泡繊維は、上述したように、繊維の長手方向に引き延ばされた気泡を有している。これは、本発明の発泡繊維の製造方法において、吐出糸を引き取る過程および吐出糸を延伸する過程において、気泡が繊維の長手方向に伸長されることで形成される。長手方向に延ばされた気泡が繊維内部に存在する場合、気泡による繊維の力学物性の低下が抑制される。大きい気泡ほど力学物性を低下させ易いことから、繊維横断面において最も大きい気泡の直径(気泡の最大直径)と、その気泡の繊維の長手方向への長さ(気泡長)との比である、気泡長/気泡の最大直径が3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、さらに好ましくは10以上である。一方、気泡長/気泡の最大直径があまりに大きいと、繊維の側面から加わる外力によって、潰れにくい気泡とするために、気泡長/気泡の最大直径は10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1000以下である。
【0071】
本発明により得られる発泡繊維の繊維強度は、2.0cN/dtex以上であることが好ましい。スポーツ用ユニフォームあるいはアウトドア用衣料として用いる場合、さらには産業用素材として用いる場合を考えた場合には、丈夫な素材であることが好ましいとされる。また、繊維あるいは繊維製品の加工性を考慮した場合であっても糸物性は繊維強度が高いことが求められる。繊維強度は2.5cN/dtex以上であることがより好ましく、3.0cN/dtex以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは3.5cN/dtex以上である。一般に強度の高い繊維は、伸度が低くなる傾向にある。そのため、強度は10cN/dtex以下であることが好ましく、9cN/dtex以下であることがより好ましく、8cN/dtex以下であることがさらに好ましく、特に好ましくは7cN/dtex以下である。
【0072】
本発明により得られる発泡繊維は、繊維内部に気泡を有するため軽量性に優れている。ここで、軽量性が優れているとは、繊維の見かけ比重が熱可塑性ポリマーの比重に対し90%以下であることと定義し、例えば、ポリエチレンテレフタレートであれば見かけ比重が1.24以下、ポリプロピレンテレフタレートであれば1.12以下、ポリブチレンテレフタレートであれば1.22以下、ポリ乳酸であれば1.13以下、以下ポリアミドであれば1.02以下、ポリプロピレンであれば0.81以下、ポリエチレンであれば0.85以下である場合に、90%以下である(軽量性に優れる)ことを指す。より軽量性の高い繊維となる点で繊維の見かけ比重が、熱可塑性ポリマーの比重に対し85%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以下であり、さらに好ましくは75%以下である。本発明により得られる発泡繊維の比重は、実施例の手法により測定されるが、該手法による比重の測定が困難である発泡繊維については、繊維横断面における気泡の占有率と熱可塑性ポリマーの密度を用いて見かけ比重を計算する。
【0073】
本発明の発泡繊維は、発明の目的を損ねない範囲で艶消剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤および増粘剤等の添加剤を少量保持しても良い。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により、本発明の発泡繊維の製造方法について、具体的かつより詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。実施例中の物性値は、下記の方法によって測定した。
【0075】
A.熱可塑性ポリマーの融点(Tm)とガラス転移温度(Tg)の測定
パーキンエルマー社製の示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用いて、試料10mgについて、昇温速度16℃/分で測定した。TmとTgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をガラス転移温度(Tg)とし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0076】
B.熱可塑性ポリマーの溶融粘度の測定
