説明

眼における細胞死についての蛍光マーカー

本発明は、眼における細胞死を同定するための、波長最適化標識で標識した細胞死マーカーの使用に関する。適切な細胞死マーカーは、アネキシン並びにそのフラグメント及びその誘導体である。本発明はまた、波長最適化標識で標識した細胞死マーカーを含有する医薬組成物及び波長最適化標識で標識した細胞死マーカーを使用して眼における細胞死を観測するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死、特に眼におけるアポトーシス、特に網膜神経細胞の単一細胞の死の直接視覚化における使用のためのマーカーに関する。
【0002】
細胞プロセスを検出するための生細胞画像化は、培養細胞のインビトロアッセイにおいて使用される。しかし、これは、眼におけるインビボでの細胞レベルではこれまで適用されていなかった。神経細胞の喪失は、特定の神経変性障害、例えば緑内障、糖尿病性網膜症及びアルツハイマー病の最初期段階で起こるプロセスである。緑内障は世界中で不可逆的な失明の主要原因であり、40歳以上の人々の2%が罹患する。この状態は、その沈黙性と進行性の故に著しい罹患率を有するが、しばしば診断と治療の遅れを生じさせる。アルツハイマー病は、今後20年間にわたって罹患するアメリカ人が400万人から1200万人に増加すると予測される、最も一般的な単一形態の認知症である。緑内障並びに変性性脳疾患のような疾患の進行を評価するために、網膜神経細胞のアポトーシスを評価できることは有用である。
【0003】
本技術の開発を導いた、細胞死を検出するためのマーカー、マーカーの投与及び画像化機器の最適化により、本発明者らは、眼における単一細胞のアポトーシスの視覚化が可能であることを立証することができた。本発明者らは、内因性網膜自己蛍光及び負の影響、例えばマーカーに対する炎症性応答を含む、重大な難点を克服した。
【0004】
本発明によれば、眼における細胞死を同定するための、波長最適化標識に結合した細胞死マーカーの使用が提供される。開発された波長最適化標識は、シグナル対ノイズ比を改善することによって改善された画像品質を提供し、同時に他の標識に関連する毒性作用を低減する。
【0005】
また、波長最適化標識で標識した又は波長最適化標識に結合した細胞死マーカーを被験者に投与し、最適化された画像化装置を使用して被験者の眼から励起波長の画像を作製することを含む、眼において細胞死を同定する又は観測する方法が提供される。これは、眼における個別細胞のレベルの細胞死のリアルタイムでの数量化を可能にする。
【0006】
「細胞死」という用語は、例えば、その間に原形質膜の完全性の喪失が存在する、アポトーシス及び壊死による細胞の死を含む何らかのプロセスを指す。本発明は、死にかけている、例えばアポトーシスを受けつつある細胞を同定することを可能にする。
【0007】
「細胞死マーカー」という用語は、生細胞を死にかけている又は死滅した細胞から識別することを可能にするマーカーを指す。例えば、細胞死マーカーは、生細胞に特異的に結合するが死細胞若しくは死にかけている細胞には結合しない、又は死細胞若しくは死にかけている細胞に特異的に結合するが生細胞には結合しない化合物又は分子であることができる。細胞死マーカーは、例えばアネキシンファミリーのタンパク質を含む。アネキシンは、陽イオンの存在下で細胞膜に可逆的に結合するタンパク質である。本発明において有用なアネキシンは、天然又は組換えであることができる。このタンパク質は、全タンパク質でも、又は機能性フラグメント、すなわち全タンパク質と同じ分子に特異的に結合するアネキシンのフラグメント若しくは部分であることができる。また、そのようなタンパク質の機能性誘導体が使用されることもできる。様々なアネキシンが使用可能であり、例えば米国特許出願公開第2006/0134001A号に記載されているものが挙げられる。好ましいアネキシンは、当分野において周知のアネキシン5である。細胞死マーカーとして使用し得る他のアネキシンは、アネキシン11、2及び6を含む。細胞死、特にアポトーシスの他のマーカーは当分野において公知であり、例えばヨウ化プロピジウム及びシナプトタグミンのC2Aドメイン[Jung et al., Bioconjing Chem. 2004 Sep-Oct; 15(5):983-7]が含まれる。
【0008】
