説明

眼科用組成物

【課題】眼粘膜に対する刺激がなく、コンタクレンズの濡れ性を改善することのできる眼科用組成物を提供すること。
【解決手段】炭素数4〜10の1,2−アルカンジオールを2種以上、好ましくは1,2−ペンタンジオールと1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオールと1,2−オクタンジオール、或いは1,2−ヘキサンジオールと1,2−オクタンジオールを含有することを特徴とする眼科用組成物、並びに該組成物によるコンタクトレンズの濡れ性を向上させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用組成物に関する。詳しくは、コンタクトレンズの濡れ性を効果的に改善できる眼科用組成物、並びにコンタクトレンズの濡れ性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズは、視力を矯正するために角膜上に装用される。そのため、コンタクトレンズの濡れ性が低いと、装用時に異物感やゴロゴロ感といった違和感を感じる。
【0003】
しかし、ハードコンタクトレンズは疎水性素材で構成されることから、本質的に濡れ難いという問題がある。また、ソフトコンタクトレンズは親水性の素材が用いられてはいるものの、使用中にタンパク質等が吸着され易くレンズ表面の濡れ性が低下し、装用中に眼組織の障害を引き起こす懸念もある。
【0004】
このようなコンタクトレンズの濡れ性を改善する試みとして、クロモグリク酸、ソルビン酸およびクロルフェニラミンを含有するコンタクトレンズ用組成物(特許文献1を参照)、ゲラニオール等の成分とコンドロイチン硫酸を含有する眼科用組成物(特許文献2を参照)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−39529号公報
【特許文献2】特開2006−193521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コンタクレンズの濡れ性を改善することのできる眼科用組成物、並びにコンタクトレンズの濡れ性を向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕炭素数4〜10の1,2−アルカンジオールを2種以上含有することを特徴とする眼科用組成物、
〔2〕1,2−アルカンジオールが、1,2−ペンタンジオールと1,2−ヘキサンジオールの組合せからなる前記〔1〕に記載の眼科用組成物、
〔3〕1,2−アルカンジオールが、1,2−ペンタンジオールと1,2−オクタンジオールの組合せからなる前記〔1〕に記載の眼科用組成物、
〔4〕1,2−アルカンジオールが、1,2−ヘキサンジオールと1,2−オクタンジオールの組合せからなる前記〔1〕に記載の眼科用組成物、
〔5〕コンタクトレンズ用剤であることを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕の何れかに記載の組成物、並びに
〔6〕前記〔1〕〜〔4〕の何れかに記載の眼科用組成物による、コンタクトレンズの濡れ性を向上させる方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の眼科用組成物は、細胞に障害を与えることなく、しかもコンタクトレンズに対する濡れ性を改善できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】参考例1〜5の各薬剤濃度におけるウサギ角膜上皮細胞の細胞生存率を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の眼科用組成物は、1,2−アルカンジオールを2種以上含有することに大きな特徴がある。炭素数の異なる1,2−アルカンジオールを2種以上用いることで、その単独使用に比べコンタクトレンズに対する濡れ性を相乗的に改善することができる。
【0011】
なお、本発明において、「濡れ性を改善する」若しくは「濡れ性を向上させる」とは、例えば1,2−アルカンジオールを添加することにより、眼科用組成物のコンタクトレンズに対する接触角が低下することを表す。さらには、眼科用組成物に、2種以上の1,2−アルカンジオールを添加することによるコンタクトレンズに対する接触角の低下度が、それぞれ単独の1,2−アルカンジオールを添加することによるコンタクトレンズに対する接触角の低下度の和を上回る場合を表す。
【0012】
用いられる1,2−アルカンジオールは、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオールの炭素数4〜10の1,2−アルカンジオールである。これらのうち、水溶性、濡れ性向上の観点から、炭素数5〜8の1,2−アルカンジオールの2種以上を用いるのが好ましく、なかでも、1,2−ペンタンジオールと1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオールと1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオールと1,2−オクタンジオールとの2種を組合わせて用いるのがより好ましい。
【0013】
1,2−アルカンジオールの含有量は、コンタクトレンズの濡れ性を改善できれば特に限定されず、組成物中、1,2−アルカンジオールの1種当りの含有量が、0.001〜10w/v%含有することを原則とする。
【0014】
