発煙消火装置
【課題】電気的な火災検知と点火を必要とすることなく火災時に電源を確保できない場所であっても使用可能でコスト的にも安価とする。
【解決手段】固形消火剤36の上に易酸化性物質76を封入したバルーン78を配置し、バルーン78と固形消化剤36との間に酸化剤74を配置する。感熱板16は所定温度に達すると低温ハンダ32が溶けて熱分解し、ステム30がスプリング35に押されて飛び出し、ステム30のカッター80によりバルーン80を破砕し、易酸化性物質76を酸化剤74に接触させ、この接触による発熱で固形消火剤36に着火し、固形消火剤36の燃焼により消火用エアロゾル60を発生し、噴出口18から消火用のエアロゾル60を噴出させる。
【解決手段】固形消火剤36の上に易酸化性物質76を封入したバルーン78を配置し、バルーン78と固形消化剤36との間に酸化剤74を配置する。感熱板16は所定温度に達すると低温ハンダ32が溶けて熱分解し、ステム30がスプリング35に押されて飛び出し、ステム30のカッター80によりバルーン80を破砕し、易酸化性物質76を酸化剤74に接触させ、この接触による発熱で固形消火剤36に着火し、固形消火剤36の燃焼により消火用エアロゾル60を発生し、噴出口18から消火用のエアロゾル60を噴出させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形消火剤の燃焼により消火用エアロゾルを発生して火災を消火抑制する発煙消火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーブルダクト、制御盤、機器筐体内などの閉鎖された密閉空間で発生した火災を消火抑制するため、固形消火剤に点火して燃焼させることで消火用エアロゾルを発生する発煙消火装置が知られている。
【0003】
このような発煙消火装置にあっては、感知器により火災を検知した際に、発煙消火器の点火装置に電気信号を送り、固形消火剤に点火して燃焼させるようにしている。固形消火剤の燃焼により発生するエアロゾルは例えば塩化カリウムや臭化カリウムなどを主成分とし、それ以外に水、二酸化炭素及び窒素を含み、燃焼抑制作用により消火抑制を果たすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−310629号公報
【特許文献2】特開2002−253688号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0235200号明細書
【特許文献4】特表2007−512913号公報
【特許文献5】国際公開第2007/016705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の発煙消火装置にあっては、固形消火剤の点火燃焼による起動は全て電気信号により行っているが、火災時にあっては、通常、火災発生場所の電源を切るようにしており、または停電になっている場合があり、そのため、発煙消火装置に専用の無停電電源を準備する必要があり、コストが高くなるという問題がある。また無停電電源が準備できないような場所については使用することができず、使用条件が制約されるという問題がある。
【0006】
本発明は、電気的な火災検知と点火を必要とすることなく火災時に電源を確保できない場所であっても使用可能とするコスト的にも安価な発煙消火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は発煙消火装置であって、
消火用エアロゾルを噴出する噴出口を備えた筐体と、
筐体に収納され、燃焼により消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを分離配置した着火剤を具備し、感熱作動部が作動した際の機械的な動作により酸化剤と易酸化性物質とを固形消火剤の表面にて接触させ、この接触による発熱で固形消火剤に着火して燃焼させる点火機構と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、易酸化性物質が、高粘性の液状易酸化性物質であり、より望ましくは、グリセリンである。
【0009】
また、点火機構は、易酸化性物質を封入した容器を具備し、固形消火剤に形成した収納穴に酸化剤を配置すると共に穴開口側に容器を配置して封止し、感熱作動部が作動した際に破砕具により容器を破砕して易酸化性物質を酸化剤に接触させる。
【0010】
点火機構は、酸化剤と易酸化性物質を個別に封入した容器を具備し、固形消火剤に形成した収納穴に容器を配置し、感熱作動部が作動した際に破砕具により容器を破砕して易酸化性物質と酸化剤に接触させる。
【0011】
破砕具はカッターであり、感熱作動部が作動した際にカッターの移動により容器を切断して破砕する。
【0012】
点火機構は、易酸化性物質を封入した容器を具備し、固形消火剤の付近に容器を配置して封止すると共に酸化剤を前記感熱作動部の付近に配置し、感熱作動部が作動した際に破砕具により容器を破砕して易酸化性物質を酸化剤に接触させる。
【0013】
この場合感熱作動部が作動した際に、感熱作動部及び破砕具を筐体外へ放出して噴出口を開口する。
【0014】
固形消火剤は通常監視状態で前記筐体に密閉されており、感熱作動部が作動した際に噴出口と固形消火剤の収納部とを連通する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械的な機構構造のみにより火災を感知し、固形消火剤を点火して燃焼により消火用エアロゾルを発生させることができ、電気を必要としないため無停電電源を不要とし、また無停電電源を準備できない場所であっても使用することができ、適用対象の拡大を図ることができる。
【0016】
また筐体に感熱作動部、点火機構及び固形消火剤を設けるだけで良いことから、構成が簡単で小型化と低コスト化ができ、特に、コピーやレーザプリントなどの発火の恐れのあるオフィス機器、家電製品、制御盤などに直接組み込み、万一、機器火災となっても適切に対応でき、適用機器や場所の安全性を大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による発煙消火装置の実施形態を示した説明図
【図2】図1の実施形態の内部構造を示した断面図
【図3】図1のカバーを取り外した状態を示した説明図
【図4】図3の仕切板を外して内部構造を示した平面図
【図5】図1の実施形態の動作を示した説明図
【図6】本発明のより発煙消火装置の他の実施形態を示した断面図
【図7】図6の実施形態の動作を示した説明図
【図8】図2の実施形態及び図6の実施形態の煙道部に配置する火炎噴出防止部材の具体例を示した説明図
【図9】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【図10】図9の発煙消火装置の平面を示した説明図
【図11】図9の発煙消火装置の一部を破断して平面を示した説明図
【図12】図9の固形消化剤を取り出して示した説明図
【図13】図9の実施形態の動作を示した説明図
【図14】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【図15】図14の2重バルーンを取り出して示した説明図
【図16】図14の固形消火剤を取り出して示した説明図
【図17】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【図18】図17の実施形態で低融点はんだが溶融したときの動作を示した説明図
【図19】図18に続いて高融点はんだが溶融したときの動作を示した説明図
【図20】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明による発煙消火装置の実施形態を示した説明図である。図1において、本実施形態の発煙消火装置10は本体12とカバー14により筐体を構成している。本体12は金属で作られた上部に開いた箱型のケース形状を持ち、前部に所定の火災温度で分解作動する感熱作動部の感熱板16を突出して設けている。
【0019】
本体12の上部には同じく金属製のカバー14が装着され、カバー14の装着により、固形消火剤の燃焼により生成された消火用エアロゾルを噴出するための噴出口18を形成している。
【0020】
図2は図1の実施形態の内部構造を示した断面図である。図2において、発煙消火装置10は本体12とカバー14で構成され、本体12の上部に仕切板20を固定している。
【0021】
仕切板20は後部側に連通口26を開口しており、本体12内の収納部22から連通口26を通ってカバー14と仕切板20の間に形成された煙道部24に至り、煙道部24から噴出口18に至るエアロゾルの噴出通路を形成している。連通口26や煙道部24の途中には必要に応じて火炎噴出防止部材64が配置される。
【0022】
本体12の収納部22には円筒部材28が固定されており、円筒部材28の前方に露出した先端部には連結環31が捩じ込まれ、連結環31の先端に感熱板16が低温ハンダ32により固定されている。低温ハンダ32は例えば72℃で溶融し、円筒部材28から分解可能な状態となる。
【0023】
円筒部材28の内部には、軸方向に移動自在にステム30が設けられている。ステム30として、本実施形態にあってはネジシャフトを使用している。ステム30の先端には押しナット34がねじ込み固定され、押しナット34と反対側の円筒部材28の内側端部との間にスプリング35を組み込み、スプリング35によってステム30を前方に付勢している。
【0024】
ステム30の後部は、円筒部材28を貫通して収納部22内に取り出されている。本体12の収納部22の後部側には断熱材38を介して固形消火剤36が配置されている。固形消火剤36は燃焼により消火用のエアロゾルを発生する。固形消火剤36の燃焼により発生するエアロゾルは2μm以下の粒子径を持つ超微粒子であり、その成分には炭酸塩あるいは燐酸塩、もしくはその混合物を含有している。
