説明

発煙消火剤

【課題】消火剤組成物への簡便かつ確実な着火手段を有し、瞬時に消火剤組成物を活性化でき、粉末エアロゾル消火剤を放出可能な発煙消火剤を提供する。
【解決手段】過マンガン酸カリウム等の酸化剤10とグリセリンのような高粘性の液状易酸化性物質4bとを有する着火剤と着火剤によって着火燃焼され粉末エアロゾルを放出可能な消火剤組成物とを具備し、酸化剤と易酸化性物質とがそれぞれ個別の容器に収納され、両者が消火剤組成物表面にて接触することにより発熱させ、消火剤組成物に着火させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉された室内等で発生した火炎を消火するための発煙消火剤に関するものであり、より詳しくはアルカリ金属またはハロゲンのような消火成分を含む消火剤組成物に着火し、該消火剤組成物の燃焼により粉末エアロゾルを発生させ、火炎中に噴霧させて火炎を消火する発煙消火剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
密閉空間の火災における消火は、従来二酸化炭素あるいはハロン1211に代表されるハロゲン化炭素を消火剤として噴出させるものが知られている。
【0003】
二酸化炭素を消火剤として用いるものは、密閉空間における酸素濃度を低下させ燃焼を抑制し消火させるものであるが、該二酸化炭素は有害であり、人体に損害を与え、尊い人命を失う危険性もあるため、より毒性の低いハロゲン化炭素を用いた消火剤が多く使用されてきた。
【0004】
しかしながら、このハロゲン化炭素はオゾンと相互作用し、オゾン層の破壊に繋がることが知られており、地球環境上の問題から全世界的に使用が制限されている。
【0005】
これらの消火剤の代替として、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を含む塩化物や炭酸塩等を含んだ消火剤組成物を用い、該消火剤組成物の燃焼反応により粉末エアロゾルを発生させ、火炎中に噴出させ、火炎の連鎖反応を停止させ消火する発煙消火剤が知られている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特許第3766685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような発煙消火剤においては一般的に消火剤組成物を活性化させ、エアロゾルを放出せしめるため、何らかの着火機構が設けられており、該消火剤組成物への着火方法としては、種々のものが検討されている。例えば、直接火炎にて消火剤組成物に着火する方法、酸化カルシウムに水を加えその際発生する熱を利用し消火剤組成物に着火させる方法、鉄粉等の金属粉の酸化反応による発熱を利用し着火させる方法、電熱コイルにより加熱し着火させる方法、物理的な力によって摩擦熱を発生させ消火剤組成物に着火させる方法等があげられる。
【0007】
しかし、直接火炎による方法は裸火を使用することから安全面での問題がある。酸化カルシウムに水を加える方法は防湿に厳重な注意を要し、また、金属粉を用いる場合は空気との接触を完全に断つことが必要であり、両者とも特殊な容器又は外装を要し装置が煩雑になる。電熱コイル等の電力を用いる方法は使用する場所が限られ、装置も煩雑になり、また物理的な力を用いる方法は安全性あるいは確実な着火性の面で欠点がある。
【0008】
本発明の目的は、上記の欠点を除くべく、消火剤組成物への簡便かつ確実な着火手段を有し、瞬時に消火剤組成物を活性化でき、粉末エアロゾル消火剤を放出可能な発煙消火剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、過マンガン酸カリウムに代表される酸化剤と易酸化性物質とがそれぞれ個別の容器に収納され、消火剤組成物に着火すべき時に、両者を消火剤組成物表面上にて接触させることにより発熱させ、前記消火剤組成物に着火するように構成した発煙消火剤が上記課題を解決できることを見出し本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の(1)〜(6)に示すものである。
【0011】
(1)少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを有する着火剤と、
粉末エアロゾルを放出可能な消火剤組成物と、
を具備した発煙消火剤において、
前記酸化剤と前記易酸化性物質とがそれぞれ個別の容器に収納され、