なかでも、1,2−アルカンジオールの1種に1,2−ペンタンジオールを用いる場合、後述する実施例に示すとおり、コンタクトレンズの濡れ性を相乗的に向上させる観点から、組成物中の含有量を0.2w/v%以上とするのが好ましく、0.5w/v%以上とするのがより好ましい。また、細胞障害を抑制する観点から、組成物中の含有量を7w/v%以下とするのが好ましい。
【0015】
1,2−アルカンジオールの1種に1,2−ヘキサンジオールを用いる場合は、コンタクトレンズの濡れ性を相乗的に向上させる観点から、組成物中の含有量を0.1w/v%以上とするのが好ましい。また、細胞障害を抑制する観点から、組成物中の含有量を3w/v%以下とするのが好ましい。
【0016】
また、1,2−オクタンジオールを用いる場合は、コンタクトレンズの濡れ性を相乗的に向上させる観点から、組成物中の含有量を0.01w/v%以上とするのが好ましい。また、細胞障害を抑制する観点から、組成物中の含有量を0.3w/v%以下とするのが好ましい。
【0017】
これらから、0.2〜7w/v%の1,2−ペンタンジオールと0.1〜3w/v%の1,2−ヘキサンジオール、0.2〜7w/v%の1,2−ペンタンジオールと0.01〜0.3w/v%の1,2−オクタンジオール、0.1〜3w/v%の1,2−ヘキサンジオールと0.01〜0.3w/v%の1,2−オクタンジオールとの2種を組合わせて用いるのが特に好ましい。
【0018】
本発明の眼科用組成物には、上記した成分の他、点眼剤や洗眼剤などに通常用いられる成分を、その配合目的に応じて適宜配合することができる。例えば、薬効成分、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、安定化剤、懸濁化剤、界面活性剤、キレート剤、粘稠化剤等を挙げることができ、これらは本発明の効果を損なわない範囲で常用量配合することができる。
【0019】
具体的には、薬効成分としては、例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム(角膜保護)、ヒアルロン酸ナトリウム(角膜保護)、塩酸ピリドキシン(代謝促進)、L−アスパラギン酸カリウム、メチル硫酸ネオスチグミン、マレイン酸クロルフェニラミン(抗ヒスタミン)、グリチルリチン酸二カリウム(抗炎症)、プラノプロフェン(抗炎症)、クロモグリク酸ナトリウム(抗アレルギー)、トラニラスト(抗アレルギー)、オフロキサシン(抗菌)等を挙げることができる。
【0020】
溶解補助剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、ポロクサマー(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー)、ポロキサミン(エチレンジアミンテトラポリオキシエチレンポリオキシプロピレン)等を挙げることができる。
【0021】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸又はその塩、酒石酸又はその塩、グルコン酸又はその塩、酢酸又はその塩、リン酸又はその塩、トロメタモール(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)等を挙げることができる。尚、本発明の組成物は眼科用であることから、点眼又は眼に入った場合に刺激を緩和する観点から、緩衝剤を用いる場合は、組成物のpHが4〜9の範囲となるように添加することが好ましく、pHが5〜8の範囲となるように添加することがより好ましい。
【0022】
等張化剤としては、水溶性で眼刺激性などの悪影響を示さないものであれば、特に制限はなく、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトール、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を挙げることができる。
【0023】
安定化剤としては、例えばアスコルビン酸、エデト酸ナトリウム、シクロデキストリン、縮合リン酸又はその塩、亜硫酸塩、クエン酸又はその塩等を挙げることができる。
【0024】
懸濁化剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポロクサマー、ポロキサミン等を挙げることができる。
【0025】
界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポロクサマー、ポロキサミン等の非イオン界面活性剤;ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、ミリスチルサルコシンナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、塩酸アルキルジアミノグリシン等の両性界面活性剤;塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム等の陽イオン界面活性剤を挙げることができる。
【0026】
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮合リン酸又はその塩等を挙げることができる。
【0027】
粘稠剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0028】
本発明の眼科用組成物は、非酸素透過性ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ等の各種コンタクトレンズの装用時においても投与することができ、とりわけ酸素透過性ハードコンタクトレンズ装用時において有利に投与される。
【0029】
