説明

発電施設の始動時における再循環経路洗浄のための分散剤活用法

【課題】二次システムからの腐食生成物の堆積による蒸気発生器(SG)の閉塞を解決する試験方法を提供する。
【解決手段】化学分散剤の再縣濁特性を試験する方法は、溶液収容容器、駆動システム及びシャフトを有した試験装置を提供するステップを含む。この試験方法は、さらに、堆積物質が塗布されている基材をシャフトに載置するステップと、その塗膜基材を容器に収容された溶液内に沈浸するステップと、シャフトと塗膜基材とを所定回転速度で回転させるために駆動システムを利用するステップと、基材から除去された堆積物量を決定するステップとを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に再循環経路の洗浄方法に関する。特には、発電施設の再循環経路の洗浄方法に関する。本発明の洗浄方法は、放っておけば蒸気発生器の閉塞に導く腐食生成物の堆積を減少させるものである。
【背景技術】
【0002】
二次システムからの腐食生成物の堆積による蒸気発生器(SG)の閉塞は、原子力産業における主要な問題として存在する。そのような閉塞は、熱伝達損失、管体及び内部材腐食劣化、発電レベル不安定化、並びに発電出力低下を引き起こす。多数の原子力施設が、大部分の腐食生成物の蒸気発生器への流入は施設の始動時に発生し、腐食生成物によって引き起こされる閉塞を排除又は低減させるには多額の費用を要すると報告している。
【0003】
現在、多くの原子力発電所は、管板上面スラッジランス除去法、化学洗浄法、先進スケール調整剤侵液法、堆積最少化処理法、管内ランス除去法、上方バンドル水圧洗浄法及びバンドル圧水洗浄法、等々を活用して堆積物を除去している。さらに、多くの原子力発電所は、その始動時に蒸気発生器を迂回する経路を通過させて給水システムの再循環洗浄を実施している。このような洗浄処理の目的は、残っていればやがては蒸気発生器に流入されるであろう、システムに残留する腐食生成物を除去することである。
【0004】
残念ながら従来技術は、運転中に原子力発電所の蒸気発生器の二次側へ入る給水を処理するだけである。運転時に再循環蒸気発生器内の金属酸化物の堆積物はブローダウンによって除去できる。貫流型蒸気発生器(OTSG)においては金属酸化物の腐食生成物の堆積は不可避である。なぜなら、ごく一部の腐食生成物が蒸気によってOTSGから排出されるだけだからである。従って、従来技術は再循環蒸気発生器に限定されている。当技術分野の技術者には知られているが、硫黄分はPWR蒸気発生器管の劣化を加速する。従って、従来技術は低硫黄濃度の分散剤の利用に限定されていた。さらに、従来技術はBWR施設の反応器への閉塞又は腐食生成物の流入問題には対処しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術のそれら及び他の欠点は本発明によって解決される。本発明は、再循環時に分散剤を注入して、始動前に給水及び復水システムのごとき再循環経路に残留する腐食生成物を除去する。これで、配水設備、脱塩塔(復水ポリシャ)、フィルターエレメント、等々を介してシステムから除去されるまで鉄酸化物の縣濁状態での維持が促進され、運転時に溶液内に残留する腐食生成物を減少させるであろう。
【0006】
さらに分散剤は、発電に先立って、二次システムの洗浄に要する時間を大きく短縮し、二次サイクルにおいて(処理しなければ発電時に搬送される)残留堆積物を減少させ、及び/又は発電サイクルの初期(典型的な再始動過渡期)に搬送される腐食生成物の量を大きく低減させるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1実施態様によれば、化学分散剤の再縣濁特性を試験する方法は、溶液収容容器、駆動システム及びシャフトを有した試験装置を提供するステップを含む。この試験方法はさらに、堆積物質が塗布されている基材をシャフトに載置するステップと、その塗膜基材を容器に収容された溶液内に沈浸するステップと、シャフトと塗膜基材とを所定回転速度で回転させるために駆動システムを利用するステップと、基材から除去された堆積物量を決定するステップとを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明は、以下の添付図面を参考にして、以下で解説されている本発明の説明を読めば自ずと理解されるであろう。
【図1】長経路再循環時における分散剤の使用を説明する概略図である。
【図2】マグネタイト濃度と透過率(透光率)との関係を示すグラフである。
【図3】ヘマタイト濃度と透過率との関係を示すグラフである。
【図4】100ppmのPAA(2kD)でのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図5】10000ppmのPAA(2kD)でのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図6】10000ppmのPAA(2kD)でのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図7】100ppmのPAA(5kD)でのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図8】10000ppmのPAA(5kD)でのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図9】10000ppmのPAA(5kD)でのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図10】100ppmのPAA(高分子量)でのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図11】10000ppmのPAA(高分子量)でのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図12】10000ppmのPAA(高分子量)でのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図13】100ppmのPMAAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図14】10000ppmのPMAAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図15】10000ppmのPAAでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図16】100ppmのPMA:AAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図17】10000ppmのPMA:AAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図18】10000ppmのPMA:AAでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図19】100ppmのPAAMでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図20】10000ppmのPAAMでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図21】10000ppmのPAAMでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図22】100ppmのPAA:SAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図23】10000ppmのPAA:SAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図24】10000ppmのPAA:SAでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図25】100ppmのPAA:SS:SAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図26】10000ppmのPAA:SS:SAでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図27】10000ppmのPAA:SS:SAでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図28】100ppmのPAA:AMPSでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図29】10000ppmのPAA:AMPSでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図30】10000ppmのPAA:AMPSでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図31】100ppmのPAMPSでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図32】10000ppmのPAMPSでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図33】10000ppmのPAMPSでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図34】100ppmのPMA:SSでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図35】10000ppmのPMA:SSでのマグネタイトの沈殿挙動を示す。
【図36】10000ppmのPMA:SSでのヘマタイトの沈殿挙動を示す。
【図37】10000ppmのFe3O4(マグネタイト)溶液に対する分散剤候補(10000ppm)の効果を示す。
【図38】分散剤候補(10000ppm)の選別試験−時間延長効果を示す。
【図39】10000ppmのFe3O4(マグネタイト)溶液に対する分散剤候補(100ppm)の有効性を示す。
【図40】分散剤候補(100ppm)の選別試験−時間延長効果を示す。
【図41】10000ppmのFe3O4(ヘマタイト)溶液に対する分散剤候補(10000ppm)の有効性を示す。
【図42】分散剤候補(10000ppm)の選別試験−時間延長効果を示す。
【図43】本発明の1実施例による再縣濁試験装置を示す。
【図44】マグネタイトに対する1ppmの分散剤による試験溶液内の鉄含有量を示す。
【図45】マグネタイトに対する100ppmの分散剤による試験溶液内の鉄含有量を示す。
【図46】ヘマタイトに対する1ppmの分散剤による試験溶液内の鉄含有量を示す。
【図47】ヘマタイトに対する100ppmの分散剤による試験溶液内の鉄含有量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明はPWR及び長経路再循環に関して説明されているが、本発明は長経路再循環及びPWRには限定されず、他の発電施設(PWR等々)並びに他の再循環経路(短再循環経路、蒸気及び排水システム)においても利用できる。PWR及び長経路再循環は本明細書において本発明の明確化並びに例示としてのみ利用されている。
【0010】
原子力発電施設における分散剤活用は現在のところ、発電時のオンライン活用のみが想定されており、蒸気発生器の継続的運用中にブローダウン除去を介して蒸気発生器内の金属酸化物堆積を最小とする目的で、蒸気発生器二次側への給水での利用に限定されている。
【0011】
発電施設では、長経路再循環は、発電に先立って給水及び復水システムからの腐食生成物(主として鉄酸化物及び/又はオキシ水酸化物)の除去に利用されている。これで、腐食生成物が堆積する可能性がある蒸気発生器へと搬送される腐食生成物量が減少し、管の腐食を進行させて熱効率を低下させる要因が低減される。発電施設の長短経路用再循環ループは図1において番号10及び11により示されている。
【0012】
長経路再循環に関し、本発明は、長経路再循環洗浄処理において蒸気発生器外側の二次システムの供給トレーンで提案されているような分散剤の注入処理を活用する。そこでは分散剤を含んだ処理水は蒸気発生器と接触せず、あるいはほとんど接触(バルブ漏出)しないであろう。本発明はさらに蒸気発生器外側の二次システムの洗浄も包含する。従って、金属酸化物が蒸気発生器に入る前にシステムから金属酸化物を除去する。さらに、本発明は再循環蒸気発生器を備えた発電所、貫流型蒸気発生器(すなわち蒸気発生器タイプとは独立)を備えた発電所及びリアクタを備えたBWRにも適用できる。
【0013】
ここで解説するように、長経路再循環中での分散剤の使用は、発電に先立って、蒸気発生器に最終的に搬送される腐食生成物の量を減少させるか、再循環洗浄に必要な時間を短縮して腐食生成物除去の効率を向上させる。分散剤の注入位置は図1にて番号12〜14により示されている。分散剤注入位置は装置設計形態に基づいて決定されるであろう。すなわち、分散剤の注入に先立って発電施設に合わせた考察が実行されるべきである。
【0014】
図示のように、複数の位置が分散剤の注入に利用できる。例えば、システム全体が分散剤に曝露されるように純化装置の直下流とすることができる。しかし、その他の位置でも十分な洗浄効果を提供することができる。
【0015】
一般的に、本発明の処理プロセスには、再循環経路洗浄中に分散剤注入器16〜18(計量ポンプ等)を使用して、限定はしないがポリアクリル酸(PAA)等のポリマー性分散剤を給水/復水システムへ注入するステップが関与する。注入器16〜18は分散剤の注入のために従来型の注入器であっても新型の注入器であってもよい。このステップは、分散剤注入(1回ごと又は継続的)、システム再循環(注入前開始可能)及びシステム洗浄(現装置利用)を含む。
【0016】
特定の分散剤の選択は重要なことであり、効率性並びにシステム適合性が関与する。分散剤注入量と注入タイミングは、予測される腐食生成物堆積量、現給水/復水システム形態及び停止/始動スケジュールのごとき様々な要因を勘案して個別装置に合わせて調整できる。
【0017】
分散剤は、腐食生成物粒子の粒径を実質的に増大させ(すなわち実質密度を低減させ)、粒子の沈澱性を弱め、堆積物質の搬送性を向上させるように機能する。これらの機能は組み合わされて、循環路表面に保持される割合に対して、システム内の水と共に循環する腐食生成物の割合を増加させる。循環する腐食生成物は現装置(例えばイオン交換樹脂床、フィルタ、等々)によって又はシステムダンプを介してシステムから簡単に除去できる。分散剤は縣濁状態に維持される腐食生成物量を増加させ、その利用は、洗浄中に除去される腐食生成物量を増加させるため、さらに多量の腐食生成物の除去、同じ除去量ではあるがさらに迅速な除去、あるいはそれら両方の効果が提供される。場合によっては、洗浄時間は停止スケジュールに関係する。特に、再循環が発生するであろうウィンド現象が固定される。他の装置においては、洗浄は所定規準(鉄濃度、フィルタ色、等々)が満たされるまで継続される。縣濁腐食生成物濃度を増加させるための分散剤追加は、これら両方の場合に有効であろう。
【0018】
分散剤の効果は、粒子沈殿速度を減速するポリマーの性能によって一部定義される。粒子沈殿速度は、溶液の透過率が複数の時間間隔で計測される試験によって得られた分光分析データから決定された。流体内の粒子沈殿速度は粒子密度と粒径及び流体密度と粘度の関数である。マグネタイト粒子とヘマタイト粒子の沈殿挙動を特徴付け、報告された透過率と溶液内の堆積物質の濃度との間の変換を導くため、分散剤を使用しないで2回の実験が実施された。これは、複数の時間間隔で溶液を通過する光の割合を計測し、それら測定値を、同一時間経過後の理論的に計算された堆積物質の濃度に相関させることで行われた。
【0019】
それぞれの時間における溶液内の堆積物質濃度は以下のように決定された。縣濁粒子(マグネタイト又はヘマタイト)は、低渦流(低レイノルド数)環境で沈殿する略球形粒子であると想定された。この条件で沈殿速度はストークの法則によって得られる。
【数1】