両者が消火剤組成物表面にて接触することにより発熱し、前記消火剤組成物に着火するように構成されたことを特徴とする発煙消火剤。
【0012】
(2)少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを有する着火剤と、
粉末エアロゾルを放出可能な消火剤組成物と、
を具備した発煙消火剤において、
前記易酸化性物質が容器に収納され、前記酸化剤が前記消火剤組成物に形成した収納穴に前記容器に閉止された状態で収納され、
両者が消火剤組成物表面にて接触することにより発熱し、前記消火剤組成物に着火するように構成されたことを特徴とする発煙消火剤。
【0013】
(3)前記易酸化性物質が、高粘性の液状易酸化性物質であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の発煙消火剤。好ましくは、25℃における粘性率が5〜20Pa・sの範囲の液状易酸化性物質であることを特徴とする前記発煙消火剤である。
【0014】
(4)前記易酸化性物質がグリセリンであることを特徴とする前記(1)乃至(3)に記載の発煙消火剤。
【0015】
(5)前記酸化剤が、粒径10〜150μmの過マンガン酸カリウム粉末を含んだ組成物であることを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の発煙消火剤。
【0016】
(6)前記消火剤組成物が、塩素酸カリウムあるいは過塩素酸カリウムが主成分であることを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の発煙消火剤。より好ましくは過塩素酸カリウムと還元剤との混合物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の発煙消火剤によれば、易酸化性物質として高粘性の液状を呈する物質を用い、消火剤組成物表面上にて該易酸化性物質と酸化剤とを接触させることにより、該消火剤組成物内部に滲入することなく、着火剤が表面にて局所的に発熱できるため、確実かつ迅速に消火剤組成物を活性化することが可能になる。
【0018】
従って、着火剤として用いる酸化剤及び易酸化性物質の量を低減することが可能であり、消火剤を小型化、簡素化可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の発煙消火剤について図面を参照し、より詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の発煙消火剤の一例を示す概略図である。図1において、金属製の密閉された容器1内に、消火剤組成物2が充填されている。消火剤組成物2の上方には着火剤容器3が配置されている。着火剤容器3は、酸化剤10が封入された酸化剤容器4aと易酸化性物質12が封入された易酸化性物質容器4bをそれぞれ個別の容器として一体化している。
【0021】
火災が発生し、容器1が高温になると本発明の発煙消火剤に具備された感熱部5が作動し、着火剤容器3として一体化している酸化剤10が封入された酸化剤容器4aと易酸化性物質12が封入された易酸化性物質容器4bが衝破され、着火剤である酸化剤10と易酸化性物質12が消火剤組成物2の表面上に漏出する構成となっている。
【0022】
例えば、図1に示した発煙消火剤は、低融点はんだ等で容器に固着された感熱部5が、容器1の蓋6との間に圧縮バネ7を介して備えられ、感熱部5が高温になると低融点はんだが溶融して容器1から脱着され、開放された圧縮バネ7の押圧によって感熱部5が下方に押動する。予め感熱部5の下方には着火剤容器衝破用の破砕具8が具備されており、感熱部の押圧によって着火剤容器3が衝破される仕組みとなっている。
【0023】
着火剤である酸化剤10及び易酸化性物質12が消火剤組成物2の表面上にて接触し発熱することによって消火剤組成物2に着火され、消火剤組成物2が燃焼することにより放出孔(図示せず)より消火剤が放出される。
【0024】
本発明に用いる着火剤において、使用できる酸化剤については易酸化性物質と反応し発熱する発熱性酸化剤であれば特に制限なく用いることができるが、消火剤組成物への着火性の面から過マンガン酸カリウムを用いることが好ましい。また、過マンガン酸カリウムは粉末状のものであることが好ましく、粒径が10〜150μmのものであることが好ましい。過マンガン酸カリウムの粒径が150μmより大きいものを使用すると、過マンガン酸カリウム粉末の表面積が小さいため、易酸化性物質との反応が起こりにくくなり、着火性が損なわれる場合がある。
