説明

皮膚の病的症状の推移の予測方法

【課題】 現在の肌状態のベクトル、即ち、今後、快方に向かうのか、悪化に向かうのかを鑑別する手段を提供する。
【解決手段】 皮膚に病的症状を有する生体において、皮膚から、粘着テープを用いて角層細胞を採取し、レーザー顕微鏡により観察される像における、微絨毛様突起の出現頻度を指標として、該頻度が高いほど、それ以後に皮膚の病的症状が重篤化する蓋然性が高いと鑑別し、皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法を提供する。但し、医療目的を除く。前記生体はヒトが好ましく、前記レーザー顕微鏡により観察される像が、顕微鏡観察像のイメージデータであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療目的を除く、皮膚の病的症状の推移の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の状態の鑑別において、角層細胞の状態が指標になることは既に知られており、角層細胞の状態を知ることにより、多くの肌情報が得られることも既に知られている。又、この様な情報を利用して、化粧料の選択を行う技術も既に知られている。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4を参照)この様な技術により、肌状態をより正確に知ることができるようになり、的確な化粧料の選択などが可能になったが、この様な進歩においても、課題として残っていることとして、現在の肌状態のベクトルが、快方に向かうのか、低下に向かうのかという方向性の鑑別である。方向の向きにより、肌の処置は全く異なってしまうため、現在の技術では、フォローアップをしっかり行い、方向性を見極めることで対応がなされている。この為、肌の状態の鑑別を回数を重ねて行わなければならない状況にある。
【0003】
一方、角層細胞を皮膚表面から採取した場合に、時として角層細胞に前記微絨毛様突起が観察されるものが剥離してくる場合が存し、この様な微絨毛突起が観察される場合、皮膚のターンオーバーが亢進し、皮膚状態が非常に悪いことが知られている(例えば、特許文献5を参照)。しかしながら、角層細胞と皮膚の状態を、レーザー顕微鏡による観察で、どの程度の頻度で微絨毛様突起が観察されるかを指標に、観察される該頻度が高いほど、それ以後に皮膚の病的症状が重篤化する蓋然性が高いと鑑別することは全く行われていなかった。又、この様な観察により、皮膚の病的症状及び症状の将来的な予測がなしうることも知られていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2005−119995号公報
【特許文献2】特開2004−105700号公報
【特許文献3】特開2004−053491号公報
【特許文献4】特開2001−013138号公報
【特許文献5】特開2003−344390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、現在の肌状態のベクトル、即ち、今後、快方に向かうのか、悪化に向かうのかを鑑別する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、現在の肌状態のベクトル、即ち、今後、快方に向かうのか、悪化に向かうのかを鑑別する手段を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、生体そのものの皮膚から、粘着テープを用いて角層細胞を採取し、レーザー顕微鏡により観察される像における、微絨毛様突起の出現頻度を指標として、該頻度が高いほど、それ以後に皮膚の病的症状が重篤化する蓋然性が高いと言う基準で鑑別することにより、この様なベクトルを予測できることを見いだし、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下に示すとおりである。
(1)皮膚に病的症状を有する生体において、皮膚から、粘着テープを用いて角層細胞を採取し、レーザー顕微鏡により観察される像における、微絨毛様突起の出現頻度を指標として、該頻度が高いほど、それ以後に皮膚の病的症状が重篤化する蓋然性が高いと鑑別することを特徴とする、皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法。但し、医療目的を除く。
(2)前記生体がヒトであり、前記レーザー顕微鏡により観察される像が、顕微鏡観察像のイメージデータであることを特徴とする、(1)に記載の皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法。
