説明

眼科装置及び眼科システム

【課題】 角膜厚さ分布の広い範囲に渡って、精度のよい角膜厚測定を行うこと。
【解決手段】 本発明に係る眼科装置は、被検眼の角膜にスリット光を投影するスリット光投影光学系と、該スリット光が角膜で散乱した光を受ける受光素子を含むスリット光受光光学系と、該受光素子上において得られる該散乱した光の像の幅と該受光素子が受光した当該像の光量とに基づいて、被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定手段とを有し、該光の像の幅と、該光量とに基づいて、該被検眼の角膜厚を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角膜厚を測定する機能を有する眼科装置および眼科システムに関する。
【背景技術】
【0002】
角膜の厚さを非接触で測定する方法として、スリット光を用いた測定方法が知られている。この測定方法によれば、まず被検眼の角膜頂点へスリット光を投影し、角膜の内部で散乱光を発生させる。投影光の光軸とは異なる角度の光軸上に取り付けられた撮像素子でこの散乱光を受光することで、角膜断面の像を得る。この角膜断面像は輪郭の一方が角膜表面に対応し、他方が角膜裏面に対応する。その幅は角膜の厚さに応じて異なる。そのため、撮像素子の出力情報から角膜断面像の輪郭を検出し、その幅を適切な算出式に代入することで角膜厚を求めることができる。
【0003】
角膜断面像の輪郭を検出する際には様々な画像解析が用いられており、角膜断面像と外乱光の像を判別する技術などが知られている(特許文献1参照)。角膜厚の算出式は測定原理に基づいて生成されており、スリット光の投影角度や受光角度、受光光学系の倍率、角膜の屈折率や曲率などの値が用いられる。なお、これらの文献では、投影スリット光の幅は無視できるほど小さいものとみなされている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−131333号公報
【特許文献2】特許第4349937号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら実際には様々な誤差要因や条件が加わるため、前記算出式と実際の角膜厚が一致しない場合が考えられる。例えば前記算出式は投影スリット光が幅を持たないという前提で成り立つが、実際には一定の幅を持つスリット光が用いられる。特に角膜が薄い場合には、この差異は大きな影響を及ぼす。受光素子から得られる角膜断面像が細くなるに従い、角膜断面像の幅に対する投影スリット光自身の幅の割合が大きくなるためである。特に近年では角膜屈折矯正手術の普及により角膜が薄い被検者が増えており、薄い角膜を精度よく測定することが求められている。
【0006】
したがって投影スリット光はできる限り幅の小さいものが用いられる。しかし、投影スリット光の幅を小さくすると角膜中の散乱も減少するため、角膜断面像が測定に必要な輝度を確保できない。高輝度な光源や高感度の撮像素子を用いることによる解決も考えられるが、装置の高コスト化につながるため望ましくない。
【0007】
本発明の目的は、角膜厚さ分布の広い範囲に渡って、精度のよい角膜厚測定を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る眼科装置は、
被検眼の角膜にスリット光を投影するスリット光投影光学系と、
前記スリット光が角膜で散乱した光を受ける受光素子を含むスリット光受光光学系と、
前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅と前記受光素子が受光した光量とに基づいて、前記被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定手段と、
を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、角膜厚さ分布の広い範囲に渡って、精度のよい角膜厚測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、実施例の眼科装置の構成図であり、(b)は、実施例の眼科装置のスリット板の簡易図である。
