説明

皮革様シート状物の製造方法

【課題】柔軟でありながら、折り曲げた際に不自然な凹凸や浮き皺が発生しない高品位の皮革様シート状物を提供すること。
【解決手段】繊維質基材に、シリコーン化合物を含有する処理液を付与し、乾燥し、高分子弾性体溶液を含浸し、凝固する皮革様シート状物の製造方法であって、シリコーン化合物が親水性側鎖を有し、かつ高分子弾性体溶液が水系エマルジョンである皮革様シート状物の製造方法。さらには、シリコーン化合物を含有する処理液が水系処理液であることや、処理液中のシリコーン化合物が分散状態であること、処理液中のシリコーン化合物固形分濃度が0.2〜5重量%であること、シリコーン化合物が有する親水性側鎖が、ポリエーテル側鎖、ポリエーテル・アセテート側鎖、ポリグリセリン側鎖のいずれか一以上からなるものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革様シート状物の製造法に関し、さらに詳しくは高分子弾性体エマルジョンを用いて得られる皮革様シート状物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工皮革は、天然皮革に比べて着用時に伸び難く、手入れが不要で、部位により物性が均一で、水に強く、保管時にも変形しないなどの優れた特長があり、靴、衣料、車輌用等の各種用途や、スポーツ分野などにおいて、天然皮革の代用品として、あるいは新規な材料として、幅広く利用されている。そして、ますますの高い品質、質感が要求されてきている。
【0003】
また、従来の人工皮革の製造方法としては高分子弾性体の有機溶媒溶液を用いた湿式凝固法が一般的であった。しかし、有機溶剤は引火性であり、特に湿式凝固法に適した有機溶媒は扱いにくい物質であることが多く、その代替が進められている。その一つに、繊維質基材に高分子弾性体成分を水に分散させた高分子弾性体エマルジョンを含浸、凝固する方法がある。
【0004】
しかしこのように水系高分子弾性体エマルジョンを使用した場合には、従来の有機溶剤を使用した湿式凝固法に比べ、充実感や腰のある柔軟な風合い等の質感において劣る傾向にあり、まだ十分な水準には至っていないという問題があった。
【0005】
例えば、繊維質基材に高分子弾性体エマルジョンを含浸し加熱乾燥する過程では、高分子弾性体が繊維質基材中の繊維を、強く拘束した接合構造となる傾向にある。溶剤系の湿式凝固工程と異なり凝固時には繊維周辺に液体が存在しないため、そのコントロールは非常に困難であった。そのため、どうしてもシート状物の柔軟性が失われて硬い風合になる傾向にあった。
【0006】
そこで柔軟性を損なわないようにするために、高分子弾性体の繊維への付着量を少なくすることが試みられたが、今度は繊維質基材がペーパーライクとなり、折れ皺が出来やすくなるという問題が発生した。また得られた皮革様シート状物に強い伸長変形を与えた場合、例えば製靴等の過程において、繊維質基材の有する密度斑による凹凸がそのままシート状物上に出現して、皮革様シート状物に不自然な凹凸を生じたり、内曲げした際に浮き皺を生じるなどの、天然皮革には存在しないような風合の低下が見られるという問題があった。
【0007】
逆に付着する高分子弾性体の量を増やし、繊維質基材中の密度斑を高分子弾性体により緩和し、不自然な凹凸や浮き皺を改良する方法も考えられた。しかしこの場合には得られる皮革様シート状物の柔軟性が低下し、硬い風合いになるという問題があった。
つまり水系の高分子弾性体を用いた場合には品位の向上が難しく、天然皮革に近似した高級感のある風合を得ることが、極めて困難だったのである。
【0008】
そこで特許文献1には、繊維に、柔軟撥水剤であるジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジエンポリシロキサンとの混合物を付与してから、特定の物性を有する高分子弾性体エマルジョン溶液を付与し乾燥させる方法が開示されている。しかしこのものは繊維質基材が撥水性を持つために、水系の高分子弾性体エマルジョンが含浸しにくく、また含浸したとしても各繊維表面の撥水性により高分子弾性体のネットワーク構造が阻害されるため、繊維質基材に起因する不自然な凹凸が強調されやすくなるという問題があった。
【0009】
また特許文献2には、撥水性のシリコーンオイルとしてジメチルポリシロキサンとアミノ変性シリコーンの混合物を用い、さらにシリコーンレジンを含有するシリコーン処理含有液を繊維質基材に処理をした後に、高分子体エマルジョンを含浸、凝固する皮革様シート状物の製造方法が開示されている。しかしこの方法では繊維に対するシリコーンの固形分付着量が10重量%と高く、低反発で重厚感を有する加脂効果こそ得られるものの、柔軟性については期待するほどは得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−303371号公報
