説明

真核細胞をトランスフェクトするための固定化分解性カチオンポリマーを持つ固体表面

トランスフェクション試薬としての分解性ポリマーカチオンでコーティングされた固体支持体を含む細胞トランスフェクション/培養装置を開示する。本トランスフェクション/培養装置は、使用時まで室温で、都合よく貯蔵される。細胞トランスフェクションは、関心対象の核酸とトランスフェクトされるべき細胞とを、本トランスフェクション/培養装置に加えることにより、容易に達成される。細胞トランスフェクションは、本願に記載するトランスフェクション/培養装置を使用することにより、短時間で完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照により本明細書に組み入れられる米国仮特許出願第60/637,344号(2004年12月17日出願)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明の実施形態は、細胞トランスフェクションのための装置および方法に関する。具体的には、本発明の実施形態は、細胞トランスフェクション配合物、およびそのトランスフェクション配合物で処理された細胞培養装置に関する。処理された細胞培養装置は、室温で貯蔵することができ、簡単で迅速なトランスフェクション方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
遺伝子トランスフェクション法は、細胞内に核酸を導入するために使用することができ、遺伝子の調節および機能を研究するのに役立つ。大きなDNAセットをスクリーニングして興味深い性質を持つ産物をコードしているものを同定するために使用することができるハイスループットアッセイは、とりわけ有用である。遺伝子トランスフェクションとは、生物学的に機能的な核酸を、細胞(特に真核細胞)中に、核酸がその機能を細胞内で保つような形で送達し、導入することである。遺伝子トランスフェクションは、遺伝子調節、遺伝子機能、分子療法、シグナル伝達、薬物スクリーニング、および遺伝子治療研究に関係する研究に広く応用される。高等生物からの遺伝子のクローニングとカタログ化が続けられるなか、研究者は、遺伝子の機能を発見し、望ましい性質を持つ遺伝子産物を同定しようと努力している。ますます増大するこの遺伝子配列の収集には、遺伝子産物の特徴づけおよび遺伝子機能の解析、ならびに細胞生物学および分子生物学における他の研究領域に対する、体系的でハイスループットなアプローチの開発が要求される。
【0004】
遺伝子送達にはウイルス遺伝子担体および非ウイルス遺伝子担体がどちらも用いられてきた。ウイルスベクターは非ウイルス担体よりも高いトランスフェクション効率を持つことが示されているが、ウイルスベクターの安全性が、その利用可能性を損なっている(Verma I.MおよびSomia N.Nature 389(1997),pp.239−242;Marhsall E.Science 286(2000),pp.2244−2245)。非ウイルストランスフェクションがウイルスベクターの効率を示したことは未だかつてないが、ウイルスベクターと比較するとそれらは理論的に安全であることから、非ウイルストランスフェクション系はかなりの注目を集めてきた。加えて、ウイルスベクターの製造が複雑で費用のかかる工程であることも、インビトロでのウイルスベクターの応用を制限している。非ウイルス担体の製造は、ウイルス担体の製造と比較すると簡単で、費用効果も高いことから、合成遺伝子担体はトランスフェクション試薬として(インビトロ研究には特に)望ましいものになっている。
【0005】
大半の非ウイルスベクターは、外来遺伝物質の浸潤を防ごうとする細胞障壁を克服するために、ウイルスによる細胞侵入の重要な特徴を模倣する。非ウイルス遺伝子ベクターは、遺伝子担体バックボーンに基づいて、a)リポプレックス、b)ポリプレックス、およびc)リポポリプレックスに分類することができる。リポプレックスは核酸と脂質成分(通常はカチオン性)との集合体である。リポプレックスによる遺伝子導入はリポフェクションと呼ばれる。ポリプレックスは核酸とカチオンポリマーとの複合体である。リポポリプレックスは脂質成分およびポリマー成分をどちらも含む。そのようなDNA複合体は、多くの場合、細胞ターゲティング部分もしくは細胞内ターゲティング部分および/または膜不安定化成分、例えばウイルスタンパク質もしくはウイルスペプチドまたは膜破壊性合成ペプチドなどを含有するように、さらに修飾される。最近、細菌およびファージも、細胞中に核酸を導入するためのシャトルとして記載されている。
【0006】
大半の非ウイルストランスフェクション試薬は合成カチオン分子であり、カチオン上のカチオン部位と核酸上のアニオン部位との相互作用によって、核酸を「コーティング」すると報告されている。正に帯電したDNA−カチオン分子複合体は負に帯電した細胞膜と相互作用して、DNAが非特異的エンドサイトーシスによって細胞膜を通り抜けることを容易にする(Schofield,Brit.Microencapsulated.Bull,51(1):56−71(1995))。従来の遺伝子トランスフェクションプロトコールでは、ほとんどの場合、トランスフェクションの16〜24時間前に、細胞を細胞培養装置上に播種する。トランスフェクション試薬(例えばカチオンポリマー担体)およびDNAは、通常、別個のチューブで調製され、個々の溶液が培地(ウシ胎仔血清または抗生物質を含有しないもの)中に希釈される。次に、それらの溶液は、混合物を絶えずボルテックスしながら、一方の溶液を他方に注意深くゆっくりと加えることによって混合される。その混合物を室温で15〜45分間インキュベートすることにより、トランスフェクション試薬とDNAの間に複合体を形成させ、血清および抗生物質の残留物を取り除く。トランスフェクションに先だって、細胞培養培地を除去し、細胞を緩衝液で洗浄する。DNA−トランスフェクション試薬複合体を含有する溶液を細胞に加え、細胞を約3〜4時間インキュベートする。次に、トランスフェクション試薬を含有する培地は新鮮な培地で置き換えられる。最後に、1以上の特定時点で、細胞が解析される。これは明らかに時間のかかる手順であり、トランスフェクトすべき試料の数が非常に多い場合は特にそうである。
【0007】
従来のトランスフェクション手順には大きな問題がいくつか存在する。第1に、従来の手順は多大な時間を必要とし、トランスフェクション実験に使用すべき細胞または遺伝子試料が多い場合は特にそうである。また、一般的なトランスフェクション手順から導かれる結果は、必要な段階数が多いために、再現することが難しい。例えば、DNA−トランスフェクション試薬複合体の形成は、核酸および試薬の濃度および体積、pH、温度、使用する緩衝液のタイプ、ボルテックス操作の長さおよび速度、インキュベーション時間、ならびに他の因子による影響を受ける。同じ試薬および同じ手順に従うことはできるが、異なる結果が得られることもある。多段階手順から導かれる結果は、各段階での人為的誤差もしくは機械的誤差または他のばらつきによる影響を受けることが多い。加えて、トランスフェクション後に細胞培養培地を新しくすると、細胞が乱され、その結果、細胞の培養が行なわれている表面から細胞が剥離して、最終結果のばらつきおよび予測不能性をもたらすこともある。上述した全ての因子が理由となって、従来のトランスフェクション法では、高度に熟練した人がトランスフェクション実験またはトランスフェクションアッセイを行う必要がある。
【0008】
研究者は、より容易で、より費用効果の高い細胞トランスフェクション法を必要とし、多数の試料を効率よくトランスフェクトするために、ハイスループットな細胞トランスフェクション法が必要とされている。
【0009】
Sabatini(U.S.2002/0006664A1)は、ガラススライド上に沈着させたDNA含有組成物を記載している。しかしこの系では前もって沈着させたDNAによるトランスフェクションしかできない。これはこの系の大きな短所である。前もって沈着させたDNAによるトランスフェクションにしか対応していないため、すべての研究者がその研究者の望む核酸を使用できるとは限らない。
【0010】
参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2004/0138154A1号には、トランスフェクションが脂質ポリマーによって媒介される細胞培養/トランスフェクション装置が記載されている。やはり参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2005/0176132A1号には、カルシウム塩によるトラスフェクション可能な細胞培養装置が記載されている。
【0011】
参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2003/0215395A1号には、遺伝子送達に使用することができる分解性ポリマーが記載されている。
【0012】
