説明

皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアトピー性皮膚、皮膚乾燥症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症の緩和剤に関す
【0002】
【従来の技術】近年のアルミサッシや冷暖房の普及は、住宅の密閉化と低湿度環境をもたらしたと云われている。電気毛布の使用は更に皮膚の乾燥を進行させる。またシャワーや入浴回数の増加は、結果として石鹸、シャンプーの使いすぎとなり、皮膚にとって重要な表面の皮脂の減少を招いている。これらのことが老人性乾皮症や、小児の乾燥性皮膚など乾燥性皮膚疾患を増加させた一因であるといわれている。
【0003】大人の乾燥性皮膚は中高年に多い皮膚疾患の1つで、高齢化に伴う皮脂分泌の減少と生活環境の低湿度化に伴い、近年増加傾向にある。その原因としては皮膚の老化による汗や皮脂の分泌の減少、低湿度環境に加え、石鹸などの使いすぎ、ナイロンなどの合成繊維の衣服の摩擦など、さまざまなものが考えられる。また頭皮のフケ症や頭皮が赤くなる乾疹とも称すべき症状や、油性の人で皮脂腺がつまって皮脂が出なくなる症状などは、何れも脱毛を促進することになる。手を石鹸や洗剤で洗いすぎて、水分や皮脂不足となったり、油性の人で皮脂腺がつまって水分や皮脂が出なくなり、かゆくなったり、かさかさになったり、赤くなる等の症状が頻発している。
【0004】症状としては、すね、太もも、腰、わき腹、頭皮、手などがかさかさし、粉がふいたような状態となる。又赤くなっり、皮膚表面が褐色のかさぶた状になったりする。さらに病状が進行すると角質が増殖し、ひび割れ状になったりする。多くの場合、かゆみを伴い、かゆくて眠れない人もいる。かゆいために引っ掻いて、湿疹化を起こすこともある。特に空気が乾燥し、気温が低下する冬に多くみられる。
【0005】治療としては、吸湿性のある尿素の入った軟膏や、保湿効果の高い外用剤で水分保持に努める。かゆみがひどいときは、抗ヒスタミン剤の配合された外用剤を塗布することもある。また、かなり症状が進行している場合、抗ヒスタミン剤を内服し、さらに弱い副腎皮質ホルモン含有の外用剤を併用しなければならないこともある。
【0006】小児の乾燥性皮膚には、アトピー皮膚と呼ばれるものがかなり含まれている。アトピー皮膚の肌は、かさかさ乾燥し、そのほとんどにかゆみを伴う。定義の仕方にもよるが、いわゆるアトピー性皮膚炎とは区別される。一般的に、アトピー皮膚に発赤やじゅくじゅく、引っ掻き傷などの炎症症状が伴えばアトピー性皮膚炎と呼ばれる。
【0007】症状は四肢、躯幹の皮膚がかさかさ乾燥し、粉がふいたようになり、とり肌やさめ肌状にもなる。多くの場合にかゆみを伴う。またこれらの症状は冬に悪化し、夏には軽快あるいは無症状になる。
【0008】治療方法としては、やはり吸湿性のある尿素の入った製剤や、保湿性の高い軟膏で乾燥を防ぐ。かゆみの強い場合には抗ヒスタミン剤配合の外用剤の塗布や、抗ヒスタミン剤の内服を併用することもある。かきむしらないよう爪を切るとか、低刺激性の石鹸やシャンプーを使用するとか、ナイロンタオルを避け、下着衣類は木綿製のものにするなどの注意が必要である。天然保湿因子である尿素とビタミンEを含む軟膏又はローションでカサつく皮膚をなめらかにし、しっとり感を与えることが重要である。
【0009】アレルギー皮膚症としては、杉の花粉による鼻炎などが有名であるが、その他にも、色々な植物や樹液、花粉に皮膚が触れることによって、発赤したり、かゆみを生じたりするのがアレルギー皮膚症で、人による個人差があるのが特徴である。
