説明

皮膚刺激性評価方法

本発明は皮膚に適用する物質の皮膚に対する刺激性を予測するための、簡便な皮膚刺激性評価試験方法を提供し、この方法は皮膚構成培養細胞と被検体を接触させ、培養液中のサブスタンスP量を測定することを特徴とする、当該被検体の皮膚刺激感を予測するための、刺激性評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防腐剤、界面活性剤または有機酸などの外用剤に用いられる成分並びに外用剤の皮膚に対する刺激性を皮膚構成細胞を用いて予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、敏感肌を訴える人が増加しており、敏感肌用の低刺激性化粧品や医薬品、医薬部外品が多数上市されている。現代生活における敏感肌の原因として、生活様式の変化(冷暖房による生活環境の乾燥化、食生活の変化など)、紫外線などの環境因子、また内面的な要因であるストレス等が考えられている。しかしながら敏感肌といっても、医療現場や化粧品業界で明確な定義付けがされているわけではなく、低刺激性化粧品や医薬品、医薬部外品については各供給者が独自に判断し、宣伝、販売しているのが実情である。
【0003】
従って、低刺激性商品として市販されているものであっても、刺激性が同程度であるとも言えず、消費者が望む刺激レベルの商品を選択できないのが現状である。
【0004】
皮膚刺激には、スティンギング刺激と皮膚一次刺激と呼ばれるものがある。スティンギング刺激は、化粧料等の外用剤を皮膚に塗布した際に感じる「ヒリヒリ」、「ピリピリ」、「つっぱり感」や「かゆみ」といった感覚を皮膚に引き起こす刺激の総称で、この感覚は塗布後数分以内に生じ、炎症性の症状を伴わず、一過性に消失する。一方、皮膚一次刺激は、皮膚に炎症反応を引き起こす刺激で、この反応は塗布後数時間以内に生じ、通常紅斑や浮腫といった炎症性の症状を伴う。
【0005】
皮膚一次刺激は、モルモット、ウサギ、ヒトなどを対象とした皮膚パッチ試験等で確認できる。これに対して、スティンギング刺激は感覚刺激であるため、実験動物による評価は困難であり、刺激感評価はもっぱらヒトの感覚に基いて行われている。スティンギング刺激を評価するために行う試験をスティンギング試験といい、特に化粧料等の外用剤の刺激性を確認するために有用な試験であり、化粧料や外用剤の開発において汎用されている。しかし、これまでのスティンギング試験は被験者の主観的な感覚をスコアにするため、個人の感受性の違いや、季節による影響、さらに人種差等、種々の理由により客観性を欠き、十分に満足できるものではなかった。さらに、被験者の特定の部位に試験物質を塗布して測定する試験であるため、被験者数により1回の試験人数が制限されてしまうという欠点があった。従って、低刺激性についての統一的な判断基準となり得る客観的な評価を提供する、簡便なスティンギング試験に対する必要性が存在していた。
【0006】
サブスタンスP(SP)は11個のアミノ酸からなる神経ペプチドで、一次知覚神経の神経伝達物質であり、主として痛覚情報伝達物質として知られている。サブスタンスPは末梢神経に含有されており、神経終末から遊離され、放出されたサブスタンスPは血管拡張や血漿蛋白の漏出をもたらしたり、紅斑や浮腫を形成したり、肥満細胞の脱顆粒を促進して、ヒスタミンやロイコトリエンなどを遊離させ、一次刺激を引き起こす要因ともなる。末梢神経は、主として真皮内において交感神経、および無髄知覚神経(C繊維)がネットワークを形成し、特に血管、毛嚢および汗腺周囲に存在している。この末梢神経の一部は、真皮から表皮に伸び、神経終末は基底層、有棘層などの表皮の各層にも見出されている。そして、これらの神経終末が、表皮細胞の構成細胞である表皮ケラチノサイト、メラノサイトおよびランゲルハンス細胞と接着することも知られている(非特許文献1参照)。また、表皮ケラチノサイトが自らサブスタンスPを産生し、オートクライン的に自身のサブスタンスP産生を亢進させることが報告されている(非特許文献2参照)が、その生理的な意義についてはほとんど知られていない。
【0007】
