発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法
【課題】収穫後制限された条件下に熟成させて製造する後熟ホップの製造方法において、特定の指標を設けて、ホップの熟成度を調整し、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定して製造する方法を提供すること。
【解決手段】収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度をホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、調整することにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造する
【解決手段】収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度をホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、調整することにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップを収穫後制限された条件下に熟成させて製造する、発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、ホップの熟成度を調整し、かかるホップの熟成度の調整により、発酵アルコール飲料に苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料や、ビール風飲料のような発酵アルコール飲料においては、酵母及びホップを用いて発酵アルコール飲料の製造が行われている。このような酵母及びホップを用いた発酵アルコール飲料の製造において、ホップは、通常、ホップ毬花を収穫・乾燥後(通常、8〜9%程度に乾燥される)、収穫年内にペレットに加工して用いられている。すなわち、発酵アルコール飲料の製造に用いられるホップは、収穫後乾燥して、圧縮もしくは粉砕ペレット状に加工して、低温保存され、使用に際しては、その必要量を仕込み工程の麦汁煮沸の際に投入して苦味成分並びにホップ由来の香気成分を麦汁に移行させ、発酵、貯蔵を経て、発酵アルコール飲料にホップ由来の苦味成分並びに香気成分が付与されている(宮地秀夫著「ビール醸造技術」1999/12/28刊行、p.29〜66)。
【0003】
ホップは通常、ホップ毬花を収穫・乾燥後、収穫年内にペレットに加工して用いられている。乾燥状態の毬花はそのままの状態に保持すると、保管による酸化で熟成が進み、酸化精油成分が増加し、Humulene Epoxide IIのようなハーブ様の香気成分が増加することが知られている。また、ホップの保管に伴いhumulinic acidsや、huluponesが増加する。これらの酸化劣化物は、総じてイソα酸よりもビールにより移行しやすく、ビールの苦味価は増すが、一方実際に官能で感じる苦味の程度は弱くなるといわれている。
【0004】
しかしながら、過度に熟成が進むと、ホップ中の樹脂成分の分解により生成した脂肪酸が移行し、Valeric acid等のチーズ様のような異臭が付与されてしまう。従って、これらの過度の熟成の進行を避けるために、通常は、ホップ毬花を収穫・乾燥後、酸化が進行する前に、できるだけ速やかにペレット化し、不活性ガス雰囲気下で保存するか、或いは、冷蔵又は凍結のような、できるだけ低温で保管することで、酸化の進行を遅らせる方策が採られてきたのが現状である。
【0005】
しかし、こうした方法では、香気成分の生成のための酸化反応が十分には行われないため、アルコール飲料の製造方法において、ホップの香気成分のような望ましい特性を十分引き出せないという問題があった。一方で、香気成分の生成のための酸化反応を十分に行なうと、ホップ由来のチーズ臭や樹脂様臭を伴う、香味バランスの悪いアルコール飲料となる傾向が強かった。したがって、以前は、アルコール飲料の原料として収穫したホップ毬花に関して、香気成分の生成のための酸化反応を有意に促進させつつ、かつ、汗臭や他の望ましくない酸化臭成分及び樹脂様臭などを有意に抑制させ、かかる生成された香気成分を積極的に利用するという発想やそのための手段が存在していなかったという状況にあった。
【0006】
そこで、酵母及びホップを用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、原料煮沸工程時に用いるホップを、収穫後、望ましくない酸化臭成分や樹脂様臭などの生成を有意に抑制、制限させた条件下に熟成させ、ホップに含まれる香気成分の生成のための酸化反応を有意に促進させて、ホップに含まれる香気成分を増加させたホップ(後熟ホップ)を用いることにより、ホップ香気成分を豊富化した発酵アルコール飲料を製造する方法を開発した(特願2005−281434号)。
【0007】
この後熟ホップの製造には、ホップ毬花中の香気成分の生成のための酸化反応を有意に行うために、所定の温度で、3ヶ月以上、好ましくは6ヶ月以上、保存熟成させることが必要である。また、ホップは、3ヶ月以上保存熟成させた後に、熟成を停止させて保存する。従って、後熟ホップを使用した好ましい香味のビール等を醸造するにあたっては、上記のような条件下で、的確な品質コントロールを行い、品質にバラツキのない適度な熟成度を有する後熟ホップを製造する必要がある。しかし、今まで、そのような的確な後熟ホップの熟成度合いをコントロールする方法が開発されていなかったために、後熟ホップの製造にあたっては、その製造管理条件の枠内で、温度及び時間等について、経験的にその熟成度をコントロールするしかなかった。
【0008】
【非特許文献1】宮地秀夫著「ビール醸造技術」1999/12/28刊行、p.29〜66。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願人は、酵母及びホップを用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、ホップ香気成分を豊富化した発酵アルコール飲料を製造するために、原料煮沸工程時に用いるホップを、収穫後、望ましくない酸化臭成分や樹脂様臭などの生成を有意に抑制、制限させた条件下に熟成させ、ホップに含まれる香気成分の生成のための酸化反応を有意に促進させて、ホップに含まれる香気成分を増加させた、後熟ホップの製造方法を開発した(特願2005−281434号)。この後熟ホップを用いた発酵アルコール飲料の製造に際して、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を有する発酵アルコール飲料を安定して製造するためには、後熟ホップの熟成工程において、該後熟ホップの製造条件下で、ホップの的確な品質コントロールを行い、品質にバラツキのない適度な熟成度を有する後熟ホップを製造する必要がある。
【0010】
そこで、品質にバラツキのない適度な熟成度を有する後熟ホップを安定して製造するためには、その好ましい熟成度をモニタリングできる的確な管理手段を構築し、後熟ホップの熟成度合いをコントロールする必要がある。該管理手段を用いて、発酵アルコール飲料に苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与できる、品質の優れた後熟ホップを安定して製造・提供することが必要となる。すなわち、本発明の課題は、ホップを収穫後制限された条件下に熟成させて製造する後熟ホップの製造方法において、特定の指標を設けて、ホップの熟成度を調整し、かかるホップの熟成度の調整により、発酵アルコール飲料に苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度を、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、調整することによって、品質の優れた、均一な後熟ホップを安定的に製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明においては、GC/MS及びHPLCを用いて、ホップの後熟に伴い増加する物質を定量することで、ホップの後熟における熟成度合いをモニタリングし、その情報を基に、特定指標を特定して、その指標によりホップの後熟における熟成度合いをコントロールし、該コントロール手段を用いることで、発酵アルコール飲料に穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することに成功したものである。すなわち、本発明においては、GC/MSにより保管ホップの使用によりビール中で増加する香気成分4−メチル−3−ペンテン−1−オール(4−methyl−3−penten−1−ol)及びフルポン等のα酸・β酸由来の酸化物質をHPLCで分析し、それらが苦味物質に占める割合を指標とし、或いは、4−メチル−3−ペンテン−1−オールの濃度を、後熟ホップ製造時の指標とし、これらの指標を用いることで、ホップの後熟における熟成度合いを的確にコントロールできることを見い出し、該指標を用いることによって、発酵アルコール飲料に穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することができることを見い出した。
【0013】
本発明の基本的構成は、収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度を、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造する方法からなる。
【0014】
本発明において、試料をEBC法のHPLC分析に準じた方法により分析した場合の、リテンションタイム(R.T.)10分までに現れるR−フラクションエリアの4つのピーク面積の和は、HPLC用カラム;Nucleosil 100−5C18 4.0×250mmを用いて、蒸留水27%、メタノール72%、及び、リン酸1%からなる移動相Aを、1ml/分の一定流速で270nmの検出波長のHPLCによる測定をした場合において、4.5分、6.7分、7.6分及び9.5分付近(各々±1分)のリテンションタイムの順で検出される4つのピークの面積の総和として表すことができる。
【0015】
本発明において、R−フラクション比率Aの算出におけるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和は、EBC法のHPLC分析における移動相のリテンションタイム10分〜40分のHPLC送液の組成を、蒸留水27%、メタノール72%、及び、リン酸1%からなる移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた移動相を用いて検出されるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和を用いて算出することができる。
【0016】