東洋精機社製のキャピログラフ1型を用いて、キャピラリー長40mmのキャピラリーを用いて、12.16[sec−1]における溶融剪断粘度を測定した。結晶性ポリマーであれば(Tm+30)℃の温度で、非晶性ポリマーであれば紡糸温度で測定した。
【0077】
C.発泡用粒子の球状度の算出、「球状」の判断および平均粒径の測定
(株)ニコン社製、走査型電子顕微鏡ESEM−2700を用いて、加速電圧10kVで、試料を白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、横長のモニター画面上で、粒子が画面縦幅の10分の1以上の大きさの直径となる倍率(概ね200〜50000倍)の任意の倍率で確認した。球状度および平均粒径については、観察写真をデジタル撮影し、コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOFにおいて粒子100個の平均面積値を算出し、更に該平均面積値から略円形と判断して発泡用粒子の平均粒径を算出した。また撮影した写真中の100個の発泡用粒子において、1つの粒子の最大直径(R)と最小直径(r)を目視判断して計測し、その比(R/r)を求め、100個の粒子の該比の平均値を求めその値を球状度とし、球状度が2.0以下のものを「球状」と判断した。
【0078】
D.球状粒子の比表面積、細孔の平均直径Rおよび細孔容積の測定
マイクロメリティックス社製((株)島津製作所販売)の自動比表面積/細孔分布測定装置トライスター3000にて、窒素を用いて測定した。比表面積はBET比表面積から求め、また細孔の平均直径(Pore Diameter)Rおよび細孔容積(Pore Volume of pores)はそれぞれBJH法による吸着側メソポア細孔分布の測定結果から求めた。すでに発泡剤を担持させた発泡用粒子の比表面積を測定する場合には、あらかじめ発泡用粒子の10倍以上の質量のエタノール中で12時間以上攪拌させて発泡用粒子の細孔内の発泡剤を除去して、遠心分離、および乾燥させて得た粒子を用いて測定を行った。
【0079】
E.発泡剤の分解温度の測定方法
セイコーインスツル株式会社製示差熱熱重量同時測定装置(型式 EXSTAR6000 TG/DTA 6200)を用いて、試料10mg、昇温速度5℃/分の条件で、温度上昇に伴う減量率を求め、該減量率が10重量%となる温度を、発泡剤の分解温度(℃)とした。
【0080】
F.U%(half)の測定
ツェルヴェーガー(Zellweger)社製のUT−4を使用して、供糸速度200m/分、測定時間1分の測定条件でU%(half)を求めた。
【0081】
G.発泡繊維の強度と伸度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機(TENSIRON UCT−100)を用い、未延伸糸であれば初期試料長50mm、引張速度400mm/分で、延伸糸であれば初期試料長200mm、引張速度200mm/分で、それぞれ強度および伸度を測定し、5回測定した平均値をそれぞれの測定値とした。
【0082】
H.発泡繊維の見かけ比重の測定
(a)繊維の見かけ比重は、JIS−L−1013:1999 8.17.1(日本規格協会発行、化学繊維フィラメント糸試験方法)に定められた浮沈法に基づき、20℃±0.1℃の温度下、繊維の見かけ比重が1以上であればNaBr水溶液を用いて、繊維の見かけ比重が1〜0.789の間であれば重液に水を軽液にエチルアルコールを用いた混合液体にて、繊維の見かけ比重が0.789〜0.659の間であれば重液にエチルアルコールを軽液にn−ヘキサンを用いた混合液体にて、それぞれ繊維を30分放置した後の浮沈平衡状態を確認し、前述8.17.1項記載のとおり、浮かびも沈みもしない混合液体の比重値を測定し、繊維5本を測定した比重値の平均値を測定した。
【0083】
(b)繊維の見かけ比重が0.659未満の場合
本発明の発泡繊維のみからなる100g±10gのD.に記載の方法により作成した筒編布帛を用いて事前に重量を測定し、またあらかじめ重量および体積の分かったおもりを筒編みした布帛に固定し、4℃±1℃の温度に調製したイオン交換水に沈めて5分間の超音波による脱泡を行った後、筒編みの体積を測定し、10枚測定した布帛の比重値の平均値を測定した。
【0084】
I.発泡繊維の発泡構造の観察