【0010】これに対しては、主に抗ヒスタミン剤の軟膏や内服薬によって、ヒスタミンを抑制し、かゆみ止め成分を配合して、かきむしらないようにするなどの対症療法が主であり、アレルギー源の探求など種々研究されているが、人によりアレルギー源が異なるなどの困難があり、根本的治療に至っていない。また皮膚にカビが生えてできる水虫、たむし、いんきん等は、表皮の内部にカビが入り込むので完治し難い皮膚症として知られている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、同じ乾燥状態にさらされても、老人や小児に特に乾皮症が発生し、アレルギー皮膚も特に皮膚の弱い人や偏食の人に出やすいなどの事実にもとづき、皮膚自体の新陳代謝を盛んにすることにより、汗や皮脂の分泌をさかんにすることにより根本的に解決することを目的とする。尿素のように施用している時には保湿しても、水に溶解し易いため、容易に洗い流されてしまう対症療法でなく、根本的に身体の中よりの汗や皮脂の分泌を盛んにすることにある。また人の皮膚に副作用を生ずるような強い薬品によることなく、人体表面のカビを抑圧して皮膚のカビ症を治癒させることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは先に特開昭63−215610号公報により、特定の海藻の抽出物を植物体に散布した時に、果実の糖度向上促進、艶出し、樹勢の向上に極めて効果があることを見出した。又特開平4−275228号公報で殺菌的作用もあり、火傷や腫瘍に対し消炎作用があることを見出したが、この海藻抽出物が単に殺菌的、殺カビ的に作用するばかりでなく、植物なり、人体なり、その母体の新陳代謝を高める作用があり、これによって植物体の樹勢が盛んになり、消炎効果も相乗的に治療効果があがるのではないかと考え、細菌感染の伴わないアトピー性皮膚などに試みた所著しい効果を挙げることができ、また水虫、たむし、いんきん等の人体表面のカビ症に適用した所短期間にこれらを治すことができて、本発明に到達した。
【0013】すなわち本発明は次の通りである。
(1)紅藻類とげきりんさい、きりんさい及び/又はいぎすに属する海藻の抽出液成分を含む皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤である
【0014】
【0015】(2)紅藻類とげきりんさい、きりんさい及び/又はいぎすに属する海藻の抽出液と、この抽出液に対し、植物油1〜10重量%及び両者の分散乳化液のPHを2〜5とする有機酸との混合物を含む皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤
【0016】(3)抽出液がとげきりんさい、きりんさい、けいぎす、はりいぎす、ねいぎすからなる群より選んだ少なくとも1種の海藻を80〜95℃の熱水によって熱処理した後の瀘液である前記(1)(2)記載の皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤
【0017】本発明は、特開昭63−215610号公報の植物・食品添加物の主成分である海藻の抽出物に特定の新しい用途を見出した用途発明である。本発明は、皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、水虫、タムシ、いんきん等の皮膚カビ症に対する緩和剤である。なおきりんさい属をとげきりんさい、きりんさいに限定したのはかためんきりんさい(学名Eucheuma gelatinae)は多糖類中に含まれる硫酸エステルが少なくゲル化する力が強く、カラギーナンとならず、不適当であるので除いたものである。
【0018】本発明の海藻抽出物は、紅藻類きりんさい属のとげきりんさい、きりんさい、いぎす属のけいぎす、はりいぎす、いねいぎすから選んだ少なくとも1種を、よく洗浄した後、80〜95℃の熱水によって熱処理し、この煮液から海藻固体を濾別した濾液が原抽出液である。この抽出液の1〜10重量%液を使用する。
【0019】人体皮膚に適用するのであるから、水による抽出液が最適であるが、勿論他の有機溶剤、好ましくは親水性有機溶剤を用いて抽出してもよい。エチルアルコール等人体に悪影響のない溶剤が好ましいことは勿論である。
【0020】本発明の皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤としての使用方法としては、他の合成薬品のように濃度が余り濃くなると別個の又は副作用を生ずるようなことはないので、抽出原液を使用してもよいが、通常1〜10重量%程度に希釈した液、又は軟膏にする場合には原液を凍結乾燥して、粉末にして軟膏基剤に添加してもよい。またこの希釈液を含むローション又は抽出液又はその粉末を含む軟膏に尿素などの保湿成分、ビタミンEなどの免疫能増強成分、その他かゆみをとめる抗ヒスタミン剤などを添加してもよい。頭皮や手指などは、石鹸や洗剤に添加して、表面の汗や皮脂、汚れをおとすと同時に本発明の抽出液をコーティングして、新陳代謝を盛んにし、新たな汗や皮脂を分泌させるようにする。又抽出液又はその希釈液を脱脂綿にひたして頭皮や手指に塗布してもよい。水虫、たむし、いんきんなどにも同様の手段を適用できる。
