説明

皮脂吸収布帛を使用した化粧用具

【課題】本発明は、皮脂吸収布帛が有する優れた皮脂吸収性能を十分に発揮し、肌に皮脂吸収布帛を押し当てた際の安定性がよく、均一な力で一度に広い面積に皮脂吸収布帛を押し当てることができて化粧料のよれ及びはげによる化粧くずれが起こるのを最小限に抑える化粧用具の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具10は、クッション性を有する面状基体1に皮脂吸収布帛Aを接着してなる化粧用具であって、前記皮脂吸収布帛1が、単繊維径10〜1000nmのフィラメントよりなる糸条を含み、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単繊維径10〜1000nmのフィラメントよりなる糸条を含み、優れた皮脂吸収性能を有する皮脂吸収布帛を使用した化粧用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧用品として皮脂吸収シートが広く用いられており、該皮脂吸収シートは、これを化粧前あるいは化粧後に肌の表面に軽く押しあてることにより、顔や首などに滲み出た皮脂を吸収させるものである。皮脂吸収シートの例としては紙製のシートがある。この紙製シートは、皮脂が吸収されると変色するので、使用部分であるか否かが確認できるが、紙製であるためにシート表面が平坦で柔軟性及び伸縮性がないために肌に十分にフィットしないので、使用面を変えながら何度も肌に押し当てないと十分に皮脂が吸収されないため、化粧料がよれやすく皮脂と同時に化粧料も紙に付着するので、化粧料がはがれて化粧くずれが起きるという問題があった。また、紙製シートの厚みが薄いために吸収した皮脂がシートの裏面から滲み出して手に付着するので、手が皮脂によりべとつくという問題があった。また、該シートは紙製のため柔軟性がないので肌に押しあてた際に粗硬感があるという欠点があった。
【0003】
また、最近では、特許文献1に示されるように、極細繊維で構成された平織クロスが提案されているが、このようなクロスでは、柔軟性があるため粗硬感は改善されているが、伸縮性に欠けるため肌へのフィット性に劣り、結果として皮脂吸収量が十分でないという問題があった。さらには、クロスの厚みが薄く設計されているため、上記紙製シートと同様に、吸収した皮脂がクロスの裏面から滲み出して手がべとつくという問題があった。
【0004】
そこで、超極細繊維を用いた伸縮性の良好な皮脂吸収布帛を開発し、肌に対する優れたフィット性により皮脂吸収性能を十分に発揮し、吸収した皮脂が裏面に滲み出ず、取扱が快適な皮脂吸収布帛を得た。
【特許文献1】特開2004−293010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなシート状の皮脂吸収布帛を使用して皮脂を吸収させるとすると、指先で皮脂吸収布帛を肌に押し当てることになるので、皮脂吸収布帛がずれ動くおそれがあって安定性に欠けるため化粧よれを起こす可能性があり、また、皮脂吸収布帛を介して指先が肌に接触する部分を中心に皮脂が吸収されるため、化粧料のよれ及びはげによる化粧くずれを起こす可能性がある。しかも、指先の面積が小さく凹凸があるために、皮脂吸収布帛を均一な力で一度に広い面積で肌に接触させることができず、押し当てる部分を変えながら何度も皮脂吸収作業を行わねばならず、回数が多くなれば化粧料のよれ及びはげが大きくなり化粧くずれがひどくなるのが実情である。
【0006】
本発明は、皮脂吸収布帛が有する優れた皮脂吸収性能を十分に発揮し、肌に皮脂吸収布帛を押し当てた際の安定性がよく、均一な力で一度に広い面積に皮脂吸収布帛を押し当てることができて化粧料のよれ及びはげによる化粧くずれが起こるのを最小限に抑える化粧用具を提供することを目的とするものである。そして、鋭意研究の結果、皮脂吸収布帛をクッション性のある面状の基体に接着すれば、上記の目的が達成できることを見出し、本発明の化粧用具を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具は、クッション性を有する面状基体に皮脂吸収布帛を接着してなる化粧用具であって、前記皮脂吸収布帛が、単繊維径10〜1000nmのフィラメントよりなる糸条(以下、「ナノファイバー糸条」という。)を含み、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上であることを特徴とするものである。このように構成したことにより、皮脂吸収布帛を面で肌に押し当てることが可能となり、しかもクッション性及び安定性が向上する。さらに皮脂吸収布帛は面状基体に接着されているため、万一、皮脂が皮脂吸収布帛を通過して滲み出るようなことがあっても面状基体により皮脂の通過が遮断されるので、皮脂が手に付着するおそれがさらになくなる。
