説明

真空断熱構造体

【課題】スペーサを介した伝熱を抑制するとともに、平面性を確実に維持する。
【解決手段】対向する第1および第2金属板10A,10Bの間に形成した内部空間19を真空排気してなる真空断熱構造体において、金属板10A,10Bの対向する内面側にそれぞれ配設され、これら金属板10A,10Bより硬質な第1および第2補強板21A,21Bと、これら補強板21A,21Bの間に配設され、金属板10A,10Bより熱伝導率が小さく硬質な多数のスペーサ23と、補強板21A,21Bの間に配設され、金属板10A,10Bより熱伝導率が小さく、スペーサ23を所定位置に位置決めする位置決め部26を有する位置決め部材24と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉じられた内部空間を真空排気した真空断熱構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加熱炉や冷蔵庫は、その壁面に断熱材を敷設することにより外気との断熱を図っている。また、断熱材は、加熱炉や冷蔵庫に限られず、ゴム成形品や樹脂成形品の金型にも使用される。
【0003】
具体的には、ゴム成形金型や樹脂成形金型は、図15に示すように、上下方向に延びる機体1の上部に上枠2が配設され、下部に下枠3が配設されている。そのうち、上枠2には上型4が固定され、下枠3には下型5が固定されている。また、下枠3は、駆動手段であるシリンダ6によって上下方向に移動可能に構成されている。これら上下の型4,5は、枠2,3に対して取付板7A,7Bを介して固定されている。また、上下の型4,5は、成形時に所定温度に保持するために、加熱手段としてヒータを内蔵した加熱板8A,8Bが取付板7A,7Bに配設されている。そして、金型は、加熱板8A,8Bの熱が枠2,3に放熱することを防ぐために、加熱板8A,8Bと枠2,3の間に断熱材9A,9Bを配設している。
【0004】
特許文献1には、樹脂成形金型に使用する断熱材9A,9Bとして、複数の耐熱性合成紙と金属フィルムの積層体からなる断熱板が記載されている。しかし、断熱板には、加熱板8A,8Bからの熱だけではなく、シリンダ6を駆動することによる下型5の稼働時に大きな圧縮力が加わるため、熱と圧縮力により劣化する。よって、性能を維持するためには交換(メンテナンス)する必要がある。なお、圧縮力に対する耐久性を向上するには、耐熱性合成紙の密度を高くすれば良いが、この場合には熱伝導率が大きくなり、断熱性能が低下するため採用できない。
【0005】
また、断熱材9A,9Bとしては、一対の金属板10により閉じられた内部空間19を真空排気してなる真空断熱パネルが公知である。この真空断熱パネルは、断熱性能が良好であるため、加熱炉や冷蔵庫に限られず、樹脂成形金型などの広い用途への使用が要望されている。しかし、この真空断熱パネルは、金属板10間が空間となっているうえ、金属板10を通した伝熱の防止と加工の観点から、圧縮力に耐え得る強度の金属板10を使用することができない。
【0006】
特許文献2には、金属板10の間に耐熱性を有する多数の球状スペーサを配設した真空断熱パネルが記載されている。この真空断熱パネルは、球状スペーサによって耐圧性能を向上することができる。
【0007】
しかしながら、この真空断熱パネルの耐圧性能は、球状スペーサの数に比例する一方、球状スペーサの数を多くすると、球状スペーサを介した伝熱量が増加するため、断熱性能が低下する。また、金属板10は、圧縮力が加わると、次第に球状スペーサの配設位置が球面状に湾曲するため、平面性を維持することができない。この場合、球状スペーサを介した伝熱が増加するため、断熱性能が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−85919号公報
【特許文献2】特開2007−327549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、スペーサを介した伝熱を抑制するとともに、平面性を確実に維持できる真空断熱構造体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の真空断熱構造体は、対向する第1および第2金属板の間に形成した内部空間を真空排気してなる真空断熱構造体において、前記第1および第2金属板の対向する内面側にそれぞれ配設され、これら第1および第2金属板より硬質な第1および第2補強板と、これら第1および第2補強板の間に配設され、前記第1および第2金属板より熱伝導率が小さく硬質な多数のスペーサと、前記第1および第2補強板の間に配設され、前記第1および第2金属板より熱伝導率が小さく、前記スペーサを所定位置に位置決めする位置決め部を有する位置決め部材と、を備えた構成としている。
【0011】
この真空断熱構造体は、金属板間の内部空間を真空排気したものであるため、断熱性能が極めて良好である。また、金属板間には、金属板より熱伝導率が小さく硬質な多数のスペーサを配設しているため、高い圧縮力が加わっても破壊されることはない。しかも、金属板とスペーサとの間には、金属板より硬質な補強板を配設しているため、表面の金属板が塑性変形することを防止できる。その結果、金属板の平面性を維持できるため、変形に伴って断熱性能が低下することを防止できる。
【0012】
この真空断熱構造体では、前記位置決め部材は、球状をなす前記スペーサの直径より薄肉の繊維シートからなることが好ましい。このようにすれば、多数の球状スペーサを容易に所定位置に配置できる。しかも、位置決め部材は、少なくとも一方の補強板に接しないように配設することが可能であるため、この位置決め部材を介した伝熱を防止できる。
【0013】
また、前記位置決め部材の位置決め部は、球状をなす前記スペーサより小径の孔からなることが好ましい。このようにすれば、多数の球状スペーサを更に容易かつ所定位置に配置できる。しかも、位置決め部材を球状スペーサより薄肉としている場合には、この位置決め部材を補強板間の所定位置に配置することもできる。
【0014】
さらに、前記第1および第2金属板のうち少なくとも一方の外周部に、前記第1および第2補強板の外周部外側から、これら第1および第2補強板間に位置する接合部にかけて傾斜して延びる傾斜部を設けることが好ましい。このようにすれば、金属板の外周部に過剰な強度(剛性)部分が形成されることを防止できる。そのため、金属板に対して均一に荷重を加えることができる。
【0015】
この場合、前記傾斜部は、真空排気により金属板が撓んだ状態で、対向する金属板に接触しない傾斜角度であることが好ましい。このようにすれば、一方の金属板から他方の金属板への伝熱距離を確保できるため、断熱性能を向上できる。
【0016】
また、前記金属板の傾斜部を形成した外周部は、少なくとも前記位置決め部材に対して非接触状態をなすことが好ましい。このようにすれば、位置決め部材を介した伝熱を防止できる。
【0017】
さらに、前記傾斜部は、前記補強板の側に位置する第1斜面部と、前記接合部の側に位置する第2斜面部とを有し、前記第2斜面部と前記接合部とのなす角は、前記第1斜面部と前記接合部とのなす角より大きいことが好ましい。このようにすれば、製造上、真空断熱構造体は歪みが生じるが、平面度を有する断熱対象物に取り付けることにより、スペーサを均一に当接させて平面度をだすことができる。また、第1斜面部と第2斜面部との境界に形成される稜部、および、第2斜面部と接合部との境界に形成される稜部により、剛性を確保できる。よって、真空排気により第1斜面部が湾曲しても、対向面に接触することを防止できる。
【0018】
さらにまた、前記傾斜部に補強リブ部を設けてもよい。このようにすれば、傾斜部の剛性を高めることができるため、真空排気により傾斜部が湾曲して対向面に接触することを防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の真空断熱構造体では、金属板間の内部空間を真空排気したものであるため、断熱性能を向上できる。また、金属板間には、金属板より熱伝導率が小さく硬質な多数のスペーサを配設しているため、高い圧縮力が加わっても全体が破壊されることはない。しかも、金属板とスペーサとの間には、金属板より硬質な補強板を配設しているため、表面の金属板が塑性変形することを防止できる。その結果、金属板の平面性を維持できるため、断熱性能が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態の真空断熱構造体である真空断熱パネルを示す斜視図である。
【図2】(A),(B)は図1の要部断面図である。
【図3】真空断熱パネルの分解斜視図である。
【図4A】真空断熱パネルの製造工程の第1段階を示す斜視図である。
【図4B】真空断熱パネルの製造工程の第2段階を示す斜視図である。
【図4C】真空断熱パネルの製造工程の第3段階を示す斜視図である。
【図5A】真空断熱パネルの製造工程の第1段階を示す断面図である。
【図5B】真空断熱パネルの製造工程の第2段階を示す断面図である。
【図5C】真空断熱パネルの製造工程の第3段階を示す断面図である。
【図6】第2実施形態の真空断熱パネルを示す断面図である。
【図7】第3実施形態の真空断熱パネルを示す断面図である。
【図8】第4実施形態の真空断熱パネルを示す断面図である。
【図9】第5実施形態の真空断熱パネルを示す断面図である。
【図10】第6実施形態の真空断熱パネルの金属板を示す要部分解斜視図である。
【図11】第6実施形態の真空断熱パネルの要部断面図である。
【図12】第7実施形態の真空断熱パネルの金属板を示す要部分解斜視図である。
【図13】第7実施形態の真空断熱パネルの要部断面図である。
【図14】実験結果を示す図表である。
【図15】真空断熱パネルの使用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0022】
図1乃至図5は、本発明の第1実施形態に係る真空断熱構造体である真空断熱パネルを示す。この真空断熱パネルは、図1、図2(A),(B)および図3に示すように、一対の金属板10A,10B内に形成される内部空間19に、補強板21A,21Bと、多数のスペーサ23と、位置決め部材24と、金属箔27A,27Bとを配設したものである。なお、金属板10A,10Bの内部所定位置には、真空排気後に内部空間19で発生したガス等を吸収し、所望の真空度を維持するためのゲッター(図示せず)が配設されている。
【0023】
第1および第2の金属板10A,10Bは、熱伝導率が低く、加工性に優れた薄肉(約0.5mm)のステンレス(SUS304)により構成されている。これら金属板10A,10Bは、それぞれ矩形状をなす配設部11A,11Bを有し、その外周部には屈曲された傾斜部14A,14Bと、傾斜部14A,14Bの端縁からフランジ状をなすように外向きに屈曲された接合部17A,17Bが形成されている。
【0024】
配設部11A,11Bは平面状をなし、その一方が断熱対象物に接触させた状態で配置されるものである。これら配設部11A,11Bには、所定位置に略逆円錐台形状に窪む取付凹部12が設けられている。この取付凹部12は、その外周部が傾斜部14A,14Bと同様の傾斜部13A,13Bとされている。また、取付凹部12には、接合部17A,17Bの接合後に同心円状をなすように取付孔12aが設けられ、傾斜部13A,13Bまでの周囲が形成後にTIG溶接等によって接合される。なお、配設部11A,11Bは、外周部が補強板21A,21Bの外側に位置するように、補強板21A,21Bより大きく形成されている。
【0025】
傾斜部14A,14Bは、配設部11A,11Bの外周部から内面側となる方向(補強板21A,21Bの側)に屈曲された第1斜面部15と、この第1斜面部15の外端から更に内向きに屈曲された第2斜面部16とからなる。同様に、傾斜部13A,13Bは、配設部11A,11Bの取付凹部12の形成位置から内面側に屈曲された第1斜面部15と、この第1斜面部15の内端から更に内向きに屈曲された第2斜面部16とからなる。本実施形態の第2斜面部16は、内向きに湾曲した曲面により構成されている。このように構成した傾斜部14A,14Bは、第2斜面部16の接平面と接合部17A,17Bとのなす角βが、第1斜面部15と接合部17A,17Bとのなす角αより大きい。同様に、傾斜部13A,13Bは、第2斜面部16の接平面と取付凹部12の底面とのなす角βが、第1斜面部15と取付凹部12の底面とのなす角αより大きい。言い換えれば、第2斜面部16は、接合部17A,17Bまたは取付凹部12の底面に対して鈍角に屈曲され、その延び方向は圧縮力が加わる方向に近くなる。よって、この第2斜面部16は、剛性を高める屈曲部の役割をなす。また、これら斜面部15,16は、平面状をなす第1斜面部15,15が真空排気により撓んでも、互いに接触しない傾斜角度(α,β)となるように構成されている。
【0026】
接合部17A,17Bは、互いに重畳するように位置決めされ、シーム溶接等の圧着接合またはTIG溶接等の突き合わせ溶接、MIGブレージング等によって接合されている。これら接合部17A,17Bは、組立状態では一対の補強板21A,21Bの間に位置する。そして、これら接合部17A,17Bの4隅には、断熱対象物への装着時に位置決めするための位置決め孔18が設けられている。
【0027】
このように構成した金属板10A,10Bは、互いの接合部17A,17Bを接合した状態では、各傾斜部14A,14Bおよび13A,13Bにより互いの配設部11A,11B間に所定間隔(約6mm)の内部空間19が形成される。また、図3に示すように、接合前の第1の金属板10Aは、一辺の接合部17A−1が外向きに突出するように延設され、その延設部分に円筒形状をなすように突出する排気部20が形成されている。この排気部20は、内部空間19と連通するように開口させるだけでもよいし、チップ管を接合してもよい。同様に、第2の金属板10Bには、排気部20の下面を閉塞するように一辺の接合部17B−1が延設されている。これら接合部17A−1,17B−1は、排気部20から内部空間19を真空排気し、排気部20の内方を接合した後に、切断される。
【0028】
補強板21A,21Bは、第1および第2の金属板10A,10Bの配設部11A,11Bの内面側に金属箔27A,27Bを介して配設されるものである。これら補強板21A,21Bは、配設部11A,11Bより小さい平坦な矩形状をなし、取付凹部12との対応位置に取付凹部12より直径が大きい挿通孔22が設けられている。本実施形態の補強板21A,21Bは、第1および第2の金属板10A,10Bより硬度(ビッカース硬さ)が高いステンレス(SUS301またはSUS630)により形成されている。ここで、本実施形態において、金属板10A,10Bを構成するSUS304は、ビッカース硬さが約200HVであり、補強板21A,21Bを構成するSUS301またはSUS630は、ビッカース硬さが約500HVである。但し、この補強板21A,21Bは、金属板10A,10Bより熱伝導率も高い。そして、この補強板21A,21Bの肉厚は、スペーサ23の配設数と、製造後に加わる圧縮力とで設定(約0.5mm)される。
【0029】
スペーサ23は、第1および第2の補強板21A,21Bの間に配設される球状のものである。このスペーサ23は、金属板10A,10Bより熱伝導率が低く耐熱性が高い、硬質(ビッカーズ硬さ1150〜1200HV)なセラミックの一種であるジルコニア(Zro)により形成されている。本実施形態のスペーサ23は、補強板21A,21Bの間にマトリクス状をなすように縦横に所定間隔をもって配設され、その直径は、内部空間19の間隔と補強板21A,21Bの肉厚を減算した寸法(約5mm)で形成されている。なお、スペーサ23はセラミックボールに限られず、シリカ(SiO)製や耐熱性樹脂製であってもよく、熱伝導率が低く硬質なものであればいずれでもよい。また、スペーサ23の配設数は、自身の耐圧強度と、製造後に加わる圧縮力(必要耐圧強度)に応じて設定される。
【0030】
位置決め部材24は、スペーサ23を所定位置に位置決めして補強板21A,21Bの間に配設するためのものである。この位置決め部材24は、第1および第2の金属板10A,10Bより熱伝導率が小さく、可撓性を有する軟質な繊維シートからなる。本実施形態の位置決め部材24は、短いガラス繊維またはセラミック繊維からなり、配設部11A,11Bと同一面積の矩形状で、肉厚はスペーサ23の直径より薄肉(3mm)に形成されている。また、位置決め部材24は、補強板21A,21Bと同様に、取付凹部12との対応位置に取付凹部12より直径が大きい挿通孔25が形成されている。これにより、位置決め部材24は、組付状態で金属板10A,10Bの取付凹部12および傾斜部14A,14Bに接触しないように構成している。さらに、位置決め部材24には、スペーサ23を配設する位置に、このスペーサ23より小径(約4mm)の貫通孔からなる位置決め部26が設けられている。これにより、位置決め部材24は、補強板21A,21Bの両方または一方に対して非接触状態を維持した状態で配置できるように構成している。なお、位置決め部材24を一方の補強板21A,21Bに接触させる場合には、その接触側の金属板10A,10Bの配設部11A,11Bは、断熱による低温側に位置させることが好ましい。
【0031】
金属箔27A,27Bは、金属板10A,10Bと補強板21A,21Bとの間にそれぞれ配設することにより、輻射伝熱を防止するものである。この金属箔27A,27Bは、銅やアルミニウムからなり、金属板10A,10Bの配設部11A,11Bと同一面積の矩形状に形成され、取付凹部12の対応位置には挿通孔28が形成されている。
【0032】
次に、これらの構成部材からなる真空断熱パネルの製造方法を、図4および図5を参照して説明する。なお、図4は、薄墨を付した部分が接合された状態を意味する。
【0033】
図3に示すように、組立前の金属板10A,10Bには、取付凹部12は形成されているが、取付孔12aおよび位置決め孔18は設けられていない。また、前述のように、一辺の接合部17A−1,17B−1は延設された状態をなす。
【0034】
この状態で、例えば、第2の金属板10Bの内面側に金属箔27Bを配置した後、その上側に第2の補強板21Bを配置する。ついで、補強板21Bの上側にスペーサ23を配設した位置決め部材24を配置する。この際、スペーサ23は、その中心を位置決め部材24の肉厚の中央に位置させ、位置決め部材24の両表面から一部が突出するように、予め配置する。ついで、スペーサ23の上側に第1の補強板21Aを配置した後、その上側に金属箔27Aを配置する。そして最後に、その上側に被せるように第1の金属板10Aを配置する。なお、第1の金属板10Aに対して各部材を配設してもよいことは言うまでもない。
【0035】
このようにして第1および第2の金属板10A,10B内に各部材を収容させると、図4Aおよび図5Aに示すように、重畳された接合部17A,17Bを接合する。この際、接合部17A−1,17B−1は、排気部20から傾斜部14A,14Bにかけた領域を除いて接合する。
【0036】
ついで、図4Bおよび図5Bに示すように、プレス等によって取付凹部12内に取付孔12aを設けるとともに、接合部17A,17Bの4隅に位置決め孔18を設ける。その後、取付孔12aの周囲に位置する取付凹部12の傾斜部13A,13Bまでの残存部分を、互いに接合する。
【0037】
この状態で、排気部20に周知の排気装置を接続して、内部空間19が所定の真空度に達するまで真空排気する。なお、この真空排気は、排気部20から傾斜部14A,14Bにかけた所定領域を接合していないため、その隙間から十分に排気可能である。
【0038】
そして、内部空間19を所定の真空度まで排気すると、図4Cおよび図5Cに示すように、排気部20と傾斜部14A,14Bの間の非接合領域を接合して内部空間19を密封する。その後、排気部20を含む接合部17A−1,17B−1の延設部分(不要部分)を切断する。
【0039】
このように、本発明の真空断熱パネルは、金属板10A,10B間の内部空間19を真空排気したものであるため、断熱性能が極めて良好である。そして、金属板10A,10Bと補強板21A,21Bとの間には、それぞれ輻射伝熱を防止する金属箔27A,27Bを配設しているため、断熱性能を向上できる。
【0040】
また、金属板10A,10B間には、金属板10A,10Bより熱伝導率が小さく硬質な多数のスペーサ23を配設しているため、高い圧縮力が加わっても破壊されることはなく、十分な耐圧強度を確保できる。しかも、金属板10A,10Bとスペーサ23との間には、金属板10A,10Bより硬質な補強板21A,21Bを配設しているため、表面の金属板10A,10Bがスペーサ23の形状に沿って塑性変形することを防止できる。その結果、スペーサ23は点接触状態が維持され、金属板10A,10Bも平面性を維持できる。よって、変形に伴って断熱性能が低下することを防止できるとともに、負荷される荷重の偏りを防止できる。
【0041】
さらに、本実施形態のスペーサ23は、位置決め部材24によって所定位置に配設されるため、組立作業性を向上できる。そして、位置決め部材24は、スペーサ23の直径より薄肉の繊維シートからなるため、少なくとも一方の補強板21A,21Bに接しないように配設することが可能であり、この位置決め部材24を介した伝熱を防止できる。しかも、位置決め部材24の位置決め部26は、球状のスペーサ23より小径の孔からなるため、スペーサ23を容易かつ確実に所定位置に配置できるうえ、この位置決め部材24を補強板21A,21B間の所定位置に配置することもできる。
【0042】
さらにまた、金属板10A,10Bの外周部には、補強板21A,21Bの外周部外側から接合部17A,17Bにかけて傾斜して延びる傾斜部14A,14Bを設けている。また、配設部11A,11Bに形成する内向きに窪む取付凹部12の外周部にも傾斜部13A,13Bを設けている。よって、金属板10A,10Bの外周部および配設部11A,11B内に過剰な強度(剛性)部分が形成されることを防止できる。そのため、金属板10A,10Bに対して均一に荷重を加えることができる。また、この傾斜部14A,14Bにより、断熱対象物の側に位置する金属板10A,10Bから、反対側に位置する金属板10B,10Aへの伝熱距離を確保できる。よって、断熱性能の向上を図ることができる。
【0043】
そして、傾斜部14A,14Bは、真空排気により撓んでも互いに接触しない傾斜角度に形成することにより、一方の金属板10A,10Bから他方の金属板10B,10Aへの伝熱距離を確保できるため、断熱性能を向上できる。また、傾斜部14A,14Bには、位置決め部材24が非接触状態をなすため、この位置決め部材24を介した伝熱を防止できる。
【0044】
しかも、傾斜部14A,14Bおよび13A,13Bは、第2斜面部16と接合部17A,17Bとのなす角βを、第1斜面部15と接合部17A,17Bとのなす角αより大きく形成している。そのため、第1斜面部15にて配設部11A,11Bを断熱対象物に対して確実に面接触させることができる。因みに、真空断熱パネルは、製造上、歪みが生じることを避けることはできない。しかし、本実施形態の真空断熱パネルは、平面度を有する断熱対象物に取り付けることにより、スペーサ23を均一に当接させて平面度をだすことができる。また、第1斜面部15と第2斜面部16との境界に形成される稜部、および、第2斜面部16と接合部17A,17Bとの境界に形成される稜部により、剛性を確保できる。よって、真空排気により第1斜面部15が湾曲しても、対向面に接触することを確実に防止できる。
【0045】
図6は第2実施形態の真空断熱パネルを示す。この第2実施形態では、第1および第2の金属板10A,10Bに平面状をなす一面の傾斜部14A,14Bを設けた点で、第1実施形態と相違する。なお、図示していないが、配設部11A,11Bに形成する取付凹部12の傾斜部13A,13Bも同様である。この第2実施形態の真空断熱パネルは、第1実施形態と同様に製造される。そして、第1実施形態と略同様の作用および効果を得ることができる。
【0046】
図7は第3実施形態の真空断熱パネルを示す。この第3実施形態では、第1および第2の金属板10A,10Bに、第2実施形態と同様に平面状をなす一面の傾斜部14A,14Bおよび13A,13Bを設け、この傾斜部14A,14Bおよび13A,13Bに、略長円形状をなすように内向きに窪む補強リブ部29を設けた点で、第2実施形態と相違する。この第3実施形態の真空断熱パネルは、傾斜部14A,14Bの剛性を高めることができるため、真空排気により傾斜部14A,14Bが湾曲して互いに接触することを防止できる。そして、第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0047】
図8は第4実施形態の真空断熱パネルを示す。この第4実施形態では、金属板10A,10Bの配設部11A,11Bおよび接合部17A,17Bの間に、傾斜部14A,14Bの代わりに圧縮力が加わる方向に沿って延びる外壁部14A’,14B’を設けた点で、各実施形態と大きく相違する。なお、図示していないが、配設部11A,11Bに形成する取付凹部12の傾斜部13A,13Bも同様である。この第4実施形態の真空断熱パネルは、各実施形態と同様に製造される。そして、各実施形態と略同様の作用および効果を得ることができる。
【0048】
図9は第5実施形態の真空断熱パネルを示す。この第5実施形態では、第1実施形態と同一の真空断熱パネルの配設部11A,11Bに、別体の取付板材30A,30Bを配設した点で、第1実施形態と相違する。なお、この第5実施形態では、第1実施形態の真空断熱パネルを用いているが、第2実施形態乃至第4実施形態のいずれかの真空断熱パネルを使用してもよい。
【0049】
取付板材30A,30Bは、熱伝導率が比較的低いステンレス(SUS304)により構成されている。これら取付板材30A,30Bは、金属板10A,10Bの接合部17A,17Bの外周縁形状と同一の矩形状をなし、その肉厚は、変形し難い厚肉(約5〜10mm)とされている。これら取付板材30A,30Bには、取付孔12aとの対応位置に同様の取付孔31が設けられ、位置決め孔18との対応位置に同様の位置決め孔18(図示せず)が設けられている。そして、上下に一致する位置決め孔18に取付治具を配設することにより一体化する一方、取付孔12a,31を通して所定の断熱対象物に取り付ける構成としている。
【0050】
このように構成した第5実施形態では、熱伝導率が低い取付板材30A,30Bを配設部11A,11Bに配設しているため、金属材料を通した伝熱効率は高くなる。しかし、断熱対象物に取り付けた状態で、高温側となる一方(例えば金属板10Aの側)と低温側となる他方(例えば金属板10Bの側)とは、薄肉の接合部17A,17Bだけで連続した状態をなす。そのため、一方から他方への伝熱効率は、各実施形態とは殆ど差異はない。よって、伝熱効率が低い取付板材30A,30Bを配設した分、断熱効率を向上できる。しかも、断熱対象物に対して面接触状態で配設するための設計が極めて良好となるうえ、製造時に金属板10A,10Bに歪みが生じても、取付板材30A,30Bでの挟み込みにより金属板10A,10Bの配設部11A,11Bの平面性を向上できる。
【0051】
図10および図11は第6実施形態の真空断熱パネルを示す。この第6実施形態では、金属板10A,10Bの接合部17A−1,17B−1に、支持突部33および支持部34を設け、排気効率を向上するための排気通路を形成した点で、各実施形態と相違している。なお、この第6実施形態では、第1実施形態の真空断熱パネルを用いているが、第2実施形態乃至第5実施形態のいずれかの真空断熱パネルを使用してもよい。
【0052】
具体的には、第1の金属板10Aの接合部17A−1には、各実施形態と同様の排気部20が設けられている。そして、この排気部20の周囲には、対向する第2の金属板10Bの接合部17B−1に当接する支持突部33が設けられている。この支持突部33は、平面視円形状をなすように内向きに窪むもので、排気部20と傾斜部14Aとの間、および、排気部20の両側に位置するように5個設けられている。また、第2の金属板20Bの接合部17B−1には、排気部20に当接して支持する支持部34が設けられている。この支持部34は、接合部17B−1の先端縁から傾斜部14Bに向けて平面視長円形状に延びる。また、支持部34は、全長が排気部20の直径より広く、幅が排気部20の直径より狭くなるように構成されている。
【0053】
このように構成した第6実施形態では、各実施形態と同様にして製造される。そして、この第6実施形態では、支持突部33および支持部34を形成しているため、真空排気する際の排気効率を向上できる。なお、真空排気後には、非接合領域を接合し、接合部17A−1,17B−1を切断後することにより、各実施形態と同様の完成状態となる。そして、この完成状態の真空断熱パネルは、各実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0054】
なお、この第6実施形態では、排気部20の両側に各一対の支持突部33を設けたが、連続した平面視長円形状をなす支持突部33を設けてもよい。
【0055】
図12および図13は第7実施形態の真空断熱パネルを示す。この第7実施形態では、排気部20を内向きに窪むように設け、第2の金属板10Bの接合部17B−1には、支持部34を設けない構成とした点で、第6実施形態と大きく相違している。このように構成した第7実施形態は、第6実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0056】
なお、発明者らは、本発明の構成による効果を確認するために、ゴム成形金型の枠2,3と加熱板8A,8Bとの間に、本発明の真空断熱パネルを配設した場合の放熱量(kw)を計算した。その結果を図14に示す。なお、比較例は、耐熱性樹脂からなる従来の断熱材である。第1実施例は、図8に示す第4実施形態の真空断熱パネルである。第2実施例は、図9に示す第5実施形態の真空断熱パネルである。第3実施例は、図9に示す第5実施形態の金属板10A,10Bの肉厚を0.3mmと薄くし、その分、取付板材30A,30Bの肉厚を厚くしたものである。
【0057】
この表に示すように、パネル周囲の放熱量(w)は、比較例、第1実施例、第2実施例および第3実施例の順番で低くなる。伝熱距離(m)は、比較例が20mmであるのに対し、第1実施例は7mmで、第2および第3実施例は27mmである。これらの熱伝導率(Kcal/m・hr・℃)は、断熱材の形成材料で決定され、比較例が0.3であるのに対し、各実施例は14である。そして、高温側(加熱板8A,8B側)の温度は180℃であり、低温側(枠2,3側)の温度は30℃である。また、各実施例は、取り付けるための取付孔12aを有するため、その部分からの放熱量(w)は、第1実施例、第2実施例および第3実施例の順番で低くなる。さらに、スペーサ23の熱伝導率(Kcal/m・hr・℃)は3.01であり、その放熱量(w)は72.2である。一方、加熱板8A,8Bの放射による放熱量(w)は41.6である。その結果、9時間稼働することによる放熱量(kw)は、比較例が5.9で、第1実施例が5.4で、第2実施例が1.9で、第3実施例が1.4となる。よって、上下からの総放熱量(kw)は、比較例が11.8で、第1実施例が10.8で、第2実施例が3.8で、第3実施例が2.8である。この結果から、本発明に係る実施形態の真空断熱パネルは、従来品より断熱性能が高いことが解る。しかも、本実施形態は、内部に配設したスペーサ23および補強板21A,21Bにより、その耐圧強度も希望に応じて設定できるという特有の効果を得ることができる。
【0058】
なお、本発明の真空断熱構造体は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0059】