「波長最適化標識」という用語は、励起に反応して光を放出する物質であり、光毒性作用を回避するための光暴露安全性基準を順守しながら、高いシグナル対ノイズ比、そしてそれによる改善された画像解像度と感受性の故に使用のために選択された蛍光物質を指す。最適化波長は、赤外波長及び近赤外波長を含む。そのような標識は当分野で周知であり、染料、例えばIRDye700、IRDye800、D−776及びD−781が含まれる。また、そのような染料を他の分子、例えばタンパク質及び核酸に結合することによって形成される蛍光物質も包含される。最適化波長は、投与したとき炎症をほとんど又は全く生じさせないことが好ましい。好ましい波長最適化標識はD−776であり、他の染料が炎症を引き起こす可能性があるのに対し、D−776は眼においてほとんど又は全く炎症を生じさせないことが認められているためである。最適化染料はまた、好ましくは、組織学的に検出され得る蛍光のレベルとインビボで検出され得るレベルとの間の密接な相関を明らかにする。組織学的蛍光とインビボでの蛍光との間に実質的な相関、特に1:1の相関が存在することが特に好ましい。
【0009】
標識細胞死マーカーは、波長最適化標識をマーカー化合物に結合するための標準的な手法を使用して調製されることができる。そのような標識は、周知の供給源から、例えばDyomicsから入手し得る。標識をマーカーに結合するための適切な手法は当分野において公知であり、標識の製造者によって提供されることができる。
【0010】
細胞死の画像を作製するために、標識マーカーを、例えば静脈内注射によって、被験者に投与する。画像化される被験者の領域である眼を医用画像化装置の検出視野の中に位置づける。次に標識マーカーからの励起波長を撮像し、細胞死の領域のマップが提供されるように画像を構築する。細胞死が一定期間にわたって観測されるように画像の作製が反復されることができる。リアルタイムで観測されることができる。網膜細胞、特に網膜神経細胞の細胞死を観測することは特に好ましい。網膜神経細胞は、網膜神経節細胞、双極細胞、アマクリン細胞、水平細胞及び光受容細胞を含む。
【0011】
標識細胞死マーカーは局所的又は全身的に投与され得る。マーカーを投与するための方法は当分野において周知であり、例えば静脈内注射を含む。標識細胞死マーカーは静脈内投与されてきたが、本発明者らは、驚くべきことに、それらが、眼における視覚化を可能にする、血液網膜障壁を越えることを発見した。これまでの研究では、Alexa Fluor 488nm染料は、血液網膜障壁を越えるその能力が組織学的に明らかにされたにもかかわらず、静脈内投与後にインビボで検出できないことが示されていた。あるいは、より好ましくないが、標識細胞死マーカーは局所的又は経眼的に投与され得る。
【0012】
また、波長最適化マーカーで標識した細胞死マーカーを含有する、静脈内送達に適するように構成された医薬組成物、特に診断用組成物が提供される。あるいは、より好ましくないが、組成物は、眼投与又は局所投与にも適し得る。
【0013】
本発明では、単なる例示として、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】図1は、網膜自己蛍光によって影響されない発蛍光団を使用した場合のインビボ画像化と組織学的網膜神経節細胞アポトーシスとの間の相関を示し、これは、例えば、組織学の判断基準で認められるものに正確に対応するインビボでの単一細胞のアポトーシス計数の実施を可能にする。 図1aは、3週目の緑内障の動物モデルにおける組織学的網膜アポトーシスとインビボ画像化の比較を示す。インビボ画像の上の対応する共焦点顕微鏡検査(組織学)のオーバーレイは、組織学画像ではインビボ画像(バックグラウンド画像上の白色のスポット)よりも多くの硝子体内アネキシン−488で標識されたアポトーシス細胞(オーバーレイの灰色のスポット)を示す。
【図1B】図1bは、硝子体内アネキシンDy−776(赤色に標識されたスポット)を使用したスタウロスポリン処置ラット眼における、組織学、インビボ及びエクスビボ分析を用いた網膜の対応する領域の画像を示す。3つの方法すべての間で1:1の相関が明らかに認められる。
【図2A】図2aおよび2bは、SSP(a)及び緑内障(b)動物の組織学画像がアポトーシスを明らかにした、つまりマーカーが血液網膜障壁を越えていたことを証明した、にもかかわらず、静脈内アネキシン488(125μg)がインビボで視覚化できなかったことを実証するDARC(アポトーシスを起こしている網膜細胞の検出)網膜画像を示す。本発明者らは、この非最適化波長で遭遇される高レベルのバックグラウンド自己蛍光のためにインビボ画像化が不可能であると考えた。
【図2B】図2aおよび2bは、SSP(a)及び緑内障(b)動物の組織学画像がアポトーシスを明らかにした、つまりマーカーが血液網膜障壁を越えていたことを証明した、にもかかわらず、静脈内アネキシン488(125μg)がインビボで視覚化できなかったことを実証するDARC(アポトーシスを起こしている網膜細胞の検出)網膜画像を示す。本発明者らは、この非最適化波長で遭遇される高レベルのバックグラウンド自己蛍光のためにインビボ画像化が不可能であると考えた。