【0025】
具体的には、エアロゾルは塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸カリウムなどの凝結粒子であり、これ以外に窒素、二酸化炭素、水蒸気などを含んでいる。エアロゾルは火災が発生した監視エリアに充満することで、火災発生場所における燃焼の火災中心を抑制消滅させることで消火を行う。またエアロゾルはその主成分が炭酸塩あるいはリン酸塩などであることから、毒性がなく環境に対し優しい性状を有する。
【0026】
エアロゾルを燃焼により発生する固形消火剤36の重量としては、1立方メートルの監視エリアに必要な量が80〜200グラムであり、これに基づき、本実施形態の発煙消火装置10を設置する監視エリアの容積に対応した量の固形消火剤36を収納している。
【0027】
固形消火剤36の上部には着火薬44が装着されている。一方、円筒部材28から後方に取り出されたステム30の先端には、ナット46,48によってL字型に屈曲された擦り板40が固定されており、擦り板40の固形消火剤36に相対する面には擦り薬42が被着されている。
【0028】
擦り板40の擦り薬42の初期位置は、固形消火剤36に配置した着火薬44の後方に位置させており、感熱作動部により擦り薬42を移動させた時の着火薬44との機械的な摩擦により着火薬44に着火し、固形消火剤36を点火できるようにしている。
【0029】
擦り板40の上部には押え板40が本体12側に固定されて配置され、擦り板40が移動したときの上方への動きを規制し、擦り薬42が確実に着火薬44を擦るようにしている。
【0030】
ここで本実施形態にあっては、感熱板16、円筒部材28、ステム30、低温ハンダ32、押しナット34及びスプリング35によって感熱作動部を構成し、また擦り板40の擦り薬42と固形消火剤36に設けた着火薬44によって、感熱作動部が分解作動した際の機械的な摩擦動作により固形消火剤36に点火して燃焼させる点火機構を構成している。
【0031】
ステム30の下側には移報信号を外部に出力するためのリミットスイッチ25が配置されている。
【0032】
図3は図1のカバー14を取り外した状態を示した説明図である。図3において、本体12の上部開口部には、後方にエアロゾルを通過させるための連通口26を形成するように仕切板20がビスにより取付け固定されている。
【0033】
図4は図3の仕切板20を外して内部構造を示した平面図である。図4において、本体12の前方側には円筒部材28が固定部材52により固定されており、円筒部材28の先端は外部に露出し、そこに低温ハンダ32により感熱板16を固定している。
【0034】
円筒部材28の後部から取り出されたステム30の後端には、ナット46,48により摺り板40が固定されている。この摺り板40の上部には、摺り板40の上方への動きを規制する押え板50が配置されている。
【0035】
図5は図1の実施形態の動作を示した説明図である。本実施形態の発煙消火装置10を例えば機器内に収納している状態で、機器に内蔵している例えばヒータなどの過熱が原因で内部に火災が発生したとすると、図2に示したように、円筒部材28の先端に低温ハンダ32で固定している感熱板16が火災による熱を受け、低温ハンダ32に加わる温度が72℃を超えると溶融し、図5に示すように、スプリング35に押されてステム30が、低温ハンダが溶融した感熱板16を押しのけて前方に突出する熱分解動作を行う。
【0036】
この熱分解動作に伴うステム30の前進により、その後部に取り付けている擦り板40が固形消火剤36に設けている着火薬44を擦って移動し、ちょうどマッチを点火すると同様にして擦り薬42の機械的な移動による摩擦で着火薬44が発火し、固形消火剤36に点火して燃焼させる。
【0037】
点火により燃焼を開始した固形消火剤36は消火用のエアロゾル60を発生し、仕切板20の後部の連通口26からカバー14内の煙道部24を通って前方の噴出口18から消火対象空間例えば機器内部に噴出される。
【0038】
ここで固形消火剤36に点火して燃焼させた場合には、固形消火剤36の燃焼で炎が出ることになるが、固形消火剤36からエアロゾル60の噴出口18まで十分な距離を確保しているため、固形消火剤36の燃焼による炎が噴出口18から外部に噴き出すようなことはない。
【0039】
また固形消火剤36による炎の噴出を更に効果的に防止するためには、煙道部24の途中に金網などのエアロゾルだけを通過するような火炎噴出防止部材64を配置することが望ましい。
【0040】
固形消火剤36の燃焼により噴出口18から噴出されたエアロゾル60による消火メカニズムは、エアロゾルの固体部分の表面で火災を起こしている位置での燃焼生成の役目をする活性中心(フリーラジカル)を消滅させることで消火する。
【0041】
また固形消火剤36が燃焼する際には熱を発生するが、本体12内に固形消火剤36は断熱材38を介して配置しているため、燃焼による熱は直接、金属製の本体12やカバー14に伝わらず、固形消火剤36の燃焼が原因となって生ずる2次火災は確実に防止できるようになっている。
【0042】
また固形消火剤36を点火した際の燃焼時間は20〜60秒程度の短時間であり、この短時間の燃焼で大量のエアロゾル60を発生して、噴出口18より消火対象空間に噴出して消火を行うことになる。
【0043】
リミットスイッチ25は熱分解動作に伴うステム30の前進によりナット46でスイッチレバーが押されてオンし、外部に発煙消火装置10が作動したことを示す移報信号を出力する。
【0044】
本実施形態の発煙消火装置10からの移報信号は、発煙消火装置10を組み込んでいる監視エリアに対応して適宜の表示や制御を可能とする。本実施形態の発煙防止装置10をオフィス機器として使用されている例えばコピー機に組み込んでいた場合には、移報信号によりコピー機の音響出力部や表示部を利用してコピー機内での火災発生と消火動作を警報し、同時に、火災の原因となったヒータなどに対するメインの電源を自動的に遮断するといった制御を行う。
【0045】
図6は本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した断面図であり、この実施形態にあっては、消火剤の点火機構として、感熱作動部により固形消火剤36側を機械的に移動させ、消火剤に設けた着火薬を、固定配置した擦り薬に摩擦接触させて点火させるようにしたことを特徴とする。
【0046】
図6において、発煙消火装置10は本体12とカバー14で構成され、本体12の上部に仕切板20を配置し、その後部に本体12の収納部22からカバー14側の煙道部24に至る連通口26を形成している。
【0047】
本体12には感熱板16、円筒部材28、ステム30、低温ハンダ32、押しナット34及びスプリング35から構成される感熱作動部が設けられ、これは図2の実施形態と同じである。
【0048】
円筒部材28から後部に取り出されたステム30の軸端には、本実施形態にあっては固形消火剤36が固定されている。固形消火剤36は、本体12の底部側に固定した支持フレーム62上に移動自在に配置されている。
【0049】
固形消火剤36の上部には着火薬44が設けられる。この着火薬44に相対した固定側となる仕切板20の下面には、ほぼV字状に屈曲形成された擦り板40が配置され、擦り板40の着火薬44に相対した面に擦り薬42を被着している。
【0050】
更に、リミットスイッチ25は熱分解動作に伴いステム30が前進した際に、ステム30に装着したスイッチ作動部材27によりスイッチレバーが押されてオンし、外部に移報信号を出力するようにしている。
【0051】
図7は図6の実施形態の動作を示した説明図である。図6の設置状態において、機器などの発煙消火装置10の設置場所の火災により感熱板16が加熱され、低温ハンダ32の温度が72℃に達すると溶融し、図7のようにスプリング35によりステム30が押され、感熱板16を離脱させながら前方に移動する感熱分解動作が行われる。
【0052】
この感熱分解動作に伴うステム30の移動により、その後部に取り付けている固形消火剤36が前進移動し、固形消火剤36に設けている着火薬44が、固定配置された摺り板40の擦り薬42に摩擦接触しながら移動することで着火薬44が発火し、固形消火剤36に点火して燃焼させる。固形消火剤36が燃焼すると大量のエアロゾル60が発生し、噴出口18から監視エリアに噴出される。
【0053】
固形消火剤36は燃焼により温度が上昇するが、支持フレーム62を介して本体12側に設けられているため、固形消火剤36の燃焼による熱は直接、本体12には加わらず、本体12及びカバー14の温度を断熱作用により低めに抑えるようにしている。
【0054】
図8は図2の実施形態及び図6の実施形態の煙道部24に配置する火炎噴出防止部材64の具体例を示した説明図である。図7(A)の火炎噴出防止部材64Aはガラスや磁器などの細径パイプ66を複数並べて炎の噴出しを抑制する。図7(B)の火炎噴出防止部材64Bは2枚の金網を分離配置して炎の噴出しを抑制する。図7(C)の火炎噴出防止部材64Aはガラスや磁器などのボール70を複数配置して炎の噴出しを抑制する。更に図7(D)の火炎噴出防止部材64Dは2枚の金網68の間にガラスや磁器などのボール70を複数配置して炎の噴出しを抑制する。
【0055】
本実施形態の発煙消火装置が使用される監視エリアとしては、制御盤や分電盤などの盤内、サーバマシン、化学実験用のドラフトチャンバ、エンジンルーム、コピー機、プリンタ、ケーブルダクト、モータ、バッテリユニット、ゴミ収集車、荷室などの閉鎖空間もしくは密閉空間などの様々な場所とすることができる。
【0056】
図9は本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した断面図であり、点火機構として化学反応の発熱により着火させる機構を用いたことを特徴とする。
【0057】
