説明

発現ベクター

本発明は、タンパク質の細胞表面発現のための発現ベクターを提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
1975年にKohlerおよびMilsteinがモノクローナル抗体(mAb)を発見して以来、モノクローナル抗体は計り知れないほどの価値を持つ分子ツールになっている。モノクローナル抗体(mAb)は、その高い特異性ゆえに、生物学の至るところで標準的技法に使用され、タンパク質の機能および分布を特徴づけるための鍵になっている。mAbは、基礎研究におけるその使用に留まらず、診断剤および治療剤としても広く利用されている。この広い応用範囲ゆえに、mAbの作製は標準的手法になった。しかし、生理学的設定での研究のためには、mAbが、抗原をその天然のコンフォメーションで認識することが重要であることから、mAbの作製は今なお問題となる場合がある。
【0002】
最も一般的には、標的タンパク質の予測配列に由来する合成ペプチドに対して、mAbを生じさせる。残念ながら、これらのAbは、ペプチドとは強く反応するものの、天然のタンパク質を認識できないことが多い。mAbを作製するための別の標準的手法では、組換えにより発現されたタンパク質を使用する。原核生物発現系は最も広く使用されている発現宿主である。しかし、哺乳動物の表面タンパク質を研究する場合は、哺乳動物発現系を使用する必要があることが多い。というのも、適切なジスルフィド結合、翻訳後の糖鎖付加、またはタンパク質分解による修飾を伴う機能的タンパク質を産生する可能性は、哺乳動物発現系の方が高いからである。組換えタンパク質の精製は、多くの場合、長時間かかる退屈な作業であり、抗体を得るための律速工程になることが多い。アフィニティタグの導入は精製を簡素化するが、組換えタンパク質を天然のコンフォメーションかつ十分な収率および純度で得ることは、依然として困難なままであることが多い。これは膜結合型タンパク質には最もよく当てはまる。というのも、膜結合型タンパク質は精製過程においてその天然の構造を失う可能性が高いからである。
【0003】
また、タンパク質をその天然の状況下で認識することができるmAbを作製することを試みる場合は、天然のコンフォメーションをとっているタンパク質を、免疫化工程だけでなくスクリーニング手法にも使用することが、決定的に重要である。固体支持体への組換えタンパク質の固定化などといった数多くの標準的なハイブリドーマスクリーニングプロトコールは、タンパク質コンフォメーションを著しく変化させうる。これらの理由から、組換えタンパク質との結合に基づいて選択されたmAbは、同じタンパク質でもそれがその天然の状況下にある場合には、それと結合しない可能性がある。
【0004】
したがって、抗原が天然のコンフォメーションで細胞の細胞表面に発現することを可能にする抗原発現系が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
第1の目的において、本発明は、分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を挿入するためのクローニング部位、およびグリコフォリンの膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチド配列を順に含む、タンパク質の細胞表面発現のための核酸発現ベクターを提供する。
【0006】
核酸発現ベクターの好ましい態様では、グリコフォリンの膜貫通ドメインはグリコフォリンAの膜貫通ドメインである。
【0007】
核酸発現ベクターのさらなる好ましい態様では、グリコフォリンAの膜貫通ドメインは、マウスグリコフォリンA膜貫通ドメインまたはアルメニアンハムスターグリコフォリンAドメインである。
【0008】
核酸発現ベクターのさらなる好ましい態様では、マウスグリコフォリンA膜貫通ドメインは、配列番号1に開示するアミノ酸配列を含み、かつアルメニアンハムスターグリコフォリンAドメインは、配列番号12に開示するアミノ酸配列を含む。
【0009】
核酸発現ベクターのさらなる好ましい態様では、分泌シグナルペプチドはハチ毒メリチンの分泌シグナルペプチドである。
【0010】
核酸発現ベクターのさらなる好ましい態様では、ハチ毒メリチンの分泌シグナルペプチドは、配列番号2に開示するアミノ酸配列を含む。
【0011】
さらなる好ましい態様では、核酸発現ベクターは、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を挿入するためのクローニング部位の下流(3')に、配列番号3のアミノ酸配列を含むFLAGタグをコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む。
【0012】
