説明

真空バルブ

【課題】 通電電流が増大しても、導体部の温度上昇が抑えられ、縦磁界を広範囲に発生させることで遮断性能が確保される真空バルブを得る。
【解決手段】 電極棒3の一端に中心部が接続されて縦磁界を発生する円板状のコイル導体1、およびコイル導体1と対向してそれぞれの外周部で接続される板状の接点2を有した一方の電極と、上記一方の電極と接離可能に設けられた他方の電極とが、内部を真空に保持した絶縁容器10、13a、13bに収納された真空バルブにおいて、コイル導体1は、コイル導体1の外周部に設けられて接点2の外周部と接続される突出部1aと、突出部1aの近傍の上記コイル導体の外縁から中心へ向かって伸びる外部スリット5と、外部スリット5と連続して突出部1aの内周側に円弧状に設けられた内部スリット6とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力系統において、回路の開閉に用いられる真空遮断器の真空バルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空バルブの遮断性能を向上させるため縦磁界を利用する縦磁界電極は、例えば特許文献1、2に開示されている。特許文献1に記載されたものは、筒状絶縁物とフランジで形成された容器が真空に保たれ、その内部には、固定接点と可動接点が対向して配置されている。固定側の電極にコイル導体を備えるとともに、可動側の電極にもコイル導体を備えている。両コイル導体は、軸中心から半径方向に延びた腕の先端に、周方向に伸びるコイルを取り付けたものであり、このコイルに電流が周方向に流れることにより、アークに対して平行な磁界(縦磁界)が発生する。このようにしてアークに縦磁界を加えると、荷電粒子を径方向に拡散させることでアークを安定させ、その結果、電流密度を小さくして電極部の局所的な温度上昇を抑え、遮断能力を増大させることができる。一方、特許文献2に示す縦磁界電極では、カップ状の電極にスリットを入れている。このようにスリットを入れることにより電流が円周方向に流れて縦磁界が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57―199126号公報
【特許文献1】特開2002―298708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す縦磁界電極は、電極棒が接続される円盤状のコイル導体の中心部から放射状に外周部まで伸びる複数の通電経路に集中して流れる電流が発生する磁場が、縦磁場発生箇所で、互いに打消し合うため、縦方向の磁場が局所的に弱まるという問題がある。また、縦磁界を発生させるコイル導体は、断面積を狭く、長くした方が磁場は強くなるが、抵抗値が高くなり、通電電流を上げた場合、発熱量(電流値の二乗×抵抗)が増えるため、真空バルブ導体部の温度が上昇するという問題があった。
【0005】
また、特許文献2に示すカップ状電極は、電極棒と接続される中心部からコイル外周部までの通電経路が特許文献1に示す縦磁界電極よりも短く、低抵抗となるので温度上昇は抑えられるが、次のような問題がある。電流は最短経路を通って流れるため、縦磁場発生箇所はスリットが入った箇所の内側部分となる。すなわち、特許文献1に示した構造よりも縦磁場発生箇所の面積が狭くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような欠点を解消することで、通電電流が増大しても、導体部の温度上昇が抑えられ、縦磁界を広範囲に発生させることで遮断性能が確保される構成を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る真空バルブにおいては、電極棒の一端に中心部が接続されて縦磁界を発生する円板状のコイル導体、および上記コイル導体と対向してそれぞれの外周部で接続される板状の接点を有した一方の電極と、上記一方の電極と接離可能に設けられた他方の電極とが、内部を真空に保持した絶縁容器に収納され、上記コイル導体は、上記コイル導体の外周部に設けられて上記接点の外周部と接続される突出部と、上記突出部の近傍の上記コイル導体の外縁から中心へ向かって伸びる外部スリットと、上記外部スリットと連続して前記突出部の内周側に円弧状に設けられた内部スリットとを有するものである。
【発明の効果】
【0008】
縦磁界を効果的に発生させつつ、通電電流が増大しても温度上昇が抑制される電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る真空バルブの全体を示す部分断面をとった正面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る真空バルブの電極の断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る真空バルブの電極の一部材であるコイル導体を示す斜視図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る真空バルブの電極の一部材であるコイル導体を示す平面図である。