ところで、敏感肌の状態に共通する生理病理学的パターンが、皮膚におけるタキキニン、特にサブスタンスPの放出能力の高さに関連していることが報告されている。さらに、サブスタンスPアンタゴニストの使用により、敏感肌に対する予防および/または治療効果を得ることが出来ることや、表皮および真皮の神経終末から生じるタキキニンの放出原因となるカプサイシンを患者の皮膚に塗布する事により皮膚が敏感であるか否かを決定するための試験方法が知られている(特許文献1参照)。
【0008】
また、一次刺激の評価方法であるパッチテストに代わる3次元的組織培養物を用いた被検体の刺激性試験評価方法が知られている(特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、スティンギング試験(刺激感評価試験)の代替方法となる培養細胞を用いた試験方法は未だ知られていない。
【0010】
【特許文献1】特開平11-180879号公報
【特許文献2】特開2003-240779号公報
【非特許文献1】Nature 1993(363),159-163
【非特許文献2】Biochemical and Biophysical Research Communications 1999(263), 327-333
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、皮膚に適用する物質の皮膚に対する刺激感を予測するための、簡便な皮膚刺激性評価試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる実情に鑑み、本発明者らは上記目的を達成するために検討を重ね、その過程で皮膚構成細胞から放出される神経ペプチド量、特にサブスタンスP量が被検体のスティンギング刺激性を予測するための指標となりうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
従って、本発明は、皮膚構成培養細胞と被検体を接触させ、サブスタンスP量を測定することを特徴とする、当該被検体の皮膚刺激感を予測するための、刺激性評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の皮膚刺激性評価法(以下、「評価法」ともいう)は皮膚構成細胞から放出されたサブスタンスP量を指標に、簡便でかつ高感度に皮膚に対する刺激感を予測評価する全く新しい評価方法であり、スティンギング試験のin vitroでの代替試験方法を提供するものである。この試験方法ではヒトの感覚ではなく、皮膚培養細胞や皮膚組織を使用するため、客観的な結果を得ることができ再現性が高く、しかも容易に実施する事ができる。さらに、皮膚培養細胞や皮膚組織を使用するので、被験者を試験実施に必要な数だけ確保する必要がなく、試験回数が制限されることなく簡便にいつでも試験することができる。
【0015】
本発明の一つの態様では、まず、皮膚構成細胞を、例えば培養シャーレや培養プレートに入れ、さらに、栄養培養液を適量加え、通常用いる培養条件で培養する。次いで、培養液に被検体を添加する。添加後、設定された時間に培養上清を採取し、その培養上清中のサブスタンスPの量を測定する。適当なスティンギング陽性対照を用いて被験体と同様に皮膚構成細胞を処理し、培養上清中のサブスタンスPを測定する。次いで、サブスタンスPの量を、スティンギング陽性対照を用いた場合と被検体を用いた場合で比較し、被検体の刺激性を評価する。本評価方法を行うことで、スティンギング刺激に関連する被検体のスクリーニングを的確かつ簡便に行うことが可能であり、スティンギング刺激陽性物質や製剤(特に外用剤)のスクリーニング方法として使用可能である。
【0016】
また、本発明の方法は、ヒトを用いたスティンギング刺激性評価方法によるスティンギング試験を行う前の一次スクリーニング方法として用いることもできる。前述したように、ヒトを被験者として用いるスティンギング刺激性評価方法は被験者数等の問題によりその試験回数が限られる。それゆえ、予め明らかに刺激陽性の被検体をインビボでの実験被検体から除外するための一次スクリーニング方法として、本発明の方法を用いることができる。これにより、安全性をより確実にした低刺激性製品の効率よい開発が可能となる。
【0017】