さらなる好ましい態様では、核酸発現ベクターは、グリコフォリンの膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチド配列の下流(3')に、Hisタグ、好ましくは配列番号4に開示するアミノ酸配列を含むHisタグをコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む。
【0013】
核酸発現ベクターのさらなる好ましい態様では、クローニング部位は、NheI、KpnI、BamHI、EcoRI、EcoRV、およびNotIの制限酵素切断部位を含む。
【0014】
さらなる好ましい態様では、核酸発現ベクターは、配列番号5、配列番号13、配列番号14、および配列番号15からなる群より選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0015】
核酸発現ベクターのさらなる好ましい態様では、発現させるタンパク質は、膜結合型タンパク質である。
【0016】
第2の目的において、本発明は、本発明のベクターを含む細胞、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはHEK細胞を提供する。
【0017】
第3の目的において、本発明は、特定のタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(a)本発明のベクターを用いることで該特定のタンパク質を細胞表面に発現する細胞によって、非ヒト動物を免疫化する工程;
(b)工程(a)の非ヒト動物の脾臓細胞を単離する工程;
(c)B細胞ハイブリドーマを作製するために、工程(b)の脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合する工程;および
(d)該特定のタンパク質に対する抗体を発現するB細胞ハイブリドーマを同定する工程。
【0018】
本発明の方法の好ましい態様では、非ヒト動物はマウスまたはアルメニアンハムスターである。
【0019】
「核酸発現ベクター」とは、関心対象の配列または遺伝子の発現を指示することができる組立体を指す。核酸発現ベクターは、関心対象の配列または遺伝子に機能的に連結されたプロモーターを含む。他の制御要素も存在してよい。加えて、ベクターは、細菌複製起点、1つまたは複数の選択マーカー、ベクターが一本鎖DNAとして存在することを可能にするシグナル(例えばM13複製起点)、マルチクローニング部位、および「哺乳動物」複製起点(例えばSV40またはアデノウイルス複製起点)も含みうる。「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に輸送することができる(例えばウイルスベクター、非ウイルスベクター、微粒子担体、およびリポソーム)。ベクターは、外来DNAまたは異種DNAを好適な宿主細胞中に輸送するために使用される。ひとたび宿主細胞に入れば、ベクターは宿主染色体DNAには依存せずに複製することができ、数コピーのベクターとその挿入(外来)DNAとが作製されうる。
【0020】
本明細書において使用する用語「タンパク質」は、アミノ酸のポリマーを指し、特定の長さは指さない。したがってペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質フラグメントは、ポリペプチドの定義に包含される。
【0021】
本明細書において使用する用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、微量に存在する可能性がある天然に存在する変異を除けば同一である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体集団から得られるというその抗体の特徴を示すのであって、何らかの特別な方法によるその抗体の産生を要求しているのだと解釈してはならない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495によって初めて記述されたハイブリドーマ法によって製造されてもよいし、組換えDNA法によって製造されてもよい(例えば米国特許第4,816,567号(Cabillyら)ならびにMageおよびLamoyi(1987)「Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications」の79〜97頁(Marcel Dekker, Inc., ニューヨーク)を参照されたい)。モノクローナル抗体は、例えばMcCaffertyら(1990)Nature 348:552-554に記載の技法を使って作製されたファージライブラリーから単離することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1Aは、実施例において使用したヒトABCA1(配列番号7)、ラットTMEM27(配列番号9)および熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)PFF0620c(配列番号11)タンパク質の一次構造を示す。記載する構築物用に使用したドメインに、斜線で印をつけると共に、N末端およびC末端のアミノ酸を示す。図1Bは、実施例に記載するベクターに由来する、発現されるタンパク質構築物の模式図を示す。細胞外ドメインは、図1Aに示すものと等価である。