例えば、第1実施形態では、傾斜部14A,14Bの第2斜面部16を湾曲面により構成したが、平面状に延びるように構成してもよい。また、各実施形態では、金属板10A,10Bに形成する傾斜部14A,14Bを対称な形状をなすように設けたが、非対称な形状としてもよい。さらに、各実施形態では、位置決め部材24をスペーサ23の直径より薄肉のものとしたが、厚肉のものを採用して補強板21A,21B間に圧接して配設する構成としてもよい。勿論、スペーサ23を位置決めする位置決め部26は、スペーサ23の直径以上のものとしてもよい。また、スペーサ23は、球状とすることにより両方の補強板21A,21Bに対して点接触する構成としたが、例えば三角柱形状とすることにより、一方の補強板21A,21Bだけに点接触する構成としてもよい。さらに、位置決め部材24の位置決め部26は、貫通した孔に限られず、一端が閉塞された穴であってもよい。
【0060】
そして、本実施形態の真空断熱パネルは、ゴム成形品や樹脂成形金型だけでなく、種々の用途に使用することができる。また、スペーサ23と補強板21A,21Bを配設するという本発明の構成は、平面状をなす真空断熱パネルに限られず、所定形状の真空断熱構造体でも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10A,10B…金属板
11A,11B…配設部
14A,14B…傾斜部
15…第1斜面部
16…第2斜面部
17A,17B…接合部
19…内部空間
21A,21B…補強板
23…スペーサ
24…位置決め部材
26…位置決め部
27A,27B…金属箔
29…補強リブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1および第2金属板の間に形成した内部空間を真空排気してなる真空断熱構造体において、
前記第1および第2金属板の対向する内面側にそれぞれ配設され、これら第1および第2金属板より硬質な第1および第2補強板と、
これら第1および第2補強板の間に配設され、前記第1および第2金属板より熱伝導率が小さく硬質な多数のスペーサと、
前記第1および第2補強板の間に配設され、前記第1および第2金属板より熱伝導率が小さく、前記スペーサを所定位置に位置決めする位置決め部を有する位置決め部材と、
を備えたことを特徴とする真空断熱構造体。
【請求項2】
前記位置決め部材は、球状をなす前記スペーサの直径より薄肉の繊維シートからなることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱構造体。
【請求項3】
前記位置決め部材の位置決め部は、球状をなす前記スペーサより小径の孔からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空断熱構造体。
【請求項4】
前記第1および第2金属板のうち少なくとも一方の外周部に、前記第1および第2補強板の外周部外側から、これら第1および第2補強板間に位置する接合部にかけて傾斜して延びる傾斜部を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の真空断熱構造体。
【請求項5】
前記傾斜部は、真空排気により金属板が撓んだ状態で、対向する金属板に接触しない傾斜角度であることを特徴とする請求項4に記載の真空断熱構造体。
【請求項6】
前記金属板の傾斜部を形成した外周部は、少なくとも前記位置決め部材に対して非接触状態をなすことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の真空断熱構造体。
【請求項7】
前記傾斜部は、前記補強板の側に位置する第1斜面部と、前記接合部の側に位置する第2斜面部とを有し、前記第2斜面部と前記接合部とのなす角は、前記第1斜面部と前記接合部とのなす角より大きいことを特徴とする請求項5乃至請求項6のいずれか1項に記載の真空断熱構造体。
【請求項8】
前記傾斜部に補強リブ部を設けたことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の真空断熱構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2011−122610(P2011−122610A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278591(P2009−278591)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【Fターム(参考)】