説明

真空インタラプタ用縦磁界電極

【課題】コイル電極の外周面の耐アーク性を向上でき、接点部材とコイル電極間の通電性能を低下させずに遮断性能を向上できる真空インタラプタ用縦磁界電極を提供する。
【解決手段】外周面に複数本のスリット14を有するカップ状のコイル電極16Aと、コイル電極16Aの開口部側に固着した接点部材11Bとから構成した真空インタラプタ用縦磁界電極16において、接点部材11B側となるコイル電極16Aの開口側端部16Dの外周面に環状溝17を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空インタラプタ用縦磁界電極に関し、特にコイル電極の外周面の耐アーク性を向上でき、接点部材とコイル電極間の通電性能を低下させずに遮断性能を向上できる真空インタラプタ用縦磁界電極に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、図5に示すように真空インタラプタ1は、セラミック等の絶縁材料からなる略円筒状の中空部材2の両端部に、封鎖金具3、4をそれぞれ介在させて金属製の端部板5及び6を固着して絶縁容器を形成し、この内部に真空雰囲気の遮断室を構成する。
【0003】
遮断室の内部には、端部板5を貫通して気密に固着する固定側の通電導体7と、端部板6を貫通する可動側の通電導体8を配置している。これら通電導体7及び8には、それぞれ固定側縦磁界電極10と可動側縦磁界電極11とを蝋付け等の方法で取り付けて遮断室内で対向させている。
【0004】
可動側の通電導体8は、一端を端部板6に固定すると共に、他端を可動電極11側に固定するベローズ9により気密を保持し、操作装置(図示せず)によって軸方向に移動可能に構成する。そして、操作装置を動作させての真空インタラプタの電流遮断の際に、接点部材10B、11B間等に発生するアークに基づく悪影響を防止するため、中空部材2の内面やベローズ9面を保護するシールド筒12や13を配置している。
【0005】
上記の各縦磁界電極10、11の構造は、可動側を例に見ると、図6の如くカップ状のコイル電極11Aの開口部側に接点部材11B、底部側にコイル電極底部11Cが固着されている。そして、コイル電極11Aの外周面には、可動電極11の軸線に対し所定の角度で傾斜するスリット14が複数本形成されている。また、接点部材11Bには、各スリット14につながるスリット(図示せず)が形成されている。尚、固定側縦磁界電極10も上記の可動側縦磁界電極11と同様の構造である。
【0006】
スリット14間がコイル部15となり、遮断時にこの部分を流れる電流により可動側縦磁界電極11の軸線と平行で上方向の縦磁界が発生する。また、固定側縦磁界電極10も上記同様の構造で縦磁界が発生する。これら縦磁界により、真空インタラプタの電流遮断の際に各接点部材10B、11B表面に発生するアークを縦磁界の中に閉じ込め安定させ、各縦磁界電極10、11の温度上昇を抑制することで、真空インタラプタの遮断性能を向上させることができる。この種の真空インタラプタの縦磁界電極としては、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−32481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の縦磁界電極では、コイル電極と接点部材がそれぞれ4か所ピンを介したのみの接続であるために、コイル電極と接点部材との接触面積が著しく減少することになり、図6の従来の縦磁界電極に比べて接点部材とコイル電極間の通電性能が低下するという問題があった。
【0009】
さらに、従来の縦磁界電極では、真空インタラプタの遮断動作時に陰極となった接点部材表面に生じたカソードスポットが、接点部材表面からコイル電極の外周面まで移動してしまい、コイル電極の損傷の一因となる問題があった。尚、カソードスポットとは、真空インタラプタの電流遮断の際に陰極の表面に発生するアークにより生じる、放電した電流が集中する点ないし領域のことを指す。ここで、上記のようなアークに基づく問題に対するコイル電極の耐性を、耐アーク性と言う。
【0010】