上述のように、従来のトランスフェクションは、長時間かかる技術的に困難な手順である。一般的には以下の3段階が要求される:1)細胞培養プレートまたは細胞培養ディッシュに細胞を播種し、十分な集密度に達するまでインキュベートする;2)トランスフェクション試薬/核酸複合体を調製する;そして3)関心対象の核酸をトランスフェクション試薬と一緒に加え、さらなるインキュベーションを行う。2回のインキュベーション期間が必要であり、全ての段階を完了するには、通例、2日を超える時間がかかる。これに対して、本発明の実施形態は、1回のインキュベーション段階しか必要としない簡単な手順を提供する。予めトランスフェクション試薬でコーティングしておいた細胞培養装置により、関心対象の核酸および細胞培養物を相次いで加えることによるトランスフェクションが可能になる。次に、トランスフェクトされた細胞を同じ装置内で培養することができる。このように、細胞を細胞培養装置内でトランスフェクトして培養することができ、トランスフェクション段階の直後に細胞をさらに操作する必要がない。トランスフェクション効率は通常のトランスフェクションと同等であるが、操作に要する時間は1日以上短縮される。本発明の実施形態には、トランスフェクションアッセイの労力を著しく軽減すると共に、細胞毒性の低い容易な方法で、任意の関心対象核酸によるトランスフェクションを可能にする、トランスフェクション可能な細胞培養装置が含まれる。また、本発明のトランスフェクション可能な細胞培養装置は、室温で長期間貯蔵しても安定である。
【発明の開示】
【0013】
本発明の実施形態は、トランスフェクション試薬混合物でコーティングされた固体支持体を含む装置に向けられる。好ましくは、コーティング中のトランスフェクション試薬は、核酸などの生体分子と複合体を形成していない。好ましくは、固体支持体がポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂またはガラスである。好ましくは、コーティングが固体支持体の表面上にある。好ましくは、トランスフェクション試薬のコーティング量が約0.1〜約100μg/cmである。好ましくは、トランスフェクション剤がポリマーである。より好ましくは、ポリマーがカチオンポリマーである。好ましくは、トランスフェクション剤が分解性カチオンポリマーを含む。より好ましくは、分解性カチオンポリマーが、カチオン化合物またはカチオンオリゴマーを分解性リンカーで連結することによって製造される。トランスフェクション剤は、分解性カチオンポリマーと非分解性カチオンポリマーの両方を含んでもよい。好ましくは非分解性カチオンポリマー対分解性カチオンポリマーの比は、重量比で1:0.5〜1:20(非分解性:分解性)である。
【0014】
好ましい実施形態では、トランスフェクション試薬が、複数のカチオン分子と、前記カチオン分子を分枝状に連結する少なくとも一つの分解性リンカー分子とを含み、前記カチオン分子は、
(i)式(A)もしくは(B)のカチオン化合物またはその組み合わせ:
【化3】

【化4】

[式中、Rは、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、式:−(CH−の直鎖アルキレン基(式中、aは2〜10の整数である)であり;
は、式:−(C2b)−の直鎖または分岐鎖アルキレン基(式中、bは2〜10の整数である)であり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、式A、またはもう一つの式Bであり;
は、式:−(C2c)−の直鎖または分岐鎖アルキレン基(式中、cは2〜10の整数である)であり;そして
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、式A、またはもう一つの式Bである];
(ii)末端1級または2級アミノ基を持つカチオン性樹状または分岐ポリアミドアミン(PAMAM);
(iii)カチオン性ポリアミノ酸;または
(iv)カチオン性多糖質(polycarbohydrate);
から選択され、前記分解性リンカー分子は式:
A(Z)
[式中、Aは少なくとも一つの分解可能な結合を有するスペーサー分子であり、Zはアミノ基と反応する反応性残基であり、dは2以上の整数であって、AおよびZは共有結合によって結合される]
によって表される。
【0015】
好ましい実施形態では、カチオン化合物またはカチオンオリゴマーが、ポリ(L−リジン)(PLL)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリプロピレンイミン(PPI)、ペンタエチレンアミン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ビス(2−アミノプロピル)−エチレンジアミン、スペルミン、スペルミジン、N−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N−(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン、トリ(2−アミノエチル)アミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、樹状ポリアミドアミン(PAMAM)、キトサン、またはポリ(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(PDMAEMA)である。
【0016】
好ましい実施形態では、リンカー分子が、ジ−および多価−アクリレート、ジ−および多価−アクリルアミド、ジ−および多価−イソチオシアネート、ジ−および多価−イソシアネート、ジ−および多価−エポキシド、ジ−および多価−アルデヒド、ジ−および多価−アシルクロリド、ジ−および多価−スルホニルクロリド、ジ−および多価−ハライド、ジ−および多価−無水物、ジ−および多価−マレイミド、ジ−および多価−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、ジ−および多価−カルボン酸、またはジ−および多価−a−ハロアセチル基である。
【0017】
好ましい実施形態では、リンカー分子が、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2,4−ペンタンジオールジアクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジオールジアクリレート、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、または少なくとも三つのアクリレート側基もしくはアクリルアミド側基を持つポリエステルである。
【0018】
好ましい実施形態では、ポリマーの分子量が、500da〜1,000,000daである。より好ましくは、ポリマーの分子量が、2000da〜200,000daである。
【0019】
好ましい実施形態では、カチオン化合物またはカチオンオリゴマーの分子量が、50da〜10,000daである。好ましい実施形態では、リンカー分子の分子量が、100da〜40,000daである。
【0020】
好ましくは、固体支持体は、ディッシュの底、マルチウェルプレート、または連続表面である。
【0021】
一部の好ましい実施形態では、トランスフェクション剤が共有結合によって核酸と結合する。他の好ましい実施形態では、トランスフェクション剤が非共有結合的に核酸と結合する。
【0022】
好ましい実施形態において、本装置は、室温で少なくとも5ヶ月はトランスフェクション活性を有意に失わずに貯蔵することができる。
【0023】
本発明の実施形態は、トランスフェクション試薬混合物でコーティングされた固体支持体を含む装置に、トランスフェクトされるべき核酸を含む溶液を加える段階、その溶液に真核細胞を加える段階、ならびにその細胞および核酸溶液をインキュベートして細胞トランスフェクションを起こさせる段階を含む、細胞トランスフェクションの方法に向けられる。好ましくは、インキュベーションは、5分間〜3時間である。より好ましくは、インキュベーションは、10分間〜90分間である。
【0024】
好ましくは、核酸は、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドまたは化学修飾核酸である。より好ましくは、DNAが、環状(プラスミド)、直線状、断片または一本鎖オリゴヌクレオチド(ODN)である。より好ましくは、RNAが、一本鎖(リボザイム)または二本鎖(siRNA)である。
【0025】
一部の好ましい実施形態では、細胞が哺乳動物細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞の少なくとも一部が細胞分裂を起こす。一部の好ましい実施形態では、細胞が形質転換細胞または初代細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞が体細胞または幹細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞が植物細胞である。
【0026】
本発明のさらなる側面、特徴および利点は、以下に述べる好ましい実施形態の詳細な説明から明らかになるだろう。
【0027】
本発明のこれらの特徴および他の特徴を、好ましい実施形態の図面を参照して以下に説明するが、これらは本発明を例示しようとするものであって、本発明を限定しようとするものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
ここに記載する実施形態は本発明の好ましい実施形態を表すが、当業者は、本発明の要旨から逸脱することなく、変更態様を思いつくだろうと理解すべきである。したがって本発明の範囲は、もっぱら添付の特許請求の範囲によって、決定されるべきである。
【0029】