図9において、感熱作動部は図2の実施形態と同じであり、本体10に収納した固形消火剤36に対し化学反応による点火機構を設けている。固形消火剤36の表面には収納穴として着火剤収納部72が形成され、着火剤収納部72の円錐状の底部に酸化剤74を配置し、その上に易酸化性物質76を封入したバルーン78を配置して穴開口を封止している。この酸化剤74とバルーン78に封入された易酸化性物質76により着火剤が構成される。
【0058】
バルーン78は薄膜樹脂シートやゴムシートなどにより作られており、内部に易酸化性物質76を密封状態で充填している。薄膜樹脂シートで作る場合、バルーン78の形状は略箱形とする。また、ゴムシートで作る場合、バルーン78は易酸化性物質76の充填で膨らみ、この状態で図示のように、上からの押付けで変形した状態で配置される。
【0059】
着火剤収納部72に配置したバルーン78はステム30の後端に支持された擦り板40により押え付けられ、これによって着火剤収納部72から外れないようにしている。
【0060】
固形消火剤36に形成した着火剤収納部72の後方にはスリット状のガイド溝82が形成され、ガイド溝82の中に擦り板40の後端下部に固定した破砕具としてのカッター80を配置している。
【0061】
図10は図9の平面図であり、更に図11は押え板50及びステム30を破断して固形消火剤36の表面を示した平面図である。図10,図11から明らかなように、矩形の着火剤収納部72が開口しており、その中に、易酸化性物質76を封入したバルーン78を配置している。着火剤収納部72の開口部後方にはガイド溝82がスリット状に形成され、その中にカッター80が位置している。
【0062】
図12は図9の固形消火剤36を取り出して示しており、図12(A)が正面図、図12(B)が横断面図である。図12において、固形消火剤36に形成した着火剤収納部72は、開口側に矩形のバルーン収納部72aを設け、底部側に酸化剤収納部72bを設け、バルーン収納部72aの後方にカッターを位置させるガイド溝82を形成している。
【0063】
図9の実施形態の動作を説明すると次のようになる。発煙消火装置10を設置している監視エリアで火災が発生して低温半田32が溶けると、図13に示すように、感熱板16が分解し、スプリング35の力でステム30が押出される。このステム30の移動により、その後方に設けたカッター80も移動し、着火剤収納部72に配置しているバルーン78をカッター80により切断し、封入している易酸化性物質76を流出させ、酸化剤74に接触させる。
【0064】
カッター80の移動によりバルーン78を切断するとき、バルーン78はステム30により移動する擦り板40に抑え付けられて張った状態で切断され、確実にカッター80で切断することができる。
【0065】
このようにして着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が固形消火剤36の表面上にて接触すると、化学反応により発熱することによって固形消火剤36が着火され、固形消火剤36が燃焼することによりエアロゾル60が放出される。
【0066】
図9の実施形態で着火剤として使用できる酸化剤74については、易酸化性物質76と反応し発熱する発熱性酸化剤であれば特に制限なく用いることができるが、固形消火剤36への着火性の面から過マンガン酸カリウムを用いることが好ましい。また、過マンガン酸カリウムは粉末状のものであることが好ましく、粒径が10〜150μmのものであることが好ましい。過マンガン酸カリウムの粒径が150μmより大きいものを使用すると、過マンガン酸カリウム粉末の表面積が小さいため、易酸化性物質との反応が起こりにくくなり、着火性が損なわれる場合がある。
【0067】
また、図9の実施形態に用いる着火剤において、使用できる易酸化性物質76については液状の有機系易酸化性物質であり、高粘性のものを用いることが好ましい。
【0068】
本実施形態の着火剤は、固形消火剤への迅速な着火を目的の一つとしており、着火剤は、固形消火剤の表面に滞留することができ、固形消火剤の表面にて酸化剤と接触することにより固形消火剤を局所的に発熱し、迅速にエアロゾル消火剤が放出されるよう固形消火剤に着火燃焼できることが必要である。従って、例えばエチレングリコールなどの低粘性の易酸化性物質を用いた場合、固形消火剤の表面に留まらずに内部に滲入してしまい、迅速及び確実な着火が行えない可能性がある。
【0069】
易酸化性物質が固形消火剤の内部に滲入することを抑制するため、固形消火剤に別途バインダー等を加え成型することで浸透性を抑制することも考えられるが、そのような手段は固形消火剤中の単位体積当たりの消火剤物質を低減することになり、消火効果の低い消火剤を与えることになる。また、固形消火剤中にバインダー等を混合することは着火性を低下させることにもつながり好ましくない。
【0070】
本実施形態に用いることができる高粘性の易酸化性物質として、より具体的には25℃における粘性率が5〜20Pa・sの範囲である液状易酸化性物質を用いることが好ましい。粘性率が5Pa・sに満たないものを用いた場合、流動性が高いため固形消火剤の内部に滲入しやすく、固形消火剤の表面にて酸化剤と接触できず、着火が困難になる場合がある。また、20Pa・sを超えるものを用いた場合は、その粘度が高すぎるため封入された容器から速やかに易酸化性物質が漏出せず、酸化剤と混合できずに不着火になる場合がある。
【0071】
上記理由および酸化剤との良好な発熱反応性の面から、本実施形態に用いることができる易酸化性物質として最も好ましいものは、グリセリンである。
【0072】
図14は化学反応により着火させる本発明の他の実施形態を固形消火剤の収納側について示した断面図である。図14において、本体10に収納した固形消火剤36の表面には収納穴として着火剤収納部72が形成され、着火剤収納部72に易酸化性物質76と酸化剤72を個別に封入した2重バルーン84を配置している。
【0073】
2重バルーン84は図15に示すように、薄膜樹脂シートなどにより作られており、仕切り86により内部を仕切って第1バルーン84aと第2バルーン84bに分け、第1バルーン84aに易酸化性物質76を密封状態で充填し、第2バルーン84bに酸化物74を密封状態で充填している。
【0074】
図16は図14の固形消火剤36を取出して示しており、図16(A)が正面図、図16(B)が横断面図である。図16において、固形消火剤36に形成した着火剤収納部72は、矩形の着火剤収納部72を設け、着火剤収納部72の後方にカッターを位置させるガイド溝82を形成して、ガイド溝82は着火剤収納部72を越える深さの溝であり、ガイド溝82の前方には、着火剤収納部72の底部を通る底部ガイド溝88が形成されている。
【0075】
図16の実施形態の動作を説明すると次のようになる。発煙消火装置10を設置している監視エリアで火災が発生して低温ハンダ32が溶けると、図13に示したように、感熱板16が分解し、スプリング35の力でステム30が押出される。このステム30の移動により、その後方に設けたカッター80も移動し、着火剤収納部72に配置している2重バルーン84をカッター80により切断し、封入している易酸化性物質76と酸化剤74を固形消火剤36の表面で接触させる。
【0076】
カッター80の移動によりバルーン78を切断するとき、バルーン78はステム30により移動する擦り板40に抑え付けられて張った状態で切断され、更に、カッター80の先端は底部ガイド溝88に沿って移動し、これによって2重バルーン84を確実に切断することができる。
【0077】
このようにして2重バルーン84の切断により外部に露出した着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が固形消火剤36の表面上にて接触すると、化学反応により発熱することによって固形消火剤36が着火され、固形消火剤36が燃焼することによりエアロゾル60が放出される。
【0078】
図17は化学反応により点火する本発明の発煙消火剤の他の例を示した概略図である。図17の例は、容器100の内部に中心に円筒穴36aを形成した固形消火剤36を収納し、容器100の底部にヘッド部100aを形成し、ヘッド部100aの中に酸化剤収納部102を生成する下部に開口した円錐状の穴を形成している。
【0079】
ヘッド部100aには下側からヘッドボディ104が挿入され、例えば融点100℃の高融点はんだ112により固定されている。ヘッドボディ104の内部の通し穴には上部にバネ受け106aを形成したステム106が挿入され、ステム106の下端を外部に取り出し、そこに集熱板108を例えば融点72℃の低融点はんだ110により固着し、ヘッドボディ104の上端とバネ受け106aとの間にバネ114を配置し、ステム106を上方に付勢している。
【0080】
ステム106の上部に形成したバネ受け106aの先端面にはカッター116が装着されている。固形消火剤36の円筒穴36aには容器100と一体に形成したバルーン支持部100bが挿入されており、バルーン支持部100bの先端に、カッター116に相対して容易酸化性物質76を充填したバルーン78が装着されている。またヘッド部100aの内部の酸化剤収納部102には酸化剤74が収納されている。
【0081】
集熱板108が高温になると低融点はんだ120が溶融し、図18に示すように、集熱板108がステム106から離脱して脱落し、ステム106はバネ114の力で押し上げられ、カッター116によってバルーン78が衝破され、封入している易酸化性物質76を酸化剤78に接触させる。
【0082】
着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が接触して発熱し更に発火することによって固形消火剤36に着火され、固形消火剤36が燃焼する。この燃焼に伴いヘッド部100aの温度が上昇し、高融点はんだ112が溶融すると、図19に示すように、ヘッド部100aからヘッドボディ104、ステム106及びバネ114が落下して開口し、ここを噴射口として消火剤が放出される。
