説明

皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物

【課題】透湿性と粘着性とのバランスに優れる、特に皮膚貼付用の粘着テープ、シートに好適なゴム系粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)スチレン系ブロック共重合体及び(B)透湿性熱可塑性エラストマーを含みて構成されるエラストマー成分、並びに(C)粘着付与樹脂を含有することを特徴とする、皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物ならびに該粘着剤組成物を基材に塗布してなる粘着テープ又はシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の皮膚に貼付するために使用される粘着剤組成物、更に詳しくは、皮膚の弱い人や小児を貼付対象とする場合及び繰り返し長時間貼付する場合等に有用な粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にゴム系粘着剤は接着性に優れ、粘着特性の調整も比較的容易であることから、種々の分野でゴム系粘着剤を塗布した粘着テープやシートが使用されている。特に生体に適用される各種用途、例えば医療分野やスポーツ分野、美容健康分野などへの用途においては、皮膚への良好な初期接着性と剥がす際の剥離特性とのバランスに優れることから、ゴム系粘着剤は数多くの製品形態で利用されている。ところで、皮膚への接着性は個人差や使用部位によって特性が異なり、入浴時やスポーツ時の発汗状態等においても良好な接着性を維持する必要があるので、安全性も含めゴム系粘着剤に要求される特性はますます厳しくなってきている。また皮膚への接着においては、より刺激性の低いものが求められており、皮膚への一次刺激性を改善するために粘着剤に様々な試みがなされている。
【0003】
皮膚への刺激性を改良する手段として、例えば、粘着剤の弾性率を低下させることにより皮膚への物理的刺激性を改善する方法、粘着剤の化学的な刺激要因を除去して化学的刺激性を改善する方法、また、粘着剤の透湿度を上げて皮膚表面の水分貯留量を減少させることにより生理的刺激性を改善する方法等が検討されている。
中でもゴム系粘着剤では、使用されている原料そのものが疎水性のゴムや粘着付与樹脂がベースであるために一般に透湿性が低く、そのため使用中において皮膚表面の水分貯留により生理的な刺激が発生しやすく、皮膚カブレや皮膚刺激の主原因と考えられている。
【0004】
ゴム系粘着剤の低い透湿度を解決する1つの手段として、粘着テープ又はシートに細孔を設けることによる閉塞性の改善方法が挙げられる。しかしながら、細孔以外の部分は依然として密閉された状態にあり、根本的な解決には至っていない。
【0005】
またゴム系粘着剤中にポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、その他の親水性可塑剤といった親水性の化合物を添加することによって透湿性を改善する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、これら親水性の化合物は、前述の疎水性のゴムベース粘着剤との相溶性が悪いために、多量に添加することが出来ず、そのため十分な透湿性が得られない。またこれらの化合物はマトリックス中での均一な分散状態が得られ難く、結果として透湿度や粘着性のバラツキが大きくなったり、また中〜長期間の放置において親水性化合物が粘着剤表面にブリードして粘着性能の低下を引き起こす等の問題があった。
【特許文献1】特開昭58−174484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題、すなわち、透湿性と粘着性とのバランスに優れる、特に皮膚貼付用の粘着テープ、シートに好適なゴム系粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に対して鋭意研究を行なった結果、透湿性の高い高分子量熱可塑性エラストマーを粘着剤組成物の粘着剤マトリックス中にミクロ相分散させることにより、疎水性粘着剤成分と親水性成分の相溶性が改善されること、これにより粘着剤組成物に
高い透湿性を安定的に付与し、皮膚への刺激性を改善できることを見出した。
すなわち、透湿性を改善する新規の化合物の添加やその組み合わせ等による従来の透湿性の向上方法ではなく、粘着剤組成物そのものを新たなマトリックス構造と為すことにより、皮膚低刺激性と粘着性のバランスに優れる粘着剤組成物の提供を可能とした。
