説明

監視用カメラの保護方法および監視用カメラケース

【課題】鋼板の冷間圧延などの粘性の高いスカムやヒュームが発生する環境で監視用カメラを使用したときに、長期間にわたって良好な視認性を保つことができる監視用カメラの保護方法および監視用カメラケースを提供するを提供する。
【解決手段】内部に監視用カメラを収納し、前記監視用カメラのレンズの前方に開口部を有し、前記開口部以外は前記監視用カメラを覆うように構成したカメラケースの内部に、前記監視用カメラの後方から前方に向けてエアを供給し、前記開口部の周りの開口部側方より、前記開口部から前記カメラケースの外に出るエアを吸引することを特徴とする監視用カメラの保護方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視用カメラの保護方法および監視用カメラケースに関し、より詳しくは冷間圧延機などの粘性の高いスカムやヒュームが発生する環境で使用される監視用カメラの保護方法および監視用カメラケースに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の冷間圧延では、一般的に、圧延機出側に、鋼板の形状をチェックする形状検出器や鋼板のエッジ亀裂を検出するエッジ亀裂センサーなどを設置し、鋼板の状態を監視する。しかしながら、上記のような設備では、不感帯や精度不足による誤検出などにより鋼板の状態を完全に把握することが困難なため、目視によって鋼板の状態を補完することが必要である。
【0003】
作業者の肉眼による鋼板監視が不可能な場合や、映像情報を記録に残す場合などには、テレビカメラやビデオカメラなどを用いて鋼板の状態を監視するのが一般的である。
【0004】
冷間圧延では、鋼板近傍に圧延油ヒュームが存在し、また圧延機周辺に圧延油と鉄粉からなる粘性の高い混合物(「スカム」と呼ばれる。)が付着・堆積する。カメラを鋼板から十分離れた位置に設置すると、スカム付着の問題は緩和されるが鋼板とカメラの間に存在する圧延油ヒュームによって視認性(眼による識別能)が低下し、鋼板の状態を的確に監視できなくなる。そのため、カメラは、鋼板に近接した位置に設置する必要がある。しかし、カメラを鋼板に近接した位置に設置すると、スカムがレンズに付着してレンズが曇り、頻繁なメンテナンスが必要となる。
【0005】
一般的に、粉塵が舞うような環境下では、粉塵付着を防止するため、特許文献1のように、カメラをエアパージ機能付きのカメラケースに収納する。しかし、特許文献1の装置は、カメラのレンズに対応する位置に設けた開口部に透明板を設置しているので、この装置を冷間圧延機で使用すると、透明板に圧延油ヒューム、スカムが付着して視認性を確保できなくなる。従って、冷間圧延機では、開口部に透明板を設置しない図1のような装置が用いられる。
【0006】
図1の装置は、カメラ1のレンズ2に対応する位置に開口部12を形成したカメラケース11にカメラ1を収納し、カメラ1後方のカメラケース11の後部壁面に設けたエア供給口13からカメラ前方に向けてエアを供給し、供給したエアを開口部12からカメラケースの外に出す。カメラケース11内部の開口部上部の領域はエア流れが淀むので、淀みを防止するため、この領域から供給したエアの一部を、エア配管17を介してブロア14で吸引する。吸引したエアは、エア配管18を介してカメラケース11の前部壁面に設けたエア吐出口15から、噴射方向がカメラケース11の前部壁面に平行になるようにして開口部12に向けて噴射し、圧延油ヒューム・スカム19のカメラケース内への巻き込みを防止する。
【0007】
しかし、図1のような装置では、カメラを鋼板に近接した位置に設置すると、圧延油ヒューム・スカムのカメラケース内への巻き込みを確実に防止できないため、レンズにスカムが付着・堆積し、良好な視認性を長期間保つことが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−72541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決し、鋼板の冷間圧延などの粘性の高いスカムやヒュームが発生する環境で監視用カメラを使用したときに、長期間にわたって良好な視認性を保つことができる監視用カメラの保護方法および監視用カメラケースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の手段は、下記の通りである。
【0011】
