説明

発色性可食フィルム及びその製造方法

【課題】加熱によって焦げ目や焼き目を付ける機能のみであって、他の機能の付加が困難であり、且つ成膜や長期保存が困難な従来の発色性可食フィルムの課題を解決する。
【解決手段】加熱によってメイラード反応を惹起して、焦げ目を付けることのできる発色性可食フィルムが、単独ではメイラード反応を惹起することのない二枚の非発色性可食フィルムが直接積層されて形成されている積層フィルムであって、前記二枚の非発色性可食フィルムの一方が、アミノ酸成分としてのグリシンが含有されている可食フィルムであり、且つ他方の非発色性可食フィルムが、還元糖成分としてのグルコースが含有されている可食フィルムであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発色性可食フィルム及びその製造方法に関し、更に詳細には加熱によってメイラード反応を惹起して、焦げ目を付けることのできる発色性可食フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジの加熱によって各種食品に焦げ目や焼き色を鮮明に且つ容易に付けることのできる発色性可食フィルムについては、下記特許文献1に提案されている。
この発色性可食フィルムは、成膜剤に還元糖とアミノ酸類との混合物を含有させた可食フィルムである。
【特許文献1】特開2000−41621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前掲の特許文献1に提案されている発色性可食フィルムによれば、例えばグラタン上に発色性可食フィルムを載せて電子レンジで加熱することによって、発色性可食フィルム中の還元糖とアミノ酸類とがメイラード反応を惹起して、オーブン中でグラタンを焼いたと同様に、グラタンに焦げ目や焼き目を程良く付けることができる。
しかし、かかる発色性可食フィルムは、単一フィルムであるため、他の機能を付加することは極めて困難である。
また、発色性可食フィルムを製造する際には、還元糖とアミノ酸類とが混合された混合成膜溶液を用いて成膜するが、混合成膜溶液を加熱処理することができず、成膜が困難となる場合がある。混合成膜溶液を加熱することによってメイラード反応が惹起され、成膜された可食フィルムが褐色となるおそれがあるからである。
更に、発色性可食フィルム中では、還元糖成分とアミノ酸類成分とが混合されているため、保存中に経時変化が発生し易く長期保存が困難である。
そこで、本発明の課題は、加熱によって焦げ目や焼き目を付ける機能のみであって、他の機能の付加が困難であり、且つ成膜や長期保存が困難な従来の発色性可食フィルム及びその製造方法の課題を解決し、加熱によって焦げ目や焼き目を付ける機能に加え他の機能を付加でき、成膜が容易で且つ長期保存も可能な発色性可食フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、アミノ酸成分が含有されている非発色性可食フィルムと、還元糖成分が含有されている非発色性可食フィルムとを積層した積層フィルムは、加熱によって焦げ目や焼き目を付けることができ、且つ他の機能の付加が容易で且つ長期保存が可能であることを知り、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、加熱によってメイラード反応を惹起して、焦げ目を付けることのできる発色性可食フィルムが、単独ではメイラード反応を惹起することのない少なくとも二枚の非発色性可食フィルムが直接積層されて形成されている積層フィルムであって、前記二枚の非発色性可食フィルムの一方が、アミノ酸成分が含有されている可食フィルムであり、且つ他方の非発色性可食フィルムが、還元糖成分が含有されている可食フィルムであることを特徴とする発色性可食フィルムにある。
また、本発明は、加熱によってメイラード反応を惹起して、焦げ目を付けることのできる発色性可食フィルムを製造する際に、アミノ酸成分が含有されている成膜溶液と、還元糖成分が含有されている成膜溶液とを用い、前記成膜溶液の一方を流延して形成した非発色性可食フィルム上に、他方の成膜溶液を流延して非発色性可食フィルムを直接積層することを特徴とする発色性可食フィルムの製造方法でもある。
【発明の効果】
【0005】
一般的に、メイラード反応は、アミノ酸成分と還元糖成分とを混合して加熱すると惹起して褐色の反応物が生成される。かかるメイラード反応は、アミノ酸成分と還元糖成分とが単独では、加熱しても惹起されない。このため、本発明に係る発色性可食フィルムを形成するアミノ酸成分と還元糖成分との各々が単独で含有されている可食フィルムは、加熱してもメイラード反応は惹起されない非発色性フィルムである。