本発明により評価できる被検体としては、広く皮膚に対して適用する物質や組成物であれば特に制限されないが、種々の防腐剤、香料、界面活性剤、色素、可溶化剤、ゲル化剤、増粘剤、乳化剤、油脂類、アミノ酸類、糖類、水溶性高分子、有機酸、基剤成分およびこれらを含有する組成物が挙げられる。ここで、界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも挙げられる。また、当該組成物としては、種々の外用剤、例えば、化粧料、薬用外用剤、各種洗浄剤(洗剤、石鹸、頭髪用洗浄剤、液体洗浄剤)等が挙げられる。これらの被検体は精製水またはエタノールなどの適当な溶媒に溶解して用いることができる。添加する溶媒の量は細胞に対して毒性を示さない量であればよく、溶媒の種類によっても異なるが、培養液の20%以下、好ましくは10%以下の添加量が好ましい。
【0018】
本発明で用いる皮膚構成細胞としては、皮膚を構成する細胞であればよく、表皮ケラチノサイト(表皮角化細胞)、皮膚線維芽細胞、ランゲルハンス細胞、メラノサイト、毛母細胞、毛乳頭細胞等が挙げられる。特に、外界からの刺激を受けやすい、皮膚の表皮部分を構成する細胞である皮膚表皮構成細胞(例えば、表皮ケラチノサイト、ランゲルハンス細胞、メラノサイト等)が好ましく、表皮ケラチノサイトが特に好ましい。皮膚構成細胞は、1種類でも良いし、複数を混ぜて使用してもよい。評価に用いる場合、皮膚構成細胞は、単層培養細胞でも多層培養細胞でもよく、また、複数の皮膚構成細胞からなる3次元培養皮膚でもよい。皮膚構成細胞は、ヒトやウサギ等の動物より採取されたものを用いることができるが、スティンギング試験の評価対象がヒトであることから、ヒト由来の細胞が好ましい。皮膚構成細胞としては、培養された細胞を用いることができ、また、皮膚組織から常法により調製してもよい。さらに、培養細胞として樹立している細胞を用いる事が好ましい。そのような培養細胞は当業者に既知の方法で樹立することができ、あるいは、市販品から入手可能である。表皮ケラチノサイトは培養細胞として市販されているものもあり、それらを容易に入手し得る。例えば、ヒト表皮ケラチノサイトの初代培養細胞や二次培養細胞、HaCaT keratinocyte株等が使用できる。市販の表皮ケラチノサイト培養細胞としては、例えば、Epidercell NHEK(F)、Epidercell NHEK(B) (ともに、クラボウ社製)などを用いることができる。また、3次元培養皮膚(モデル)の例として、TESTSKINTM(東洋紡)が挙げられる。
【0019】
試験に使用する皮膚構成細胞は通常の培養条件で適当な培地を用いて培養し、被検体の接触前までは生存しているものを用いることができ、サブコンフルエントとなったものを用いることが好ましい。培地としては、一般的に使用されている基本培地(塩類、アミノ酸、糖、ビタミンおよびその他の微量必須栄養素を混合した等浸透圧性pH平衡溶液)に適当な補助試薬(インスリン、上皮成長因子、ハイドロコーチゾン、ウシ脳下垂体抽出液など)または血清を加えたものを使用できる。市販の表皮ケラチノサイト培養液としては、KG-2(クラボウ社製)、K-110(極東製薬製)、EpiLifeTM(Cascade社製)等が使用できる。また、皮膚線維芽細胞を用いる場合には、培養細胞としてFibro cell(クラボウ社製)を、培地としてMedium 106S(クラボウ社製)を用いることができる。なお、市販の細胞や皮膚モデルを使用する場合には、原則として該細胞や皮膚モデルの使用説明書の指示に従えばよい。
【0020】
被検体による皮膚構成細胞の処理は、例えば皮膚構成細胞を培養している培養液中に当該被検体を添加して培養することにより行うのが好ましい。培養液としては、細胞が生存できる液であればよく、培地、等張化された緩衝液、生理食塩水などを用いることができる。スティンギング刺激は塗布後数分以内に生じる刺激であるため、被検体と皮膚構成細胞の処理時間は0.5〜60分、好ましくは1〜30分、さらに好ましくは1〜10分、最も好ましくは1〜5分あればよい。ただし、場合により、上記よりも長時間または短時間処理することによっても本発明を実施することは可能である。
処理条件は細胞が死滅せず、培養液中にサブスタンスPが放出される条件であれば、特に限定されないが、処理時の培養は、通常、室温から約40℃の範囲の温度、好ましくは約35〜40℃、3〜7% CO2条件下、特に、37℃、5%CO2条件下が好ましい。処理後、直ちに培養上清を採取し、サブスタンスP量を測定する。
【0021】
