説明

発現ツールとしてのFKBPシャペロンの使用

【課題】標的タンパク質としてrsgpを含有する組換えタンパク質の改良された発現に使用され得、同時にあまり重要でない標的タンパク質にも適切である効率的な代替発現系を開発し提供すること。
【解決手段】融合タンパク質を製造する方法であって、
a.標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびSlyDであるFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含んでなる、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該融合タンパク質がシグナルペプチド配列を欠損しており、操作可能に連結されてなる組換えDNA分子を含んでなる発現ベクターを含む宿主細胞を培養する工程
b.該融合タンパク質の発現を誘導することにより、該融合タンパク質が封入体の形態で形成される工程
c.該融合タンパク質を該封入体から精製する工程
を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Escherichia coliなどの細菌における異種タンパク質またはポリペプチドのクローニングおよび発現に関する。特に、本発明は、FkpA、SlyD、およびトリガー因子からなる群より選択されるFKBP型ペプチジルプロピルイソメラーゼを含有する発現ツール、組換えタンパク質発現の方法、従って得られた組換えポリペプチドならびにかかるポリペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの種類の発現系は、特許および科学的論文に記載されている。しかし、融合タンパク質が現代生物学の基礎となっているという事実にもかかわらず、可溶性、生物学的に活性な形態の標的タンパク質および高収率で標的タンパク質を得ることは、主要な難題であり続けている(非特許文献1)。
【0003】
可溶化剤として売り込まれている融合パートナーの例としては、チオレドキシン(TRX)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、プロテインA、ユビキチン、およびDsbAが挙げられる。広範に理解され、潜在的に非常に重要であるが、この可溶化効果は、不十分に理解されたままである。例えば、固有の高い可溶性を除く特徴が有効な可溶化剤の典型であることは明らかではない。全ての可溶性融合パートナーはこの課題において等しく熟達しているのであろうか、またはいくつかは堅実に他よりも有効なのであろうか。同様に、多くの種々のポリペプチドの可溶性は、それらを高い可溶性のパートナーに融合することにより改良され得るかどうか、またはこのアプローチがほんの少しの場合にのみ有効であるかどうかは知られていない。
【0004】
もっとも強力な発現系に関する先行技術の状況は、近年、Kapustら、前出により要約されている。種々の標的タンパク質を含む可溶性融合タンパク質を生成するために彼達の試みにおいて、彼等は、3つの異なる顕著な候補融合パートナーを評価した。マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、およびチオレドキシン(TRX)は、通常不溶性形態で蓄積する6つの多様なタンパク質の凝集を阻害する能力について試験されている。これら候補発現系の全てが当業者に公知であり、他の場所に詳細に記載される(例えば、発現ツールとしてGSTの使用を詳細に記載した特許文献1)。
【0005】
注目すべきことに、Kapustら、前出は、MBPが先行技術で広範に使用されてもいる他の2つの融合パートナーよりはるかに有効な可溶化剤であることを見出した。さらに、彼等は、いくらかの場合にのみMBPへの融合が付着タンパク質のその生物学的に活性な形態への妥当な折り畳みを促進し得ることを示した。
【0006】
多くの凝集傾向のポリペプチドは適切なパートナーへの融合により可溶性にされ得るが、多少の予測できない方法におけるいくつかの候補融合パートナーは他よりもずっとよい可溶化剤であることは特に重大である。
【0007】
いくつかのレトロウイルス性の表面糖タンパク質(rsgp)の組換え発現に取り組んでいる間、本発明者らは、当該分野で公知であり勧められている(例えば、Kapustら、前出により)多くの発現ツールの利用性を研究した。しかし、本発明者らは、試験した全ての発現系が1個または数個の以下の欠点を持つことを見出した:低収率、取り扱いにくい融合ポリペプチド、または生理的緩衝条件での融合タンパク質の不溶性。
【0008】
従って、顕著な要求は、例えば、rsgpなどの凝集傾向のタンパク質の組換え発現に特に適切な代替の効率的な発現ツールを提供することにある。
【0009】
免疫抑制剤FK-506に結合するタンパク質いわゆるFK-506結合タンパク質すなわちFKBPに関する大量の特許文献がある。
【0010】
これらのタンパク質は、広範に研究されており、市販の適用はこれらのタンパク質のFK-506結合活性に集中するように設計されている。例えば、特許文献2は、CTP:CMP-3-デオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸シチジルトランスフェラーゼ(=CKS)を発現ツールとして使用する。FKBPは、CKS系の発現ベクターにCKS遺伝子の下流に挿入される。得られた融合タンパク質を使用して、FK-506および他の免疫抑制剤の測定を改良する。
【0011】
特許文献3は、生物学的事象(例えば、標的遺伝子転写ならびに操作細胞の成長、増殖および分化)の調節のための物質および方法を開示する。
【0012】
特許文献4は、標的タンパク質およびFK-506結合タンパク質からなる融合タンパク質に結合し得る化合物をスクリーニングするためのハイスループットアッセイに関する。ハイスループットスクリーニングアッセイにおけるFKBP12-Src相同性(SH2)融合タンパク質の使用が開示される。融合タンパク質は、細菌ペリプラズムにおいて可溶性形態で生成され、標準的な凍結解凍処理により放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第293 249号
【特許文献2】WO93/25533号
【特許文献3】WO00/28011号
【特許文献4】WO97/10253号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kapust,R.B.およびWaugh, D.S., Protein Sci 8 (1999) 1668〜74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、標的タンパク質としてrsgpを含有する組換えタンパク質の改良された発現に使用され得、同時にあまり重要でない標的タンパク質にも適切である効率的な代替発現系を開発し提供することができるかどうかを研究することであった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚いたことに、本発明者らは、非常に見込みあるクローニングツールとしてペプチジルプロピルイソメラーゼ(PPIまたはPPIアーゼ)シャペロンのFKBP型ファミリーの特定のモジュールメンバーを同定することができた。本発明者らは、SlyD、FkpA、およびトリガー因子からなる群より選択されたシャペロンのFKBP型ファミリーに基づく発現系が、rsgpなどの重要なタンパク質を発現するのに理想であることを見出すと同時に、これらのシャペロンもあまり重要でない標的タンパク質に対する非常に見込みあるクローニングツールであることも示した。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕融合タンパク質を製造する方法であって、
a.標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびSlyDであるFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含んでなる、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該融合タンパク質がシグナルペプチド配列を欠損しており、操作可能に連結されてなる組換えDNA分子を含んでなる発現ベクターを含む宿主細胞を培養する工程
b.該融合タンパク質の発現を誘導することにより、該融合タンパク質が封入体の形態で形成される工程
c.該融合タンパク質を該封入体から精製する工程
を含む方法、
〔2〕組換えDNAが標的ポリペプチドをコードする配列とFKBPシャペロンをコードする配列の間に位置された10〜100アミノ酸のペプチドリンカーをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含んでなることをさらに特徴とする〔1〕記載の方法、