また、R−フラクション比率Bの算出のためのイソα酸のピーク面積の和は、EBC法のHPLC分析における移動相のリテンションタイム10分〜40分のHPLC送液の組成を蒸留水27%、メタノール72%、及び、リン酸1%からなる移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた移動相を用いて検出されるイソα酸のピーク面積の総和を用いて算出することができる。該イソα酸のピーク面積の和は、リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、前記移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけて検出されるイソα酸由来の3つのピーク面積の総和として算出することができる。
【0017】
本発明において、R−フラクション比率Bを指標に調整される後熟ホップの製造は、ホップ、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のR−フラクション比率Bを指標に行ない、後熟ホップの製造条件を定めることができる。ホップにおけるR−フラクション比率Aの測定は、粉砕したホップをメタノール/リン酸溶液に懸濁撹拌した試料を用いて行なうことができ、発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率Bの測定は、発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料の試料をイソオクタンで抽出した抽出物を用いて行なうことができる。
【0018】
本発明において、試料中の4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度の指標として、試料をGC/MS質量分析器を用いて検出する場合には、内部標準物質Borneolのピーク強度に対する4−メチル−3−ペンテン−1−オールのピーク強度の比率を、試料の苦味価B.U.で除した4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率を指標として用いることができる。
【0019】
本発明の発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、粉砕したホップペレット0.5gを、メタノール10に対してリン酸1の割合で溶解したメタノール/リン酸溶液10mlに懸濁・攪拌させたサンプルから測定して求めたR−フラクション比率Aが、0.2から0.4となるようにホップの熟成度を調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨未が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することを可能とする。また、本発明の発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、後熟ホップを用いて調製した発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料のイソオクタン抽出物から測定して求めたR−フラクション比率Bが、0.30から0.40となるようにホップの熟成度を調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することができる。
【0020】
本発明の発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法においては、後熟ホップを用いて調製した発酵アルコール飲料における4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率が、0.24〜0.40(ppb/B.U.)となるようにホップの熟成度を調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することができる。特に、後熟ホップを用いて調製した発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率Bが、0.30から0.40であって、かつ、4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が、0.24〜0.40(ppb/B.U.)となるようにホップの熟成度を調整することにより、高品質の後熟ホップを安定的に製造することができる。
【0021】
本発明の製造方法を用いて製造された後熟ホップを用いることにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を有する、すなわち、“美味しい苦味”を有する発酵アルコール飲料を安定して製造することができる。本発明における発酵アルコール飲料としては、ビール、発泡酒又はビール風飲料を挙げることができる。
【0022】
すなわち具体的には本発明は、(1)発酵アルコール飲料の原料として用いるホップの加工方法であって、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、ホップの熟成度を調整することを特徴とする後熟ホップの製造方法や、(2)前記苦味成分を、HPLC用カラム;Nucleosil 100−5C18 4.0×250mmを用いて、蒸留水27%、メタノール72%、および、リン酸1%からなる移動相Aを、1ml/分の一定流速で270nmの検出波長のHPLCによる測定をした場合において、4.5分、6.7分、7.6分および9.5分の各々±1分のリテンションタイムの順で検出される4つのピーク面積の総和であるR-フラクションで表したことを特徴とする、上記(1)記載の後熟ホップの製造方法からなる。
【0023】
また本発明は、(3)リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、前記移動相A100%から、メタノール99%およびリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Aを、ホップペレット中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の後熟ホップの製造方法や、(4)ホップペレット中の苦味成分を分析する場合において、粉砕したホップペレット0.5gを、メタノール10に対してリン酸1の割合で溶解したメタノール/リン酸溶液10mlに懸濁・攪拌させたサンプルから測定して求めたR-フラクション比率Aが、0.2から0.4となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか記載の後熟ホップの製造方法からなる。
【0024】
さらに本発明は、(5)リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるイソα酸由来の3つのピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Bを、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の後熟ホップの製造方法や、(6)発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料のイソオクタン抽出物から測定して求めたR-フラクション比率Bが、0.30から0.40となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、上記(1)、(2)、又は(5)記載の後熟ホップの製造方法からなる。
【0025】
また本発明は、(7)発酵前溶液、発酵液、又は発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出後、GC/MS質量分析器を用いて検出した場合において、内部標準物質Borneolのピーク強度に対する4−メチル−3−ペンテン−1−オールのピーク強度の比率を、ビールの苦味価B.U.で除した値である4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率を指標とすることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の後熟ホップの製造方法や、(8)上記(1)〜(7)のいずれか記載の製造方法によって製造された後熟ホップを用いたことを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(9)上記(8)記載の製造方法によって製造された発酵アルコール飲料が、ビール、発泡酒又はビール風飲料であることを特徴とする発酵アルコール飲料や、(10)発酵アルコール飲料における、R-フラクション比率Bが、0.30から0.40であって、かつ、4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が、0.24から0.40ppb/B.U.であることを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料からなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の管理指標を用いた後熟ホップの製造方法により、発酵アルコール飲料に、しっかりとした苦味とハーブのような香りが調和した爽やかな余韻が感じられる香味を付与する後熟ホップ特有の高品質のホップを安定的に製造することができ、しかも、本発明の指標による管理の条件を採用することにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造することができる。本発明の後熟ホップを用いることにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を有する、すなわち、“美味しい苦味”を有するビールや、発泡酒、又はビール風飲料等の発酵アルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度を、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、指標に調整することからなる。本発明において、後熟ホップの製造には、これらのR−フラクション比率及び/又は試料中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールの濃度を指標に、ホップの熟成度を調整し、管理するが、本発明の実施の態様として、これらの指標であるR−フラクション比率及び試料中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールの濃度の算出及び測定について以下に説明する。また、それらの指標を用いて製造した後熟ホップの評価のための官能評価方法及び評価結果についても、以下に説明する。
【0028】
(用いる器具、装置)
本発明の実施に際しては、GC/MS質量分析器、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)及び味センサーが用いられる。本発明において用いられるGC/MS質量分析器、HPLC及び味センサーとしては、市販の装置を用いることができる。
【0029】
[1.ホップペレットにおけるR−フラクションA比率の算出]