[1]内部に監視用カメラを収納し、前記監視用カメラのレンズの前方に開口部を有し、前記開口部以外は前記監視用カメラを覆うように構成したカメラケースの内部に、前記監視用カメラの後方から前方に向けてエアを供給し、前記開口部の周りの開口部側方より、前記開口部から前記カメラケースの外に出るエアを吸引することを特徴とする監視用カメラの保護方法。
【0012】
[2]前記開口部の側方より吸引したエアを前記監視用カメラの内部に供給するエアとして用いることを特徴とする[1]に記載の監視用カメラの保護方法。
【0013】
[3]内部に監視用カメラを収納し、前記監視用カメラのレンズの前方に開口部を有し、前記開口部以外は前記監視用カメラを覆うように構成したカメラケースにおいて、前記カメラケースの後部に、前記カメラケースの内部に、前記監視用カメラの後方から前方に向けてエアを供給するエア供給口を配置し、前記開口部の周りの開口部側方に前記開口部から前記カメラケースの外に出るエアを吸引するエア吸引口を配置したことを特徴とする監視用カメラケース。
【0014】
[4]前記エア吸引口から吸引したエアを前記エア供給口に供給する装置を有することを特徴とする[3]に記載の監視用カメラケース。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋼板に近接した位置に監視用カメラを設置しても、カメラのレンズへの圧延油ヒュームやスカムの付着が抑制されるため、レンズの曇りが無く、視認性を長期間にわたって保つことができる。
【0016】
また、鋼板に近接した位置にカメラを配置できるようになるため、ブロアや扇風機などを用いての少量の送風で鋼板とカメラの間に存在する圧延油のヒュームを除去して良好な視界を確保でき、画像精度も良好である。その結果、従来では視認の難しかった鋼板エッジ部の形状不良や、クーラントの水切状態などを的確に把握できるようになり、ロールベンディング圧力や油圧圧下レベリング、ゾーンクーラントによる形状矯正・不具合への迅速な対処が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の監視用カメラケースの断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る監視用カメラケースの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、圧延油ヒューム・スカムがカメラケースの内部に巻き込まれる理由とその防止手法について鋭意検討した。その結果、図1の装置では、ケース内部から供給されたエアが開口部付近の内壁に衝突することによって発生する開口部付近の気流渦(図1参照)によって圧延油ヒューム・スカムがカメラケースの内部に巻き込まれると考えられた。そこで、開口部12付近の気流渦によって圧延油ヒューム・スカムがカメラケースの内部に巻き込まれるのを防止する手法について種々検討した。その結果、開口部の周りの該開口部の側方からエアを吸引すると、開口部12付近の気流渦の発生を抑制でき、圧延油ヒューム・スカムのカメラケースの内部への巻き込みを防止できることがわかった。
【0019】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係る監視用カメラケースの断面図である。
【0021】
図2において、1はカメラ(監視用カメラ)、2はカメラ1のレンズ、3はカメラケース、4はカメラケースの開口部、5はブロア、6はエア供給口、7はエア吸引口、8、9はエア配管、19は圧延油ヒューム・スカムである。
【0022】
カメラ1はカメラケース3に収納されている。カメラケース3は、カメラ1のレンズ2の前方のレンズに対応する位置に開口部4が設けられ、開口部4以外はカメラを覆うように構成されている。カメラケース3の後部壁面に、該カメラケース3内にエアを供給するエア供給口6が複数設けられ、開口部4の周り(全周)の開口部4側方にエア吸引口7が配置されている。カメラケース3の前部壁面は、開口部に向かって断面形状(断面積)が縮小するように形成されている。
【0023】
ブロア5を用いてエア供給口6からエアをカメラケース3内に供給する。供給されたエアは、カメラ2の後方から前方に向かって流れ、開口部4からカメラケースの外に出る。
【0024】
カメラケースの外に出るエアは、ブロア5によって開口部4の周りの開口部4側方に配置されているエア吸引口7から吸引される。吸引されたエアは、エア供給口6からカメラケース3内に供給されることで、カメラケース3内の圧力が陽圧に保持される。開口部4の全周で、図2の点線矢印で示すようなカメラケースの開口部4から側方のエア吸引口7に向かうエア流れが形成されることで、開口部4付近の気流渦の発生が抑制され、圧延油ヒューム・スカムのカメラケースの内部への巻き込みが防止される。吸引エア量を多くしすぎると開口部4側からのヒューム吸引が多くなり、フィルター詰りなどが発生するようになるので好ましくない。