【図2】システム制御部70の内部ブロック図である。
【図3】(a)は、実施例の眼科装置によって撮像される角膜断面像であり、(b)は、(a)に示す角膜断面像より得られる角膜厚測定モデル例である。
【図4】(a)は、実施例の眼科装置の角膜厚測定モデル例であり、(b)は、実施例の眼科装置の角膜厚測定モデル例である。
【図5】検査フローを示す図である。
【図6】実施例1の眼科装置の角膜厚測定フローチャートである。
【図7】実施例2の眼科装置の角膜厚測定フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0012】
[実施例1]
本実施例に係る眼科装置について、図1(a)を用いて説明する。なお、本実施形態に係る眼科装置は、角膜厚測定機能と眼圧測定機能とを有しているが、本発明に係る眼科装置は角膜厚測定機能を有していれば良い。
【0013】
被検眼Eの角膜Ecに対向して、平行平面ガラス20と対物レンズ21の中心軸上にノズル22が配置され、その後方に空気室23、観察窓24、ダイクロイックミラー25、プリズム絞り26、結像レンズ27、撮像素子28が順次に配列されている。これらは被検眼Eに対する観察光学系の受光用光路及びアライメント検出用光路となっている。
【0014】
平行平面ガラス20、対物レンズ21は対物鏡筒29によって支持され、その外側には被検眼Eを照明する外眼照明光源30a、30bが配置されている。尚、説明の都合で外眼照明光源30a、30bは図面上下に記述しているが実際には図と垂直方向に光軸に対して対向して配置されている。
【0015】
ダイクロイックミラー25の反射方向には、リレーレンズ31、ハーフミラー32、近赤外波長を透過し、可視光波長を反射する特性をもつダイクロイックミラー50、アパーチャ33、受光素子34が配置されている。なお、アパーチャ33の位置は、所定変形時に後述する測定光源37の角膜反射像が略共役になる位置に配置され、受光素子34と共に角膜Ecが視軸方向に変形するときの変形検出受光光学系とされている。リレーレンズ31は角膜Ecが所定変形時にアパーチャ33とほぼ同等の大きさの角膜反射像を結像するように設計されている。
【0016】
ハーフミラー32の入射方向には、ハーフミラー35、投影レンズ36、波長880nmの近赤外LEDから成る眼圧測定用光源37が配置され、ハーフミラー35の入射方向には、被検者が固視するLEDから成る固視用光源38が配置されている。眼圧測定用光源37は被検眼Eに対するアライメント用光源を兼ねている。アライメント用光源を別に配置してもよいが、コスト軽減のため、兼用が好ましい。
【0017】
ダイクロイックミラー50の入射方向には投影レンズ51、スリット板52、波長465nmの角膜厚測定用光源53が配置されている。
【0018】
光源53はスリット板52を照明し、スリット板52の像は投影レンズ51、リレーレンズ31によってノズル22内を通って角膜Ec上に結像する。スリット板52は図1(b)に示すように矩形絞りになっており、図1(a)において紙面と垂直方向に長い方向で配置されている。これら構成は、本発明における、被検眼の角膜にスリット光を投影するスリット光投影光学系を構成する。
【0019】
被検眼Eの斜下方向には波長465nmの光を透過するフィルタ60、結像レンズ61、撮像素子62が配置され、角膜厚測定の受光光学系を構成しており、観察光学系光軸と角膜厚測定の受光光学系光軸とは、被検眼角膜Ecの角膜頂点で交差している。そのためフィルタ60は光源53による角膜散乱光を透過する。撮像素子62は、後述するスリット光受光光学系における受光素子に対応する。また、スリット板52、角膜Ec、撮像素子62が略共役の関係になっている。即ち、これら角膜散乱光を受光する構成は、本発明における、角膜中で散乱した光の像を受光するスリット光受光光学系を構成する。
【0020】