本発明の実施形態は、従来のトランスフェクションアッセイと比較して簡単で便利で効率のよいトランスフェクション装置およびトランフェクション方法に向けられる。トランスフェクション装置は、本明細書に記載する方法に従って、細胞培養装置の固体表面上にトランスフェクション試薬を固着させることによって製造される。この装置を使用すれば、研究者は、トランスフェクトされるべき核酸または他の生体分子と、細胞とを、細胞培養装置の表面に加えるだけでよい。DNAまたは生体分子をトランスフェクション試薬と前もって混合する必要はない。これにより、従来のトランスフェクション手順には必要な、時間のかかる重要な段階が取り除かれる。10個の試料について全てのトランスフェクション工程を完了するのに、現在の方法が2〜5時間以上を必要とするのに対して、約40分しか必要としない。これは、何百もの試料を一度に試験するハイスループットトランスフェクションアッセイにとっては、とりわけ有利である。
【0030】
本明細書に記載する方法には、従来のトランスフェクションと比較して、いくつかの利点がある。本明細書に記載する方法は、貯蔵が著しく容易なトランスフェクション装置を提供し、生体材料/トランスフェクション試薬混合段階を必要としない簡単な生体分子送達方法または遺伝子トランスフェクション方法を提供する。本明細書に記載するトランスフェクション手順は、短時間(例えば約5分〜3時間)で終了することができ、多数の試料を一度にトランスフェクトすることができるハイスループットなトランスフェクション方法または薬物送達方法を提供する。
【0031】
好ましい実施形態では、容易に商品化して大量生産することができる細胞培養装置の表面に、トランスフェクション試薬がただ単にコーティングされるだけである。顧客(例えば研究者)は、生体分子、例えば関心対象の核酸を細胞培養装置の表面に直接加えるだけで、細胞を加える前の装置の準備を済ませることができる。所定の時間インキュベートすることにより、生体分子およびトランスフェクション試薬は、次の段階で細胞に取り込まれる複合体を形成することができる。次に、細胞培養装置の表面に細胞を播種し、インキュベートし(培地を換える必要はない)、細胞を解析する。トランスフェクション手順中に培地を換える必要はない。本明細書に記載する方法は、関与する段階の数を減らすことによって誤差のリスクを劇的に低下させ、その結果、系の一貫性および正確さを増加させる。
【0032】
トランスフェクション剤を含有する組成物は任意の適切な表面に固着させることができる。例えば表面は、ガラス、プラスチック(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオリド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン)、ケイ素、金属(例えば金)、膜(例えばニトロセルロース、メチルセルロース、PTFEもしくはセルロース)、紙、生体材料(例えばタンパク質、ゼラチン、寒天)、組織(例えば皮膚、内皮組織、骨、軟骨)、または鉱物(例えばヒドロキシルアパタイト、グラファイト)であることができる。好ましい実施形態によれば、表面はスライド(ガラススライドもしくはポリ−L−リジンコートスライド)であるか、またはマルチウェルプレートのウェルであってもよい。
【0033】
ポリ−L−リジン(例えばSigma,Inc.)でコーティングされたガラススライドなどのスライドの場合、トランスフェクション試薬を表面上に固定し、乾燥させた後、関心対象の核酸もしくは細胞内に導入されるべき核酸を導入する。一般的には、核酸は、そのガラススライドに、マイクロアレイ状にスポットされる。スライドを室温で30分間インキュベートすることにより、トランスフェクション装置の表面上で核酸/トランスフェクション試薬複合体を形成させる。この核酸/トランスフェクション試薬複合体は、何百〜何千もの核酸、または他の生体分子を同時に調べるために使用することができるハイスループットマイクロアレイ用の媒体をもたらす。代替実施形態では、トランスフェクション試薬を、トランスフェクション装置の表面上で、離散した所定の領域に固着させて、トランスフェクション試薬のマイクロアレイを形成させることもできる。この実施形態では、細胞中に導入されるべき核酸などの生体分子がトランスフェクション装置の表面上に散布され、トランスフェクション試薬マイクロアレイと共にインキュベートされる。この方法は、何千もの化合物からトランスフェクション試薬または他の送達試薬をスクリーニングする際に使用することができる。そのようなスクリーニング方法の結果はコンピュータ解析によって検討することができる。
【0034】
本発明のもう一つの実施形態では、マルチウェルプレートの1以上のウェルを、1以上のトランスフェクション試薬でコーティングすることができる。トランスフェクションによく用いられるプレートは96ウェルプレートおよび384ウェルプレートである。トランスフェクション試薬はマルチウェルプレート中の各ウェルの底に均等に適用することができる。一般的には、トランスフェクション試薬は、約0.1〜約100μg/cmの範囲で、プレートの底に適用される。さらに、トランスフェクション試薬のコーティング量は、使用するウェルプレートのタイプに応じて変えることができる。例えば、6ウェルプレート、12ウェルプレートまたは96ウェルプレートの場合、トランスフェクション試薬のコーティング濃度は、好ましくは約0.5〜約50μg/cm、より好ましくは約1〜20μg/cmである。384ウェルプレートの場合、トランスフェクション試薬のコーティング濃度は、好ましくは、約0.5〜約50μg/cm、より好ましくは約1〜30μg/cmである。本発明のもう一つの実施形態では、10cm細胞培養ディッシュをトランスフェクション試薬でコーティングする。トランスフェクション試薬はディッシュの底に均等に適用することができる。トランスフェクション試薬は、約0.1〜約100μg/cm、より好ましくは約0.2〜約20μg/cmの範囲で、ディッシュの底に適用することができる。
【0035】
次に、何百もの核酸または他の生体分子を、例えばマルチチャンネルピペットまたは自動機械などによって、ウェルに加える。次に、マイクロプレートリーダーを使ってトランスフェクションの結果を決定する。マイクロプレートリーダーはほとんどの生物医学研究室でよく使用されているので、これは、極めて便利なトランスフェクト細胞の解析方法である。トランスフェクション試薬でコーティングされたマルチウェルプレートは、遺伝子調節、遺伝子機能、分子治療、およびシグナル伝達を研究するために、ほとんどの研究室で広く使用することができる。また、異なる種類のトランスフェクション試薬をマルチウェルプレートの異なるウェルにコーティングすれば、そのプレートを使って、多くのトランスフェクション試薬または送達試薬を効率よくスクリーニングすることができる。近年、1,536ウェルプレートおよび3,456ウェルプレートが開発されており、それらも本明細書に記載する方法に従って使用することができる。
【0036】
好ましい実施形態では、包装に適した材料(これは、プラスチック(例えばセロファン)、エラストマー材料、薄い金属、マイラー(Mylar(登録商標))、または他のポリエステルフィルム材料であることができる)中で、トランスフェクション装置が貯蔵される。貯蔵には酸素および/または二酸化炭素吸収剤を使ってもよいし、使わなくてもよい。本明細書に記述するように製造されたトランスフェクションプレートは、有意な細胞トランスフェクション活性を保持したまま、室温で少なくとも5ヶ月は貯蔵することができる。
【0037】
トランスフェクション試薬は、好ましくは、核酸などの生体分子を細胞中に導入することができるカチオン化合物である。好ましい実施形態では、低分子量ポリエチレンイミン(PEI)などのカチオンオリゴマーを使用する。より好ましくは、トランスフェクション剤は、分解性カチオンポリマーである。必要に応じて、トランスフェクション剤は、送達増進剤の他に、細胞ターゲティング部分もしくは細胞内ターゲティング部分および/または膜不安定化成分を含む。
【0038】
一般に、送達増進剤は、二つのカテゴリーに分類される。それらはウイルス担体系および非ウイルス担体系である。ヒトウイルスは上述した核内への輸送に対する障壁を克服する方法を進化させているので、ウイルスまたはウイルス成分は、細胞中への核酸の輸送に役立つ。また、分解性ポリマーを、ウイルスタンパク質または非ウイルスタンパク質にコンジュゲートするか、それらを会合させることにより、トランスフェクション効率を高めることができる。例えばトランスフェクション効率を改善するために、水疱性口内炎ウイルスGタンパク質(VSVG)、および当業者に知られる他のペプチドまたはタンパク質を、ポリマーに加えることができる。
【0039】
送達増進剤として役立つウイルス成分のもう一つの例は、ヘマグルチニンペプチド(HAペプチド)である。このウイルスペプチドは、エンドソーム破壊により、生体分子の細胞内への移動を容易にする。エンドソームの酸性pHにおいて、このタンパク質は、細胞質ゾル内への生体分子および担体の放出を引き起こす。
【0040】
非ウイルス送達増進剤は、ポリマーに基づくもの、または脂質に基づくものであることができる。それらは一般に、核酸の負電荷を相殺するように働くポリカチオンである。ポリカチオンポリマーは、一つには、それらがどんなサイズのDNAプラスミドでも凝縮する能力を持つことから、そしてまたウイルスベクターには安全性の懸念が伴うことから、非ウイルス遺伝子送達増進剤としてかなり有望視されてきた。その例には、塩基性アミノ酸に富む領域を持つペプチド、例えばオリゴリジン、オリゴアルギニンまたはその組み合わせ、およびポリエチレンイミン(PEI)が含まれる。これらのポリカチオンポリマーは、DNAの凝縮によって、輸送を容易にする。分岐鎖型のポリカチオン、例えばPEIおよびスターバーストデンドリマーは、DNA凝縮もエンドソームからの放出も媒介することができる(Boussifら(1995)Proc.Natl.Acad.Sci USA vol.92:7297−7301)。PEIは、pH6.9でイオン化されうる末端アミンと、pH3.9でイオン化されうる内部アミンとを持つ、高度に分岐したポリマーであり、この構成ゆえに、小胞pHの変化を生じさせることができ、それが小胞の膨潤をもたらし、最終的にはエンドソームによる捕捉からの解放をもたらす。