【図2C】図2cは、最適化波長、例えば赤外波長で、静脈内アネキシンDY−776(125μg)がSSP誘導性の単一網膜細胞アポトーシスをインビボで、及び組織学的に示すことができたことを明らかにする。
【図3】Dy−776単独(A)、アネキシン−DY−776(B)及びアネキシンIRDye800(C)で処置した網膜の反射及びDARC画像を示し、インビボでの網膜血管蛇行がIRDye800を使用して見られ得るが、D−776(単回又は反復注射で)では認められないことを明らかにする。
【図4】硝子体基底部における炎症細胞の存在を示す、IRDye800標識アネキシンで処置した眼の走査型電子顕微鏡写真である。多くの硝子体細胞だけでなくいくつかの炎症細胞も硝子体内で認められる。
【図5】トランスジェニックモデルにおける糖尿病性神経変性のDARC(アポトーシスを起こしている網膜細胞の検出)評価の結果を示す。アポトーシス網膜神経節細胞は、糖尿病性網膜(a)で認められるが、野生型年齢適合対照(b)では見られない。
【図6】眼において波長最適化された細胞死マーカーの視覚化の技術の方法を示す。簡単に述べると、波長最適化染料の静脈内注射(又は経眼的又は局所的又は他の方法)を実施し、それに続いて、最適の時間後に、最適化波長のレ−ザー光で励起し、検出した後、最適化波長の補正フィルターを用いて網膜の視覚化を達成する。
【図7】スタウロスポリン(7.14nmol又は0.2mg/ml)及びアネキシン488の硝子体内注射後の組織学的及びインビボでの同じラット眼の対応する領域の画像を示す。組織学と比較してインビボで撮像された陽性スポット(アネキシン488)の数との間には驚くほどの相違が存在し、はるかに多くが組織学的に認められる。
【図8】SSP処置後の3つの眼に関して撮影された対応する画像のインビボで認められるRGCアポトーシスの陽性スポットと比較した、組織学的検査での硝子体内投与したアネキシン488陽性スポットの平均計数を示すグラフである。組織学画像では有意に高い計数が存在する。
【図9】SSP処置眼におけるアネキシン488(0.2ml、25μg/ml)の静脈内投与の結果を示す。眼は、組織学的検査でアネキシン488陽性スポットを示したが、インビボでは何も示さなかった。
【図10】静脈内アネキシン488の投与の結果を示す。特に、硝子体内アネキシンと比較した場合、組織学的には同様の平均計数のアネキシン488陽性スポットが存在したが、インビボではごくわずかしか視覚化されなかった。
【図11】基線時及びスタウロスポリン(SSP)投与の2時間後の同じ眼のアネキシンAlexa Fluor 555を使用したインビボDARC画像を示す。アポトーシスを示す白色スポットがインビボで認められるが、非常にかすかである。
【図12】使用した赤外染料の3つの分子構造を示す。
【図13】蛍光タグの評価の結果を示す。評価した蛍光タグ全部の中で、アネキシン5と最も良好に結合した染料はDy−776であった。Dy−776は、アネキシンDy−776によるインビボ画像化及び組織学的検査で完全な相関(1:1)を示した。
【図14】IRDye800で標識したアネキシンの投与の結果を示す。緑内障のモデルへのアネキシンIRDye800の投与は、インビボでの網膜細胞アポトーシス標識の上昇を示した。しかし、組織学的画像と比較してインビボでの標識のレベルはまだ20%低かった。
【図15】投与の5日後の、種々の赤外蛍光染料と結合したアネキシン5の同じ用量で処置したラット眼を示す反射画像である。アネキシン5 Dy−776で処置した眼だけがこの時点で網膜血管蛇行を示さなかった。
【図16】インビボ像を見た盲検観察者によって等級づけられた網膜蛇行のレベルにおいて認められる相違を示すグラフである。DY−776及び対照と比較して硝子体内IRDye800及びDY−781を投与された眼では血管蛇行の有意の上昇が存在した。この事象は炎症を強く示唆した。
【図17】アネキシン5 IRDye800に関して眼の硝子体で認められたマクロファージの走査型電子顕微鏡画像であり、染料によって引き起こされた炎症の存在を確認する。
【図18】基線時及びスタウロスポリン(SSP)投与の2時間後の同じ眼のアネキシン11 Dy776を使用したインビボDARC画像を示す。白色のスポットは、アネキシン11がインビボでアポトーシスを検出するために使用し得ることを明らかに示す。