そしてこの粘着剤組成物を伸縮性基材等に塗布することで皮膚貼付用粘着テープ及びシートの提供を可能とし、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)スチレン系ブロック共重合体及び(B)透湿性熱可塑性エラストマーを含みて構成されるエラストマー成分、並びに(C)粘着付与樹脂を含有することを特徴とする、皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物に関する。
特に本発明は、前記透湿性熱可塑性エラストマーが、前記粘着剤組成物中でミクロ相分散していることを特徴とする、皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物に関する。
【0009】
さらに本発明は前記粘着剤組成物を基材に塗布してなる粘着テープ又はシートにも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高い透湿性と粘着テープ・シートとしての要求を満たす粘着特性とを両立する粘着剤組成物を提供できる。
従って、本発明の粘着剤組成物を塗布した粘着テープ・シートは、高い透湿性を長時間維持できることから、長時間皮膚に貼付していても皮膚カブレや皮膚刺激の発生を低減させることができる。
そしてこの粘着剤組成物を塗布した粘着テープ・シートは救急絆創膏やドレッシング材の医療・衛生分野やスポーツ分野、美容健康分野などの外用用途への展開が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の粘着剤組成物は、(A)スチレン系ブロック共重合体、(B)透湿性熱可塑性エラストマー及び(C)粘着付与樹脂を含有し、所望によりその他の成分を含み得る。
以下、上記各成分について詳述する。
【0012】
<スチレン系ブロック共重合体(エラストマー)>
本発明において使用するスチレン系ブロック共重合体としては、スチレン・ブタジエンブロック共重合体(SBS)及びその水添ゴム(SEBS)、スチレン・イソプレンブロック共重合体(SIS)及びその水添ゴム(SEPS)、スチレン・イソブチレンブロック共重合体(SIBS)などが挙げられ、これらの1種あるいは複数を組合せて使用することができる。
【0013】
<透湿性熱可塑性エラストマー>
本発明において、透湿性熱可塑性エラストマーとは、その構造中にポリエーテル成分を持つ熱可塑性エラストマーをさす。前記ポリエーテル成分はジオール成分又はポリオール成分のいずれであってもよく、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等が用いられる。
このようなポリエーテル成分を有する熱可塑性エラストマーの中でも、特にポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーが好ましい。
【0014】
前記ポリアミド系エラストマーとしては、ポリアミドブロックをハードセグメントに、ポリエーテルブロックをソフトセグメントに用いたブロックコポリマーが挙げられる。
具体的には、アルケマ(株)の「PEBAX(登録商標)(ポリエーテルブロックアミ
ド共重合体)」MVシリーズやMHシリーズ、ダイセル・エボニック(株)の「ダイアミド(登録商標)」などが挙げられる。
【0015】
前記ポリウレタン系エラストマーとしては、例えば芳香族ジイソシアネートや脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネート成分と、前記ポリエーテル成分とを、鎖延長剤や架橋剤を用いて反応させたポリエーテルポリウレタンが挙げられる。
具体的にはディーアイシーバイエルポリマー(株)の「DESMOPAN(登録商標)(デスモパン)」#500シリーズ、「テキシン(Texin)(登録商標)」#900シリーズ、「パンデックス(PANDEX)(登録商標)」などが挙げられる。
【0016】
前記ポリエステル系エラストマーとしては、芳香族ポリエステル成分をハードセグメントに、ポリエーテル成分をソフトセグメントに用いたコポリマーが例示される。
具体的には、東レ・デュポン(株)「ハイトレル(登録商標)」や、東洋紡績(株)の「ペルプレン(登録商標)」等を挙げることができる。
【0017】
本発明においては、上記透湿性熱可塑性エラストマーの中でも、粘着物性の面から低硬度、高伸度のものが好ましく、特に硬度(ショアA/D)で90以下、伸度は400%以上のものを採用することが好ましい。また溶融温度が前記スチレン系ブロック共重合体と比較的近いものがより好ましい。
また本発明においては、上記透湿性熱可塑性エラストマーを1種単独で使用してよく、或いは2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