【0008】
なお、前記ナノファイバー糸条において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜900nm、特に好ましくは550〜900nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、十分な皮脂吸収性能が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。また、単繊維繊度のばらつきが−20%〜+20%の範囲内であることが好ましい。また、前記ナノファイバー糸条において、それを構成するフィラメント数は特に限定されないが、各フィラメント間における優れた密着性を得る上では500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ナノファイバー糸条の総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。前記ナノファイバー糸条の繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。前記ナノファイバー糸条を形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、ポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。また、前記ナノファイバー糸条が、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。すなわち、海成分と、その径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。ここで、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。一方、島成分ポリマーは、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。次いで、かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸を単独で用いるか、必要に応じて単繊維径が1000nmより大の弾性繊維糸など他の糸とともに用いて、布帛を製編または製織する。その際、布帛の組織は特に限定されず、通常の方法で得られた、織物または編物または不織布でよい。ここで、織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。次いで、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmのマルチフィラメント糸とする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度1〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜70℃の温度で処理するとよい。また、常法の染色加工、起毛加工、撥水加工、吸水加工、バッフィング加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。特に、布帛に染色加工(例えば明度が10〜90の範囲内。)が施されていると、皮脂吸収前後の色の変化により皮脂が吸収されたことを目で確認することができ好ましい。かくして得られた皮脂吸収布帛には、超極細繊維である前記ナノファイバー糸条が含まれており、しかも伸度が大きいので、肌へのフィット性がよく、優れた皮脂吸収性能が得られる。その際、布帛の表面および裏面に前記ナノファイバー糸条のみが露出していると、表面および裏面がフラットとなり、肌への刺激が少なく、優れた皮脂吸収性能が得られる。
【0009】
さらに、皮脂吸収布帛の厚さが0.2〜1.0mmの範囲内であり、皮脂吸収布帛の目付けが100〜250g/mの範囲内であることが好ましく、皮脂吸収布帛に染色加工が施されていることが好ましい。布帛の厚さが0.2mmよりも小さいと吸収した皮脂が布帛裏面に滲み出し、手が汚れるおそれがある。逆に、布帛の厚さが1.0mmよりも大きいと、厚さが厚すぎて収納が困難になるおそれがある。さらにまた、本発明の皮脂吸収布帛は、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上(好ましくは200〜600%)であることが肝要であり、特に経方向および緯方向ともに、伸度が150%以上(好ましくは200〜600%)であることが好ましい。布帛の伸度が150%以上であることにより肌へのフィット性が高まり、優れた皮脂吸収性能が得られる。該伸度が150%未満では、十分な皮脂吸収性能が得られないおそれがある。