【図19】スタウロスポリン(SSP)で処置し、その後アネキシン488とヨウ化プロピジウム(PI)の両方を投与されたラット眼の画像を含む。異なる段階のSSP誘導性RGC死が、数時間にわたって追跡した眼の同じ領域の静止画像に示されている。SSP処置の2.0時間後(a)、2.5時間後(b)及び3.0時間後(c)の初期(陽性アネキシン488染色のみ)及び後期(陽性アネキシン488及びPI染色)アポトーシス及び壊死(PI染色のみ)段階の、アポトーシスを起こしている単一細胞を認めることができる。(d)この手法を使用して、連続的な段階のアポトーシス細胞死を受けている、同じ細胞(ポイント1及び2として矢印で示し、同定している)の経時的な変化を追跡することが可能である。どちらの細胞も、アネキシン5標識のピークがPIのピークより前に起こることを示し、マーカーの波長最適化が眼における細胞死の視覚化を導き得るという特許請求の範囲を裏付ける。
【図20】食塩水とSSPで処置した眼のインビボでのMC540標識の比較、及びアネキシンDY−776標識との比較を示す。認められるように、アネキシンDY−776は、インビボ画像において個別に明らかに見える単一細胞を標識することができる。RGCアポトーシスのレベルは、アネキシン−DY−776でのSSP投与後にはるかに高い。比較すると、MC540は膜全体を標識するので、広範な蛍光シグナルが検出され、単一細胞を同定することを不可能にするが、SSP後のMC540の画像は基線より明確に高いレベルの蛍光を有する。
【図21】網膜層を示す略図である。網膜神経細胞は、光受容細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞及び神経節細胞である。
【図22】虚血のマウスモデルの網膜の組織学的切片を示す。硝子体内Anx−Fを投与した後、動物を犠死させた。矢印は網膜の種々の層においてAnx−Fに関して陽性染色された4つの細胞を示し、内核層(INL)、外核層(ONL)及び光受容器層(PL)におけるアポトーシスの存在を確認する。
【実施例】
【0015】
アネキシン5へのD776の結合
組換えにより細菌で発現させたアネキシン5(等張緩衝液1ml中5mg)が、「標識化緩衝液」に対し、緩衝液を2回交換して(各々250ml)3時間かけて透析される。標識化緩衝液は、炭酸水素ナトリウム21g(250mmol)を蒸留水400mlに溶解することによって作製される。アジ化ナトリウム1g(0.2%)を添加する。水酸化ナトリウムの濃厚水溶液でpHを9.0に調整する。使用の前に、濃縮保存溶液1容に対し水9容(v/v)を添加して緩衝液を希釈する。アネキシン5タンパク質は、今や標識化反応の準備ができている。染料対タンパク質比は、各々の標識化反応について一定に保持される。それ故、アネキシン5 1mgを標識するためにD776−NHS−エステル0.5mgを使用する。これは、染料とアネキシン5タンパク質の間で約500のモル比を与える。NHS−エステルをボルテックスすることによってジメチルホルムアミドに溶解し、染料を標識化緩衝液中のアネキシン5タンパク質に添加して反応を開始させる。標識化反応におけるアネキシン5の最終濃度は5mg/mlであるべきである。標識化は、振とう機に入れたエッペンドルフ管において2時間にわたって進行させることが可能である。
【0016】
反応期間の終了時に、着色した標識化溶液をSephadex G−25の5ml又は10mlカラムにピペットで慎重に分注し、ゲルに浸透させる。次に100mM PBS緩衝液、pH7.4をカラムに緩やかに滴下してコンジュゲートを溶出する。標識タンパク質が比較的鋭いバンドとして先に溶出し、一方遊離染料は遅れて緩やかにスミアリングする。ひとたび結合アネキシン5がカラムの底部に達すれば、それをエッペンドルフチューブに収集し、直ちに使用できる。
【0017】
画像化法
画像化は、当分野で公知の手法、例えば以下のような記述されている手法を用いて実施し得る。
【0018】
すべてのインビボ画像化は、790nmの改変cSLO(共焦点走査型レーザー検眼鏡(Heidelberg Retina Angiograph 2,Heidelberg Engineering,Dossenheim,Germany)を使用してDARC(アポトーシスを起こしている網膜細胞の検出)手法で実施した1、2、3。標準レンズ(15°×15°〜30°×30°)と広視野レンズ(55°−すべての度数値はヒト眼に合わせて較正した)を使用した。種々の焦点設定で反射率と対応する蛍光画像をラット網膜で撮影した。シグナル対ノイズ比を改善し、画像コントラストを強調するために、一連の単回画像(100まで)からの平均画像を眼運動の補正後に算定した。
【0019】
蛍光の最適化
