説明

発酵豆乳の製造方法及び発酵豆乳

【課題】
従来の発酵豆乳が有する強い酸味、苦味等の不快味、つまり乳酸菌による発酵豆乳、酵素を利用した発酵豆乳、乳酸菌と酵素を併用する発酵豆乳、乳酸菌と酵母を併用する発酵豆乳が有する不快味の無い、新規な発酵豆乳の提供、及び新規な発酵豆乳の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
豆乳に蛋白質分解酵素と酵母を併用して発酵豆乳を製造する。又この工程を20℃〜30℃で行うと共に発酵前の豆乳のpHを6.0 〜8.0 、発酵終了直後のpHを5.0 〜7.0 とすることにより、強い酸味、苦味等の不快味の無い嗜好性のある発酵豆乳を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の発酵豆乳及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中国文化圏では豆乳の飲用食品としての歴史は古いが、大豆に由来する独特の不快臭から日本ではなかなか受け入れられず、アメリカのUSDA、コーネル大学、イリノイ大学等の技術開発(非特許文献1)をきっかけに日本でも豆乳の製造が本格化した。
【0003】
しかしながら大豆由来の不快臭の除去は充分とは言えず、その対策の一つとして、又消費拡大の手段として発酵豆乳が登場した。発酵豆乳はヨーグルトなどの牛乳発酵技術を応用したもので、豆乳に乳酸菌を添加して乳酸発酵させていた(例えば特許文献1)。
【0004】
ところが乳酸発酵することにより新たな問題が生じた。つまり酸味が強いこと、苦味が生じる等不快味の問題である。この問題を解決する方法として、糖質の選択による方法(特許文献2)、甘藷由来の抽出物を利用する方法(特許文献3)、ゴマを利用する方法(特許文献4)、麹由来の酵素を利用する方法(特許文献5)、乳酸菌と酵素を併用する方法(特許文献6)、乳酸菌と酵母を併用する方法(特許文献7)等が提案されている。
【0005】
乳酸菌は元来牛乳に対して活性を示す菌であることから、豆乳に乳製品を加えたものに乳酸菌を作用させるという方法(特許文献8)も提案されている。又、豆乳が植物性蛋白であることから漬物から抽出した植物性乳酸菌を使用する方法(特許文献9)も提案されている。
【0006】
不快味に関しては特許文献2〜9の何れも問題解決方法としては不十分であり、嗜好性の高い発酵豆乳とは言えない。
【0007】
一方、近年アメリカでも大豆の健康面での機能が評価されており、手軽に、美味しく摂取できる豆乳の開発が待たれている。
【非特許文献1】「食料工業」恒星社厚生閣 1985年、p.286
【特許文献1】特開平11-46685号公報
【特許文献2】特開2002-51720号公報
【特許文献3】特開2001-57858号公報
【特許文献4】特開2002-45137号公報
【特許文献5】特開2005-46049号公報
【特許文献6】特開平7-147898号公報
【特許文献7】特開2000-217510 号公報
【特許文献8】特開2000-217510 号公報
【特許文献9】特開2005-224224 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は新規な発酵豆乳の提供、及び新規な発酵豆乳の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、乳酸発酵を行わないことにより豆乳の乳酸発酵による酸味等の不快味を生じさせず、又、豆乳に蛋白質分解酵素を単独で作用させた場合の苦味等の不快味を生じさせない方法を考案し、上記課題を効果的に解決した。具体的には蛋白質分解酵素と酵母の相互作用に着目したものであり、上記相互作用によれば蛋白質分解酵素により生成されたアミノ酸を窒素源として、酵母がイソブチルアルコール、イソアミルアルコール等の高級アルコール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル等の香味エステル等を生成し、結果として苦味等の不快味をマスキングする。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 蛋白質分解酵素及び酵母を用いて豆乳を発酵させる発酵豆乳の製造方法。
(2) 発酵工程を20℃〜30℃で行う、上記(1) 記載の発酵豆乳の製造方法。
(3) 発酵前の豆乳のpHを6.0 〜8.0 、発効終了直後のpHを5.0 〜7.0 とする上記(1) 記載の発酵豆乳の製造方法。
(4) 上記(1) 〜(3) のいずれかの製造方法により製造される発酵豆乳。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば豆乳に蛋白質分解酵素及び酵母が相互に作用することにより、強い酸味、苦味等の不快味の無い嗜好性のある発酵豆乳を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
蛋白質分解酵素とは蛋白質やペプチドなどのペプチド結合を加水分解する酵素(それぞれプロテアーゼ、ペプチダーゼと言う)の総称で、動植物、微生物の体外酵素、体内酵素として広く存在する。本発明に使用する蛋白質分解酵素は食品に使用できるものであれば特に限定されないが、苦味の生成が比較的少なく、且つ旨味のあることから中性域に至適pHがある中性プロテアーゼ、中性ペプチダーゼが望ましい。
【0013】
酵母とは栄養細胞が出芽によって増える菌類の総称でアルコール酵母、ビール酵母、清酒酵母、パン酵母等として利用されてきた。本発明に使用する酵母は食品に使用できるものであれば特に限定されないが、風味の点でパン酵母が好ましく生タイプでもドライタイプでも良い。但し、いわゆる天然酵母といわれるものの中には酵母以外の物質、例えば乳酸菌が入っているものも有り、乳酸菌入りの天然酵母は本発明では使用しない。