【図5】従来技術での真空バルブの電極のコイル導体を流れる電流の態様を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る真空バルブの電極の断面図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る真空バルブの電極の一部材であるコイル導体を示す斜視図である。
【図8】この発明の実施の形態3による真空バルブの全体を示す部分断面をとった正面図である。
【図9】この発明の実施の形態3による真空バルブの電極を示す斜視分解図である。
【図10】この発明の実施の形態3による真空バルブの電極の一部材であるコイル導体を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る真空バルブの全体を示す正面図であり、図2は、図1に示した真空バルブの電極の断面図である。図3は、図2に示した電極の一部材であるコイル導体1を取り出して示す斜視図であり、図4は、図3の平面図である。
【0011】
図1に示すように、真空バルブは、一般にセラミックスまたはガラスによりなる絶縁円筒10の両端開口が、固定側フランジ13a、可動側フランジ13bでそれぞれ密封され、気密な容器を構成している。固定側フランジ13aには、固定側電極棒3aが貫通固定されている。固定側電極棒3aの一端には、円板状のコイル導体1の中心部と接続されている。一方、可動側電極棒3bと可動側フランジ13bの開口部がベローズ11により気密に連結され、これにより真空バルブ内の真空を保持しつつ可動側電極棒3bを動作させることができる。また、電流遮断時に接点2及びコイル導体1から飛散する金属蒸気や金属溶解片が絶縁円筒10の内面に付着し、沿面の絶縁性能が低下するのを防ぐためにシールド12が設けられている。
【0012】
この実施の形態では、固定側電極棒3aおよび可動側電極棒3bを、それぞれ構成部品とする固定側の電極および可動側の電極の接点2側の端部形状を同一としているので、以下においては、固定側電極棒3a又は可動側電極棒3bを電極棒3として、図2にて上記電極の構成を説明する。
【0013】
上記電極は、円板状のコイル導体1と、コイル導体1の外周部に設けられた突出部1aにてコイル導体1と接続される接点2と、コイル導体1の内部に収納され、接点2の裏面に当接してコイル導体1の底面と接点2とを結合する補強部材4とを備えている。電極棒3は、補強部材4を介して、接点2を支えている。
【0014】
図3および4に示すように、コイル導体1は、突出部1aを複数個(図では4個)備えている。突出部1aは、コイル導体1の外周に沿った円弧状に形成され、突出部1aが接点2の外周部に当接してこの接点2とコイル導体1との間で電気的な接続を確保している。また、コイル導体1は、突出部1aの外縁から径方向に突出部1aに沿って設けられた外部スリット5、および外部スリット5と連続して設けられ突出部1aの内周に沿って設けられた内部スリット6を設けることで、外周に複数の円弧状の電路を構成している。
【0015】
接点2は、円板状の部材である。補強部材4は、円板の下に丸棒が接続された構造であり、補強部材4に電流が流れることで、コイル導体1に流れる電流が低減して、磁場を低下させることを防ぐため、導電率が低く、強度が高い材料で形成され、コイル導体1に設けられた円形の穴によって位置決めされる。電極棒3は円柱状の金属棒で、コイル導体1の中心部と接続される。
【0016】
図4には、コイル導体1を流れる電流の態様を示している。これと対比するため、図5に、従来電極におけるコイル導体1を流れる電流の態様を示す。図4および5に矢印で示したのが通電経路である。図4の通電経路の断面積が狭い箇所が、図5の対応する箇所(外周部までの第1通電経路20a)より短くなるため、通常用いられるコイル径において約1〜2μΩ程度、通電路の抵抗値を下げることができる。
【0017】
また、この実施の形態では、コイル導体1の中心部から外周部の上記円弧状の電路までの電流が分散して流れるので、従来の電極のように、電流が第1通電経路20aおよび第2通電経路20bを集中して流れて、これらの電流が発生する磁場が縦磁場発生箇所21で互いに打消し合う方向に働くことがなく、この打消しにより発生する局所な縦磁場強度の低下が生じないので、広い面積で強い一様な縦磁界を発生させることができる。
【0018】
以上より、この実施の形態では、縦磁界を効果的に発生させると共に、抵抗値が減るので、通電電流を増やしても温度上昇が抑えられ、真空バルブの適用範囲が広がる効果がある。
【0019】
実施の形態2.