【0025】
また、本発明に用いる着火剤において、使用できる易酸化性物質については液状の有機系易酸化性物質であり、高粘性のものを用いることが好ましい。
【0026】
本発明は、消火剤組成物への迅速な着火を目的の一つとしており、前記着火剤は、消火剤組成物表面に滞留することができ、消火剤組成物表面にて酸化剤と接触することにより消火剤組成物を局所的に発熱し、迅速にエアロゾル消火剤が放出されるよう該組成物に着火燃焼できることが必要である。従って、例えばエチレングリコールなどの低粘性の易酸化性物質を用いた場合、消火剤組成物表面に留まらず、消火剤組成物内部に滲入してしまい、迅速及び確実な着火が行えない可能性がある。
【0027】
易酸化性物質が消火剤組成物内部に滲入することを抑制するため、消火剤組成物に別途バインダー等を加え成型することで消火剤組成物への浸透性を抑制することも考えられるが、そのような手段は消火剤組成物中の単位体積当たりの消火剤物質を低減することになり、消火効果の低い消火剤を与えることになる。また、消火剤組成物中にバインダー等を混合することは着火性を低下させることにもつながり好ましくない。
【0028】
本発明に用いることができる高粘性の易酸化性物質として、より具体的には25℃における粘性率が5〜20Pa・sの範囲である液状易酸化性物質を用いることが好ましい。粘性率が5Pa・sに満たないものを用いた場合、流動性が高いため消火剤組成物内部に滲入しやすく、消火剤組成物表面にて酸化剤と接触できず、着火が困難になる場合がある。また、20Pa・sを超えるものを用いた場合は、その粘度が高すぎるため封入された容器から速やかに易酸化性物質が漏出せず、酸化剤と混合できずに不着火になる場合がある。
【0029】
上記理由および酸化剤との良好な発熱反応性の面から、本発明に用いることができる易酸化性物質として最も好ましいものは、グリセリンである。
【0030】
本発明に用いる消火剤組成物は燃焼して粉末エアロゾルを発生するものである。該消火剤組成物としては、特に制限がないが、アルカリ金属塩を主成分とする発煙消火剤組成物を使用することが好ましい。アルカリ金属塩として具体的には、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、重クロム酸カリウム、硝酸セシウム、および硝酸カリウムからなる群より選択されたアルカリ金属塩が好ましく、入手のしやすさ、コスト等の面からより好ましくは塩素酸カリウム、過塩素酸カリウムである。
【0031】
また、上記アルカリ金属塩に還元剤として作用する反応物を含んだものが好ましい。該還元剤としては、ゴム、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の高分子材料を好ましく用いることができる。
【0032】
さらに、本発明に用いる消火剤組成物には、別途、燃焼抑制剤、金属還元剤がそれぞれ配合されていてもよい。該燃焼抑制剤としては、塩化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩を用いることができる。また、該金属還元剤としてはマグネシウム、アルミニウムを挙げることができる。
【0033】
これらの消火剤組成物は、過塩素酸カリウムに代表される酸化剤を主成分とし、樹脂等の還元剤及び適宜、燃焼抑制剤、金属還元剤を混合し、成型したものを使用することができる。
【0034】
実施例
アンプル管にグリセリンと過マンガン酸カリウムとを重量比で1:1の割合でそれぞれ封入し、図1のように設置した。着火剤であるグリセリン及び過マンガン酸カリウムはそれぞれ個別の容器に封入した。この容器は、アンプル管のように肉薄で確実に割れるものを用いることが好ましいが、形状、材質についてはガラス、プラスチック等使用でき、特に制限されない。
【0035】
消火剤組成物は過塩素酸カリウムを主剤としたものを用い、還元剤として不飽和ポリエステル樹脂および木炭を用いた。
(消火剤組成物の組成)
過塩素酸カリウム 73重量部
不飽和ポリエステル樹脂 13重量部
木炭 5重量部
炭酸カリウム 9重量部
消火剤組成物は金属製容器の底部に入れ、特に圧縮成型等は行わなかった。
【0036】
以上のように発煙消火剤を作製した。
【0037】
比較として使用する易酸化性物質をグリセリンに変え、エチレングリコール及びポリエチレングリコールを用い同様に発煙消火剤を作製した。