【0010】
前記の構成において、皮脂吸収布帛を構成する他の糸条として、単繊維径1000nmより大の弾性繊維糸を使用することにより、皮脂吸収布帛に伸縮性を付与する構成としてもよい。本発明の皮脂吸収布帛は、前記のナノファイバー糸条のみで構成されていてもよいが、布帛重量に対して30重量%以下であれば、他の糸条が1種類または複数種類含まれていてもよい。その際、かかる他の糸条としては、単繊維径が1000nmより大の、前記のようなポリエステルからなるポリエスエテル糸条や弾性繊維糸が好ましい。特に、他の糸条として弾性繊維糸が含まれていると、布帛にさらに優れた伸縮性が付加され好ましい。弾性繊維糸としては、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレンオキシドグリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる非吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリウレタン弾性繊維糸、ポリトリメチレンテレフタレート糸、合成ゴム系弾性繊維糸、天然ゴム系弾性繊維糸などが好適に例示される。また、弾性繊維糸の総繊度としては、5〜100dtex(より好ましくは10〜40dtex)の範囲内であることが好ましい。前記弾性繊維糸の破断伸度は200%以上のものが好ましく、染色加工時の熱処理によって性能を損なわないものが好ましい。このように、布帛の伸度を前記のように150%以上とするためには、前記ナノファイバー糸条と弾性繊維糸とで布帛を構成するとよい。その際、前記ナノファイバー糸条と弾性繊維糸とが複合糸として含まれていてもよく、また、両者が引き揃えられて含まれていてもよく、両者が交織や交編されていてもよい。また、必要に応じて、さらに他の繊維として単繊維径が1000nmより大のポリエステル繊維などが含まれていてもさしつかえない。
【0011】
また、前記の構成において、皮脂吸収布帛が編組織を有することにより、皮脂吸収布帛に伸縮性を付与する構成としてもよい。特に、前記のような布帛の伸度を得る上で編物が好ましい。編物の種類は、よこ編物であってもよく、たて編物であってもよい。よこ編組織としては、天竺、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示される。天竺の編組織で2種の糸条で複合ループを形成したプレーテイング天竺、その際、一方の糸条を弾性繊維糸条としたベア天竺などが好適に例示される。たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0012】
さらに、前記の構成において、皮脂吸収布帛の表面及び裏面において、前記ナノファイバー糸条のみが露出する構成とすれば、表面および裏面がフラットとなり、肌への刺激が少なく、より一層優れた皮脂吸収性能が得られる。
【0013】
さらにまた、前記の構成において、皮脂吸収布帛が面状基体に、縫着、付着、圧着、熱接着又はバインダー接着のいずれかの接着方法により接着されてなる構成としてもよい。なお、皮脂吸収布帛は、立毛の長さが0.5mm〜20mm、立毛糸の総繊度が33〜330dtex、単糸繊度が0.2〜5.0dtex、立毛密度が8000〜500000本/cmで構成された立毛布帛に対して、接着剤を使わなくても付着する性質がある。この付着は布帛表面の繊維同士の絡合によるもので、付着の持続性に優れ、生地に対するダメージも少なく、かつ、着脱自在という優れた利点を皮脂吸収布帛は上記のような立毛布帛に対しては有することになる。そして、このような立毛布帛により表面が構成された化粧パフ等の面状基体に対して、皮脂吸収布帛が簡単に付着して皮脂吸収用の化粧用具となるので汎用性があって便利であり、簡単に面状基体から皮脂吸収布帛を剥がして皮脂吸収布帛のみを洗浄することができるので手入れが簡単であり、衛生的である。また、面状基板の適宜の位置に皮脂吸収布帛を付着できるので、例えば肌の広い面の皮脂を吸収させるには面状基体の広い面に皮脂吸収布帛を付着させて使用し、小鼻などの凹凸のある細かな部分の皮脂を吸収させるには、面状基体の角などに付着させて使用するなど、使用者の使いやすい面状基体の位置に皮脂吸収布帛を付着させて使用することができるので便利である。
【0014】
また、面状基体が化粧パフであるか、または、面状基体に化粧パフが取着されている構成としてもよく、その場合には、化粧パフと皮脂吸収用具とが兼用でき、化粧なおしの際に行う「皮脂吸収後化粧料を塗布」の行為を1つの用具でスムーズに行うことができ、見た目は化粧パフであるため、皮脂を除去しているようには見えないので体裁がよい。さらに、皮脂吸収布帛と化粧パフとの組合せに加え、他の化粧素材よりなるシートを重ね合わせて多重構造とすれば、2つ以上の機能を併せもつ化粧用具となる。