式中、Dpは粒径であり、PpとPfはそれぞれ粒子と流体の密度であり、μは流体の粘度であり、gは重力定数であり、vtは沈殿速度である。
【0020】
マグネタイト及びヘマタイト堆積物質の粒子サイズ分布は(レーザ粒子サイズ分析によって)前もって決定された。測定は、塊体物の存在によって影響を受けないように粒子サイズ測定は短い超音波処理期間前後に行われた。分光測定器チャンバの幾何学構造から、溶液内に残留する最大粒子の沈殿速度は、どのような時間間隔であっても決定できる。
【0021】
各時点の透過率測定値が、サイズ分布データ及び低レーノルド数での粒子沈殿のストークモデルから決定された対照の濃度に対してプロットされた。透過率と濃度との間の関係は、得られた曲線を双曲線正接に合致させることで見出された。このモデルにより予測されたゼロ透過率点は〜6500ppmであった。これら領域は、マグネタイトの場合には67%から90.7%(脱イオン水の透過率)の透過率に対応し、ヘマタイトの場合には78%から90.7%の透過率に対応する。両方の領域で曲線は二次多項式によって記述できる。マグネタイト及びヘマタイトの透過率と濃度との関係を表すプロットは、それぞれ図2と図3に図示されている。
【0022】
分散剤追加の1目的は沈殿速度を遅くすることである。これで粒径と粒子密度に見掛けの変化が発生する。実効的な粒径Sはこの見掛けの粒径と密度の記述に利用され、次のように定義される。
【数2】


式中、下付き文字eは“実効値”すなわち見掛け値である。沈殿速度に比例する見掛け粒径値と実際の粒径値の相違を記述するパラメータは、“実効”粒径を、次の式に従って観察密度に対応する粒径と比較することで各時点において求めることができる。
【数3】


式中、Cは分散剤が存在しないときに観測透過率に基づいて計算された粒径であり、PpとPfは堆積物質及び脱イオン水の知られた密度である。パラメータCは以下の式で与えられる。
【数4】

【0023】
従って“%変化”は、分散剤の存在下で観測される沈殿速度の減少百分率のことである。この沈殿速度は“S”の解を求めるのに利用された。続いて“C”は透過率読取値の対照実験における沈殿速度を使用して決定された。CとSの値は沈殿速度の相対変化(%変化)を決定するのに使用された。
【0024】
試験中に為されたいくつかの一般的な観測は以下を含む:
100ppmの分散剤(分散剤:マグネタイト比1:100)において、分散マグネタイトにおけるポリマー性分散剤の効果は、典型的には粒径の増加に連れて増加する。
10000ppmの分散剤において、さらに大きなマグネタイト粒子の沈殿率は高分子量の分散剤によって加速された。高分子量の分散剤は、これら濃度にて粒子凝集を促進す
る。
低分子量の分散剤の場合には、分散剤は濃度/分散剤:鉄比の両方で同程度に効果的であった。
PAAM以外の全候補分散剤は溶液内のヘマタイトの維持(浮遊)を促進した。
硫黄含有分散剤はアクリル酸/メタクリル酸/マレイン酸の共重合体と較べてさほど優れていなかった。従って、硫黄含有分散剤は物質の共存性の観点で限定的に利用されるべきである。これによって、利用中の(漏出絶縁バルブ、人的誤作動、その他の原因による)蒸気発生器への分散剤進入に関わる大部分のリスクが回避できるであろう。
【0025】
再循環経路で使用する例示的分散剤と、ポリマー性分散剤の存在下での実効粒径の変化(従って沈殿速度の変化)は表1に示されている。
【表1】

