説明

白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体

【課題】本発明の課題は、隠蔽性白色無機系顔料を含有するインク浸透型の印字体において、スタンプ表面の凹面部とインクが浸透する凸面部との色対比を鮮明化することである。具体的にはスタンプ表面の白色凹面部について隠蔽性を向上させること、黄味がかった白色を修正し際立った白色を発色させること、及び白色の耐光性を向上させる技術を提供することである。
【解決手段】インク浸透型の印字体において、熱可塑性樹脂中に隠蔽性白色無機系顔料と蛍光増白剤とを含有させたうえで、印材の表面に、加熱処理による印面加工を施して、蛍光白色樹脂の表面に蛍光白色皮膜が形成された2層構造からなる凹面部を形成したことによって、上記課題を解決し、インクが浸透する凸面部との色対比を鮮明化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク内蔵タイプのインク浸透スタンプに使用される白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スタンプパッドを使わなくとも連続的に押印使用の可能なインク浸透スタンプは、多孔質熱可塑性樹脂を印材として、インク浸透スタンプ表面の凹面部となる部分にのみ加熱処理を行い、その表面を溶融させてインクの浸透に必要な連通孔を塞ぎ、インク浸透スタンプ表面の凸面部には加熱処理を行わずにインクを浸透させる手法により製造される(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
インク浸透スタンプ印材の内部には網の目状に連通孔が多数形成され、インクはこの連通孔を介してインク浸透スタンプ表面部に到達する。インク浸透スタンプ表面の凸面部は表面の連通孔が塞がれていないため、インク浸透スタンプにインクを含浸させると、その含浸させたインクが凸面部に浸透する。この従来のインク浸透スタンプは、赤や青などインクの色彩に拘わらず、インクの浸透した凸面部は黒っぽくみえるものであった。一方、インク浸透スタンプ表面の凹面部は表面の連通孔が閉塞されているため、連通孔に含浸させたインクはこの凹面部には浸出しない。しかし、印材内部の連通孔に含浸させたインクは、凹面部の表面からそのインク色が黒っぽく透けて見えるものであったため、インク浸透スタンプ表面が全体として黒くなってしまい、スタンプ使用時の利便性を欠くという問題があった(特許文献1)。
【0004】
前記問題を解決するために、熱可塑性樹脂に隠蔽性顔料を含有させた印材を用いて熱処理により印面加工を行い、熱処理部分に隠蔽性を付与した多孔質熱可塑性樹脂印字体が特開平11−138960に開示されている。ここで開示された発明は、インク浸透スタンプ印材の内部に含浸したインクの発色が印材中の隠蔽性顔料によって遮られることにより、インクがスタンプ表面に浸透しない多孔質熱可塑性樹脂印字体凹面部と、インクがスタンプ表面に浸透する多孔質熱可塑性樹脂印字体凸面部の鮮明な色対比を得るという思想によるものである。
【0005】
しかし、実際には隠蔽性顔料を含有させた場合であっても100%の隠蔽性は得られないため、隠蔽性を更に向上させることで多孔質熱可塑性樹脂印字体表面の色対比をより鮮明にして、文字認識性を高める技術への需要があった。
【0006】
また、隠蔽性顔料として代表的な酸化チタンは可視光線中の青色領域に吸収があり、酸化チタンに由来する白色は人間の目にはやや黄味がかった色と映るところ、前記開示発明において隠蔽性顔料として酸化チタンを用いた場合には多孔質熱可塑性樹脂印字体表面凹面部は黄味がかった白色となるが、これを修正し、際立った白色を発色させることで多孔質熱可塑性樹脂印字体表面凹凸両面の色対比を更に鮮明にして、文字認識性を高める技術への需要があった。
【0007】
更に、隠蔽性顔料として酸化チタン等の白色顔料を用いた場合であっても時間の経過に伴い発色が弱まるため、多孔質熱可塑性樹脂印字体表面凹面部の白色耐光性を向上させることで多孔質熱可塑性樹脂印字体表面凹凸両面の色対比を更に鮮明にして、文字認識性を高める技術への需要があった。
【特許文献1】特開平11−138960公報
【特許文献2】特開2003−246131公報
【特許文献3】特開2003−246132公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体において表面凹面部の隠蔽性を向上させ、黄味がかった白色を修正し際立った白色を発色させ、さらに白色の耐光性を向上させて、インク含浸時における印字体表面凹凸両面の色対比を鮮明化し、印字体の文字認識性を高める技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明は、連通孔を有する熱可塑性樹脂からなる印材の表面に、凹面部を加熱処理して印面加工を施したインク浸透型の印字体であって、熱可塑性樹脂中に隠蔽性白色無機系顔料と蛍光増白剤とを含有させ、熱処理された凹面部を蛍光白色樹脂の表面に蛍光白色皮膜が形成された2層構造とし、インクが浸透する凸面部との色対比を鮮明化した白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体であることを特徴とするものである。
【0010】
なお、隠蔽性白色無機系顔料は酸化チタンであることが好ましく、蛍光増白剤は、ナフタレンベンゾキサゾイル誘導体、チオフェンベンゾキサゾイル誘導体、スチルベンベンゾキサゾイル誘導体、クマリン誘導体、スチレンビフェニル誘導体、ピラゾロン誘導体、スチルベン誘導体、ベンゼン及びビフェニルのスチリル誘導体、ビス(ベンザゾールー2−イル)誘導体、クマリン、カルボスチリル、ナフタルイミド、ジベンゾチオフェンー5,5´−ジオキシドの誘導体、ピレン誘導体、ピリドトリアゾールのグループから選択された1種または2種以上の蛍光増白剤であることが好ましく、更には、4,4´―ジアミノスチルベンー2,2´―ジスルホニックアシッドの誘導体、4−メチルー7−ジエチルアミノクマリン、2,5−ビス(5−tert−ブチルー2−ベンズオキサゾリル)チオフェンのグループから選択された1種または2種以上の蛍光増白剤であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るインク浸透型の印字体は、熱可塑性樹脂中に白色無機系顔料と蛍光増白剤とを含有させたうえで、印材の表面に、加熱処理による印面加工を施して、蛍光白色樹脂の表面に蛍光白色皮膜が形成された2層構造からなる凹面部を形成したものである。本発明の効果は上記手段によって、印字体の白色凹面部について隠蔽性を向上させ、白色凹面部の黄味がかった白色を修正し、白色の耐光性を高めることにより、インクが浸透する凸面部との色対比を鮮明化し文字認識性を向上させたものである。本発明にかかるインク浸透型の印字体の有する上記の効果は長期使用によっても失われないため、本発明は、インクの補充によって継続的に繰り返し使用されるインク内蔵タイプのインク浸透スタンプの利便性の向上に資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にかかる白色の多孔質熱可塑性樹脂印字体は、隠蔽性白色無機顔料と蛍光増白剤を含有した熱可塑性樹脂に熱処理による印面加工を施すことによって得られる。
【0013】
主原料である熱可塑性樹脂としては、エチレンーαオレフィン共重合体、エチレン―酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネイト、ポリエチレン系熱可塑性エストラマー、ポリウレタン系熱可塑性エストラマー、ポリスチレン系熱可塑性エストラマー、ポリジエン系熱可塑性エストラマー、ポリ塩化物系熱可塑性エストラマーなどを用いることができる。
【0014】
白色無機顔料としては、例えば酸化チタン、亜鉛華(ZnO)、マイカに酸化チタンを被覆したパール顔料を用いることができる。その中でも、酸化チタンは鉛白(2PbCo・Pb(OH))など他の白色無機顔料、有機顔料、充填剤などに比べて隠蔽力が高く、インク浸透性を早くする効果も得られることから、本発明において隠蔽性白色無機顔料として採用した。また、酸化チタンにはアナターゼ型とルチル型が存在するが、本発明においては、ゴム業界で一般に使用されるアナターゼ型を使用した。ただし、インキに通常使用されるルチル型でも同様の効果が得られるものと考えられる。なお、酸化チタンの含有率は0.1〜50phrを用いることができ、引張り強度、圧縮永久歪みなどの物性面と、生産効率、材料価格などコスト面から0.5〜20phrとなるようにすることが最も好ましい。0.1phr未満の場合は十分な隠蔽力が得られず、50phrを超過する場合は印字体の柔軟性が損なわれ、印字体用の多孔質体としての効果が著しく抑制されるためである。ここで、phrとはParts per Hundred parts of Resinの略であって、樹脂の重さを100としたときの各成分の重さを表わす単位である。