空気室23内にはその一部を構成するシリンダ39にピストン40が嵌合され、このピストン40はソレノイド42によって駆動されるようになっている。なお、空気室23内には、内圧を監視するための圧力センサ43が配置されている。
以上が本装置の光学構成である。
【0021】
図2はシステム制御部70の内部ブロック図である。検査進行制御部70aは位置合わせ演算部70b、角膜厚さ演算部70c、眼圧演算部70d、ハードウェア制御部70fを制御する。さらに、位置合わせ演算部70bと角膜厚さ演算部70cは画像解析部70eとハードウェア制御部70fを制御する。画像解析部70eは撮像素子28、撮像素子62で取得した画像の解析を行う。ハードウェア制御部70fは図1に表された各ハードウェアの制御を行う。
【0022】
図5は検査のフローを示した図である。まず、位置合わせ演算部70bがSTEP1で位置合わせを行い、角膜厚さ演算部70cがSTEP2で角膜厚測定を行う。その後、位置合わせ演算部70bがSTEP3で再度位置合わせを行い、眼圧演算部70dがSTEP4で眼圧測定を行う。システム制御部70はSTEP5で反対眼への移動を行った後に反対眼も同様に測定し、検査を完了する。
【0023】
次に本装置のシステム構成とその動作の説明を行う。
位置合わせ演算部70bがまず被検眼Eに固視用光源38を固視させ、その状態で検者が測定開始スイッチ72を押す。測定開始スイッチ72が押されると眼圧測定用光源37が点灯される。眼圧測定用光源37からの光束は、投影レンズ36によって平行光になり、ハーフミラー32で反射し、リレーレンズ31によりノズル22内に一旦結像され、被検眼Eの角膜Ecに照射される。角膜Ecによって結像した角膜輝点はプリズム絞り26によって分割され、撮像素子28で撮像される。撮像素子28からの出力はハードウェア制御部70fがモニタ73へ表示する。分割された角膜輝点の位置関係に基づいて、ハードウェア制御部70fは本体駆動モータ75を駆動し、図示されていない本体部を駆動して、XYZ軸各方向の位置合わせを自動的に行う。
【0024】
なお、位置合わせは手動で行ってもよい。その場合検者はモニタ73に表示された角膜輝点を観察しながらジョイスティック71を操作し、ジョイスティック71の入力に応じてハードウェア制御部70fが本体駆動モータ75を駆動する。角膜輝点の位置関係が規定の状態になると位置合わせが完了する。
【0025】
角膜厚さ演算部70cは角膜厚測定を行う。ハードウェア制御部70fが光源53をパルス点灯し、角膜Ecにスリット光を照射する。角膜Ecの内部で散乱した散乱光を撮像素子62が撮像する。撮像素子62が撮像する角膜断面像を図3(a)に簡単に示す。撮像素子62からの出力情報はハードウェア制御部70fがメモリ74へ格納する。角膜厚さ演算部70cはメモリ74に格納された角膜断面像の情報に基づき角膜厚を算出し、測定結果をモニタ73へ表示する。
【0026】
眼圧演算部70bは眼圧測定を行う。ハードウェア制御部70fがソレノイド42を駆動し、空気室23内の空気はソレノイド42により押し上げられるピストン40によって圧縮され、パルス状の空気としてノズル22から被検眼Eの角膜Ecに向けて噴出する。空気室23の圧力センサ43で検出された圧力信号と受光素子34からの受光信号をハードウェア制御部70fがメモリ74へ格納する。眼圧演算部70bはメモリ74に格納された情報に基づき、受光信号のピーク値とその時の圧力信号から眼圧値を算出する。算出された眼圧値はハードウェア制御部70fがモニタ73へ表示する。
【0027】
以上が本実施形態における装置の構成である。以上の眼圧値を算出する構成は、本発明における眼圧測定手段を構成する。該眼圧測定手段は後述する角膜厚測定手段により得られる角膜厚さに関する出力に基づいて補正される。測定された眼圧値をx[mmHg]、測定された角膜厚さをt[μm]とすると、補正後の眼圧値y[mmHg]は、y = x + a(b - t) の補正式に従って算出される。aとbは定数であり、検者が自由に変更することができる。検者が変更しない場合は、装置に記憶されたデフォルト値を用いる。デフォルト値は例えばa = 0.045, b = 554が記憶されている。眼圧測定手段はこの補正操作を行う構成を補正手段として有することが好ましく、当該補正手段は眼圧演算部70dに含まれる。当該補正手段は上記の補正式とは異なる方法で補正を行ってもよい。