【0021】本発明の抽出液は、炭水化物として寒天、フノリ質のガラクタンの硫酸エステルを含んでいるので、皮膚に適用した時、薄い皮膜を形成し、これが皮膚からの水分の逸失を防ぐと共に、皮膚内部に有効成分の浸透を促進させる働きをして、新陳代謝を盛んにするものと考えられる。如何なる成分が皮膚の新陳代謝を盛んにするのかは、未だ解明されていない。
【0022】この海藻抽出液自身滅菌能力を有しているので、腐敗しにくいものであるが、主成分の炭水化物として寒天、フノリ質等のガラクタンの硫酸エステルを含んでいるので、余り多くの雑菌が入って、長期間放置されると寒天培地培養のような結果となって、部分的に菌叢を構成することがある。
【0023】このようなことを防ぐ目的で、軟膏やローションに、微量のパラオキシ安息香酸メチルのような防腐剤を配合してもよいが、合成薬品を避けたい場合には、酢酸、食用酢、くえん酸、りんご酸、酒石酸等の有機酸をpH2〜5の範囲になるように添加混合することも好ましい。
【0024】皮膚の脂肪分を保持する目的で、抽出液に対し1〜10重量%の植物油を加え両者をよく混合して分散乳化させることも好ましい。なお抽出液は界面活性作用も有しているので、特に他の界面活性剤を加えなくてもよく乳化する。植物油としてはオリーブ油、なたね油、大豆油、ヒマシ油、サラダ油、コーン油等より選択すればよい。
【0025】
【実施例】以下に実施例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】(実施例1)
重量部オリーブ油 1.0食用酢 1.0ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノステアレート 2.0ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 2.0エタノール 7.05.0%尿素水溶液 5.0前記きりんさいの抽出液の10重量%希釈液 82.0上記成分を混合して、ローションを製造した。このローションを老人性乾皮症に悩む老人の足に毎日施用した所、約10日間でかゆみがほとんどなくなり、症状が著しく軽快した。
【0027】(実施例2)
重量部A スクワラン 20.0 オリーブ油 2.0 ミンク油 1.0 ホホバ油 5.0 ミツロウ 5.0 セトステアリルアルコール 2.0 グリセリンモノステアレート 2.0 ソルビタンモノステアレート 2.0B 前記けいぎすの抽出液の5重量%希釈液 47.9 ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノステアレート 2.0 ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 1.0 グリセリン 5.0 5.0%尿素水溶液 5.0 パラオキシ安息香酸メチル 0.1AとBをそれぞれ計量し、80℃まで加温し、BにAを撹拌しつつ徐々に加えたのち、ゆっくり撹拌しつつ20℃まで冷却した。これによってアトピー性皮膚用クリームを製造した。アトピー性皮膚に悩む小児に、上記のクリームを毎日腰から足にかけて施用した。その結果5日間でかさかさがなくなり、かゆみもなくなって、充分睡眠がとれるまでに軽快した。
【0028】(実施例3)
重量部A スクワラン 20.0 オリーブ油 2.0 ホホバ油 5.0 ミツロウ 5.0 セトステアリルアルコール 2.0 グリセリンモノステアレート 2.0 ソルビタンモノステアレート 2.0 ビタミンE 1.0B 前記きりんさいとはりいぎすの抽出液の10重量%希釈液 47.9 ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノステアレート 2.0 ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 1.0 グリセリン 4.0 抗ヒスタミン剤 1.0 10.0%尿素水溶液 5.0 パラオキシ安息香酸メチル 0.1AとBをそれぞれ計量し、75℃まで加温し、BにAを撹拌しつつ徐々に加えた後、ゆっくりと撹拌しつつ15℃まで冷却した。これによってアトピー性皮膚用クリームを製造した。アトピー性皮膚に悩む小児に、上記のクリームを毎日とり肌やさめ肌の部分を中心に乾燥部分に塗布した。1週間でとり肌やさめ肌が少なくなり、かゆみが軽快し、半月でほとんど全快した。