本発明で使用する透湿性熱可塑性エラストマーは、粘着性組成物中に、全エラストマー成分に対して10乃至70質量%の量で含有してなることが好ましい。なお、本明細書においてエラストマー成分とは、スチレン系ブロック共重合体、透湿性熱可塑性エラストマー、そして後述する液状エラストマーを含む。
透湿性熱可塑性エラストマーの含有量が10質量%未満では透湿性の向上効果が得られず、また70質量%を超えると粘着剤の硬度の上昇に伴う粘着性の低下を引き起こし、良好な粘着性が得られない。
【0019】
<その他配合可能なエラストマー成分>
なお本発明において、上記スチレン系ブロック共重合体及び透湿熱可塑性エラストマー以外に、液状ポリイソプレン(LIR)や液状ポリブタジエン(LPB)、ポリイソブチレン(PIB)、ポリブテン(PB)などの液状エラストマー成分を適宜、混合して使用してもよい。
【0020】
<粘着付与樹脂>
本発明において使用する粘着付与樹脂としては、一般に疎水性ゴムベース成分と相溶して粘着性を発現させる疎水性の樹脂であり、具体的にはロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、C5系石油系樹脂、C5/C9系石油系樹脂、
DCPD系石油系樹脂、クマロン・インデン樹脂、などが挙げられる。
【0021】
<その他含有可能な成分>
本発明においては、粘着特性やその経時安定性を損なわない限りにおいて、透湿性を促進させるための親水性添加剤、例えばポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニルブチラール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、カラヤガムやペクチン等の天然系多糖類などを、1種又は2種以上適宜混合して用いてもよい。
【0022】
また本発明の粘着剤組成物においては、パラフィン系、ナフテン系、等の石油系プロセスオイルやひまし油、大豆油などの植物油、及び植物油由来の脂肪酸エステルなどの軟化剤を使用してもよい。
さらに、一般的なゴム系粘着剤で使用するビスフェノール系、ヒンダードアミン系、ベンゾイミダゾール系などの老化防止剤や紫外線吸収剤、光安定剤などを1種又は複数の組合せで適宜添加してもよい。
その他皮膚貼付用の粘着テープやシートに一般に用いられるような各種添加剤、例えば充填剤などを適宜配合してもよい。
【0023】
本発明の皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物は、その透湿度が40℃、90%RHの条件下で300g/m2・24h以上となるように、各成分を配合することが好ま
しい。透湿度がこの範囲にあるゴム系粘着剤組成物は、皮膚への刺激性が極めて低く、貼付の際に発生する皮膚表面の水分貯留による皮膚カブレや皮膚剥がれを改善でき、好ましい。
【0024】
こうして調製した本発明の皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物を基材に適量塗布することで、本発明の粘着テープ又はシートを得ることができる。基材としては、適度な伸縮性、強度及び通気性を備えるものであれば特に限定されず、例えば紙、布、不織布、微細孔を有するプラスチックフィルム等を使用できる。
【0025】
本発明の粘着テープ又はシートは、例えば、一般的なテープ製造方法であるカレンダー塗工法より製造することができる。
カレンダー塗工法では、まずはじめに、合成ゴム系エラストマー(ここではスチレン系ブロック共重合体、透湿性熱可塑性エラストマー及び液状エラストマーを含む)に粘着付与樹脂を加え、加熱下で溶融させながら混練を行う。次に、必要に応じて老化防止剤や軟化剤を加えてさらに混練を行う。
上記手順にて得られた混練物(粘着剤組成物)を、たとえば剥離紙やシリコン処理したポリエステルフィルム(剥離シート)上に均一に塗工し、粘着剤層を完成させ、該層の上に基材をラミネートすることにより、粘着テープを得ることができる。基材の種類によっては、基材に粘着剤層を形成した後、粘着剤層の表面に剥離紙等をラミネートしても良い。
ここで、剥離紙又は基材への塗工と同時に粘着剤組成物を急速に冷却することにより、粘着剤層中に透湿性熱可塑性エラストマーミクロ相分散構造が形成されることとなる。
上記粘着剤層の厚さは用途に応じて適宜選択され得、通常5μm乃至1000μmより選択されることが好ましい。
【0026】
本発明の皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物は、前記透湿性熱可塑性エラストマーが、前記粘着剤組成物の粘着剤マトリックス中に0.1乃至100μmの大きさで分散した状態にあることを特徴とし、本発明においてはこの状態を「ミクロ相分散」と称する。なお、粘着剤層の厚みによって、上記数値の上限は変化し得る。
【0027】