添加される被検体の濃度は、使用目的や被検体の種類により異なるが、通常、最終濃度として0.000001〜10重量%であることが好ましく、特に0.001〜1重量%が好ましい。一般的にいかなる化合物も高濃度であれば、細胞に対して毒性を含む何らかの作用を示すため、10重量%以上の濃度は好ましくない。また0.000001重量%未満の低濃度の場合は、使用される可能性が低く、また、製剤化も難しいため好ましくない。
【0022】
本発明においては、現在、化粧品や各種洗浄剤に用いられている化合物について、各種濃度で培養液中のサブスタンスP量について検討した結果、特に化合物の濃度が0.01〜1重量%の範囲におけるサブスタンスP量と、スティンギング刺激試験における刺激感評価とがよく相関することが明らかになった。従って、被検体として用いる化合物は、0.01〜1重量%の濃度範囲で試験することが特に好ましい。しかし、この濃度範囲は被検体として用いる化合物、試験に用いる皮膚構成細胞、目的製品の種類などに依存して変動し、限定的なものでない。
【0023】
サブスタンスP量はサブスタンスPのmRNA量や蛋白質量で表すことができるが、蛋白質を測定する方が再現性もよく、容易に測定できる。以降、サブスタンスP量と表した場合には、特に限定しない限り、サブスタンスPそのものの量(蛋白質量)を測定している。サブスタンスP量を測定する場合、培養細胞等の処理が終了した後、直ちに培養上清を採取し、速やかに測定を開始することが好ましい。上清の採取から1時間以内、好ましくは数十分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは10分以内、なお好ましくは5分以内、特に好ましくは数分〜数秒以内に測定を開始する。操作に要する時間を考慮すると、通常、0.5分〜1時間以内、好ましくは、1〜30分以内、さらにより好ましくは、1〜10分以内、最も好ましくは、1〜5分以内に培養上清中のサブスタンスP量の測定を開始すればよい。測定方法としては特に制限されず、通常用いられる一般的な測定方法が使用される。
【0024】
サブスタンスP量は培養液上清中の量を直接測定してもよいが、例えば、ELISA法またはイムノクロマトグラフィー法などの抗体を用いることにより間接的に測定することもできる。サブスタンスPを直接測定する方法としては、高速液体クロマトグラフィー等が挙げられるが、これに限定するわけではない。間接的に測定する方法としては、抗サブスタンスP抗体を用いた免疫学的測定方法が好ましく、通常使用される競合法やサンドイッチアッセイ法等が使用できるが、これに限定するわけではない。標識抗体としては、直接標識(金コロイド、蛍光物質などの標識)や酵素標識した抗体を用いることができる。測定に用いる抗体は市販されているものを用いるか、当業者に公知の方法で作製することができる。抗サブスタンスP抗体としては、モノクローナル抗体やポリクローナル抗体を用いることができ、市販品として、サンタクルズ社またはザイメット社などから入手できる。また、サブスタンスP量測定キットとしては、市販のものを使用することができ、サブスタンスP ELISA(R&D Systems Inc.)、Substance P, EIA Kit(Cayman Chemical Company)やSubstance P, EIA High Sensitivity Kit (Peninsula Laboratories, Inc.)等が挙げられる。競合法を使用したELISA法によるサブスタンスP量の測定方法を例に挙げると、培養上清とサブスタンスP標準溶液を、適当量の抗ウサギポリクローナル抗体(ヤギ)をコートした96 Wellプレートに添加後、アルカリフォスファターゼ標識したサブスタンスP溶液を添加し、さらに抗サブスタンスPポリクローナル抗体(ウサギ)を添加して室温で反応させる。2時間反応後、界面活性剤入りの洗浄液でプレートを十分に洗浄し、基質(pNPP:p-nitrophenyl phosphate)溶液を加え、室温で1時間反応後、TSP(trisodium phosphate)を加え反応を停止させた後、吸光度(405nm)を測定し、サブスタンスP標準溶液より得られた結果から作製した検量線を用いてサブスタンスP量を算出する。
【0025】