試料台に貼り付けたカーボンテープ上に単繊維を設置し、白金蒸着処理(蒸着膜圧:25〜50オングストローム 処理時間:約120秒)を行った後、収束イオンビーム(FIB)切削加工−走査型電子顕微鏡(SEM)観察装置(FEI社製 STRATADB235)にて、加速電圧30kVで加速したGa収束イオンビームにより、粗切削加工(電流:約7000pA 処理時間:約20分)、および精密切削加工(電流:約3000pA 処理時間:約4分)の2工程で、真空度1.4×10−13Paの雰囲気中において、繊維横断面観察を行う際は試料を繊維軸方向に対して垂直に切削し、繊維縦断面観察を行う場合には試料を繊維軸方向に対して平行に切削した。
切削加工を施した後、該装置が所持する走査型電子顕微鏡を用い、真空度1.4×10−19Paの雰囲気中において、試料傾斜52度、加速電圧5kVの条件で、倍率80000倍で繊維横断面、および繊維縦断面の観察を行った。このとき該倍率で繊維横断面、および縦断面の全体像が撮影できない場合は、それぞれの位置で部分写真を撮影し、画像ソフトを用いて張り合わせることで全体像を得た。
【0085】
(a)繊維の断面積(A)と平均繊維直径(D)の測定
コンピュータソフトウェアの三谷商事社製の“WinROOF”(登録商標)(バージョン2.3)を用い、繊維横断面写真において、繊維1本を形成する領域の断面積(A)を画像解析により算出した、その断面積から円に相当する直径を算出した。上記の繊維横断面観察をランダムな10カ所で行い、それぞれで得られた繊維直径を平均して、平均繊維直径(D)を求めた。
【0086】
(b)気泡の最大直径(D)と気泡長(L)の測定
繊維横断面写真において、最大の面積を有する気泡の断面積を、同様に画像解析により算出し、その断面積から円に相当する直径を算出して気泡の最大直径(D)を求めた。さらに最大の面積を有する気泡の重心をとおり、かつ繊維軸と平行となるように繊維をして該気泡の繊維軸方向の長さである気泡長(L)を求めた。
気泡の最大直径/繊維直径=D/D
気泡長/気泡の最大直径=L/D
(c)気泡の総断面積(Aall)と気泡数(N)の測定
繊維横断面に存在する全ての気泡を数えて気泡数(N)を求めた。また全ての気泡について気泡の断面積を画像解析にて算出してその総和(Aall)を求めた。
【0087】
気泡の占有率=Aall/A
(d)気泡の平均直径(D)と気泡の直径の標準偏差(σ)の測定
気泡の平均直径(D)は繊維横断面内において存在する全ての気泡の円に相当する直径を算出し、その数平均をとることで算出した。また、気泡の標準偏差(σ)は、全ての気泡の円に相当する直径の標準偏差をとることで算出した。
【0088】
J.紡糸パック内の圧力と口金背面圧の測定
ギヤポンプと、紡糸パックとの間のポリマー流路において、圧力計を付帯させ、紡糸時のパック内圧(P)を測定する。そして、熱可塑性ポリマーと二酸化炭素および/または窒素の混合ポリマーを紡糸パックに導いて、紡糸口金から混合ポリマーが吐出するまでの間で、該圧力計の測定値をチャートに打ち出す。このチャートを元にパック内圧を、ポリマー流路の圧損、濾過層の圧損、フィルター圧損、背面圧(P)に分離し、背面圧(P)を求めた。
K.着色の有無の判断
ミノルタカメラ(株)製色彩色差計MINOLTA CR−200を用いて、該装置付属の白色板を用いて校正した後に、あらかじめ発泡剤の分解温度以上に加熱しておいた本発明の発泡用粒子(試料)のa*値を測定した。各試料において3回測定した結果を平均してその試料の着色値a*avとし、a*avが10より大きい値である場合に、着色したと判断した。
<熱可塑性ポリマーの調製>
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)の調製
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部の通常のエステル化反応によって得られた低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、融点(Tm)が260℃であり、ガラス転移温度(Tg)が80℃であり、290℃の温度で剪断速度12.16[sec−1]における溶融粘度が250[Pa・秒]であるPETを得た。
【0089】
(2)ポリプロピレンテレフタレート(PPT)の調製