【0083】
なお、図19において、バルーン78に代えて酸化剤74と易酸化性物質76を別々に封入した図14と同様な2重バルーンを設け、ステム106のカッター116により2重バルーンを衝破し、封入している易酸化性物質76と酸化剤74を接触させることにより着火させても良い。
【0084】
図20は化学反応により点火する本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図20の例は、容器100に収納した固形消火剤36の上部表面に形成した収納円筒穴119の底部に固形した酸化剤74を収納し、続いて収納容器であるバルーン78に封入した易酸化性物質76を収納し、その上に、下側に破砕爪120を突出したステム118を配置している。
【0085】
ステム118にはバネ収納室121を備えたガイドフランジ部122が一体に形成され、容器100内で上下方向に摺動自在に支持されている。ステム118の上部は容器100の外部に取り出され、そこに集熱板124を低融点はんだ128により固着し、更に、バネ収納室121にバネ126を組み込み、容器100に対しステム118を固形消火剤36側に付勢している。またガイドフランジ部122には複数の連通穴130が形成され、その外側に位置する容器100の上端面にも連通穴130と位置をずらして複数の噴射口132が形成されている。通常時は、ガイドフランジ部122と容器100の内面は接触することで、放射口132と連通穴130を遮断し、外部からの埃や湿気の侵入を防いでいる。
【0086】
集熱板124が高温になると低融点はんだ128が溶融してステム118から離脱して固定状態を解除し、ステム118はバネ126の力によって下方に押動する。このステム118の押動によって破砕爪120がバルーン78を衝破し、封入している易酸化性物質76を酸化剤74に接触させる。
【0087】
着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が固形消火剤36の表面上にて接触し発熱することによって固形消火剤36に着火され、固形消火剤36が燃焼することにより連通穴130を通って噴射口132から消火剤が外部に放出される。
【0088】
なお、破砕爪120でバルーンを破砕できる構成であれば、バルーン78と酸化剤74は上下逆に配置しても、横に並べて配置しても良い。
【0089】
尚、本実施形態の発煙消火装置は、監視対象とする機器や盤などの監視エリアに適合したサイズをもつものであるが、必要な量の消火薬剤を収納可能な筐体サイズを確保しながら、可能な限り小型化することが望ましい。例えば実施形態の発煙消火装置は、縦×横×高さが5cm×5cm×10cm程度の掌に乗るサイズである。
【0090】
また本発明による発煙消火装置の他の実施形態として、感熱作動部の感熱分解動作によるステムの動きを検出するリミットスイッチなどを設け、移報接点として外部に作動信号を送信するようにしてもよい。
【0091】
また上記の実施形態にあっては、本体の上部に装着したカバーの前方の噴出口からエアロゾルを前方に噴出するようにしているが、噴出口を前方ではなくカバーの先端上部に設けて、エアロゾルの噴出方向を別の方向としてもよい。
【0092】
また、上記の実施形態にあっては、筐体を構成する本体12及びカバー14を金属製としているが、筐体外部や内部に断熱材を装着すれば必ずしも金属製である必要はない。
【0093】
また、上記の実施形態にあっては、感熱部を低温ハンダで構成しているが、これに限らず、グラスバルブなど所定温度を感熱した際に分解して点火機構を作動させるようにしても良い。また、低温ハンダ16を設けずにスプリングを形状記憶合金として形状記憶合金35が所定の温度に達した時にスプリング35と同様に変位して点火するようにしても良い。
【0094】
また、感熱板16、低温ハンダ32は本体12より外部へ突出して設けているが、これに限らず、感熱板16が本体12側面と面一、もしくは熱流入口を本体に有して本体内部に感熱部に配置させても良い。
【0095】
また、逆に、円筒部材28やステム30を外部へ延長して感熱部を本体12から遠い位置に配置して熱感知する構成であってもよい。
【0096】
また、円筒部材28やステム30を任意の長さのものに交換できるようにして、本体の取付位置と感熱部の取付位置の距離を任意に調整できるようにしてもよい。
【0097】
また、ステム30は感熱板16に接触して押圧しているが、これに限らず、ステム30と感熱部の間に中間材を挿入しても良い。例えば、円筒部材28を前方に延長し、円筒部材28内の感熱部16とステム30の間に、円筒部材の内径より幾分小さい直径を有する1または複数箇のボールを連設して、感熱部が分解した際にボールとステムが一緒に前方に動いて点火装置を作動させるようにしてもよい。この構成であれば、本体と感熱部の間を任意の長さに容易に調整することができる。
【0098】
また、ボールが配置される箇所の円筒部材を可撓性のある材質にすれば、感熱部と本体の設置位置をより自由に調整することができる。
【0099】
また、上記の実施形態にあっては、低温ハンダが分解した際にステム30が本体外部方向に移動して点火するようにしているが、これとは逆にステムがより本体内に入る方向に移動して点火するように構成しても良い。例えば図2において、感熱板16と押しナット34を低温ハンダで付け、円筒部材の後端とナット46の間にスプリング35を挿入し、着火薬44を擦り薬42の後方に設けた構成であっても良い。
【0100】
また、スプリング35の代わりに磁石の反発力や引き込み力でステムを駆動するようにしても良い。
【0101】
また、図2や図9の実施形態において、ステム30の擦り板40側端部に連通口26を塞ぐ板を設け、通常時は連通口26を閉鎖し、感熱板16の作動でステム30が移動した際に連通口26を開口するようにすると、常時は埃や湿気の侵入を防ぐことができる。
【0102】
また本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0103】
10:発煙消火装置
12:本体
14:カバー
16:感熱板
18:噴出口
20:仕切板
22:収納部
24:煙道部
25:リミットスイッチ
26:連通口
28:円筒部材
30:ステム
31:連結環
32:低温ハンダ
34:押しナット
35:スプリング
36:固形消火剤
38:断熱材
40:擦り板
42:擦り薬
44:着火薬
46,48:ナット
50:押え板
52:固定部材
60:エアロゾル
62:支持フレーム
64,64A〜64D:火炎噴出防止部材
72:着火剤収納部
72a:バルーン収納部
72b:酸化剤収納部
74:酸化剤
76:易酸化性物質
78:バルーン
80:カッター
82:ガイド溝
84:2重バルーン
84a:第1バルーン
84b:第2バルーン
88:底部ガイド溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形消火剤の燃焼により消火用エアロゾルを発生して火災を消火抑制する発煙消火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーブルダクト、制御盤、機器筐体内などの閉鎖された密閉空間で発生した火災を消火抑制するため、固形消火剤に点火して燃焼させることで消火用エアロゾルを発生する発煙消火装置が知られている。
【0003】
このような発煙消火装置にあっては、感知器により火災を検知した際に、発煙消火器の点火装置に電気信号を送り、固形消火剤に点火して燃焼させるようにしている。固形消火剤の燃焼により発生するエアロゾルは例えば塩化カリウムや臭化カリウムなどを主成分とし、それ以外に水、二酸化炭素及び窒素を含み、燃焼抑制作用により消火抑制を果たすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−310629号公報
【特許文献2】特開2002−253688号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0235200号明細書
【特許文献4】特表2007−512913号公報
【特許文献5】国際公開第2007/016705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の発煙消火装置にあっては、固形消火剤の点火燃焼による起動は全て電気信号により行っているが、火災時にあっては、通常、火災発生場所の電源を切るようにしており、または停電になっている場合があり、そのため、発煙消火装置に専用の無停電電源を準備する必要があり、コストが高くなるという問題がある。また無停電電源が準備できないような場所については使用することができず、使用条件が制約されるという問題がある。
【0006】
本発明は、電気的な火災検知と点火を必要とすることなく火災時に電源を確保できない場所であっても使用可能とするコスト的にも安価な発煙消火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は発煙消火装置であって、
消火用エアロゾルを噴出する噴出口を備えた筐体と、
筐体に収納され、燃焼により消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを分離配置した着火剤を具備し、感熱作動部が作動した際の機械的な動作により酸化剤と易酸化性物質とを固形消火剤の表面にて接触させ、この接触による発熱で固形消火剤に着火して燃焼させる点火機構と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、易酸化性物質が、高粘性の液状易酸化性物質であり、より望ましくは、グリセリンである。
【0009】