〔3〕組換えDNA分子が、FKBPシャペロンをコードする1つのヌクレオチド配列を含んでなる、〔1〕又は〔2〕記載の方法、
〔4〕組換えDNA分子が、FKBPシャペロンをコードする2つのヌクレオチド配列を含んでなる、〔1〕又は〔2〕記載の方法、
〔5〕FKBPシャペロンをコードする2つの配列が標的ポリペプチドをコードする配列の上流に位置する、〔4〕記載の方法、
〔6〕FKBPシャペロンをコードする1つの配列が標的ポリペプチドをコードする配列の上流に位置し、FKBPシャペロンをコードするその他の配列が標的ポリペプチドをコードする配列の下流に位置する、〔4〕記載の方法、
〔7〕組換えDNA分子が10〜100アミノ酸のリンカーポリペプチドをコードする2つの核酸配列を含んでなる、〔4〕〜〔6〕いずれか記載の方法、
〔8〕〔1〕〜〔7〕いずれか記載の方法により得られる、組換えにより製造される融合タンパク質、
〔9〕研究動物の免疫化のための、〔8〕記載の組換えにより製造される融合タンパク質の使用、
〔10〕免疫学的検定法における〔8〕記載の組換えにより製造される融合タンパク質の使用
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法により、SlyD、FkpA、およびトリガー因子からなる群より選択されたシャペロンのFKBP型ファミリーに基づく発現系が、rsgpなどの重要なタンパク質を発現することができ、同時に、あまり重要でない標的タンパク質をも発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、pH2.5でのFkpA-gp41のUVスペクトルを表す。50mMリン酸ナトリウム、pH2.5;50mM NaClに対する透析後の融合ポリペプチドFkpA-gp41のUVスペクトル。驚くべきことに、2ドメイン構築は、可溶化カオトロピック剤GuHClの除去後、完全な可溶性のままである。ベースラインドリフトおよび300nmを超えた波長での重大な見かけ吸収を引き起こすことが予測される迷光凝集の存在の徴候はない。
【図2】図2は、pH2.5でのFkpA-gp41の近UV CDスペクトルを表す。スペクトルは、20mMリン酸ナトリウム、pH2.5;50mM NaCl中で20℃にてJasco 720分光偏光計で記録され、ノイズを減少するため9倍に増大させた。タンパク質濃度は、0.5cmの通過長(pass length)で22.5μMであった。芳香の楕円率は、gp41の典型的なサインを示す。pH2.5で、FkpAは、主として構築されず、近UV-CDにおけるシグナルを全く与えない。
【図3】図3は、pH2.5でのFkpA-gp41の遠UV CDスペクトルを表す。スペクトルは、20mMリン酸ナトリウム、pH2.5;50mM NaCl中で20℃にてJasco 720分光偏光計で記録され、シグナル対ノイズ比を改善するため9倍に増大させた。タンパク質濃度は、0.2cmの通過長で2.25μMであった。220nmおよび208nmでの最小値は、融合タンパク質に関連するgp41の主たるらせん構造を示す。197nmより下でのスペクトルノイズは、高いアミド吸収により、融合タンパク質のいずれの構造特性を報告しない。それにもかかわらず、193nmでの典型的ならせん最大値は、推測され得る。
【図4】図4は、生理的緩衝条件下でのFkpA-gp41の近UV CDスペクトルを表す。スペクトルは、20mMリン酸ナトリウム、pH7.4;50mM NaCl中で20℃にてJasco 720分光偏光計で記録され、ノイズを減少するため9倍に増大させた。タンパク質濃度は、0.5cmの通過長で15.5μMであった。顕著なことに、gp41およびFkpAの共有結合されたタンパク質ドメイン(連続線)の芳香の楕円率は、pH3.0での天然様の全てのらせんgp41の寄与(下の破線)およびpH7.4でのFkpAの寄与(上の破線)から加法的に作成される。これは、ポリペプチド融合タンパク質に結合される場合に、キャリアFkpAおよび標的gp41(すなわち、2つの別個の機能的折り畳みユニット)が可逆的にかつある程度独立して再折り畳みすることを示す。
【図5】図5は、生理的緩衝条件下でのFkpA-gp41の遠UV CDスペクトルを表す。スペクトルは、20mMリン酸ナトリウム、pH7.4;50mM NaCl中で20℃にてJasco 720分光偏光計で記録され、シグナル対ノイズ比を改善するため9倍に増大させた。タンパク質濃度は、0.2cmの通過長で1.55μMであった。それぞれ220nmおよび208nmでの強いシグナルは、融合構築物の文脈におけるgp41の主たるらせん構造を示す。198nmより下のノイズは、高いタンパク質吸収により、FkpA-gp41のいずれの二次構造特性も反映しない。
【図6】図6は、scFkpAおよびscSlyDの近UV-CDスペクトルは、互いに似ていることを示す。CDスペクトルは、0.5cmキュベット中でJasco 720分光偏光計で記録され、シグナル対ノイズ比を改善するために平均された。緩衝条件は、20℃、50mMリン酸ナトリウムpH7.8、100mM塩化ナトリウムであった。タンパク質濃度は、scFkpA(280nmでの上線)およびscSlyD(280nmでの下線)両方ともそれぞれ45μMであった。両タンパク質の構造類似は、「フィンガープリント領域」における類似のサインにより証明される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の要旨
第一の態様において、本発明は、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含む、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該FKBPシャペロンがFkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されることに特徴を有する組換えDNA分子に関する。
【0021】
かかる組換えDNA分子の設計ならびに発現ベクター、かかる発現ベクターを含有する宿主細胞の一部として、および融合ポリペプチドの生成におけるその使用の好ましい方法も開示される。
【0022】
さらに、組換え融合ポリペプチド自身が、例えば、可溶化、精製および取り扱いに関して驚くべき、有利な特性を示すことが見出されている。さらなる態様において、本発明は、FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列ならびに標的ペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列を含有する組換え的に生成された融合タンパク質に関する。
【0023】
さらなる態様は、FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列、標的ポリペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列、ならびに10〜100個のアミノ酸の少なくとも1つのペプチドリンカー配列を含有する組換え的に生成された融合タンパク質に関する。
【0024】
好ましい組換え融合ポリペプチドおよび種々の適用におけるかかる融合ポリペプチドの使用も開示される。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、新規なポリペプチド発現系を記載する。好ましい態様において、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含む、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該FKBPシャペロンがFkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されることに特徴を有する組換えDNA分子に関する。
【0026】
当業者にとって、用語「少なくとも1つ」は、それぞれ標的ポリペプチド、またはFKBPシャペロンをコードする1つ以上のヌクレオチド配列が、本発明の範囲を逸脱せずに組換えDNA分子の構築に使用され得ることを示すために使用されることは明白である。好ましくは、DNA構築物は、標的ポリペプチドをコードする1つまたは2つ、最も好ましくは1つの配列を含み、同時にシャペロンをコードする少なくとも1つ多くとも4つ、最も好ましくは1つまたは2つの配列を含む。
【0027】
用語「組換えDNA分子」は、遺伝子工学技術または化学合成によるポリヌクレオチドの単離セグメントの人工操作によって達成した配列の2つの他の点で別個のセグメントの組み合わせにより作製されるDNA分子をいう。そのようにすることで、所望の組み合わせの機能を生ずるために所望の機能のポリヌクレオチドセグメントを結合し得る。
【0028】