【0028】
本発明の角膜厚測定に関する詳細を以下に示す。
角膜中の散乱量を均一と仮定すると、図3(b)で表す原理に従って図3(a)のような角膜断面像を得る。図3(b)は角膜表面102から角膜裏面101までの間でスリット光103が散乱する様子を表したものである。光量分布105は受光位置による光量の変化を表したものであり、すなわち角膜断面像のプロファイルである。横軸は受光位置、縦軸は光量を表す。
【0029】
スリット光と角膜が交差する矩形部分104は散乱部分であり、散乱部分から受光系に至る光路を点線で示している。光路106が実線304に対応し、光路108が点線303に、光路109が点線302に、光路111が実線301に対応する。それぞれの光路は通過する散乱部分の長さに比例した光量を持っている。すなわち、散乱部分を通過しない光路106と光路111は無光量であり、散乱部分を通過する長さが最も長い光路108から光路109までが最大光量を持っている。また、角膜表面の中央から至る光路110、角膜裏面の中央から至る光路107は最大光量の2分の1の光量を持っている。よって、角膜表面中央と角膜裏面中央の距離は光路110と光路107の距離に対応する。すなわち、最大光量の2分の1を閾値として二値化を行うことで光路110と光路107の距離を求めることができる。
【0030】
この距離に対して、スリット光投影角度や受光角度、受光倍率、角膜の屈折率や曲率を用いて演算を行うことにより、角膜厚を算出することができる。この演算に用いる値のうち、装置固有のものに関しては設計上既知としてもよく、装置ごとの個体差を反映した値を用いてもよい。また、角膜に関する値に関しては角膜の性質上既知のものとしてもよく、別途入力手段を設けてもよく、それぞれに測定手段を設けて測定した値を反映してもよい。また、上記の値の他にもより実際の状況を反映するための様々な値を演算に用いた測定手段としてもよい。
【0031】
以上に述べた、最大光量の2分の1を閾値として二値化を行う変換手段および該変換手段によって得られた二値の境界に基づいて角膜厚を算出する算出手段を有する構成を、本実施形態における第一角膜厚測定手段とする。なお、これら変換手段および算出手段を含む第一角膜厚測定手段は、角膜厚さ演算部70cに含まれる。また、該第一角膜厚測定手段は、換言すれば、受光素子により受光される光の像の幅が所定値以上の場合に、該像の幅に基づいて角膜厚を測定する。
【0032】
角膜が図3(b)より薄い場合には、光路108と光路109の幅は狭くなり、両者の幅がゼロになると、図4(a)の光路112のように両光路が重なる状態となる。すなわち、光路113は散乱部分104の対角線上を通るため、光路113と同じ光量を持つ光路は存在しなくなり、三角形の光量分布となる。この場合は、最大光量が図3(b)と同じであるため、角膜表面中央の光路114と角膜裏面中央の光路112の幅を測ることで角膜厚を算出することができる。つまり、図3(b)から図4(a)までの光量分布を持つような角膜厚の厚さがあれば、上記原理で角膜厚を算出することができる。
しかしながら、角膜が図4(a)より薄くなると、光量分布の形は図4(b)のように再び台形となるが、最大光量が図3(b)や図4(a)より低い光量分布となる。この場合、角膜表面の光路116と角膜裏面の光路115の光量は、最大光量の2分の1よりも大きい。したがって、最大光量の2分の1を閾値として二値化を行うと、実際よりも角膜厚が大きく算出されてしまう。
【0033】
一方、角膜が図4(a)より薄い場合には、散乱部分の最大光量と角膜厚は正の相関を持つ。散乱部分104を長方形で近似すれば散乱部分の最大光量と角膜厚は比例する。したがって、図4(b)のように角膜が薄い場合には、光路の幅で角膜厚を算出するのではなく、散乱部分の最大光量から角膜厚を算出することができる。図4(a)の角膜厚を基準角膜厚α[μm]とし、このときの角膜断面像の平均的な最大光量を基準光量Pとする。角膜厚y[μm]は、撮像素子62によって得られた角膜断面像の最大光量xを用いて