【図2】pANITA2-ABCA1およびpANITA2-TMEM27をトランスフェクトしたHEK293細胞からの全細胞溶解物の、抗FLAG M2-HRP結合抗体(Sigma)を使ったウェスタンブロットを示す。適切な分子量にバンドを持つ強い発現が見られる。
【図3】図3Aは、安定トランスフェクトHEK細胞におけるPFF0620Cの細胞表面発現を示す。非トランスフェクトHEK細胞(1行目)とPFF0620Cを提示するHEK細胞(2行目)の蛍光顕微鏡写真(2列目および3列目)および微分干渉コントラスト顕微鏡写真(1列目)。細胞をチャンバースライド上で増殖させ、固定せずに、抗FLAG抗体およびFITC標識抗マウスIgG抗体で染色した。核をDAPIで染色した。図3Bは、安定トランスフェクトHEK細胞におけるPFF0620Cの細胞外局在を示す。抗FLAG抗体(左側の列)または抗6×His抗体(右側の列)およびFITC標識抗マウスIgG抗体で染色した後のPFF0620C-HEK細胞の蛍光顕微鏡写真(1行目および3行目)ならびに微分干渉コントラスト顕微鏡写真(2行目および4行目)。抗FLAG抗体では生細胞とメタノール固定細胞が染色されたのに対して、抗His抗体ではメタノール固定細胞しか染色されなかった。これは、Hisタグが細胞内に局在し、かつ熱帯熱マラリア原虫由来タンパク質ドメインと共にFLAGタグが細胞外に局在することを示す。
【図4】トランスフェクト細胞との結合に関する抗体スクリーニングの結果を示す。第2段階では、IgG産生に関して陽性である全てのウェルを、トランスフェクト細胞に結合する抗体について、IFA(免疫蛍光アッセイ)によってスクリーニングした。マルチウェルスライドガラス上にスポットしたトランスフェクトHEK細胞と非トランスフェクトHEK細胞を、個々のハイブリドーマ上清で染色し、蛍光顕微鏡法で分析した。
【図5】作製したモノクローナル抗体の、組換え熱帯熱マラリア原虫タンパク質との反応性のウェスタンブロット分析を示す。対応する組換えタンパク質に対する代表的モノクローナル抗体の特異性が、ウェスタンブロット分析によって実証されている。PFF0620cのpANITA2構築物をトランスフェクトしたHEK細胞(ライン1)、無関係なタンパク質を含有する対照pANITA2構築物をトランスフェクトしたHEK細胞(ライン2および3)、および非トランスフェクトHEK細胞(ライン4)の溶解物を、抗6×His mAbおよび記載のとおり作製した抗PFF0620c mAbで、それぞれプロービングした。
【図6】PFD1130w特異的モノクローナル抗体がインビボで寄生虫の成長を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
哺乳動物細胞の細胞表面における発現タンパク質
熱帯熱マラリア原虫ORF PFF0620c、ヒトABCA1細胞外ドメイン、およびラットTMEM27細胞外ドメインを、それぞれ発現プラスミドpANITA2-PFF0620C、pANITA2-ABCA1、またはpANITA2-TMEM27を使って、HEK細胞の細胞表面に発現させた。細胞表面での高レベルな発現を保証するために、遺伝子をいくつかの方法で改変した(図1):i.内在性配列のコドンを哺乳動物細胞における発現に関して最適化し、予測細胞外ドメインだけを使用した;ii.内在性分泌シグナル配列を、ハチ毒メリチンの分泌シグナル配列で置き換えた;iii.膜アンカリングのために、予測GPI付着シグナル配列または予測膜貫通ドメインの代わりに、マウスグリコフォリンAの膜貫通ドメインコード配列を使用した;iv.発現分析を可能にするために、FLAGタグを膜貫通ドメインのN末端に挿入し、6×HisタグをC末端に置いた。これら2つのタグは、組換えにより発現された抗原の細胞外局在の立証を容易にするために、膜貫通ドメインの直前と直後に配置した。
【0024】
熱帯熱マラリア原虫PFF0620c、ヒトABCA1細胞外ドメイン、およびラットTMEM27細胞外ドメインを発現するHEK由来細胞株を、安定トランスフェクションによって樹立した。
【0025】
高発現細胞株を得るために、抗FLAG抗体による表面染色後に、トランスフェクタントを蛍光活性化細胞選別によって高発現細胞プールに分離した。高発現細胞プールへと選別するためにゲーティングした細胞の平均蛍光強度は、全トランスフェクタントのそれより2.1〜4.3倍高かった。
【0026】