図6は、この実施の形態2に係る真空バルブの電極の断面図である。図7は、上記電極の一部材であるコイル導体1を示す斜視図である。図6および7において、図2および3と共通する箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0020】
この実施の形態に係るコイル導体1は、カップ状の導体からなり、突出部1aを複数個備え、突出部1aは、カップの開口側の外周部に外縁に沿った円弧状に形成されており、接点2に当接してこの接点2とコイル導体1との間の電気的な接続を確保している。また、コイル導体1は、突出部1aの外縁から径方向に突出部1aに沿って設けられた外部スリット5、および外部スリット5と連続してカップ底面の内周に沿って設けられた内部スリット6によって外周に複数の円弧状の電路を構成している。
【0021】
縦磁界発生の作用および効果は、上述の実施の形態1と同じであるが、この実施の形態では、実施の形態1と比べてコイル導体1をカップ状にすることでコイル部の断面積が増えるため、更に抵抗値が減り、温度上昇を一層抑えられるという効果がある。
【0022】
実施の形態3.
図8は、この実施の形態3に係る真空バルブを示す全体正面図であり、可動側と固定側とで構成される一対の電極を有している。図9は、前記真空バルブにおける一方の電極の斜視分解図、図10は前記電極におけるコイル導体1の平面図である。これらの図において、図1乃至7と共通する箇所には同一符号を付して説明を省略する。また、図9および10においては、上記一対の電極が基本的には同じ構成を有していることから、固定側コイル導体a又は可動側コイル導体9bを円筒形のコイル導体9として表している。
【0023】
真空バルブは、円筒からなる固定側コイル導体9a、可動側コイル導体9bを備え、これら円筒コイル導体9a、9bは、円筒の周上に円弧状に形成された突出部1aを複数個備え、突出部1a端から円筒の軸に垂直に垂直スリット7が設けられ、垂直スリット7に連続して円筒の周方向に水平スリット8が設けられ、コイルを形成する。突出部1aが接点2に当接して、それぞれ接点2と円筒コイル導体9a、9bとの間で電気的な接続を確保するように構成されている。
【0024】
また、接点2は、補強部材4を介して補強部材支え14によって保持されている。円筒からなる可動側コイル導体9bと可動側フランジ13bの開口部がベローズ11により気密に連結され、これにより真空バルブ内の真空を保持しつつ可動側コイル導体9bを動作させることができる。
【0025】
縦磁界発生の作用および効果は上述の実施の形態1および2と同じであるが、この実施の形態では、実施の形態1および2と比べて、それぞれ電極棒と円筒コイル導体9a、9bが一体化しているので、部品点数を削減できる効果がある。
【符号の説明】
【0026】
1 コイル導体、1a 突出部、2 接点、3 電極棒、3a 固定側電極棒、3b 可動側電極棒、4 補強部材、5 外部スリット、6 内部スリット、7 垂直スリット、8 水平スリット、9 円筒形のコイル導体、9a 固定側コイル導体、9b 可動側コイル導体、10 絶縁円筒、11 ベローズ、12 シールド、13a 固定側フランジ、13b 可動側フランジ、14 補強部材支え、20a 外周部までの第1通電経路、20b 外周部までの第2通電経路、21 縦磁場発生箇所。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極棒の一端に中心部が接続されて縦磁界を発生する円板状のコイル導体、および上記コイル導体と対向してそれぞれの外周部で接続される板状の接点を有した一方の電極と、上記一方の電極と接離可能に設けられた他方の電極とが、内部を真空に保持した絶縁容器に収納された真空バルブにおいて、
上記コイル導体は、上記コイル導体の外周部に設けられて上記接点の外周部と接続される突出部と、上記突出部の近傍の上記コイル導体の外縁から中心へ向かって伸びる外部スリットと、上記外部スリットと連続して前記突出部の内周側に円弧状に設けられた内部スリットとを有することを特徴とする真空バルブ。
【請求項2】
一方の電極を他方の電極と同形状としたことを特徴とする請求項1記載の真空バルブ。
【請求項3】
コイル導体は、底面にて電極棒と接続されたカップ形状であり、上記カップ形状の開口側の外周部に突出部を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の真空バルブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate