説明

白金族元素の回収方法

【課題】白金族元素を含むアンモニウム溶液から白金族元素を回収する方法を提供するものである。
【解決手段】白金族元素を含有するアンモニウム溶液から白金族元素を回収する方法において、
該溶液にアルカリ剤を添加し、加熱処理を行うことにより液中のアンモニウムイオンの大部分をアンモニアとして揮発除去を行うアンモニア除去工程
該アンモニア除去処理液を加熱し、酸化剤を添加し、残余のアンモニアを窒素として酸化分解を行い、
さらに塩酸を加え、液pHを7から9に調整を行い、酸化剤を添加することで白金族元素を水酸化物として沈殿処理することからなる白金族元素の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素を含有するアンモニウム溶液から白金族元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素は存在量が非常に少ないことが良く知られているが、非鉄製錬における電解精製工程で発生する陽極泥には白金族元素が濃縮されており、白金族元素回収原料とされている。陽極泥からの白金族元素の回収に関しては種々のプロセスが開発されているが、近年、溶媒抽出剤を利用した湿式精錬が主流となっている。
【0003】
このような用途におけるもっとも一般的な溶媒抽出剤としてトリブチル燐酸(TBP)が利用されている。例えば特許文献1に開示されているように、ロジウム精製プロセスにおいてロジウム以外の白金族元素の抽出、除去を行う目的で使用されている。
【0004】
TBPをはじめとする溶媒抽出剤は高価であるのでその再利用のために、また同時に、抽出された白金族元素の回収のためにTBPからの白金族元素の逆抽出反応が行われる。特許文献2に開示されているように、この逆抽出反応では塩化アンモニウム溶液が用いられる。
【0005】
該方法により逆抽出された溶液中には、数グラム/リットル程度の白金族元素が含有されており、この溶液を銅精錬の上流工程、例えば、自熔炉または転炉に戻すことで再度陽極泥として白金族元素回収原料とすることが可能である。しかし、該溶液に含有される白金族元素のうちイリジウムに関しては該溶液をその回収精製プロセスの出発原料とするのが最も適しており、よってこの観点から該溶液からの白金族元素の回収が望ましい。
【0006】
溶液から金属イオンを回収する方法として、一般的に水酸化物形成による沈殿法および硫化法が利用されている。しかし、アンモニウムイオンが多量に含有されている液に対してアルカリ剤を添加して水酸化処理した場合、白金族元素イオンがアンミン錯体を形成するので、液中でより安定な溶質イオンとなり、水酸化物形成は全く起こらない。硫化法では、白金族元素によっては硫化が困難なものがあることと、硫化物を種々の精錬手法にとって最適な形態である塩化物、または、塩化物溶液に転換することは容易ではない。
【0007】
その他に、白金族元素の液中からの回収法として、古くから晶析法と呼ばれるアルカリイオンおよびアンモニウムイオンと塩化物イオンからなる結晶を加えることにより白金族元素のクロロ錯体とアルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオンからなる難溶性の結晶を作製することで白金族元素を回収する方法が知られている。しかし、晶析法では、低濃度の白金族元素イオンの液に対しては晶析率が50〜80%程度であり、少なからぬ白金族元素の損失が生じる。しかも、得られる晶析物は難溶性のため再溶解が困難であり、特にアンモニウムイオンからなる晶析物の場合、アンモニウムイオンと白金族元素との分離は困難である。
【0008】
【特許文献1】特許第4116490号 高純度の白金族の回収方法
【特許文献2】特許第3669418号 リン酸トリブチルからのPd、Pt捕集方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、白金族元素を含むアンモニウム溶液から白金族元素を回収する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであって、
(1)白金族元素を含有するアンモニウム溶液から白金族元素を回収する方法において、
該溶液にアルカリ剤を添加し、加熱処理を行うことにより液中のアンモニウムイオンの大部分をアンモニアとして揮発除去を行うアンモニア除去工程
該アンモニア除去処理液を加熱し、酸化剤を添加し、残余のアンモニアを窒素として酸化分解を行い、
さらに塩酸を加え、液pHを7から9に調整を行い、酸化剤を添加することで白金族元素を水酸化物として沈殿処理すること
からなる白金族元素の回収方法。
(2)上記(1)に記載のアンモニア除去工程において、原料溶液に加える塩基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの何れか一つを含む白金族元素の回収方法。
【0011】
(3)上記(1)に記載のアンモニア除去工程において、原料溶液に塩基を加え、液pHを9から13とする白金族元素の回収方法。
(4)上記(1)に記載のアンモニア除去工程において、
塩基を加えた原料溶液の加熱処理が70℃から100℃であり、処理時間が4時間以上である白金族元素の回収方法。
(5)上記(2)に記載のPGM水酸化処理工程において、加える酸化剤が次亜塩素酸塩である白金族元素の回収方法。
(6)上記(2)に記載のPGM水酸化処理工程において、加える酸が塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、酢酸、リン酸、蓚酸の何れか一つを含むこ白金族元素の回収方法。
(7)上記(2)に記載のPGM水酸化処理工程において、原料溶液の加熱処理が70℃から100℃である白金族元素の回収方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、
(1)パラジウム、ロジウム、イリジウムの各白金族元素をほぼ完全に回収すること
が可能である。
(2)得られる白金族元素沈殿物を塩酸で洗浄を行うことで、イリジウム、ロジウム
の損失なしにパラジウムおよび不純物元素の洗浄除去を行うことが可能である。
(3)得られた白金族元素沈殿物を塩酸に溶解することでアンモニウムイオンおよび
アルカリ金属イオンを含まない高濃度の塩化物溶液を容易に得ることが可能である。
等を挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明について、詳細に説明する。
本発明であるイリジウムの回収方法は、白金族元素を含有するアンモニウム溶液を出発原料とする。
白金族元素とは、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム等である。
その濃度は、白金 30 から 10000mg/L
パラジウム30 から100000mg/L
イリジウム30 から100000mg/L
ロジウム30 から100000mg/L
アンモニア濃度は、0.1〜250g/Lである。
【0014】
(アンモニアの除去工程)
本発明のアンモニア除去工程では、原料溶液に塩基を添加ことで液中のアンモニアの揮発除去を行う。塩基は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。
液中のアンモニアは解離性(NH4+)と非解離性(NH3)の2形態で存在しており、この両形態の割合は乖離定数と液温によって決まっている。液温が20℃の場合、非解離性アンモニアの割合が50%以上となるのはpHが9.4以上であり、pH11では97%程度になる。液中から揮発除去が可能であるアンモニアは非解離性アンモニアの形態であるので、塩基を添加することで液pHを9以上に上げることが必要である。
好ましくは、pHを9から13である。
また加熱温度は、70℃以上である。好ましくは、70℃から100℃である。
保持時間は、4時間以上である。
これにより、液中に存在するアンモニウムイオンの大部分をアンモニアとして揮発除去を行う。
【0015】
(残余のアンモニアの除去工程)
本発明のPGM水酸化処理工程では、アンモニア揮発除去を終了した液に対し酸化剤を添加する。
酸化剤としては、空気、酸素含有ガス、過酸化水素等であるが、好ましくは、次亜塩素酸塩を用いる。
これにより、残余のアンモニアを窒素ガスとして酸化分解することで除去を行う。アンモニアが残存していると、白金族元素の水酸化反応が不充分となり回収率が低下する。
(水酸化物の形成工程)
次に酸を添加し、液pHを9より低下させる。
白金族元素の水酸化物形成時の液pHが9より高いとイリジウムの一部が水酸化物錯イオンを形成することで沈殿しなくなり、一方、pHが5より低いと水酸化物を形成しないので沈殿しない。
より好ましくは、pHは、7〜9である。
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、酢酸、リン酸、蓚酸の何れか一つを用いる。
酸(例えば塩酸)添加後、酸化剤(例えば次亜塩素酸塩)を添加することでイリジウムは3価から4価に酸化されて水酸化イリジウムとして沈殿する。徐冷後、濾過により水酸化イリジウムを回収する。
最終的な白金族元素の回収率は90%以上、特にパラジウム、イリジウムの回収率は99%程度に達する。
【実施例】
【0016】
以下に実施例をもって本発明を説明するが、実施例によって限定されるものではない。図1に、本発明の一態様を示す。図1に沿ってより具体的に本発明を説明する。
【0017】
(実施例1)
出発原料として、表1に示す塩化物溶液20Lを使用した。
アンモニア濃度は25g/Lであった。
以下に原料溶液に含まれる主要な白金族元素の分析値を表1示す。
【表1】

【0018】
(アンモニア除去処理)
固体水酸化ナトリウム2kgを該溶液に投入し、85℃に加熱、10時間保持を行った。液pHは12まで上昇した。加熱中は水分蒸発による液量減少を補うために純水を補った。加熱処理後の液中のアンモニア濃度は1g/L未満に低下した。
【0019】
(残余のアンモニア除去処理)
該アンモニア除去処理液を85℃に加熱し、5%次亜塩素酸ソーダ1Lを2時間かけて添加を行った。これにより、残余のアンモニアを窒素ガスとして酸化分解することで除去できた。
この時、液ORP値はスタート時の−200mV以下から300mV程度まで上昇した。
(水酸化物の形成工程)
次に85℃加熱状態を維持しつつ濃塩酸約1Lを1時間かけて添加した。液pHは8まで低下した。
次に85℃加熱状態を維持しつつ5%次亜塩素酸ソーダ1Lを2時間かけて添加を行った。これにより、イリジウムは3価から4価に酸化され、イリジウムは水酸化物を形成する。
液pHは7.5まで低下し、液ORPは600mV程度まで上昇した。
5%次亜塩素酸ソーダ添加終了後、徐冷し、室温まで下がった後、濾過を行い白金族水酸化物の回収を行った。濾液の分析値を以下表2に示す。
上記のpHとORPの変化を図2に示す。
【表2】

パラジウム、イリジウムの回収率は99%程度、ロジウムは95%以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の処理の一態様を示す。
【図2】PGM水酸化処理工程における液pH,ORPの挙動を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素を含有するアンモニウム溶液から白金族元素を回収する方法において、
該溶液にアルカリ剤を添加し、加熱処理を行うことにより液中のアンモニウムイオンの大部分をアンモニアとして揮発除去を行うアンモニア除去工程
該アンモニア除去処理液を加熱し、酸化剤を添加し、残余のアンモニアを窒素として酸化分解を行い、
さらに塩酸を加え、液pHを7から9に調整を行い、酸化剤を添加することで白金族元素を水酸化物として沈殿処理すること
からなることを特徴とする白金族元素の回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアンモニア除去工程において、
原料溶液に加える塩基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの何れか一つを含むことを特徴とする白金族元素の回収方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアンモニア除去工程において、
原料溶液に塩基を加え、液pHを9から13とすることを特徴とする白金族元素の回収方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアンモニア除去工程において、
塩基を加えた原料溶液の加熱処理が70℃から100℃であり、処理時間が4時間以上であることを特徴とする白金族元素の回収方法。
【請求項5】
請求項2に記載のPGM水酸化処理工程において、
加える酸化剤が次亜塩素酸塩であることを特徴とする白金族元素の回収方法。
【請求項6】
請求項2に記載のPGM水酸化処理工程において、
加える酸が塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、酢酸、リン酸、蓚酸の何れか一つを含むことを特徴とする白金族元素の回収方法。
【請求項7】
請求項2に記載のPGM水酸化処理工程において、
原料溶液の加熱処理が70℃から100℃であることを特徴とする白金族元素の回収方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−229446(P2010−229446A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76079(P2009−76079)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】