この点、本発明に係る発色性可食フィルムは、アミノ酸成分と還元糖成分との各々が単独で含有されている二枚の非発色性フィルムを直接積層して形成されている。この様に、アミノ酸成分と還元糖成分との各々が分離されているため、本発明に係る発色性可食フィルムは経時変化に強く、長期保存ができる。
一方、本発明に係る発色性可食フィルムを加熱すると、両フィルムの境界及びその近傍でアミノ酸成分と還元糖成分とが混合してメイラード反応が惹起され、発色性可食フィルムに焦げ目や焼き目を形成できる。
また、本発明に係る発色性可食フィルムは、少なくとも二枚の非発色性可食フィルムによって形成されている。このため、非発色性可食フィルムとして、種々の物性を有する可食フィルムを用いることができ、物性の異なる二枚の可食フィルムを積層することによって、種々の物性の発色性可食フィルムを得ることができる。
更に、種々の物性を有する可食フィルムを製造する際に、非発色性可食フィルムを成膜する成膜溶液も、単独で加熱してもメイラード反応を惹起することがなく、成膜溶液の調整を容易に行うことができる。このため、種々の物性の非発色性可食フィルムを容易に得ることができる。
その他に、例えば、非発色性可食フィルム内又は両フィルムの境界及びその近傍に水や空気が残留した場合には、得られた発色性可食フィルムを加熱すると、メイラード反応を惹起しつつ、水が蒸発し或いは空気が膨張して発色性可食フィルムが部分的に膨らむため、発色性可食フィルムを凹凸状に形成すると共に、焦げ目や焼き色を付けることができる。
この様に、本発明に係る発色性可食フィルムには、メイラード反応による焦げ目や焼き目を付加できることと相俟って、別の機能も容易に付加できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係る発色性可食フィルムは、単独ではメイラード反応を惹起することのない少なくとも二枚の非発色性可食フィルムから成る。
この非発色性可食フィルムは、主として多糖類によって形成されているフィルムである。多糖類としては、寒天、カラギナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、ペクチン、ゼラチン、澱粉、加工澱粉、澱粉分解物、アルギン酸又はその塩、タマリンドシードガム、セルロース又はその誘導体、ジュランガム、プルラン、アラビアガム、カードラン等のフィルム形成能を有する多糖類を挙げることができる。
二枚の非発色性可食フィルムを形成する多糖類は、最終的に得られる発色性可食フィルムの食感等の観点から任意に選択でき、同一種類の多糖類であっても、異なる種類の多糖類であってもよい。
かかる二枚の非発色性可食フィルムは、直接積層されて積層フィルムを形成している。このため、両フィルムは直接接触している。
この二枚の非発色性可食フィルムの一方には、アミノ酸成分が含有されている。このアミノ酸成分としては、一般に食品で使用されるものであればよく、例えば、グリシン、アルギニン、アラニン、グルタミン酸、リジン等を挙げることができる。
また、他方の非発色性可食フィルムには、還元糖成分が含有されている。この還元糖成分としては、一般に食品で使用されるものであればよく、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、ガラクトースを挙げることができる。
この様に、アミノ酸成分又は還元糖成分が単独で含有されている非発色性可食フィルムは、単独で加熱してもメイラード反応を惹起することがなく、フィルムが褐色化することはない。
【0007】
本発明では、アミノ酸成分と還元糖成分との各々が単独で含有されている二枚の非発色性可食フィルムを直接積層して積層フィルムとすることによって、両フィルムの境界及びその近傍にアミノ酸成分と還元糖成分とを混合することができる。
このため、積層フィルムを電子レンジで加熱することによって、両フィルムの境界及びその近傍に混合されているアミノ酸成分と還元糖成分とがメイラード反応して、積層フィルムにオーブンで焼いたような焦げ目や焼き目を付加できる。
また、積層フィルムの非発色性可食フィルム内又は両フィルムの境界に水又は空気を部分的に残留すると、積層フィルムを加熱したとき、積層フィルムに焦げ目や焼き目を付加しつつ、残留した水の蒸発或いは空気の膨張によって積層フィルムが部分的に膨らむ。このため、積層フィルムに凹凸を形成でき、且つ凹凸に焦げ目や焼け目を付加できる。
この様に、本発明に係る発色性可食フィルムは、少なくとも二枚の非発色性可食フィルムによって形成されている。このため、非発色性可食フィルムとして、前述した様に、異なる多糖類で非発色性可食フィルムを形成し、食感等を向上した発色性可食フィルムとすることができる。