本発明者らは、網膜における内因性蛍光シグナルの存在は、特定の蛍光標識で標識された細胞死マーカーが適切に撮像できないことを意味することを発見した。本発明者らは以前に、網膜神経節細胞のアポトーシスを撮像するために蛍光標識アネキシン(アネキシン488)を使用した。全身的に投与した場合、本発明者らは、驚くべきことに、固有の網膜自己蛍光が、有用な結果が得られない程度までシグナルに干渉することを発見した。
【0020】
網膜自己蛍光からの干渉を回避するため、本発明者らは、近赤外及び赤外発蛍光団を含む他の発蛍光団、例えばLicor 800 CW、D−776及びD−781を検討した。これらの標識を使用して、本発明者らは、組織学的局在化に正確に対応する、生体眼における単一細胞のアポトーシスを確認することができた。これは図1、2及び3に示されている。
【0021】
3つの染料を評価したとき、本発明者らは、Licor 800 CW及びD−781の両方が血管蛇行と硝子体炎症を引き起こすことを発見した。D−776は炎症又は血管変化を引き起こさなかった。これは図3及び4に示されている。
【0022】
トランスジェニックモデルにおける糖尿病性神経変性の変化
トランスジェニックモデルにおける糖尿病性神経変性のDARC評価を、本明細書で述べた手法を用いて実施した。図5に見られるように、糖尿病動物(a)は、年齢適合野生型対照(b)よりも有意に多い網膜神経節細胞アポトーシスを示す。
【0023】
蛍光標識アネキシン5(Anx−F)の波長最適化
標識細胞におけるインビボ対組織学の相違
a)硝子体内投与
本発明者らは以前に、網膜神経節細胞のアポトーシスを画像化するために、硝子体内経路で眼に投与した蛍光標識アネキシン(アネキシン488)を使用した。Alexa Fluora 488標識アネキシン5又は別の蛍光マーカーで標識したアネキシン5。それらは以下のように評価された。
・アネキシンAlexa Flour 532 532/553の最大励起/蛍光波長
・アネキシンAlexa Fluor 555 555/568の最大励起/蛍光波長
・アネキシンDy−776 771/793の最大励起/蛍光波長
・アネキシンDy−781 783/800の最大励起/蛍光波長
・アネキシンLicor IRDye 800 774/789の最大励起/蛍光波長。
【0024】
本発明者らはまた、アネキシン分子当たりに結合される染料分子の数が重要であることを発見した。本発明者らは、アネキシン分子につき低い数の染料分子(12未満、好ましくは5未満)を目指すことが、アポトーシス細胞に対するその結合親和性を保持しながらコンジュゲートの自然蛍光を高めると主張する。
【0025】
本発明者らはまた、染料分子がどのようにしてアネキシン分子に結合するかが重要であることを発見した。本発明者らは、アネキシン分子をそのN末端において染料で標識すると改善されたシグナル対ノイズ比を生じること、及び静脈内投与した場合に主要器官、例えば肝臓及び腎臓への取込みがより少ないことを発見した。さらに、アネキシン分子内のリシン残基ではなくシステイン残基を標識すると、より少ないノイズを生じた。
【0026】
図11の画像は、基線時及びスタウロスポリン(SSP)投与の2時間後の同じ眼のアネキシンAlexa Fluor 555を使用したインビボDARC画像を示す。アポトーシスを示す白色スポットがインビボで認められるが、非常にかすかである。赤外染料と比較して(下記参照)、アネキシンAlexa Fluor 555及びアネキシンAlexa Fluor 532は、DARCによるインビボ画像化に関して明らかに最適以下であった。
【0027】
驚くべきことに、評価した蛍光タグ全部の中で、アネキシン5と最も良好に結合した染料はDy−776であった。Dy−776は、以下に見られるように、アネキシンDy−776によるインビボ画像化と組織学的検査に関して完全な相関(1:1)を示した。
【0028】
点間の分離距離を使用して、組織学とインビボ検査を比較する統計解析では、平均分離は、ランダム・ノイズ・モデル(30.986ピクセル)と比較して、前記画像において19.756ピクセルであり、これが偶然に起こる確率は0.001305パーセントである。同様の結果が、マッチする個々の点に関して得られた。p=0.001597パーセント、すなわち、組織学とインビボ画像の間で点のマッチングが偶然に起こり得た可能性は極めて低い。これは、その他の赤外アネキシン染料、例えばインビボで少なくとも20%少ないスポットを示したIRDye800(Licor)に匹敵する。
【0029】
アネキシンDy−781の使用は同様の結果を与えたが、アネキシンIRDye800に関しては、染料を投与した5日後の画像化は網膜血管蛇行を明らかにし、炎症を示唆した。
【0030】