大量のポリヌクレオチドは、好適な宿主細胞において複製により産生され得る。タンパク質もしくはそのフラグメントをコードする天然または合成DNAフラグメントは、原核細胞または真核細胞への導入および複製可能な組換えポリヌクレオチド構築物、典型的にはDNA構築物に組み込まれ得る。
【0029】
ポリヌクレオチドはまた、化学合成(Beaucage, S.L.およびCaruthers, M.H., Tetrahedron Letters 22 (1981) 1859〜1862に記載されるホスホルアミダイト法ならびにMatteucci, M.D.およびCaruthers, M.H., J. Am. Chem. Soc. 103 (1981) 3185〜3191のトリエステル法が挙げられるが、これらに限定されない)により生成され得る。二本鎖フラグメントは、相補鎖を合成し、適切な条件下で鎖を共にアニーリングすることによるか、または適切なプライマー配列を用いてDNAポリメラーゼを使用して相補鎖を付加することによるかのいずれかによって、化学合成の一本鎖産物から得られ得る。
【0030】
ポリヌクレオチドは、ポリペプチドを「コードする」といわれ、その天然の状態である場合または当該分野で公知の方法により操作される場合、ポリヌクレオチドは、ポリペプチドまたはそのフラグメントを生成するために転写および/または翻訳され得る。
【0031】
本発明の標的ポリペプチドは、より多くの量必要とされる任意のポリペプチドであり得、従って、他の非組換え供給源から単離または精製することは難しい。好ましくは本方法により生成される標的タンパク質の例としては、酵素、サイトカイン、成長因子、ホルモン、ワクチン、抗体などの哺乳動物遺伝子産物が挙げられる。より詳細には、好ましくは本発明の過剰発現された遺伝子産物としては、エリスロポエチン、インスリン、ソマトトロピン、成長ホルモン放出因子、血小板由来成長因子、上皮増殖因子、トランスホーミング増殖因子α、トランスホーミング増殖因子β、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経発育因子、インスリン様成長因子I、インスリン様成長因子II、凝固因子VIII、スーパーオキシドジスムターゼ、α−インターフェロン、y−インターフェロン、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−5、インターロイキン−6、顆粒球コロニー刺激因子、複数直系(multi-lineage)コロニー刺激活性、顆粒球マクロファージ刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、T細胞増殖因子、リンホトキシンなどの遺伝子産物が挙げられる。好ましい過剰発現された遺伝子産物はヒト遺伝子産物である。さらに、本方法は、ワクチンとして使用され得る過剰発現された遺伝子産物の分泌を増大するために容易に適合し得る。ワクチンとして使用され得る過剰発現された遺伝子産物としては、哺乳動物病原体の任意の構造性遺伝子産物、膜会合性遺伝子産物、膜結合性遺伝子産物または分泌された遺伝子産物が挙げられる。哺乳動物病原体としては、哺乳動物に感染もしくは攻撃し得るウイルス、細菌、単細胞寄生生物または多細胞寄生生物が挙げられる。例えば、ウイルスワクチンとしては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ワクシニア、ポリオウイルス、アデノウイルス、インフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、デング熱ウイルス、日本脳炎、水痘帯状疱疹、サイトメガロウイルス、A型肝炎、ロタウイルスなどのウイルスに対するワクチン、および麻疹、黄熱、耳下腺炎、狂犬病、疱疹、インフルエンザ、パラインフルエンザなどのウイルス性疾患に対するワクチンが挙げられ得る。細菌ワクチンとしては、Vibrio cholerae、Salmonella typhi、Bordetella pertussis、Streptococcus pneumoniae、Hemophilus influenza、Clostridium tetani、Corynebacterium diphtheriae、Mycobacterium leprae、R. rickettsii、Shigella、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Coccidioidesimmitis、Borellia burgdorferiなどの細菌に対するワクチンが挙げられ得る。
【0032】
好ましくは、標的タンパク質は、HIV-1 gp41、HIV-2 gp36、HTLV gp21、HIV-1 p17、SlyD、FkpA、およびトリガー因子からなる群のメンバーである。
【0033】
本発明の標的ポリペプチドはまた、単一の組換えポリペプチドとして発現されるように構築されたいくつかの異なるタンパク質由来の配列(例えば、診断的に直接関係のあるエピトープ)を含み得る。
【0034】
ペプチジルプロピルイソメラーゼ(PPIまたはPPIアーゼ)という折り畳みヘルパーは、3つのファミリー、パルブリン(parvuline)(Schmid, F.X., Molecularchaperons in the life cycle of proteins (1998) 361〜389, A.L. FinkおよびY. Goto編, Marcel Decker In., New York, Rahfeld, J.U.ら, FEBS Lett 352 (1994) 180〜4)、シクロフィリン(cyclophiline)(Fischer, G.ら, Nature 337 (1989) 476〜8)およびFKBPファミリー(Lane, W.S.ら, J Protein Chem10 (1991) 151〜60)に細分される。FKBPファミリーは、そのメンバーが本来マクロライド(例えば、FK506およびラパマイシン(rapamycin))に結合する能力により同定されているので興味深い生化学特性を表す(Kay, J.E., Biochem J 314 (1996) 361〜85)。
【0035】
本発明によると、好ましいモジュールPPIアーゼは、FkpA(Ramm, K.およびPluckthun, A., J Biol Chem 275 (2000) 17106〜13)、SlyD(Hottenrott,S.ら,J Biol Chem 272 (1997) 15697〜701)およびトリガー因子(Scholz, C.ら, Embo J 16 (1997) 54〜8)、FKBPファミリーの全てのメンバーである。最も好ましくは、シャペロンFkpAおよびSlyDである。
【0036】
分子シャペロンの完全な配列を常に使用する必要がないことも周知であり、明白である。必要な能力および機能をなお有しているシャペロンの機能性フラグメント(いわゆるモジュール)もまた、使用され得る(WO98/13496参照)。
【0037】
例えば、FkpAは、細菌サイトゾルにおいて不活性前駆体分子として合成され、細胞質膜を横切って転移する原形質周辺の(periplasmic)PPIである。活性形態のFkpA(成熟FkpAまたは原形質周辺FkpA)は、シグナル配列(アミノ酸1〜25)を欠損し、従って、前駆体分子のアミノ酸26〜270を含む。FkpAに関する関連性のある配列情報は、公開データベースから容易に得られ得る(例えば、寄託番号P45523の元で「SWISS-PROT」から)。本発明の発現ツールとして使用されるFkpAは、N末端シグナル配列を欠損している。
【0038】
FkpA、すなわちSlyDに関連するクローンは、触媒性かつシャペロン機能を司る構築されたN末端ドメインならびにヒスチジンおよびシステイン残基が非常に豊富な主として構築されていないC末端からなる(Hottenrott、前出)。本発明者らは、アミノ酸1〜165を含むSlyDのC末端切断バリアントが標的タンパク質の効率的な発現に非常に肯定的な効果を発揮することを見出した。野生型SlyDとは異なり、ジスルフィドシャッフリングに欠陥を生じさせる危険は、使用される切断SlyDバリアント(1〜165)において首尾よく回避される。切断SlyD(1〜165)を含む組換えDNA分子は、本発明の好ましい態様である。
【0039】
本発明のDNA構築物を設計する好ましい様式において、シグナルペプチドは含まれない。本発明の発現系は、サイトゾル発現系として作用する場合、最も有利であることが見出されている。このサイトゾル発現は、封入体の形成を生ずる。封入体に通常関連する表明されかつ周知な問題とは異なり、本発明者らは現在、非常に大量のタンパク質が生成されるだけでなく、本発明の組換えタンパク質はまた取り扱いやすい(例えば、可溶化、再折り畳みしやすい)ことを見出している。従って、好ましい態様において、本発明は、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含む、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該FKBPシャペロンがFkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択され、DNA構築物がシグナルペプチドを欠損していることにさらに特徴を有する組換えDNA分子に関する。