また、点火機構は、易酸化性物質を封入した容器を具備し、固形消火剤に形成した収納穴に酸化剤を配置すると共に穴開口側に容器を配置して封止し、感熱作動部が作動した際に破砕具により容器を破砕して易酸化性物質を酸化剤に接触させる。
【0010】
点火機構は、酸化剤と易酸化性物質を個別に封入した容器を具備し、固形消火剤に形成した収納穴に容器を配置し、感熱作動部が作動した際に破砕具により容器を破砕して易酸化性物質と酸化剤に接触させる。
【0011】
破砕具はカッターであり、感熱作動部が作動した際にカッターの移動により容器を切断して破砕する。
【0012】
点火機構は、易酸化性物質を封入した容器を具備し、固形消火剤の付近に容器を配置して封止すると共に酸化剤を前記感熱作動部の付近に配置し、感熱作動部が作動した際に破砕具により容器を破砕して易酸化性物質を酸化剤に接触させる。
【0013】
この場合感熱作動部が作動した際に、感熱作動部及び破砕具を筐体外へ放出して噴出口を開口する。
【0014】
固形消火剤は通常監視状態で前記筐体に密閉されており、感熱作動部が作動した際に噴出口と固形消火剤の収納部とを連通する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械的な機構構造のみにより火災を感知し、固形消火剤を点火して燃焼により消火用エアロゾルを発生させることができ、電気を必要としないため無停電電源を不要とし、また無停電電源を準備できない場所であっても使用することができ、適用対象の拡大を図ることができる。
【0016】
また筐体に感熱作動部、点火機構及び固形消火剤を設けるだけで良いことから、構成が簡単で小型化と低コスト化ができ、特に、コピーやレーザプリントなどの発火の恐れのあるオフィス機器、家電製品、制御盤などに直接組み込み、万一、機器火災となっても適切に対応でき、適用機器や場所の安全性を大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による発煙消火装置の実施形態を示した説明図
【図2】図1の実施形態の内部構造を示した断面図
【図3】図1のカバーを取り外した状態を示した説明図
【図4】図3の仕切板を外して内部構造を示した平面図
【図5】図1の実施形態の動作を示した説明図
【図6】本発明のより発煙消火装置の他の実施形態を示した断面図
【図7】図6の実施形態の動作を示した説明図
【図8】図2の実施形態及び図6の実施形態の煙道部に配置する火炎噴出防止部材の具体例を示した説明図
【図9】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【図10】図9の発煙消火装置の平面を示した説明図
【図11】図9の発煙消火装置の一部を破断して平面を示した説明図
【図12】図9の固形消化剤を取り出して示した説明図
【図13】図9の実施形態の動作を示した説明図
【図14】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【図15】図14の2重バルーンを取り出して示した説明図
【図16】図14の固形消火剤を取り出して示した説明図
【図17】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【図18】図17の実施形態で低融点はんだが溶融したときの動作を示した説明図
【図19】図18に続いて高融点はんだが溶融したときの動作を示した説明図
【図20】化学反応により点火する本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明による発煙消火装置の実施形態を示した説明図である。図1において、本実施形態の発煙消火装置10は本体12とカバー14により筐体を構成している。本体12は金属で作られた上部に開いた箱型のケース形状を持ち、前部に所定の火災温度で分解作動する感熱作動部の感熱板16を突出して設けている。
【0019】
本体12の上部には同じく金属製のカバー14が装着され、カバー14の装着により、固形消火剤の燃焼により生成された消火用エアロゾルを噴出するための噴出口18を形成している。
【0020】
図2は図1の実施形態の内部構造を示した断面図である。図2において、発煙消火装置10は本体12とカバー14で構成され、本体12の上部に仕切板20を固定している。
【0021】
仕切板20は後部側に連通口26を開口しており、本体12内の収納部22から連通口26を通ってカバー14と仕切板20の間に形成された煙道部24に至り、煙道部24から噴出口18に至るエアロゾルの噴出通路を形成している。連通口26や煙道部24の途中には必要に応じて火炎噴出防止部材64が配置される。
【0022】
本体12の収納部22には円筒部材28が固定されており、円筒部材28の前方に露出した先端部には連結環31が捩じ込まれ、連結環31の先端に感熱板16が低温ハンダ32により固定されている。低温ハンダ32は例えば72℃で溶融し、円筒部材28から分解可能な状態となる。
【0023】
円筒部材28の内部には、軸方向に移動自在にステム30が設けられている。ステム30として、本実施形態にあってはネジシャフトを使用している。ステム30の先端には押しナット34がねじ込み固定され、押しナット34と反対側の円筒部材28の内側端部との間にスプリング35を組み込み、スプリング35によってステム30を前方に付勢している。
【0024】
ステム30の後部は、円筒部材28を貫通して収納部22内に取り出されている。本体12の収納部22の後部側には断熱材38を介して固形消火剤36が配置されている。固形消火剤36は燃焼により消火用のエアロゾルを発生する。固形消火剤36の燃焼により発生するエアロゾルは2μm以下の粒子径を持つ超微粒子であり、その成分には炭酸塩あるいは燐酸塩、もしくはその混合物を含有している。
【0025】
具体的には、エアロゾルは塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸カリウムなどの凝結粒子であり、これ以外に窒素、二酸化炭素、水蒸気などを含んでいる。エアロゾルは火災が発生した監視エリアに充満することで、火災発生場所における燃焼の火災中心を抑制消滅させることで消火を行う。またエアロゾルはその主成分が炭酸塩あるいはリン酸塩などであることから、毒性がなく環境に対し優しい性状を有する。
【0026】
エアロゾルを燃焼により発生する固形消火剤36の重量としては、1立方メートルの監視エリアに必要な量が80〜200グラムであり、これに基づき、本実施形態の発煙消火装置10を設置する監視エリアの容積に対応した量の固形消火剤36を収納している。
【0027】
固形消火剤36の上部には着火薬44が装着されている。一方、円筒部材28から後方に取り出されたステム30の先端には、ナット46,48によってL字型に屈曲された擦り板40が固定されており、擦り板40の固形消火剤36に相対する面には擦り薬42が被着されている。
【0028】
擦り板40の擦り薬42の初期位置は、固形消火剤36に配置した着火薬44の後方に位置させており、感熱作動部により擦り薬42を移動させた時の着火薬44との機械的な摩擦により着火薬44に着火し、固形消火剤36を点火できるようにしている。
【0029】
擦り板40の上部には押え板40が本体12側に固定されて配置され、擦り板40が移動したときの上方への動きを規制し、擦り薬42が確実に着火薬44を擦るようにしている。
【0030】
ここで本実施形態にあっては、感熱板16、円筒部材28、ステム30、低温ハンダ32、押しナット34及びスプリング35によって感熱作動部を構成し、また擦り板40の擦り薬42と固形消火剤36に設けた着火薬44によって、感熱作動部が分解作動した際の機械的な摩擦動作により固形消火剤36に点火して燃焼させる点火機構を構成している。
【0031】
ステム30の下側には移報信号を外部に出力するためのリミットスイッチ25が配置されている。
【0032】
図3は図1のカバー14を取り外した状態を示した説明図である。図3において、本体12の上部開口部には、後方にエアロゾルを通過させるための連通口26を形成するように仕切板20がビスにより取付け固定されている。
【0033】
図4は図3の仕切板20を外して内部構造を示した平面図である。図4において、本体12の前方側には円筒部材28が固定部材52により固定されており、円筒部材28の先端は外部に露出し、そこに低温ハンダ32により感熱板16を固定している。
【0034】
円筒部材28の後部から取り出されたステム30の後端には、ナット46,48により摺り板40が固定されている。この摺り板40の上部には、摺り板40の上方への動きを規制する押え板50が配置されている。
【0035】
図5は図1の実施形態の動作を示した説明図である。本実施形態の発煙消火装置10を例えば機器内に収納している状態で、機器に内蔵している例えばヒータなどの過熱が原因で内部に火災が発生したとすると、図2に示したように、円筒部材28の先端に低温ハンダ32で固定している感熱板16が火災による熱を受け、低温ハンダ32に加わる温度が72℃を超えると溶融し、図5に示すように、スプリング35に押されてステム30が、低温ハンダが溶融した感熱板16を押しのけて前方に突出する熱分解動作を行う。
【0036】
この熱分解動作に伴うステム30の前進により、その後部に取り付けている擦り板40が固形消火剤36に設けている着火薬44を擦って移動し、ちょうどマッチを点火すると同様にして擦り薬42の機械的な移動による摩擦で着火薬44が発火し、固形消火剤36に点火して燃焼させる。
【0037】
点火により燃焼を開始した固形消火剤36は消火用のエアロゾル60を発生し、仕切板20の後部の連通口26からカバー14内の煙道部24を通って前方の噴出口18から消火対象空間例えば機器内部に噴出される。
【0038】