本発明の目的は、カップ型のコイルを持つ縦磁界電極構造で、コイル電極の外周面の耐アーク性を向上でき、接点部材とコイル電極間の通電性能を低下させずに遮断性能を向上できる真空インタラプタ用縦磁界電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による真空インタラプタ用縦磁界電極は、外周面に複数本のスリットを有するカップ状のコイル電極と、前記コイル電極の開口部側に固着した接点部材とから構成した真空インタラプタ用縦磁界電極において、前記コイル電極の開口側端部の外周面に環状溝を形成したことを特徴としている。
【0012】
好ましくは、前記環状溝は該環状溝の深さを1〜5mm及び幅を1〜5mmとしたことを特徴としている。
【0013】
また好ましくは、前記環状溝は該環状溝の深さを2〜6mm及び幅を1〜5mmとし、前記接点部材は該接点部材の内径と前記コイル電極の開口側端部の外径との差を1〜5mm及び前記コイル電極の外周面と前記接点部材の外周面との間隙が2〜6mmとなる蓋状接点部材とし、前記コイル電極と前記蓋状接点部材の接続部の外周面に断面が鉤状となる鉤状溝を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の真空インタラプタ用縦磁界電極によれば、コイル電極の開口側端部の外周面に環状溝を形成することにより、コイル電極の外周面の耐アーク性を向上でき、接点部材とコイル電極間の通電性能を低下させずに遮断性能を向上できる真空インタラプタ用縦磁界電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による縦磁界電極を示す概略図である。
【図2】本発明の実施例による縦磁界電極の拡大縦断面図である。
【図3】図2のコイル電極の平面図である。
【図4】本発明の別の実施例による縦磁界電極の拡大縦断面図である。
【図5】従来の真空インタラプタの例を示す概略縦断面図である。
【図6】従来の縦磁界電極を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明による真空インタラプタ用縦磁界電極の実施例を図1ないし図3に示しており、従来と同様の部分は同符号を用いている。また、真空インタラプタの固定側縦磁界電極と可動側縦磁界電極は同様の構成で一対とするので、以下は可動側縦磁界電極のみについて説明する。
【0018】
図1において、可動側縦磁界電極となる縦磁界電極16は、カップ状のコイル電極16Aの開口部側に接点部材11Bを蝋付け等により固着して構成される。接点部材11Bの材料としては、銅とクロムの合金等が用いられる。また、コイル電極16Aは、材料には無酸素銅が用いられ、絞り加工等によって製造される。一方、コイル電極16Aの底部側には、コイル電極底部11Cが固着されて、さらにコイル電極底部11Cの他方は通電導体8に接続される。
【0019】
コイル電極16Aの外周面には、縦磁界電極16の軸線に対し所定の角度で傾斜するスリット14が機械加工により複数本形成される。即ち、このスリット14は、縦磁界電極16の軸方向を斜めに横切るように形成され、コイル電極16Aは外周面に複数本のスリット14を有するようになる。
【0020】
スリット14間の部分がコイル部15となり、真空インタラプタの電流遮断の際に接点部材11B表面にアークが発生した際、コイル部15を流れる電流によって縦磁界電極16の軸線と平行で上方向の縦磁界が発生する。これにより、アークを縦磁界の中に閉じ込め安定させ、縦磁界電極16の温度上昇を抑制して真空インタラプタの遮断性能を向上することができる。
【0021】
本実施例では、機械加工により、図2の如くコイル電極16Aの開口側端部16Dの外周面に段部を設ける。そして、コイル電極16Aと接点部材11Bとを蝋付け等により固着することにより、コイル電極16Aの開口側端部16Dの外周面に設けた段部と接点部材11Bの外周部間とで所定の寸法の環状溝17を形成する。以下、コイル電極と接点部材の固着により、コイル電極の開口側端部の外周面に形成される溝を環状溝と言う。
【0022】
上記の環状溝17の寸法は、種々の経験や実験結果に基づいて、コイル電極16Aの開口側端部16Dの外周面の環状溝の深さdを1〜5mm及びコイル電極16Aの開口側端部16Dの外周面の環状溝の幅gを1〜5mmに設定する。
【0023】
この環状溝17によって、真空インタラプタの遮断動作時に接点部材11B表面に生じるカソードスポット(図示せず)が、接点部材11B端部からコイル電極16Aの外周面までの移動が阻止できるために、コイル電極16Aの損傷を防ぐことができる。即ち、コイル電極16Aの外周面の耐アーク性を向上できる。
【0024】