ホップペレットにおけるR−フラクション比率Aの算出について説明する:ホップペレット0.5gを市販ミキサーで粉砕し、この粉砕ホップにメタノール:リン酸=10:1の比率で作成した混合液10mlを加え懸濁させる。次に1時間穏やかに上下に懸濁液を攪拌させ調整したサンプルを下記分析条件下に、HPLCに供する。HPLCでの分析条件はEBC Method 7.7に準じる方法で実施した。
【0030】
分析の結果を、図1に示す。なおR.T.=10minまでの非イソα酸画分のピークの分離を改善させるため、一部グラジエントプログラムを変更した(グラジエントプログラム:表1)。ホップの保管酸化に伴い増大するR.T.=10分までに出現するピーク(R−Fraction)のうち特に増加が大きい4つのピークに着目し、CSAペレット(チェコ・ザーツ産のホップ品種をペレット化したもの)におけるα酸およびβ酸のピークエリアに対する4つのR−フラクションのエリア面積比率をR−フラクション比率Aと定義する。4つのピークのPDA検出器での各ピークの吸収波長クロマトグラムは図2のとおりである。エリア面積はHPLCシステムで自動認識され、垂直分割された画ピークの面積とする。
【0031】
<HPLC分析条件>
カラム:Nucleosil 100−5C18 4.0×250mm
サンプル注入量:50μl
移動相A組成:蒸留水27.0%・メタノール72.0%・リン酸1.0%
移動相B組成:メタノール99.0%・リン酸1.0%
移動相流速:1ml/min.(流速一定)
検出波長:270nm
【0032】
<グラジエントプログラム>
【0033】
【表1】
【0034】
<R−フラクション比率Aの算出>
フルポン(Hulupone)を含む4つのピークであるR−フラクション エリア面積から、次式によりR−フラクション比率A(指標)を算出する:[R−フラクション比率A=(R−フラクションピーク面積の和)/(α酸+β酸のピーク面積の和)]
【0035】
[2.冷却麦汁におけるR−フラクション比率Bの算出]
冷却麦汁におけるR−フラクション比率Bの算出について説明する:イソオクタン抽出したサンプルを用いてHPLCにより、EBC Method 7.8に記載された方法に準じる方法で実施した。分析の結果を、図3に示す。なおR.T.=10minまでの非イソα酸画分のピークの分離を改善させるため、一部グラジエントプログラムを変更した(1と同条件)。ホップの保管酸化に伴い増大するR.T.=10分までに出現するピーク(R−Fraction)のうち特に増大が大きい4つのピークに着目し、この4つのピーク面積の和を冷却麦汁でのイソα酸由来の3つのピーク面積の総和で割った値をR−フラクション比率Bとする(図4)。エリア面積はHPLCシステムで自動認識され、垂直分割されたピークの面積とする(図4)。
【0036】
<R−フラクション比率Bの算出>
フルポン(Hulupone)を含む4つのピークであるR−フラクション エリア面積から、次式により冷却麦汁におけるR−フラクション比率B(指標)を算出する:[冷却麦汁におけるR−フラクション比率B=(R−フラクションピーク面積の和)/(イソα酸の3つのピーク面積の和)]
【0037】
[3.GC/MSによるホップ香気成分の分析]
GC/MSによるホップ香気成分の分析について説明する:ビール中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、それをGC/MSに供した。ボルネオール(Borneol)を内部標準物質として用い、SIMモードで一定既知濃度のボルネオールのピーク強度に対するサンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1-オール(4−methyl−3−penten−1−ol)に該当するピーク強度の比率を求めることで、4−メチル−3−ペンテン−1-オールの濃度を相対的に算出した。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は表2のとおり。後熟ホップを、100%使用した試醸品の分析結果を図5示す。
【0038】
【表2】
【0039】
<4−メチル−3−ペンテン−1-オール比率の算出>
4−メチル−3−ペンテン−1-オール比率を、次式から算出する:[4−メチル−3−ペンテン−1-オール比率=(内部標準ボルネオールに対する4−メチル−3−ペンテン−1-オール レスポンス比率)/(サンプルB.U.値)]
【0040】
なお、B.U.値(苦味価:ビターユニット:EBC1987)は、次のようにして算出する:3N HClで酸性とした10.0ml試料を、イソオクタン20mlで抽出して、イソオクタン層を275mμでイソオクタンを対象として吸光度を測定する。イソα酸以外の区分も含む。B.U.=E275×50。
【0041】
[4.官能パネルを用いたビールサンプルの官能評価]
<(1)評価用サンプルの調製>
評価に用いた貯酒サンプルは1.5Lスケールの装置を用いて作成した。仕込麦汁13.5度に調製した仕込麦汁(仕込時の麦芽使用比率67%,副原料(米・コーングリッツ・コーンスターチ)使用比率33%)をサンプルとして煮沸試験に用いた。電気ヒーターで麦汁を加温煮沸し、煮沸強度は一定で、90分間で蒸発率が10%となるようにコントロールして行い、ホップは煮沸開始直後に添加した。煮沸終了後、蒸発量と同量の水をサンプルに追加した上で、95℃で60分麦汁静置させた。ろ紙ろ過後、氷水で麦汁を冷却させた麦汁にビール酵母を添加し、12℃で1週間主発酵、4日間後発酵を行なったサンプルを試飲用貯酒サンプルとした。
【0042】
<(2)パネルによる官能評価>
ビール官能のためのトレーニングを受けたパネルによって、試醸サンプルの苦味評価を実施した。サンプル評価の実施の際には(1)で作製した貯酒サンプルのBUを予め測定し、B.U.を25となるように必要に応じて炭酸水でサンプルの稀釈を行なった。サンプル評価においては、専用の評価用紙を用い、B.U.=25である市販ビールを標準を評価3とし、それと比較して苦味質、苦味強度、後苦味を5段階で評価した。またパネルに苦味強度として実際に感じられる苦味感を評価するために、感知苦味をB.U.値として評価した。またその他サンプルに対する評価をフリーコメントとして記述した(実施例における表4、5、7参照)。
【0043】
パネル間で擦り合わせを行なった結果、上記で述べている「おだやかな苦味」として、(a)苦味感知がゆるやかであり、シャープではない;(b)後苦味が弱く、後に苦味が残らない;(c)単調な苦味でなく複雑に感じられる、ことを満足することと定義付けした。官能評価におけるパネルでの苦味感知をイメージで表すと、図6のようになる。
【0044】
[5.味センサーを用いたビールサンプルの苦味評価]
味センサーとして、Insent社製 「Taste sensing system SA402B」を用いた。
【0045】
<(1)測定法の原理>
この装置は、生体での味検出機構を模倣し、被測定溶液中に浸漬させた特定の味覚に反応する人工脂質膜の表面電位を測定することにより、味を検出している。
【0046】
<(2)測定法>
各サンプルを測定時間30秒でそれぞれ3回ずつのCPA測定を実施した。
【0047】
(CPA測定法について)
サンプルを測定する前の基準液の測定値をVr、サンプルの測定値をVs、サンプル測定後の基準液の測定値をVr’とする。基準液は人の唾液に相当し、そこからの電位変化が味信号であり、ここでは相対値(Vs−Vr)と呼ぶ。またサンプルを測定した前後での基準液の測定値の変化(Vr’−Vr)は膜に呈味物質が吸着したことにより、膜の電荷密度や構造が変化したことに由来すると考えられる。人に置き換えれば、ビールを飲んだ後もしばらく口の中に苦味が残った結果生じる後味に相当する。(Vr’−Vr)をCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption )値と呼ぶ。
【0048】
(CPA測定操作)
(a)洗浄液1(エタノール溶液)60秒
(b)洗浄液2(基準液による共洗い)30秒
(c)洗浄液3(基準液による共洗い)30秒
(d)安定液にて安定判定30秒
(e)サンプル測定30秒
(f)洗浄液4(基準液による共洗い)3秒
(g)洗浄液5(基準液による共洗い)3秒
(h)CPA液測定30秒
(i)測定によって得られたデータには一様なドリフトがあるため、統計解析に基づいた補正を実施する。
【0049】
なお基準液、安定液、CPA液は30mM KCl+0.3mM酒石酸を用いる。またセンサーの校正用として、基本味サンプル用試薬を事前に測定してセンサー校正を実施する。用いた試薬は、表3のとおり。
【0050】
【表3】
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
CSAペレットホップを開封後異なる温度(35℃と25℃)で保管し経時的にサンプリング分析を実施した。分析は上記「ホップペレットにおけるR−フラクション比率Aの算出」に基づく方法で実施した。
【0053】
パネルによる官能評価の結果、R−フラクション比率Aが0.30±0.10の範囲のもの(図7)を用いた試醸サンプルが苦味が穏やかに感じられ、また後苦味も少なく苦味質のバランスが良好であった(表4)。R−フラクション比率Aが下限値を下回った場合には、シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なる。一方で上限を上回ると、水っぽく感じられまた渋味が増し、苦味質は劣ったものとなった。このことから、R−フラクション比率Aをモニタリングすることにより、最適なCSA保管ホップペレットを作成することができる。
【0054】
【表4】
【実施例2】
【0055】
CSAペレットホップを30℃で保管し、経時的にサンプリングを実施し、4−メチル−3−ペンテン−1−オールを分析した。またそれぞれの保管日数(0.5ヶ月・1ヶ月・2ヶ月)でサンプリングしたホップペレットを用いて試醸を行なった結果、4−メチル−3−ペンテン−1−オールの内部標準ボルネオール(Borneol)に対するレスポンス比が1.5±0.3のものについて、後熟感のバランスがよく、香味評価が良好であった。一方、1.2未満のものについて、シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なり後熟感が不足していると考えられた(図8・表5)。また上限値1.8を超えると、水っぽく感じられまた渋味が増し苦味質は良くない。
【0056】
このことから、ラボ試醸を行い、4−メチル−3−ペンテン−1−オール分析値をモニタリングすることにより、ビールにおいて最適な香味バランスを有するCSA保管ホップペレットを作成することができる。指標の設定にあたって4−メチル−3−ペンテン−1−オールと同じく保管に伴いホップ中で増加するHumullene Diepoxide IIと比較したところ、官能と良好な相関関係が得られたのは、4−メチル−3−ペンテン−1−オールであった。
【0057】
【表5】
【実施例3】
【0058】
B.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸(表6)を行い、各サンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1−オール、R−フラクションの特定4画分の分析値と専門パネルによる官能評価及び味センサーによる官能評価を実施した。結果、保管ホップ使用比率の増大にともなって穏やかな苦味感が感じられ苦味質も良好であった(表7)。