【特許文献2】特開2004−324012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は柔軟でありながら、折り曲げた際に不自然な凹凸や浮き皺が発生しない高品位の皮革様シート状物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の皮革様シート状物の製造方法は、繊維質基材に、シリコーン化合物を含有する処理液を付与し、乾燥し、高分子弾性体溶液を含浸し、凝固する皮革様シート状物の製造方法であって、シリコーン化合物が親水性側鎖を有し、かつ高分子弾性体溶液が水系エマルジョンであることを特徴とする。
【0013】
さらには、シリコーン化合物を含有する処理液が水系処理液であることや、処理液中のシリコーン化合物が分散状態であること、処理液中のシリコーン化合物固形分濃度が0.2〜5重量%であること、シリコーン化合物が有する親水性側鎖が、ポリエーテル側鎖、ポリエーテル・アセテート側鎖、ポリグリセリン側鎖のいずれか一以上からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柔軟でありながら、折り曲げた際に不自然な凹凸や浮き皺が発生しない高品位の皮革様シート状物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の皮革様シート状物の製造方法は、シリコーン化合物を含有する処理液に繊維質基材を浸漬、乾燥し、高分子弾性体溶液を含浸、凝固する皮革様シート状物の製造方法であって、シリコーン化合物が親水性側鎖を有し、かつ高分子弾性体溶液が水系エマルジョンであることを必須とする発明である。
【0016】
ここで本発明に用いられる繊維質基材は、従来より皮革様シート状物の製造に用いられている合成繊維、再生繊維、天然繊維等からなる不織布、織編布等の各種の繊維質基材を使用することができる。そのうちでも、本発明では、繊維質基材として、不織布のみからなる繊維質基材がより好ましく用いられ、なかでも絡合不織布が好ましく用いられる。
【0017】
繊維質基材を構成する繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、ポリオレフィンなどの従来公知の繊維形成可能な合成樹脂の一種、あるいは二種以上の樹脂からなる合成繊維が使用出来る。さらにはポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの合成繊維;半合成繊維;綿、羊毛、麻などの天然繊維などを挙げることができる。この中でも、ポリエステル、ポリアミドまたはポリエステル/ポリアミドからなるものを用いることが特に好ましい。繊維となるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどがあげられ、ポリアミドとしては、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12などがあげられる。中でもポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6などが、工程安定性やコスト面から好ましい。
【0018】
繊維質基材を構成する繊維の太さは特に制限されず、得られる皮革様シート状物の用途などに応じて選択可能であるが、一般には、その単繊維繊度が0.01〜10dtexであることが好ましい。
【0019】
本発明にて用いられる繊維質基材としては、その風合いの高さから絡合不織布であることがもっとも好ましい。そのような絡合合不織布を形成する方法としては、短繊維からのカーディング、交絡処理による方法、あるいは長繊維のダイレクトシート化、交絡処理による方法など、従来公知の方法が採用できる。
【0020】
より具体的に述べると、繊維質基材を製造する際に用いられる繊維絡合方法としては、ランダムウエッバーあるいは、クロスラッパーにて積層ウエーブを作製し、ニードルパンチあるいは水流絡合等で、3次元絡合不織布にすることができる。もっとも高圧柱状水流交絡では、目付量が上がると水流が十分に厚み方向に浸透せず、交絡が十分でなくなる傾向にあるため、ニードルパンチなどの機械的な交絡方法がより好ましい。
繊維質基材の厚さはとしては、得られる皮革様シート状物の用途などに応じて任意に選択できるが、一般には0.3〜3.0mm程度であることが、風合の点から好ましく、0.8〜2.5mm程度であることがより好ましい。
【0021】
さらに柔軟な風合、適度な腰感と反発性とを有する皮革様シート状物を得るためには、繊維質基材として、収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維を少なくとも一部として用いて形成された繊維質基材であることが好ましい。この場合は繊維を絡合後、繊維を収縮させて処理に供する繊維質基材とするが、このように繊維の一部を収縮した場合には、その見かけ密度が0.20〜0.4g/cmの不織布であることが好ましい。