【0040】
用語「シグナルペプチドを欠損している」は、甚だしい限定として理解されてはならない。当業者にとっては、いずれの構築物も実際にシグナルペプチド配列を欠損してもよいことは容易に明白である。しかし、代替として、配列は、シグナルペプチド機能を欠損するように単に修飾されていてもよい。
【0041】
1個または数個のアミノ酸置換または欠失を保有する上記で考察されたシャペロンのバリアントもまた、本発明の組換えDNAまたは融合ポリペプチドを得るために使用され得る。当業者は、かかるバリアントが実施例節で記載するような手順を使用することにより本発明の方法に適切であるかどうかを容易に断言し得る。
【0042】
本発明で使用される場合、用語「組換え体」または「融合ポリペプチド」は、発現ツールとして使用されるFKBPシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチドドメインおよび標的タンパク質に対応する少なくとも1つのポリペプチドドメインを含むポリペプチドをいう。任意に、かかる融合タンパク質は、10〜100アミノ酸残基のリンカーポリペプチドをさらに含み得る。当業者にとって、かかるリンカーポリペプチドが意図される適用、特に長さ、可撓性、電荷、および親水性に関して最も適切に設計されることは明白である。
【0043】
好ましくは、本発明のDNA構築物は、FKBPシャペロンに対応するポリペプチド配列と標的タンパク質に対応するポリペプチド配列との間にポリペプチドリンカーを含む融合タンパク質をコードする。さらに、例えば、タンパク質分解性切断部位を提供するためにリンカーをコードするかかるDNA配列はポリリンカーとしても作用し得る、すなわち複数のDNA制限部位を提供して、標的タンパク質およびシャペロンドメインをコードするDNAフラグメントの融合を容易にし得る。
【0044】
本発明は、適切なDNA分子を構築するために組換えDNA技術を利用する。
【0045】
さらなる好ましい態様において、本発明は、操作可能に連結された標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含む、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該FKBPシャペロンがFkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されることに特徴を有する組換えDNA分子に関する。
【0046】
ポリヌクレオチド配列は、別のポリヌクレオチド配列と機能的関係に配置される場合、操作可能に連結される。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列に操作可能に連結される。一般的に、操作可能に連結されるは、連結された配列が隣接し、2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合、共に隣接してリーディングフレームにあることを意味する。しかし、特定の遺伝子エレメント、例えば、エンハンサーが離れているにもかかわらず、すなわち隣接していなくても操作可能に連結され得ることは周知である。
【0047】
当業者にとって、1個または数個、例えば9個までのアミノ酸が融合タンパク質の2つのポリペプチドドメインとの間に配置されるように融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を設計することは、しばしば有利であることは明白である。従って、構築された融合タンパク質およびそれらを明らかにコードするDNA分子もまた、本発明の範囲内である。
【0048】
宿主に導入するために調製されたDNA構築物(所望の標的融合ペプチドをコードする意図されたDNAフラグメントを含む)は、典型的に、宿主により認識される複製系を含み、好ましくはまた、セグメントをコードするポリペプチドに操作可能に連結された転写および翻訳開始調節配列を含む。発現系(発現ベクター)としては、例えば、複製または自律複製配列(ARS)の起点および発現制御配列、プロモーター、エンハンサーおよびプロセシングに必要な情報部位(例えば、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位)、転写ターミネーター配列、およびmRNA安定化配列が挙げられ得る。
【0049】
宿主において機能的であるように適切なプロモーターおよび他の必要なベクター配列が選択される。細胞株および発現ベクターの作用し得る組み合わせの例としては、Sambrook, J.ら,「Molecular Cloning: A LaboratoryManual」(1989)-, J. Sambrook,E.F. FritschおよびT. Maniatis編, Cold Spring Harbour LaboratoryPress, Cold Spring Harbour、またはAusubel, F.ら,「Current protocols in molecular biology」(1987および定期的改訂版), F. Ausubel, R. BrentおよびK.R.E.編, Wiley & Sons Verlag, New York;ならびにMetzger,D.ら, Nature 334 (1988) 31〜6に記載のものが挙げられるがこれらに限定されない。細菌、酵母、哺乳動物、昆虫、植物または他の細胞における発現用の多くの有用なベクターは、当該分野で公知であり、販売会社(Stratagene、New England Biolab
s、Promega Biotechなどが挙げられるが、これらに限定されない)から得られ得る。さらに、構築物は、増幅可能な遺伝子(例えば、DHFE)に結合され得、その結果、遺伝子の複数のコピーが得られ得る。
【0050】
発現ベクターおよびクローニングベクターは、選択可能マーカー(ベクターで形質転換された宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードする遺伝子)をおそらく含むが、かかるマーカー遺伝子は宿主細胞に同時導入された別のポリヌクレオチド配列上に運ばれ得る。マーカー遺伝子を発現するこれらの宿主のみが、選択条件下で生存および/または増殖する。典型的な選択遺伝子としては、(a)抗生物質または他の毒性物質(例えば、アンピシリン、テトラサイクリンなど)に対する耐性を与えるタンパク質;(b)栄養要求性欠損を捕捉するタンパク質;あるいは(c)複合培地から利用不可能な重大な栄養素を供給するタンパク質をコードするものが挙げられるが、これらに限定されない。好適な選択可能マーカーの選択は宿主細胞に依存し、種々の宿主に適切なマーカーは、当該分野で公知である。
【0051】
目的のポリヌクレオチドを含むベクターは、当該分野で公知の任意の方法により宿主細胞に導入され得る。これらの方法は、細胞宿主の型に依存して変わり、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、他の物質を利用するトランスフェクション、およびウイルスによる感染が挙げられるが、これらに限定されない。大量の本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、適合宿主においてベクターまたは他の発現ビヒクルにおける本発明のポリヌクレオチドを発現することにより調製され得る。最も一般的に使用される原核生物宿主は、Echerichia coliの株であるが、他の原核生物(例えば、Bacillus subtilis)も使用され得る。Echerichia coliにおける発現は、本発明を実施する好ましい様式である。
【0052】
本発明のベクターの構築は、従来のライゲーション技術を利用する。単離されたプラスミドまたはDNAフラグメントは、切断され、調整され、所望の形態に再度ライゲーションされ、必要なプラスミドを生ずる。所望の場合、構築されたプラスミドにおける正確な配列を確認するための分析は、公知の様式で実施される。発現ベクターを構築し、インビトロで転写物を調製し、宿主細胞にDNAを導入し、発現および機能を評価するための分析を実施するための好適な方法は、当業者には公知である。遺伝子存在、増幅および/または発現は、例えば、本明細書に提供される配列に基づき得る適切に標識されたプローブを用いて、従来のサザンブロッティング、mRNAの転写を定量するためのノザンブロッティング、ドットブロッティング(DNAもしくはRNA分析)、またはインサイチュハイブリダイゼーションによりサンプル中で直接測定され得る。当業者は、これらの方法が所望の場合変更されうるかを容易に考え得る。
