説明

看護事故警告システム

【構成】 状況(要因)、結果および頻度のデータを含むインシデントレポート分析表(38)を知識データベース(36)に記憶し、看護師の行動をモニタするセンサユニット(20)などで、その分析表に挙げた状況ないし要因を検出する(ステップS1)と、サーバ(12)は、ステップS3で、分析表で該当する結果は、頻度が高いかどうか判断する(ステップS3)。頻度が高いと判断したときステップS5で警告を発し、頻度が低いと判断したとき、ステップS7-S11を実行して、公理が証明できるかどうか判断する。つまり、事故を起すかどうか予測する。事故の予測があれば、ステップS13で警告するが、事故の可能性がないと予測したときは警告を発しない。
【効果】 頻度が低いときには、事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、事故の可能性があると予測したときだけ警告するようにしたので、看護師が「警告慣れ」になることはない。したがって、看護事故の発生が効果的に抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は看護事故警告システムに関し、特にたとえば、看護師による看護事故の発生を予測して警告する、看護事故警告システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療事故や看護事故を未然に防止するための様々なシステムや方法が提案されている。
【0003】
その1つが、特許文献1に開示されているシステムである。特許文献1に開示されているシステムは、インシデントレポートにより報告された各インシデントについて、慣れに基づく行為に関するエラー、規則に基づく行為に関するエラーなどのエラー種別と、環境施設、作業環境、作業要因、個人要因などの直接誘因と、医療情報管理上の問題、労務管理上の問題などの間接誘因とのそれぞれからそのインシデント発生に最も寄与した要因を抽出し、それらを関連付けた連関鎖を定義するとともに、看護業務に関係なく各連関鎖の出現率を計算し、その出現率を参考にして対応する優先順位を決め、その医療施設特有の組織文化やマネージメント上の問題を見つけ出し、それを解決する対応策を立案することによって医療事故の危険性を大幅に軽減することができるようにしようとするものである。
【特許文献1】特開2003−91600[G06F 17/60]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1におけるシステムでは、出現率によって優先順位を決めるため、必然的に、出現率の高い要因に注目するものであり、出現率の低い要因については見過されてしまう可能性がある。
【0005】
一方、事故が起きる一般的傾向すなわち頻度は低くても問題となる事故の可能性がない訳ではないので、頻度が低い状況であっても、事故防止の観点からは、看護師に警告を与えることが望ましい。しかしながら、頻度が低い場合に全て警告を発すると、たとえば、警告を発したのに事故がなかった場合などに看護師がだんだん慣れて、しまいにはその警告を無視するような状態(警告慣れ)にもなってしまう。これでは何のための警告システムかわからない。
【0006】
したがって、事故につながる可能性の状況だけに警告を与えるのが望ましい。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な看護事故警告システムを提供することである。
【0008】
この発明の他の目的は、事故につながる可能性の状況だけi警告を与えることができる、看護事故警告システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、インシデントレポートを分析して少なくとも状況、結果および頻度のデータを含む分析表を記憶する第1記憶手段、分析表に挙げられている状況が発生したかどうかを検出する状況検出手段、状況検出手段によって検出した状況について分析表を参照して頻度が高いかどうか判断する頻度判断手段、頻度判断手段によって頻度が低いと判断したとき事故を起すかどうか予測する予測手段、および予測手段によって事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、予測手段によって事故の可能性があると予測したときは警告を発する第1警告手段を備える、看護事故警告システムである。
【0010】
請求項1の発明では、第1記憶手段(実施例中での知識データベース36、インシデントレポート分析表38に相当する。)にインシデントレポートを分析し、状況(要因)、結果、そして頻度を含む分析表を記憶しておく。一例として実施例のサーバ12である状況検出手段は、モニタ手段から得られるモニタデータに基づいて、その分析表にリストアップされた状況が発生したかどうか判断する(ステップS1)。同じく実施例のサーバ12が機能する頻度判断手段は、その分析表を参照して、当該検出した状況が事故につながる頻度が高いか低いか判断する(ステップS3)。頻度か低いときには、看護事故につながる可能性はあるものの、本当に事故を起すかどうか、予測手段(サーバ12)によって推論または予測する(ステップS7-S11)。予測手段が、看護事故を予測したとき、第1警告手段(12、S13)が警告を発する。
【0011】
したがって、請求項1の発明によれば、看護事故を結果的に招来する可能性がある状況を検出しても、頻度が低いときには、事故が予測できるときだけ警告する。
【0012】
請求項2の発明は、頻度判断手段によって頻度が高いと判断したとき警告を発する第2警告手段をさらに備える、請求項1記載の看護事故警告システムである。
【0013】
請求項2の発明では、第2警告手段(実施例ではサーバ12とステップS5が相当する)は、検出した状況が事故につながる可能性が大(高頻度)のときには、予測なしに、直ちに警告を発する。したがって、看護事故の発生が防止できる。
【0014】
請求項3の発明は、看護師の行為をモニタしてモニタデータを得るモニタ手段をさらに備え、状況検出手段はモニタデータに基づいて状況を検出する、請求項1または2記載の看護事故警告システムである。