また、コイル電極16Aの開口側端部16Dの表面積は、図3の如く従来電極と比べて略同様の大きさにできるので、接点部材11Bとコイル電極16A間の通電性能の低下を防ぐことができる。
【実施例2】
【0025】
本発明による真空インタラプタ用縦磁界電極の別の実施例を図4に示しており、従来と同様の部分は同符号を用いている。以下は、実施例1と同様に可動側縦磁界電極のみについて説明する。
【0026】
本実施例では、可動側縦磁界電極となる縦磁界電極18は、機械加工により、実施例1と同様に図4の如くコイル電極18Aの開口側端部18Dの外周面に段部を設ける。そして、コイル電極18Aと蓋状接点部材18Bとを蝋付け等により固着することにより、コイル電極18Aの開口側端部18Dの外周面に設けた段部と蓋状接点部材18Bの外周部間とで所定の寸法の鉤状溝19を形成する。
【0027】
この鉤状溝19の寸法は、コイル電極18Aの開口側端部18Dの外周面の環状溝の深さd1を2〜6mm及コイル電極18Aの開口側端部18Dの外周面の環状溝の幅g1を1〜5mmに設定する。また、蓋状接点部材18Bの内径とコイル電極18Aの開口側端部18Dの外径との差d2を1〜5mm及びコイル電極18Aの外周面と蓋状接点部材18Bの外周面との間隙g2を2〜6mmに設定する。以上の寸法によって、コイル電極18A及び蓋状接点部材18Bを機械加工することにより鉤状溝19を形成する。また、これら鉤状溝19の寸法は、種々の経験や実験結果に基づいたものである。
【0028】
この鉤状溝19によって、真空インタラプタの電流遮断の際に蓋状接点部材18B表面に生じたカソードスポット(図示せず)が、蓋状接点部材18B端部からコイル電極18Aの外周面まで移動しなくなり、コイル電極18Aの損傷を防ぐことができる。即ち、コイル電極18Aの外周面の耐アーク性を向上できる。
【0029】
また、この鉤状溝19は鉤状であるために、カソードスポットを鉤状溝19の深部に逃がすことにより、実施例1の縦磁界電極と比べ製造面で加工時間を要するものの、コイル電極18Aの外周面は良好な耐アーク性を得ることができる。
【0030】
また更に、コイル電極18Aの開口側端部(図示せず)の表面積は、実施例1の縦磁界電極と略同様の大きさにできるので、蓋状接点部材18Bとコイル電極18A間の通電性能の低下を防ぐことができる。
【0031】
以上、本発明の真空インタラプタ用縦磁界電極によれば、コイル電極の開口側端部の外周面、又はコイル電極と接点部材の接続部の外周面に環状溝又は鉤状溝を形成することにより、コイル電極の外周面の耐アーク性を向上でき、接点部材とコイル電極間の通電性能を低下させずに真空インタラプタの遮断性能を向上できる。
【符号の説明】
【0032】
1…真空インタラプタ、11A、16A、18A…コイル電極、11B…接点部材、14…スリット、16、18…縦磁界電極、16D、18D…開口側端部、17…環状溝、18B…蓋状接点部材、19…鉤状溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に複数本のスリットを有するカップ状のコイル電極と、前記コイル電極の開口部側に固着した接点部材とから構成した真空インタラプタ用縦磁界電極において、前記コイル電極の開口側端部の外周面に環状溝を形成したことを特徴とする真空インタラプタ用可動側縦磁界電極。
【請求項2】
請求項1において、前記環状溝は該環状溝の深さを1〜5mm及び幅を1〜5mmとしたことを特徴とする真空インタラプタ用縦磁界電極。
【請求項3】
請求項1において、前記環状溝は該環状溝の深さを2〜6mm及び幅を1〜5mmとし、前記接点部材は該接点部材の内径と前記コイル電極の開口側端部の外径との差を1〜5mm及び前記コイル電極の外周面と前記接点部材の外周面との間隙が2〜6mmとなる蓋状接点部材とし、前記コイル電極と前記蓋状接点部材の接続部の外周面に断面が鉤状となる鉤状溝を形成したことを特徴とする真空インタラプタ用縦磁界電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−267442(P2010−267442A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116535(P2009−116535)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】