説明

真空吸着自走式台車

【目的】 受圧本体と壁面のあいだの摩擦抵抗を小さくし、大きな牽引力を得る。
【構成】 壁面26を転動する車輪5a,5bを備えた台車本体1に圧着手段10を介して取付けられた受圧本体7と、この受圧本体7の周囲と壁面のあいだにシール水を供給するシール水供給手段8,9と、受圧本体と壁面のあいだを排気する排気手段17とを備えた構造とする。また、台車本体1には、前輪5aと後輪5bを備えた1対のフレーム2a,2bを取付け、このフレームの一つ2aは台車本体に固着し、他の一つ2bは台車本体に回動自在に取付けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、船体や貯油タンクのような水平ないし鉛直な壁面に真空吸着し、且つ壁面に沿って移動して作業する真空吸着自走式台車に関する。
【0002】
【従来の技術】船体や貯油タンク等の鉛直な、または傾斜した壁面に吸着して移動することができる装置としては、例えば実公昭57-56943号公報のように、受圧本体と、この受圧本体に設置され壁面を接触する複数個の車輪と、この受圧本体に装着されその自由端部が壁面に接触する少なくとも自由端部が柔軟な材料から形成された吸着パッドによって規定される減圧領域内から空気を排出する真空生成手段と、から構成された装置が知られている。
【0003】このような装置においては、真空生成手段の作用によって減圧領域内外の流体の圧力差に起因して受圧本体に作用する流体圧力も車輪を介して壁面に伝えるか、または、受圧本体をシリンダにより引張りその反力として車輪を壁面に押し当てることによって装置を壁面に吸着させるようにしている。そして、この受圧本体で吸着しながら、電動モータの如き駆動手段により車輪を駆動して壁面を移動できるようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら前述した公知の装置には以下の問題がある。
【0005】第1に装置の牽引力は、受圧本体をシリンダにより引張りその反力が車輪を壁面に押し当て、この力により車輪と壁面が摩擦し生成される。また受圧本体は壁面を真空吸着しながら移動するため受圧本体と壁面の摩擦により牽引力を減ずる摩擦力が生成される。第2に受圧本体と壁面の摩擦により受圧本体の摩擦が甚だしく寿命が短くなる。
【0006】上記課題を受け本発明は受圧本体と壁面の間の摩擦抵抗を極力小さくすると共に大きな牽引力を得ることができる真空吸着自走式台車を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記目的を達成するため、前輪および後輪が取付けられた1対のフレームを台車本体の両側面に配置して、その一方のフレームを、固定すると共に他方のフレームを軸受を介して回動可能に取付け前記台車本体上に固定された圧着手段(シリンダ)の先端と受圧本体を連結し受圧本体と走行壁面の間に水シールを生成する構成とするものである。
【0008】
【作用】このような構成の真空吸着自走式台車にあっては、台車本体に取付けられた一対のフレームは、その一方が固定され、他方が軸受を介して回動可能になっているので各フレームに取付けられた前輪と後輪は常に壁面の屈曲に追従して移動する。また壁面に真空吸着している受圧本体をシリンダにより引張り、その反力として車輪を壁面に押し当て車輪と壁面の摩擦により牽引力が生成される。
【0009】そして、牽引力を減ずる方向に作用する受圧本体と壁面の摩擦力は、受圧本体と壁面の間に水シールを生成することにより、従来技術の概ね1/10以下に減ずる。
【0010】
【実施例】
(実施例の構成)以下本発明の一実施例を図面を参照して説明する。図1は実施例による真空吸着自走式台車の構成を示す平面図、図2は側面図、図3は受圧本体の断面拡大図、図4は全体の系統図である。
【0011】図1〜図4に示すように台車本体1の左右側面に1対のフレーム2a,2bを配置し、その一方のフレーム2aは台車本体1に2箇のボルト3により取付ける。他方のフレーム2bは台車本体1の一箇所に軸受4を介して回動可能に取付ける。これら1対のフレーム2a,2bの前後端部に前輪5aと後輪5b、これら車輪を駆動するモータ6をそれぞれ取付ける。
【0012】フレーム2a,2bの間に鋼板の如き剛性または半剛性の材料から形成された円板状の受圧本体7を設ける。この受圧本体7は、その周囲に給水配管8と水ガイド9を取付け、台車本体1に固定された1個のシリンダ10のロッド先端と球面継手11を介して連結する。給水配管8は周囲に散水用の小さな散水穴12を多数有し、給水用フレキシブルホース13, 14を介して台車本体1より遠方に設置してある給水ポンプ15を介して貯水タンク16と接続する。
【0013】また、受圧本体7の中央近傍に設けた排気管17は排気用フレキシブルホース18に接続し、台車本体1を出て遠方に設置してある分離器19に接続する。そして分離器19の排気側は圧力調整弁20を介して排気装置21と接続する。分離器19の排水口は排水ポンプ22を介して貯水タンク16と接続する。