ヒトABCA1発現細胞株およびラットTMEM27発現細胞株を、ウェスタンブロット分析によって発現について調べたところ、予期される分子量を持つタンパク質の高レベルな発現が示された(図2)。熱帯熱マラリア原虫PFF0620cタンパク質の細胞表面発現は抗FLAG抗体による免疫蛍光分析によって示され、生細胞に強いシグナルがもたらされた(図3)。これに対して、抗6×His抗体による染色は、メタノール固定細胞にのみ強いシグナルをもたらし、生細胞にはシグナルをもたらさなかった(図3B)。これらの結果は、PFF0620cが、発現し、かつFLAGタグを細胞外に置きHisタグを細胞内に置いた状態で細胞壁にアンカリングされることを立証した。
【0027】
トランスフェクトHEK細胞で免疫化したマウスにおけるマラリア抗原特異的抗体の発達
PFF0620c-HEKの高発現細胞プールを使ってNMRIマウスを免疫化した。マウスに、106個の細胞の静脈内注射を3日間連続して行い、2週間後にもう一度、3回の連日注射を行った。トランスフェクタントの免疫染色を非トランスフェクトHEK細胞の免疫染色と比較するフローサイトメトリーによって、血清抗体価の発達を分析した。トランスフェクタントで観察された蛍光強度は、非トランスフェクト対照HEK細胞で観察されたものより4倍高かった。これは、トランスフェクトHEK細胞の表面に発現したマラリア抗原に対する抗体応答を、マウスが開始していたことを示した。
【0028】
トランスフェクトHEK細胞で免疫化したマウスの脾臓細胞をPAI骨髄腫細胞と融合して、B細胞ハイブリドーマを作製した。融合細胞をマイクロタイター培養プレートのウェルに分配した。PFF0620c特異的抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定するために、精製組換えタンパク質を全く必要としない2段階スクリーニング手法を使用した。まず最初に、全ての培養ウェルを、ELISAにより、IgG産生について試験した。試験したウェルの18〜29%が陽性だった。第2段階では、IgG産生に関して陽性である全てのウェルを、トランスフェクト細胞に結合する抗体について、IFAによってスクリーニングした。マルチウェルスライドガラス上にスポットしたトランスフェクトHEK細胞と非トランスフェクトHEK細胞を、個々のハイブリドーマ上清で染色し、蛍光顕微鏡法で分析した(図4)。非トランスフェクトHEK細胞を各試料の陰性対照とした。トランスフェクト細胞上で陽性である数多くのクローンが、非トランスフェクト細胞でも陽性だった。しかし融合は、トランスフェクタントとは強く反応するが非トランスフェクトHEK細胞とは反応しない抗体を含有するウェルも数多くもたらした。他の抗体は全て、免疫化に使用したトランスフェクト細胞に特異的であり、対照トランスフェクタントを染色しなかった。PFF0620c融合物からの再クローニングにより、このカテゴリーのウェルから、17個のハイブリドーマクローンを得た。
【0029】
モノクローナル抗体の特異性をウェスタンブロット分析でさらに確認した(図5)。mAbのうち16個は、免疫化に使用したトランスフェクタントの溶解物中の対応する組換えタンパク質を染色したが、対照トランスフェクトHEK細胞または非トランスフェクトHEK細胞の溶解物中のタンパク質は染色しなかった。
【0030】
PFD1130w特異的モノクローナル抗体はインビボで寄生虫の成長を阻害する
本発明者らは、熱帯熱マラリア原虫SCIDマウスモデルにおける抗PFD1130w mAbのインビボ寄生虫阻害活性を評価した。熱帯熱マラリア原虫PFF0620cに対するmAbの作製に使用したものと同じ方法およびベクターを使って、抗PFD1130w mAbを製造した(下記の方法の項を参照されたい)。このモデルでは、熱帯熱マラリア原虫の成長が可能になるように、ヒト赤血球を移植した非骨髄枯渇NOD-scid IL2Rnullマウスを使用する。0.58±0.14%の寄生虫血を有するマウス3匹ずつの各群に、それぞれマウス1匹あたり2.5mgの抗PFD1130w c12 mAb、0.5mgの抗PFD1130w c12 mAb、または2.5mgのアイソタイプ/サブクラス対照mAbを、1回注射した。続く6日間にわたって全てのマウスの寄生虫血を監視した。PBSのみまたは対照mAbを受けたマウスにおける寄生虫血は増加し続けて6日後には11.3±0.8%に達したのに対し、0.5mgの抗PFD1130w c12 mAbを受けたマウスでは寄生虫血の増加の程度がはるかに低く、6日後に5.6±1.3%に達した。2.5mgの抗PFD1130w c12 mAbを受けたマウスの寄生虫血は、実験の終了時まで低いままだった(6日目に1.4±0.3%)。陰性対照群と比較した6日後の寄生虫血の相違は著しく有意だった(両側t検定;P<0.0001)(図6)。
【0031】
抗PFD1130w mAbがインビボでの寄生虫成長を阻害するという事実は、内在性タンパク質にその天然の状況下で結合するmAbを作製するという、ここに記載するもっぱら細胞に基づく技術の能力を示している。
【0032】
方法
プラスミドの構築および形質転換