【0041】
送達を増進するもう一つの手段は、トランスフェクション試薬上のリガンドを設計することである。このリガンドは、標的にした細胞上に受容体を持たなければならない。次に、受容体認識によって、細胞内への生体分子の送達が開始される。リガンドがその特異的細胞受容体に結合すると、エンドサイトーシスが刺激される。生体分子輸送を増進するためにさまざまな細胞タイプと共に使用されてきたリガンドの例は、ガラクトース、トランスフェリン、糖タンパク質アシアロオロソムコイド、アデノウイルスファイバー、マラリアスポロゾイト周囲タンパク質、上皮成長因子、ヒトパピローマウイルスキャプシド、線維芽細胞成長因子および葉酸である。葉酸受容体の場合、結合したリガンドはポトサイトーシスと呼ばれる過程によって内在化される。この過程では、受容体がリガンドを結合し、周囲の膜が細胞表面から孤立した後、内在化される物質が小胞膜を通り抜けて細胞質内に入る(Gottschalkら(1994)Gene Ther 1:185−191)。
【0042】
エンドソーム破壊にはさまざまな薬剤が使用されてきた。上述したHAタンパク質の他に、欠損ウイルス粒子も、エンドソーム溶解剤として使用されている(Cottenら(1992年7月)Proc.Natl.Acad.Sci.USA vol.89:6094−6098頁)。非ウイルス剤は両親媒性であるか、または脂質に基づく。
【0043】
細胞の細胞質内へのDNAなどの生体分子の放出は、エンドソーム破壊を媒介するか、分解を減少させるか、この過程をひとまとめにして迂回する薬剤によって、増進することができる。エンドサイトーシスされる物質の分解をリソソーム加水分解酵素の阻害によって減少させるために、エンドソームpHを上昇させるクロロキンが使用されている(Wagnerら(1990)Proc Natl Acad Sci USA vol.87:3410−3414)。上述のように、PEIおよびスターバーストデンドリマーなどの分岐鎖ポリカチオンも、エンドソームからの放出を促進する。
【0044】
エンドソーム分解を完全に迂回するために、遺伝子/遺伝子担体複合体に組み入れることができるキメラタンパク質の構成要素として、ジフテリア毒素およびシュードモナス外毒素などの毒素のサブユニットが利用されている(Uherekら(1998)J Biol.Chem.vol.273:8835−8841)。これらの構成要素は、エンドソーム膜を通過し小胞体を逆向きに通過する核酸のシャトル輸送を促進する。
【0045】
細胞質に入ったら、核酸は核にたどり着かなければならない。核への局在は、核酸−担体上に核局在化シグナルを含めることによって、増進することができる。核局在化シグナル(NLS)として機能する特殊なアミノ酸配列が用いられる。カーゴ−担体複合体上のNLSは、細胞質ゾル中に存在する特異的核輸送受容体タンパク質と相互作用する。ひとたびカーゴ−担体複合体が組立てられると、その複合体中の受容体タンパク質がヌクレオポリンと複数の接触を行うことにより、核膜孔を通してその複合体を輸送すると考えられる。カーゴ−担体複合体がその目的地に到達すると、カーゴ−担体複合体は解離し、カーゴおよび他の構成要素を解放する。
【0046】
SV40ラージT抗原由来のサブ配列が核への輸送に使われている。SV40ラージT抗原に由来するこの短い配列は、付随する高分子の核への輸送を引き起こすシグナルとして作用する。
【0047】
生分解性カチオンポリマーは、通例、低い細胞毒性を示すが、分解が速いのでトランスフェクション効率も低く、そのために、遺伝子導入および他の用途については、他の担体に対する競争力に乏しい。これらの分解性カチオンポリマーは、低分子量カチオン化合物または低分子量カチオンオリゴマーを分解性リンカーで連結することによって、トランスフェクション効率を改善する。リンカー分子は、生物学的、物理学的または化学的に切断可能な結合、例えば加水分解性結合、還元可能な結合、酵素特異的切断部位を持つペプチド配列、pH感受性結合、または超音波感受性結合などを含有することができる。これらのポリマーの分解は、加水分解、酵素消化および物理的分解方法、例えば光学的切断(光分解)などといった方法(ただし、これらに限定されるわけではない)によって、達成することができる。
【0048】
本明細書に記載する分解性カチオンポリマーの利点の一つは、リンカーのタイプおよび構造に基づいて、ポリマー分解速度およびポリマー分解部位に関して、ポリマーの分解を制御することができるという点である。
【0049】
好ましい実施形態では、トランスフェクション試薬が、複数のカチオン分子と、前記カチオン分子を分枝状に連結する少なくとも一つの分解性リンカー分子とを含む。
【0050】
カチオンオリゴマー、例えば低分子量ポリエチレンイミン(PEI)、低分子量ポリ(L−リジン)(PLL)、低分子量キトサン、および低分子量PAMAMデンドリマーなどを、本明細書に記載するポリマーを製造するために使用することができる。さらにまた、3個を越える反応部位を持つ任意のアミン含有分子も使用することができる。
【0051】
カチオンオリゴマーは、例えば、
(i)式(A)もしくは(B)のカチオン化合物またはその組み合わせ:
【化5】

【化6】

[式中、Rは、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、式:−(CH−の直鎖アルキレン基(式中、aは2〜10の整数である)であり;
は、式:−(C2b)−の直鎖アルキレン基(式中、bは2〜10の整数である)であり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、式A、またはもう一つの式Bであり;
は、式:−(C2c)−の直鎖または分岐鎖アルキレン基(式中、cは2〜10の整数である)であり;そして
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、式A、またはもう一つの式Bである];
(ii)末端1級または2級アミノ基を持つカチオン性樹状または分岐ポリアミドアミン(PAMAM);
(iii)カチオン性ポリアミノ酸;および
(iv)カチオン性多糖質
などから選択することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0052】
そのようなカチオン分子の例には表1に示すカチオン分子があるが、これらに限定されるわけではない。
【表1】

【0053】
ここで用いられるカチオンポリマーは、活性リガンド(例えば糖類、ペプチド、タンパク質、および他の分子)とコンジュゲートすることができる1級アミノ基または2級アミノ基を含むことができる。好ましい実施形態では、ラクトビオン酸をカチオンポリマーにコンジュゲートする。肝細胞の表面にはガラクトース受容体が存在するので、ガラクトシル単位は、肝細胞を目指す有用なターゲティング分子になる。さらにもう一つの実施形態では、ポリマー上にガラクトシル単位を導入するために、ラクトースを分解性カチオンポリマーにコンジュゲートする。
【0054】
分解性連結分子には、例えば、少なくとも一つの生分解性スペーサーを含有する、ジ−および多価−アクリレート、ジ−および多価−メタクリレート、ジ−および多価−アクリルアミド、ジ−および多価−イソチオシアネート、ジ−および多価−イソシアネート、ジ−および多価−エポキシド、ジ−および多価−アルデヒド、ジ−および多価−アシルクロリド、ジ−および多価−スルホニルクロリド、ジ−および多価−ハライド、ジ−および多価−無水物、ジ−および多価−マレイミド、ジ−および多価−カルボン酸、ジ−および多価−α−ハロアセチル基、ならびにジ−および多価−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルなどがある。以下の式は好ましい実施形態に従って使用することができるリンカーを表している:
A(Z)
[式中、Aは少なくとも一つの分解可能な結合を有するスペーサー分子であり、Zはアミノ基と反応する反応性残基であり、dは2以上の整数であって、AおよびZは共有結合によって結合される]。
【0055】
リンカー分子の反応性残基の実施形態を表2にいくつか例示した。ただし、これらの例は発明の範囲を限定するものではない。反応性残基は、アクリロイル、マレイミド、ハライド、カルボキシルアシルハライド、イソシアネート、イソチオシアネート、エポキシド、アルデヒド、スルホニルクロリド、およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基またはそれらの組み合わせから選択することができるが、これらに限定されるわけではない。
【表2】

【0056】
ポリマーの分解速度は、ポリマー組成、供給比、およびポリマーの分子量を変えることによって制御することができる。例えば、嵩高いアルキル基を持つリンカーを使用すると、ポリマーはゆっくり分解するだろう。また、分子量が増加するにつれて、分解速度の低下が起こる場合もあるだろう。ポリマーの分解速度は、リンカーに対するカチオンポリマーの比を調節するか、種々の分解性リンカー分子を変えることによって、制御することができる。
【0057】
アクリレートリンカーは、ジスルフィド含有リンカーよりも、はるかに安価である。なぜなら、ジスルフィド含有リンカーの合成の方が難しいからである。アクリレートリンカーは、任意の水溶液中で、加水分解性であることができる。したがって、アクリレートリンカーを含有するポリマーは、水を含有する環境である限り、さまざまな環境中で分解されうる。このようにアクリレートリンカーを含有するポリマーは、ジスルフィドリンカー含有ポリマーと比較して、広い応用範囲を持っている。また、ジスルフィドリンカーを持つポリマーの分解速度は通常、同じであるが、アクリレートリンカーを使って合成されたポリマーの分解速度は、使用するアクリレートリンカーが異なると、それに応じて変化しうる。
【0058】
一部の実施形態では、トランスフェクション試薬をマトリックス(例えばタンパク質、ペプチド、多糖、または他のポリマー)と混合することができる。タンパク質は、ゼラチン、コラーゲン、ウシ血清アルブミン、または表面にタンパク質を固着させるのに使用することができる他の任意のタンパク質であることができる。ポリマーは、ヒドロゲル、コポリマー、非分解性または生分解性ポリマーおよび生体適合性材料であることができる。多糖は、膜を形成して送達試薬をコーティングすることができる任意の化合物(例えばキトサン)であることができる。他の試薬、例えば細胞毒性低減試薬、細胞結合試薬、細胞成長試薬、細胞刺激試薬または細胞阻害試薬、および特定の細胞を培養するための試薬なども、トランスフェクション試薬または送達試薬と一緒に、トランスフェクション装置に固着させることができる。トランスフェクション剤は、分解性カチオンポリマーおよび非分解性カチオンポリマーを両方とも含んでもよい。非分解性カチオンポリマー対分解性カチオンポリマーの比は、好ましくは、重量比で1:0.5〜1:20(非分解性:分解性)、より好ましくは重量比で1:2〜1:10である。
【0059】
もう一つの実施形態によれば、適当な溶媒(例えば水または二重脱イオン水)中に存在する、トランスフェクション試薬(例えば脂質、ポリマー、脂質−ポリマーまたは膜不安定化ペプチド)とゼラチンとを含むゼラチン−トランスフェクション試薬混合物を、トランスフェクション装置に固着させることができる。さらにもう一つの実施形態では、細胞培養試薬(例えばフィブロネクチン、コラーゲン、塩類、糖、タンパク質、またはペプチド)が、ゼラチン−トランスフェクション試薬混合物中に存在してもよい。その混合物は表面(例えばスライドまたはマルチウェルプレート)に均等に拡げられて、ゼラチン−トランスフェクション試薬混合物を担持するトランスフェクション表面をもたらす。代替実施形態として、異なるトランスフェクション試薬−ゼラチン混合物をトランスフェクション装置の表面上の離散した領域にスポットしてもよい。結果として得られる生成物を、ゼラチン−トランスフェクション試薬混合物がその混合物を適用した部位に固着されるように、適切な条件下で完全に乾燥させる。例えば、結果として得られる生成物を、特定の温度もしくは湿度で、または真空乾燥機中で乾燥させることができる。
【0060】
混合物中に存在するトランスフェクション試薬の濃度は、試薬のトランスフェクション効率および細胞毒性に依存する。通例、トランスフェクション効率と細胞毒性との間で均衡がとられる。細胞毒性を許容できるレベルに保ちつつ、トランスフェクション試薬が最も効率よい濃度にある時、そのトランスフェクション試薬の濃度は最適レベルにある。トランスフェクション試薬の濃度は、一般的には、約1.0μg/ml〜約1000μg/mlの範囲になるだろう。好ましい実施形態では、濃度が約10μg/ml〜約600μg/mlである。同様に、ゼラチンまたは他のマトリックスの濃度も、行われる実験またはアッセイに依存するが、その濃度は、一般的には、トランスフェクション試薬溶液の0.01%〜0.5%(w/v)の範囲になるだろう。
【0061】
好ましい実施形態では、細胞内に導入されるべき分子が核酸である。核酸は、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、ペプチド核酸(PNA)などであることができる。使用するDNAがベクター中に存在する場合、そのベクターは、例えばプラスミド(例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子および/またはルシフェラーゼ(luc)遺伝子を運ぶプラスミド)またはウイルス系ベクター(例えばpLXSN)など、任意のタイプであることができる。DNAは、発現されるべきcDNAの5’末端にプロモーター配列(CMVプロモーターなど)を持ち、3’末端にポリA部位を持つ、直線状断片であることもできる。これらの遺伝子発現要素により、関心対象のcDNAを哺乳動物細胞中で一過性に発現させることができる。DNAが一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、例えばアンチセンスODNである場合は、標的遺伝子発現を調節するために、それを細胞内に導入することができる。RNAを使用する実施形態では、核酸は一本鎖(アンチセンスRNAおよびリボザイム)であってもよいし、二本鎖(RNA干渉、SiRNA)であってもよい。RNAの安定性を増加させ、遺伝子発現のダウンレギュレーションにおけるその機能を改善するために、ほとんどの場合、RNAは修飾される。ペプチド核酸(PNA)では、核酸主鎖がペプチドで置き換えられ、それがその分子をより安定にしている。本明細書に記載する方法は、例えば分子治療、タンパク質機能研究、または分子機構研究など、さまざまな目的で、核酸を細胞中に導入するために使用することができる。
【0062】
トランスフェクション試薬でコーティングしておいたトランスフェクション装置に、適当な条件下で核酸溶液を加えることにより、核酸トランスフェクション試薬複合体を形成させる。核酸は、好ましくは、ウシ胎仔血清および抗生物質を含まない細胞培養培地、例えばダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に溶解される。しかし、例えば最少必須イーグル培地、F−12カイン(Kaighn’s)変法培地、またはRPMI1640培地などを含めて(ただしこれらに限定されるわけではない)、任意の適当な細胞培養培地を使用することができる。トランスフェクション試薬がスライド上に均等に固着されている場合、核酸溶液はスライド上の離散した位置にスポットすることができる。あるいは、トランスフェクション試薬をスライド上の離散した位置にスポットしてもよく、その場合は、単に、トランスフェクション装置の表面全体を覆うように、核酸溶液を加えることができる。トランスフェクション試薬がマルチウェルプレートの底に固着されている場合は、単に、マルチチャンネルピペット、自動装置、または当技術分野で周知の他の送達方法によって、核酸溶液が異なるウェル中に加えられる。結果として得られる生成物(トランスフェクション試薬と望ましい核酸とでコーティングされたトランスフェクション装置)を、室温で約5分〜60分、より好ましくは25〜30分インキュベートすることにより、核酸/トランスフェクション試薬複合体を形成させる。一部の実施形態において、例えば異なる核酸試料がスライドの離散した位置にスポットされる場合には、DNA溶液を除去することにより、トランスフェクション試薬との複合体を形成した核酸試料を担持する表面が得られる。他の代替実施形態では、核酸溶液を表面に留めておくこともできる。次に、適当な培地(例えばDMEM)中の適切な密度の細胞を、表面上に蒔く。結果として得られる生成物(生体分子と蒔かれた細胞とを担持する表面)を、蒔かれた細胞内への関心対象核酸の侵入をもたらすような条件下で維持する。代替実施形態では、細胞を生体分子または核酸と混合する。次にその細胞/生体分子混合物をトラスフェクション装置に加え、室温でインキュベートする。
【0063】
本明細書に記載する方法に従って使用される適切な細胞には、原核生物、酵母、または高等真核細胞(植物細胞および動物細胞、特に哺乳動物細胞を含む)が含まれる。好ましい実施形態では、真核細胞、例えば哺乳動物細胞(例えばヒト、サル、イヌ、ネコ、ウシ、またはネズミ細胞)、細菌細胞、昆虫細胞または植物細胞を、トランスフェクション試薬と関心対象の核酸とでコーティングされているトランスフェクション装置上に、その真核細胞内への関心対象核酸の導入/侵入およびDNAの発現または生体分子と細胞成分との相互作用にとって十分な密度および適当な条件下で蒔く。特定の実施形態では、細胞を、造血細胞、ニューロン細胞、膵臓細胞、肝細胞、軟骨細胞、骨細胞、または筋細胞から選択することができる。細胞は完全に分化した細胞または前駆細胞/幹細胞であることができる。
【0064】
好ましい実施形態では、10%熱非働化ウシ胎仔血清(FBS)をL−グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシン(pen/strep)と共に含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で、真核細胞を成長させる。一部の細胞は特殊な栄養、例えば成長因子およびアミノ酸などを必要とするので、ある種の細胞は特殊な培地で培養すべきであることは、当業者には理解されるだろう。個々の細胞タイプの培養に適した培地は、当業者には知られている。細胞の最適密度は細胞タイプおよび実験の目的に依存する。例えば、遺伝子トランスフェクションには70〜80%コンフルエントの細胞集団が好ましいが、オリゴヌクレオチド送達の場合、最適条件は30〜50%コンフルエントの細胞である。例えば、5×10個/ウェルの293細胞を96ウェルプレート上に播種したとすると、それらの細胞は細胞播種の18〜24時間後に90%コンフルエントに達するだろう。HeLa705細胞の場合は、96ウェルプレートで同様のコンフルエントパーセンテージに到達するのに、1×10細胞/ウェルしか必要でない。