【0015】
さらにまた、皮脂吸収布帛に、皮脂吸収布帛と同色で皮脂を吸収しない顔料により図柄や文字を描いた構成とすれば、未使用時は図柄や文字が現出せず、使用すれば皮脂吸収により皮脂吸収布帛が変色しても、図柄や文字は変色しないので、図柄や文字が現出して化粧用具のデザインに変化が起こるので、皮脂吸収効果が視認でき、また、皮脂吸収による汚れ感が軽減され、しかも、洗浄の際に皮脂が十分洗浄されたか否かの目安となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具は、上記の構成よりなるため、皮脂吸収布帛が有する優れた皮脂吸収性能を十分に発揮し、肌に皮脂吸収布帛を押し当てた際の安定性がよく、均一な力で一度に広い面積に皮脂吸収布帛を押し当てることができて化粧料のよれ及びはげによる化粧くずれが起こるのを最小限に抑える効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の断面図である。
【0019】
実施例1に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具10は、クッション性を有する面状基体1、例えばスポンジ2の一方の面を布地3で覆い、他方の面4に皮脂吸収布帛Aを接着してなるものであって、前記皮脂吸収布帛Aが後述する製法により構成されてなるものである。なお、接着方法としては、縫着、圧着、熱接着又はバインダー接着のいずれかの接着方法により接着する。また、面状基体1に内包されるクッション材はスポンジに限られるものではなく、綿や布地の積層物など面状基体にクッション性を付与するものであればどのようなものでもよい。さらに、前記スポンジ2の一方の面を覆う布地3もこれに限られるものではなく、軟質合成樹脂などのシート状のものであればどのようなものでもよい。さらにまた、面状基体1の形状もこれに限られるものではなく、種々の形態のものを採用してもよい。
【0020】
上記のように化粧用具10を構成したことにより、皮脂吸収布帛Aを面で肌に押し当てることが可能となり、しかもクッション性及び安定性が向上する。さらに皮脂吸収布帛Aは面状基体1に接着されているため、万一、皮脂が皮脂吸収布帛Aを通過して滲み出るようなことがあっても面状基体1により皮脂の通過が遮断されるので、皮脂が手に付着するおそれがさらになくなる。
【0021】
前記皮脂吸収布帛Aの製法は、次のとおりである。すなわち、島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。該海島型複合延伸糸と、2.2倍にドラフトした市販のポリウレタン弾性糸22dtex/1filとを引きそろえて、ハーフ組織(バック:10/12、ミドル:23/10、フロント:10/23による編方)によりハーフ組織の経編生機を得た。次いで、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の染色仕上げ加工、湿熱加工、乾熱加工を行った。得られた編物において、ナノファイバー糸条の平均単繊維径は700nm、最大値と最小値の幅は平均繊維径に対し15%であった。ポリウレタン弾性糸の単繊維径は45μmであった。編み物の伸度は経方向250%、緯方向285%、厚みは0.44mm、目付は148g/m2であった。また、得られた編物の表面および裏面にはナノファイバー糸条のみが露出しており、フラットであった。なお、本実施例における皮脂吸収布帛は、これに限られるものではなく、「課題を解決するための手段」に記載した広範囲の材料及び方法により製造される皮脂吸収布帛を含む。
【実施例2】
【0022】
図2は実施例2に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の分解斜視図であり、図3は実施例2の変更例を示す皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の斜視図であり、図4は実施例2の変更例を示す皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の断面図である。
【0023】
実施例2の皮脂吸収布帛Aを使用した化粧用具20は、実施例1において詳述した皮脂吸収布帛Aを、クッション性のある面状基体21における下記構成の接着面22に、皮脂吸収布帛Aの表面に露出する繊維と前記接着面22に露出する繊維との絡合により付着させることにより一体化するものである。
【0024】