【0022】
また、ポリエステルとナイロンなどの異種の高分子弾性体からからなる剥離分割型繊維を用い、極細繊維からなる不織布であることも好ましい。さらには生産効率の高い長繊維絡合不織布とすることも好ましい。紡糸された剥離分割型複合繊維は、生産効率や品質確保の目的から、絡合後に剥離分割処理することが好ましい。このような剥離分割繊維からなる極細繊維を用いた場合には、抽出型の海島極細繊維を用いた場合と比較し、最終的には基材中の極細繊維の存在比を高めることができ、風合いを向上させることが可能となる。
【0023】
本発明の製造方法では、上記のような繊維質基材を、シリコーン化合物を含有する処理液を付与し乾燥する前処理を行うものであるが、このときのシリコーン化合物が親水性側鎖を有するものである必要がある。さらにはシリコーン化合物が有する親水性側鎖としては、ポリエーテル側鎖、ポリエーテル・アクリル側鎖、ポリグリセリン側鎖のいずれか一以上からなるものであることが好ましい。またこの親水性側鎖にはポリオキシエチレン(PEG)やポリオキシプロピレン(PPG)が付加しているものであることが好ましく、特にPEGを付加させることにより親水性を高めることが可能となる。より具体的にはシリコーン化合物としてはポリエーテル変性シリコーンや、ポリエーテル・アセテート変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーンであることが好ましく、レジンやオイルの状態で溶媒中に分散、溶解しているものであることが好ましい。シリコーン化合物が親水性ではなく、逆に撥水性である場合には、水系エマルジョンである高分子弾性体溶液の含浸が不均一かつ少量となり、本発明の効果を発揮することができない。
【0024】
また、本発明で用いられるシリコーン化合物を含有する処理液は水系処理液であることが好ましい。溶媒が水である水系処理液であることにより、生産工程では後の含浸、凝固工程と同様に有機溶剤の使用を無くすことが可能となる。また処理液中のシリコーン化合物は分散状態であることが好ましく、溶解していないために後の工程での脱落を防ぎ、より有効な処理を行うことが可能となる。ただし処理工程中では安定して分散していることが好ましい。処理液中のシリコーン化合物の固形分濃度としては0.2〜5重量%であることが好ましい。0.2%以下では十分な効果が得にくい傾向にあり、5%以上では逆に処理剤の粘着性が、最終製品である皮革様シート状物の触感を損なわせる傾向にある。
【0025】
本発明で用いられるシリコーン化合物は、このように通常親水成分にて変性されているが、その親水親油バランスであるHLB値としては4以上であることが好ましく、さらには5〜9の範囲であることが好ましい。粘度としては200mPa・s以上であることが好ましく、さらには300〜30000mPa・sであることが好ましい。また水を溶媒として用いる場合、曇点は低いことが好ましく、常温である25℃以下であって、常温では溶解せずに白濁し、分散状態であることが好ましい。このような物性であることにより、繊維に均一に付着しながら脱落しにくい傾向となる。
【0026】
本発明においては、繊維質基材に上記のようなシリコーン化合物を含有する処理液を付与し乾燥するが、この親水性側鎖を有するシリコーン化合物の付与により、後で含浸する高分子弾性体と繊維材料基材中の繊維が非接合化し、非常に柔軟な皮革様シート状物ができるのである。
【0027】
具体的な処理方法としては、例えば水等の溶媒にて希釈し調製したシリコーン含有処理液中に、繊維質基材を浸漬し、ニップロールで絞るなどして付着量をコントロールし、次いで乾燥させることによって得ることができる。乾燥前の付着量(処理液のピックアップ量)としては60〜150重量%の範囲であることが好ましい。付着量が少なすぎても多すぎても、付着状態が不均一になる傾向にある。
【0028】
乾燥方法としては従来公知の方法を用いることができ熱風乾燥や加熱ロールによる方法が一般的であるが、マイグレーションの観点からは、熱風乾燥であることがより好ましい。乾燥温度としては110〜140℃であることが、乾燥時間としては3〜15分であることが好ましい。乾燥後の処理剤固形分の付着量としては0.2〜5重量%であることが好ましい。このように処理液を乾燥させることにより、繊維に対しシリコーン化合物が強固に付着し、後に含浸させる高分子弾性体溶液に対する相互作用をもたらすことが可能となる。
【0029】
