説明

皮膚用貼付剤及び皮膚用貼付剤シート

【課題】各種の有効成分をハイドロゲル粘着基剤とともに含有させた皮膚貼着用貼付剤と、そのような皮膚貼着用貼付剤を、不織布等の基材シートに具備させた貼付剤シートに関し、水性ゲルの利点を維持しつつ、油性ゲルの特徴も具備させて有効成分が油溶性成分であっても安定した状態で分散させることができ、しかも水と油性成分との双方をゲルに具備させたものでありながら、好適にゲルを形成させることのできる皮膚用貼付剤と皮膚用貼付剤シートを提供することを課題とする。
【解決手段】ハイドロゲル基剤と、油性成分と、水と、イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルからなる高分子乳化剤とを皮膚用貼付剤に含有させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚用貼付剤及び皮膚用貼付剤シート、さらに詳しくは、各種の有効成分をハイドロゲル粘着基剤とともに含有させた皮膚貼着用貼付剤と、そのような皮膚貼着用貼付剤を、不織布等の基材シートに具備させた貼付剤シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種の有効成分をハイドロゲル粘着基剤とともに含有させた皮膚用貼付剤や、そのような貼付剤を不織布等の基材シートに具備させた貼付剤シートは、化粧料や医薬品等の分野において広く用いられている。
【0003】
たとえば化粧料用としては顔に貼付する顔パックシートと称されるようなものがあるが、このような化粧料用等の従来の貼付剤や貼付剤シートは、たとえば下記特許文献1や特許文献2等のように水性のゲルを具備させたものが多く、このような水性のゲルは水溶性の有効成分は好適に含有させることができるが、油溶性の有効成分は安定した状態で分散させることができず、結果的には、油溶性の有効成分を好適に含有させることができない。
【0004】
しかし、化粧料に用いられる油溶性成分としては、たとえばスクワラン油やホホバ油等の一般的な油溶性成分の他、ビタミンAやビタミンE等のビタミン類にも油溶性のものがあり、このような油溶性成分を具備させることが制限されるのは、化粧料用パックシートの市場性や商品価値等の向上を妨げることにもなり、本来は好ましくない。また、皮膚は本来油に対する親和性は良好であるが、水に対する親和性はさほど良好ではない。従って上記のようなパックシートには、本来は、水性ゲルではなく、油性のゲルを具備させることが望ましい。
【0005】
このような観点から、油性のゲルを具備させたパックシートも一部に開発することが試みられたが、このようなゲルは120〜150度という非常に高い温度で生成するので、有効成分が分解されるおそれがあるという問題があった。
【0006】
従って、油性のゲルを具備させたパックシートを開発することは現実的ではなく、水性のゲル基剤にいかにして油性成分を含有させるかが重要となる。このようにすることで、水の貼付剤としての利点と、油性成分の貼付剤としての利点との双方を具備させることができる。しかし、このような水と油性成分との双方を具備させるには、界面活性剤や乳化剤等を配合することも必要となり、好適にゲルを形成するように、水、油性成分、乳化剤等を調合するのは実際には容易ではない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−71541号公報
【特許文献2】特開2000−72619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、水性ゲルの利点を維持しつつ、油性ゲルの特徴も具備させて有効成分が油溶性成分であっても安定した状態で分散させることができ、しかも水と油性成分との双方をゲルに具備させたものでありながら、好適にゲルを形成させることのできる皮膚用貼付剤と皮膚用貼付剤シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、ハイドロゲル基剤と、油性成分と、水と、イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルからなる高分子乳化剤とを含有することを特徴とする皮膚用貼付剤を提供する。
【0010】
また本発明は、ハイドロゲル基剤と、油性成分と、水と、イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルからなる高分子乳化剤とを含有する皮膚用貼付剤を、シート基材の表面に設けた皮膚用貼付剤シートを提供する。
【0011】
高分子乳化剤としては、上記イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルのうちでも、イヌリンカルバミン酸エステルを用いるのが好ましく、とりわけラウリルカルバミン酸イヌリンが好適に用いられる。