【0015】
請求項4の発明は、少なくとも看護業務における公理を記憶するとともに、その公理の成立に影響を与える仮説データを記憶する第2記憶手段をさらに備え、予測手段は、モニタ手段から得られるモニタデータに基づいて仮説データを参照して公理が成立するかどうかで事故の可能性を予測する、公理成立判断手段を含む、請求項3記載の看護事故警告システムである。
【0016】
請求項4の発明では、たとえば実施例の知識データベース36中の推論用データベース40が第2記憶手段であり、この第2記憶手段には、公理データ領域42aと仮説データ領域42bとが設けられ、それぞれに、公理や仮説データが設定されている。実施例のサーバ12であってよい、予測手段は、モニタ手段から得られるモニタデータに基づいてその仮説データを参照して、患者に対する処置の理想状態を結果的に得るための公理が成立するかどうかで事故の可能性を予測する。
【0017】
請求項5の発明は、インシデントレポートを分析して少なくとも状況、結果および頻度のデータを含む分析表を用いて看護事故に対して警告を行なう看護事故警告方法であって、分析表に挙げられている状況が発生したかどうかを検出する状況検出ステップ、状況検出ステップによって検出した状況について分析表を参照して頻度が高いかどうか判断する頻度判断ステップ、頻度判断ステップによって頻度が低いと判断したとき事故を起すかどうか予測する予測ステップ、および予測ステップによって事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、予測手段によって事故の可能性があると予測したときは警告を発する警告ステップを含む、看護事故警告方法である。
【0018】
請求項6の発明は、インシデントレポートを分析して少なくとも状況、結果および頻度のデータを含む分析表を記憶手段に記憶したコンピュータによって看護事故に対して警告を行なう看護事故警告プログラムであって、コンピュータに、分析表に挙げられている状況が発生したかどうかを検出する状況検出ステップ、状況検出ステップによって検出した状況について分析表を参照して頻度が高いかどうか判断する頻度判断ステップ、頻度判断ステップによって頻度が低いと判断したとき事故を起すかどうか予測する予測ステップ、および予測ステップによって事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、予測手段によって事故の可能性があると予測したときは警告を発する警告ステップを実行させる、看護事故警告プログラムである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、頻度が低いときに、事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、事故の可能性があると予測したときだけ警告するようにしたので、看護師が「警告慣れ」になることはない。したがって、看護師がシステムからの警告を常に真摯に受け止める環境になるため、看護事故の発生が効果的に抑制できる。
【0020】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1を参照して、この発明の一実施例である看護事故警告モニタシステム10は、たとえば病院に適用され、サーバ12を含む。このサーバ12は、有線或いは無線による通信回線(ネットワーク)14を介して複数の看護師用端末(以下、単に「端末」という。)16および複数のステーション18に接続される。端末16は、パーソナルコンピュータ或いはワークステーションのようなコンピュータであり、看護師毎に割り当てられる。たとえば、端末16は看護師の詰所などに設置される。ただし、1台の端末16を数人の看護師で使用する場合もあり得る。複数のステーション18は、それぞれ、入院患者を収容する病棟内であり、廊下、病室(入り口、ベッド或いはその近傍)および看護師の詰所などの所定位置に配置され、無線通信可能なウェアラブルセンサユニット(以下、単に「センサユニット」という。)20の識別情報を取得し、サーバ12に送信する。複数のセンサユニット20は、それぞれ、看護師に割り当てられ(装着され)、センサユニット20の識別情報は、無線通信可能な範囲(たとえば、半径3〜5メートル)に存在するステーション18によって検出される。また、ステーション18とセンサユニット20とは互いに通信可能であるため、センサユニット20は、無線通信可能な範囲に存在するステーション18の識別情報(ステーションID)を検出する。図示は省略するが、センサユニット20は、センサユニット20同士で無線通信することが可能であるため、無線通信可能な範囲に存在する2以上のセンサユニット20同士で、互いの識別情報を検出することもできる。また、センサユニット20は、無線LANによってネットワーク14に直接接続される場合もある。
【0022】
図2はサーバ12の具体的な構成を示すブロック図であり、この図2を参照して、サーバ12には、図1では省略したが、複数の対物センサ22、複数の集音マイク24、および複数のビデオカメラ26などが接続される。
【0023】
図示は省略するが、この実施例では、複数の対物センサ22は、体温計、血圧計、注射器、点滴注射器(注入器)、血液採取用試験管、検尿コップなどの医療器具を格納してある格納箱の取り出し部分やナースコール端末などに設置され、それらの医療器具等についての使用(取り出し)の有無を検知する。ただし、これらの医療器具等には、タグ情報やバーコードのような識別情報を付加しておき、タグ情報やバーコードを読み取ることにより、その使用の有無を検出するようにしてもよい。
【0024】
また、複数の集音マイク24は、入院患者を収容する病棟内であり、廊下および病室(ベッド或いはその近傍)などに設置され、周囲音を集音する。
【0025】
なお、複数のビデオカメラ26は、看護師の行動を記録するために用いられ、このビデオカメラ26からの動画および/または静止画のデータがサーバ12に蓄積される。ただし、そのようなカメラ26は、たとえば、看護詰め所、廊下、病室などに設けられる。
【0026】