【0059】
冷却麦汁におけるR−フラクション比率Bが0.35±0.05かつ4−メチル−3−ペンテン−1−オールの内部標準ボルネオール(Borneol)に対するレスポンス比が1.5±0.3のものについてである際に苦味質は良好であり、下限値を下回った場合シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なる。一方で上限を上回ると、水っぽく感じられまた渋味が増し、苦味質は劣ったものとなった(図9、図10、表7)。また同じサンプルを味センサーに供した結果が図11である。苦味や酸味が保管ホップの使用比率増大に伴って、増加する。このことから、パネルが穏やかな苦味と評価したサンプルは味センサーでは苦味が弱く感じられると評価されることが判明し、パネルの官能評価を味センサーによっても定量的に評価されていると考えられる。また苦味が良好となる最適な範囲は試醸サンプルの冷却麦汁での冷麦R−フラクション比率B及び貯酒での4−メチル−3−ペンテン−1−オールの比率により把握することができる。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【実施例4】
【0062】
上記実施例で記載した指標を用いて作成した保管ホップ(後熟ホップ)を用いてビール(ビール風飲料)を醸造した場合に、発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率Bが0.35±0.05かつ4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が0.32±0.08(ppb/B.U.)に入るビール(ビール風飲料)が得られ、最適な苦味質を得ることができる(図12、13)。下限値を下回った場合シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なる。一方で上限を上回ると、チーズ様の異臭が感じられる。また水っぽく感じられ渋味が増し、苦味質は劣ったものとなった。
【0063】
なお、この際の発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B及び4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度は次のとおり定義する。
【0064】
(発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B)
フルポン(Hulupone)を含む4つのR−フラクションのエリア面積から、発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B(指標)を算出する。[発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B=(R−フラクションの4つのピーク面積の和)/(イソα酸の3つのピーク面積の和)
【0065】
(発酵アルコール飲料における4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度)
[4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度=(4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度)/(発酵アルコール飲料のB.U.値)
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のR−フラクション比率A(指標)の算出において、ホップペレットにおけるHPLCでの分析の結果を示す図である。
【図2】本発明のR−フラクション比率Aの算出において、ホップペレットにおけるHPLCでの分析の結果の4つのピークのPDA検出器での各ピークの吸収波長クロマトグラムを示す図である。
【図3】本発明のR−フラクション比率B(指標)の算出において、冷却麦汁におけるHPLCでの分析の結果を示す図である。
【図4】本発明のR−フラクション比率Bの算出において、冷却麦汁におけるHPLCでの分析の結果の4つのピークのPDA検出器での各ピークの吸収波長クロマトグラムを示す図である。
【図5】本発明のGC/MSによるホップ香気成分の分析において、後熟ホップを、100%使用した試醸品について、GC/MSにより、ボルネオール(Borneol)を内部標準物質として用い、SIMモードで一定既知濃度のボルネオールのピーク強度に対するサンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1-オールに該当するピーク強度の比率を求めた結果について、示す図である。
【図6】本発明の官能パネルを用いたビールサンプルの官能評価試験において、官能評価におけるパネルでの苦味感知をイメージで表わした図である。
【図7】本発明の実施例において、CSAペレットホップを開封後異なる温度で保管し経時的にサンプリング分析し、パネルによる官能評価した結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、CSAペレットホップを30℃で保管し、経時的にサンプリングを実施し、4−メチル−3−ペンテン−1−オールを分析した結果について、4−メチル−3−ペンテン−1−オールの挙動と苦味物質との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例のB.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸試験において、R−フラクションの特定4画分の分析値と専門パネルによる官能評価の結果について、示す図である。
【図10】本発明の実施例のB.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸試験において、各サンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールと専門パネルによる官能評価の結果について、示す図である。
【図11】本発明の実施例のB.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸試験において、各サンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールと、味センサーによる官能評価を実施した結果について示す図である。
【図12】本発明の実施例において、本発明の指標を用いて作成した保管ホップ(後熟ホップ)を用いて通常ビールを醸造した場合における、通常ビールとR−フラクション比率Bの比較について示す図である。
【図13】本発明の実施例において、本発明の指標を用いて作成した保管ホップ(後熟ホップ)を用いて通常ビールを醸造した場合における、市販ビールと4−メチル−3−ペンテン−1−オール分析値との比較について示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップを収穫後制限された条件下に熟成させて製造する、発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、ホップの熟成度を調整し、かかるホップの熟成度の調整により、発酵アルコール飲料に苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料や、ビール風飲料のような発酵アルコール飲料においては、酵母及びホップを用いて発酵アルコール飲料の製造が行われている。このような酵母及びホップを用いた発酵アルコール飲料の製造において、ホップは、通常、ホップ毬花を収穫・乾燥後(通常、8〜9%程度に乾燥される)、収穫年内にペレットに加工して用いられている。すなわち、発酵アルコール飲料の製造に用いられるホップは、収穫後乾燥して、圧縮もしくは粉砕ペレット状に加工して、低温保存され、使用に際しては、その必要量を仕込み工程の麦汁煮沸の際に投入して苦味成分並びにホップ由来の香気成分を麦汁に移行させ、発酵、貯蔵を経て、発酵アルコール飲料にホップ由来の苦味成分並びに香気成分が付与されている(宮地秀夫著「ビール醸造技術」1999/12/28刊行、p.29〜66)。
【0003】
ホップは通常、ホップ毬花を収穫・乾燥後、収穫年内にペレットに加工して用いられている。乾燥状態の毬花はそのままの状態に保持すると、保管による酸化で熟成が進み、酸化精油成分が増加し、Humulene Epoxide IIのようなハーブ様の香気成分が増加することが知られている。また、ホップの保管に伴いhumulinic acidsや、huluponesが増加する。これらの酸化劣化物は、総じてイソα酸よりもビールにより移行しやすく、ビールの苦味価は増すが、一方実際に官能で感じる苦味の程度は弱くなるといわれている。
【0004】
しかしながら、過度に熟成が進むと、ホップ中の樹脂成分の分解により生成した脂肪酸が移行し、Valeric acid等のチーズ様のような異臭が付与されてしまう。従って、これらの過度の熟成の進行を避けるために、通常は、ホップ毬花を収穫・乾燥後、酸化が進行する前に、できるだけ速やかにペレット化し、不活性ガス雰囲気下で保存するか、或いは、冷蔵又は凍結のような、できるだけ低温で保管することで、酸化の進行を遅らせる方策が採られてきたのが現状である。
【0005】
しかし、こうした方法では、香気成分の生成のための酸化反応が十分には行われないため、アルコール飲料の製造方法において、ホップの香気成分のような望ましい特性を十分引き出せないという問題があった。一方で、香気成分の生成のための酸化反応を十分に行なうと、ホップ由来のチーズ臭や樹脂様臭を伴う、香味バランスの悪いアルコール飲料となる傾向が強かった。したがって、以前は、アルコール飲料の原料として収穫したホップ毬花に関して、香気成分の生成のための酸化反応を有意に促進させつつ、かつ、汗臭や他の望ましくない酸化臭成分及び樹脂様臭などを有意に抑制させ、かかる生成された香気成分を積極的に利用するという発想やそのための手段が存在していなかったという状況にあった。
【0006】
そこで、酵母及びホップを用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、原料煮沸工程時に用いるホップを、収穫後、望ましくない酸化臭成分や樹脂様臭などの生成を有意に抑制、制限させた条件下に熟成させ、ホップに含まれる香気成分の生成のための酸化反応を有意に促進させて、ホップに含まれる香気成分を増加させたホップ(後熟ホップ)を用いることにより、ホップ香気成分を豊富化した発酵アルコール飲料を製造する方法を開発した(特願2005−281434号)。
【0007】
この後熟ホップの製造には、ホップ毬花中の香気成分の生成のための酸化反応を有意に行うために、所定の温度で、3ヶ月以上、好ましくは6ヶ月以上、保存熟成させることが必要である。また、ホップは、3ヶ月以上保存熟成させた後に、熟成を停止させて保存する。従って、後熟ホップを使用した好ましい香味のビール等を醸造するにあたっては、上記のような条件下で、的確な品質コントロールを行い、品質にバラツキのない適度な熟成度を有する後熟ホップを製造する必要がある。しかし、今まで、そのような的確な後熟ホップの熟成度合いをコントロールする方法が開発されていなかったために、後熟ホップの製造にあたっては、その製造管理条件の枠内で、温度及び時間等について、経験的にその熟成度をコントロールするしかなかった。