図13、14及び15の画像は、投与の5日後の、種々の赤外蛍光染料と結合したアネキシン5の同じ用量で処置したラット眼を示す。アネキシン5 Dy−776で処置した眼だけが網膜血管異常を示さなかった。
【0031】
図16のグラフは、インビボ像を見た盲検観察者によって等級づけられた網膜蛇行のレベルにおいて認められる相違を示す。DY−776及び対照と比較して硝子体内IRDye800及びDY−781を投与された眼では血管蛇行の有意の上昇が存在した。この事象は炎症を強く示唆し、次に組織学的検査と組み合わせて検討された。
【0032】
図17は、アネキシン5 IRDye800に関して眼の硝子体で認められたマクロファージの走査型電子顕微鏡画像であり、染料によって引き起こされた炎症の存在を確認する。
【0033】
他のアネキシンのマーカーとしての使用
本発明者らは、他のアネキシンマーカー、例えば、すべてが暴露ホスファチジルセリンに対して親和性を有する、アネキシン11、アネキシン2及びアネキシン6も、アポトーシスを起こしている網膜細胞に結合することを示した。
【0034】
図18の画像は、基線時及びスタウロスポリン(SSP)投与の2時間後の同じ眼のアネキシン11 Dy776を使用したインビボDARC画像を示す。白色のスポットは、アネキシン11がインビボでアポトーシスを検出するために使用し得ることを明らかに示す。
【0035】
細胞死の他の(すなわちアネキシンではない)マーカーの使用
ヨウ化プロピジウム
本発明者らは、次に細胞死の他のマーカーを評価した。最初に、分断された膜を有する細胞を標識し、それらのDNA及びRNAを蛍光染色することによって壊死細胞を同定するヨウ化プロピジウム(PI)。PIは、それぞれ532nmと649nmの最大励起及び蛍光波長を有する。図19の画像は、網膜においてインビボで壊死細胞を標識するPIとインビボでアポトーシス細胞を標識するアネキシン488の比較を示す。
【0036】
(a〜c)スタウロスポリン(SSP)処置の2.0時間後(a)、2.5時間後(b)及び3.0時間後(c)の初期(緑色、陽性アネキシン488染色のみ)及び後期(黄色、陽性アネキシン488及びPI染色)アポトーシス及び壊死(赤色、PI染色のみ)段階の単一細胞を示す、SSP誘導性RGC死の微速度撮影動画からとった静止画像。(d)この手法を使用して、連続的な段階のアポトーシス細胞死を受けている、同じ細胞(ポイント1及び2として矢印で示し、同定している)の経時的な変化を追跡することが可能である。どちらの細胞も、アネキシン5標識のピークがPIのピークより前に起こることを示し、マーカーの波長最適化が眼における細胞死の視覚化を導き得るという特許請求を裏付ける。
【0037】
本発明者らはまた、複数の細胞死マーカー、例えばアネキシンVとヨウ化プロピジウムの同時視覚化が、各々別々のマーカーが波長最適化されている限り、可能であることを発見した。
【0038】
メロシアニン540(MC540)
メロシアニン540は、細胞の外膜に結合し、アポトーシスの初期に起こる膜の解体の程度に比例して蛍光を発するという事実によってアポトーシス細胞を同定する染料である。MC450は、それぞれ488nmと575nmの最大励起及び蛍光波長を有する。図20の画像は、食塩水とSSPで処置した眼のインビボでのMC540標識の比較、及びアネキシン776標識との比較を示す。
【0039】
認められるように、アネキシン776は、前記に示すインビボ画像において個別に明らかに見える単一細胞を標識することができる。RGCアポトーシスのレベルはSSP投与後にはるかに高い。比較すると、MC540は膜全体を標識するので、広範な蛍光シグナルが検出され、単一細胞を同定することを不可能にするが、SSP後のMC540の画像は基線より明確に高いレベルの蛍光を有する。
【0040】
網膜全体にわたるアポトーシス細胞の標識化
本発明者らは以前に、Anx−FがRGCアポトーシスを同定するために使用し得ることを示した。最近、同じ手法を使用して、アポトーシスを起こしている双極細胞を視覚化することが可能であることを示した。本発明者らはここで、図21に見られるように、硝子体内投与した場合のAnx−Fが他の網膜細胞も染色できることを示す。
【0041】
図22の組織学的切片は、実験的に虚血を誘発させたマウス眼から撮影している。硝子体内Anx−Fを投与した後、動物を犠死させた。矢印は網膜の種々の層においてAnx−Fに関して陽性染色された4つの細胞を示し、内核層(INL)、外核層(ONL)及び光受容器層(PL)におけるアポトーシスの存在を確認する。
【0042】
参考文献
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼における細胞死を同定するための、波長最適化標識で標識した細胞死マーカーの使用。