【0014】前記シリンダ10の給排気口はホースで電磁弁23に接続する。この電磁弁23は台車1に取付ける。その電磁弁23の給気側はホースにて遠方の減圧弁24を介して圧縮空気供給装置25と接続する。
(実施例の作用)次にこのように構成された真空吸着自走式台車の作用について述べる。まず鉛直壁面26を垂直上昇走行するときの作用を図5によりその力関係を説明する。
【0015】受圧本体7の真空吸着力をFv とする。シリンダ10の引張力Fc の反力として前輪、後輪が壁面26をFa の力で押付け、その合計はFc に等しい。ここで前輪、後輪と壁面6、受圧本体7と壁面6の間の摩擦係数をそれぞれμa ,μv とし真空吸着自走式台車の自重をwとすれば垂直上昇走行する牽引力fは f=Fc ・μa −w−μv ・(Fv −Fc ) ……(A)式となる。一方、吸着が離れない条件は、真空吸着自走式台車の重心から壁面26までの距離をl1 ,後輪の中心より受圧本体7の中心までの距離をl2 とすれば wl1 <(Fv −Fc )l2 ……(B)式となる。
【0016】(B)式より(Fv −Fc )が大きいことが、吸着が離れない条件に有利となることが判る。一方(A)式ではμv (Fv −Fc )が、小さいことが牽引力fを大きくする上で有利となることが判る。このことからμv を小さくすることが、吸着が離れない条件を満足しつつ牽引力fを大きくする上で有利であることが判る。
【0017】本実施例においてはこの摩擦係数μv が小さいことを、図3〜図4により説明する。給水ポンプ15により給水配管8へ水が送水され給水穴12より受圧本体7の外周に水が散水され、水ガイド9にて外周に均一に水が拡がる。次に排気装置21で吸引すると受圧本体7の内部が負圧になり壁面26と受圧本体7の隙間から外気と共に前記水が吸引される。この時、受圧本体7と壁面26の間に空気と水の混合した水シールが膜状に生成される。排気装置21の吸引流量を給水ポンプ15の給水量より非常に大きくなるとシール水は、受圧本体内で霧状になり排気用フレキシブルホース18を介して分離器19に集められ、水と空気に分離される。分離された水は、排水ポンプ22により貯水タンク16に回収され再び給水ポンプ15にて送水される。一方、空気排気装置21により外気に放出される。
(実施例の効果)
【0018】以上の説明から明らかなように、本実施例は、受圧本体と壁面の摩擦力を減らして真空吸着自走式台車の牽引力を大きくすることができ、また、摩擦を低減することにより受圧本体の寿命を長くすることができる。
(他の実施例)本実施例では、受圧本体の外周に給水配管を設ける構成としたが、図6に示すように受圧本体に給水穴27を設けるように構成してもよい。
【0019】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、鉛直な壁面を垂直上昇するような場合でも壁面を安定した吸着力で吸着しながら、大きな牽引力にてスムーズに移動することができる、真空吸着自走式台車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の真空吸着自走式台車の平面図。
【図2】上記実施例の側面図。
【図3】上記実施例の受圧本体の断面拡大図。
【図4】上記実施例の全体の構成図。
【図5】上記実施例の台車の垂直上昇時の力関係図。
【図6】他の実施例を示す図。
【符号の説明】
1…台車本体 2a,2b…フレーム
3…ボルト 4…軸受
5a,5b…車輪 6…モータ
7…受圧本体 8…給水配管
9…水ガイド 10…シリンダ
11…球面継手 12…散水穴
13, 14…給水用フレキシブルホース
15…給水ポンプ 16…貯水タンク
17…排気管
18…排気用フレキシブルホース
19…分離器 20…圧力調整弁
21…排気装置 22…排水ポンプ
23…電磁弁 24…減圧弁
25…圧縮空気供給装置 26…壁面
27…給水穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】 壁面を転動する車輪を備えた台車本体に圧着手段を介して取付けられた受圧本体と、この受圧本体の周囲と壁面のあいだにシール水を供給するシール水供給手段と、受圧本体と壁面のあいだを排気する排気手段とを備えたことを特徴とする真空吸着自走式台車。
【請求項2】 台車本体には、前輪と後輪を備えた1対のフレームを取付け、このフレームの一つは台車本体に固着し、他の一つは台車本体に回動自在に取付けたことを特徴とする請求項1記載の真空吸着自走式台車。

【図3】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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