説明

発電所取水口における海水の取水管理方法

【課題】海水の取水に重要な干潮時刻を演算処理すると共に、その時刻をオペレータに告知することで、オペレータによる時計アラーム時刻セットの手間を省略させ、アラームセット忘れによる監視忘れを防止し、オペレータの負担を軽減する。
【解決手段】発電プラントの地理上の位置情報と、地理上の特定の位置を指定する位置指定情報と、既にデータに記憶されている各位置情報に関する干潮時若しくは満潮時の時刻情報をデータベース13に記憶し、この採取した各データに基づいて、発電プラントにおける時刻ごとの潮位を出力装置22に表示し、更に潮位が低くなるときに干潮時刻を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所、原子力発電所等の発電プラントにおける復水器で利用する海水の取水管理技術に係り、特にこの海水を取水口から発電所構内に取り入れる発電所取水口における海水の取水管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所においてタービン1で利用した蒸気は、後述する図2の説明平面図に示すように、復水器2で冷却して復水に替える。この復水器2を冷却する際に海水を利用している。この冷却に利用する海水は取水口3から取水している。海域等の公共水域に面した取水口3から発電所構内に海水を取り入れるために、例えば幅10m×深さ8m程度の水路(取水路4)を用いて、冷却水ポンプ槽5へ導いている。図示例では2水路を示している。
【0003】
取水路4付近の海水は、その海面の高さに基づく位置エネルギーのみによって取水路4へ流入するものではなく、上下動する波の力や潮位の上昇によっても取水路4へ流入する。潮位、即ち取水点が高くなると冷却水ポンプ槽5の出口圧力も高くなり、水量が増量する。逆に、潮位が低くなると冷却水ポンプ槽5の出口圧力も低くなり、水量が低下する。この潮位が低い状態になると、冷却水ポンプ槽5の水位がポンプ運転限界水位を下回る。
【0004】
そこで、発電プラントのオペレータは、図4に示すような潮汐表を用いて、干潮時刻を根拠に「冷却水ポンプ槽水位」、「復水器の真空度」及び「循環ポンプの出口圧力」等を監視している。オペレータがこの潮汐表を用いて、海水を取水路4に取り込む時刻を告知し、その告知に従って循環ポンプの駆動、循環ポンプ出口弁の開閉操作をしていた。そこで、満潮時刻および干潮時刻を効率的に且つ高精度に算出し、その結果を表示する技術が提案されている。例えば、特許文献1の特開2003−185767公報「電子潮汐計、満潮干潮時刻算出方法、及び、その方法を実行するプログラムの格納媒体」に示すように、入力された暦と選択された地域の潮汐データとから定まる潮位推算式を用いて満潮時刻および干潮時刻を算出する満潮・干潮時刻算出方法において、前記潮位推算式から第1の時間間隔で第1の潮位データを求め、連続する時間帯での、前記第1の潮位データの差を求め、それらの差の符号の変化する時間帯での前記第1の潮位データの変位差基づいて、前記第1の時間間隔より時間間隔の短い第2の時間間隔を設定する第1工程と、前記潮位推算式から前記第2の時間間隔で第2の潮位データを求める第2工程と、連続した前記第2の潮位データから満潮時刻および干潮時刻を算出する第3工程と、を含む満潮時刻および干潮時刻算出方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−185767公報
【0005】
また、干潮時や満潮時等をリアルタイムで知り得る時計に関して、特許文献2の特開平11−142554号公報「潮位報知時計」に示すように、地理上の位置を記憶する位置記憶手段と、地理上の特定の位置を指定する位置指定手段と、記憶されている各位置の干潮時若しくは満潮時を記憶する時刻記憶手段と、計時手段と、特定の時刻を報知する手段とが具備され、所定の位置を指定することによって、指定された位置における干潮時若しくは満潮時に、当該時刻が到来したことを報知する潮位報知時計も提案されている。
【特許文献2】特開平11−142554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のオペレータが潮汐表を用いて、海水を取水路4に取り込む時刻を判断して循環ポンプの駆動、循環ポンプ出口弁の開閉操作する方法では、オペレータの人的な判断に基づいているので人的ミスをするおそれがあった。そのために、オペレータに過度の操作負担を強いるという問題を有していた。
【0007】
しかし、上記の満潮干潮時刻算出方法又は潮位報知時計は、干潮時刻を計算し、その時刻を容易に知らせる技術である。これらの技術は、主に潮の満ち引きは沿岸部において行われる潮干狩りや釣り、マリンスポーツを楽しむ者に満潮時刻および干潮時刻を知らせ、また、満潮時もしくは干潮時又はその30分程度前の時刻に、当該時刻が到来したことを漁師や釣り人に報知し、釣りに最適な時間帯を知らせるものである。発電プラントにおいて干潮時を知らせると共に、その取水時間について、告知させるものではなかった。