【請求項2】
前記細胞死マーカーがアネキシン又はそのフラグメント若しくはその誘導体である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記細胞死マーカーがアネキシン5、11、2又は6である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記波長最適化標識がD−776である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記マーカーが網膜細胞死を同定するためである、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記マーカーが網膜神経細胞死を同定するためである、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記マーカーが単一細胞の死を同定するためである、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
眼における細胞死を観測するための方法であって、
(a)波長最適化標識で標識した細胞死マーカーを被験者に投与するステップと、
(b)画像化装置を使用して被験者の眼から励起波長の画像を作製するステップとを含み、前記画像が眼における細胞死の表示である方法。
【請求項9】
前記細胞死マーカーがアネキシンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞死マーカーがアネキシン5である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記波長最適化標識がD−776である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記マーカーが網膜細胞死を同定するためである、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記マーカーが網膜神経細胞死を同定するためである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記マーカーが単一細胞の死を同定するためである、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記標識マーカーが全身的、局所的又は経眼的に投与される、請求項8から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
画像を作製する前記ステップを反復する、請求項8から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
画像を作製する前記ステップを、リアルタイム画像化を可能にするように反復する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が前記眼の変性疾患を診断するためである、請求項8から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記疾患が緑内障又は糖尿病性網膜症である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患が脳の神経変性疾患である、請求項8から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記疾患がアルツハイマー病である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
最適化波長標識で標識した細胞死マーカーを含有する医薬組成物であって、静脈内、経眼又は局所投与に適する医薬組成物。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公表番号】特表2011−506418(P2011−506418A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537519(P2010−537519)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004156
【国際公開番号】WO2009/077750
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(505367464)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (20)
【Fターム(参考)】