【0008】
【非特許文献1】宮地秀夫著「ビール醸造技術」1999/12/28刊行、p.29〜66。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願人は、酵母及びホップを用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、ホップ香気成分を豊富化した発酵アルコール飲料を製造するために、原料煮沸工程時に用いるホップを、収穫後、望ましくない酸化臭成分や樹脂様臭などの生成を有意に抑制、制限させた条件下に熟成させ、ホップに含まれる香気成分の生成のための酸化反応を有意に促進させて、ホップに含まれる香気成分を増加させた、後熟ホップの製造方法を開発した(特願2005−281434号)。この後熟ホップを用いた発酵アルコール飲料の製造に際して、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を有する発酵アルコール飲料を安定して製造するためには、後熟ホップの熟成工程において、該後熟ホップの製造条件下で、ホップの的確な品質コントロールを行い、品質にバラツキのない適度な熟成度を有する後熟ホップを製造する必要がある。
【0010】
そこで、品質にバラツキのない適度な熟成度を有する後熟ホップを安定して製造するためには、その好ましい熟成度をモニタリングできる的確な管理手段を構築し、後熟ホップの熟成度合いをコントロールする必要がある。該管理手段を用いて、発酵アルコール飲料に苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与できる、品質の優れた後熟ホップを安定して製造・提供することが必要となる。すなわち、本発明の課題は、ホップを収穫後制限された条件下に熟成させて製造する後熟ホップの製造方法において、特定の指標を設けて、ホップの熟成度を調整し、かかるホップの熟成度の調整により、発酵アルコール飲料に苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度を、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、調整することによって、品質の優れた、均一な後熟ホップを安定的に製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明においては、GC/MS及びHPLCを用いて、ホップの後熟に伴い増加する物質を定量することで、ホップの後熟における熟成度合いをモニタリングし、その情報を基に、特定指標を特定して、その指標によりホップの後熟における熟成度合いをコントロールし、該コントロール手段を用いることで、発酵アルコール飲料に穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することに成功したものである。すなわち、本発明においては、GC/MSにより保管ホップの使用によりビール中で増加する香気成分4−メチル−3−ペンテン−1−オール(4−methyl−3−penten−1−ol)及びフルポン等のα酸・β酸由来の酸化物質をHPLCで分析し、それらが苦味物質に占める割合を指標とし、或いは、4−メチル−3−ペンテン−1−オールの濃度を、後熟ホップ製造時の指標とし、これらの指標を用いることで、ホップの後熟における熟成度合いを的確にコントロールできることを見い出し、該指標を用いることによって、発酵アルコール飲料に穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することができることを見い出した。
【0013】
本発明の基本的構成は、収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度を、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造する方法からなる。
【0014】
本発明において、試料をEBC法のHPLC分析に準じた方法により分析した場合の、リテンションタイム(R.T.)10分までに現れるR−フラクションエリアの4つのピーク面積の和は、HPLC用カラム;Nucleosil 100−5C18 4.0×250mmを用いて、蒸留水27%、メタノール72%、及び、リン酸1%からなる移動相Aを、1ml/分の一定流速で270nmの検出波長のHPLCによる測定をした場合において、4.5分、6.7分、7.6分及び9.5分付近(各々±1分)のリテンションタイムの順で検出される4つのピークの面積の総和として表すことができる。
【0015】
本発明において、R−フラクション比率Aの算出におけるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和は、EBC法のHPLC分析における移動相のリテンションタイム10分〜40分のHPLC送液の組成を、蒸留水27%、メタノール72%、及び、リン酸1%からなる移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた移動相を用いて検出されるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和を用いて算出することができる。
【0016】
また、R−フラクション比率Bの算出のためのイソα酸のピーク面積の和は、EBC法のHPLC分析における移動相のリテンションタイム10分〜40分のHPLC送液の組成を蒸留水27%、メタノール72%、及び、リン酸1%からなる移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた移動相を用いて検出されるイソα酸のピーク面積の総和を用いて算出することができる。該イソα酸のピーク面積の和は、リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、前記移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけて検出されるイソα酸由来の3つのピーク面積の総和として算出することができる。
【0017】
本発明において、R−フラクション比率Bを指標に調整される後熟ホップの製造は、ホップ、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のR−フラクション比率Bを指標に行ない、後熟ホップの製造条件を定めることができる。ホップにおけるR−フラクション比率Aの測定は、粉砕したホップをメタノール/リン酸溶液に懸濁撹拌した試料を用いて行なうことができ、発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率Bの測定は、発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料の試料をイソオクタンで抽出した抽出物を用いて行なうことができる。
【0018】
本発明において、試料中の4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度の指標として、試料をGC/MS質量分析器を用いて検出する場合には、内部標準物質Borneolのピーク強度に対する4−メチル−3−ペンテン−1−オールのピーク強度の比率を、試料の苦味価B.U.で除した4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率を指標として用いることができる。
【0019】
本発明の発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、粉砕したホップペレット0.5gを、メタノール10に対してリン酸1の割合で溶解したメタノール/リン酸溶液10mlに懸濁・攪拌させたサンプルから測定して求めたR−フラクション比率Aが、0.2から0.4となるようにホップの熟成度を調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨未が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することを可能とする。また、本発明の発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、後熟ホップを用いて調製した発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料のイソオクタン抽出物から測定して求めたR−フラクション比率Bが、0.30から0.40となるようにホップの熟成度を調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することができる。
【0020】
本発明の発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法においては、後熟ホップを用いて調製した発酵アルコール飲料における4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率が、0.24〜0.40(ppb/B.U.)となるようにホップの熟成度を調整することにより、発酵アルコール飲料に、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを安定的に製造することができる。特に、後熟ホップを用いて調製した発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率Bが、0.30から0.40であって、かつ、4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が、0.24〜0.40(ppb/B.U.)となるようにホップの熟成度を調整することにより、高品質の後熟ホップを安定的に製造することができる。
【0021】
本発明の製造方法を用いて製造された後熟ホップを用いることにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を有する、すなわち、“美味しい苦味”を有する発酵アルコール飲料を安定して製造することができる。本発明における発酵アルコール飲料としては、ビール、発泡酒又はビール風飲料を挙げることができる。
【0022】
すなわち具体的には本発明は、(1)発酵アルコール飲料の原料として用いるホップの加工方法であって、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、ホップの熟成度を調整することを特徴とする後熟ホップの製造方法や、(2)前記苦味成分を、HPLC用カラム;Nucleosil 100−5C18 4.0×250mmを用いて、蒸留水27%、メタノール72%、および、リン酸1%からなる移動相Aを、1ml/分の一定流速で270nmの検出波長のHPLCによる測定をした場合において、4.5分、6.7分、7.6分および9.5分の各々±1分のリテンションタイムの順で検出される4つのピーク面積の総和であるR-フラクションで表したことを特徴とする、上記(1)記載の後熟ホップの製造方法からなる。