シリコーン化合物の繊維質基材への付着強度は、この乾燥処理後の繊維質基材からシリコーン化合物の水への溶出量を測定し、残存率として評価することができる。すなわち乾燥後の繊維質基材へのシリコーン化合物付着量を、該繊維質基材を25℃の水で3分洗浄し、絞り乾燥した後のシリコーン化合物の残存量で除した値が残存率となる。シリコーン化合物が水に溶解しやすい場合には、その後の高分子弾性体エマルジョン溶液の含浸時に親水性側鎖を有するシリコーン化合物が脱落するため、残存率が低下し、繊維と高分子弾性体の非接合効果が低下する傾向にある。残存率としては20%以上であることが好ましく、さらには40%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法では上記のように繊維質基材にシリコーン化合物を含有する処理液を付与し乾燥した後に、高分子弾性体溶液を含浸し、凝固して皮革様シート状物を製造する。そして本発明で用いる高分子弾性体溶液としては、水系エマルジョンであることが必要である。
【0031】
高分子弾性体の水系エマルジョンとしては、水の除去後にエラストマー性を示すものであればいずれでも良く、例えばポリウレタンエマルジョン、NBRエマルジョン、SBRエマルジョン、アクリルエマルジョン等の高分子弾性体エマルジョンがあげられる。中でもポリウレタンエマルジョンが柔軟性、強度、耐候性などの点から好ましい。これらの高分子弾性体エマルジョンは単独で使用しても、複数を併用して使用してもよい。
【0032】
また、本発明においては、該高分子弾性体エマルジョンが感熱ゲル化性を有していることが好ましい。感熱ゲル化性のエマルジヨンとは、加熱したときに流動性を失ってゲル状物となるエマルジヨンである。感熱ゲル化性とすることによって、乾燥時のマイグレーションをより高いレベルで抑制することができる。このような感熱ゲル化性の高分子弾性体エマルジヨンとしては、それ自体で感熱ゲル化性を有する高分子弾性体を含有するエマルジヨン、または高分子弾性体エマルジヨン中に感熱ゲル化剤を添加して感熱ゲル化性にしたエマルジヨンのいずれもが使用できる。
【0033】
高分子弾性体エマルジョンが感熱凝固温度を有する場合には、40℃以上90℃以下の範囲が好ましく、さらには45℃以上80℃以下で凝固特性を発現するものが好ましい。ここで高分子弾性体エマルジョンの感熱凝固温度とは、種々の添加剤を配合したエマルジョン樹脂液50gを100mlのガラス製ビーカーにとり、内容物を温度計で攪拌しつつ、そのビーカーを95℃の熱水で徐々に加熱し、内容物が流動性を失い凝固する温度をいう。感熱凝固温度が低すぎる場合には、樹脂自体の安定性が悪く、特に夏場の保管時に凝集物を発生したり、ゲル化したりする等の傾向にあり、また高すぎる場合には、凝固性がシャープでなくなり、繊維内に樹脂が均一に充填しにくく、一部マイグレーションを起こしやすい傾向にある。
【0034】
また本発明で用いる高分子弾性体溶液には、必要に応じて、さらに公知の添加剤、例えば、感熱ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤等の界面活性剤、増粘剤、防黴剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、無機または有機顔料、充填剤、凝固調節剤、加水分解防止剤等の安定剤や、架橋剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0035】
本発明の製造方法において、高分子弾性体の水系エマルジョンの繊維質基材への含浸方法としては、通常行われる方法であればいずれでも良く特に制限は無いが、通常は例えばマングルによる含浸法、コーティング法、スプレー法等を挙げることができる。中でも均一に含浸するためには、繊維質基材を高分子弾性体のエマルジョン中に浸漬する方法が好ましく採用される。さらには繊維質基材に高分子弾性体エマルジョンを含浸した後、プレスロールやドクターナイフなどを用いて、高分子弾性体エマルジョンの含浸量を適量に調整することが好ましい。
【0036】
次に、繊維質基材中に含浸している高分子弾性体のエマルジヨンを凝固させる。凝固処理としては加熱処理が一般的であり、高温多湿雰囲気下での感熱凝固が、より柔軟な風合を有する皮革様シート状物が得られる点から、特に好ましく採用される。感熱凝固処理の場合には、その処理温度は、高分子弾性体エマルジョンの感熱凝固温度以上であることが好ましく、50℃以上180℃以下が好ましいが、より安定的に生産を行うためには感熱ゲル化温度の10℃以上とすることがさらに好ましい。また相対湿度は80%以上であることが好ましく、さらには100%に近づく程表面からの乾燥が抑えられ好ましい。処理時間は、通常1分〜10分間であることが好ましい。さらに凝固後の処理としては、上記凝固方法にて得られた繊維と高分子弾性体からなる複合シートを、熱水により洗浄することが好ましい。熱水にて水溶成分を抽出除去することにより、より品質的に安定した皮革様シート状物を得ることが可能となる。
【0037】
得られた皮革様シート状物は、皮革様シート状物中に含まれる水分を除去するために、ひき続いて加熱乾燥または風乾処理を行うことが好ましい。その具体的な処理方法としては、例えば熱風加熱、赤外線加熱、シリンダー加熱等任意の乾燥方法が可能である。一般的には特にコストと品質のバランス面から、熱風加熱が好ましい。乾燥温度としては、80℃以上180℃以下であることが好ましい。