【0029】(実施例4)
重量部本発明のきりんさい、いぎす混合抽出液の10重量%希釈液 93.0オリーブ油 5.0酢酸 2.0これを分散乳化させた液をローションとして使用した。このローションを老人性乾皮症の人の腰から足にかけて毎日施用した所、約2週間で、症状が殆ど軽快した。
(実施例5)実施例4に記載された本発明の分散乳化液の1重量%水溶液で、頭皮乾燥性フケ症の人に洗髪後のリンスとして使用してもらい、後の水洗を行わないで自然乾燥してもらった所、約2週間でフケ症が殆ど軽快した。
(実施例6)実施例4に記載の分散乳化液の5重量%水溶液をひたした脱脂綿で、頭皮が赤く湿疹状になった人に毎日頭部の湿疹部に塗布してもらった所、約1ケ月で殆ど赤みがとれ、かゆみがなくなった。
(実施例7)本発明の海藻抽出液成分を2重量%配合した石鹸で、手に乾燥性かゆみがある人に手を洗ってもらった所、約3週間で、かゆみを殆ど感じなくなった。
(実施例8)台所洗剤で手が荒れた主婦に、本発明の海藻抽出液成分を1重量%配合した洗剤を使用してもらった所、約1ケ月で手の荒れが殆どなおり、かゆみを感じなくなった。
(実施例9)水虫に悩む人に、本発明の海藻抽出液を含む分散液の3重量%水溶液をひたした脱脂綿で毎日患部をたたいてもらい、塗布した所、約3ケ月で殆ど軽快した。
【0030】
【発明の効果】本発明の人体皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤によれば、特に老人や小児等に多い、皮膚乾燥症、アトピー性皮膚、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症等の皮膚症に著しく効果があり、とり肌やさめ肌を改善し、かゆみを軽快させる。単に保湿に働くばかりでなく、皮膚のカビを殺し、皮膚内部の新陳代謝を盛んにして、水分や皮脂の分泌をさかんにして、根本的治癒に導くものである。石鹸や洗剤に配合しても効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 紅藻類とげきりんさい、きりんさい及び/又はいぎすに属する海藻の抽出液成分を含む皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤
【請求項2】 紅藻類とげきりんさい、きりんさい及び/又はいぎすに属する海藻の抽出液と、この抽出液に対し、植物油1〜10重量%及び両者の分散乳化液のPHを2〜5とする有機酸との混合物を含む皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和
【請求項3】 抽出液がとげきりんさい、きりんさい、けいぎす、はりいぎす、ねいぎすからなる群より選んだ少なくとも1種の海藻を80〜95℃の熱水によって熱処理した後の瀘液である請求項1又は請求項記載の皮膚乾燥症、アトピー皮膚症、アレルギー皮膚症、皮膚カビ症緩和剤

【特許番号】第2766594号
【登録日】平成10年(1998)4月3日
【発行日】平成10年(1998)6月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−334492
【出願日】平成4年(1992)12月15日
【公開番号】特開平6−179624
【公開日】平成6年(1994)6月28日
【審査請求日】平成6年(1994)12月26日
【出願人】(592256689)石水化学株式会社 (3)
【参考文献】
【文献】特開 平1−221306(JP,A)
【文献】特開 平4−275228(JP,A)
【文献】特表 昭60−500290(JP,A)
【文献】特表 平5−504583(JP,A)