【0038】
また、使用する過マンガン酸カリウムの粒径を変え同様に発煙消火剤を作製し、着火性の確認試験を行った。
【0039】
それら実施の形態及び着火性の確認試験結果を下表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】

試験1においては容器の感熱部に火炎を当てて加熱すると感熱部が脱着し、10秒ほどで消火剤に着火した。一方、易酸化性物質としてポリエチレングリコール(分子量 200:粘度0.04Pa・s)を用いた場合、消火剤に着火できなかった。不着火の原因を調べたところ、発煙消火剤組成物に該ポリエチレングリコールが完全に浸透していることが確認された。
【0041】
過マンガン酸カリウムの粒径を変えて着火性を確認した試験5において、粒径が150μm以上のものを使うと消火剤の着火性が悪くなることを確認した。
【0042】
図2は本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図2において、金属製の密閉された容器1内に、消火剤組成物2が充填されている。消火剤組成物2の上部表面には収納円筒穴9が形成され、その中に着火剤である酸化剤10と収納容器であるバルーン11に封入した易酸化性物質12を収納している。
【0043】
易酸化性物質12を封入したバルーン11は、プラスチックの薄膜シートやゴムで作られており、円筒収納穴9の開口側に封鎖し、容器1がどのような向きに設置されても、酸化剤10が収納円筒穴9から出ないようにしている。
【0044】
消火剤組成部2の上側には低融点はんだ5で容器1に固定された感熱部5が、容器1の蓋6との間に圧縮バネ7を介して備えられ、感熱部5が高温になると低融点はんだ5aが溶融して容器1から脱着され、開放された圧縮バネ7の押圧によって感熱部5が下方に押動する。感熱部5の下方には バルーン衝破用の破砕具8が具備されており、感熱部5の押圧によってバルーン11が衝破され、封入している易酸化性物質12を酸化剤10に接触させる仕組みとしている。
【0045】
着火剤である酸化剤10及び易酸化性物質12が消火剤組成物2の表面上にて接触し発熱することによって消火剤組成物2に着火され、消火剤組成物2が燃焼することにより放出孔(図示せず)より消火剤が放出される。
【0046】
図3は本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図3の例は、消火剤組成物2の上部表面に収納円錐穴13を形成され、その中に着火剤である酸化剤10と収納容器であるバルーン11に封入した易酸化性物質12を収納している。それ以外の構成は図2と同じである。このように収納円錐穴13を設けることで、消火剤組成物2側の空洞部分を少なくできる。
【0047】
図4は本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図4の例は、消火剤組成物2の上部表面に形成した収納円筒穴9の底部に酸化剤10を収納し、続いて収納容器であるバルーン11に封入した易酸化性物質12を収納し、その上に、下側に破砕爪15aを突出したプランジャ15を摺動自在に配置している。プランジャ15に対しては、低融点はんだ5で容器1に固定された感熱部5の下側に設けた押圧ロッド14の先端が位置している。
【0048】
感熱部5が高温になると低融点はんだ5aが溶融して容器1から脱着され、開放された圧縮バネ7の押圧によって感熱部5が下方に押動する。この感熱部5の押圧によって押圧ロッド14がプランジャ15を押込み、破砕爪15aによってバルーン11が衝破され、封入している易酸化性物質12を酸化剤10に接触させる。
【0049】
着火剤である酸化剤10及び易酸化性物質12が消火剤組成物2の表面上にて接触し発熱することによって消火剤組成物2に着火され、消火剤組成物2が燃焼することにより放出孔(図示せず)より消火剤が放出される。なお、プランジャ15とバルーン11の間に酸化剤10を配置して、バルーン11の上部で酸化剤10と易酸化性物質12が接触する構成であっても良い。
【0050】
図5は本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図5の例は、消火剤組成物2の上部表面に形成した収納円筒穴9の底部に酸化剤10を収納し、続いて易酸化性物質12を充填したインジェクタ16を配置している。インジェクタ16は、先端に注入穴20を備えたシリンダ17にピストン18を摺動自在に設け、シリンダ17内に易酸化性物質12を充填している。またシリンダ17の外側にはストッパフランジ19が形成され、収納円筒穴9にインジェクタ16をセットする際の位置決めを行っている。