【0023】
また本発明は、(3)リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、前記移動相A100%から、メタノール99%およびリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Aを、ホップペレット中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の後熟ホップの製造方法や、(4)ホップペレット中の苦味成分を分析する場合において、粉砕したホップペレット0.5gを、メタノール10に対してリン酸1の割合で溶解したメタノール/リン酸溶液10mlに懸濁・攪拌させたサンプルから測定して求めたR-フラクション比率Aが、0.2から0.4となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか記載の後熟ホップの製造方法からなる。
【0024】
さらに本発明は、(5)リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるイソα酸由来の3つのピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Bを、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の後熟ホップの製造方法や、(6)発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料のイソオクタン抽出物から測定して求めたR-フラクション比率Bが、0.30から0.40となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、上記(1)、(2)、又は(5)記載の後熟ホップの製造方法からなる。
【0025】
また本発明は、(7)発酵前溶液、発酵液、又は発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出後、GC/MS質量分析器を用いて検出した場合において、内部標準物質Borneolのピーク強度に対する4−メチル−3−ペンテン−1−オールのピーク強度の比率を、ビールの苦味価B.U.で除した値である4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率を指標とすることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の後熟ホップの製造方法や、(8)上記(1)〜(7)のいずれか記載の製造方法によって製造された後熟ホップを用いたことを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(9)上記(8)記載の製造方法によって製造された発酵アルコール飲料が、ビール、発泡酒又はビール風飲料であることを特徴とする発酵アルコール飲料や、(10)発酵アルコール飲料における、R-フラクション比率Bが、0.30から0.40であって、かつ、4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が、0.24から0.40ppb/B.U.であることを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料からなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の管理指標を用いた後熟ホップの製造方法により、発酵アルコール飲料に、しっかりとした苦味とハーブのような香りが調和した爽やかな余韻が感じられる香味を付与する後熟ホップ特有の高品質のホップを安定的に製造することができ、しかも、本発明の指標による管理の条件を採用することにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を付与する後熟ホップを製造することができる。本発明の後熟ホップを用いることにより、苦味と旨味が調和した穏やかな苦味を有する、すなわち、“美味しい苦味”を有するビールや、発泡酒、又はビール風飲料等の発酵アルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、収穫後乾燥させたホップ毬花を熟成させて調製する発酵アルコール飲料製造用後熟ホップの製造方法において、ホップの熟成度を、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、指標に調整することからなる。本発明において、後熟ホップの製造には、これらのR−フラクション比率及び/又は試料中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールの濃度を指標に、ホップの熟成度を調整し、管理するが、本発明の実施の態様として、これらの指標であるR−フラクション比率及び試料中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールの濃度の算出及び測定について以下に説明する。また、それらの指標を用いて製造した後熟ホップの評価のための官能評価方法及び評価結果についても、以下に説明する。
【0028】
(用いる器具、装置)
本発明の実施に際しては、GC/MS質量分析器、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)及び味センサーが用いられる。本発明において用いられるGC/MS質量分析器、HPLC及び味センサーとしては、市販の装置を用いることができる。
【0029】
[1.ホップペレットにおけるR−フラクションA比率の算出]
ホップペレットにおけるR−フラクション比率Aの算出について説明する:ホップペレット0.5gを市販ミキサーで粉砕し、この粉砕ホップにメタノール:リン酸=10:1の比率で作成した混合液10mlを加え懸濁させる。次に1時間穏やかに上下に懸濁液を攪拌させ調整したサンプルを下記分析条件下に、HPLCに供する。HPLCでの分析条件はEBC Method 7.7に準じる方法で実施した。
【0030】
分析の結果を、図1に示す。なおR.T.=10minまでの非イソα酸画分のピークの分離を改善させるため、一部グラジエントプログラムを変更した(グラジエントプログラム:表1)。ホップの保管酸化に伴い増大するR.T.=10分までに出現するピーク(R−Fraction)のうち特に増加が大きい4つのピークに着目し、CSAペレット(チェコ・ザーツ産のホップ品種をペレット化したもの)におけるα酸およびβ酸のピークエリアに対する4つのR−フラクションのエリア面積比率をR−フラクション比率Aと定義する。4つのピークのPDA検出器での各ピークの吸収波長クロマトグラムは図2のとおりである。エリア面積はHPLCシステムで自動認識され、垂直分割された画ピークの面積とする。
【0031】
<HPLC分析条件>
カラム:Nucleosil 100−5C18 4.0×250mm
サンプル注入量:50μl
移動相A組成:蒸留水27.0%・メタノール72.0%・リン酸1.0%
移動相B組成:メタノール99.0%・リン酸1.0%
移動相流速:1ml/min.(流速一定)
検出波長:270nm
【0032】
<グラジエントプログラム>
【0033】
【表1】
【0034】
<R−フラクション比率Aの算出>
フルポン(Hulupone)を含む4つのピークであるR−フラクション エリア面積から、次式によりR−フラクション比率A(指標)を算出する:[R−フラクション比率A=(R−フラクションピーク面積の和)/(α酸+β酸のピーク面積の和)]
【0035】
[2.冷却麦汁におけるR−フラクション比率Bの算出]
冷却麦汁におけるR−フラクション比率Bの算出について説明する:イソオクタン抽出したサンプルを用いてHPLCにより、EBC Method 7.8に記載された方法に準じる方法で実施した。分析の結果を、図3に示す。なおR.T.=10minまでの非イソα酸画分のピークの分離を改善させるため、一部グラジエントプログラムを変更した(1と同条件)。ホップの保管酸化に伴い増大するR.T.=10分までに出現するピーク(R−Fraction)のうち特に増大が大きい4つのピークに着目し、この4つのピーク面積の和を冷却麦汁でのイソα酸由来の3つのピーク面積の総和で割った値をR−フラクション比率Bとする(図4)。エリア面積はHPLCシステムで自動認識され、垂直分割されたピークの面積とする(図4)。
【0036】
<R−フラクション比率Bの算出>
フルポン(Hulupone)を含む4つのピークであるR−フラクション エリア面積から、次式により冷却麦汁におけるR−フラクション比率B(指標)を算出する:[冷却麦汁におけるR−フラクション比率B=(R−フラクションピーク面積の和)/(イソα酸の3つのピーク面積の和)]
【0037】
[3.GC/MSによるホップ香気成分の分析]
GC/MSによるホップ香気成分の分析について説明する:ビール中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、それをGC/MSに供した。ボルネオール(Borneol)を内部標準物質として用い、SIMモードで一定既知濃度のボルネオールのピーク強度に対するサンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1-オール(4−methyl−3−penten−1−ol)に該当するピーク強度の比率を求めることで、4−メチル−3−ペンテン−1-オールの濃度を相対的に算出した。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は表2のとおり。後熟ホップを、100%使用した試醸品の分析結果を図5示す。
【0038】
【表2】
【0039】
<4−メチル−3−ペンテン−1-オール比率の算出>
4−メチル−3−ペンテン−1-オール比率を、次式から算出する:[4−メチル−3−ペンテン−1-オール比率=(内部標準ボルネオールに対する4−メチル−3−ペンテン−1-オール レスポンス比率)/(サンプルB.U.値)]
【0040】
なお、B.U.値(苦味価:ビターユニット:EBC1987)は、次のようにして算出する:3N HClで酸性とした10.0ml試料を、イソオクタン20mlで抽出して、イソオクタン層を275mμでイソオクタンを対象として吸光度を測定する。イソα酸以外の区分も含む。B.U.=E275×50。
【0041】
[4.官能パネルを用いたビールサンプルの官能評価]
<(1)評価用サンプルの調製>
評価に用いた貯酒サンプルは1.5Lスケールの装置を用いて作成した。仕込麦汁13.5度に調製した仕込麦汁(仕込時の麦芽使用比率67%,副原料(米・コーングリッツ・コーンスターチ)使用比率33%)をサンプルとして煮沸試験に用いた。電気ヒーターで麦汁を加温煮沸し、煮沸強度は一定で、90分間で蒸発率が10%となるようにコントロールして行い、ホップは煮沸開始直後に添加した。煮沸終了後、蒸発量と同量の水をサンプルに追加した上で、95℃で60分麦汁静置させた。ろ紙ろ過後、氷水で麦汁を冷却させた麦汁にビール酵母を添加し、12℃で1週間主発酵、4日間後発酵を行なったサンプルを試飲用貯酒サンプルとした。