【0053】
好ましい態様において、本発明の組換えDNA分子は、FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンをコードする単一のヌクレオチド配列ならびに標的ポリペプチドをコードする単一のヌクレオチド配列を含む。
【0054】
2つのFKBPシャペロンドメインおよび1つの標的タンパク質ドメインを含む融合タンパク質もまた、非常に有利である。さらに好ましい態様において、本発明の組換えDNA分子は、FKBPシャペロンをコードする2つの配列ならびに標的ポリペプチドをコードする1つの配列を含む。
【0055】
DNA分子は、FKBPシャペロンをコードするDNA配列を共に標的タンパク質の上流に含むように設計され得る。あるいは、2つのFKBPドメインは、標的タンパク質をサンドイッチするように配列され得る。標的タンパク質の上流に両FKBPドメインを含む構築物は、本発明の好ましい態様である。
【0056】
2つのシャペロンドメインおよび標的ポリペプチドドメインを含むDNA構築物はまた、好ましくは、これらのドメインの間に2つのリンカーペプチドを含む。意図的なクローニングを可能にするためには、好ましくは、これらの2つのリンカーペプチド配列をコードするヌクレオチド配列は異なる。ヌクレオチド配列におけるこの違いは、必然的に、リンカーペプチドのアミノ酸配列における差を生ずる必要はない。いっそうさらに好ましい態様において、2つのリンカーペプチドのアミノ酸配列は同一である。かかる同一のリンカーペプチド配列は、例えば、FKBPシャペロンドメインおよび標的タンパク質ドメインを含む融合タンパク質が免疫学的測定に使用される場合、有利である。
【0057】
シャペロンの1つまたは全てを本発明の融合タンパク質の外に放出することが所望される場合、リンカーペプチドは、タンパク質分解性切断部位を含むように構築される。標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリペプチド配列、その上流にFkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む融合タンパク質をコードし、さらにタンパク質分解性切断部位を含むペプチドリンカーをコードする核酸配列を含有する組換えDNA分子は、本発明のさらなる態様である。
【0058】
操作可能に連結された本発明の組換えDNA分子、すなわち、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、および、その上流にFkpA、SlyDおよびトリガー因子から選択されるFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む融合タンパク質をコードする組換えDNA分子を含むベクターは、非常に有利であることが証明されている。
【0059】
本発明の組換えDNAを含む発現ベクターは、無細胞翻訳系において融合タンパク質を発現するために使用され得るか、または宿主細胞を形質転換するために使用され得る。好ましい態様において、本発明は、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞に関する。
【0060】
さらに好ましい態様において、本発明は、融合タンパク質を生成する方法に関する。該方法は、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養する工程、それぞれの宿主細胞における融合タンパク質の発現工程、および該融合タンパク質の精製工程を含む。
【0061】
上記で考察したように、FkpA、SlyDまたはトリガー因子のFKBPシャペロンドメインは、それぞれ、天然に存在するか、または人工的に構築され、サイトゾル融合ポリペプチド発現を生ずる。従って、生成された融合タンパク質は、封入体の形態で得られる。当該分野でのおびただしい努力が任意の所望の組換えタンパク質または融合タンパク質を可溶化形態で直接得るために費やされているが、本発明者らは、本発明の融合タンパク質が可溶化形態で容易に封入体から得られることを見出している。従って、さらに好ましい態様において、本発明は、封入体から精製される上記工程の融合タンパク質を生成する方法に関する。
【0062】
封入体からの融合タンパク質の精製は、容易に達成され、当業者に公知の標準的手順(カオトロピック可溶化および再折り畳みの種々の方法)により実施される。
【0063】
融合タンパク質の単離および精製は、可溶化緩衝条件、すなわち、封入体、すなわち融合タンパク質が可溶化される緩衝液から開始する。適切な緩衝液(「非生理的」または「可溶化」緩衝液と称される)は、標的タンパク質およびFKBPシャペロンの両方が不可逆的に変性されないという必要条件がなければならない。かかる緩衝条件から開始すると、シャペロンは、標的タンパク質に密に近接し、非生理条件から生理条件への緩衝条件の変化は、融合タンパク質の沈殿なしに可能である。
【0064】
適切な(非生理的)緩衝液、すなわち、本質的に不溶性である標的タンパク質およびPPIシャペロンが共に可溶性である緩衝液は、高もしくは低pH、または高カオトロピック塩濃度あるいはその組み合わせのいずれかを利用する。可溶化緩衝液は、好ましくは、相当に高濃度のカオトロピック塩(例えば、6.0M塩化グアニジニウム)を約6のpHで有する緩衝液である。再生の際、標的タンパク質およびシャペロンは共にその天然様の構造をとり、シャペロンはその肯定的な可溶化効果を働かせる。
【0065】
本発明の文脈において、生理的緩衝条件は、緩衝液に任意に存在し得る他の非塩成分(例えば、糖、アルコール、界面活性剤)とは無関係に、かかる添加剤が標的タンパク質およびシャペロンを含む融合タンパク質の可溶性を損なわない限り、5.0〜8.5の間のpH値かつ500mM未満の総塩濃度により定義される。
【0066】
種々の標的タンパク質が大量に発現されている。
【0067】
生化学的に相当に異なる標的タンパク質(例えば、SlyD、FkpA(直ちに可溶性であるタンパク質)、HIV-1 p17(従来の発現系を用いて大量の発現をすることが困難であるタンパク質)、HTLV gp21(凝集傾向のあるタンパク質)、およびHIV-1 gp41、ならびにHIV-1 gp36(両タンパク質は、極度に凝集性があり、生理的緩衝条件下では本質的に不溶性である))を有する本発明の発現系は、例えば、極度によく役に立つことが示されている。特にこれらのタンパク質に関連する実施例4から容易に推測され得るように、本発明の効率的な発現系は役に立ち、高レベルの融合タンパク質の生成を生ずる。類似の肯定的な知見は、本発明の融合タンパク質として発現される種々の他の標的タンパク質でなされ得る。
【0068】
肯定的な例のリストから、本発明で開示される新規な発現系が相当に魅力的な普遍的発現系を提供することは容易に明らかとなる。
【0069】
本明細書で開示される発現系はまた、当該分野で推奨されるキャリアタンパク質(例えば、MBP)を利用する標準的な発現系に匹敵している。試験される標的ポリペプチドを有する新規な系は事実上有利であることが見出されている。本発明で生成される融合タンパク質の比収率は、MBP系の発現を使用する比収率と比較して、少なくともよく、大部分の場合はいっそう高かった。発現の効力は、例えば、種々の融合タンパク質に含まれる標的タンパク質の濃度と比較した、E. coli細胞質量の1gあたり、またはモル基準の融合タンパク質の収率の点の両方で評価され得る。
【0070】
好ましい態様において、本発明は、FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列ならびに標的ペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列を含む組換え的に生成された融合タンパク質に関する。
【0071】
従って、本発明の融合タンパク質が有利な特性(例えば、生成の容易性、操作性、他の重大なタンパク質の使用)を示すことが見出されている。これは、HIV-1 gp41を含む融合タンパク質も用いて得られた肯定的な結果の記載から容易に明らかとなる。組換え生成されたpg41自身が本質的に不溶性であるのに対して、本発明の融合タンパク質の一部として存在する場合は、容易に可溶性である。
【0072】
一般的に、20mMリン酸ナトリウムpH7.4、150mM NaClからなる緩衝液中で50nM以下の濃度で溶解できる場合、タンパク質は「本質的に不溶性である」とみなされる。生理的緩衝条件下(例えば、20mMリン酸ナトリウムpH7.4、150mM NaClからなる緩衝溶液中)でPPIシャペロン複合体に含まれる標的タンパク質が100nM以上の濃度で溶解できる場合、FKBPシャペロンおよび標的タンパク質を含む本発明の融合タンパク質は「可溶性である」とみなされる。