【0026】
3箇所の代表発電施設での再循環過程が検証され、長経路再循環洗浄中における分散剤利用の評価のための基準値が提供された。以下のパラメータはこれら3発電施設の長経路再循環に典型的なものである。
【0027】
長経路再循環洗浄過程の流量は2000〜4000gpm(ガロン/分)の範囲である。このことは、長経路再循環洗浄のためのサイクル時間(すなわち、流体全体が長経路ループを1度通過する時間)は、システムの流体量に応じて、〜1〜2時間の程度であることを表す。よって、二次システムから腐食生成物を排除するには、腐食生成物が縣濁状態にあらねばならない時間は約1〜2時間である。
【0028】
一般的に再循環洗浄は1〜2日間続き、最長経路上には存在しない。3施設全ては安定状態の鉄除去状態に到達するために十分な時間に亘って長経路再循環状態に残留する。一般的に始動は長経路再循環洗浄処理から開始される。すなわち、発電力上昇に先立って追加の排水処理または噴流処理は介在しない。追加の噴流処理は厳しい停止スケジュールの過密状態に鑑みて実際的ではない。システムの大部分は洗浄期間中には常温又はほぼ常温のままである。
【0029】
初めに分散剤候補試験時間は10分と定められた。この時間は長経路洗浄を代表すると予測された。典型的には長経路再循環によりシステム総水量は10分から1時間ごとに1回転する(流速及びシステム水量による)。流体がL形継手、T型継手、拡張部その他を通過する際には追加の混合が発生し、粒子の縣濁を増加させる。領域によっては、流体は渦流となり、さらに粒子の縣濁を増加させる。実施された沈殿実験において、鉄酸化物粒子はキュベットの底部に沈殿するまでに2.17cmの最大距離を移動した。この距離は典型的な給水及び復水管路の平均半径よりも大幅に小さい。典型的な浮遊粒子が沈殿するにはさらに長い距離が必要であり、早い段階の粒子堆積の可能性が減じられている。
【0030】
低温(レイアップ温度)及び蒸気発生器よりも重要性が劣る設備においては、長経路再循環適用時間は大幅に短いため(数日程度)、さらに高い分散剤濃度又はさらに化学的に活性が高い分散剤の使用が許容される。
【0031】
この分散剤利用の1つの目的は、鉄酸化物粒子が縣濁状態である時間を延長させることであるため、相対的に高い堆積物質濃度(10000ppm)が活用された。行われた実験は、10000ppmの濃度でのマグネタイト(Fe3O4)又はヘマタイト(Fe2O3)の縣濁に焦点を当てた。縣濁液の光吸収率を決定することで沈殿程度が測定された。すなわち沈殿速度は、縣濁液の透明度が増加する速度により決定された。候補分散剤リスト及びそれらの特性は表2に掲載されている。実行された全試験の生データは表3〜表7に含まれている。表3は1:1のマグネタイト:分散剤比(10000ppm)の結果を示し、表4は1:100のマグネタイト:分散剤比の結果を示し、表5は1:1000のマグネタイト:分散剤比の結果を示し、表6は1:1のヘマタイト:分散剤比(10000ppm)の結果を示し、表7は1:1のマグネタイト:分散剤比(100ppm)の結果を示す。
【表2】