【数1】

と表すことができる。基準光量Pは光源53の光量やレンズ61の径、撮像素子62の感度などによって定まる値で、装置に記憶されている。基準角膜厚αは装置の構成によって異なる。スリット光投影光学系の光軸とスリット光受光光学系の光軸のなす角をθ、スリット光投影光学系の光軸と散乱光113が角膜裏面でなす角をφとし、スリット光103の幅をd[μm]、波長465nmにおける角膜の空気に対する屈折率をnとする。図4(a)において散乱部分104を長方形と仮定すると、スネルの法則より以下が成り立つ。
【数2】

【0034】
また、三角比の性質より以下も成り立つ。
【数3】

このとき、屈折率n=1.3828と仮定すると、例えば、θ=55°、d=100[μm]の場合α=136[μm]となる。ここで、角膜厚は、一般的に、角膜屈折矯正手術を受けて薄くなっていたとしても、400nm〜650nmの範囲となる。このため、基準角膜厚α=136μmの場合、一般的な角膜厚はαよりも大きくなる。ただし、スリット光受光光学系を被検者の顔から遠ざけるためには、θをなるべく小さくすることが好ましい。また、スリット光の光量を大きくするために、スリット光の幅dをできるだけ太くすることが好ましい。これらの観点から、例えば、θ=20°やd=150[μm]と設計することが好ましく、これらの場合、α=588[μm]となる。これは、上述した400nm〜650nmの範囲内であるため、図4(b)のような場合を想定する必要がある。
また、より正確な算出を行うためには、散乱部分104は長方形ではないので上記以外の算出式を用いてもよい。また、装置の光学構成に応じて異なる算出式を用いてもよい。
【0035】
以上に述べた散乱部分の最大光量に基づいて角膜厚を算出する第二の算出手段を含む構成を本実施形態における第二角膜厚測定手段とする。なお、この様な第二の算出手段を含む第二角膜厚測定手段は、角膜厚さ演算部70cに含まれる。なお、本発明では、これら第一の角膜厚測定手段は受光素子上に結像される角膜にて散乱された光の像の幅に基づいて角膜厚を測定し、第二角膜厚測定手段は、受光素子上に結像される光の像の光量に基づいて角膜厚を測定し、これら測定手段によって本発明の角膜厚測定手段が構成される。また、第二角膜厚測定手段は、受光素子に受光された光の像の幅が所定値未満の場合に、該像の光量に基づいて角膜厚の測定を実施している。ここで、第二角膜厚測定手段を用いるか否かに関しては、光の像の幅が所定値未満であるか否かを判定する幅判定手段と、該幅判定手段の判定結果等に基づいて用いる測定手段を規定する使用出力判定手段により決定される。従って、角膜厚測定手段としては、該使用出力判定手段の判定結果に基づいて被検眼の角膜厚を測定していると定義可能である。これら幅判定手段及び使用出力判定手段は、角膜厚さ演算部70cに含まれて当該操作を実行するモジュール領域により各々構成される。
【0036】
一般に人間の角膜の多くは表面の散乱が他に比べて大きく、上記の仮定のように均一ではないため台形のプロファイルにならないことが知られている。しかしその場合においても、光路108と光路109でそれぞれ最大光量を記憶し二種類の閾値を用いることで、上記の第一角膜厚測定手段、第二角膜厚測定手段と同様に角膜厚を算出することができる。また、人間の角膜の散乱量分布に適したものであれば他の手法でもよい。たとえば、上記の第一角膜厚測定手段において光路110と光路107の距離を求める際に、二値化処理ではなくエッジ検出処理などを用いてもよい。
【0037】
この様なその他の様式による角膜厚の測定を実行する構成も、角膜厚測定手段として定義可能であり、当該操作の実行を為す領域を角膜厚さ演算部70cに付加し、上述した第一角膜厚測定手段あるいは第二角膜厚測定手段を加えて本発明に係る眼科装置が複数の角膜厚測定手段を有することが好ましい。又この場合、第一角膜厚測定手段による測定結果に応じて、後述する測定フローに準じて第二角膜厚測定手段等の他の角膜厚測定手段を用いることによって、好適な角膜厚の測定結果が得られる。