【0073】
本発明者らは、標的タンパク質が凝集傾向タンパク質様HIV-1 gp41である場合でさえ、本発明の組換え的に生成された融合タンパク質が封入体から可溶性形態で容易に得られ得ることを見出した。組換え的に生成されたFkpA-gp41に含まれるgp41の著しい特性は、「シャペロンされていない(unchaperoned)」gp41外部ドメイン(ectodomain)と比較すると、生理的緩衝条件でのその格別な可溶性である。
【0074】
さらに、本発明の融合タンパク質に含まれる標的タンパク質が天然様構造で容易に得られ得ることを示すことが可能となる。かかる天然様構造、例えば、HIV-1 gp41については、近(Near)UV-CDにより、または免疫反応性により確認されている。近UV-CD分析は、当業者に公知である典型的な「gp41サイン」を示している。
【0075】
本発明の融合タンパク質はまた、非常に取り扱いやすい。例えば、かかる融合タンパク質を再生することはかなり容易である。「カオトロピック物質」(すなわち、FkpA-gp41含有6.0〜7.0M GuHCl)が別の方法で再折り畳みされ、全て熱力学的安定および可溶性天然様形態を生じ得ることは興味深い。再折り畳みは、透析および迅速希釈の両方により、ならびに再生サイズ排除クロマトグラフィーまたはマトリクス補助再折り畳みにより高い収率で達成される。これらの知見は、共有結合形式でのgp41-FkpA融合ポリペプチドが準安定タンパク質よりもずっと熱力学的に安定であることを示唆する。
【0076】
FKBPシャペロンの幾つか(例えば、FkpA)は、オリゴマーの形態、すなわち、2つ以上の非共有的に結合されたFKBPポリペプチドを含む複合体でそのシャペロン機能をはたらかせる。本発明者らは、驚くべきことに、1つおよび同じポリペプチド上にかかる活性FKBPダイマーを単一の融合タンパク質として設計および生成することが可能であることを見出している。本発明者らは、これらの構築物を一本鎖PPI、または一本鎖FKBPと称している。従って、2つのSlyDドメインを含む一本鎖PPIは、scSlyDと称され、従って、2つのFkpAドメインを含む一本鎖PPIは、scFkpAと称される。一本鎖ペプチジル−プロリル−イソメラーゼ、すなわち、2つのPPIドメインを含む融合タンパク質は、非常に有利であり、従って、本発明の好ましい態様である。本発明のsc-PPIは、パルブリン、シクロフィリンまたはFKBPであり得る。FKBPファミリーのシャペロンから選択されるsc-PPIが好ましい。最も好ましくは、それぞれ、sc SlyDおよびSc FkpAである。
【0077】
FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列、標的ペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列、ならびに10〜100個のアミノ酸の少なくとも1つのペプチドリンカー配列を含む組換え的に生成された融合タンパク質は、本発明のさらに好ましい態様である。
【0078】
当業者が認識するように、ペプチドリンカーは、必要な適用に最も適切なアミノ酸を含むように構築され得る。例えば、疎水性標的タンパク質の場合、リンカーポリペプチドは、好ましくは、適切な数の親水性アミノ酸を含む。本発明はまた、特に、標的タンパク質および1つまたは2つのFKBPシャペロンまたはシャペロンドメインおよびドメインの間に適切なペプチドリンカー配列を含む融合タンパク質に関する。標的ペプチドが遊離形態で必要とされるかかる適用について、適切なタンパク質分解性切断部位を含むリンカーペプチドが使用される。タンパク質分解性切断に適切なペプチド配列は、当業者に周知であり、なかでも、例えば、アルギニン残基のカルボキシ側で凝固因子Xaにより切断されるIle-Glu-Gly-Arg、またはGly-Leu-Pro-Arg-Gly-Ser、トロンビン切断部位などを含む。
【0079】
上記のように、本発明の融合タンパク質は、単純な再折り畳みスキームにより封入体から容易に得られ得る。これらは、容易に溶解でき、かかる融合タンパク質に含まれる標的ポリペプチドは、天然様構造(confirmation)で容易に得られ得る。かかる天然様ポリペプチドは診断ならびに治療適用において最も有利であるので、これは感染生物由来のポリペプチドにとってかなり有利である。好ましい態様において、本発明の融合タンパク質は、標的タンパク質が感染生物由来であることが公知である目的のポリペプチドであることにさらに特徴を有する。本発明の好ましい感染生物は、HIV、HTLV、およびHCVである。
【0080】
科学的文献および特許文献から、ペプチド配列が診断的に直接関係のあるエピトープを含むことは周知である。当業者にとって、現今、かかる直接関係のあるエピトープを同定することには問題はない。さらに好ましい態様において、感染生物由来のポリペプチドに対応する標的タンパク質は、少なくとも1つの診断的に直接関係のあるエピトープを含む。
【0081】
この有利な特性により、さらに好ましい態様において、本発明の組換え的に生成された融合タンパク質は、研究動物の免疫化、ワクチンの生成または免疫学的測定にそれぞれ使用される。
【0082】
新規な融合タンパク質の治療適用が意図される場合、好ましくは、本発明の組換え的に生成された融合タンパク質および薬学的に許容され得る賦形剤を含む組成物が製剤化される。
【0083】
以下の実施例、参考文献、配列表および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。本発明の趣旨を逸脱せずに手順における改変がなされ得ることが理解される。
【実施例】
【0084】
実施例1 FkpA系の発現系を使用するHIV-1 gp41の組換え生成
1.1 FkpAおよびgp41を含む発現プラスミドの構築
野生型FkpAをクローニングし、発現させ、幾つかの重要でない改変をしたBothmannおよびPlueckthun, J Biol Chem 275 (2000) 17106-17113に従って精製した。貯蔵のため、タンパク質溶液を20mM NaHPO/NaOH(pH6.0)、100mM NaClに対して透析し、26mg/ml(1mM)に濃縮した。
【0085】
サイトゾル発現のため、上記発現ベクターのFkpAコード配列を、シグナルペプチドをコードする配列部分を欠損するように、かつその代わりに成熟FkpAのコード領域のみを含むように改変した。
【0086】
第一の工程において、成熟E. coli FkpAのコード領域における制限部位BamHIを、プライマー:
【0087】
【化1】

【0088】
を有するStratagene(La Jolla, CA; USA)のQuikChange部位指向変異誘発キットを用いて欠失させた。
【0089】
構築物をEcFkpA(ΔBamHI)[GGGS]と名づけた。
【0090】
HIV-1 gp41(535-681)-Hisをクローニングし、T7プロモーター系の発現系において発現した。HIV-1エンベロープタンパク質由来のアミノ酸531-681をコードする遺伝子フラグメントを、プライマー:
【0091】
【化2】

【0092】
を用いて、T7系の発現ベクターからPCRにより増幅した。
【0093】
フラグメントをBamHIおよびXhoI制限部位を用いてEcFkpA(ΔBamHI)[GGGS]に挿入した。
【0094】
FkpAとe-gp41の間のグリシン−セリン−リッチリンカー[GGGS]についてのコドンを、FkpAのクローニング用のリバースプライマーおよびe-gp41のクローニング用のフォワードプライマーを用いて挿入した。
【0095】
得られた構築物を配列決定し、所望のタンパク質をコードしていることを見出した。このタンパク質のバリアントをまた、標準的手順に従って部位指向変異誘発により生成している。野生型配列と比較して4つのアミノ酸置換基を含むgp41のバリアントは、例えば、配列番号:5および6のDNA構築物によりコードされ、それぞれ発現系としてFkpAまたはSlyDを利用する。
【0096】
1.2 E. coli細胞由来のFkpA-gp41融合タンパク質の精製
発現プラスミドをもつE. coli BL21細胞を0.7のOD600に増殖させ、サイトゾル過剰発現を1mMのIPTGを37℃の増殖温度で添加することにより誘導した。誘導4時間後、細胞を遠心分離(5000gで20分)により収穫した。細菌ペレットを50mMリン酸ナトリウムpH7.8、6.0M GuHCl(塩化グアニジニウム)、5mMイミダゾールに再懸濁し、完全溶解のため室温で撹拌した(10分)。遠心分離(Sorvall SS34, 20000rpm,4℃)を繰り返した後、上清を濾過(0.8/0.2μm)し、溶解緩衝液中で予め平衡化したNi-NTAカラム(NTA:ニトリロトリアセテート;Qiagen;Germantown, MD)に適用した。非特異的に結合したタンパク質を、10カラム容積の溶解緩衝液を適用することにより洗浄工程中で除去した。最後に、結合標識タンパク質を、50mMリン酸ナトリウム、pH2.5、6.0M GuHClで溶出し、4ml画分に収集した。吸光度を280nmで記録した。