ここで固形消火剤36に点火して燃焼させた場合には、固形消火剤36の燃焼で炎が出ることになるが、固形消火剤36からエアロゾル60の噴出口18まで十分な距離を確保しているため、固形消火剤36の燃焼による炎が噴出口18から外部に噴き出すようなことはない。
【0039】
また固形消火剤36による炎の噴出を更に効果的に防止するためには、煙道部24の途中に金網などのエアロゾルだけを通過するような火炎噴出防止部材64を配置することが望ましい。
【0040】
固形消火剤36の燃焼により噴出口18から噴出されたエアロゾル60による消火メカニズムは、エアロゾルの固体部分の表面で火災を起こしている位置での燃焼生成の役目をする活性中心(フリーラジカル)を消滅させることで消火する。
【0041】
また固形消火剤36が燃焼する際には熱を発生するが、本体12内に固形消火剤36は断熱材38を介して配置しているため、燃焼による熱は直接、金属製の本体12やカバー14に伝わらず、固形消火剤36の燃焼が原因となって生ずる2次火災は確実に防止できるようになっている。
【0042】
また固形消火剤36を点火した際の燃焼時間は20〜60秒程度の短時間であり、この短時間の燃焼で大量のエアロゾル60を発生して、噴出口18より消火対象空間に噴出して消火を行うことになる。
【0043】
リミットスイッチ25は熱分解動作に伴うステム30の前進によりナット46でスイッチレバーが押されてオンし、外部に発煙消火装置10が作動したことを示す移報信号を出力する。
【0044】
本実施形態の発煙消火装置10からの移報信号は、発煙消火装置10を組み込んでいる監視エリアに対応して適宜の表示や制御を可能とする。本実施形態の発煙防止装置10をオフィス機器として使用されている例えばコピー機に組み込んでいた場合には、移報信号によりコピー機の音響出力部や表示部を利用してコピー機内での火災発生と消火動作を警報し、同時に、火災の原因となったヒータなどに対するメインの電源を自動的に遮断するといった制御を行う。
【0045】
図6は本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した断面図であり、この実施形態にあっては、消火剤の点火機構として、感熱作動部により固形消火剤36側を機械的に移動させ、消火剤に設けた着火薬を、固定配置した擦り薬に摩擦接触させて点火させるようにしたことを特徴とする。
【0046】
図6において、発煙消火装置10は本体12とカバー14で構成され、本体12の上部に仕切板20を配置し、その後部に本体12の収納部22からカバー14側の煙道部24に至る連通口26を形成している。
【0047】
本体12には感熱板16、円筒部材28、ステム30、低温ハンダ32、押しナット34及びスプリング35から構成される感熱作動部が設けられ、これは図2の実施形態と同じである。
【0048】
円筒部材28から後部に取り出されたステム30の軸端には、本実施形態にあっては固形消火剤36が固定されている。固形消火剤36は、本体12の底部側に固定した支持フレーム62上に移動自在に配置されている。
【0049】
固形消火剤36の上部には着火薬44が設けられる。この着火薬44に相対した固定側となる仕切板20の下面には、ほぼV字状に屈曲形成された擦り板40が配置され、擦り板40の着火薬44に相対した面に擦り薬42を被着している。
【0050】
更に、リミットスイッチ25は熱分解動作に伴いステム30が前進した際に、ステム30に装着したスイッチ作動部材27によりスイッチレバーが押されてオンし、外部に移報信号を出力するようにしている。
【0051】
図7は図6の実施形態の動作を示した説明図である。図6の設置状態において、機器などの発煙消火装置10の設置場所の火災により感熱板16が加熱され、低温ハンダ32の温度が72℃に達すると溶融し、図7のようにスプリング35によりステム30が押され、感熱板16を離脱させながら前方に移動する感熱分解動作が行われる。
【0052】
この感熱分解動作に伴うステム30の移動により、その後部に取り付けている固形消火剤36が前進移動し、固形消火剤36に設けている着火薬44が、固定配置された摺り板40の擦り薬42に摩擦接触しながら移動することで着火薬44が発火し、固形消火剤36に点火して燃焼させる。固形消火剤36が燃焼すると大量のエアロゾル60が発生し、噴出口18から監視エリアに噴出される。
【0053】
固形消火剤36は燃焼により温度が上昇するが、支持フレーム62を介して本体12側に設けられているため、固形消火剤36の燃焼による熱は直接、本体12には加わらず、本体12及びカバー14の温度を断熱作用により低めに抑えるようにしている。
【0054】
図8は図2の実施形態及び図6の実施形態の煙道部24に配置する火炎噴出防止部材64の具体例を示した説明図である。図7(A)の火炎噴出防止部材64Aはガラスや磁器などの細径パイプ66を複数並べて炎の噴出しを抑制する。図7(B)の火炎噴出防止部材64Bは2枚の金網を分離配置して炎の噴出しを抑制する。図7(C)の火炎噴出防止部材64Aはガラスや磁器などのボール70を複数配置して炎の噴出しを抑制する。更に図7(D)の火炎噴出防止部材64Dは2枚の金網68の間にガラスや磁器などのボール70を複数配置して炎の噴出しを抑制する。
【0055】
本実施形態の発煙消火装置が使用される監視エリアとしては、制御盤や分電盤などの盤内、サーバマシン、化学実験用のドラフトチャンバ、エンジンルーム、コピー機、プリンタ、ケーブルダクト、モータ、バッテリユニット、ゴミ収集車、荷室などの閉鎖空間もしくは密閉空間などの様々な場所とすることができる。
【0056】
図9は本発明による発煙消火装置の他の実施形態を示した断面図であり、点火機構として化学反応の発熱により着火させる機構を用いたことを特徴とする。
【0057】
図9において、感熱作動部は図2の実施形態と同じであり、本体10に収納した固形消火剤36に対し化学反応による点火機構を設けている。固形消火剤36の表面には収納穴として着火剤収納部72が形成され、着火剤収納部72の円錐状の底部に酸化剤74を配置し、その上に易酸化性物質76を封入したバルーン78を配置して穴開口を封止している。この酸化剤74とバルーン78に封入された易酸化性物質76により着火剤が構成される。
【0058】
バルーン78は薄膜樹脂シートやゴムシートなどにより作られており、内部に易酸化性物質76を密封状態で充填している。薄膜樹脂シートで作る場合、バルーン78の形状は略箱形とする。また、ゴムシートで作る場合、バルーン78は易酸化性物質76の充填で膨らみ、この状態で図示のように、上からの押付けで変形した状態で配置される。
【0059】
着火剤収納部72に配置したバルーン78はステム30の後端に支持された擦り板40により押え付けられ、これによって着火剤収納部72から外れないようにしている。
【0060】
固形消火剤36に形成した着火剤収納部72の後方にはスリット状のガイド溝82が形成され、ガイド溝82の中に擦り板40の後端下部に固定した破砕具としてのカッター80を配置している。
【0061】
図10は図9の平面図であり、更に図11は押え板50及びステム30を破断して固形消火剤36の表面を示した平面図である。図10,図11から明らかなように、矩形の着火剤収納部72が開口しており、その中に、易酸化性物質76を封入したバルーン78を配置している。着火剤収納部72の開口部後方にはガイド溝82がスリット状に形成され、その中にカッター80が位置している。
【0062】
図12は図9の固形消火剤36を取り出して示しており、図12(A)が正面図、図12(B)が横断面図である。図12において、固形消火剤36に形成した着火剤収納部72は、開口側に矩形のバルーン収納部72aを設け、底部側に酸化剤収納部72bを設け、バルーン収納部72aの後方にカッターを位置させるガイド溝82を形成している。
【0063】
図9の実施形態の動作を説明すると次のようになる。発煙消火装置10を設置している監視エリアで火災が発生して低温半田32が溶けると、図13に示すように、感熱板16が分解し、スプリング35の力でステム30が押出される。このステム30の移動により、その後方に設けたカッター80も移動し、着火剤収納部72に配置しているバルーン78をカッター80により切断し、封入している易酸化性物質76を流出させ、酸化剤74に接触させる。
【0064】
カッター80の移動によりバルーン78を切断するとき、バルーン78はステム30により移動する擦り板40に抑え付けられて張った状態で切断され、確実にカッター80で切断することができる。
【0065】
このようにして着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が固形消火剤36の表面上にて接触すると、化学反応により発熱することによって固形消火剤36が着火され、固形消火剤36が燃焼することによりエアロゾル60が放出される。
【0066】
図9の実施形態で着火剤として使用できる酸化剤74については、易酸化性物質76と反応し発熱する発熱性酸化剤であれば特に制限なく用いることができるが、固形消火剤36への着火性の面から過マンガン酸カリウムを用いることが好ましい。また、過マンガン酸カリウムは粉末状のものであることが好ましく、粒径が10〜150μmのものであることが好ましい。過マンガン酸カリウムの粒径が150μmより大きいものを使用すると、過マンガン酸カリウム粉末の表面積が小さいため、易酸化性物質との反応が起こりにくくなり、着火性が損なわれる場合がある。
【0067】
また、図9の実施形態に用いる着火剤において、使用できる易酸化性物質76については液状の有機系易酸化性物質であり、高粘性のものを用いることが好ましい。
【0068】
本実施形態の着火剤は、固形消火剤への迅速な着火を目的の一つとしており、着火剤は、固形消火剤の表面に滞留することができ、固形消火剤の表面にて酸化剤と接触することにより固形消火剤を局所的に発熱し、迅速にエアロゾル消火剤が放出されるよう固形消火剤に着火燃焼できることが必要である。従って、例えばエチレングリコールなどの低粘性の易酸化性物質を用いた場合、固形消火剤の表面に留まらずに内部に滲入してしまい、迅速及び確実な着火が行えない可能性がある。