【0051】
インジェクタ16の注入穴20は易酸化性物質12を充填した状態で開放したままとしていても漏れ出すことはないが、必要に応じて、注入穴20の開口部にビニールシートなどによる蓋を付けておいても良い。
【0052】
インジェクタ16のピストン18に対しては低融点はんだ5で容器1に固定された感熱部5の下側に設けた押圧ロッド14の先端が位置している。感熱部5が高温になると低融点はんだ5aが溶融して容器1から脱着され、開放された圧縮バネ7の押圧によって感熱部5が下方に押動する。この感熱部5の押圧によって押圧ロッド14がインジェクタ16のピストン15を押し下げ、注入穴20から易酸化性物質12を押し出して酸化剤12に接触させる。
【0053】
着火剤である酸化剤10及び易酸化性物質12が消火剤組成物2の表面上にて接触し発熱することによって消火剤組成物2に着火され、消火剤組成物2が燃焼することにより放出孔(図示せず)より消火剤が放出される。
【0054】
図6は本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図6の例は、容器1の内部に中心に円筒穴2aを形成した消火剤組成物2を収納し、容器1の底部にヘッド部1aを形成し、ヘッド部1aの中に酸化剤収納部22を生成する下部に開口した円錐状の穴を形成している。
【0055】
ヘッド部1aには下側からヘッドボディ24が挿入され、例えば融点100℃の高融点はんだ32により固定されている。ヘッドボディ24の内部の通し穴には上部にバネ受け26aを形成したステム26が挿入され、ステム26の下端を外部に取り出し、そこに集熱板28を例えば融点72℃の低融点はんだ30により固着し、ヘッドボディ24の上端とバネ受け26aとの間にバネ34を配置し、ステム26を上方に付勢している。
【0056】
ステム26の上部に形成したバネ受け26aの先端面にはカッター36が装着されている。消火剤組成物2の円筒穴2aには容器1と一体に形成したバルーン支持部1bが挿入されており、バルーン支持部1bの先端に、カッター36に相対して容易酸化性物質12を充填したバルーン11が装着されている。またヘッド部1aの内部の酸化剤収納部22には酸化剤10が収納されている。
【0057】
集熱板28が高温になると低融点はんだ30が溶融し、図7に示すように、集熱板28がステム26から離脱して脱落し、ステム26はバネ34の力で押し上げられ、カッター36によってバルーン11が衝破され、封入している易酸化性物質12を酸化剤10に接触させる。
【0058】
着火剤である酸化剤10及び易酸化性物質12が接触して発熱し更に発火することによって消火剤組成物2に着火され、消火剤組成物2が燃焼する。この燃焼に伴いヘッド部1aの温度が上昇し、高融点はんだ32が溶融すると、図8に示すように、ヘッド部1aからヘッドボディ24、ステム26及びバネ34が落下して開口し、ここを放出孔として消火剤が放出される。
【0059】
なお、図8において、バルーン11に代えて酸化剤10と易酸化性物質12を別々に封入した2重バルーンを設け、ステム26のカッター36により2重バルーンを衝破し、封入している易酸化性物質12と酸化剤10を接触させることにより着火させても良い。
【0060】
図9は本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図9の例は、容器1に収納した消火剤組成物2の上部表面に形成した収納円筒穴9の底部に固形した酸化剤10を収納し、続いて収納容器であるバルーン11に封入した易酸化性物質12を収納し、その上に、下側に破砕爪40を突出したステム38を配置している。
【0061】
ステム38にはバネ収納室41を備えたガイドフランジ部42が一体に形成され、容器1内で上下方向に摺動自在に支持されている。ステム38の上部は容器1の外部に取り出され、そこに集熱板44を低融点はんだ48により固着し、更に、バネ収納室41にバネ46を組み込み、容器1に対しステム38を消火剤組成物2側に付勢している。またガイドフランジ部42には複数の放出孔50が形成され、その外側に位置する容器1aの上端面にも複数の放出孔52が形成されている。
【0062】