また、図1では省略したが、サーバ12には、複数のデータベース(データベース)が接続される。具体的には、看護師データベース28、病棟イベントデータベース30、所在情報データベース32、電子カルテデータベース34および知識データベース36が接続される。
【0027】
看護師データベース28は、看護師の一日の業務おける行動についてのデータ(看護師データ)を看護師毎に記録する。看護師データには、たとえば、ラベルとして看護師名が記述され、看護師名の横に日付が記述される。看護師名および日付の下側には、当該看護師の看護業務に関する項目(内容)が記述される。つまり、看護業務の開始時刻、看護業務の終了時刻、看護業務の対象患者、看護業務の内容、看護業務における歩数、看護業務における傾斜(上半身(上体)を傾ける)角度の平均値および医療ミス等の業務における事故(アクシデント・インシデント)がそれぞれ記述される。このような看護師データでは、基本的には、センサユニット20で計測されるデータから取得される。
【0028】
病棟イベントデータベース30は、複数のセンサすなわち上述した複数の対物センサ22から得られる対物検知データ、複数の集音マイク24から得られる音データおよびビデオカメラ26から得られる画像データ(これらのデータをまとめて「病棟イベントデータ」という。)を記録する。対物検知データには、検知する対象となる医療器具等の名称のような識別情報がタグとして付される。音データには、集音マイク24の設置場所を示す識別情報がタグとして付される。画像データには、ビデオカメラ26の設置場所を示す識別情報がタグとしてとして付される。つまり、対物検知データから検知対象物を特定することができ、音データや画像データのタグから集音したり画像を取得した場所を特定することができる。
【0029】
さらに、サーバ12は、情報のような病棟イベントデータを取得した時間(時間データ)を、内蔵される時計回路12aから取得して、当該病棟イベントデータに付加する。
【0030】
たとえば、対物検知データの入力があると、サーバ12は当該対物検知データに時間データを付加して、病棟イベントデータベース30に記録する。集音マイク24は、たとえば、物が落下したときに生じる音や、人間が発した大声などを集音することを目的とするため、所定のレベル以上の音が入力されたときに、当該音に対応する音データがサーバ12に入力され、サーバ12は当該音データに時間データを付加して、病棟イベントデータベース30に記録する。ただし、基本的にはタイムラプス(間欠記録)ではあるものの、時系列的に画像データが蓄積される。
【0031】
所在情報データベース32には、看護師についての所在情報のデータ(所在情報データ)が記録される。後で詳細に説明するが、所在情報データは、看護師のそれぞれが装着するセンサユニット20に割り当てられたタグ情報のような識別情報(看護師ID)と、当該看護師IDを検出したステーション18のタグ情報すなわち識別情報(ステーションID)とを時系列に従って記録したデータである。また、上述したように、ステーション18とセンサユニット20とは互いに通信するため、所在情報データは、センサユニット20で検出したステーションIDを時系列に従って記録したデータも含む。さらに、上述したようにセンサユニット20同士は無線通信可能であり、各センサユニット20に割り当てられた看護師IDと、当該センサユニット20と無線通信したセンサユニットの看護師IDとを時系列に従って記録したデータも含まれる。この所在情報データによって、看護師の所在(行動)を知ることができる。たとえば、何時何分何秒にどこ(病室、詰所または廊下など)に居たかを知ることができ、また、何時何分何秒にどの看護師と一緒に居たか或いはすれ違ったか等を知ることができる。
【0032】
電子カルテデータベース34には、現在入院中或いは治療中の患者についての電子カルテが記録される。図示は省略するが、この電子カルテは、医師等が記載するカルテの内容から必要な事項を抽出するとともに、必要な事項を追加して、電子データにしたものである。たとえば、電子カルテには、患者名、担当看護師名(看護師カテゴリ番号)、性別、病名、病状、処方(どのような注射や点滴、あるいは投薬をするかという処方)、リハビリの状況、入院暦、患者に対する注意事項などの情報のデータ(テキストデータ)が記述されるとともに、このテキストデータに当該患者についての患者カテゴリ番号がラベルとして付される。したがって、患者が特定されると、その患者カテゴリ番号に応じて、当該患者についての電子カルテを特定することができる。
【0033】
第1記憶手段や第2記憶手段として機能する知識データベース36には、図3および図4に示すデータベースが蓄積されている。
【0034】
図3に示すインシデントレポート分析表38は、インシデントレポート(看護師等から報告される、医療看護業務に関する何らかのミスや誤った業務行為のこと)を分析した結果をテーブル形式にまとめたものであり、状況(または要因)とそれによって生じた結果を含む。さらに、第1記憶手段としてのこの分析表38には、必要に応じて、その結果を生じる前提条件を記録する。たとえば、環境が変わると誤った行為が行なわれる結果になるが、それは、環境に順応できていない、という前提条件の下に生じた結果であり、環境に順応できていれば、誤った行為を行うこともない。たとえば、それぞれの病院にはそれぞれのシステムがあるが、他の病院からきた看護師は、前の病院でのルールがそのまま使えると思い込んだ結果、誤った行動をする。
【0035】
この分析表38において特徴的なことは、上述のような状況や結果の他に、頻度のデータを併せて記録していることである。ここで、「頻度」とは、事故の起きる一般的傾向のことであり、たとえば、看護師のある行動ないし行為またはそれによる状況が事故につながる可能性が高い場合には、その状況は頻度が高いといい、必ずしも事故につながるものではないが、事故の可能性がまったくないというものでもない場合を、その状況は頻度が低いという。
【0036】
この図3に示す、頻度データ付インシデントレポート分析表38に挙げた結果、すなわち「誤った行為」、「伝達の誤り」、「誤った作業」などはすべて、頻度の高低はあるものの、看護事故につながるものである。したがって、後に説明するセンサユニット20によってこの表に挙げた状況または要因を検出またはモニタしたときには、サーバ12(図1)は、警告を発する。ただし、頻度が低い場合でもすべて警告を発すると、警告慣れが生じて好ましくないので、この実施例では、頻度が高いときには必ず警告を発するが、頻度が低いときには、事故が起きるかどうか予測しまたは推論(abduction:アブダクション)を行い、事故が予測できるときだけ、警告を発することにしている。
【0037】
このような予測または推論のために、図4に示す、推論用データベース40が利用される。この推論用データベース40は、第2記憶手段として、図2に示す知識データベース36に設定されている。
【0038】
推論用データベース40には、公理(該当の患者に対する処方または処置の理想状態が必然的に得られる事象、行為、または要素などとその理想状態の因果律、さらにもっと一般的に言えば、どのような場合でも関係が崩れることがない、そのような関係のことである)を設定しておくための公理データ領域42aと、仮説(モニタ手段やRFIDなどで観測またはモニタ可能な事象、行為、要素など、可変なもの、同時に成り立たない可能性があるもの(イベント))を設定しておく仮説データ領域42bとが設けられる。
【0039】
図4の公理データ領域42aに例示されている3つの公理について、ここで説明する。ただし、「∧」は論理であり「and」を示す。
【0040】
最初の公理は、変数項としてコンテンツ(X)(X:変数)を検出し、イベントとして蒸留水を検出し、別のイベントとして看護師が注射をしようとしていことを検出したとき、そのときの患者に対する処置の理想状態が達成できることを示している。Xは変数であるが、たとえば、Diamoxという注射用薬剤であるとすると、Diamox注射という、その患者にとっての理想状態が実現できることを示す。
【0041】
公理の2番目は、イベントとして、アミノフリードパックを検出し、その輸液パックを混注することによって、コンテンツ(X)、X=アミノフリードが検出できるので、行為(do点滴)によって、そのときの患者に対する処置の理想状態(アミノフリードの点滴)が達成できることを示している。
【0042】
例示の最後の公理は、変数Xとインシュリンとのミキシングを検出し、さらに、コンテンツ(Z)=(抑圧剤インシュリン混合)をモニタすれば、行為(do点滴)によって、そのときの患者に対する処置の理想状態(インシュリン混合の点滴)が達成できることを示している。
【0043】
なお、仮説データ領域42bの各事象、行為、ないしは要素は、すべて、モニタ手段でモニタできる。たとえばコンテンツ(X:X=変数)は看護師がたとえば薬品棚から取り出したものを、たとえばRFID(赤外線タグ)で検出するか、さらにはビデオカメラ26で取得した画像データを分析または解析することによって、検出することができる。
【0044】
また、看護師の行為「do…」も同様に、ビデオカメラ26からの画像データの分析によって、あるいはRFIDのデータから検出することができる。
【0045】
その他、「蒸留水」、「Diamox」、「生理食塩水」などのイベントも同様にして検出することができる。
【0046】
ここで、モニタ手段の一部として機能するウェアラブルセンサユニット20の詳細なブロック図が図5に示される。
【0047】
この図5を参照して、センサユニット20はCPU44を含む。CPU44には、A/D変換器46,48,エンコーダ50,非接触センサ52,インターフェイス54,カードスロット56,時計回路58,DIPスイッチ60,無線送信機62および無線受信機64が接続される。A/D変換器46には歩数計66が接続され、A/D変換器46は、歩数計66から入力される歩数をディジタルデータ(バイナリデータ)に変換してCPU44に入力する。また、A/D変換器48には傾斜角センサ68が接続され、A/D変換器48は、傾斜角センサ68から入力される傾斜角(角度)をディジタルデータ(バイナリデータ)に変換してCPU44に入力する。エンコーダ50にはマイク70が接続され、エンコーダ50は、マイク70から入力される音声信号をMP3のような圧縮音声データ(以下、単に「音声データ」という。)に変調してCPU44に入力する。このように、音声信号を圧縮変調するのは、後述するメモリカード72の容量を考慮したためであり、このような記録媒体の容量を無視できる場合には、単にディジタルデータに変換するだけでもよい。
【0048】
非接触センサ52としては、焦電センサを用いることができ、CPU44は非接触センサ52からの入力に応じてマイク70をオン/オフする。この実施例では、非接触センサ52すなわち焦電センサの前で、看護師が手を2回上下させると、その検出信号がCPU44に入力され、これに応じて、CPU44はマイク70をオンし、その後、看護師が焦電センサの前で、手を2回上下させると、マイク70をオフする。ただし、CPU44は、看護師の操作によらないで、所定時間(10秒)が経過した場合にもマイク70をオフするようにしてある。この実施例では、マイク70としては、ヘッドセットタイプのものが用いられ(図6参照)、また、指向性を有する。これは、看護師の音声を正確に入力するとともに、患者のプライバシーを守るためである。
【0049】
インターフェイス54は、LAN(無線LAN)アダプタのようなインターフェイスであり、これにより、センサユニット20はネットワーク14に直接接続される。ただし、RS232CやUSBのようなインターフェイスを設けて、ケーブルを用いることにより、サーバ12或いは端末16のような他の端末に通信可能に接続することもできる。
【0050】
カードスロット56には、MMCのようなメモリカード72が着脱自在に設けられる。このメモリカード72には、このセンサユニット20で検出或いは取得されるデータ(歩数データ、傾斜角データ、音声データ)が記憶される。また、メモリカード72に記憶されたデータは、メモリカード72をサーバ12或いは端末16のような他の端末に装着することにより、当該他の端末に移動(コピー)することができる。
【0051】
