説明

発炎剤組成物

【課題】信号筒、発炎筒などに使用する発炎剤組成物において、この組成物中に過塩素酸塩類、塩化ゴムなどの塩素原子を含む物質を含有せず、燃焼時に有害物質を放出しない環境面に配慮した発炎剤組成物を提供する。
【解決手段】発色剤、発熱剤及び可燃剤を含む発炎剤組成物において、発色剤として硝酸ストロンチウムを55〜70重量%及び炭酸リチウムを1〜6重量%含有し、発熱剤の含有量が10〜25重量%であり、組成物中に塩素原子を有する物質を含有しないことを特徴とする発炎剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号筒、発炎筒などに使用する発炎剤組成物に関する。特に、この組成物中に過塩素酸塩類、塩化ゴムなどの塩素原子を含む物質を含有しないことを特徴とし、環境面に配慮した発炎剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発炎筒のように赤色の発色炎を発する組成物においては、酸素供給剤として過塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウムなどの過塩素酸塩類を含有すること、又は可燃剤として塩化ゴムなどの塩素原子を含む物質を含有することが知られている(特許文献1)。特許文献1においては、組成物は、発色剤として硝酸ストロンチウムなどのストロンチウムを含む物質と塩素を含む物質を含有し、これらが燃焼した際に塩化ストロンチウムが生成し赤色炎を発するとされている。
【0003】
しかしながら、過塩素酸塩類を酸素供給剤として使用した場合、燃焼後に空中や地中の水と反応して塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO)、硝酸(HNO)、炭酸(HCO)などの酸が生じる。過塩素酸類は、水道水などに含有し、人の体内に入ると成長ホルモンの生成を阻害するので、幼児や胎児の成長に特に影響するといわれている。また、塩酸は酸性雨の原因となり、大気汚染の元となる。
【0004】
信号筒、発炎筒などは、緊急時に使用されるため、一度に大量の本数を燃焼させる頻度は少ないと思われるが、消費期限が切れた製品については、一度に大量の製品を焼却処分するため、上記のような幼児や胎児への影響、環境問題などの課題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−226593号公報
【特許文献2】特開2001−48688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、過塩素酸塩類、塩化ゴムなどの塩素原子を含む物質を含有せずに、従来の発炎剤組成物と同等の発色及び光度が得られる発炎剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、環境への貢献という観点から、過塩素酸塩類等の塩素を含む物質を含有しない発炎剤組成物について鋭意検討を重ねた結果、発色剤として硝酸ストロンチウムと炭酸リチウムをある特定の量で使用することにより、従来の過塩素酸塩類を含有する発炎剤組成物と同等の発色及び光度が得られることを見出して本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、
(1)発色剤、発熱剤及び可燃剤を含む発炎剤組成物において、発色剤として硝酸ストロンチウムを55〜70重量%及び炭酸リチウムを1〜6重量%含有し、発熱剤の含有量が10〜25重量%であり、組成物中に塩素原子を有する物質を含有しないことを特徴とする発炎剤組成物、
(2)発熱剤としてマグネシウム粉を使用する上記(1)に記載の発炎剤組成物、
に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、発炎剤組成物を燃焼させ、赤色の発光を供する際に、発色及び光度を維持しながらも、過塩素酸類、塩酸等の環境に悪影響を与える物質の排出を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の方法を詳細に説明する。
本発明は、環境に配慮した発炎剤組成物に関する。
本発明の発炎剤組成物は、発色剤、発熱剤及び可燃剤を配合して得られる。
本発明において、発色剤としては、硝酸ストロンチウム及び炭酸リチウムを混合したものが使用される。
発色剤は酸素供給剤の役割も果たしているが、追加の酸素供給剤として周知の硝酸カリウム等の硝酸塩類や過酸化物を添加することもできる。
【0011】
硝酸ストロンチウムの含有量は、組成物全体に対して55〜75重量%、好ましくは60〜65重量%である。55重量%未満では、赤色の発色が薄くなり、75重量%以上では燃焼中断する不具合が生じる。
また、炭酸リチウムの含有量は、組成物全体に対して1〜6重量%、好ましくは2〜4重量%である。1重量%未満では、赤色の発色が薄くなり、6重量%以上では燃焼中断する不具合が生じる。
硝酸ストロンチウム及び炭酸リチウムは、平均粒径が10〜400μmのものが使用される。
【0012】
本発明において、発熱剤としては、マグネシウム粉、アルミニウム粉等の金属粉が使用されることが好ましく、燃焼温度を上げることにより、赤色の発色を強くし、また光度を上げる効果が得られる。特にマグネシウム粉が好ましい。マグネシウム粉は、平均粒径が10〜300μmのものが使用される。