【0065】
核酸試料/トランスフェクション試薬を含有する表面に細胞を播種した後、細胞をその細胞タイプにとって最適な条件下(例えば37℃、5〜10%CO)でインキュベートする。培養時間は実験の目的に依存する。遺伝子トランスフェクション実験の場合、細胞に標的遺伝子を発現させるために、通例、細胞を24〜48時間インキュベートする。細胞における生体分子の細胞内輸送の解析では、数分〜数時間のインキュベーションが要求されることがあり、所定の時点で細胞を観察することができる。
【0066】
生体分子送達の結果はさまざまな方法で解析することができる。遺伝子トランスフェクションおよびアンチセンス核酸送達の場合、標的遺伝子発現レベルを、レポーター遺伝子によって(例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、またはβ−ガラクトシダーゼ遺伝子発現などによって)、検出することができる。GFPのシグナルは蛍光顕微鏡下で直接観察することができ、ルシフェラーゼの活性は照度計によって検出することができ、β−ガラクトシダーゼによって触媒される青色生成物は顕微鏡下で観察するか、マイクロプレートリーダーによって決定することができる。これらのレポーターがどのように機能するか、そしてそれらを遺伝子送達系にどのように導入することができるかは、当業者にはよく知られている。本明細書に記載する方法に従って送達される核酸およびその産物、または他の生体分子、ならびにこれらの生体分子によって調整される標的は、例えば免疫蛍光の検出、または酵素免疫組織化学、オートラジオグラフィー、もしくはインサイチューハイブリダイゼーションなど、さまざまな方法によって決定することができる。コードされたタンパク質の発現を検出するために免疫蛍光を使用する場合は、標的タンパク質を結合する蛍光標識抗体を使用する(例えばタンパク質に対する抗体の結合に適した条件下でスライドに加える)。次に、蛍光シグナルを検出することによって、そのタンパク質を含有する細胞を同定する。送達された分子が遺伝子発現の調整を行うことができる場合は、オートラジオグラフィー、インサイチューハイブリダイゼーション、およびインサイチューPCRなどの方法によって、標的遺伝子発現レベルを決定することもできる。ただし同定方法は、送達される生体分子の性質、それらの発現産物、それによって調整される標的、および/またはその生体分子の送達がもたらす最終産物に依存する。
【実施例1】
【0067】
分解性カチオンポリマーの製造
分子量600のポリエチレンイミンオリゴマー(PEI−600)と2,4−ペンタンジオールジアクリレート(PDODA)とから誘導されるポリマーの合成を、分解性カチオンポリマーを製造するための一般手順として記載する。塩化メチレン25ml中のPEI−600 4.32gを、ピペットまたはシリンジを使って、バイアルに加えた。2.09gのPDODAを、上記PEI−600溶液に、撹拌しながら素早く加えた。反応混合物を室温(20℃)で4時間撹拌した。次に、50mlの2M HClを加えることにより、反応混合物を中和した。白色沈殿物を遠心分離し、塩化メチレンで洗浄し、減圧下に室温で乾燥した。
【実施例2】
【0068】
分解性カチオンポリマーを使ったトランスフェクション可能な細胞培養装置の製造
実施例1に示したように分解性カチオンポリマーを製造した。トランスフェクション効率を評価するために、線状ポリエチレンイミン(L−PEI)系ポリマーおよび脂質系ポリマーを使って、インビトロで哺乳動物細胞中にプラスミドDNAをトランスフェクトした。L−PEI系ポリマーとしてはjetPEI(Qbiogene)トランスフェクション試薬を使用した。リポフェクトアミン2000(Invitrogen)およびN−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム塩(DOTAP:Sigma−Aldrich)を、脂質系ポリマーとして使用した。分解性カチオンポリマーおよびDOTAPをメタノールに溶解し、jetPEIおよびリポフェクトアミン2000を脱イオン水で希釈した。平底96ウェル細胞培養プレート(底面積:各ウェルにつき0.32cm;BD Biosciences)を、これらのポリマー溶液で処理した。底に固着した実際の量は以下のとおりだった:(a)分解性カチオンポリマー;1ウェルあたり3μg、したがって9.4μg/cm、(b)jetPEI;1ウェルあたり1μl、(c)リポフェクトアミン2000;1ウェルあたり0.375μg、(d)DOTAP;1ウェルあたり2および4ピコモル。これらのプレートを減圧下に室温で乾燥し、使用するまで真空パック中に密封した。
【実施例3】
【0069】
293細胞のためのトランスフェクション可能な細胞培養装置によるトランスフェクション
opti−MEM I(Invitrogen)25μl中のpEGFP−N1プラスミド(Clontechから購入)25または50ngを各ウェルに加え、室温に25分間保った。次に、10%ウシ血清(Invitrogen)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)100μl中の293細胞5×10個を加え、7.5%CO下、37℃でインキュベートした。24〜36時間のインキュベーション後に、落射蛍光顕微鏡(IX70,オリンパス)を使ってEGFP蛍光を観察することにより、トランスフェクション効率を見積った。
【0070】
トランスフェクション効率を表3に示す。分解性カチオンポリマーおよびjetPEI(すなわちL−PEI系ポリマー)は、高いトランスフェクション効率を示した。
【表3】

【実施例4】
【0071】
細胞毒性の評価
記載した方法の細胞毒性を評価した。実施例3に示したようにトランスフェクトした293細胞の細胞形状を顕微鏡観察によって比較した(図1)。分解性ポリマーを使ってトランスフェクトされた細胞は、無傷の293細胞に似た正常な形態を示した。しかしL−PEI系ポリマー(jetPEI)および脂質系ポリマー(リポフェクトアミン2000)を使ってトランスフェクトしたものは円形化した。分解性カチオンポリマーは細胞を傷つけずに遺伝子を送達することができると、本発明者らは結論した。
【実施例5】
【0072】
分解性カチオンポリマー量の最適化
さまざまな量の分解性カチオンポリマーを細胞培養装置上に固着させ、トランスフェクション効率を評価した。実施例2に示したプロトコールと同じプロトコールにより、96ウェル細胞培養プレートを分解性カチオンポリマーでコーティングした。実際のポリマー量は以下のとおりとした:1ウェルあたり2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、10および20μg。次に、実施例3で述べたようにトランスフェクションを行い、トランスフェクトされた細胞を7.5%CO下、37℃でインキュベートした。細胞を播種する前に加えたプラスミドDNAの量は、1ウェルあたり0.13、0.25、0.50または1.0μgだった。40時間のインキュベーション後に、蛍光を発する細胞のパーセンテージおよび細胞の状態を、落射蛍光顕微鏡によって見積った。トランスフェクション後のEGFP陽性細胞のパーセンテージを図2に示す。高いトランスフェクション効率は、1ウェルあたり0.25および0.5μg(したがって0.78〜1.6μg/cm)のプラスミドDNAで、1ウェルあたり2.5〜5.0μg(したがって7.8〜16μg/cm)の範囲の分解性カチオンポリマーに、割り当てられた。
【0073】
これらの実験における細胞の状態を図3に示す。L−PEI系ポリマーおよび脂質系ポリマーを使ったプレートでトランスフェクトされた細胞は、円形化した形状を持ち、凝集していた。これらの形態は細胞毒性によるものだった。プレートの底に固着させる分解性カチオンポリマーの量を1ウェル当たり2.5〜5.0μgにした場合、細胞の状態は許容できるものだった。また、本発明者らが試験したどのプラスミドDNA条件でも、分解性カチオンポリマーでは、その量が1ウェルあたり2.5〜5.0μgであるならば、良好な細胞の状態が得られた。
【実施例6】
【0074】
安定性試験
特殊な目的のために(例えば細胞成長を助けるために)細胞培養装置の表面にコーティングのある製品が販売されている。通常、そのコーティング材料は、コラーゲンまたはフィブロネクチンのような一種のタンパク質である。それらは温度の影響を受けやすいので、これらの細胞培養装置は冷蔵貯蔵を必要とし、それが(それらが嵩高い場合は特に)短所である。そのため、室温における安定性は重要な特徴である。
【0075】
本発明の細胞培養/トランスフェクション装置を、長期貯蔵後のその安定性を調べるために試験した。細胞トランスフェクション装置を実施例2で述べたように製造し、マイラーバッグ(Dupont Corp.)(これは酸素障壁素材およびアルミニウム箔を含むフィルムである)に、酸素および二酸化炭素吸収剤と共に、または酸素および二酸化炭素吸収剤を入れずに、真空密封した。25℃で貯蔵した。次に、ルシフェラーゼ遺伝子を運ぶプラスミドDNA(pCMV−LUC)を使って、トランスフェクション効率を定期的に試験した。トランスフェクション可能な細胞培養装置に関する手順は、プラスミドDNAが異なる点以外は、実施例3に記述したとおりとした。トランスフェクション効率を決定するために、Dynex MLX Microtiter(登録商標)プレート照度計およびルシフェラーゼアッセイシステム(Promega Corp.、米国ウィスコンシン州マディソン)を使って、細胞のルシフェラーゼ活性を決定した。