【0015】
蛍光増白剤としては、ナフタレンベンゾキサゾイル誘導体、チオフェンベンゾキサゾイル誘導体、スチルベンベンゾキサゾイル誘導体、クマリン誘導体、スチレンビフェニル誘導体、ピラゾロン誘導体、スチルベン誘導体、ベンゼン及びビフェニルのスチリル誘導体、ビス(ベンザゾールー2−イル)誘導体、カルボスチリル、ナフタルイミド、ジベンゾチオフェンー5,5´−ジオキシドの誘導体、ピレン誘導体、ピリドトリアゾールのグループから選択された1種または2種以上の蛍光増白剤を使用することができ、より好ましくは、4,4´―ジアミノスチルベンー2,2´―ジスルホニックアシッドの誘導体、4−メチルー7−ジエチルアミノクマリン、2,5−ビス(5−tert−ブチルー2−ベンズオキサゾリル)チオフェンのグループから選択された1種または2種以上の蛍光増白剤を使用することができる。
【0016】
具体的には、C.I.Fluorescent Brightening Agent 177、C.I.Fluorescent Brightening Agent 91、C.I.Fluorescent Brightening Agent 172、C.I.Fluorescent Brightening Agent 163、C.I.Fluorescent Brightening Agent 135、C.I.Fluorescent Brightening Agent 153、4−メチル―7−ジメチルアミノクマリン、2,5−ビス(5−tert−ブチルー2−ベンゾキサゾリル)チオフェン等の水に可溶又は不溶性蛍光増白剤や、これらをポリ塩化ビニル重合体・ユリア―ホルムアルデヒド樹脂・メラニンートルエンスルホンアミド樹脂、特殊グアナミン樹脂、ポリアクリル樹脂などの熱可塑性・熱硬化性といった樹脂に染色し、微粉末化した蛍光増白剤を例示することができる。蛍光増白剤の含有率は0.001〜50phrを用いることができるが、僅かな配合率でも隠蔽力とコントラストの効果が得られるので引張強度、永久圧縮歪みなどの物性面と、生産効率、材料価格などコスト面から0.01〜10phrとなるようにすることが好ましい。
【0017】
図1に示すように、本発明にかかる白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体1は、まず熱可塑性樹脂、隠蔽性白色無機顔料、蛍光増白剤、気孔剤、および溶出助剤を混錬してシート体とした後、シート体から気孔剤および溶出助剤を溶出除去して内部に連通孔6を形成して得られた蛍光白色樹脂4の表面に加熱処理による印面加工を施すことにより得られる。この加熱処理工程では加熱部分が溶融して蛍光白色皮膜層2を形成する。したがってこの加熱処理により形成される凹面部3は、蛍光白色樹脂層4と蛍光白色皮膜層2の2層構造となる。この印面加工手段は、加熱した金型を圧着させる方法、マスキングしてキセノンランプやフラッシュランプから熱線照射する方法、コンピュータ制御されたサーマルヘッドやレーザー光線での直接加熱などの、どの手段によってもよい。
【0018】
上記の製法によって得られたインク浸透型の印字体1においては、蛍光増加白剤を含有しない白色印字体に比べて、白色凹面部3について隠蔽性が向上し、白色凹面部3の黄味がかりが修正され、白色の耐光性が高まる結果、インクが浸透する凸面部5との色対比が鮮明化し、高い文字認識性が実現される。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
【0020】