前述したとおり、本発明の粘着剤組成物は、剥離紙又は基材への塗工と同時に急速に冷却することにより、粘着剤マトリックス中で透湿性熱可塑性エラストマーのミクロ相分散が起こる。
このミクロ相分散の形成メカニズムは定かではないが、粘着剤組成物が急速冷却されることで、透湿性熱可塑性エラストマーの結晶化による相分離が進む前に周囲の粘着剤マトリックスが固化し、その固化したマトリックス中に結晶化が未発達な微細結晶状態の透湿性熱可塑性エラストマーが取り残されることによって形成されるものと推察している。
すなわち、本発明の粘着剤組成物においては、透湿性熱可塑性エラストマーが相分離せ
ず、粘着剤マトリックス中に0.1乃至100μmの大きさで均一に分散していることから、前述の高い透湿性と粘着性の両立につながったものと推察している。
【0028】
一方、単なる混合によって粘着剤組成物を調製した場合には、透湿性熱可塑性エラストマーが結晶化して相分離が起こり、粘着剤マトリックスが不均一な状態となる。その結果、粘着テープの透湿性に不均一性が生じることとなり、粘着テープの低透湿性部分を貼付した皮膚の水分貯留量が部分的に高くなって、皮膚刺激につながる虞がある。
また、透湿性熱可塑性エラストマーは、粘着テープに通常用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーと比べて硬く、粘着剤マトリックスが不均一である場合に、粘着性能の不均一化をも起こして、粘着特性の低下を引き起こす虞がある。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
<粘着剤組成物の調製及び粘着テープの作製>
表1に示す組成にて、スチレン系ブロック共重合体、透湿性の熱可塑性(ポリアミド系又はポリウレタン系)エラストマー、液状ゴム、粘着付与樹脂を配合し、さらに添加剤として、軟化剤及び老化防止剤を配合し、マントルヒーターにて200℃で溶融撹拌して、粘着剤組成物を調製した。
調製した粘着剤組成物を直ちに、冷却したガラス板に固定された剥離紙上に、粘着剤厚さが50μmになるよう塗布した。この粘着シートにパルプ由来の不織布(坪量40g/m2)をラミネートして粘着テープを作製した。
また、透湿性の熱可塑性エラストマーを含有しないもの(比較例1)、透湿性の熱可塑性エラストマーと液状ゴムの代わりに親水性添加剤(ポリエチレングリコール)を添加したもの(比較例2)、透湿性の熱可塑性エラストマーの代わりに親水性添加剤を添加したもの(比較例3)のゴム系粘着剤組成物を同様に調製し、粘着テープを作製した。
【0031】
こうして調製した実施例1乃至5並びに比較例1乃至3の粘着テープについて、それぞれ、(1)透湿度、(2)23℃対ベークライト粘着力、(3)耐ガラス板保持力、(4)ボールタックを下記の方法に従って測定し、得られた結果を表1に示した。また、実施例1の粘着テープの粘着剤層表面の(5)走査型プローブ顕微鏡画像を撮影した(図1)。
【0032】
(1)透湿度
一定時間に単位面積の試験材料(膜状物質)を通過する水蒸気の量として透湿度を評価した。具体的には、40℃雰囲気下、試験材料を境界とする一方側の空気を相対湿度90%とし、他方側の空気を吸湿剤によって乾燥状態に保ったとき、24時間にこの試験材料(境界面)を通過する水蒸気の質量(g)を測定し、試験材料1m2当たりに換算した。
測定はJIS Z−0208に従って行い、カップの内径より約10mm大きい直径の円形試料を約16gの塩化カルシウム吸湿剤を入れたカップにかぶせて、さらに試料がずれないようにゴムパッキンとリングをかぶせてネジ止めした。この試験体の総質量を測定した後、40℃、90%RH雰囲気下の恒温恒湿槽中に入れ、一定時間毎の質量変化を測定し、以下の式に従って透湿度を算出した。
【化1】

上記式中、Sは透湿面積(cm2)、Wは1時間当たりの質量増加(g/hr)を表す

【0033】
(2)23℃対ベークライト粘着力
対ベークライト粘着力の測定はJIS Z−0237に従い、23℃、50%RH雰囲気下でベークライトパネルに12mm幅の試料を貼付し、2kgのゴムロールで300mm/分の速度で1往復圧着し、20分放置後の、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の剥離力を測定した。
【0034】
(3)対ガラス板保持力
対ガラス板保持力の測定はJIS Z−0237に従い、23℃、50%RH雰囲気下で幅12mmの試料をガラス板に12mm×20mmの面積となるように貼付し、2kgのゴムロールで300mm/分の速度で1往復圧着した。20分放置後、粘着シートが垂直に垂れ下がるように吊るし、500gの荷重を加えて、15分後のズレ長さを測定した。
【0035】
(4)ボールタック