【表3】


【表4】


【表5】


【表6】


【表7】

【0032】
10000ppmである当初分散剤濃度は、分散剤:酸化鉄比を1:1とするように選択された。これらの試験の結果は図37においてグラフで示されている。複数の試験が当初の10分の間隔を越えて継続された。試験の結果は図38に示す。
【0033】
分散剤濃度10000ppmが実際的ではない可能性があるため(物質共存性、費用、等々の観点)、100ppm及び10ppmの濃度(それぞれ1:100と1:1000である分散剤:鉄酸化物比に対応)である候補分散剤の効果も評価された。100ppmの分散剤で実施された選別試験の結果は図39に示す。いくつかの試験が延長時間で継続された。これらの試験結果は図40に示す。
【0034】
二次システムの領域によっては、特に、通常運用中に比較的に低温となる給水システムの領域においては、堆積物質は主としてヘマタイト(Fe2O3)で成る。よってヘマタイトを分散する候補ポリマーの有効性が評価された。10000ppmのヘマタイトを対象とした分散剤選別試験の結果は図41に示す。前述のごとく、さらなる試験が時間を延長して実施された。これら試験の結果は図42に示す。
【0035】
二次システムでの分散剤適用の有効性を確認すべく分散剤と堆積物質の共存性も評価された。分散剤は、ニッケル合金、炭素鋼及び低合金鋼、ステンレス鋼、エラストマ、イオン交換樹脂、銅合金、チタン及びチタン合金、並びにグラファイト材料等の様々な物質を対象にして試験された。
【0036】
その結果、次のガイダンスが当初の産業発電施設利用試験に適用されるべきことが確認された。1ppmの分散剤濃度が当初適用の出発点として推奨される。この濃度は消費窓内で徐々に増加できる。あるいは、実際の施設利用結果に関する追加データが得られるに従って引き続く適用時に徐々に増加できる。
【0037】
分散剤を計量ポンプにより供給し、供給過多を回避することが推奨される。注入位置は、(a)適度な混合のために復水器から十分に離れた上流であって、(b)分散剤と腐食生成物との接触時間を最大にし、高分散剤濃度局部領域の樹脂との接触を防止するために脱塩塔(復水ポリシャ)の下流とすべきである。
【0038】
(例えば)1ppmでの提案された当初適用のために、分散剤の追加は、長経路再循環が確立された後〜36時間に開始されるべきである。調査対象の3施設からのデータは、容易に除去可能な腐食生成物の大半が既に除去されていることを示す。分散剤追加の正確なタイミングは多少なりともフレキシブルである。可能であれば、分散剤注入前に鉄濃度が100ppb未満であることを確認するため、洗浄溶液が分散剤注入に先立って試料採取されるべきである。この注入スケジュールは分散剤の限定的注入の効果を最大化するためである。分散剤の濃度を増加させるか、当初から高い場合には、将来の適用においては注入を早めに行うことができる。
【0039】
もし、長経路再循環洗浄時間が36時間以内であると想定されるなら、分散剤注入はさらに早く行われるべきであり、給水が蒸気発生器に導入される少なくとも8時間前に行われるべきである。これで復水器ホットウェル内の流体を少なくとも4回巡回させ、分散可能な物質に対して作用し、脱塩塔で除去させるに十分な時間を分散剤に与えるであろう。
【0040】
発電施設独自のシステム共存性の検証は、分散剤の追加が意図しない、あるいは計画外の結果をもたらさないよう、長経路再循環洗浄処理中に分散剤適用前に完了すべきである。特に、脱塩塔に対する目立って増加した堆積物の影響及び流体測定装置に対する影響が考察されなければならない。
【0041】
沈殿試験に続いて、動力学的条件下での分散剤の作用を評価するために追加の試験が行われた。溶液内での鉄の浮遊を増強することに加え、分散剤の追加が、停止時及び始動時に二次システム内で沈殿していた鉄酸化物質の再縣濁を促進することが確認された。実験は動力学的条件での堆積物質を再縣濁させる候補分散剤の性能を評価した。上記の試験の結果に基づき、動力学的(通流)条件下での追加試験のために3種の候補分散剤が選択された。PAA(高分子量)PMAA及びPAA(低分子量)である。これらの試験の目的は、これら分散剤が堆積済み物質を再縣濁させるか否かを決定することであった。再縣濁させる場合には、動力学的条件下にて選択された分散剤候補間の性能の差が定量的に評価された。
【0042】
図43で示す実験装置20は長経路再循環洗浄処理中に存在する流動応力を模擬するように設計された。実験内容は以下で説明する。
【0043】
10ミル厚の堆積物質層で被膜されたステンレス鋼クーポン23が、二次システムのパイプ表面に堆積される腐食生成物を模擬するのに使用された。これらクーポン23は試験溶液(脱イオン水、分散剤有/無)に浸沈され回転されて、長経路再循環洗浄処理中にパイプ表面付近に流体せん断応力の特徴を発生させる。この章の残り部分はこのような実験装置の主要部を解説する。
【0044】
これらの試験で使用された模擬発電施設堆積物質(合成マグネタイト及びヘマタイト)は沈殿試験で使用されたものと同じであった。適当な鉄酸化物と脱イオン水の混合物が各ステンレス鋼クーポン23の表面に塗布された。余剰分はカレンダで除去され、均等塗膜が成膜された。堆積物質が塗膜されると、クーポン23は以下のスケジュールで加熱された。
・100℃で3時間
・150℃で3時間
・225℃で3時間
・280℃で3時間
【0045】
酸化を防止するために加熱処理時を通してクーポン23上に窒素が通流された。実験装置20の装填される前、加熱サイクルの終了時にクーポン23は室温に冷却された。
【0046】
この試験で使用されたステンレス鋼クーポン23は直径が2.07インチ(約5.26cm)で、厚みが0.03インチ(約0.08cm)であった。堆積物質の塗膜に先立って、各クーポン23の中央部に穴が設けられ、片側には識別番号が刻印された。その後、試験クーポン23は、非刻印面をエメリペーパによって清浄化及び粗化された。続いて堆積物質が前述のようにこの面に塗布された。各試験の開始時に、予め塗膜されたクーポン23は駆動シャフト22の端部に装着され、容器床から0.25インチ(約0.64cm)以内で、堆積物質の塗膜面を下に向けて容器24に収容された液体内に縣吊されるように配置された。
【0047】
実験装置20はオートクレーブベイに組み入れられた。このベイには可変速磁力駆動装置21及びモータ25が利用されている。これをシャフト22に連結し、指定周波数で回転させることができる。各試験において、堆積物質が予め塗布されているステンレス鋼クーポン23は、クーポンの中央部を通じて設けられた穴を介して磁力駆動装置21から下方に延びているシャフト22の端部に取り付けられた。クーポン23は脱イオン水(分散剤有/無)の溶液に常温で含浸された。クーポン23は堆積物質の塗布面が下向きの状態で、試験溶液を収容した容器24の床の上方1/4インチ(約0.64cm)に縣吊されるようにシャフト22に取り付けられた。
【0048】
クーポン23の回転はクーポン23の表面に亘って放射状流体速度分布を創出した。これで可変せん断応力が生み出された。長経路再循環ループ内に存在する以前に堆積された物質上に発生する作用力を模擬するため、特徴的な流体速度が代表的な発電施設の幾何学設計形態に基づいて計算された。
【0049】
システムの平均流体速度uは、以下の情報を利用し、知られた流量を流路断面積で除算することにより得られた。長経路再循環洗浄処理時の代表的な発電施設の典型的な流量は4000gpm(ガロン/分)であると考えられる。流体は2ヒータトレーン間に均等に配給されており、長経路再循環中の給水ヒータを通過する全流量は4000gpm/2=2000gpm(4.456ft3/秒)であると想定される。ヒータチューブは外径が0.625インチ(約1.59cm)で、厚みが0.035インチ(約0.09cm)であると想定される。これで内径は0.625インチ(約1.59cm)−0.035インチ(約0.09cm)=0.59インチ(1.50cm)である。各ヒータは全部で1397個の管を含む。よって流路の全面積は以下となる。
【数5】