気孔剤として、5〜60μmの塩化ナトリウム微粒子600質量部をニーダーに投入し90℃に加熱しながら攪拌する。次に、酸化チタン3質量部及び蛍光増白剤0.5質量部をニーダーに投入し更に攪拌する。次に、溶出助剤として、ポリエチレングリコール70質量部を少量ずつ加え混合する。更に、エチレンーαオレフィン共重合体100質量部を加え、熱を90℃に保ちながら更に混合する。そうすると、均一な混合物が得られる。
【0021】
次にこの混合物をロールにてシート体に成形して空冷する。このシート体を所要のサイズに切断して、流水で洗い流して塩化ナトリウム及びポリエチレングリコールを完全に除去し、乾燥機で乾燥させると、内部に連通孔を有して、隠蔽性白色無機系顔料と蛍光増白剤を含有した熱可塑性蛍光白色樹脂を得ることができる。このようにして得た熱可塑性蛍光白色樹脂に加熱した金型を圧着させる方法、マスキングしてキセノンランプやフラッシュランプから熱線照射する方法、コンピュータ制御されたサーマルヘッドやレーザー光線での直接加熱などの手段で印面加工を施すと、本発明にかかるインク浸透型の印字体をえられる。
【0022】
ここでエチレンーαオレフィン共重合体、酸化チタン、蛍光増白剤、塩化ナトリウム、ポリエチレングリコールの配合量を、それぞれ変更した条件で製造した印字体にインキを浸透保持させて、隠蔽力の強さと色対比について観察して比較評価した結果を以下の表に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
上記評価において、インクはシヤチハタ株式会社製Xスタンパー用染料インキ(黒)を使用した。隠蔽力の強さは、印字体の凸面部の染色度合を観察して、染色が全く認められない場合を◎、完全に染色されている場合を×、ほぼ染色されている場合を△として評価した。コントラストは、印字体の凹凸両面の色対比を観察して、鮮明な色対比が認められた場合を◎、色対比が全く認められない場合を×、不鮮明な色対比が認められた場合を△として評価した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかる白色の多孔質熱可塑性樹脂性インク浸透型印字体にインクを含浸させた状態の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 インク浸透型印字体
2 蛍光白色皮膜
3 凹面部
4 蛍光白色樹脂
5 凸面部
6 インクの含浸した連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通孔を有する熱可塑性樹脂からなる印材の表面に、凹面部を加熱処理して印面加工を施したインク浸透型の印字体であって、熱可塑性樹脂中に隠蔽性白色無機系顔料と蛍光増白剤とを含有させ、熱処理された凹面部を蛍光白色樹脂の表面に蛍光白色皮膜が形成された2層構造とし、インクが浸透する凸面部との色対比を鮮明化したことを特徴とする白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体。
【請求項2】
隠蔽性白色無機系顔料が酸化チタンであることを特徴とする請求項1記載の白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体。
【請求項3】
蛍光増白剤が、ナフタレンベンゾキサゾイル誘導体、チオフェンベンゾキサゾイル誘導体、スチルベンベンゾキサゾイル誘導体、クマリン誘導体、スチレンビフェニル誘導体、ピラゾロン誘導体、スチルベン誘導体、ベンゼン及びビフェニルのスチリル誘導体、ビス(ベンザゾールー2−イル)誘導体、カルボスチリル、ナフタルイミド、ジベンゾチオフェンー5,5´−ジオキシドの誘導体、ピレン誘導体、ピリドトリアゾールのグループから選択された1種または2種以上の蛍光増白剤であることを特徴とする請求項1記載の白色の多孔質熱可塑性インク浸透型印字体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−154498(P2009−154498A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338491(P2007−338491)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)