【0012】
また、油性成分の含有量は1〜50重量%であることが好ましく、水の含有量は20〜60重量%であることが好ましい。さらに高分子乳化剤の含有量は0.01〜3重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の皮膚用貼付剤は、上述のように、ハイドロゲル基剤と、油性成分と、水の他に、イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルからなる高分子乳化剤を含有させたものであるため、水の量に匹敵するほどの多量の油性成分を含有させても、水と油性成分との乳化機能を好適に生じさせることができ、しかもゲル形成能を好適に生じさせることができるという効果がある。
【0014】
また、多量の油性成分を含有させることができるので、油溶性の有効成分を安定した状態で分散させることができ、たとえば化粧料等用として使用される油溶性成分の配合が制限を受けることがないという効果がある。
【0015】
また、油溶性成分とともに、水も含有するものであるため、使用感、保湿性、皮膚の保護作用等、ハイドロゲルが本来有する利点を損なうこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の皮膚用貼付剤は、上述のようにハイドロゲル基剤と、油性成分と、水の他に、イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルからなる高分子乳化剤を含有させたものである。
【0017】
ハイドロゲル基剤としては、たとえば水溶性高分子のようなものが用いられる。水溶性高分子の種類は特に限定されないが、たとえばポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ペクチン等を使用することができる。水溶性高分子の含有量は特に限定されないが、3〜20重量%であることが好ましい。
【0018】
また、油性成分としては、グリセリン、グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコールを使用することができる。油性成分の含有量は1〜50重量%であることが好ましい。かかる範囲の含有量とすることで、油溶性有効成分を安定した状態で分散させることができるとともに、ハイドロゲルの形成に支障をきたすこともない。
【0019】
さらに、水の含有量は、20〜60重量%であることが好ましい。かかる範囲の含有量とすることで、油性成分を含有させることに支障を生じることがなく、またハイドロゲルの形成に支障をきたすこともなく、使用感、保湿性等、水性ゲルが本来有する機能を喪失させるおそれもないのである。
【0020】
さらに、本発明は、イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルからなる高分子乳化剤を含有させる点に特徴がある。イヌリンは、たとえばチコリ、ダリヤ等のキク科植物から得られるもので、β−1,2結合したフラノイドフルクトース単位の鎖からなり、還元末端においてショ糖結合したα−D−グルコースを有する構造のものである。
【0021】
本発明では、このイヌリンのカルバミン酸エステル又は脂肪酸エステルが、高分子乳化剤として用いられる。イヌリンカルバミン酸エステルとしては、ラウリルカルバミン酸イヌリンを好適に使用することができる。またイヌリン脂肪酸エステルとしては、イヌリンステアリン酸エステル、イヌリンパルミチン酸エステル等を好適に使用することができる。
これらの中でも、特にラウリルカルバミン酸イヌリンを使用するのが好ましい。
【0022】
ラウリルカルバミン酸イヌリンは、HLB値が約8で、油性成分に対する溶解性は低いが、分散性は良好で、水に対する溶解性も低く、水相中で凝集する。そして水中油型乳濁液中では、イヌリン骨格が水和化されることによって、ラウリルカルバミン酸イヌリンが油滴粒子の表面に位置して立体的バリアーを形成し、その立体的バリアーによって、水相中で油滴粒子を包囲したような乳化構造を形成する。
【0023】
このように、水相と油相の界面で特殊な乳化構造を形成するので、ラウリルカルバミン酸イヌリンの濃度が低くても、安定した分散状態を形成させることができる。高分子乳化剤の配合量は特に限定されないが、上記のようにイヌリン骨格が水和化されることによって、特殊な乳化構造を形成するので、0.01〜3重量%程度の量で安定した分散状態が形成されることとなる。
【0024】
さらに本発明の皮膚用貼付剤には、ゲル架橋剤を含有させることができる。ゲル架橋剤としては、たとえばメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム等が用いられる。
【0025】