【0069】
易酸化性物質が固形消火剤の内部に滲入することを抑制するため、固形消火剤に別途バインダー等を加え成型することで浸透性を抑制することも考えられるが、そのような手段は固形消火剤中の単位体積当たりの消火剤物質を低減することになり、消火効果の低い消火剤を与えることになる。また、固形消火剤中にバインダー等を混合することは着火性を低下させることにもつながり好ましくない。
【0070】
本実施形態に用いることができる高粘性の易酸化性物質として、より具体的には25℃における粘性率が5〜20Pa・sの範囲である液状易酸化性物質を用いることが好ましい。粘性率が5Pa・sに満たないものを用いた場合、流動性が高いため固形消火剤の内部に滲入しやすく、固形消火剤の表面にて酸化剤と接触できず、着火が困難になる場合がある。また、20Pa・sを超えるものを用いた場合は、その粘度が高すぎるため封入された容器から速やかに易酸化性物質が漏出せず、酸化剤と混合できずに不着火になる場合がある。
【0071】
上記理由および酸化剤との良好な発熱反応性の面から、本実施形態に用いることができる易酸化性物質として最も好ましいものは、グリセリンである。
【0072】
図14は化学反応により着火させる本発明の他の実施形態を固形消火剤の収納側について示した断面図である。図14において、本体10に収納した固形消火剤36の表面には収納穴として着火剤収納部72が形成され、着火剤収納部72に易酸化性物質76と酸化剤72を個別に封入した2重バルーン84を配置している。
【0073】
2重バルーン84は図15に示すように、薄膜樹脂シートなどにより作られており、仕切り86により内部を仕切って第1バルーン84aと第2バルーン84bに分け、第1バルーン84aに易酸化性物質76を密封状態で充填し、第2バルーン84bに酸化物74を密封状態で充填している。
【0074】
図16は図14の固形消火剤36を取出して示しており、図16(A)が正面図、図16(B)が横断面図である。図16において、固形消火剤36に形成した着火剤収納部72は、矩形の着火剤収納部72を設け、着火剤収納部72の後方にカッターを位置させるガイド溝82を形成して、ガイド溝82は着火剤収納部72を越える深さの溝であり、ガイド溝82の前方には、着火剤収納部72の底部を通る底部ガイド溝88が形成されている。
【0075】
図16の実施形態の動作を説明すると次のようになる。発煙消火装置10を設置している監視エリアで火災が発生して低温ハンダ32が溶けると、図13に示したように、感熱板16が分解し、スプリング35の力でステム30が押出される。このステム30の移動により、その後方に設けたカッター80も移動し、着火剤収納部72に配置している2重バルーン84をカッター80により切断し、封入している易酸化性物質76と酸化剤74を固形消火剤36の表面で接触させる。
【0076】
カッター80の移動によりバルーン78を切断するとき、バルーン78はステム30により移動する擦り板40に抑え付けられて張った状態で切断され、更に、カッター80の先端は底部ガイド溝88に沿って移動し、これによって2重バルーン84を確実に切断することができる。
【0077】
このようにして2重バルーン84の切断により外部に露出した着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が固形消火剤36の表面上にて接触すると、化学反応により発熱することによって固形消火剤36が着火され、固形消火剤36が燃焼することによりエアロゾル60が放出される。
【0078】
図17は化学反応により点火する本発明の発煙消火剤の他の例を示した概略図である。図17の例は、容器100の内部に中心に円筒穴36aを形成した固形消火剤36を収納し、容器100の底部にヘッド部100aを形成し、ヘッド部100aの中に酸化剤収納部102を生成する下部に開口した円錐状の穴を形成している。
【0079】
ヘッド部100aには下側からヘッドボディ104が挿入され、例えば融点100℃の高融点はんだ112により固定されている。ヘッドボディ104の内部の通し穴には上部にバネ受け106aを形成したステム106が挿入され、ステム106の下端を外部に取り出し、そこに集熱板108を例えば融点72℃の低融点はんだ110により固着し、ヘッドボディ104の上端とバネ受け106aとの間にバネ114を配置し、ステム106を上方に付勢している。
【0080】
ステム106の上部に形成したバネ受け106aの先端面にはカッター116が装着されている。固形消火剤36の円筒穴36aには容器100と一体に形成したバルーン支持部100bが挿入されており、バルーン支持部100bの先端に、カッター116に相対して容易酸化性物質76を充填したバルーン78が装着されている。またヘッド部100aの内部の酸化剤収納部102には酸化剤74が収納されている。
【0081】
集熱板108が高温になると低融点はんだ120が溶融し、図18に示すように、集熱板108がステム106から離脱して脱落し、ステム106はバネ114の力で押し上げられ、カッター116によってバルーン78が衝破され、封入している易酸化性物質76を酸化剤78に接触させる。
【0082】
着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が接触して発熱し更に発火することによって固形消火剤36に着火され、固形消火剤36が燃焼する。この燃焼に伴いヘッド部100aの温度が上昇し、高融点はんだ112が溶融すると、図19に示すように、ヘッド部100aからヘッドボディ104、ステム106及びバネ114が落下して開口し、ここを噴射口として消火剤が放出される。
【0083】
なお、図19において、バルーン78に代えて酸化剤74と易酸化性物質76を別々に封入した図14と同様な2重バルーンを設け、ステム106のカッター116により2重バルーンを衝破し、封入している易酸化性物質76と酸化剤74を接触させることにより着火させても良い。
【0084】
図20は化学反応により点火する本発明の発煙消火剤の他の例を示す概略図である。図20の例は、容器100に収納した固形消火剤36の上部表面に形成した収納円筒穴119の底部に固形した酸化剤74を収納し、続いて収納容器であるバルーン78に封入した易酸化性物質76を収納し、その上に、下側に破砕爪120を突出したステム118を配置している。
【0085】
ステム118にはバネ収納室121を備えたガイドフランジ部122が一体に形成され、容器100内で上下方向に摺動自在に支持されている。ステム118の上部は容器100の外部に取り出され、そこに集熱板124を低融点はんだ128により固着し、更に、バネ収納室121にバネ126を組み込み、容器100に対しステム118を固形消火剤36側に付勢している。またガイドフランジ部122には複数の連通穴130が形成され、その外側に位置する容器100の上端面にも連通穴130と位置をずらして複数の噴射口132が形成されている。通常時は、ガイドフランジ部122と容器100の内面は接触することで、放射口132と連通穴130を遮断し、外部からの埃や湿気の侵入を防いでいる。
【0086】
集熱板124が高温になると低融点はんだ128が溶融してステム118から離脱して固定状態を解除し、ステム118はバネ126の力によって下方に押動する。このステム118の押動によって破砕爪120がバルーン78を衝破し、封入している易酸化性物質76を酸化剤74に接触させる。
【0087】
着火剤である酸化剤74及び易酸化性物質76が固形消火剤36の表面上にて接触し発熱することによって固形消火剤36に着火され、固形消火剤36が燃焼することにより連通穴130を通って噴射口132から消火剤が外部に放出される。
【0088】
なお、破砕爪120でバルーンを破砕できる構成であれば、バルーン78と酸化剤74は上下逆に配置しても、横に並べて配置しても良い。
【0089】
尚、本実施形態の発煙消火装置は、監視対象とする機器や盤などの監視エリアに適合したサイズをもつものであるが、必要な量の消火薬剤を収納可能な筐体サイズを確保しながら、可能な限り小型化することが望ましい。例えば実施形態の発煙消火装置は、縦×横×高さが5cm×5cm×10cm程度の掌に乗るサイズである。
【0090】
また本発明による発煙消火装置の他の実施形態として、感熱作動部の感熱分解動作によるステムの動きを検出するリミットスイッチなどを設け、移報接点として外部に作動信号を送信するようにしてもよい。
【0091】
また上記の実施形態にあっては、本体の上部に装着したカバーの前方の噴出口からエアロゾルを前方に噴出するようにしているが、噴出口を前方ではなくカバーの先端上部に設けて、エアロゾルの噴出方向を別の方向としてもよい。
【0092】
また、上記の実施形態にあっては、筐体を構成する本体12及びカバー14を金属製としているが、筐体外部や内部に断熱材を装着すれば必ずしも金属製である必要はない。
【0093】
また、上記の実施形態にあっては、感熱部を低温ハンダで構成しているが、これに限らず、グラスバルブなど所定温度を感熱した際に分解して点火機構を作動させるようにしても良い。また、低温ハンダ16を設けずにスプリングを形状記憶合金として形状記憶合金35が所定の温度に達した時にスプリング35と同様に変位して点火するようにしても良い。
【0094】
また、感熱板16、低温ハンダ32は本体12より外部へ突出して設けているが、これに限らず、感熱板16が本体12側面と面一、もしくは熱流入口を本体に有して本体内部に感熱部に配置させても良い。
【0095】
また、逆に、円筒部材28やステム30を外部へ延長して感熱部を本体12から遠い位置に配置して熱感知する構成であってもよい。
【0096】