本発明の評価方法の具体的な態様の一例として、スティンギングを引き起こすことが知られている化合物を陽性対照として用いた試験系と、被検体を用いた試験系とで培地中のサブスタンスP量を比較する方法が挙げられる。この場合、被検体を用いた試験系の培地中のサブスタンスP量が、陽性対照を用いた試験系の培地中のサブスタンスP量と同等またはそれ以上であれば、被検体は皮膚に対するスティンギング刺激性を有すると判断される。しかし、場合によっては、被検体を用いた試験系の培地中のサブスタンスP量が、陽性対照を用いた試験系の培地中のサブスタンスP量の90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、または50%以上で、被検体が皮膚に対してスティンギング刺激を有すると判断することもできる。この判断基準は試験目的、用いる陽性対照等に応じて、適宜、選択される。また、陽性対照としては、フェノキシエタノール、メチルパラベン、乳酸等を用いることができるが、試験目的、用いる培養細胞等に応じて、適宜、選択することができる。
【0026】
また、本発明の他の態様として、上記のような陽性対照を用いることなく、被検体を評価することができる。例えば、被検体を皮膚構成培養細胞等と接触させ、培地中に検出される細胞由来のサブスタンスP量を指標として、被験体のスティンギング刺激を評価することが可能である。この方法では、上記と同様にして皮膚構成培養細胞等を処理し、培養上清を採取し、上清中のサブスタンスP量を測定する。この態様に使用しうる細胞や皮膚モデル、培養条件、サブスタンスPの測定および評価法等は実質上、前記と同様である。具体例として、正常ヒト表皮ケラチノサイトを用いる評価方法の場合、好ましくは、培養上清採取から5分後に該上清中に検出されたサブスタンスP量が約2.5pg/1×105細胞以上である場合にスティンギング刺激偽陽性、約10pg/1×105細胞以上である場合にスティンギング刺激陽性と判断できる。この態様の評価法は、ヒトでのスティンギング試験の前の一次スクリーニングとして特に有用である。カットオフ値は希望に応じて適宜設定できる。
【0027】
このようにして、本評価方法により、被検体による皮膚構成細胞におけるサブスタンスPの放出量を指標とするスティンギング刺激の陽性物質または陽性製剤のスクリーニング方法が提供される。本発明の評価方法は従来の感覚的な判断手法に依存するものではなく、各被検体について客観的かつ定量的な評価を与えることができ、簡便なスクリーニング方法として有用である。
【0028】
また、本発明は、被検体の皮膚刺激性を予測するための測定キットを提供する。このキットは、スティンギング刺激陽性物質と接触するとサブスタンスPを放出する皮膚構成培養細胞等、およびサブスタンスPの量を測定するための試薬を含む。サブスタンスPの量を測定するための試薬としては、抗サブスタンスP抗体、標識化抗サブスタンスP抗体、標識化サブスタンスP(溶液)、対照標準として用いるための既知量のサブスタンスP等が挙げられるが、これらに限定されしない。さらに、陽性対照品として、フェノキシエタノール、メチルパラベン、乳酸等のスティンギング刺激陽性物質、好ましくはメチルパラベンを含むこともできる。具体的には、キット構成物として、表皮ケラチノサイトを播種した培養器、表皮ケラチノサイト用培養液、サブスタンスP量測定用試薬を含む。このサブスタンスP量測定用試薬は、例えば、サブスタンスP量測定用ELISA試薬である。さらに、このキットは陽性対照としてメチルパラベンを含んでも良い。本キットは、例えば、表皮ケラチノサイトを96Wellプレートに適当量播種して調製したプレートに、被検体を分散あるいは溶解させた培養液を添加して細胞を刺激し、一定時間後に培地上清中のサブスタンスP量をサブスタンスP量測定用ELISA試薬を用いて測定することで使用できる。
本発明の他の態様(比較対照を使用しない評価方法)に関する測定キットも上記に準じて構成することができるが、そのようなキットの構築方法は当業者に既知である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1 サブスタンスP量の測定およびその量とスティンギング刺激との相関