【0042】
<(2)パネルによる官能評価>
ビール官能のためのトレーニングを受けたパネルによって、試醸サンプルの苦味評価を実施した。サンプル評価の実施の際には(1)で作製した貯酒サンプルのBUを予め測定し、B.U.を25となるように必要に応じて炭酸水でサンプルの稀釈を行なった。サンプル評価においては、専用の評価用紙を用い、B.U.=25である市販ビールを標準を評価3とし、それと比較して苦味質、苦味強度、後苦味を5段階で評価した。またパネルに苦味強度として実際に感じられる苦味感を評価するために、感知苦味をB.U.値として評価した。またその他サンプルに対する評価をフリーコメントとして記述した(実施例における表4、5、7参照)。
【0043】
パネル間で擦り合わせを行なった結果、上記で述べている「おだやかな苦味」として、(a)苦味感知がゆるやかであり、シャープではない;(b)後苦味が弱く、後に苦味が残らない;(c)単調な苦味でなく複雑に感じられる、ことを満足することと定義付けした。官能評価におけるパネルでの苦味感知をイメージで表すと、図6のようになる。
【0044】
[5.味センサーを用いたビールサンプルの苦味評価]
味センサーとして、Insent社製 「Taste sensing system SA402B」を用いた。
【0045】
<(1)測定法の原理>
この装置は、生体での味検出機構を模倣し、被測定溶液中に浸漬させた特定の味覚に反応する人工脂質膜の表面電位を測定することにより、味を検出している。
【0046】
<(2)測定法>
各サンプルを測定時間30秒でそれぞれ3回ずつのCPA測定を実施した。
【0047】
(CPA測定法について)
サンプルを測定する前の基準液の測定値をVr、サンプルの測定値をVs、サンプル測定後の基準液の測定値をVr’とする。基準液は人の唾液に相当し、そこからの電位変化が味信号であり、ここでは相対値(Vs−Vr)と呼ぶ。またサンプルを測定した前後での基準液の測定値の変化(Vr’−Vr)は膜に呈味物質が吸着したことにより、膜の電荷密度や構造が変化したことに由来すると考えられる。人に置き換えれば、ビールを飲んだ後もしばらく口の中に苦味が残った結果生じる後味に相当する。(Vr’−Vr)をCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption )値と呼ぶ。
【0048】
(CPA測定操作)
(a)洗浄液1(エタノール溶液)60秒
(b)洗浄液2(基準液による共洗い)30秒
(c)洗浄液3(基準液による共洗い)30秒
(d)安定液にて安定判定30秒
(e)サンプル測定30秒
(f)洗浄液4(基準液による共洗い)3秒
(g)洗浄液5(基準液による共洗い)3秒
(h)CPA液測定30秒
(i)測定によって得られたデータには一様なドリフトがあるため、統計解析に基づいた補正を実施する。
【0049】
なお基準液、安定液、CPA液は30mM KCl+0.3mM酒石酸を用いる。またセンサーの校正用として、基本味サンプル用試薬を事前に測定してセンサー校正を実施する。用いた試薬は、表3のとおり。
【0050】
【表3】
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
CSAペレットホップを開封後異なる温度(35℃と25℃)で保管し経時的にサンプリング分析を実施した。分析は上記「ホップペレットにおけるR−フラクション比率Aの算出」に基づく方法で実施した。
【0053】
パネルによる官能評価の結果、R−フラクション比率Aが0.30±0.10の範囲のもの(図7)を用いた試醸サンプルが苦味が穏やかに感じられ、また後苦味も少なく苦味質のバランスが良好であった(表4)。R−フラクション比率Aが下限値を下回った場合には、シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なる。一方で上限を上回ると、水っぽく感じられまた渋味が増し、苦味質は劣ったものとなった。このことから、R−フラクション比率Aをモニタリングすることにより、最適なCSA保管ホップペレットを作成することができる。
【0054】
【表4】
【実施例2】
【0055】
CSAペレットホップを30℃で保管し、経時的にサンプリングを実施し、4−メチル−3−ペンテン−1−オールを分析した。またそれぞれの保管日数(0.5ヶ月・1ヶ月・2ヶ月)でサンプリングしたホップペレットを用いて試醸を行なった結果、4−メチル−3−ペンテン−1−オールの内部標準ボルネオール(Borneol)に対するレスポンス比が1.5±0.3のものについて、後熟感のバランスがよく、香味評価が良好であった。一方、1.2未満のものについて、シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なり後熟感が不足していると考えられた(図8・表5)。また上限値1.8を超えると、水っぽく感じられまた渋味が増し苦味質は良くない。
【0056】
このことから、ラボ試醸を行い、4−メチル−3−ペンテン−1−オール分析値をモニタリングすることにより、ビールにおいて最適な香味バランスを有するCSA保管ホップペレットを作成することができる。指標の設定にあたって4−メチル−3−ペンテン−1−オールと同じく保管に伴いホップ中で増加するHumullene Diepoxide IIと比較したところ、官能と良好な相関関係が得られたのは、4−メチル−3−ペンテン−1−オールであった。
【0057】
【表5】
【実施例3】
【0058】
B.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸(表6)を行い、各サンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1−オール、R−フラクションの特定4画分の分析値と専門パネルによる官能評価及び味センサーによる官能評価を実施した。結果、保管ホップ使用比率の増大にともなって穏やかな苦味感が感じられ苦味質も良好であった(表7)。
【0059】
冷却麦汁におけるR−フラクション比率Bが0.35±0.05かつ4−メチル−3−ペンテン−1−オールの内部標準ボルネオール(Borneol)に対するレスポンス比が1.5±0.3のものについてである際に苦味質は良好であり、下限値を下回った場合シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なる。一方で上限を上回ると、水っぽく感じられまた渋味が増し、苦味質は劣ったものとなった(図9、図10、表7)。また同じサンプルを味センサーに供した結果が図11である。苦味や酸味が保管ホップの使用比率増大に伴って、増加する。このことから、パネルが穏やかな苦味と評価したサンプルは味センサーでは苦味が弱く感じられると評価されることが判明し、パネルの官能評価を味センサーによっても定量的に評価されていると考えられる。また苦味が良好となる最適な範囲は試醸サンプルの冷却麦汁での冷麦R−フラクション比率B及び貯酒での4−メチル−3−ペンテン−1−オールの比率により把握することができる。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【実施例4】
【0062】
上記実施例で記載した指標を用いて作成した保管ホップ(後熟ホップ)を用いてビール(ビール風飲料)を醸造した場合に、発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率Bが0.35±0.05かつ4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が0.32±0.08(ppb/B.U.)に入るビール(ビール風飲料)が得られ、最適な苦味質を得ることができる(図12、13)。下限値を下回った場合シャープな苦味が感じられ、穏やかな苦味感とは異なる。一方で上限を上回ると、チーズ様の異臭が感じられる。また水っぽく感じられ渋味が増し、苦味質は劣ったものとなった。
【0063】
なお、この際の発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B及び4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度は次のとおり定義する。
【0064】
(発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B)
フルポン(Hulupone)を含む4つのR−フラクションのエリア面積から、発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B(指標)を算出する。[発酵アルコール飲料におけるR−フラクション比率B=(R−フラクションの4つのピーク面積の和)/(イソα酸の3つのピーク面積の和)
【0065】
(発酵アルコール飲料における4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度)
[4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度=(4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度)/(発酵アルコール飲料のB.U.値)
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のR−フラクション比率A(指標)の算出において、ホップペレットにおけるHPLCでの分析の結果を示す図である。
【図2】本発明のR−フラクション比率Aの算出において、ホップペレットにおけるHPLCでの分析の結果の4つのピークのPDA検出器での各ピークの吸収波長クロマトグラムを示す図である。
【図3】本発明のR−フラクション比率B(指標)の算出において、冷却麦汁におけるHPLCでの分析の結果を示す図である。
【図4】本発明のR−フラクション比率Bの算出において、冷却麦汁におけるHPLCでの分析の結果の4つのピークのPDA検出器での各ピークの吸収波長クロマトグラムを示す図である。
【図5】本発明のGC/MSによるホップ香気成分の分析において、後熟ホップを、100%使用した試醸品について、GC/MSにより、ボルネオール(Borneol)を内部標準物質として用い、SIMモードで一定既知濃度のボルネオールのピーク強度に対するサンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1-オールに該当するピーク強度の比率を求めた結果について、示す図である。
【図6】本発明の官能パネルを用いたビールサンプルの官能評価試験において、官能評価におけるパネルでの苦味感知をイメージで表わした図である。