ハチ毒メリチンの分泌シグナル配列をコードする二本鎖オリゴヌクレオチドを、NheI消化pcDNA3.1(+)(Invitrogen)にライゲーションすることにより、シグナル配列の3'に1つのNheI部位を保っているプラスミドpcDNA3.1_BVMを得た。骨髄から抽出したRNAをテンプレートとして使用し、rtPCR(Invitrogen SuperScript III First Strand SynthesisキットおよびRoche Expand High Fidelity PCR System)によって、マウスグリコフォリンの細胞質ドメインおよび膜貫通ドメインcDNAを得た。その結果得られたPCRアンプリコンをpCR2.1クローニングベクター中にクローニングした。マウスグリコフォリンに対するプライマーは5'NotI部位と3'ヒスチジンタグを含有し、その後ろに停止コドンとEagI部位が続いた。グリコフォリン-6HisフラグメントをEagIで切り出し、NotI消化pcDNA3.1_BVMにライゲーションすることにより、グリコフォリン配列の5'端にpcDNA3.1 NotI部位が保存されているプラスミドpcDNA3.1_BVM_GPを得た。発現ベクターの完成品(pANITA2)を作出するために、短いリンカー配列で挟まれたFlagタグをコードしていてFlagタグの5'側にユニークNotI部位をもたらす二本鎖オリゴヌクレオチドを、NotI消化pcDNA3.1_BVM_GP中にライゲーションした。
【0033】
ラットTMEM27細胞外ドメイン(配列番号9のaa15〜130)、熱帯熱マラリア原虫遺伝子PFF0620Cの予測細胞外ドメイン(配列番号11のaa21〜353)、およびヒトABCA1 のN末端細胞外ドメイン(配列番号7のaa43〜640)の各cDNA配列を、哺乳動物細胞培養において高い発現が得られるようにコドン使用頻度を最適化して、合成した。それらの遺伝子を、pANITA2ベクターのユニークNbeI部位およびユニークNotI部位にライゲーションし、ベクターの配列を、DNA配列決定によって確認した。その結果得られたプラスミドを、以下、それぞれpANITA2-TMEM27、pANITA2-PFF0620C、またはpANITA2-ABCA1という。
【0034】
pANITA3.1およびpANITA3.3では、元からあるpcDNA3.1 XbaIおよびXhoI部位も、部位特異的変異誘発によって除去した。マルチクローニング部位および融合タンパク質コード配列の特徴を、挿入物の先頭から数えた番号と共に、下記の表1に示す。
【0035】
プライマー設計の指針としてチャイニーズハムスターグリコフォリン配列を使用し、かつアルメニアンハムスター骨髄RNA調製物から作製したcDNAを使用して、PCRクローニングおよびヌクレオチド配列決定を行うことによって、アルメニアンハムスターグリコフォリン配列を決定した。次に挙げる配列を表1に示す:コザック配列を持つpANITA2=配列番号15、pANITA3.1=配列番号13、およびpANITA3.3=配列番号14。
【0036】
(表1)発現ベクターの比較

【0037】
PFF0620C、TMEM27、またはABCA1ドメインを安定に発現するHEK293細胞株の樹立
JetPEI(商標)(PolyPlus)トランスフェクション試薬を製造者のプロトコールに従って使用することにより、293HEK細胞に、pANITA2-TMEM27、pANITA2-PFF0620C、またはpANITA2-ABCA1をトランスフェクトした。抗生物質選択をトランスフェクションの48時間後に開始した。500μg/mlのジェネティシン(Gibco)を含有する選択培地を3〜4日毎に交換した。非抗生物質耐性細胞が死滅し、耐性細胞が正常に増殖し始めた後、FACSによって高発現プールを作製した。細胞を酵素不含解離緩衝液(細胞解離緩衝液、酵素不含、ハンクス平衡塩、Gibco)で解離し、ブロッキング緩衝液(3%BSAを含有するPBS)で洗浄した。次に細胞を、ブロッキング緩衝液で希釈した200μlの100μg/ml抗FLAG mAb=FLAG-27と共に、氷上で15分間インキュベートした。次に細胞をブロッキング緩衝液で洗浄し、ブロッキング緩衝液で希釈した200μlの100μg/ml FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体(RAM/IgG(H+L)/FITC、Nordic Immunological Laboratories)と共に、氷上で15分間インキュベートした。最終洗浄後に、標識された細胞を分析し、FACSDivaソフトウェアを実行するBD FACSAriaを使って選別した。分析は全て、細胞片および凝集物を除外するために適切な散乱ゲートを使って行った。高度に標識された細胞が集められるように、ゲーティング設定を設定した。選別後、20%FCSを含む培養培地に細胞を集め、35mmウェルにプレーティングした。