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得られた低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃の温度、窒素気流下で固相重合を行い、ガラス転移温度(Tg)が52℃であり、融点(Tm)が230℃であり、260℃の温度で剪断速度12.16[sec−1]における溶融粘度が420[Pa・秒]のPPTを得た。
【0090】
(3)ポリ乳酸(PLA)の調製
L−ラクチド300重量部に触媒としてオクチル酸スズを0.005重量部添加し、窒素置換を行った後、170℃の温度で反応させて、重量平均分子量15.3万、ガラス転移温度(Tg)が58℃であり、融点(Tm)が170℃であり、230℃の温度で剪断速度12.16[sec−1]における溶融粘度が240[Pa・秒]のPLAを得た。
<球状多孔粒子の調製>
(4)ゾルゲル重合法による粒子の調製
核とする粒子として扶桑化学工業株式会社製コロイダルシリカ(品番PL−1,平均直径15nm,粒子濃度12%の分散水溶液)5.0mlを10倍希釈した後、界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)を0.40g加え、均一な分散液を調製した。この分散液に室温にてテトラエトキシシラン(TEOS)2.22mlおよびアンモニア水(濃度30%)を17ml加え、12時間攪拌しつつゾルゲル重合を行い、白色沈殿物を得た。該沈殿物を遠心分離、乾燥した後、500℃に加熱・焼成して、多数の細孔を有する主成分が酸化珪素からなる(酸化珪素99.9%)粒子(SOLP)1.2gを得た。得られた粒子の特性は、平均直径0.236μm,比表面積476m/g、細孔の平均直径R 4.97nm、細孔容積0.680ml/g、球状度1.03であった。
<発泡剤の合成>
(5)ベンゼンビステトラゾール(BTB)の合成は、窒素気流下で1,3−ジシアノベンゼン1.0gをジメチルホルムアミド5mlに溶解させ、室温にてアジ化ナトリウム5.0gを加えた後、60℃まで加温し、48時間反応した。その後、希塩酸を用い中和し、蒸留水と酢酸エチルで分液し、酢酸エチル層を集め、乾燥して溶媒を留去した。得られた固体を、シリカゲルカラムにて精製を行い、ベンゼンビステトラゾール(BTB)0.8gを得た。分解温度を評価したところ、275℃であった。またベンゼントリステトラゾール(TTB)の合成は、前述の「1,3−ジシアノベンゼン1.0g」を1,3,5−トリシアノベンゼン1.2gとして、同様に合成を行い、TTB0.3gを得た。分解温度を評価したところ273℃であった。
<発泡用粒子の調製>
(6)ゾルゲル重合法により得た前駆粒子からなる発泡用粒子
前述の前駆粒子SOLPを用いて0.1gを4mlエタノール中に分散させた後、永和化成工業株式会社製フェニルテトラゾール(セルテトラP5T;以下PT、分解温度235℃)および前述の通り合成したBTB、TTBを、それぞれ0.05gずつ、該SOLPを分散させたエタノールに発泡剤を溶解させ、12時間攪拌した。その後、粒子を遠心分離した後、エタノール中にて再度該粒子を5分間攪拌して粒子表面の発泡剤を洗浄、除去した後乾燥して、細孔内に発泡剤を担持させた発泡用粒子P−PT、P−BTB、P−TTBをそれぞれ得た。発泡剤担持による発泡用粒子の重量増加率は、粒子を100%回収した前提で、P−PTが31重量%増加、P−BTBが28重量%増加、P−TTBが26重量%増加であった。また発泡用粒子P−PT、P−BTB、P−TTBそれぞれを300℃に加熱したところ、3種とも粒子そのものは着色しなかった(それぞれの粒子の着色値a*avは、P−PT:+0.8、P−BTB:+1.1、P−TTB:+2.4)ため、発泡用粒子表面に発泡剤が付着していないことが確認された。
【0091】
(7)セルフアセンブリー法により得た前駆粒子からなる発泡用粒子
セルフアセンブリー法により得た住友大阪セメント株式会社製ナノポーラスシリカ(平均直径0.078μm,比表面積808m/g、細孔の平均直径R 3.42nm、細孔容積1.97ml/g、球状度1.05、主成分酸化珪素(99.9%);以下NPSと略記することがある)を0.1g用いた以外は前述の発泡用粒子P−PT、P−BTB、P−TTBと同様の調製手法により発泡剤を細孔内に担持させ、Q−PT、Q−BTB、Q−TTBをそれぞれ得た。発泡剤担持による発泡用粒子の重量増加率は、粒子を100%回収した前提で、Q−PTが39重量%増加、Q−BTBが32重量%増加、Q−TTBが29重量%増加であった。また発泡用粒子Q−PT、Q−BTB、Q−TTBそれぞれを300℃に加熱したところ、3種とも粒子そのものは着色しなかった(それぞれの粒子の着色値a*avは、Q−PT:+1.2、Q−BTB:+1.5、Q−TTB:+2.8)ため、実施例1と同様、発泡用粒子表面に発泡剤が付着していないことが確認された。