【0014】
本発明で使用する豆乳は大豆、脱脂大豆、フレーク大豆、大豆粉、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白等のいずれかを原料として常法により得られたものであれば良い。
【0015】
本発明の工程( 以下、本工程と言う) は上記豆乳を蛋白質分解酵素及び酵母を用いて発酵させる。蛋白質分解酵素の添加量は豆乳に対して例えば精製プロテアーゼ(粉末又は顆粒)で0.001 〜0.01%(w /w )、酵母の添加量はドライタイプパン酵母で0.001 〜0.01%(w /w )である。
【0016】
本工程は20℃〜30℃の条件下で行う。一般に蛋白質分解酵素は50℃近辺を、パン酵母は40℃近辺を至適温度とするが本発明は20℃〜30℃に管理することにより蛋白質分解酵素による苦味の発生( ロイシン、イソロイシン、バリン、フェルアラニンなどの疎水性アミノ酸による) を、又、パン酵母による過度の酵母臭発生をそれぞれ抑制すると共に、バランスの良い嗜好性に富んだ発酵豆乳を提供するものである。
【0017】
本工程は発酵前の豆乳のpHを6.0 〜8.0 、発酵終了直後のpHを5.0 〜7.0 に管理することによりタンパク質分解酵素の反応を効率良く行わせると共に、発酵による苦味の発生を更に抑えることが出来る。pHの管理は温度、反応時間で管理することができるが、あらかじめ食品添加物を添加しておくことによって調整することも出来る。つまり酸性方向のpHに調整する場合には、アジピン酸、クエン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、等を添加し、アルカリ性方向のpHに調整する場合には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等を添加する。
【0018】
本発明の発酵豆乳には、上記で言及した成分以外のものも添加することが出来る。例えば、ショ糖、グルコース、フラクトース、ラクトース、マルトース、キシロース、異性化糖、オリゴ糖等の糖類、マルチトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、還元澱粉糖化物等の糖アルコール、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムK 等の高甘味度甘味料、大豆油、なたね油、ごま油、オリーブ油等の油脂、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルレシチン等の乳化剤、キサンタンガム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギーナン、微結晶セルロース、等の乳化安定剤、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、等のミネラル、イソフラボン、DHC 、EPA 、等の機能性成分、緑茶、紅茶、コーヒー、ココア等の嗜好飲料、オレンジ、ブドウ等の果物ジュース、トマト、ニンジン等の野菜ジュース、各種香料、フレーバー等も添加することが出来る。
【0019】
本発明で得られた発酵豆乳はそのまま飲料として提供されても良いが、練製品類、麺類、パン類、菓子類、ドレッシング類等の加工食品の原料として提供することもできる。
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
丸大豆を原料として従来公知の方法で得られた豆乳(大豆固形分6 %、以下原料豆乳と言う)に対して、フラクトース2 %(以下全てw /w%)を添加、溶解した後、炭酸ナトリウムでpHを6.5 に調整した。これを90℃で30分殺菌し22℃まで冷却した。これに市販ドライタイプパン酵母、オリエンタル酵母工業株式会社製オリエンタルイースト( レギュラー)]0.005 %、市販プロテアーゼ製剤、ヤクルト薬品工業株式会社製[ パンチダーゼNP-2] を0.005 %添加、溶解した後、22℃で20時間発酵を行った。この時点でのpHは5.5 であった。次いでプレート式殺菌装置で殺菌処理(125 度10秒)を行い、発酵を止めると同時に酵母及び蛋白分解酵素の活性を止め、本発明の発酵豆乳を得た。
【実施例2】
【0022】
原料豆乳に対して、フラクトース1.5 %、グルコン酸カルシウム0.1 %を添加、溶解した後、炭酸ナトリウムでpHを7.0 に調整した。これを90℃で30分殺菌し28℃まで冷却した。これに市販ドライタイプパン酵母、オリエンタル酵母工業株式会社製FXイースト0.005 %、市販プロテアーゼ製剤、エイチビィアイ株式会社製オリエンターゼONS]を0.008 %添加、溶解した後、28℃で15時間発酵を行った。この時点でのpHは5.3 であった。その後更に大豆オリゴ糖2.3 %、ショ糖1.0 %を添加、溶解した後、炭酸ナトリウムでpHを7.0 に調整した。次いで、圧力式ホモジナイザー(150MPa)にて均質化し、更にプレート式殺菌装置で殺菌処理(135℃、3.5 秒) を行い、これを無菌的に容器に充填、冷却し、本発明の発酵豆乳を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質分解酵素及び酵母を用いて豆乳を発酵させることを特徴とする発酵豆乳の製造方法。
【請求項2】
発酵工程を20℃〜30℃で行う、請求項1記載の発酵豆乳の製造方法。
【請求項3】
発酵前の豆乳のpHを6.0 〜8.0 、発酵終了直後のpHを5.0 〜7.0 とする請求項1記載の発酵豆乳の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載のいずれかの製造方法により製造される発酵豆乳。