また、円筒部材28やステム30を任意の長さのものに交換できるようにして、本体の取付位置と感熱部の取付位置の距離を任意に調整できるようにしてもよい。
【0097】
また、ステム30は感熱板16に接触して押圧しているが、これに限らず、ステム30と感熱部の間に中間材を挿入しても良い。例えば、円筒部材28を前方に延長し、円筒部材28内の感熱部16とステム30の間に、円筒部材の内径より幾分小さい直径を有する1または複数箇のボールを連設して、感熱部が分解した際にボールとステムが一緒に前方に動いて点火装置を作動させるようにしてもよい。この構成であれば、本体と感熱部の間を任意の長さに容易に調整することができる。
【0098】
また、ボールが配置される箇所の円筒部材を可撓性のある材質にすれば、感熱部と本体の設置位置をより自由に調整することができる。
【0099】
また、上記の実施形態にあっては、低温ハンダが分解した際にステム30が本体外部方向に移動して点火するようにしているが、これとは逆にステムがより本体内に入る方向に移動して点火するように構成しても良い。例えば図2において、感熱板16と押しナット34を低温ハンダで付け、円筒部材の後端とナット46の間にスプリング35を挿入し、着火薬44を擦り薬42の後方に設けた構成であっても良い。
【0100】
また、スプリング35の代わりに磁石の反発力や引き込み力でステムを駆動するようにしても良い。
【0101】
また、図2や図9の実施形態において、ステム30の擦り板40側端部に連通口26を塞ぐ板を設け、通常時は連通口26を閉鎖し、感熱板16の作動でステム30が移動した際に連通口26を開口するようにすると、常時は埃や湿気の侵入を防ぐことができる。
【0102】
また本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0103】
10:発煙消火装置
12:本体
14:カバー
16:感熱板
18:噴出口
20:仕切板
22:収納部
24:煙道部
25:リミットスイッチ
26:連通口
28:円筒部材
30:ステム
31:連結環
32:低温ハンダ
34:押しナット
35:スプリング
36:固形消火剤
38:断熱材
40:擦り板
42:擦り薬
44:着火薬
46,48:ナット
50:押え板
52:固定部材
60:エアロゾル
62:支持フレーム
64,64A〜64D:火炎噴出防止部材
72:着火剤収納部
72a:バルーン収納部
72b:酸化剤収納部
74:酸化剤
76:易酸化性物質
78:バルーン
80:カッター
82:ガイド溝
84:2重バルーン
84a:第1バルーン
84b:第2バルーン
88:底部ガイド溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火用エアロゾルを噴出する噴出口を備えた筐体と、
前記筐体に収納され、燃焼により前記消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
検知対象周囲の温度を監視し所定温度で作動する感熱作動部と、
少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを分離配置した着火剤を具備し、前記感熱作動部が作動した際の機械的な動作により前記酸化剤と易酸化性物質とを前記固形消火剤の表面にて接触させ、該接触による発熱で前記固形消火剤に着火して燃焼させる点火機構と、を備えたことを特徴とする発煙消火装置。
【請求項2】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記易酸化性物質が、高粘性の液状易酸化性物質であることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項3】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記易酸化性物質がグリセリンであることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項4】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記点火機構は、前記易酸化性物質を封入した容器を具備し、前記固形消火剤に形成した収納穴に前記酸化剤を配置すると共に穴開口側に前記容器を配置して封止し、前記感熱作動部が作動した際に破砕具により前記容器を破砕して前記易酸化性物質を前記酸化剤に接触させることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項5】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記点火機構は、前記酸化剤と前記易酸化性物質を個別に封入した容器を具備し、前記固形消火剤に形成した収納穴に前記容器を配置し、前記感熱作動部が作動した際に破砕具により前記容器を破砕して前記易酸化性物質と前記酸化剤に接触させることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の発煙消火装置に於いて、前記破砕具はカッターであり、前記感熱作動部が作動した際に前記カッターの移動により前記容器を切断して破砕することを特徴とする発煙消火装置。
【請求項7】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記点火機構は、前記易酸化性物質を封入した容器を具備し、前記固形消火剤の付近に前記容器を配置して封止すると共に前記酸化剤を前記感熱作動部の付近に配置し、前記感熱作動部が作動した際に破砕具により前記容器を破砕して前記易酸化性物質を前記酸化剤に接触させることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項8】
請求項7記載の発煙消火装置に於いて、前記感熱作動部が作動した際に、前記感熱作動部及び破砕具を前記筐体外へ放出して前記噴出口を開口することを特徴とする発煙消火装置。
【請求項1】
消火用エアロゾルを噴出する噴出口を備えた筐体と、
前記筐体に収納され、燃焼により前記消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
検知対象周囲の温度を監視し所定温度で作動する感熱作動部と、
少なくとも酸化剤と易酸化性物質とを分離配置した着火剤を具備し、前記感熱作動部が作動した際の機械的な動作により前記酸化剤と易酸化性物質とを前記固形消火剤の表面にて接触させ、該接触による発熱で前記固形消火剤に着火して燃焼させる点火機構と、を備えたことを特徴とする発煙消火装置。
【請求項2】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記易酸化性物質が、高粘性の液状易酸化性物質であることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項3】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記易酸化性物質がグリセリンであることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項4】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記点火機構は、前記易酸化性物質を封入した容器を具備し、前記固形消火剤に形成した収納穴に前記酸化剤を配置すると共に穴開口側に前記容器を配置して封止し、前記感熱作動部が作動した際に破砕具により前記容器を破砕して前記易酸化性物質を前記酸化剤に接触させることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項5】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記点火機構は、前記酸化剤と前記易酸化性物質を個別に封入した容器を具備し、前記固形消火剤に形成した収納穴に前記容器を配置し、前記感熱作動部が作動した際に破砕具により前記容器を破砕して前記易酸化性物質と前記酸化剤に接触させることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の発煙消火装置に於いて、前記破砕具はカッターであり、前記感熱作動部が作動した際に前記カッターの移動により前記容器を切断して破砕することを特徴とする発煙消火装置。
【請求項7】
請求項1記載の発煙消火装置に於いて、前記点火機構は、前記易酸化性物質を封入した容器を具備し、前記固形消火剤の付近に前記容器を配置して封止すると共に前記酸化剤を前記感熱作動部の付近に配置し、前記感熱作動部が作動した際に破砕具により前記容器を破砕して前記易酸化性物質を前記酸化剤に接触させることを特徴とする発煙消火装置。
【請求項8】
請求項7記載の発煙消火装置に於いて、前記感熱作動部が作動した際に、前記感熱作動部及び破砕具を前記筐体外へ放出して前記噴出口を開口することを特徴とする発煙消火装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−6055(P2013−6055A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195921(P2012−195921)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2008−290813(P2008−290813)の分割
【原出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2008−290813(P2008−290813)の分割
【原出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】
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