ヒータを通過する平均流速は以下となる。
【数6】

【0050】
クーポン23の異なる箇所で発生する流速範囲が、典型的な長経路洗浄処理中に管壁部分で発生する表面速度範囲に確実に類似させるため、モータ21の回転速度は230rpmに設定された。この回転速度で、ほぼ半分のクーポン23の面積は1.68ft/秒以上で回転し、残りの半分の面積はさらに遅い速度で回転する。
【0051】
試験は、クーポン23の回転が開始された時から計測して24時間実行された。溶液の鉄含有量を決定する基本分析のために試験溶液の5ml試料が0.5時間、1時間、2時間、5時間、10時間及び24時間経過後に回収された。一旦クーポン23が回転を開始すると、クーポン23は、24時間目の試料が回収されるまで同一速度で回転を継続した(試料は通流溶液から回収された)。一旦モータ21が停止されると、試験溶液を収容した容器24は外され、溶液は分析のために密封瓶に移された。クーポン23はシャフトから外され、不活性ガス内で30℃にて乾燥された。
【0052】
乾燥するとクーポン23は質量測定され、消失堆積物質の重量が決定された。再縣濁堆積物質量は、試験を通して採取された試験溶液の試料(縣濁鉄)の要素別分析並びに開始時及び終了時の重量損失測定(総粒子)から決定された。試料の要素別分析は誘導結合プラズマスペクトメータ(ICP)により実行された。
【0053】
実施された再縣濁試験のための各試料採取間隔(0.5時間、1時間、2時間、5時間、10時間及び24時間)で実行されたICP分析結果は表8に示す。マグネタイトで実施された試験(試験1〜試験7)の結果は図44(1ppm分散剤)及び図45(100ppm分散剤)にて棒グラフで表す。図46と図47は試験8〜試験14の結果を示す。ここでは堆積物質としてヘマタイトが使用された。標準値は各試験後に測定され、全測定値が10%誤差内であることが確認された。試験10(ヘマタイトによる100ppm高分子量PAA)のための1時間試料及び2時間試料採取後の標準測定値は許容範囲以下に降下した。すなわち、実際の鉄濃度を下回った。従って、これら溶液の実際の鉄含有量は20%以上である可能性がある。しかし、計器の読取値の変位がいつ発生したかは不明であるため、このことは自信に満ちて説明できない。他の全標準値の測定値は許容範囲内であった。
【表8】

【0054】
堆積物質の塗布前と、試験終了時に各クーポン23の質量が記録され、試験中にクーポン23から失われた堆積物質量が決定された。この物質の大部分は薄片又は大型粒体として試験溶液内に放出された。これらは容器の底(クーポンの表面の0.25インチ(約0.64cm)下方)に急速に沈殿した。クーポン23を取り出したとき、直径が約1/2インチ(約1.27cm)の堆積物質の少量体が容器底の中央に凝集しているのが発見された。そこは流体速度が最低のところであった。
【0055】
大型薄片は流体せん断力によってクーポン23から剥離したもので、分散作用によるものではないと考えられるため、ICP分析の結果は分散剤の効果(溶液内に小型粒子を浮遊状態で維持する能力)の最良の反映であると考えられる。クーポン23の回転で創出された液流パターンはクーポン上に残る堆積物質の模様により観察される。
【0056】
一般的に、測定された鉄含有量は100ppmの分散剤を含んだ溶液内において高い。しかしながら、100ppmで観察された性能の相対的改善は、理論的には分散剤量の増加が鉄縣濁量を比例して増加させると考えて100倍となるはずとの予測ほどでは全くなかった。マグネタイトの再縣濁を確認する試験において、100ppm分散剤では、平均で、1ppmの同一分散剤の2倍から3倍の鉄濃度であった。このことは、濃度の100倍の増加が、効果の2倍から3倍の増加に相当する。100ppmと1ppmの分散剤を含んだ溶液の効果のこの相対的増加は表9に示されている。
【表9】

【0057】
流体が流経路(並びに脱塩塔及び/又はフィルタ)全体を通流完了するのに要する時間は30分から2時間程度であるので、効果を発揮するのに分散剤がそれ以上の長時間、粒子縣濁を促進することは不要である。試験結果の大部分は1ppmの分散剤濃度が、鉄酸化物の縣濁を2時間に亘って大きく増加させるのに十分であることを示す。この時間は長経路洗浄処理中に流体が脱塩塔を通過するのに要する予測循環時間であるため、分散剤の作用の評価はこの時間フレームに限定することができる。
【0058】
分散剤を含んだ各試験溶液で観察された鉄酸化物の縣濁の%改善は表10と表11にて示す(それぞれマグネタイトとヘマタイトの堆積物質で試験)。全3種の分散剤は動力学的条件下で鉄酸化物の縣濁を大きく増加させたが、マグネタイト濃度の最大の増加は、対象時間(1時間試料採取及び2時間試料採取)における1ppmの高分子量PAAポリマーを含んだ試験溶液で観察された。これらのデータはPAAの高分子量処方物が、システムから除去できるようになるまでマグネタイトで成る腐食生成物を分散させるのに最も効果的であることを示している。
【表10】