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、海水の取水に重要な干潮時刻を演算処理すると共に、その時刻をオペレータに告知することで、オペレータによる時計アラーム時刻セットの手間を省略させ、アラームセット忘れによる監視忘れを防止し、オペレータの負担を軽減することができる発電所取水口における海水の取水管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、発電プラントにおいて復水器(2)を冷却する海水を取水路(4)に取り込む際に、潮位が低くなるときに干潮時を告知する発電所取水口における海水の取水管理方法であって、前記発電プラントの地理上の位置情報と、地理上の特定の位置を指定する位置指定情報と、既にデータに記憶されている各位置情報に関する干潮時若しくは満潮時の時刻情報をデータベース(13)に記憶し、この採取した前記各データに基づいて、前記発電プラントにおける時刻ごとの潮位を出力装置(22)に表示し、更に潮位が低くなるときに干潮時刻を報知する、ことを特徴とする発電所取水口における海水の取水管理方法が提供される。
例えば、前記干潮時刻は、発電プラントを運転する際に使用する運転制御装置のモニタに同時に報知することができる。
【0010】
前記干潮時刻を報知する際に、その発電プラントにおける冷却水ポンプ槽(5)の水位、復水器(2)の真空度又はポンプの出口圧力も前記モニタに同時に表示する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の発明では、発電プラントにおける時刻ごとの潮位を表示し、潮位が低くなるときに干潮時刻を自動的に報知することにより、煩雑であったオペレータによる時計アラームの時刻セットの手間を解消する。そこで、アラームセット忘れによる監視忘れを防止でき、オペレータの負担を軽減できる。
【0012】
また、干潮時刻を報知する際に、その発電プラントにおける冷却水ポンプ槽(5)の水位、復水器(2)の真空度又はポンプの出口圧力もモニタに同時に表示し、監視項目を自動的にトレンド表示するので、取水管理を容易かつ確実に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法は、発電プラントにおいて復水器を冷却する海水を取水路に取り込む際に、潮位が低くなるときに干潮時を自動的に告知する方法である。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法を示す系統図である。
本発明の海水の取水管理方法は、後述する取水管理システム11を用いて潮位を計算し、その計算結果の「干潮時刻」を告知し、かつANN発報する管理方法である。同時に監視項目トレンドをモニタ等に表示する。このANN(Arifidicial Neural Network)は、潮位に関する処理システムの1種である。監視項目トレンドとしては、例えば冷却水ポンプ槽5の水位、復水器2の真空度、ポンプ出口の圧力等がある。これらの項目は発電プラントの火力発電所、原子力発電所といった種類の相違、発電プラントの設置場所に応じて種々異なる。
【0015】
図2は発電プラントにおける取水路を示す説明平面図である。
本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法を実施する発電プラントは、タービン1で利用した蒸気を冷却して復水に替える復水器2を冷却する海水について、取水口3から取水している。この施設は海域等の公共水域に面した取水口3から発電所構内に海水を取り入れるために、例えば幅10m×深さ8m程度の水路(取水路4)を用いて、冷却水ポンプ槽5へ導いている。図示例では2水路を示している。
【0016】
図示例は、タービン1(ガスタービン、蒸気タービン)と発電機(図示していない)を同一軸上に配置した一軸型であり、複数の軸設備を組み合わせて1発電プラントを構成する。復水器2は、各タービン1に対応して設置し、一軸に1台、又復水器2用の冷却水ポンプ槽5も、各復水器2に対応して一台設置している。但し、冷却水ポンプ槽5に海水を導く取水路4は、経済設計の観点から複数の軸設備で共用となっている。図示上のCDLとは、海図に記載されている水深の基準面のことで港湾面ごとに決められた基本水準面(chart datum level)をいう。
【0017】
図3は本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法を実施する取水管理システムのブロック図である。
本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法を実施するための取水管理システム11は、例えば演算処理装置12、データベース13、入力装置14、入力処理部15、判定処理部16、出力処理部17とから構成されたものである。データベース13は、干潮時、満潮時の時刻に関するデータで、位置情報データ18、位置指定情報データ19、干潮・満潮時の時刻情報データ20及び時刻ごとの潮位データ21等のデータとから成る。
【0018】
演算処理装置12は、入力装置14から入力された種々のデータ、手入力したその他の条件等に基づき各種の演算処理を実行するものであり、入力処理を行う入力処理部15、位置情報データ18、位置指定情報データ19、干潮・満潮時の時刻情報データ20及び時刻ごとの潮位データ21に基づいて判定する判定処理部16、その判定の結果、発報時刻について、出力装置22に出力する出力処理部17を備える。