(3)更に、経皮的散逸水分量(TEWL)を指標として、TEWLの値が高いほど、現在のバリア機能は低下しており、その将来における状態の蓋然性は、請求項1又は2に記載の微絨毛様突起の出現頻度が高いほど皮膚バリア機能は低下している状況にあり、低いほど皮膚バリア機能は改善、向上していると鑑別することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、現在の肌状態のベクトル、即ち、今後、快方に向かうのか、悪化に向かうのかを鑑別する手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の皮膚の皮膚の病的症状の推移の予測方法は、皮膚に病的症状を有する生体において、皮膚から、粘着テープを用いて角層細胞を採取し、レーザー顕微鏡により観察される像における、微絨毛様突起の出現頻度を指標として、該頻度が高いほど、それ以後に皮膚の病的症状が重篤化する蓋然性が高いと鑑別することを特徴とする。ここで、皮膚の病的状態とは、外観的に見て正常肌ではないことが一瞥してわかる状態であり、炎症、落屑、痂皮等の病的な症状を伴う状態である。経時的に観察している場合においては、この様な症状の継続期間、症状の変化の推移などを指標に、現在の症状は治癒の過程にあるのか、或いは、これから更に悪化する途上にあるのかを知ることができ、このこれからの皮膚状態の推移予測によって皮膚の症状に対する処置を変えて、適切な処置を選択することが可能であるが、ある一時点において、これからの推移を予測することはこれまでは困難であった。
【0009】
本発明の予測方法において、皮膚に病的症状を有する生体において、皮膚から、粘着テープを用いて角層細胞を採取し、レーザー顕微鏡により観察される像を得るための、レーザー顕微鏡としては、通常市販されているものを使用すれば良く、例えば、キーエンス株式会社製の超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9500GII等が好適に例示でき、倍率としては、0.1〜1μmが改造できる程度が好ましく、具体的には、100〜200倍の倍率で観察することが好ましく、特に好ましくは150倍である。この様な顕微鏡での観察像はイメージデータとしてパソコンなどに取り込み、標準的な画像と比較等して、定量化すればよい。該定量化手段としては、例えば、前記微絨毛様突起の出現頻度をスコアをつけてランク分けすることができる。又、実際の微絨毛様突起の出現個数を計数して、スコア値を求め、これを利用してランク付けすることもできる。この様なランク分けは、視野における出現の状況と、出現総個数から行うことが好ましく、その基準としては表1に記載の基準に従ってa、b、c、d、eの数値を求め、(5×a+4×b+3×c+2×d+1×e)/(a+b+c+d+e)の式に従ってスコアを求めることが好ましく例示できる。このスコア1〜5の標準的なレーザー顕微鏡画像を図1〜図5に示す。前記観察画像を標準的なスコア画像と比較しスコア値を算出することも可能である。勿論、画像そのものを、画像処理して、前記微絨毛様突起の数が定量できる条件を探し出し、数値化して比較することもできる。この様に操作することにより、画像処理から数値化して求めた定量値と同様の定量値が、画像処理プログラムを使用することなく求めることができる。
【0010】
【表1】

【0011】
この様に求めた、微絨毛様突起の出現スコアは、現在の経皮的散逸水分量(TEWL)とも良く相関するが、皮膚の病的症状の今後の推移とも良く相関する。この為、現在の皮膚バリア機能の数値を用いて補完することにより、その一時点において、これからのTEWLの推移を予測することが可能になる。即ち、1)TEWL値が高くて、スコア値が低い場合には、肌状態は快方に向かっており、時間を経ることにより、TEWL値は低下すると推測でき、2)TEWL値が高くて、スコア値も高い場合には、更に肌状態は悪化すると推測でき、3)TEWL値が低くて、スコア値が高い場合には、現在は皮膚バリア機能は良好であるが、経時的には低下する傾向にあると推測することができ、4)TEWLも、スコア値も低い場合には、良好な肌状態が今後においても続くと推測される。
【0012】
前記の推測ができることにより、肌状態をより改善できる手入れ方法が処置できる。即ち、1)の場合には、現在のTEWLの数値を低下させることを旨とすれば良いわけであるから、ヒアルロン酸及び/又はその塩、硫酸化トレハロース及び/又はその塩等の抱水性高分子0.01〜0.2質量%による保湿を行い、ワセリンなどの閉塞性の高い油性成分を10〜30質量%含む化粧料で仕上げの閉塞処置を行うことが例示でき、2)の場合には、1)の保湿性の付与に加えて、更にメタクリロイルオキシエチルコリンを構成モノマーとする、ポリマー乃至はコポリマーなどのバリア機能を付与する高分子0.01〜0.5質量%で処置し、皮膚バリア機能の低下を予め補完しておくことが好ましく、3)の場合には、専らに、メタクリロイルオキシエチルコリンを構成モノマーとする、ポリマー乃至はコポリマーなどのバリア機能を付与する高分子0.01〜0.5質量%で処置し、皮膚バリア機能の低下を予め補完しておくことが好ましく、4)の場合には、現在の状態を維持すべく、通常の手入れを心がけることが好ましい。又、本発明の皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法は、そのベクトルを見定めることにより、化粧料などの皮膚外用剤が有効に働いているか否かを知る、皮膚外用剤の評価にも応用することができる。