【表11】

【0059】
予備的な沈殿試験の結果とは異なり、ヘマタイトによる再縣濁試験において、高分子量PAA処方物は他の2種の分散剤候補(及び対照)よりも効果が低かった。試験溶液の鉄酸化物濃度は対照溶液の鉄酸化物濃度よりも少々高かった。
【0060】
総合的に判断すると再縣濁試験は以下の結果をもたらした。1ppmの分散剤濃度はマグネタイトの分散を増強するのに有効である。一般的に、1ppmの分散剤の場合と較べて、さらに高い分散剤濃度(100ppm)での試験において増強された鉄縣濁が観察された。しかし有効性は、理論的に予測されるようには比例的には増強されない。
【0061】
大部分の試験結果は、1ppmの分散剤濃度が、約2時間、鉄酸化物の分散を大きく増加させるのに有効であることを示す。流体が全流路(脱塩塔及び/又はフィルタ)を循環するのに要する時間は30分から2時間程度であるため、この時間(2時間)は分散剤の効果を維持するのに十分である(1サイクル時間以上の縣濁時間は、縣濁物質がシステム内に堆積する前に脱塩塔に到達することを確実にする)。これら3種の分散剤は動力学的条件下で鉄酸化物の縣濁を大きく増加させたが、マグネタイト濃度の最大の増加は、対象の時間(1時間及び2時間試料採取時点)における1ppmの高分子量PAAポリマーを含む試験溶液において観察された。高分子量PAA処方物はヘマタイトでの再縣濁試験における他の2種の分散剤候補ほどには効果を示さなかった。
【0062】
以上、発電施設の再循環経路の洗浄方法を説明した。本発明の特定の実施態様を解説したが、専門家であれば、それら実施態様の細部の様々な変更が本発明の精神と範囲から逸脱せずに可能であることを理解しよう。よって、前述の本発明の好適実施態様及び最良実施形態は本発明の説明のみを目的としており、本発明の限定は意図されていない。
【実施例1】
【0063】
ポリアクリル酸(PAA)は実効的にマグネタイト粒子(〜1〜10μm)の沈澱速度を20〜50%減少させた。このポリマーはヘマタイト分散において最も効果的であり、給水システムでの堆積物質の主要成分を構成する。
【0064】
3種のPAA候補が評価された。評価対象の全3PAA候補は、マグネタイト及びヘマタイトの両方の分散において類似レベルの有効性を示した。特に低分子量のポリマー(2000ダルトン)、低−中分子量のポリマー(5000ダルトン)及び高分子量のポリマーが評価対象であった。
【0065】
低分子量のポリマーは大型粒子と小型粒子の両方の分散において中程度に機能した。この分散剤は低い(1:100)分散剤:鉄比でのマグネタイト分散においてさらに効果的であった。特に、以下の結果が得られた。
100ppmの分散剤:沈殿時間は大型粒子の場合では〜40%、小型粒子場合には〜17%増加した。この試験の結果は図4に示す。
10000ppmの分散剤:沈殿時間は大型粒子の場合では2つの外れ点を例外として〜18%増加した。この試験の結果は図5に示す。
ヘマタイト分散:分散剤は幅広い粒子サイズに亘ってヘマタイト分散時間を〜50%増加させた。この試験の結果は図6に示す。
【0066】
低−中分子量のポリマーは中型粒子サイズ範囲では少しの改善を示しただけであったが、極値において沈殿速度に異常な増加を示した。概してこのポリマーは低分子量ポリマーよりも効果が低いように思われる。以下の観察はこれらの試験で為されたものである。
100ppm:分散剤は粒子サイズによっては沈殿時間を〜10〜20%増加させたが、他の性能を実質的に低下させた。この試験の結果は図7に示す。
10000ppm:分散剤は小型粒子サイズでは沈殿時間を50%まで増加させたが、中型粒子サイズではほとんど効果を示さなかった。最大粒子の沈殿時間は大きく減少した。この試験の結果は図8に示す。
ヘマタイト分散:低−中分子量ポリマーはヘマタイト沈殿時間を50〜70%増加させた。この試験の結果は図9に示す。
【0067】
高分子量ポリマーは低濃度(100ppm)で優れた効果を発揮したが、10000ppmでは効果が低かった。
100ppm:沈殿時間は粒子サイズの増加により18%から50%増加した。この試験の結果は図10に示す。
10000ppm:小型粒子の沈殿時間は(約20%まで)少々増加した。しかし、大型粒子サイズでは約20%沈殿時間は短縮された。この試験の結果は図11に示す。
ヘマタイト分散:分散剤は試験された粒子範囲に亘って沈澱時間を一貫してほぼ100%増加させた。この試験の結果は図12に示す。
【実施例2】
【0068】
同様に、一般的なポリメタクリル酸(PMAA)ポリマーは、100ppmの濃度で高有効性を示した。多くの分散剤候補とは異なり、この分散剤は沈殿速度を増加させず、凝集を促進もしなかった。PMAAは高濃度(10000ppm)で同様に効果的であった。このポリマーはヘマタイトの分散で中程度に効果的であり、〜60%沈殿速度を減少させた。
【0069】
PMAAはボイラ利用のために試験され、中程度の有効性を示した。この試験プログラムで使用されたPMAAは〜6500ダルトンの分子量を有していた。以下の結果が得られた。
100ppm:沈殿時間は粒子サイズの増加により19〜50%増加した。この試験の結果は図13に示す。
10000ppm:沈殿時間は22〜56%増加した。沈殿速度と粒子サイズとの間には弱い相関関係が観察された。この試験の結果は図14に示す。
ヘマタイト分散:データは不十分であるが、沈殿時間は全粒子サイズに亘って〜60%増加した。この試験の結果は図15に示す。
【0070】
他のポリマーも評価された。ポリ(アクリル酸:マレイン酸)(PMA:AA)は〜3000ダルトンの分子量であり、次の特徴を有していた。
100ppm:分散剤の存在は中型から大型粒子サイズに対して沈殿時間を〜30%増加させたが、〜1μmサイズの粒子の沈殿時間をほぼ17%減少させた。この試験の結果は図16に示す。
10000ppm:最小粒子(〜1μm)を除いて沈澱時間は〜20%増加した。これは沈殿時間の延長を意味した。この試験の結果は図17に示す。
ヘマタイト分散:沈殿時間の〜70%増加が全データポイントにおいて観測された。この試験の結果は図18に示す。
【実施例3】
【0071】
ポリ(アクリル酸:アクリルアミド)(PAAM)共重合体は平均分子量〜200000ダルトンを有し、候補の大部分よりも大幅に大きい。PAAMは効果的にヘマタイトを分散しなかった唯一の分散剤であった。
100ppm:分散は小型粒子(粒径2.5μm未満)の沈殿時間を25〜30%増加させたが、粒径10μmを超える粒子の沈殿時間を目立って減少させた。この試験の結果は図19に示す。
10000ppm:粒径4.4μmを超える粒子の沈殿時間の大きな増加が観察された。小型粒子では沈澱速度はほとんど無変化であった。この試験結果は図20に示す。