【0038】
HEK生細胞の免疫蛍光染色
HEK生細胞の免疫蛍光染色には、チャンバースライド(4ウェルチャンバースライド、Lab-Tek(商標)、Nunc(商標))を使用した。ウェルを、H2O中の100mg/lポリ-D-リジンで、湿潤箱中、室温にて、終夜コーティングした。ウェルを滅菌H2Oで3回洗浄した後、1ウェルにつき40,000個の細胞を播種した。3日後に、ウェルを、無血清培養培地で希釈した500μlの適切なmAbと共に、氷上で30分間インキュベートすることによって、免疫染色を行った。無血清培養培地で2回洗浄した後、無血清培養培地で希釈した500μlの100μg/ml FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体(RAM/IgG(H+L)/FITC、Nordic Immunological Laboratories)をウェルに加え、氷上で30分間インキュベートした。最後に、ウェルを無血清培養培地で2回、DPBS(カルシウムを含有するダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、Gibco)で1回、すすいだ。DAPIを含有する封入溶液(DAPIを含むProLong(登録商標)Gold褪色防止試薬、Invitrogen)でスライドを封入し、カバーガラスで覆った。染色を上述の通りに評価した。
【0039】
マウスの免疫化
106個の安定トランスフェクトHEK細胞の静脈内注射によってNMRIマウスを免疫化した。細胞を解凍し、洗浄し、0.9%NaClに再懸濁した。注射は、3日間連続して行い、2週間後に、再び3日間連続して行った。追加免疫後に、血液を採取し、安定トランスフェクト293HEK細胞を用いるIFAにより、血清を抗PFF0620C抗体の存在について調べた。
【0040】
発現細胞と強く反応する血清を持つ動物を融合用に選択した。融合の2日前と1日前に、これらに、106個の細胞の最後の注射を行った。マウスを屠殺し、脾臓を摘出した。滅菌条件下で摩砕することによって脾臓細胞を収集し、ポリエチレングリコール1500(Roche Diagnostics)を使って骨髄細胞パートナー(PAIマウス骨髄細胞、P-3X63-Ag8由来)と融合させた。融合混合物をマルチウェルプレートにプレーティングし、マウスマクロファージP388の培養上清を補充したHAT培地中で増殖させることによってハイブリドーマを選択した。融合後2〜3週の間に、後述のようにELISAおよびIFAによって、ウェルを特異的IgG産生についてスクリーニングした。初期スクリーニングにおいて陽性であったウェルからの細胞を限界希釈法でクローニングすることにより、モノクローナル集団を得た。
【0041】
IgG ELISAスクリーニング
Maxisorp(商標)プレート(Nunc)を、PBSに希釈した100μlの5μg/mlヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)mAb(Sigma)で、湿潤箱中、4℃にて、終夜コーティングした。0.05%Tween-20を含有するPBSで2回洗浄した後、ウェルを、ブロッキング緩衝液(50mMトリス、140mM NaCl、5mM EDTA、0.05%NONidet P40、0.25%ゼラチン、1%BSA)で、37℃にて1時間ブロッキングし、その後、2回洗浄した。50μlのハイブリドーマ上清をウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。4回洗浄した後、プレートを、ブロッキング緩衝液で1:1000希釈した50μlのセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(Sigma)と共に、湿潤箱中、暗所、室温にて、1時間インキュベートした。4回洗浄した後、TMBペルオキシダーゼ基質溶液を加え、色の変化を監視した。
【0042】
抗体の産生と特徴づけ
抗体アイソタイプの同定は、マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ISO2、Sigma)を使って行った。大規模mAb産生のために、ハイブリドーマ細胞株を500mlのローラーボトル(Corning)で培養した。プロテインAまたはプロテインGセファロースを使ったアフィニティクロマトグラフィーによってmAbを精製した。
【0043】
DNA配列およびタンパク質配列


【0044】
明確に理解されるように、図表および例を挙げて上記の発明を説明したが、これらの説明および例が本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。本明細書において言及した全ての特許および科学文献の開示は、特に、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分泌シグナルペプチドをコードする配列を含むポリヌクレオチド配列、