得られた皮革様シート状物中の高分子弾性体と繊維の比率としては、高分子弾性体/繊維(以下R/Fとする)が20/100〜70/100の範囲であることが好ましい。また、この含浸基体層となる皮革様シート状物の密度としては0.2〜0.4g/cmであることが好ましい。
【0038】
さらに得られた皮革様シート状物の表面には、高分子弾性体からなる層を付与し、銀付調の皮革様シート状物(人工皮革)とすることも好ましい。特には、この高分子弾性体層は離型紙上に最表面とする高分子弾性体層を形成し、その上に高分子弾性体からなる接着層を付与し、基体となる皮革様シート状物を張り合わせるラミネート法によるものであることが好ましい。使用する高分子弾性体としては、繊維質基材の含浸に用いる高分子弾性体と同様のものを用いることができ、水系高分子弾性体であることが、特には水系ポリウレタン重合体であることが好ましい。
【0039】
このような本発明の製造方法によって得られる皮革様シート状物は、天然皮革調の優れた柔軟性を有しており、従来の湿式凝固法により得られる人工皮革と比べても何ら遜色がない。これは、本発明で得られる皮革様シート状物では、繊維材料基材中の繊維とポリウレタン樹脂等の高分子弾性体が非接合であるためであると考えられる。ちなみにこのことは例えば、その断面を電子顕微鏡により撮影することにより、確認することが可能である。本発明で得られる皮革様シート状物では、繊維と高分子弾性体が高い密度で存在しているにもかかわらず、高分子弾性体が繊維に接合していないために拘束力が減少し、柔軟性の低下が防止され、高い質感が得られているのである。
【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断らない限り重量基準である。また、実施例中の各測定値は次の方法により測定した。
【0041】
(1)厚さ
スプリング式ダイアルゲージ(荷重1.18N/cm)にて測定した。
(2)重量
10cm×10cmに切断した試験片を、精密天秤にて測定した。
(3)含浸液の浸透性
含浸液の浸透性について、○が浸透しやすく、△、×の順に浸透しにくい評価とした。
(4)柔軟性
得られた人工皮革の柔軟性を人の感覚によって判定した。◎が最も柔軟で、○、△、×の順に硬くなる評価とした。
(5)シリコーン化合物の残存率
まず使用した繊維質基材(不織布)の重量を測定した(a)。次いで5%濃度処理液(各実施例、比較例にて用いたシリコーン化合物を含有する処理液の5倍濃度)に含浸し、マングルで絞った後、140℃10分間の乾燥を行い、重量を測定した(b)。その後、さらに25℃の水にて3分間洗浄し、絞った後に140℃10分間で乾燥した後、重量を測定した(c)。
次式により各材料の水処理に対する残存率を計算した。
残存率(%)=(c−a)÷(b−a)×100
【0042】
[実施例1]
ポリエステル収縮繊維を50部と、0.8dtex、カット長38mmの非収縮ポリエチレンテレフタレート短繊維を50部とを混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1500本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い、繊維を交絡させて、目付け180g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が35%となるように収縮させ、次いで110℃で乾燥させて目付け277g/m、厚さ1.0mm、見掛け密度0.277g/cmの繊維質基材(不織布)を得た。
次いで、得られた繊維質基材に親水性側鎖を有するポリエーテル・アセテート変性シリコーン(東レダウコーニング株式会社製 SH−28、動粘度300mm/s〈25℃〉、曇点25℃以下)の1%水分散液を付与し、マングルで絞りウェットピックアップを100%に調整した後、120℃で、10分間、熱風乾燥機にて乾燥した。繊維に対するシリコーン化合物の付着量は1%であった。なお、このシリコーン化合物含有処理液は、白濁しているものの均一に分散しており、安定性にも優れていた。そして残存率も高く、均一品質の不織布を得ることができた。
【0043】
一方、高分子弾性体溶液として、感熱凝固型水系ポリウレタンエマルジョン(大日本インキ科学工業株式会社製、ハイドランWL602、感熱凝固温度60℃)を固形分15%、会合型増粘剤(大日本インキ化学工業株式会社製、アシスターT2)を固形分1%となる含浸処理液を準備した。
先に得られたシリコーン化合物が付着した繊維質基材をこの含浸処理液に含浸させたところ均一に含浸されていた。そして表面の余分な分散液を掻き落として、雰囲気温度を95℃、相対湿度を99%にコントロールした感熱凝固ボックスにて凝固を行った。その後、水中に浸漬して冷却してからマングルロールで絞り、120℃の熱風乾燥機で10分間乾燥させて皮革様シート状物(含浸基体)を得た。得られた皮革様シート状物の高分子弾性体と繊維の比率R/Fは30%であった。