【0013】
以下に、実施例をあげて、更に詳細に本発明の予測方法について説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0014】
皮膚病態モデルとして、乳幼児の皮膚を用いて、本発明の予測方法を確かめた。乳幼児においては、出生後、その皮膚は、外界環境に適応途上にあり、皮膚に病的な症状を周期的に呈しながら、正常な皮膚へと遷移して行くことが知られている。これを利用し、乳幼児の皮膚を肌荒れの一モデルに用い、皮膚の病的な症状の遷移と、TEWL、皮膚から採取した角層細胞の微絨毛様突起の発現の頻度との関係を調べた。即ち、親の同意の元に、ボランティアとして集めた22名の乳幼児(0歳、男10名、女12名)について、顔の皮膚のTEWLをテヴァメータ(インテグラル社製)で計測し、粘着テープで採取した角層について、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9500GII)で微絨毛様突起の状況を画像としてコンピューターに取り込み、該画像より判別した。又、皮膚科医の判定により、皮膚の病的な症状の程度を観察した。この観察は3ヶ月、6ヶ月でも同様に行った。個人別の遷移を表2に示す。又、スコアの出現例率として図6に示す。これより、微絨毛様突起の出現程度は皮膚の病的症状の重篤度、TEWLと良く相関するものの、皮膚の病的症状の重篤度、TEWLの変化に先んじて現れることがわかる。即ち、微絨毛様突起の出現が、皮膚の病的症状の重篤化に予兆になっていることがわかる。
【0015】
【表2】

【実施例2】
【0016】
成人28歳女性の首部をレーザー顕微鏡で観察した結果を図7に示す。像は乳幼児のレーザー顕微鏡観察像と類似しており、微絨毛様突起の発現のスコアは2.4相当であった。観察時点で、肌荒れの症状が散見し、1ヶ月後には明瞭な肌荒れを観察した。これより、成人においても乳幼児と同様の現象が観察されることがわかり、乳幼児の肌荒れのモデルが成人にも同様に適用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、肌状態のベクトル、即ち、今後、快方に向かうのか、悪化に向かうのかを推定し、化粧料などを適切に選択することに応用できる。又、そのベクトルを見定めることにより、化粧料などの皮膚外用剤が有効に働いているか否かを知る、皮膚外用剤の評価にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のスコア1相当の図である。(図面代用写真)
【図2】実施例1のスコア2相当の図である。(図面代用写真)
【図3】実施例1のスコア3相当の図である。(図面代用写真)
【図4】実施例1のスコア4相当の図である。(図面代用写真)
【図5】実施例1のスコア5相当の図である。(図面代用写真)
【図6】スコアの出現率で表した実施例1の結果を示す図である。
【図7】実施例2のレーザー顕微鏡の像を示す図である。(図面代用写真)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に病的症状を有する生体において、皮膚から、粘着テープを用いて角層細胞を採取し、レーザー顕微鏡により観察される像における、微絨毛様突起の出現頻度を指標として、該頻度が高いほど、それ以後に皮膚の病的症状が重篤化する蓋然性が高いと鑑別することを特徴とする、皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法。但し、医療目的を除く。
【請求項2】
前記生体がヒトであり、前記レーザー顕微鏡により観察される像が、顕微鏡観察像のイメージデータであることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法。
【請求項3】
更に、経皮的散逸水分量(TEWL)を指標として、TEWLの値が高いほど、現在のバリア機能は低下しており、その将来における状態の蓋然性は、請求項1又は2に記載の微絨毛様突起の出現頻度が高いほど皮膚バリア機能は低下している状況にあり、低いほど皮膚バリア機能は改善、向上していると鑑別することを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚の病的症状及び症状の推移の予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−309720(P2007−309720A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137382(P2006−137382)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】