発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を挿入するためのクローニング部位、および
グリコフォリンの膜貫通ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチド配列
を順に含む、タンパク質の細胞表面発現のための核酸発現ベクター。
【請求項2】
グリコフォリンの膜貫通ドメインがグリコフォリンAの膜貫通ドメインである、請求項1記載の核酸ベクター。
【請求項3】
グリコフォリンAの膜貫通ドメインがマウスグリコフォリンA膜貫通ドメインまたはアルメニアンハムスターグリコフォリンAドメインである、請求項1または2記載の核酸ベクター。
【請求項4】
マウスグリコフォリンAドメインが、配列番号1に開示するアミノ酸を含み、かつアルメニアンハムスターグリコフォリンAドメインが、配列番号12に開示するアミノ酸配列を含む、請求項3記載の核酸ベクター。
【請求項5】
分泌シグナルペプチドがハチ毒メリチンの分泌シグナルペプチドである、請求項1〜4のいずれか一項記載の核酸ベクター。
【請求項6】
ハチ毒メリチンの分泌シグナルペプチドが、配列番号2に開示するアミノ酸配列を含む、請求項5記載の核酸ベクター。
【請求項7】
発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を挿入するためのクローニング部位の下流(3')に、配列番号3のアミノ酸配列を含むFLAGタグをコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の核酸ベクター。
【請求項8】
グリコフォリンの膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチド配列の下流(3')に、Hisタグ、好ましくは配列番号4に開示するアミノ酸配列を含むHisタグをコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の核酸ベクター。
【請求項9】
クローニング部位が、NheI、KpnI、BamHI、EcoRI、EcoRV、およびNotIの制限酵素切断部位を含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の核酸ベクター。
【請求項10】
配列番号5、配列番号13、配列番号14、または配列番号15からなる群より選択されるポリヌクレオチド配列を含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の核酸ベクター。
【請求項11】
発現させるタンパク質が膜結合型タンパク質である、請求項1〜10のいずれか一項記載の核酸ベクター。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載のベクターを含む、細胞、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはHEK細胞。
【請求項13】
抗体作製に適したタンパク質の発現のための、請求項12記載の細胞の使用。
【請求項14】
抗体作製に向けた、好ましくはモノクローナル抗体作製に向けた、非ヒト動物の免疫化のための、請求項12記載の細胞の使用。
【請求項15】
特定のタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製するための方法であって、
(a)請求項1〜11のいずれか一項記載のベクターを用いることで該特定のタンパク質を細胞表面に発現する細胞によって、非ヒト動物を免疫化する工程;
(b)工程(a)の非ヒト動物の脾臓細胞を単離する工程;
(c)B細胞ハイブリドーマを作製するために、工程(b)の脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合する工程;および
(d)該特定のタンパク質に対する抗体を発現するB細胞ハイブリドーマを同定する工程
を含む、前記方法。
【請求項16】
非ヒト動物がマウスまたはハムスターである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
上述の発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2013−520970(P2013−520970A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555372(P2012−555372)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052873
【国際公開番号】WO2011/107409
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】