さらに本発明の皮膚用貼付剤には、ゲル架橋速度調整剤を含有させることができる。ゲル架橋速度調整剤としては、たとえばEDTA−2Naのようなものが用いられる。
【0026】
さらに本発明の皮膚用貼付剤には、pH調整剤を含有させることができる。pH調整剤としては、たとえば酒石酸やコハク酸のようなものが用いられる。
【0027】
さらに本発明の皮膚用貼付剤には、防腐剤を含有させることができる。防腐剤としては、たとえばメチルパラベンのようなものを使用することができる。
【0028】
さらに本発明の皮膚用貼付剤に含有される油溶性有効成分の種類は問うものではなく、たとえばスクワラン油、ホホバ油、レチノール(ビタミンB)、トコフェロール(ビタミンE)等を含有させることができる。
【0029】
本発明の皮膚用貼付剤シートは、図1に示すように、シート基材1の表面に貼付剤2が設けられ、さらにその貼付剤2の表面に剥離フィルム3が設けられた構成からなるものである。シート基材1は、たとえば不織布によって構成されている。また貼付剤2は上記のような構成からなるものである。さらに、剥離フィルム3は、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等によって構成されている。尚、剥離フィルム3の貼付剤2と対面する側の面には、シリコン樹脂を塗布すること、或いはエンボス加工を施すことが可能である。
【実施例】
【0030】
一実施例の皮膚用貼付剤の組成は、次のとおりである。
【0031】
配合成分 配合量(重量%)
ゲル架橋速度調整剤 0.08%
pH調整剤 0.20%
防腐剤 0.12%
ゲル架橋剤 0.12%
水溶性高分子 10.60%
スクワラン油 20.0%
高分子乳化剤 0.50%
多価アルコール 24.00%
精製水 44.38%
【0032】
高分子乳化剤としては、ラウリルカルバミン酸イヌリンを用いた。そして、このラウリルカルバミン酸イヌリンとしては、Orafti社製のINUTEC SP1(商品名)を用いた。
【0033】
また水溶性高分子としてはポリアクリル酸を用い、油性成分である多価アルコールとしては、グリセリンを用いた。さらに、ゲル架橋剤としてはメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを用い、ゲル架橋速度調整剤としてはEDTA−2Naを用い、pH調整剤としては酒石酸を用い、防腐剤としてはメチルパラベンを用いた。
【0034】
比較例としては、上記高分子乳化剤に代えて、低分子の一般的な界面活性剤であるグリセリン脂肪酸エステルを配合し、他の組成を同じにしたものを用いた。
【0035】
実施例と比較例の貼付剤を不織布からなるシート基材上に塗布した。実施例の貼付剤は、シート基材上で好適にゲルを形成したが、比較例の貼付剤は、液状のままでゲルが好適に形成されず、シート基材の裏面側に、油性成分が滲出していた。このような試験結果から、
比較的多量の油性成分(多価アルコール)と精製水とが混在している状態で、一般的な低分子界面活性剤を用いた場合には、好適にゲルを形成できないが、上記実施例の高分子乳化剤を用いることで、好適にゲルを形成させうることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】一実施形態としての皮膚貼付用貼付剤シートの概略断面図。
【符号の説明】
【0037】
1…シート基材 2…貼付剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲル基剤と、油性成分と、水と、イヌリンカルバミン酸エステル又はイヌリン脂肪酸エステルからなる高分子乳化剤とを含有することを特徴とする皮膚用貼付剤。
【請求項2】
高分子乳化剤が、ラウリルカルバミン酸イヌリンである請求項1記載の皮膚用貼付剤。
【請求項3】
油性成分の含有量が1〜50重量%である請求項1又は2記載の皮膚用貼付剤。
【請求項4】
水の含有量が20〜60重量%である請求項1乃至3のいずれかに記載の皮膚用貼付剤。
【請求項5】
高分子乳化剤の含有量が0.01〜3重量%である請求項1乃至4のいずれかに記載の皮膚用貼付剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の皮膚用貼付剤が、シート基材の表面に設けられていることを特徴とする皮膚用貼付剤シート。

【図1】
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【公開番号】特開2008−37757(P2008−37757A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209987(P2006−209987)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000129057)株式会社カナエ (39)
【Fターム(参考)】