ヘマタイト分散:10000ppmのPAAMの存在下ではヘマタイトの沈殿挙動には目立った変化はなかった。この試験の結果は図21に示す。
【実施例4】
【0072】
ポリ(スルフォン酸:アクリル酸)(PAA:SA)共重合体は15000ダルトン未満の分子量を有していた。以下の観測が得られた。
100ppm:沈殿時間に20〜50%の改善が観察された。沈殿速度の増加は大型粒子(〜12μm)で大きく、小型粒子(2〜3μm)では小さかった。この試験の結果は図22に示す。
10000ppm:沈殿時間の小さな増加(20%未満)がほぼ全部の粒子サイズで観察された。沈殿時間は大型粒子(〜12μm)で減少した。この試験の結果は図23に示す。
ヘマタイト分散:沈殿時間に30〜60%の増加が観察された。この試験の結果は図24に示す。
【実施例5】
【0073】
ポリ(アクリル酸:スルフォン酸:スルフォン化スチレン)(PAA:SS:SA)ポリマーは次の特徴を有していた。
100ppm:5μmを超える粒径の粒子に対するマグネタイト沈殿時間は〜40%増加した。小型粒子では沈殿時間の小さな増加が観察された。この試験の結果は図25に示す。
10000ppm:粒径が3〜5μmの粒子の沈殿時間は〜40%増加した。粒径3μm未満では、沈殿時間の変化は粒子サイズの減少に連れて減少した。この試験の結果は図26に示す。
ヘマタイト分散:沈殿時間に40〜80%の改善が観察された。この試験の結果は図27に示す。
【実施例6】
【0074】
ポリ(アクリル酸:2アクリルアミド−2メチルプロパンスルフォン酸)(PAA:AMPS)共重合体は平均分子量5000ダルトンを有しており、次の観測結果が得られた。
100ppm:沈殿時間は18〜42%増加し、大型粒子の分散で改善が著しかった。
この試験の結果は図28に示す。
10000ppm:沈殿時間は〜30%増加した。しかし、検査された粒子のサイズの極値では小さい改善のみが観察された。この試験の結果は図29に示す。
ヘマタイト分布:沈殿時間は一般的に〜40〜60%増加した。沈殿時間のさらに大きな改善は小型粒子(〜2μm)で観察された。この試験の結果は図30に示す。
【実施例7】
【0075】
ポリ(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルフォン酸)(PAMPS)は試験された最大ポリマーであった。平均分子量は800000ダルトンであった。
100ppm:殆ど又は全く沈殿時間の改善は観測されなかった。この試験の結果は図31に示す。
10000ppm:沈殿速度は粒子サイズの増加に連れて増加した。〜3.5μmを超える粒径では沈殿速度は大きく加速された。この試験の結果は図32に示す。
ヘマタイト分散:〜8μmで観察された例外を除外すれば沈殿時間は70〜80%増加した。この試験の結果は図33に示す。
【実施例8】
【0076】
ポリ(スルフォン化スチレン:無水マレイン酸)(PMA:SS)共重合体は〜20000ダルトンの分子量を有していた。
100ppm:粒径8μmを超える粒子の沈殿時間は〜40%増加した。小型粒子は沈殿に〜20%追加の時間を要した。この試験の結果は図34に示す。
10000ppm:100ppmで観察された沈殿時間の改善が観察された。粒子サイズの減少に伴って沈澱時間の改善は減少した。この試験の結果は図35に示す。
ヘマタイト分散:沈殿時間は〜30〜68%増加した。この試験の結果は図36に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学分散剤の再縣濁特性を試験する方法であって、
(a)(i)溶液収容容器と、
(ii)駆動システムと、
(iii)シャフトと、
を含んで構成された試験装置を準備するステップと、
(b)堆積物質で塗膜された基材を前記シャフトに装着するステップと、
(c)前記塗膜基材を前記容器内の溶液に浸沈させるステップと、
(d)前記駆動システムを利用して前記シャフトと前記塗膜基材とを設定速度で回転さ
せるステップと、
(e)前記基材から除去された堆積物質量を決定するステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記堆積物質の塗膜前に基材の重量を計測するステップをさらに含んでいることを特徴
とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記堆積物質の塗膜後に基材の重量を計測するステップをさらに含んでいることを特徴
とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記基材が溶液から取り出された後に該基材の重量を計測するステップをさらに含んで
いることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記溶液の要素別含有量を決定するため、試験最中に設定時間間隔にて溶液試料を採取
するステップをさらに含んでいることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記除去された堆積物質量は、溶液に含有された要素別含有量と、基材から除去された
堆積物質の重量とによって決定されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記基材を堆積物質で塗膜するステップをさらに含んでいることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記基材を塗膜するステップは、
(a)基材に設定量の堆積物質を塗膜するステップと、
(b)該基材から余分の堆積物質を除去するステップと、
(c)該塗膜基材を加熱するステップと、
(d)酸化を防止するため、前記加熱ステップ時に前記塗膜基材に対して窒素を吹き付
けるステップと、
(e)前記塗膜基材を室温に冷却するステップと、
を含んでいることを特徴とする請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【公開番号】特開2012−163102(P2012−163102A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51503(P2012−51503)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【分割の表示】特願2010−119163(P2010−119163)の分割
【原出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(507291523)エレクトリック パワー リサーチ インスティテュート,インク. (15)