本発明の眼科用組成物は、細胞に障害を与えることなく、コンタクトレンズに対する濡れ性が改善できることから、コンタクトレンズを装用したままでも使用可能な点眼剤や洗眼剤、コンタクトレンズ装着剤、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズ洗浄剤などのコンタクトレンズ用剤として好適に使用することができる。
【0030】
また、本発明の眼科用組成物を用いて、コンタクトレンズの濡れ性を向上させるには、コンタクトレンズを装用したまま点眼しても良いし、コンタクトレンズに該組成物を滴下して装着しても良い。また、本発明の眼科用組成物にコンタクトレンズを保存し、或いは、コンタクトレンズを洗浄後、コンタクトレンズを装着する方法も採用することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。尚、配合量は特記しない限り、w/v%である。
【0032】
試験例1:コンタクトレンズの水濡れ性の評価
表1に示す組成に従い、各実施例及び比較例の組成物を常法により調製した。尚、表中、精製水の「バランス」とは、全量100mLとする量を表す。また、水酸化ナトリウムの「適量」とは、系のpHが7.0となるように調整するのに必要な量を表す。
【0033】
(コンタクトレンズ)
コンタクトレンズは、商品名 ボシュロムEX−O(ボシュロムジャパン社製)であるハードコンタクトレンズを用いた。
【0034】
(接触角の測定)
実施例及び比較例の各試料1μLをコンタクトレンズ上に滴下し、接触角計(CA−X型,協和界面科学社製)を用いて接触角を各6回測定し、その平均値を採用した。結果を表1に併記する。
【0035】
【表1】

【0036】
尚、表1の接触角の結果を、1,2−アルカンジオール無配合ならびに1,2−アルカンジールの単独使用の場合と比較するために、表2〜5のように書き表した。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
表1〜4の結果から、1,2−アルカンジオールを複数組合わせて用いると、1,2−アルカンジオールをそれぞれ単独で用いたときの接触角の低下作用よりも、相乗的に接触角の低下作用を示すことが分かる。このことから、1,2−アルカンジオールを2種以上組合わせて用いると、コンタクトレンズに対する水濡れ性が改善できるものである。
【0041】
試験例2:細胞障害性の評価試験
(試料の調製)
表5に示す使用濃度範囲で、各薬剤を表中に示す希釈媒体に添加し、参考例の各試料を常法により調製した。尚、培地はウサギ角膜上皮細胞増殖用培養液(商品名:RCGM2、クラボウ社製)を用いた。
【0042】
【表5】

【0043】
(細胞培養)
凍結正常ウサギ角膜上皮細胞(商品名:NRCE2、クラボウ社製)を解凍後、定法に従って細胞懸濁液を調製し、96wellプレートの各wellに4×10cells/well/100μLになるように細胞を播種した。その後、37℃、5%CO、加湿下でコンフルエントになるまで培養した。
【0044】
(細胞生存率の測定)
培養上清を除去した後、上記で調製した実施例及び比較例の各試料100μLを添加した。試料添加後、37℃、5%CO、加湿下でにおいて5分間処理した。尚、無処置群には培地を添加して同様に5分間処理した。
【0045】
培養終了後、上清を除去し、各wellを100μLの培地で洗浄した。各wellにcell Counting Kit−8溶液(商品名;同仁化学研究所社製)を添加し、2時間後にマイクロプレートリーダー(商品名:POWER SCAN HT、大日本住友製薬社製)を用い、波長450nmで吸光度を測定した。無処置群の吸光度(各cellの平均値を100として各wellの無処置群に対する割合(細胞生存率))を求め、各薬剤の細胞生存率の平均値を算出した。結果を図1に示す。
【0046】
図1の結果から、1,2−アルカンジオールは、一般的な防腐剤であるパラベンや塩化ベンザルコニウムより細胞障害性が低いことが分かる。また、1,2−ペンタンジオールは、7w/v%を超えて含有すると、細胞障害性が懸念されることが分かる。1,2−ヘキサンジオールの場合は、3w/v%を超えて含有すると、また、1,2−オクタンジオールの場合は、0.3w/v%を超えて含有すると、細胞障害性が懸念されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4〜10の1,2−アルカンジオールを2種以上含有することを特徴とする眼科用組成物。
【請求項2】
1,2−アルカンジオールが、1,2−ペンタンジオールと1,2−ヘキサンジオールの組合せからなる請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
1,2−アルカンジオールが、1,2−ペンタンジオールと1,2−オクタンジオールの組合せからなる請求項1に記載の眼科用組成物。
眼科用組成物。
【請求項4】
1,2−アルカンジオールが、1,2−ヘキサンジオールと1,2−オクタンジオールの組合せからなる請求項1に記載の眼科用組成物。
眼科用組成物。
【請求項5】
コンタクトレンズ用剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載の眼科用組成物による、コンタクトレンズの濡れ性を向上させる方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−168316(P2012−168316A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28422(P2011−28422)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】