【0092】
(8)ゾルゲル重合法により得た前駆粒子からなる発泡用粒子;未洗浄(比較例用)
前述(5)において、SOLPを分散させたエタノールに発泡剤を溶解させ、12時間攪拌した後、粒子を遠心分離して、粒子表面の発泡剤を洗浄、除去しない以外は前述(1)と同様の方法によって、発泡用粒子3種(P’−PT、P’−BTB、P’−TTB)を得た。P’−PT、P’−BTB、P’−TTBそれぞれを300℃に加熱したところ、3種とも粒子そのものがピンク色に着色してしまい、発泡用粒子表面に発泡剤が付着したままで、かつ発泡の際に着色すること(それぞれの粒子の着色値a*avは、P’−PT:+12.1、P’−BTB:+18.3、P’−TTB:+20.4)が確認された。
【0093】
実施例1〜3および比較例1
2軸エクストルーダーに、PETの粉体と前述のP−PT(実施例1)、P−BTB(実施例2)、P−TTB(実施例3)、P’−PT(比較例1)の粉体とをそれぞれ混合したポリマー/発泡用粒子混合体を添加して、混練した後、ギヤポンプにて計量し、紡糸パックへと供給して口金から吐出する時に発泡させた吐出糸を、冷却風にて冷却し、ローラーにて引き取って、巻き取り機で巻き取ることによって252T−24Fの発泡未延伸糸を作製した。このときの混練、および吐出紡糸条件を下記に示す。なお剪断速度は、PETの溶融密度である1.18g/cmを用いて上述した上記(A)の式を用いて算出した。
【0094】
[実施例1〜3および比較例1の紡糸条件]
・紡糸温度:275℃
・エクストルーダー温度:ポリマー/発泡用粒子混合体添加口付近 240℃
エクストルーダー中盤 260℃
エクストルーダー中盤をすぎてギヤポンプまで 275℃
・エクストルーダー回転数:300rpm
・エクストルーダー先端圧:10MPa
・発泡用粒子の含有量:ポリマー/発泡用粒子混合体中で3wt%
・エクストルーダー中盤のバレル圧力:7MPa
・口金:丸孔であり、孔径0.23mm、孔深度0.30mm、孔数24である口金
・γ:13,802[sec−1
・濾層:30#モランダムサンド
・フィルター:10μm不織布フィルター
・吐出量:28.0g/分
・パック内圧:15MPa
・口金背面圧:12MPa
・冷却:冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/分
・冷却風吹きつけ開始点:紡糸口金下5cm
・油剤:脂肪族エステル10%濃度エマルジョン油剤を糸に対して5%付着
・引取速度:1000m/分
上記の発泡未延伸糸の延伸を行うに際し、第1加熱ローラーが90℃の温度のローラー、第2加熱ローラーが130℃の温度のローラー間で延伸し、第3ローラーで室温に冷却し、スピンドルでボビンに巻き取ることにより発泡繊維を得た。このとき延伸倍率は、3.5倍とした。比較例1では繊維のピンク色の着色がみられた。
【0095】
【表1】

【0096】
実施例4
実施例1において、PETのかわりにPPTとし、発泡剤をPTとした発泡用粒子Q−PTを用い、以下の紡糸/混練条件に変更した以外は、実施例1と同様の条件で製糸を行った。
【0097】
[実施例4の紡糸条件、実施例1の条件からの変更部分のみ記載]
・紡糸温度:245℃
・エクストルーダー温度:ポリマー/発泡用粒子混合体添加口付近 220℃
エクストルーダー中盤 240℃
エクストルーダー中盤をすぎてギヤポンプまで 245℃
・口金:丸孔であり、孔径0.23mm、孔深度0.30mm、孔数12である口金
・γ:27,605[sec−1
・パック内圧:21MPa
・口金背面圧:15MPa
なお発泡未延伸糸の延伸を行うに際しては、第1加熱ローラーが70℃の温度のローラー、第2加熱ローラーが110℃の温度のローラー間で延伸し、第3ローラーで室温に冷却し、スピンドルでボビンに巻き取ることにより発泡繊維を得た。
【0098】
実施例5
実施例1において、PETのかわりにPLAとし、発泡剤をPTとした発泡用粒子Q−PTを用い、以下の紡糸/混練条件に変更した以外は、実施例1と同様の条件で製糸を行った。
【0099】