【0097】
得られた酸性およびカオトロピック溶液を、さらなる精製工程またはインビトロ再折り畳み実験のため4℃で貯蔵し得る。
【0098】
非折り畳み物質で開始すると、種々の再折り畳み方法(例えば、透析、迅速希釈、再生サイズ排除クロマトグラフィーまたはマトリクス補助再折り畳み)が使用され、首尾よく実施され得、それら全ては、同じ天然様折り畳みされ、かつ可溶性なタンパク質を実質上誘発する。
【0099】
1.3 透析および迅速希釈による再生
上記のように可溶化した物質を透析により生理的緩衝条件に移動する。透析チューブの選択カットオフ値は、4000〜6000ダルトンであった。
【0100】
外部ドメイン(融合タンパク質のHIV-1 gp41部分)の再折り畳みを誘導するため、50mMリン酸ナトリウム、pH2.5、50mM NaCl(塩化ナトリウム)に対する透析により溶出したタンパク質からGuHClを除去した。単離した外部ドメインがすべてらせん状で、この極度のpHで三次接触を形成することは周知である。近UV CDにより組換え的に生成したFkpAを分析する場合、FkpAが同じ条件下では本質的に構築されないことを見出した。透析によるgp41-FkpAの再折り畳みが、共有結合されたgp41およびFkpAタンパク質ドメインを含む直ちに溶解できるタンパク質複合体を生ずることは驚くべきことである。UVスペクトル(図1)は、迷光がない、すなわち300nmより上には明らかな吸収がない。迷光は、凝集体の指標であり、従って、図1に示すスペクトルは再折り畳み物質が有意な量の凝集体を含まないことを暗示する。
【0101】
円偏光二色性分光分析(CD)は、タンパク質における二次および三次構造の両方を評価するための選択方法である。芳香領域(260〜320nm)における楕円率は、タンパク質中の三次接触(すなわち、規則正しく折り畳まれたタンパク質の球状構造)を知らせ、一方、アミド領域における楕円率は、タンパク質骨格における規則正しい繰り返し要素、すなわち二次構造を反映する。
【0102】
図2に示す近UV CDスペクトルは、外部ドメイン(融合タンパク質に関連する)がpH2.5で天然様三次接触を示すやむにやまれぬ徴候を提供する。共有結合されたgp41/FkpAタンパク質ドメインのスペクトルは、同一条件下で単離された外部ドメインのスペクトルとほとんど一致する(データは示さず)。gp41の典型的なサインは、290nmで楕円率の最大値、285nmで特徴的な肩および光学活性のジスルフィド結合を反映する260nmで別の最大値が見られた。FkpAが各条件下で全く近UVシグナルに寄与しないことを示すことは重要である。事実、pH2.5のFkpAの芳香楕円率は、事実上ベースラインに等しい(データは示さず)。
【0103】
近UV領域由来の結果に一致し、融合構築物のpH2.5での遠UV CDは、主として構築されたgp41分子を示す。220nmおよび208nmでの2つの最大値は、全てらせん状の外部ドメインの典型的なサインに近づき、対応する(図3)。FkpA-gp41融合ポリペプチドを、迅速希釈により、示した条件(50mMリン酸ナトリウム、pH2.5、50mM NaCl)から生理的緩衝条件に容易に移動し得る。結論として、近および遠UV CDの両方は、天然様構造のgp41(FkpAをまた含む融合タンパク質に関連する)が種々の従来の様式で利用可能であることを強調する。
【0104】
1.4 サイズ排除クロマトグラフィーによる再生(SEC)
非折り畳みgp41-FkpAポリペプチド(50mMリン酸ナトリウム、pH7.8、7.0M GuHClに溶解)を、20mMリン酸ナトリウム、pH7.4、50mM NaCl、1mM EDTAで平衡化したSuperdex 200ゲル濾過カラムに適用した。FkpA-gp41は、本質的に3つの主な画分:高分子付随物として、明白なヘキサマー種として、および明白なトリマー種として溶出する。明白なトリマー画分を濃縮して、近UV CD測定におけるその三次構造について評価した(図4)。
【0105】
得られたグラフは、キャリアタンパク質FkpAおよび標的タンパク質gp41の両方が1:1比で寄与する事実上オーバーレイ曲線である。最も幸いにも、gp41は、中性pHで三次構造を示し、共有結合されたシャペロンにより明らかに可溶化されている。換言すれば、シャペロンFkpAは、天然様構造の外部ドメインgp41を物質として許容し、かつ中性作用pHでこの折り畳みにくい(hard-to-fold)タンパク質を可溶化するようである。従って、診断目的のために大量の可溶性gp41抗原を生成する重大な必要性を満たす。
【0106】
pH7.4でのFkpA-gp41の遠UV CD(図5)は、FkpAおよびgp41それぞれのシグナル寄与の相加性を示す近UV CD結果を確認する。予想されるように、スペクトルは非常にらせん状のgp41外部ドメイン(それぞれ220nmおよび208nmでの最大楕円率)により左右される。
【0107】
上記条件下で、pH7.4で可溶化された共有結合されたgp41/ FkpAタンパク質ドメインを用いて得られたデータは、FkpAおよびgp41がポリペプチド構築物中で独立した折り畳み単位として作用することを示す。
【0108】
実施例2 Sly-D系の発現ベクターの使用
シャペロンSlyDを、E. coliから慣用的なクローニング手順により単離している。組換え発現について、SlyDのアミノ酸1〜165をコードするDNA構築物を調製している。融合パートナーとしてSlyD(1〜165)および標的タンパク質としてHIV-1 gp41(配列番号:6を参照)を含む発現ベクターを構築している。融合タンパク質を発現し、上記FkpA-gp41について記載のように首尾よく精製した。興味深いことに、本発明者らは、SlyD(1〜165)-gp41型の天然様融合ポリペプチドが室温での50mMリン酸ナトリウムpH7.4、150mM NaClに対するカオトロピック物質(例えば、7.0M GuHClに溶解)の透析によりきわめて従来の様式で得られ得ることを見出した。
【0109】
実施例3 scFkpAおよびscSlyDの精製
一本鎖PPIアーゼscSlyD(配列番号:7)およびscFkpA(配列番号:8)をそれぞれ、実施例1に記載されるのと実質的に同じ精製プロトコールに従ってE. coli過剰プロデューサーから得た。簡単には、誘導細胞を収穫し、PBSで洗浄し、50mMリン酸ナトリウムpH7.8、100mM塩化ナトリウム、7.0M GuHClで室温にて溶解した。非折り畳み標的タンパク質をそのC-末端ヘキサ-His-タグを介してNi-NTAカラムに結合し、50mMリン酸ナトリウムpH7.8、100mM塩化ナトリウム中で再折り畳みした。このマトリクス補助再折り畳み手順の後、タンパク質をイミダゾール勾配で溶出し、Superdex 200(登録商標)カラムでのゲル濾過に供した。
【0110】
あるいは、scSlyDおよびscFkpAを溶出後、透析し、イミダゾールの残りの濃縮物を除去してもよい。両タンパク質は、かなり可溶性であることがわかる。例えば、scSlyDは、25mg/mlまでの濃度では凝集傾向がない。再折り畳みされたscPPIアーゼの三次構造を解明するために、本発明者らは、近UV領域におけるCDスペクトルをモニターした。scSlyDおよびscFkpA両方のサインは、互いに似ており、接近した関係、従って、2つのFKBPの構造相同性を反映する。しかし、芳香残基における低含量により、scSlyDのシグナル強度(図6)は、scFkpAの1つよりも有意に低い。
【0111】
実施例4 標的タンパク質の改良発現
生化学的にすっかり異なる標的タンパク質HIV-1 gp41、HIV-2 gp36、HIV-1 p17およびHTLV gp21を、融合パートナー(gp41、gp36、p17、gp21)を有さないpET/BL21発現系を使用するか、または同じ標準的発現系であるが本発明の融合タンパク質(SlyD-gp41、FkpA-gp41、FkpA-p17、SlyD-gp36、FkpA-gp21)をコードするDNA構築物を含む系を使用するかのいずれかで発現している。これらの系の効率を、E. coli細胞質量あたりの組換えタンパク質の収率(mg/g)の点で比較している。表1から容易に明らかなように、新規な発現系は、試験した全てのタンパク質について有意な改善を導いた。
【0112】
【表1】

【0113】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