すなわち、前記面状基体21における接着面22は、立毛の長さが0.5mm〜20mm、より好ましくは1mm〜6mm、立毛糸の総繊度が33〜330dtex、より好ましくは56〜167dtex、単糸繊度が0.2〜5.0dtex、より好ましくは0.3〜4.0dtex、立毛密度が8000〜500000本/cm、より好ましくは8000〜100000本/cmで構成された立毛布帛であり、該立毛布帛よりなる接着面22は皮脂吸収布帛Aに対して接着剤を使わなくても容易に付着し、容易に剥がすことができる。この付着は前記したように接着面22と皮脂吸収布帛Aの表面における相互の繊維同士の絡合によるもので、皮脂吸収布帛Aは、面状基体21に対して付着の持続性に優れ、双方の接着面における生地に対するダメージも少なく、かつ、着脱自在という優れた利点を有している。
【0025】
このような立毛布帛により表面の一部が構成された化粧パフ等の面状基体21に対して、皮脂吸収布帛Aが簡単に付着して皮脂吸収用の化粧用具20となるので汎用性があって便利であり、簡単に面状基体21から皮脂吸収布帛Aを剥がして皮脂吸収布帛Aのみを洗浄することができるので手入れが簡単であり、衛生的である。また、面状基体21の適宜の位置に皮脂吸収布帛Aを付着できるので、例えば肌の広い面の皮脂を吸収させるには面状基体21の広い面に皮脂吸収布帛Aを付着させて使用し、小鼻などの凹凸のある細かな部分の皮脂を吸収させるには、面状基体21の角などに皮脂吸収布帛Aを付着させて使用するなど、使用者の使いやすい面状基体21の位置に皮脂吸収布帛Aを付着させて使用することができるので便利である。
【0026】
なお、実施例2における面状基体21は、前記の立毛布帛を表面の一部に有するクッション性のあるものであれば、その全体形状や内部構造はどのようなものでもよく、図3及び図4に示す袋状をなす小物入れなどであってもよい。
【0027】
図3に示す皮脂吸収布帛Aを使用した化粧用具20’は、緊締紐を有する巾着型の化粧パフを面状基体21’とし、これに実施例1において詳述した皮脂吸収布帛Aを付着させて使用するものである。面状基体21’は、一方の面が、パフ用生地よりなり、かつ、皮脂吸収布帛Aが付着する接着面22’であり、他方の面23’は前記接着面22’とは異なる材質のパフ用生地よりなる。該面状基体21’は、これを化粧用具として使用する場合は図示する状態であるが、化粧用具として使用しない場合には、面状基体21’の内外を返して巾着とし、その内部に皮脂吸収布帛Aその他の化粧小物や化粧料を入れた容器等を収納して緊締紐で閉じておくことができ、携帯に便利であり、かつ、多機能な化粧用具である。
【実施例3】
【0028】
図5は実施例3に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の斜視図であり、図6は実施例3に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の断面図であり、図7は実施例3に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具において皮脂吸収布帛の内外を返した状態における断面図である。
【0029】
実施例3における皮脂吸収布帛Aを使用した化粧用具30は、図5及び図6に示すように、面状基体31が化粧パフである実施例であり、この面状基体31に対して実施例1において詳述した皮脂吸収布帛Aが袋状をなすように取り付けたものである。すなわち、面状基体31は、パフ用生地で構成された上面生地32と下面生地33との間にスポンジ体34を封入し、下面生地33に面状基体31の半分近くの大きさの半円形シート35を重ね合わせ、指挿入口となる直線部35aを除く半円形シート35の周囲と面状基体31の周囲とを縫い合わせて指挿入用ポケット36を形成したものである。皮脂吸収布帛Aは、前記半円形シート35とほぼ同形同大の半円形をなすものであり、面状基体31におけるパフ用生地で構成された上面生地32側において、半円形シート35と相対抗する位置に重ね合わせ、皮脂吸収布帛Aの直線部A1を除く皮脂吸収布帛Aの周囲と面状基体31の周囲とを縫い合わせることにより袋状をなすように取り付けたものである。
【0030】
このように構成することにより、皮脂吸収布帛Aがパフ用生地で構成された上面生地32の上に重なって皮脂吸収布帛Aが露出しているので、指を指挿入口から指挿入用ポケット36に挿入し、皮脂吸収布帛Aを利用して、化粧なおしの際などに皮脂吸収用の化粧用具30として使用する。皮脂吸収用化粧用具として使用しないときには、図7に示すように、皮脂吸収布帛Aの内外を返した状態、言い換えれば、皮脂吸収布帛Aを裏返しながら下面生地33側、すなわち半円形シート35の上に重なるように皮脂吸収布帛Aの内外を返した状態に変形させるとパフ用生地で構成された上面生地32の全体が露出する。この状態における化粧用具30は、指を指挿入口から指挿入用ポケット36に挿入し、上面生地32であるパフ用生地を利用すれば化粧パフとして使用できる。また、この状態においては、皮脂吸収布帛Aの皮脂吸収面が露出しないので、他のものに接触して皮脂が他のものに付着するようなことがなく、衛生的であり、使い勝手がよいものとなる。
【0031】
なお、実施例3においては、面状基体31としてパフ用生地で構成された上面生地32と下面生地33との間にスポンジ体34を封入した、いわゆる縫製パフを使用したが、これに限られるものではなく、皮脂吸収布帛Aが前記のように内外に返すことができるものであれば、どのような化粧パフでもよい。また、実施例3における皮脂吸収布帛Aは、皮脂吸収布帛Aのみで構成したが、内面側を皮脂吸収布帛Aとし、外面側に布地や軟質合成樹脂地等のカバーシートを積層してもよく、また、面状基体31における上面生地32とは異なるパフ生地やスポンジ、あるいはガーゼ等の汚れ除去用素材を積層して構成してもよい。さらに、実施例3においては1枚の皮脂吸収布帛Aを使用したものを例示したが、この皮脂吸収布帛Aを設けた方法と同様にして、皮脂吸収布帛Aの上に他の化粧用シートを重ねて面状基体31に縫着してもよく、その際には、他の化粧用シートは、前記皮脂吸収布帛Aや上面生地32のパフ生地とは異なる化粧用素材により構成すれば、機能性が向上する。
【0032】
次に、出願人は本発明に関する性能試験を下記のとおり行った。
【0033】
[皮脂とり性能試験]
下記表1中の7種類の試料について、被験者として男性3名(素肌)女性2名(化粧の上から)を対象にして次の試験を行った。すなわち、被験者の顔面の一部を各試料毎に7区画し、皮脂を除去する前の各区画の皮脂量をデジタルマイクロスコープ(Courage + Khazaka electronic GmbH製の皮膚粘弾性測定装置「キュートメーターMPA580」を使用)により測定する。次に、各試料を各区画に3秒間押し当てて皮脂を除去した後の各区画の皮脂量を上記のデジタルマイクロスコープにより測定する。これを3回行って平均した皮脂の除去率を表1に示す。この試験結果における平均値からすると、ナノファイバーのみ及び化粧パフにナノファイバーを接着した試料は75%の皮脂除去率であり、除去の効果が高いことが判明した。また、A社あぶらとり紙、B社あぶらとりフィルム及びC社あぶらとりクロスはいずれも60%〜70%の皮脂除去率であり、除去効果は前記試料より幾分劣ることが判明した。さらに、D社マイクロファイバー及びティッシュペーパーは60%皮脂除去率であり、除去の効果が低いことが判明した。
【表1】

【0034】
[化粧料のよれ・化粧料のはがれ試験結果]
上記と同一の表2中の7種類の各試料について、被験者の腕に人工皮脂を加えたリキッドファンデーションを塗布し、各試料を5秒間押し当てた後、人工皮脂除去後の腕を20倍の倍率でマイクロスコープにより観察し、次の評価点を基準にして各試料を化粧料のよれ及び化粧料のはがれを評価した。この試験結果によると、化粧パフにナノファイバーを接着した試料は、化粧料のよれ・化粧料のはがれがいずれも非常に小さく、化粧くずれが極めて起きにくいことが判明した。ナノファイバーのみの試料は、化粧料のよれ・化粧料のはがれがいずれも小さく、化粧くずれが起きにくいことが判明した。D社マイクロファイバー及びティッシュペーパーは、化粧料のはがれが小さいけれども、化粧料のよれが大きくて化粧くずれが起き易いことが判明した。C社あぶらとりクロスは、化粧料のよれ・化粧料のはがれがいずれも普通であり、この2つの要因で化粧くずれが起き易いことが判明した。A社あぶらとり紙及びB社あぶらとりフィルムは、化粧料のよれが評価不能なほど悪く、化粧料のはがれも非常に大きく化粧くずれが非常に激しいことが判明した。
【0035】
評価点1:非常に大きいか又は評価不能
評価点2:大きい
評価点3:普通
評価点4:小さい
評価点5:非常に小さい
【表2】

【0036】
以上の試験結果を総合的に判断すると、A社あぶらとり紙及びB社あぶらとりフィルムは皮脂除去率が普通であるが、化粧くずれが激しく、C社あぶらとりクロスは皮脂除去率が普通であるが、化粧くずれが起きやすく、D社マイクロファイバーは皮脂除去率が非常に低く、かつ、化粧くずれが起きやすく、ティッシュペーパーは皮脂除去率が低く、かつ、化粧くずれが起きやすく、ナノファイバーは皮脂除去率が高く、かつ、化粧くずれが起きにくく、化粧パフにナノファイバーを接着したものの場合は皮脂除去率が非常に高く、かつ、化粧くずれが極めて起きにくい結果となった。したがって、本発明に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具は、通常の皮脂吸収のための用具よりも皮脂吸収性能が極めて高く、かつ、化粧よれ及び化粧はげによる化粧くずれもほとんど起きず、本発明に使用する皮脂吸収布帛よりも皮脂吸収性能が高く、かつ、化粧よれ及び化粧はげによる化粧くずれもほとんど起きない優れた化粧用具である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例1に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の断面図である。