集熱板44が高温になると低融点はんだ48が溶融してステム38から離脱して固定状態を解除し、ステム38はバネ46の力によって下方に押動する。このステム38の押動によって破砕爪40がバルーン11を衝破し、封入している易酸化性物質12を酸化剤10に接触させる。
【0063】
着火剤である酸化剤10及び易酸化性物質12が消火剤組成物2の表面上にて接触し発熱することによって消火剤組成物2に着火され、消火剤組成物2が燃焼することにより放出孔50から放出孔52を通って消火剤が外部に放出される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、感熱により速やかにエアロゾルを噴出することが出来るので、不活性ガス消火器の代替として好適に使用でき、また、自動消火器への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の発煙消火剤の一例を示す概略図
【図2】本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図
【図3】本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図
【図4】本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図
【図5】本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図
【図6】本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図
【図7】図6の実施形態で低融点はんだが溶融したときの動作を示した説明図
【図8】図7に続いて高融点はんだが溶融したときの動作を示した説明図
【図9】本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図
【符号の説明】
【0066】
1 容器
2 消火剤組成物
3 着火剤容器
4a 酸化剤容器
4b 易酸化性物質容器
5 感熱部
5a 低融点はんだ
6 蓋
7 圧縮バネ
8 破砕具
9 収納円筒穴
10 酸化剤
11 バルーン
12 易酸化性物質
13 収納円錐穴
14 押圧ロッド
15 プランジャ
15a 破砕爪
16 インジェクタ
17 シリンダ
18 ピストン
19 ストッパフランジ
20 注入穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを有する着火剤と、
粉末エアロゾルを放出可能な消火剤組成物と、
を具備した発煙消火剤において、
前記酸化剤と前記易酸化性物質とがそれぞれ個別の容器に収納され、
両者が消火剤組成物表面にて接触することにより発熱し、前記消火剤組成物に着火するように構成されたことを特徴とする発煙消火剤。
【請求項2】
少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを有する着火剤と、
粉末エアロゾルを放出可能な消火剤組成物と、
を具備した発煙消火剤において、
前記易酸化性物質が容器に収納され、前記酸化剤が前記消火剤組成物に形成した収納穴に前記容器に閉止された状態で収納され、
両者が消火剤組成物表面にて接触することにより発熱し、前記消火剤組成物に着火するように構成されたことを特徴とする発煙消火剤。
【請求項3】
前記易酸化性物質が、高粘性の液状易酸化性物質であることを特徴とする請求項1又2に記載の発煙消火剤。
【請求項4】
前記易酸化性物質がグリセリンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の発煙消火剤。
【請求項5】
前記酸化剤が、粒径10〜150μmの過マンガン酸カリウム粉末であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の発煙消火剤。
【請求項6】
前記消火剤組成物が、塩素酸カリウムあるいは過塩素酸カリウムが主成分であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の発煙消火剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−115351(P2010−115351A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290812(P2008−290812)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【Fターム(参考)】