〔1〕 標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含んでなる、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該FKBPシャペロンがFkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されることに特徴を有する組換えDNA分子。
〔2〕 10〜100個のアミノ酸のペプチドリンカーをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を、前記標的ポリペプチドをコードする配列と前記FKBPシャペロンをコードする配列との間に含むことにさらに特徴を有する前記〔1〕記載の組換えDNA分子。
〔3〕 前記FKBPシャペロンをコードするヌクレオチド配列を1つ含んでなる前記〔1〕または〔2〕記載の組換えDNA分子。
〔4〕 FKBPシャペロンをコードする配列を2つ含んでなる前記〔1〕または〔2〕記載の組換えDNA分子。
〔5〕 FKBPシャペロンをコードする2つの配列が標的ポリペプチドをコードする配列の上流に位置されることにさらに特徴を有する前記〔4〕記載の組換えDNA分子。
〔6〕 PPIシャペロンをコードする1つの配列が標的ポリペプチドの上流に位置され、PPIシャペロンをコードする他の配列が標的ペプチドをコードする配列の下流に位置されることにさらに特徴を有する前記〔4〕記載の組換えDNA分子。
〔7〕 10〜100個のアミノ酸のリンカーポリペプチドをコードする2つの核酸配列を含むことにさらに特徴を有する前記〔4〕〜〔6〕いずれか記載の組換えDNA分子。
〔8〕 10〜100個のアミノ酸のリンカーをコードする2つの核酸配列が異なる前記〔7〕記載の組換えDNA分子。
〔9〕 前記リンカー配列のうち少なくとも1つがタンパク質分解性切断部位を含むポリペプチドリンカーをコードする、前記〔2〕〜〔8〕いずれか記載の組換えDNA分子。
〔10〕 操作可能に連結された前記〔1〕〜〔9〕いずれか記載の組換えDNA分子を含んでなる発現ベクター。
〔11〕 前記〔10〕記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
〔12〕 a.前記〔11〕記載の宿主細胞を培養する工程
b.融合タンパク質の発現工程
c.該融合タンパク質の精製工程
を含む融合タンパク質を生成する方法。
〔13〕 FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列ならびに標的ペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列を含有してなる組換え的に生成された融合タンパク質。
〔14〕 FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列、標的ペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列、ならびに10〜100個のアミノ酸の少なくとも1つのペプチドリンカー配列を含有してなる組換え的に生成された融合タンパク質。
〔15〕 前記FKBPシャペロンに対応するポリペプチド配列を1つ含有することにさらに特徴を有する前記〔13〕または〔14〕記載の融合タンパク質。
〔16〕 前記FKBPシャペロンに対応するポリペプチド配列を2つ含有することにさらに特徴を有する前記〔13〕または〔14〕記載の融合タンパク質。
〔17〕 前記2つのFKBPシャペロンが標的ポリペプチドに関してN末端に位置されることにさらに特徴を有する前記〔16〕記載の融合タンパク質。
〔18〕 前記2つのFKBPシャペロンのうち1つが標的ポリペプチドに対してN末端に、前記FKBPシャペロンのうち1つが標的ポリペプチドに対してC末端に位置されることにさらに特徴を有する前記〔16〕記載の融合タンパク質。
〔19〕 少なくとも1つの標的ポリペプチド、FkpA、SlyDおよびトリガー因子からなる群より選択されるFKBPシャペロンに対応する2つの配列ならびに10〜100個のアミノ酸の2つのペプチドリンカー配列を含有してなる組換え的に生成された融合タンパク質。
〔20〕 前記ペプチドリンカー配列のうち少なくとも1つがタンパク質分解性切断部位を含有する、前記〔19〕記載の融合タンパク質。
〔21〕 前記標的タンパク質が感染性生物由来のポリペプチドを含有してなる前記〔13〕〜〔20〕いずれか記載の融合タンパク質。
〔22〕 前記ポリペプチドが感染性生物の少なくとも1つの診断的に直接関係のあるエピトープを含有することにさらに特徴を有する前記〔21〕記載の融合タンパク質。
〔23〕 研究動物の免疫化への、前記〔13〕〜〔22〕いずれか記載の組換え的に生成された融合タンパク質の使用。
〔24〕 ワクチンの生成における前記〔13〕〜〔22〕いずれか記載の組換え的に生成された融合タンパク質の使用。
〔25〕 免疫学的検定法における前記〔13〕〜〔22〕いずれか記載の組換え的に生成された融合タンパク質の使用。
〔26〕 前記〔13〕〜〔22〕いずれか記載の組換え的に生成された融合タンパク質、および薬学的に許容され得る賦形剤を含有してなる組成物。
【0114】
参考文献一覧
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欧州特許第293 249号
WO00/28011
WO93/25533
WO97/10253
WO98/1349

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合タンパク質を製造する方法であって、
a.標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列およびSlyDであるFKBPシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をその上流に含んでなる、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、該融合タンパク質がシグナルペプチド配列を欠損しており、操作可能に連結されてなる組換えDNA分子を含んでなる発現ベクターを含む宿主細胞を培養する工程
b.該融合タンパク質の発現を誘導することにより、該融合タンパク質が封入体の形態で形成される工程
c.該融合タンパク質を該封入体から精製する工程
を含む方法。
【請求項2】
組換えDNAが標的ポリペプチドをコードする配列とFKBPシャペロンをコードする配列の間に位置された10〜100アミノ酸のペプチドリンカーをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含んでなることをさらに特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
組換えDNA分子が、FKBPシャペロンをコードする1つのヌクレオチド配列を含んでなる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
組換えDNA分子が、FKBPシャペロンをコードする2つのヌクレオチド配列を含んでなる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
FKBPシャペロンをコードする2つの配列が標的ポリペプチドをコードする配列の上流に位置する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
FKBPシャペロンをコードする1つの配列が標的ポリペプチドをコードする配列の上流に位置し、FKBPシャペロンをコードするその他の配列が標的ポリペプチドをコードする配列の下流に位置する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
組換えDNA分子が10〜100アミノ酸のリンカーポリペプチドをコードする2つの核酸配列を含んでなる、請求項4〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の方法により得られる、組換えにより製造される融合タンパク質。
【請求項9】
研究動物の免疫化のための、請求項8記載の組換えにより製造される融合タンパク質の使用。
【請求項10】
免疫学的検定法における請求項8記載の組換えにより製造される融合タンパク質の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−100770(P2009−100770A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25509(P2009−25509)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【分割の表示】特願2006−326846(P2006−326846)の分割
【原出願日】平成14年6月24日(2002.6.24)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】