[実施例5の紡糸条件、実施例1の条件からの変更部分のみ記載]
・紡糸温度:240℃
・エクストルーダー温度:ポリマー/発泡用粒子混合体添加口付近 210℃
エクストルーダー中盤 230℃
エクストルーダー中盤をすぎてギヤポンプまで 240℃
・パック内圧:20MPa
・口金背面圧:15MPa
なお発泡未延伸糸の延伸を行うに際しては、第1加熱ローラーが70℃の温度のローラー、第2加熱ローラーが110℃の温度のローラー間で延伸し、第3ローラーで室温に冷却し、スピンドルでボビンに巻き取ることにより発泡繊維を得た。
【0100】
実施例6
実施例1において、引き取った後、巻き取るまでの、引き取りローラー1(引取速度1000m/分)と引き取りローラー2(引取速度1000m/分)の間の熱板(長さ1.5m、温度100℃に設定)上で1.5ミリ秒間の熱処理を施したのち、巻き取った(加熱済み未延伸糸)。その後実施例1と同様の延伸を行って発泡繊維を得た。未延伸糸段階で熱処理を施すことによって発泡が促進された。
【0101】
以上の実施例の結果から、本発明において、好ましいとされる発泡用粒子を採用することによって、高温で発泡する発泡剤を用いても繊維が着色することがなく、繊維の長手方向に均一な発泡構造を持つ発泡繊維を得られた。該発泡繊維は、高品位で、軽量性、保温性に優れ、染色斑もないことから特に衣料用途に好適な発泡繊維であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、多数の細孔を有する球状粒子の内部のみに発泡剤を吸着・担持させ、粒子表面には発泡剤が存在しないことから、分解時に着色性の分解物を生成しうる、あるいは熱可塑性ポリマーと反応する分解物を生成しうる発泡剤を用いた際に、発泡成形品あるいは発泡繊維が着色しない、または副反応による劣化が起こらず、発泡時の制御に優れている。また多数の細孔から発泡剤の分解により生成した気体が放出されることから、発泡により生成する気泡は微細かつ均一となり、触感や美観、力学的特性や後工程の通過性、製品としての耐久性など、種々の物性に優れた発泡成形品あるいは発泡繊維が得られル。特に発泡繊維については、軽量性、保温性、クッション性およびタッチなどに優れるため、特にスポーツ衣料、アウトドア衣料、白衣等のユニフォーム衣料、フォーマル衣料や、冬物下着、水着および裏地などの衣料用途に好適であり、各種車両内装材や、クッション、布団、毛布、枕、カーペットおよびカーテンなどの産資用途にも好適に用いられ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔内のみに発泡剤を担持する球状多孔粒子を、含有する熱可塑性ポリマーを、発泡剤が分解する温度以上で紡糸口金に導き、紡糸口金で高圧にしたのち吐出し、冷却した後に引き取る発泡繊維の製造方法。
【請求項2】
平均粒径が1μm以下の球状多孔粒子を用いることを特徴とする請求項1に記載の発泡繊維の製造方法。
【請求項3】
細孔の平均直径Rが50nm以下の球状多孔粒子を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡繊維の製造方法。
【請求項4】
球状多孔粒子の主成分が酸化珪素からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
【請求項5】
発泡剤がテトラゾール系発泡剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
【請求項6】
球状多孔粒子Aを含有する熱可塑性ポリマーBの中での球状多孔粒子Aの含有量が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
【請求項7】
紡糸口金を通過する際の最大剪断速度γが5,000〜100,000[sec−1]であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の発泡繊維の製造方法により得られる、細孔を有する粒子を含有した発泡繊維。

【公開番号】特開2008−280649(P2008−280649A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126656(P2007−126656)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】