【0019】
本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法では、この取水管理システム11を用いることにより、時刻の変化に応じて、最適な取水時刻について判定し、発電プラントにおける時刻ごとの潮位を出力装置22に表示し、潮位が低くなるときに干潮時刻を報知し、取水路4に取水する。また、この出力装置22としては、例えば、発電プラントを運転する際に使用する運転制御装置のモニタを使用し、干潮時刻をこのモニタに同時に報知する。
【0020】
これにより、従来煩雑であったオペレータによる時計アラームの時刻セットの手間を解消することができ、アラームセット忘れによる監視忘れを防止でき、オペレータの負担を軽減できる。
【0021】
モニタに干潮時刻を報知する際に、その発電プラントにおける冷却水ポンプ槽5の水位、復水器2の真空度又はポンプの出口圧力も同時に表示することにより、監視項目を自動的にトレンド表示するので、取水管理を容易かつ確実に実施できる。
【0022】
この運転制御装置のモニタを監視したオペレータは、循環水ポンプ(CWP)の稼動又は停止、出口弁の稼動又は停止操作を行なう。このときは、下記[表1]の一覧表に示すように一軸ごとに制御する。
【0023】
【表1】

【0024】
表1において、1段目の1−1軸の系統は、発電機の出力は123.2MW、復水器2の真空度は−97.7kPa、循環水ポンプ(CWP)は運転中、出口弁は全開になっている。2段目の1−2軸の系統は、発電機の出力は0.0MW、即ち停止中である。復水器2の真空度は0.7kPa、循環水ポンプも勿論停止し、出口弁も全閉になっている。以下同様に稼動中又は停止状態を示している。
【0025】
なお、本発明は、海水の取水に重要な干潮時刻を演算処理すると共に、その時刻をオペレータに告知することで、オペレータによる時計アラーム時刻セットの手間を省略させ、アラームセット忘れによる監視忘れを防止し、オペレータの負担を軽減できれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法は、発電所以外にも海水を取水し、それを冷却水として熱交換に利用するプラント設備における取水管理にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法を示す系統図である。
【図2】発電プラントにおける取水路を示す説明平面図である。
【図3】本発明の発電所取水口における海水の取水管理方法を実施する取水管理システムのブロック図である。
【図4】潮汐表の一例を示す表面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 タービン
2 復水器
3 取水口
4 取水路
5 冷却水ポンプ槽
11 取水管理システム
12 演算処理装置
13 データベース
14 入力装置
15 入力処理部
16 判定処理部
17 出力処理部
18 位置情報データ
19 位置指定情報データ
20 干潮・満潮時の時刻情報データ
21 潮位データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電プラントにおいて復水器(2)を冷却する海水を取水路(4)に取り込む際に、潮位が低くなるときに干潮時を告知する発電所取水口における海水の取水管理方法であって、
前記発電プラントの地理上の位置情報と、地理上の特定の位置を指定する位置指定情報と、既にデータに記憶されている各位置情報に関する干潮時若しくは満潮時の時刻情報をデータベース(13)に記憶し、
この採取した前記各データに基づいて、前記発電プラントにおける時刻ごとの潮位を出力装置(22)に表示し、
更に、潮位が低くなるときに干潮時刻を報知する、ことを特徴とする発電所取水口における海水の取水管理方法。
【請求項2】
前記干潮時刻は、発電プラントを運転する際に使用する運転制御装置のモニタに同時に報知する、ことを特徴とする請求項1の発電所取水口における海水の取水管理方法。
【請求項3】
前記干潮時刻を報知する際に、その発電プラントにおける冷却水ポンプ槽(5)の水位も前記モニタに同時に表示する、ことを特徴とする請求項1又は2の発電所取水口における海水の取水管理方法。
【請求項4】
前記干潮時刻を報知する際に、その発電プラントにおける復水器(2)の真空度も前記モニタに同時に表示する、ことを特徴とする請求項1又は2の発電所取水口における海水の取水管理方法。
【請求項5】
前記干潮時刻を報知する際に、その発電プラントにおけるポンプの出口圧力も前記モニタに同時に表示する、ことを特徴とする請求項1又は2の発電所取水口における海水の取水管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−91507(P2010−91507A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263662(P2008−263662)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】