時計回路58は、日付および時刻を計時する回路であり、CPU44は、時計回路58から取得した時間データを、各センサ(52,66、68、70)から取得したデータや看護師IDのデータに付加して、メモリカード72に記憶する。また、必要に応じて、時間データを付されたデータは、インターフェイス54を介してネットワーク14に接続されるサーバ12または端末16或いはその両方に出力される。
【0052】
DIPスイッチ60は、たとえば8ビットで構成され、各ビットのオン/オフを切り替えることにより、0〜255の間で数値を設定することができる。この数値が識別情報すなわち看護師IDであり、各センサユニット20で異なる値が設定される。CPU44は、看護師IDをラベルとして付するとともに、時間データを付加したデータを、メモリカード72に記憶したり、サーバ12に転送したりする。
【0053】
ただし、DIPスイッチ60に代えて、メモリカード72に看護師IDを記憶させておくようにすることもできる。また、DIPスイッチ60に代えて、看護師IDを記憶したROMなどを設けておくようにすることもできる。
【0054】
無線送信機62は、CPU44の指示に従って、DIPスイッチ60または別の手段によって設定された看護師IDを所定の周波数による電波(微弱電波)で送信する。無線受信機60は、無線通信可能な範囲に存在する他のセンサユニット20から送信される微弱電波を受信し、看護師IDに復調し、復調した看護師IDについてのデータをCPU44に入力する。
【0055】
ここで、ステーション18は、上述したように、センサユニット20の看護師IDを検出し、検出した看護師IDを、ネットワーク14を介してサーバ12に送信する。また、ステーション18にも識別情報(ステーションID)が割り当てられ、上述したように、このステーションIDがセンサユニット20によって検出される。したがって、たとえば、ステーション18は、センサユニット20の一部の回路コンポーネントを用いることにより、構成することができる。具体的には、ステーション18は、CPU44,インターフェイス54,DIPスイッチ60,無線送信機62および無線受信機64によって構成される。
【0056】
なお、DIPスイッチ60に代えて、ステーションIDを記憶したROMを設けるようにしてもよい点は、センサユニット20の場合と同様である。
【0057】
上述したような構成のセンサユニット20は、各看護師に装着される。たとえば、図6に示すように、非接触センサ52,歩数計66,傾斜角センサ68およびマイク70以外の回路コンポーネントはボックス(筐体)74に収容され、ボックス74は看護師の腰部(ベルト部分)に装着される。また、非接触センサ52および傾斜角センサ68は、ペン型のケース76に収容され、看護師の衣服(白衣)の胸ポケットに挿すように収納される。ただし、図面では、分かり易く示すために、ケース76を胸ポケットの外部に記載してある。また、歩数計66は、上述のボックス74と同様に看護師の腰部に装着される。さらに、マイク70は看護師の頭部に装着される。
【0058】
なお、図6においては省略するが、非接触センサ52は接続線を用いてボックス74内のCPU44に接続され、歩数計66,傾斜角センサ68およびマイク70は、それぞれ、接続線を用いてボックス74内のA/D変換器46,A/D変換器48およびエンコーダ50に電気的に接続される。ただし、接続線を用いずに、ブルートゥースのような近距離無線によって接続するようにしてもよい。つまり、電気的に接続されればよいのである。
【0059】
また、図6に示すように、看護師は、たとえば、白衣の前ポケットに携帯型のコンピュータ(この実施例では、PDA)78を収納し、所持(携帯)している。図示は省略するが、PDA78は、無線LANによって、図1に示したネットワーク14に接続可能な構成にされる。PDA78は既に周知であるため、その構成および動作等の詳細な説明は省略することにする。なお、図面では、分かり易くするため、前ポケットの外部に示してある。
【0060】
たとえば、看護師の操作によって、センサユニット20の主電源がオンされると、CPU44は、傾斜角センサ68からの入力を所定時間(この実施例では、500ms)毎に検出する。上述したように、マイク70は、非接触センサ52の入力に応じて、そのオン/オフが制御される。また、CPU44は、マイク70がオフされているとき、歩数計66からの入力を有効化する。
【0061】
したがって、CPU44は、歩数計66によって計測された歩数のデータ(歩数データ),傾斜角センサ68によって計測された角度のデータ(角度データ)およびマイク70で検出された音声のデータ(音声データ)を、識別してメモリカード72に記憶するとともに、無線LANによって他の端末(この実施例では、サーバ12)に送信する。また、CPU44は、歩数データ、角度データおよび音声データを記録する場合には、各データの取得開始時刻および取得終了時刻についての時間データを時計回路60から取得し、各データに当該時間データを付すようにしてある。
【0062】
なお、ウェラブルセンサユニット20によって取得した上述のような行動データ、さらには先に述べたビデオカメラ26などで取得した行動データは、最終的には、すべてサーバ12およびそれぞれの関連データベース(図2)に記録される。
【0063】
たとえば、看護師nが患者kさんの患者訪問を行う場合には、看護師nが「患者kさんの(患者)訪問に行きます。」と発話した内容、患者kさんの病室を往復する間の歩数および当該病室を往復する間に上半身を傾斜した際の角度(傾斜角度)のそれぞれについてのデータが記録される。また、このデータに,看護業務の開始時刻および終了時刻の時間データが付加される。
【0064】
このような音声,歩数および傾斜角度についてのデータおよびこれらに付される時間データ(以下、これらをまとめて「計測データ」ということがある。)は、看護師nの1日の業務のすべてについて取得される。上述したように、センサユニット20は、無線LAN(ネットワーク14)によって接続され、したがって、上述のようにして取得された1日の業務についての計測データ(業務計測データ)は、センサユニット20から端末16に送信(転送)することができる。また、メモリカード72を端末16に着脱自在にすれば、業務計測データを直接端末16に入力することができる。
【0065】
端末16は転送された業務計測データを受信し、たとえば、看護師の操作によって、その業務計測データはサーバ12にアップロードされる。サーバ12は、アップロードされた業務計測データに基づいて、アクシデント・インシデントを除く看護師データを作成する。つまり、看護師を特定し、その後、各計測データからアクシデント・インシデントを除く看護師データの項目を特定(決定)して、記録する。
【0066】
ただし、業務計測データは、センサユニット20からネットワーク14を介してサーバ12に直接アップロードされるようにしてもよい。
【0067】
たとえば、看護師は、センサユニット20から転送される業務計測データに付された看護師IDに基づいて、サーバ12側で容易に特定することができる。
【0068】
また、計測データに含まれる音声データは、音声認識処理を施され、認識した音声から患者名や当該患者に対して行った看護業務が特定される。つまり、サーバ12は、音声認識機能を備えており、また、音声認識のための辞書すなわち複数の発話(音声)に対応する音声データを記録したメモリ(たとえば、ハードディスクやROM)を有している。ただし、看護師の音声データは、一例として、看護師データベース28に記録される。
【0069】
図7は図1実施例においてサーバ12の動作を示すフローチャートであり、このフローチャート(プログラム)は、一例として、サーバ12の内部メモリ(ROMまたはRAM:図示せず)に設定されている。
【0070】
ここで、この図7を参照して、図1実施例の看護事故警告システム10の特にサーバ12の動作について説明する。サーバ12は、動作を開始した後、ステップS1で、先の図3の分析表38に挙げた状況(または要因)を検出したかどうか判断する。このような状況が発生したかどうかは、ビデオカメラ26やセンサユニット20を含むモニタ手段からの画像データ、音声データ、さらにはRFIDデータなどから検出できる。たとえば「作業の中断」という状況は次のように判断できる。RFIDデータで看護師が注射器を持ったことがわかり、該当する看護師を撮影しているビデオカメラ26からの画像データを解析すれば、看護師がその注射器で注射の準備をしていることがわかる。集音マイク24の音声データを解析することによって、たとえば医師か患者かに呼びつけられたことがわかる。その後、歩数計66のデータを見れば、誰かに呼ばれた時刻より後に、看護師が歩行したことが検出でき、したがって、先の作業(注射の準備)が中断したことが検出できる。分析表38にリストアップされている他の「状況」についても、同様にして、検出することができる。
【0071】
また、たとえば、「似た苗字の患者」の存在、「同姓同名の患者」の存在、あるいは「兄弟(姉妹)」の患者の存在などは、電子カルテ34からのデータで判断できる。
【0072】
サーバ12がステップS1で、分析表38に挙げられた状況を検出した後、サーバ12は、続くステップS3で、その分析表38を参照して、ステップS1で検出した「状況」による事故の発生頻度が高いのか低いのか判断する。検出した状況の結果が、たとえば誤った行為、伝達の誤りなどであれば看護事故につながりやすいので、このステップS3で“YES”が判断され、たとえば作業の中断や作業の交代などの状況の場合には頻度が低いので、ステップS3では“NO”が判断される。
【0073】
ステップS3で“YES”のときには、看護事故が発生する可能性が高いので、サーバ12は、ステップS5において、図1に示すネットワーク14を介して看護師用端末16に警告を送る。ただし、看護師端末16を当該看護師が見ていないことも考えられるので、そのときには、その看護師端末16から、もしくはサーバ12から直接、看護師のヘッドセット(図5および図6のマイク70と図示しないイヤホンとが一体化させたもの)のイヤホンを利用して看護師に音声で警告を与えるようにしてもよい。また、ヘッドセットに代えて、またはそれと併用して、たとえば振動付き腕時計型表示器を看護師に装着させ、その表示器に看護師端末16からか、もしくはサーバ12から直接警告を送るようにしてもよい。
【0074】
ステップS3で“NO”を判断した後、つまり、ステップS1で検出した状況から事故の発生の頻度が低いとき、サーバ12は、直ちに無条件に警告を発するのではなく、看護事故につながる可能性に応じて、警告を発するようにする。つまり、サーバ12は、続くステップS7、S9、およびS11を実行することによって、当該「状況」から看護事故が起きる可能性があるかどうか予測または推論し、その結果、事故が予測できるときには警告する。
【0075】
具体的には、まずステップS7において、サーバ12は、図4に示す公理データ領域42aを参照して、そのときの患者に対する処置の理想状態、たとえば図4の公理データ領域42aの右端の項目を調べる。そして、ステップS9で、そのときにモニタ手段当から入力されている看護師の行動データやその他イベント(事象)を、図4に示す仮説データ領域42bからピックアップする。そして、ステップS11において、そのとき生じているイベントから上記理想状態が成立するかどうか、つまり、公理が証明できるかどうか判断する。ここで、公理が証明できれば、事故の発生の可能性はなく、したがって、そのまま終了する。しかしながら、ステップS11で、サーバ12が、そのときモニタしているイベントでは理想状態は成立しないと判断したときは、看護事故の可能性があるので、続くステップS13(第1警告手段)で、先のステップS5(第2警告手段)と同様にして、看護師に警告を発する。
【0076】
ただし、第1警告手段では、ステップS11において“YES”を判断したとき、つまり事故を予測しないときには、警告を発しない。つまり、第1警告手段では、予測結果によって、警告を発したり、しなかったりする。
【0077】
以下に、3つの具体例を用いて、このシステム10の動作について説明する。
【0078】