【0044】
次いで、離型紙(リンテック株式会社製、R53)上に、ポリウレタンの33%水分散液(大日本インキ化学工業株式会社製、ハイドランWLS202)100部に増粘剤(大日本インキ化学工業株式会社製、ハイドランアシスターT1)、および着色剤(大日本インキ化学工業株式会社製、ダイラックブラックHS9560)5部を攪拌しながら添加し粘度を8000mPa・sに調整した調合液を目付け90g/mでコートし、温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥してポリウレタン着色膜を形成した。さらにその表面に、水分散型ポリウレタン系接着剤(大日本インキ化学工業株式会社製、ハイドランA441、45%濃度)100部に着色剤(大日本インキ化学工業株式会社製、ダイラックブラックHS9560)5部、および増粘剤(大日本インキ化学工業株式会社製、ハイドランアシスターT1)を混合して粘度を5000mPa・sに調整した調合液を目付け150g/mでコートした。次いで、温度90℃で2分乾燥後、含浸基体を重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着した。その後、温度60℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り銀付調人工皮革を得た。
結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
実施例1のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えてHLB値が14と高いポリエーテル変性シリコーンオイル(東レダウコーニング株式会社製 FZ−2104、粘度1000mPa・s〈35℃〉(換算動粘度970mm/s))を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。なお、ここでシリコーン化合物含有処理液は、粘度が高いものの均一に分散しており、安定性にも優れていた。そして残存率も高く、均一品質の不織布を得ることができた。
結果を表1に併せて示す。
【0046】
[実施例3]
実施例1のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えてHLB値4.5のポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学株式会社製 KF−6016、PEG‐9メチルエーテルジメチコン、動粘度150mm/〈25℃〉)を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。なお、このシリコーン化合物含有処理液は、若干、安定性に難があったが、残存率は高かった。
結果を表1に併せて示す。
【0047】
[実施例4]
実施例1のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えてポリグリセリン変性シリコーンオイル(信越化学株式会社製 KF−6104、ポリグリセリル−3ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、粘度4000mPa・s〈25℃〉(換算動粘度4000mm/s))を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。なお、このシリコーン化合物含有処理液は、若干、安定性に難があったが、残存率は高かった。
結果を表1に併せて示す。
【0048】
[実施例5]
実施例1のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えてHLB値7.0のポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学株式会社製 KF−6012、PEG/PPG−20/22ブチルエーテルジメチコン、動粘度1600mm/〈25℃〉、曇点35℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。
結果を表1に併せて示す。
【0049】
[実施例6]
実施例1のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えてHLB値14.5のポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学株式会社製 KF−6043、PEG−10ジメチコン、動粘度400mm/〈25℃〉、曇点71℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。なお、このシリコーン化合物含有処理液は、水への溶解性が高く、溶液安定性には優れていたが、水への溶出量が多く残存率が低い傾向にあった。