発熱剤の含有量は、組成物全体に対して10〜25重量%、好ましくは12〜20重量%である。10重量%以下では、燃焼温度が低くなり赤色の発色が薄くなり、25重量%以上では、金属粉の燃焼時に黄や白の発光が強くなり、赤色の発色が薄くなる。
【0013】
本発明において可燃剤は、可燃剤兼バインダーとして使用される。可燃剤としては、パラフィンワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン等の常温で固体のもの、また不飽和ポリエステル等の常温で液体であり硬化剤等の添加により硬化させるものなどの従来公知のバインダーが使用できる。可燃剤の含有量は、組成物全体に対して15〜25重量%、好ましくは18〜23重量%である。
【0014】
本発明の発炎剤組成物を用いた発炎筒は、次のようにして製造される。可燃剤であるパラフィンワックス及びポリエチレンを液状になる任意の温度で溶解混合し、ついで発熱剤であるマグネシウム粉、発色剤である硝酸ストロンチウム及び炭酸リチウムを添加して、攪拌機で混合し、発炎剤組成物を得る。得られた発炎剤組成物を所定の紙筒に充填し、発炎筒を製造する。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の具体的態様を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0016】
(実施例1)
発色剤として硝酸ストロンチウム62重量%及び炭酸リチウム3重量%と、発熱剤としてマグネシウム粉15重量%とを、可燃剤としてパラフィンワックス(融点:101℃)8重量%及びポリエチレン(軟化点:124℃)12重量%を150℃で溶解混合したものに添加し、撹拌混合して流動状の発炎剤組成物を得た。得られた発炎剤組成物80gを内径25mmの紙筒に入れ、自然放冷により硬化させて発炎筒を作製した。
【0017】
(比較例1)
実施例1において、発色剤を硝酸ストロンチウム65重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により発炎筒を作製した。
【0018】
(比較例2)
実施例1において、発色剤を硝酸ストロンチウム49重量%及び炭酸リチウム3重量%とし、発熱剤をマグネシウム粉28重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により発炎筒を作製した。
【0019】
(比較例3)
実施例1において、発色剤を硝酸ストロンチウム69重量%及び炭酸リチウム3重量%とし、発熱剤をマグネシウム粉8重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により発炎筒を作製した。
【0020】
(比較例4)
実施例1において、発色剤を硝酸ストロンチウム57重量%及び炭酸リチウム8重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により発炎筒を作製した。
(比較例5)
実施例1において、発色剤を硝酸ストロンチウム62重量%及び炭酸ストロンチウム3重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により発炎筒を作製した。
【0021】
実施例1及び比較例1〜5の組成、並びにこれらの発炎剤組成物及び発炎筒についてJIS−D5711「自動車用緊急保安炎筒」に規定されている方法により試験した結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果から明らかなように、発色剤として硝酸ストロンチウムと炭酸リチウムを使用している実施例1の発炎剤組成物は、JIS規格を満足する性能を有しているが、発色剤として硝酸ストロンチウムのみを使用した比較例1並びに硝酸ストロンチウムと炭酸ストロンチウムを使用した比較例5の組成物は、赤色発色が薄く色度が規格に入らなかった。
また、発熱剤の量が25重量%を超えている比較例2の組成物は、光度は高いが、マグネシウム粉の燃焼色が強く、赤色発色が薄くなる傾向があり、発熱剤の量が10重量%未満である比較例3の組成物は、発色及び光度が十分でない上に、耐雨性・耐風性にも劣るものであった。
また、比較例4の組成物は、発熱剤の総量は、実施例1と同じであるにも係わらず、炭酸リチウムの量が6重量%を超えているために、発色及び光度が十分でない上に、耐雨性・耐風性にも劣るものであった。
なお、本発明者らが、鋭意検討した結果、硝酸ストロンチウムの含有量が55〜70重量%、炭酸リチウムの含有量が1〜6重量%、発熱剤の含有量が10〜25重量%であるとき、十分な発色及び光度が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色剤、発熱剤及び可燃剤を含む発炎剤組成物において、発色剤として硝酸ストロンチウムを55〜70重量%及び炭酸リチウムを1〜6重量%含有し、発熱剤の含有量が10〜25重量%であり、組成物中に塩素原子を有する物質を含有しないことを特徴とする発炎剤組成物。
【請求項2】
発熱剤としてマグネシウム粉を使用する、請求項1に記載の発炎剤組成物。