具体例1(核医学検査はキャンセルが多いので、蒸留水のみ注射器に吸って準備し、ダイアモックス(Diamox)は直前に溶解しようと思い、箱から出して注射器のそばにおいた。検査が順々に進められていくうちに、溶解してあるものと思い込んでしまって、医師に渡してしまった。)
この第1の具体例では、図7のステップS1で分析表38中の状況「作業の中断」が検出される。看護行為は上で説明したように常時モニタされているので、モニタ手段からのデータに基づいてサーバ12が「作業の中断」を検知することができる。
【0079】
看護師の作業の中断が生じると、図3の分析表38にもあるとおり、看護事故につながる可能性がある。しかしながら、頻度が「低」であるので、いきなり警告することはしないで、図7のステップS7−S11を実行して、本当に事故が起こるかどうか予測する。
【0080】
この具体例の場合、看護メモや電子カルテを参照することにより、図7のステップS7で、該当の患者(患者ID=123456)に対する処置の理想状態は「注射(Diamox)」であることがわかる。そして、図7のステップS9で、その理想状態「注射(Diamox)」を現在得られているモニタデータを用いて仮説集合から予測する。このステップS9でのモニタデータ(イベント)は上述のようにモニタ手段から獲得できる。そして、ステップS11で、その仮説集合から理想状態が説明できるかどうか、つまり公理が成立するかどうか推論する。
【0081】
ここで、「蒸留水」、「do注射」のモニタデータだけが得られた場合を考える。上述の理想状態「注射(Diamox)」の達成のためには、図4からわかるとおり、仮説データとしてcontent(X)、X=Diamoxが必要であるが、Diamoxはモニタされていないので、content(Diamox)が支持できない。したがって、理想状態が説明できない。したがって、図7のステップS11では、看護事故の生じる可能性があるので、あるから“NO”を判断することになる。したがって、ステップS13で警告が看護師に送られ、Diamoxを使用しないと看護事故を起すと警告する。
【0082】
この具体例の場合に、イベント(仮説データ)として「生理食塩水」、「蒸留水」、「do注射」がモニタされたときにも、Diamoxはモニタされていないので、ステップS11で“NO”を判断し、ステップS13で、看護師に、たとえば生理食塩水の代わりにDiamoxを使わないと事故を起す、と警告する。
【0083】
ただし、「Diamox」、「蒸留水」、「do注射」のイベントがモニタされたときには、content(X)においてXにDiamoxが代入できるため、ステップS11で、理想状態の説明が可能となる。したがって、ステップS13で“YES”となり、看護事故の可能性がないので、「作業の中断」という看護事故につながる状況を検出したにも拘らず、警告はしない。
【0084】
具体例2(IVHメニューの変更があり、主治医が準備を行い、看護師が中心静脈注射のパックの更新をした。上層と下層とが混ぜられておらず、深夜勤務者に指摘されて気付く。これらの輸液パックは、上室がアミノ酸、下室が糖・電解質で、開通しない場合には、11%の高カロリの糖輸液が行なわれることになり、危険な状態を惹起する。)
この第2の具体例では、図7のステップS1で分析表38中の状況「作業の交代」が検出される。看護行為は上で説明したように常時モニタされているので、モニタ手段からのデータに基づいてサーバ12が「作業の交代」を検知することができる。
【0085】
看護師の作業の交代が生じると、図3の分析表38にもあるとおり、看護事故につながる可能性がある。しかしながら、頻度が「低」であるので、いきなり警告することはしないで、図7のステップS7−S11を実行して、本当に事故が起こるかどうか予測する。
【0086】
この具体例2の場合、看護メモや電子カルテを参照することにより、図7のステップS7で、該当の患者(患者ID=1234567)に対する処置の理想状態は「点滴(アミノフリード)」であることがわかる。そして、図7のステップS9で、その理想状態「点滴(アミノフリード)」を現在得られているモニタデータで予測する。このステップS9でのモニタデータは上述のようにモニタ手段から獲得できる。そして、ステップS11で、その仮説集合から理想状態が説明できるかどうか、つまり公理が成立するかどうか推論する。
【0087】
ここで、「アミノフリードパック」、「do点滴」のイベントだけがモニタされた場合を考える。上述の理想状態「点滴(アミノフリード)」の達成のためには、図4からわかるとおり、混注(アミノ酸、糖・電解質)の支持が必要であるが、ここではそれを支持できるイベントがモニタされていない。したがって、理想状態が説明できない。したがって、図7のステップS11では、看護事故の生じる可能性があると判断し、ステップS13で、ちゃんと混注(アミノ酸、糖・電解質)をしないと看護事故が発生する旨警告が看護師に送られる。
【0088】
この具体例の場合に、イベント(仮説データ)として「アミノフリードパック」、「do点滴」、「混注(アミノ酸、糖・電解質)」がモニタされたときには、必要な仮説データが全てモニタされているので、ステップS11で、理想状態の説明が可能となる。したがって、ステップS11で“YES”となり、看護事故の可能性がないので、「作業の交代」という看護事故につながる状況を検出したにも拘らず、警告はしない。
【0089】
具体例3(ナースコールで作業が中断されたため、点滴注射準備にインシュリンを入れ忘れた。インシュリンは冷蔵庫にあった。定期血糖測定時に高血糖で気付いた。)
この第3の具体例では、図7のステップS1で分析表38中の状況「作業の中断」が検出される。作業の中断が生じると、図3の分析表38にもあるとおり、看護事故につながる可能性があるが、頻度が低いので、いきなり警告することはしないで、図7のステップS7−S11を実行して、本当に事故が起こるかどうか予測する。
【0090】
具体例3の場合、看護メモや電子カルテを参照することにより、図7のステップS7で、該当の患者(患者ID=12345678)に対する処置の理想状態は「点滴(インシュリン混合(抑圧剤)」であることがわかる。そして、図7のステップS9で、その理想状態「点滴(インシュリン混合(抑圧剤)」を現在得られている仮説データで予測する。そして、ステップS11で、その仮説集合から理想状態が説明できるかどうか、つまり公理が成立するかどうか推論する。