結果を表1に併せて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
[比較例1]
実施例1のシリコーン化合物による処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。
結果を表2に示す。
【0052】
[比較例2]
実施例1の親水性のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えて、撥水性のアミノ変性シリコーン(松本油脂株式会社製 NX−1)を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。
結果を表2に併せて示す。
【0053】
[比較例3]
実施例1の親水性のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えて、撥水性のジメチルシリコーン(東レダウコーニング株式会社製 IE−7046T)を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。
結果を表2に併せて示す。
【0054】
[比較例4]
実施例1のポリエーテル・アセテート変性シリコーンに代えて、HLB値10のPEGエステル(松本油脂株式会社製 マーベリンDS100)を用いた以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得た。
結果を表2に併せて示す。
【0055】
【表2】

【0056】
[実施例7]
実施例1の通常繊度のポリエステル繊維からなる繊維質基材(不織布)に代えて、ポリエステル繊維・ポリアミド繊維からなる剥離分割型複合繊維からなる繊維質基材(長繊維不織布)を用いた。
すなわち、第1成分として収縮特性を有するイソフタル酸が共重合されたポリエチレンテレフタレート、第2成分を分子量19000のポリエチレングリコールを2重量%を含有するナイロン−6とする16分割の多層貼合せ型の断面を有する親糸繊度3.0dtexの剥離分割型複合繊維を紡糸した。その紡糸した長繊維をそのままウェブにして油剤を付与し、クロスレイヤーで8枚重ね合わせた後、ペネレイト数1400本/cmのニードルパンチにて交絡処理を施し、目付250g/m、厚さ1.22mmの分割前長繊維不織布を得た。次いで、50℃の温水へ浸漬後、打撃式分割機にて剥離分割処理を行った後、分割処理後の不織布を75℃の温水槽中に60秒間浸漬し、第1成分のポリエチレンテレフタレート繊維を収縮させ、全体の面積を45%収縮させて乾燥し、長繊維不織布とした。この長繊維不織布(繊維質基材)の厚さは1.25mm、見掛け密度0.34g/cm、目付は420g/mであった。
この不織布を繊維質基材として用いた以外は実施例1と同様に親水性のポリエーテル・アセテート変性シリコーンによる処理を行い、皮革様シート状物(基材)及び銀付調人工皮革を得たところ、非常にソフトなものであった。
【0057】
[比較例5]
実施例7と同じ長繊維不織布を用い、実施例7のシリコーン化合物による処理を行わなかった以外は実施例7と同様にして、シート状物(基材)及び銀付調シートを得た。非常に硬く、皮革様シートとはいえないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材に、シリコーン化合物を含有する処理液を付与し、乾燥し、高分子弾性体溶液を含浸し、凝固する皮革様シート状物の製造方法であって、シリコーン化合物が親水性側鎖を有し、かつ高分子弾性体溶液が水系エマルジョンであることを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
【請求項2】
シリコーン化合物を含有する処理液が水系処理液である請求項1記載の皮革様シート状物の製造方法。
【請求項3】
処理液中のシリコーン化合物が分散状態である請求項1または2記載の皮革様シート状物の製造方法。
【請求項4】
処理液中のシリコーン化合物固形分濃度が0.5〜5重量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。
【請求項5】
シリコーン化合物が有する親水性側鎖が、ポリエーテル側鎖、ポリエーテル・アセテート側鎖、ポリグリセリン側鎖のいずれか一以上からなるものである請求項1〜4のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。

【公開番号】特開2012−251260(P2012−251260A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124518(P2011−124518)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】