【0076】
図4、5および6に、マイラーバッグ中、Oおよび/またはCO吸収剤と共に25℃で貯蔵した後のトランスフェクション効率の変化を示す。5ヶ月間の貯蔵後にトランスフェクション効率の明白な低下はなかった。さらにまた、細胞培養装置をOおよび/またはCO吸収剤なしでマイラーバッグ中、25℃に保った場合でさえ、トランスフェクション効率は5ヶ月後も安定していて、依然として極めて高かった(図7)。本発明の細胞培養装置は室温で極めて安定である。この装置は特別な貯蔵条件が無くても貯蔵することができる。
【実施例7】
【0077】
非分解性カチオンポリマーの製造
非分解性ポリマーを以下のように製造した:ポリエチレンイミン(Aldrich、製品番号:408727)約5gをジクロロメタン50mlに溶解した後、2.0M塩化水素−ジエチルエーテル溶液(Aldrich、製品番号:455180)100mlを加え、よく混合してポリマー塩酸塩を形成させた。次に、そのポリマー塩酸塩を遠心分離器で収集し、ジエチルエーテル150mlですすいだ。ジエチルエーテルによるこのすすぎを2回行った。すすぎ後に得られた沈殿物を減圧条件下に室温で3時間乾燥した。次に、乾燥した粉末を、使用時まで、乾燥剤と共に4℃で保存した。
【実施例8】
【0078】
分解性カチオンポリマーおよび非分解性カチオンポリマーを使ったトランスフェクション可能な96ウェル細胞培養装置の製造
分解性カチオンポリマーを実施例1に示したように製造した。非分解性カチオンポリマーは実施例7で述べたようにして得た。両ポリマーをメタノールに溶解し、一つに混合してコーティング溶液を作った。各ポリマーの最終濃度は分解性カチオンポリマー40μg/mlおよび非分解性カチオンポリマー10μg/mlとした。次に、平底96ウェル細胞培養プレート(底面積:各ウェルにつき0.32cm;BD Biosciences)を、これらのコーティング溶液で処理した。実際には、25μlのコーティング溶液を各ウェルに分注し、減圧条件下で乾燥させることにより、メタノールを除去した。これらのコーティング条件では、1μgの分解性カチオンポリマーが96ウェルプレートの各ウェルに固着されたので、分解性カチオンポリマーの密度は3.1μg/cmになった。また、0.25μgの非分解性カチオンポリマーが96ウェルプレートの各ウェル上に固着されたので、非分解性カチオンポリマーの密度は0.78μg/cmになった。全部で1.25μgのポリマーが96ウェルプレートの各ウェルに固着されので、ポリマーの密度は3.9μg/cmになった。この実施例で製造した細胞培養装置を乾燥剤と共にマイラーバッグに真空密封し、さらに使用するまで、室温で貯蔵した。
【実施例9】
【0079】
分解性カチオンポリマーおよび非分解性カチオンポリマーを使ったトランスフェクション可能な12ウェル細胞培養装置の製造
分解性カチオンポリマーを実施例1に示したように製造した。非分解性カチオンポリマーは実施例7で述べたようにして得た。両ポリマーをメタノールに溶解し、一つに混合してコーティング溶液を作った。各ポリマーの最終濃度は分解性カチオンポリマー80μg/mlおよび非分解性カチオンポリマー10μg/mlとした。次に、平底12ウェル細胞培養プレート(底面積:各ウェルにつき3.8cm;BD Biosciences)を、これらのポリマー溶液で処理した。コーティング溶液100μlを各ウェルに分注し、減圧条件下で乾燥させることにより、メタノールを除去した。これらのコーティング条件では、8.0μgの分解性カチオンポリマーが12ウェルプレートの各ウェルに固着されたので、分解性カチオンポリマーの密度は2.1μg/cmになり、1.0μgの非分解性カチオンポリマーが12ウェルプレートの各ウェル上に固着されたので、非分解性カチオンポリマーの密度は0.26μg/cmになった。全部で9.0μgのポリマーが12ウェルプレートの各ウェルに固着されたので、ポリマーの密度は2.4μg/cmになった。この実施例で製造した細胞培養装置を乾燥剤と共にマイラーバッグに真空密封し、さらに使用するまで、室温で貯蔵した。
【実施例10】
【0080】
分解性カチオンポリマーおよび非分解性カチオンポリマーを使ったトランスフェクション可能な6ウェル細胞培養装置の製造
分解性カチオンポリマーを実施例1に示したように製造した。非分解性カチオンポリマーは実施例7で述べたようにして得た。両ポリマーをメタノールに溶解し、一つに混合してコーティング溶液を作った。各ポリマーの最終濃度は分解性カチオンポリマー80μg/mlおよび非分解性カチオンポリマー10μg/mlとした。次に、平底6ウェル細胞培養プレート(底面積:各ウェルにつき9.6cm;BD Biosciences)を、これらのコーティング溶液で処理した。コーティング溶液200μlを各ウェルに分注し、減圧条件下で乾燥させることにより、メタノールを除去した。これらのコーティング条件では、16μgの分解性カチオンポリマーが6ウェルプレートの各ウェルに固着されたので、分解性カチオンポリマーの密度は1.7μg/cmになり、2.0μgの非分解性カチオンポリマーが6ウェルプレートの各ウェル上に固着されたので、非分解性カチオンポリマーの密度は0.21μg/cmになった。全部で18μgのポリマーが6ウェルプレートの各ウェルに固着されたので、ポリマーの密度は1.9μg/cmになった。この実施例で製造した細胞培養装置を乾燥剤と共にマイラーバッグに真空密封し、さらに使用するまで、室温で貯蔵した。
【実施例11】
【0081】
分解性カチオンポリマーおよび非分解性カチオンポリマーを使って製造されたトランスフェクション可能な96ウェル細胞培養装置によるトランスフェクション
哺乳動物細胞を10cm細胞培養ディッシュでインキュベートし、リン酸緩衝食塩水ですすぎ、トリプシン溶液で処理した。次に、トリプシン処理した細胞を、血清を含む適当な細胞培養培地に希釈することにより、細胞懸濁液を調製した。この実施例で使用した細胞密度を表4に示す。
【0082】
pEGFP−N1プラスミドをopti−MEMに希釈し、最終濃度を10μg/mlに調節した。次に、そのプラスミド溶液25μlを、実施例8に示すように製造したトランスフェクション可能な96ウェル細胞培養装置の各ウェルに加え、25分間、室温に保った。次に、細胞懸濁液100μlをウェルに加え、7.5%CO下に37℃でインキュベートした。36〜48時間のインキュベーション後に、落射蛍光顕微鏡(IX70、オリンパス)を使ってEGFP蛍光を観察することにより、トランスフェクション効率を見積った。
【0083】
表4に、さまざまな哺乳動物細胞株における、EGFP蛍光を持つ細胞のパーセンテージを示す。本発明におけるトランスフェクション可能な96ウェル細胞培養装置は、さまざまな哺乳動物細胞株を、高い効率でトランスフェクトした。
【実施例12】
【0084】
分解性カチオンポリマーおよび非分解性カチオンポリマーを使って製造されたトランスフェクション可能な12ウェル細胞培養装置によるトランスフェクション
哺乳動物細胞を10cm細胞培養ディッシュでインキュベートし、リン酸緩衝食塩水ですすぎ、トリプシン溶液で処理した。次に、トリプシン処理した細胞を、血清を含む適当な細胞培養培地に希釈することにより、細胞懸濁液を調製した。この実施例で使用した細胞密度を表4に示す。
【0085】
pEGFP−N1プラスミドをopti−MEMに希釈し、最終濃度を5μg/mlに調節した。次に、そのプラスミド溶液200μlを、実施例9に示すように製造したトランスフェクション可能な12ウェル細胞培養装置の各ウェルに加え、25分間、室温に保った。次に、細胞懸濁液1mlをウェルに加え、7.5%CO下に37℃でインキュベートした。36〜48時間のインキュベーション後に、落射蛍光顕微鏡(IX70、オリンパス)を使ってEGFP蛍光を観察することにより、トランスフェクション効率を見積った。
【0086】
表4に、さまざまな哺乳動物細胞株における、EGFP蛍光を持つ細胞のパーセンテージを示す。本発明におけるトランスフェクション可能な12ウェル細胞培養装置は、さまざまな哺乳動物細胞株を、高い効率でトランスフェクトした。
【実施例13】
【0087】
分解性カチオンポリマーおよび非分解性カチオンポリマーを使って製造されたトランスフェクション可能な6ウェル細胞培養装置によるトランスフェクション
哺乳動物細胞を10cm細胞培養ディッシュでインキュベートし、リン酸緩衝食塩水ですすぎ、トリプシン溶液で処理した。次に、トリプシン処理した細胞を、血清を含む適当な細胞培養培地に希釈することにより、細胞懸濁液を調製した。この実施例で使用した細胞密度を表4に示す。
【0088】
pEGFP−N1プラスミドをopti−MEMに希釈し、最終濃度を5μg/mlに調節した。次に、そのプラスミド溶液400μlを、実施例10に示すように製造したトランスフェクション可能な6ウェル細胞培養装置の各ウェルに加え、25分間、室温に保った。次に、細胞懸濁液2mlをウェルに加え、7.5%CO下に37℃でインキュベートした。36〜48時間のインキュベーション後に、落射蛍光顕微鏡(IX70、オリンパス)を使ってEGFP蛍光を観察することにより、トランスフェクション効率を見積った。
【0089】