或いは、物性の異なる二枚の可食フィルムを積層して、所望の物性の発色性可食フィルムを得ることも可能である。
【0008】
かかる発色性可食フィルムは、アミノ酸成分が含有されている成膜溶液と、還元糖成分が含有されている成膜溶液とを用い、成膜溶液の一方を流延して形成した非発色性可食フィルム上に、他方の成膜溶液を流延して非発色性可食フィルムを直接積層することによって得ることができる。
この成膜溶液は、多糖類にアミノ酸成分又は還元糖成分を所定温度で溶解した後、脱泡処理を施すことによって得ることができる。
また、脱泡処理を施したアミノ酸成分を含有する成膜溶液と還元糖成分を含有する成膜溶液との一方を、支持体上に流延して得た膜を所定温度に加熱して乾燥することによって非発色性可食フィルムを得ることができる。
更に、支持体上に得られた非発色性可食フィルム上に他方の成膜溶液を流延して成膜を行うことによって、二枚の非発色性可食フィルムを直接積層して積層フィルムを得ることができる。
その後、得られた積層フィルムを乾燥して、発色性可食フィルムを得ることができる。
【0009】
この様にして得られた積層フィルムの発色性可食フィルム内又は両フィルムの境界及びその近傍に水や空気が残留し易い。このため、得られた発色性可食フィルムを加熱すると、メイラード反応を惹起しつつ、水が蒸発し或いは空気が膨張して発色性可食フィルムが部分的に膨らむため、発色性可食フィルムを凹凸状に形成すると共に、焦げ目や焼き色を付けることができる。
以上の説明では、支持体上に二枚の非発色性可食フィルムを直接積層して積層フィルムを得ていたが、二枚の非発色性可食フィルムの各々を成膜した後に、両フィルムを密着することによって積層フィルムを得ることもできる。
ところで、成膜溶液の一方を、支持体上に流延して得た非発色性可食フィルムを乾燥させることなく、他方の成膜溶液を流延して成膜を行った後、充分に乾燥を施した得た積層フィルムでは、非発色性可食フィルム内又は両フィルムの境界及びその近傍に水や空気が残留し難い。このため、得られた発色性可食フィルムを加熱することによって、メイラード反応に基づく焦げ目や焼き色を付けることができるが、発色性可食フィルムの形状の変化は少ない。
一方、成膜溶液の一方を、支持体上に流延して得た非発色性可食フィルムを所定温度で加熱して乾燥させた後、他方の成膜溶液を流延して成膜を行って得た積層フィルムでは、非発色性可食フィルム内又は両フィルムの境界及びその近傍に水や空気が残留し易い。このため、得られた発色性可食フィルムを加熱すると、メイラード反応を惹起しつつ、水が蒸発し或いは空気が膨張して発色性可食フィルムが部分的に膨らむため、発色性可食フィルムを凹凸状に形成すると共に、焦げ目や焼き色を付けることができる。
【実施例1】
【0010】
(1)成膜溶液の調整
寒天(伊那食品工業株式会社製 商品名UP−37)7g、グリセリン(坂本薬品工業株式社製)3g及びアミノ酸成分であるグリシン(市販品)2gを水100gに加熱溶解した後、80℃で保持して脱泡を施して成膜溶液Aを得た。
また、寒天(伊那食品工業株式会社製 商品名UP−37)7g、グリセリン3g及び還元糖成分であるグルコース2gを水100gに加熱溶解した後、80℃で保持して脱泡を施して成膜溶液Bを得た。
(2)成膜
得られた成膜溶液Aを、支持板上に流延して得た膜を80℃に加熱して、グリシンが含有されている非発色性可食フィルム1を形成した。
更に、得られた非発色性可食フィルム1を乾燥することなく、非発色性可食フィルム1上に成膜溶液Bを流延して、グルコースが含有されている非発色性可フィルム2を形成し、非発色性可食フィルム1と非発色性可食フィルム2とが積層された発色性可食フィルムを得ることができた。
(3)加熱処理及び吸光度測定
得られた発色性可食フィルムを充分に乾燥した後、電子レンジ(1000W)内に挿入して、3分間加熱処理を施したところ、発色性可食フィルムに褐色の発色が確認された。この発色性可食フィルムには、目立つ凹凸は観察されなかった。
発色が確認された発色性可食フィルム及び加熱前で発色していない発色性可食フィルムについて、吸光光度計(株式会社島津製作所製 商品名UVmin1240)を用いて測定した。その結果を下記表1に示す。
【0011】
【表1】

表1から明らかな様に、加熱によって発色性可食フィルムの光透過度が可視光領域全体で減少している。特に、青色領域の透過度が低下していることから、発色性可食フィルムには、電子レンジの加熱によって、褐色の焦げ目が付いていることが判る。
【実施例2】
【0012】