サブスタンスP量はELISA法により測定した。2×105cells/wellとなるよう、正常ヒト表皮ケラチノサイト(Epidercell NHEK(B))を24Wellプレートに播種し、表皮ケラチノサイト用培地KG-2(クラボウ社製)1mlを用いて37℃、5% CO2下で培養した。サブコンフルエントとなった時点で培地交換し、ウェル内で所定の最終濃度になるように調製した各被検体試料を10μlずつ添加した。その5分後および10分後に培養上清を回収した。回収した培養上清中のサブスタンスPをサブスタンスP ELISA(R&D Systems Inc.製)により定量した。その後、通常の方法により各ウェルの細胞数を測定した。その結果を表1に示す。被検体として、フェノキシエタノールおよびメチルパラベンを用いた。フェノキシエタノールおよびメチルパラベンの刺激はスティンギング刺激であることが知られている。
【0031】
スティンギング刺激の評価
敏感肌の専用パネラー10人に対して、目尻から小鼻にかけての頬部に水を加えて所定の最終濃度に調整した各被検体試料を0.1ml塗布し、塗布直後、2.5分後、5分後に以下の評価基準に従って評点を求め、その3回の平均評点で評価を行った。評価基準は次の通りである。
評点 0・・・全く刺激を感じない
評点 1・・・少し感じる
評点 2・・・感じる
評点 3・・・非常に感じる
【0032】
【表1】

【0033】
この結果から、サブスタンスP量とスティンギング刺激に相関が認められ、表皮ケラチノサイトを培養細胞とし、サブスタンスP量を指標とする本評価方法は、スティンギング試験の代替方法として有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本評価法は、培養液中の皮膚構成細胞から放出されるサブスタンスP量を指標として、被検体の有する皮膚刺激感を予測する方法であり、皮膚トラブルを引き起こす可能性がある成分や組成物をin vitroで簡便に選別できるため、特に外用剤の開発に有用である。さらに、本発明によれば、防腐剤、界面活性剤または有機酸およびこれらを含有する化粧料等の外用剤の皮膚刺激性をin vitroで高感度に評価することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚構成細胞と被検体を接触させ、サブスタンスP量を測定することを特徴とする、当該被検体の皮膚刺激感を予測するための、刺激性評価方法。
【請求項2】
皮膚刺激感がスティンギング刺激性であることを特徴とする、請求項1に記載の刺激性評価方法。
【請求項3】
(1)皮膚構成細胞を有する培養液に被検体を添加する工程、(2)この状態で皮膚構成細胞を培養する工程、(3)培養上清中のサブスタンスP量を測定する工程、(4)サブスタンスPの測定値より被検体の皮膚刺激感を予測する工程、からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の刺激性評価方法。
【請求項4】
皮膚構成細胞が、皮膚表皮構成細胞である請求項1〜3のいずれかに記載の刺激性評価方法。
【請求項5】
サブスタンスP量の測定が免疫学的測定方法により行われる請求項1〜4のいずれかに記載の刺激性評価方法。
【請求項6】
被検体の皮膚刺激感を予測する工程が、スティンギング刺激性であることが公知である化合物を陽性対照として用いた試験系との比較により行われる、請求項1〜5のいずれかに記載の刺激性評価方法。
【請求項7】
皮膚構成細胞およびサブスタンスP量の測定試薬からなる、被検体の皮膚刺激感を予測するための測定キット。
【請求項8】
キット構成物として、表皮ケラチノサイトを播種した培養器、表皮ケラチノサイト用培養液、サブスタンスP量測定用試薬を含む、請求項7に記載の測定キット。
【請求項9】
サブスタンスP量測定用試薬がサブスタンスP量測定用ELISA試薬である、請求項7または8に記載の測定キット。
【請求項10】
さらに、キット構成物として、スティンギング刺激性であることが公知である化合物を陽性対照として含む、請求項7〜9のいずれかに記載のキット。


【国際公開番号】WO2005/080977
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510292(P2006−510292)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002902
【国際出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)