【図7】本発明の実施例において、CSAペレットホップを開封後異なる温度で保管し経時的にサンプリング分析し、パネルによる官能評価した結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、CSAペレットホップを30℃で保管し、経時的にサンプリングを実施し、4−メチル−3−ペンテン−1−オールを分析した結果について、4−メチル−3−ペンテン−1−オールの挙動と苦味物質との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例のB.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸試験において、R−フラクションの特定4画分の分析値と専門パネルによる官能評価の結果について、示す図である。
【図10】本発明の実施例のB.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸試験において、各サンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールと専門パネルによる官能評価の結果について、示す図である。
【図11】本発明の実施例のB.U.一定(B.U.=25)条件下でサンプル間で後熟CSAと新鮮CSAの使用比率を変更した試醸試験において、各サンプル中の4−メチル−3−ペンテン−1−オールと、味センサーによる官能評価を実施した結果について示す図である。
【図12】本発明の実施例において、本発明の指標を用いて作成した保管ホップ(後熟ホップ)を用いて通常ビールを醸造した場合における、通常ビールとR−フラクション比率Bの比較について示す図である。
【図13】本発明の実施例において、本発明の指標を用いて作成した保管ホップ(後熟ホップ)を用いて通常ビールを醸造した場合における、市販ビールと4−メチル−3−ペンテン−1−オール分析値との比較について示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵アルコール飲料の原料として用いるホップの加工方法であって、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、ホップの熟成度を調整することを特徴とする後熟ホップの製造方法。
【請求項2】
前記苦味成分を、HPLC用カラム;Nucleosil 100−5C18 4.0×250mmを用いて、蒸留水27%、メタノール72%、および、リン酸1%からなる移動相Aを、1ml/分の一定流速で270nmの検出波長のHPLCによる測定をした場合において、4.5分、6.7分、7.6分および9.5分の各々±1分のリテンションタイムの順で検出される4つのピーク面積の総和であるR-フラクションで表したことを特徴とする、請求項1記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項3】
リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、前記移動相A100%から、メタノール99%およびリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Aを、ホップペレット中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする請求項1又は2記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項4】
ホップペレット中の苦味成分を分析する場合において、粉砕したホップペレット0.5gを、メタノール10に対してリン酸1の割合で溶解したメタノール/リン酸溶液10mlに懸濁・攪拌させたサンプルから測定して求めたR-フラクション比率Aが、0.2から0.4となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項5】
リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるイソα酸由来の3つのピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Bを、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする請求項1又は2記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項6】
発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料のイソオクタン抽出物から測定して求めたR-フラクション比率Bが、0.30から0.40となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、請求項1、2、又は5記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項7】
発酵前溶液、発酵液、又は発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出後、GC/MS質量分析器を用いて検出した場合において、内部標準物質Borneolのピーク強度に対する4−メチル−3−ペンテン−1−オールのピーク強度の比率を、ビールの苦味価B.U.で除した値である4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率を指標とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の製造方法によって製造された後熟ホップを用いたことを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法によって製造された発酵アルコール飲料が、ビール、発泡酒又はビール風飲料であることを特徴とする発酵アルコール飲料。
【請求項10】
発酵アルコール飲料における、R-フラクション比率Bが、0.30から0.40であって、かつ、4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が、0.24から0.40ppb/B.U.であることを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料。
【請求項1】
発酵アルコール飲料の原料として用いるホップの加工方法であって、ホップ中、又は、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中のフルポンを含むα酸又はβ酸の酸化成分であってイソα酸よりも親水性度の高い苦味成分の割合、及び/又は、ホップ由来の香気成分である4−メチル−3−ペンテン−1−オールの割合を指標として、ホップの熟成度を調整することを特徴とする後熟ホップの製造方法。
【請求項2】
前記苦味成分を、HPLC用カラム;Nucleosil 100−5C18 4.0×250mmを用いて、蒸留水27%、メタノール72%、および、リン酸1%からなる移動相Aを、1ml/分の一定流速で270nmの検出波長のHPLCによる測定をした場合において、4.5分、6.7分、7.6分および9.5分の各々±1分のリテンションタイムの順で検出される4つのピーク面積の総和であるR-フラクションで表したことを特徴とする、請求項1記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項3】
リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、前記移動相A100%から、メタノール99%およびリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるα酸及びβ酸由来のピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Aを、ホップペレット中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする請求項1又は2記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項4】
ホップペレット中の苦味成分を分析する場合において、粉砕したホップペレット0.5gを、メタノール10に対してリン酸1の割合で溶解したメタノール/リン酸溶液10mlに懸濁・攪拌させたサンプルから測定して求めたR-フラクション比率Aが、0.2から0.4となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項5】
リテンションタイムが10分〜40分のHPLC送液の組成を、移動相A100%から、メタノール99%及びリン酸1%からなる移動相B100%に至るように連続かつ直線的なグラジエントをかけた場合において、検出されるイソα酸由来の3つのピーク面積の総和を用いて、R-フラクションを除した値であるR-フラクション比率Bを、ホップを用いた発酵アルコール飲料を製造する際の発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料中の苦味成分を分析する場合の指標とすることを特徴とする請求項1又は2記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項6】
発酵前溶液、発酵液、若しくは発酵アルコール飲料のイソオクタン抽出物から測定して求めたR-フラクション比率Bが、0.30から0.40となるようにホップの熟成度を調整することを特徴とする、請求項1、2、又は5記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項7】
発酵前溶液、発酵液、又は発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出後、GC/MS質量分析器を用いて検出した場合において、内部標準物質Borneolのピーク強度に対する4−メチル−3−ペンテン−1−オールのピーク強度の比率を、ビールの苦味価B.U.で除した値である4−メチル−3−ペンテン−1−オール比率を指標とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の後熟ホップの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の製造方法によって製造された後熟ホップを用いたことを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法によって製造された発酵アルコール飲料が、ビール、発泡酒又はビール風飲料であることを特徴とする発酵アルコール飲料。
【請求項10】
発酵アルコール飲料における、R-フラクション比率Bが、0.30から0.40であって、かつ、4−メチル−3−ペンテン−1−オール濃度が、0.24から0.40ppb/B.U.であることを特徴とする、苦味と旨味が調和し香味に優れた発酵アルコール飲料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−228634(P2008−228634A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71561(P2007−71561)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
[ Back to top ]