【図2】本発明の実施例2に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施例2の変更例を示す皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の斜視図である。
【図4】本発明の実施例2の変更例を示す皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の断面図である。
【図5】本発明の実施例3に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の斜視図である。
【図6】本発明の実施例3に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具の断面図である。
【図7】本発明の実施例3に係る皮脂吸収布帛を使用した化粧用具において皮脂吸収布帛の内外を返した状態における断面図である。
【符号の説明】
【0038】
A・・・・皮脂吸収布帛
10・・・化粧用具
1・・・・面状基体
2・・・・スポンジ
3・・・・布地
4・・・・他方の面(皮脂吸収布帛接着面)
20・・・化粧用具
21・・・面状基体
22・・・皮脂吸収布帛接着面
20’・・化粧用具
21’・・面状基体
22’・・皮脂吸収布帛接着面
23’・・他方の面(パフ用生地)
30・・・化粧用具
31・・・面状基体
32・・・上面生地(パフ用生地)
33・・・下面生地
34・・・スポンジ体
35・・・半円形シート
35a・・半円形シートの直線部
36・・・指挿入用ポケット
A1・・・皮脂吸収布帛の直線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション性を有する面状基体に皮脂吸収布帛を接着してなる化粧用具であって、
前記皮脂吸収布帛が、単繊維径10〜1000nmのフィラメントよりなる糸条を含み、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上であることを特徴とする皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。
【請求項2】
皮脂吸収布帛を構成する他の糸条として、単繊維径1000nmより大の弾性繊維糸を使用することを特徴とする請求項1に記載の皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。
【請求項3】
皮脂吸収布帛が編組織を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。
【請求項4】
皮脂吸収布帛の表面及び裏面において、前記単繊維径10〜1000nmのフィラメントよりなる糸条のみが露出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。
【請求項5】
皮脂吸収布帛が面状基体に、縫着、付着及びバインダー接着のいずれかの接着方法により接着されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。
【請求項6】
面状基体が化粧パフであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。
【請求項7】
面状基体に化粧パフが取着されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。
【請求項8】
皮脂吸収布帛に、皮脂吸収布帛と同色で皮脂を吸収しない顔料により図柄や文字を描いたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮脂吸収布帛を使用した化粧用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−297289(P2009−297289A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155578(P2008−155578)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000229634)日本パフ株式会社 (2)