表4に、さまざまな哺乳動物細胞株における、EGFP蛍光を持つ細胞のパーセンテージを示す。本発明におけるトランスフェクション可能な6ウェル細胞培養装置は、さまざまな哺乳動物細胞株を、高い効率でトランスフェクトした。
【表4】

【0090】
本発明の趣旨から逸脱することなく、数多くのさまざまな変更を加えうることは、当業者には理解されるだろう。したがって、本発明の上記形態は単なる例示であって、本発明の範囲を限定しようとするものではないことを、明確に理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】トランスフェクトされた293細胞の細胞形状を示す図である。トランスフェクション剤処理は、線状ポリエチレンイミン(L−PEI)系ポリマー、脂質系ポリマー、分解性カチオンポリマー、および無処理(無傷の293細胞)とした。
【図2】EGFP陽性細胞のパーセンテージを示す図である。
【図3】トランスフェクション後の細胞の状態を示す図である。
【図4】O吸収剤と共にマイラーバッグに入れたトランスフェクション可能な細胞培養装置の安定性を示す図である。
【図5】CO吸収剤と共にマイラーバッグに入れたトランスフェクション可能な細胞培養装置の安定性を示す図である。
【図6】OおよびCO吸収剤と共にマイラーバッグに入れたトランスフェクション可能な細胞培養装置の安定性を示す図である。
【図7】マイラーバッグに入れたトランスフェクション可能な細胞培養装置の安定性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子との複合体を形成していないトランスフェクション試薬を含む組成物でコーティングされた固体支持体を含む装置。
【請求項2】
固体支持体が、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂およびガラスからなる群より選択される、請求項1の装置。
【請求項3】
コーティングが固体支持体の表面上にある、請求項1の装置。
【請求項4】
トランスフェクション試薬のコーティング量が約0.1〜約100μg/cmである、請求項3の装置。
【請求項5】
トランスフェクション剤がポリマーである、請求項1の装置。
【請求項6】
ポリマーがカチオンポリマーである、請求項5の装置。
【請求項7】
トランスフェクション剤が分解性カチオンポリマーを含む、請求項1の装置。
【請求項8】
分解性カチオンポリマーが、1以上の分解性リンカーによって連結されたカチオン化合物またはカチオンオリゴマーを含む、請求項7の装置。
【請求項9】
トランスフェクション剤が非分解性カチオンポリマーをさらに含む、請求項7の装置。
【請求項10】
非分解性カチオンポリマー対分解性カチオンポリマーの比が重量比で1:0.5〜1:20である、請求項9の装置。
【請求項11】
トランスフェクション試薬が、複数のカチオン分子と、前記カチオン分子を分枝状に連結する少なくとも一つの分解性リンカーとを含み、前記カチオン分子が、
(i)式(A)もしくは(B)のカチオン化合物またはその組み合わせ:
【化1】

【化2】

[式中、Rは、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、式:−(CH−の直鎖アルキレン基(式中、aは2〜10の整数である)であり;
は、式:−(C2b)−の直鎖アルキレン基(式中、bは2〜10の整数である)であり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、もう一つの式A、または式Bであり;
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、式A、またはもう一つの式Bであり;
は、式:−(C2c)−の直鎖アルキレン基(式中、cは2〜10の整数である)であり;そして
は、水素原子、炭素原子数2〜10のアルキル、式A、またはもう一つの式Bである];
(ii)末端1級または2級アミノ基を持つカチオン性樹状または分岐ポリアミドアミン(PAMAM);
(iii)カチオン性ポリアミノ酸;および
(iv)カチオン性多糖質;
からなる群より選択され、前記分解性リンカー分子が、式:
A(Z)
[式中、Aは少なくとも一つの分解可能な結合を有するスペーサー分子であり、Zはアミノ基と反応する反応性残基であり、dは2以上の整数であって、AおよびZは共有結合によって結合される]
によって表される、請求項1の装置。
【請求項12】
カチオン化合物またはカチオンオリゴマーが、ポリ(L−リジン)(PLL)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリプロピレンイミン(PPI)、ペンタエチレンアミン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ビス(2−アミノプロピル)−エチレンジアミン、スペルミン、スペルミジン、N−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N−(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン、トリ(2−アミノエチル)アミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、樹状ポリアミドアミン(PAMAM)、キトサン、およびポリ(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(PDMAEMA)からなる群より選択される、請求項8の装置。
【請求項13】
リンカー分子が、ジ−および多価−アクリレート、ジ−および多価−アクリルアミド、ジ−および多価−イソチオシアネート、ジ−および多価−イソシアネート、ジ−および多価−エポキシド、ジ−および多価−アルデヒド、ジ−および多価−アシルクロリド、ジ−および多価−スルホニルクロリド、ジ−および多価−ハライド、ジ−および多価−無水物、ジ−および多価−マレイミド、ジ−および多価−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、ジ−および多価−カルボン酸、ならびにジ−および多価−a−ハロアセチル基からなる群より選択される、請求項8の装置。
【請求項14】
リンカー分子が、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2,4−ペンタンジオールジアクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジオールジアクリレート、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、および少なくとも三つのアクリレート側基またはアクリルアミド側基を持つポリエステルからなる群より選択される、請求項8の装置。
【請求項15】
ポリマーの分子量が500da〜1,000,000daである、請求項8の装置。
【請求項16】
ポリマーの分子量が2000da〜200,000daである、請求項8の装置。
【請求項17】
カチオン化合物またはカチオンオリゴマーの分子量が50da〜10,000daである、請求項8の装置。
【請求項18】
リンカー分子の分子量が100da〜40,000daである、請求項8の装置。
【請求項19】
固体支持体がディッシュの底、マルチウェルプレート、または連続表面である、請求項1の装置。
【請求項20】
室温で少なくとも5ヶ月はトランスフェクション活性を有意に失わずに貯蔵することができる、請求項1の装置。
【請求項21】
細胞トランスフェクションの方法であって、
請求項1の装置に、トランスフェクトされるべき核酸を含む溶液を加えること;
その装置に真核細胞を加えること;および
その細胞および核酸溶液をインキュベートして細胞トランスフェクションを起こさせること
を含む方法。
【請求項22】
インキュベーションが5分〜3時間である、請求項21の方法。
【請求項23】
インキュベーションが10分〜90分である、請求項21の方法。
【請求項24】
核酸がDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドおよび化学修飾核酸からなる群より選択される、請求項21の方法。
【請求項25】
DNAが環状(プラスミド)、直鎖状、断片または一本鎖オリゴヌクレオチド(ODN)である、請求項24の方法。
【請求項26】
RNAが一本鎖(リボザイム)または二本鎖(siRNA)である、請求項24の方法。
【請求項27】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項21の方法。
【請求項28】
細胞の少なくとも一部が細胞分裂を起こす、請求項21の方法。
【請求項29】
細胞が形質転換細胞または初代細胞である、請求項21の方法。
【請求項30】
細胞が体細胞または幹細胞である、請求項21の方法。
【請求項31】
細胞が植物細胞である、請求項21の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−523810(P2008−523810A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546895(P2007−546895)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/045429
【国際公開番号】WO2006/066001
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】