【0025】
カメラケース3の前部壁面を傾斜状に形成したことで、図1の装置で見られたようなカメラケース3内部でのエア流れの淀みが抑制され、カメラケース3の後方から前方の開口部4に向かう一様な流れが形成される。仮に圧延油ヒュームやスカムがカメラケース3内に入ったとしても、カメラケース内で付着・堆積することが抑制され、視認性を保つことに寄与する。
【0026】
その結果、鋼板の状態監視に適した適宜の位置にカメラを近接させて配置しても、カメラのレンズに圧延油ヒュームやスカムの付着が抑制されるため、長期間にわたって良好な視認性を保つことができる。
【0027】
また、鋼板に近接した位置にカメラを配置できるようになるため、ブロアや扇風機などを用いての少量の送風で鋼板とカメラの間に存在する圧延油のヒュームを除去して良好な視界を確保でき、画像精度も良好である。その結果、従来では視認の難しかった鋼板エッジ部の形状不良や、クーラントの水切状態などを的確に把握できるようになり、ロールベンディング圧力や油圧圧下レベリング、ゾーンクーラントによる形状矯正・不具合への迅速な対処が可能となる。
【0028】
冷間圧延機の出側に配置する鋼板の状態を監視するカメラは、従来のカメラケースでは鋼板との間隔を5mとしていたが、本発明のカメラケースでは鋼板との間隔を75cmに近接できるようになった。また視認性確保のために、従来2ヶ月に1回の頻度でメンテナンスを行っていたが、本発明では1年に1回の頻度でメンテナンスを行っても視認性を確保できた。また、冷間圧延機の出側に本発明のカメラケースを設置して鋼板の状態を監察し、鋼板の形状不良が観察されたときに、アクチュエーターによる形状矯正やクーラントの水切調整を行うことで形状不良による格落ち量が従来の50%に減少した。
【0029】
なお、図2のカメラケースでは、ブロア5によってエア吸引口7からエアを吸引し、吸引したエアをエア供給口6に供給したが、エア吸引口7からエアを吸引するブロアと、エア供給口6にエアを供給するブロアを各々設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、鋼板に近接した位置に監視用カメラを設置しても、カメラのレンズに圧延油ヒュームやスカムの付着が抑制されるため、レンズ曇りが無く、視認性およびメンテナンス性を長期間確保することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 カメラ(監視用カメラ)
2 レンズ
3、11 カメラケース
4、12 開口部
5、14 ブロア
6、13 エア供給口
7 エア吸引口
8、9、16〜18 エア配管
15 エア吐出口
19 圧延油ヒューム・スカム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に監視用カメラを収納し、前記監視用カメラのレンズの前方に開口部を有し、前記開口部以外は前記監視用カメラを覆うように構成したカメラケースの内部に、前記監視用カメラの後方から前方に向けてエアを供給し、前記開口部の周りの開口部側方より、前記開口部から前記カメラケースの外に出るエアを吸引することを特徴とする監視用カメラの保護方法。
【請求項2】
前記開口部の側方より吸引したエアを前記監視用カメラの内部に供給するエアとして用いることを特徴とする請求項1に記載の監視用カメラの保護方法。
【請求項3】
内部に監視用カメラを収納し、前記監視用カメラのレンズの前方に開口部を有し、前記開口部以外は前記監視用カメラを覆うように構成したカメラケースにおいて、前記カメラケースの後部に、前記カメラケースの内部に、前記監視用カメラの後方から前方に向けてエアを供給するエア供給口を配置し、前記開口部の周りの開口部側方に前記開口部から前記カメラケースの外に出るエアを吸引するエア吸引口を配置したことを特徴とする監視用カメラケース。
【請求項4】
前記エア吸引口から吸引したエアを前記エア供給口に供給する装置を有することを特徴とする請求項3に記載の監視用カメラケース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−105169(P2013−105169A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251314(P2011−251314)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】