実施例1で得た発色性可食フィルムを、50cm角に裁断し、グラタン上に載せて電子レンジ(600W)内に挿入して、6分間の加熱処理を施した。
電子レンジの加熱によって、発色性可食フィルムの部分が焦げ色・焼き色を呈していた。この焦げ目・焼き色は、オーブンを用いてグラタンを加熱したと同様なものであった。
【実施例3】
【0013】
実施例1で得た成膜溶液Aを、支持板上に流延して得た膜を80℃に加熱して、グリシンが含有されている非発色性可食フィルム1を形成した後、非発色性可食フィルム1を充分に乾燥した。
次いで、充分に乾燥された非発色性可食フィルム1上に、実施例1で得た成膜溶液Bを流延して、グルコース(市販品)が含有されている非発色性可フィルム2を形成し、非発色性可食フィルム1と非発色性可食フィルム2とが積層された発色性可食フィルムを得た。
得られた発色性可食フィルムを充分に乾燥した後、電子レンジ(1000W)内に挿入して、3分間加熱処理を施したところ、発色性可食フィルムに褐色の発色が確認された。
更に、発色性可食フィルムには、部分的に直径約1〜7mmで且つ高さが1〜3mm程度の凸部が形成されていた。かかる凸部にも、褐色の焦げ目が形成されており、立体的な焦げ目を形成できた。
【実施例4】
【0014】
実施例3で得た発色性可食フィルムを5cm角に裁断し、餅の上に載せて電子レンジ(600W)内に挿入して、3分間の加熱処理を施した。
電子レンジの加熱によって、餅の上の発色性可食フィルムの部分が焦げ色・焼き色を呈していた。この焦げ目・焼き色はオーブンを用いて餅を焼いた場合と同様のものであった。
【実施例5】
【0015】
実施例1において、アミノ酸としてアルギニン(市販品)を用い、還元糖としてフルクトース(市販品)を用いた他は実施例1と同様にして、発色性可食フィルムを作製した。
実施例1と同様に加熱処理をしてフィルムの発色を吸光光度計にて測定した。その結果を下記表2に示す。
【0016】
【表2】

表2から明らかなように、実施例1で作製した発色性可食フィルムと同等の色を呈していた。
【比較例】
【0017】
寒天(伊那食品工業株式会社製 商品名UP−37)7g、グリセリン3g、アミノ酸成分であるグリシン2g及び還元糖成分であるグルコース2gを水100gに分散・加熱溶解した後、80℃で保持して脱泡を施して成膜溶液を得た。
得られた製膜溶液を、支持板上に流延して得た膜を80℃に加熱して、グリシンとグルコースとが含まれた発色性可食フィルム2を得た。
得られた発色性可食フィルム2と実施例1で得られた発色性可食フィルム1とについて、吸光光度計(株式会社島津製作所製 商品名UVmin1240)を用いて測定した。その結果を下記表3に示す。
【0018】
【表3】

表3から明らかな様に、発色性可食フィルム2は、発色性可食フィルム1に比較して、光透過度が可視光領域全体で小さいことが明らかである。特に、発色性可食フィルム2は、発色性可食フィルム1に比較して、青色領域の透過度が低いことから、発色性可食フィルム1よりも褐色を呈していることが判る。このことから、メイラード反応を起こす材料を別々に調整した方が、透明度が高い(余分な褐変のない)フィルムを作製することができる。特に、製造工程において加熱をする必要がある場合には有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱によってメイラード反応を惹起して、焦げ目を付けることのできる発色性可食フィルムが、単独ではメイラード反応を惹起することのない少なくとも二枚の非発色性可食フィルムが直接積層されて形成されている積層フィルムであって、
前記二枚の非発色性可食フィルムの一方が、アミノ酸成分が含有されている可食フィルムであり、且つ他方の非発色性可食フィルムが、還元糖成分が含有されている可食フィルムであることを特徴とする発色性可食フィルム。
【請求項2】
加熱によってメイラード反応を惹起して、焦げ目を付けることのできる発色性可食フィルムを製造する際に、
アミノ酸成分が含有されている成膜溶液と、還元糖成分が含有されている成膜溶液とを用い、前記成膜溶液の一方を流延して形成した非発色性可食フィルム上に、他方の成膜溶液を流延して非発色性可食フィルムを直接積層することを特徴とする発色性可食フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−136684(P2010−136684A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316630(P2008−316630)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】