【0091】
ここで、モニタデータとして、「抑圧剤」、「do点滴」だけが得られた場合を考える。上述の理想状態「点滴(インシュリン混合(抑圧剤)」の達成のためには、図4からわかるとおり、インシュリン混合が必要であるが、ここではそれを支持できる仮説データ(イベント)がモニタされていない。したがって、図7のステップS11では、“NO”と、すなわち看護事故の生じる可能性があると判断し、ステップS13で、インシュリン混合(抑圧剤)を使わないと看護事故が発生する旨警告する。
【0092】
この具体例3の場合に、イベント(仮説データ)として、「do点滴」、「抑圧剤」、「ミキシング(インシュリン、抑圧剤)」がモニタされたときには、必要な仮説データが全てモニタされているので、ステップS11で、理想状態の説明が可能となる。したがって、ステップS11で“YES”となり、看護事故の可能性がないので、「作業の中断」という看護事故につながる状況を検出したにも拘らず、警告はしない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1はこの発明の看護事故警告システムの構成の一例を示す図解図である。
【図2】図2は図1に示すサーバおよびその付属部分の電気的な構成を示す図解図である。
【図3】図3は図2に示す知識データベースに設定されているインシデントレポート分析表の一例を示す図解図である。
【図4】図4は図2に示す知識データベースに設定されている公理データ領域と仮説データ領域とを示す図解図である。
【図5】図5は看護師に装着されるセンサユニットの電気的な構成の一例を示す図解図である。
【図6】図6は図5に示すセンサユニットを看護師に装着した様子を示す図解図である。
【図7】図7はこの実施例の動作を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0094】
10 …看護事故警告モニタシステム
12 …サーバ
16 …端末
18 …ステーション
20 …センサユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インシデントレポートを分析して少なくとも状況、結果および頻度のデータを含む分析表を記憶する第1記憶手段、
前記分析表に挙げられている状況が発生したかどうかを検出する状況検出手段、
前記状況検出手段によって検出した前記状況について前記分析表を参照して前記頻度が高いかどうか判断する頻度判断手段、
前記頻度判断手段によって頻度が低いと判断したとき事故を起すかどうか予測する予測手段、および
前記予測手段によって事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、前記予測手段によって事故の可能性があると予測したときは警告を発する第1警告手段を備える、看護事故警告システム。
【請求項2】
前記頻度判断手段によって頻度が高いと判断したとき警告を発する第2警告手段をさらに備える、請求項1記載の看護事故警告システム。
【請求項3】
看護師の行為をモニタしてモニタデータを得るモニタ手段をさらに備え、
前記状況検出手段は前記モニタデータに基づいて前記状況を検出する、請求項1または2記載の看護事故警告システム。
【請求項4】
少なくとも看護業務における公理を記憶するとともに、その公理の成立に影響を与える仮説データを記憶する第2記憶手段をさらに備え、
前記予測手段は、前記モニタ手段から得られるモニタデータに基づいて前記仮説データを参照して前記公理が成立するかどうかで前記事故の可能性を予測する、公理成立判断手段を含む、請求項3記載の看護事故警告システム。
【請求項5】
インシデントレポートを分析して少なくとも状況、結果および頻度のデータを含む分析表を用いて看護事故に対して警告を行なう看護事故警告方法であって、
前記分析表に挙げられている状況が発生したかどうかを検出する状況検出ステップ、
前記状況検出ステップによって検出した前記状況について前記分析表を参照して前記頻度が高いかどうか判断する頻度判断ステップ、
前記頻度判断ステップによって頻度が低いと判断したとき事故を起すかどうか予測する予測ステップ、および
前記予測ステップによって事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、前記予測手段によって事故の可能性があると予測したときは警告を発する警告ステップを含む、看護事故警告方法。
【請求項6】
インシデントレポートを分析して少なくとも状況、結果および頻度のデータを含む分析表を記憶手段に記憶したコンピュータによって看護事故に対して警告を行なう看護事故警告プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記分析表に挙げられている状況が発生したかどうかを検出する状況検出ステップ、
前記状況検出ステップによって検出した前記状況について前記分析表を参照して前記頻度が高いかどうか判断する頻度判断ステップ、
前記頻度判断ステップによって頻度が低いと判断したとき事故を起すかどうか予測する予測ステップ、および
前記予測ステップによって事故の可能性がないと予測したときは警告を発せず、前記予測手段によって事故の可能性があると予測したときは警告を発する警告ステップを実行させる、看護事故警告プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−59054(P2006−59054A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239151(P2004−239151)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「超高速知能ネットワーク社会に向けた新しいインタラクション・メディアの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】