J.DOW法に従い、23℃、50%RH雰囲気下において傾斜角度30度のステンレス板上に長さ10cmの粘着テープの粘着剤面が上になるよう貼付し、粘着テープの上端から10cmの位置から、直径3/32〜1インチの30種類の鋼球を初速0で転がし、粘着テープ上で30秒間停止する最大の鋼球番号をボールタック値とした。なおボールタック値は、大きいほど初期接着性が高いことを示す。
【0036】
(5)走査型プローブ顕微鏡画像
実施例1の粘着テープの粘着剤層表面を、(株)島津製作所製、走査型プローブ顕微鏡(形式SPM−9500J3)を用いて測定し、顕微鏡画像(COS像)を撮影した。
なお、COS像(弾性像)とは、走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを一定の振幅・周波数で振動させながら試料表面を走査した際、試料表面の物性の違いによって変化する振幅の変化量を検出してマッピングしたものを指し、ちなみに位相の変化量をマッピングしたものを粘性像と呼んでいる。
図1は、試料表面の「硬さ・柔らかさ」の分布を画像化したものであり、画像の明るい部分(白く見える部分)が硬い部分、暗いところが柔らかい部分を表す。なお、分布は画像内における相対値であり、硬さ・柔らかさの絶対値を示すものではない。
測定条件:ばね定数5N/mのカンチレバー使用、走査速度1Hz
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1乃至5の粘着テープはいずれも350g/m2・24hを超える高い透湿度を有していた。また、添加する透湿性熱可塑性エラス
トマーの配合比率及び種類を変更することにより、所望の透湿度に調整出来るとする結果が得られた。そして、対ベークライト板粘着力、対ガラス板保持力及びボールタックの結果はいずれも大きな低下が認められず、粘着特性のバランスの取れた粘着テープが得られた。
【0039】
さらに、図1に示した走査型プローブ顕微鏡画像(COS像)によると、画面の明るい部分(白く見える部分)が透湿性熱可塑性エラストマーであることを示し、すなわち、粘着剤マトリックス中に1乃至2ミクロンの大きさでミクロ相分散構造を形成していることが確認された。
すなわちミクロ相分散構造の形成により、透湿性エラストマー相の粘着剤マトリックスへの安定な分散が維持され、粘着特性の大きな低下を引き起こすことがないという試験結
果につながったことが認められるという結論が得られた。
【0040】
一方、透湿性熱可塑性エラストマーを含まない比較例1の粘着テープは、高い透湿度を達成できなかった。
また、透湿性熱可塑性エラストマーと液状ゴムの代わりに液状親水性添加剤を多量に添加した比較例2の粘着テープは、親水性添加剤のブリードにより、期待したほどには透湿度は向上せず、また粘着力の大幅な低下を引き起こす結果となった。
さらに、透湿性熱可塑性エラストマーの代わりに液状親水性添加剤を多量に添加した比較例3の粘着テープは、高い透湿性を達成できず、また対ガラス保持力における凝集力の低下が起こるとする結果が得られた。
【0041】
以上の結果より、本発明の粘着剤組成物は高い透湿性と粘着特性のバランスに優れた粘着剤を与えることができることが確認された。
従って、本粘着剤組成物を塗布した粘着テープ・シートは救急絆創膏やドレッシング材の医療・衛生分野やスポーツ分野、美容健康分野などの外用用途への展開が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、実施例1の粘着剤表面の走査型プローブ顕微鏡画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン系ブロック共重合体及び(B)透湿性熱可塑性エラストマーを含みて構成されるエラストマー成分、並びに(C)粘着付与樹脂を含有することを特徴とする、皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物。
【請求項2】
前記透湿性熱可塑性エラストマーが、前記粘着剤組成物中でミクロ相分散していることを特徴とする、請求項1記載の皮膚貼付用ゴム系ホットメルト粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の粘着剤組成物を基材に塗布してなる粘着テープ又はシート。

【図1】
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【公開番号】特開2009−292770(P2009−292770A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147966(P2008−147966)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】