【0038】
以上の第一角膜厚測定手段と第二角膜厚測定手段は、図6のような流れで用いることができる。まず、画像解析部70eはSTEP61で被検眼の角膜断面像を取得し、STEP62で角膜断面像の幅を算出する。STEP62で算出した角膜断面像の幅に基づいて、角膜厚さ演算部70cはSTEP63で角膜厚を算出する。以上が本実施形態における第一角膜厚測定手段である。その後、角膜厚さ演算部70cは、STEP64で、測定結果が基準角膜厚α未満、即ち所定値未満であるか否かを前述した判定手段により判定する。測定結果が基準角膜厚α以上であれば、角膜厚測定が終了する。基準未満であれば、画像解析部70eはSTEP65で角膜断面像の輝度を算出する。STEP66ではSTEP65で算出した角膜断面像の輝度に基づいて角膜厚さ演算部70cが角膜厚を算出し、角膜厚測定が終了する。以上が本実施形態における第二角膜厚測定手段である。この流れに従えば、角膜厚さ分布の広い範囲に渡って常に精度のよい角膜厚測定を行うことができる。なお、以上に述べた測定フローにおいて、本実施形態では判定手段による判定実行の際の基準は、光路108と光路109との間の幅に基づいており、当該幅がゼロとなった場合を基準としている。しかしこの幅の値が例えば所定値以下の場合を基準としても良く、更には輝度値等も参照して基準を設けることとしても良い。また、以上の測定フローでは角膜断面像の幅を算出した後に輝度を算出しているが、逆の順番でもよい。すなわち、まず角膜断面像の輝度を算出し、基準以上であった場合に角膜断面像の幅を算出する測定フローでもよい。
【0039】
本発明によれば、まず、第一角膜厚測定手段で測定を行う際に用いる受光素子からの出力を判定手段で調べ、適切な出力であれば他の測定手段を用いる必要がない。しかし判定手段の判定結果から、他の角膜厚測定手段の方がより適切であると判断された場合には、他の角膜厚測定手段で測定を行うことで適切な測定結果を得ることができる。したがって、角膜厚さ分布の広い範囲に渡って常に精度のよい角膜厚測定を行うことができる。
【0040】
[実施例2]
角膜断面像の輝度から角膜厚さを算出する際に、角膜の散乱率の個人差を考慮することで測定精度を向上させることができる。実施例2は実施例1の構成に加えて、被検者の角膜の散乱率の情報を記憶することができる実施形態である。
検者はジョイスティック71と各種スイッチ72を用いて、検査の最初に被検者の識別番号を入力する。識別番号は整数でもよいし、文字列でもよい。また、外部機器などの、図1には含まれていない入力手段を用いてもよい。
【0041】
図7は実施例2の角膜厚さの測定フローである。なお、実施例1で述べた測定フローで実行されるSTEPと同様のものについては同じSTEP番号にて示すこととし、その説明を省略する。画像解析部70eは、角膜断面像の輝度(最大光量)をSTEP93で算出し、角膜厚さが基準角膜厚α以上の場合(図3(b)や図4(a)の場合)には、STEP98で、被検者の識別番号と角膜断面像の輝度を合わせてメモリ74へ記憶する。角膜厚さが基準角膜厚α未満だった場合には、角膜厚さ演算部70cは、STEP96で、被検者の角膜断面像の輝度をメモリ74から読み込む。STEP66で、角膜厚さ演算部70cは、図6のSTEP66と同様の計算を行う。本実施例は、のSTEP96で、被検者の角膜断面像の輝度が記憶されていた場合には、記憶している角膜断面像の輝度を基準光量Pとして用いることを特徴としている。なお、角膜断面像の輝度が記憶されていなかった場合には、実施例1と同様に基準光量Pには固定値を用いる。この輝度に関する情報を構成する角膜の散乱率の情報の有無は上述した角膜厚さ演算部70cにおいて情報判定手段として機能するモジュール領域により実行される。
【0042】
なお、被検者の角膜の散乱率の情報は、角膜屈折矯正手術を受ける前の角膜断面像の輝度であることが好ましい。また、被検者の角膜の散乱率の情報として、角膜断面像の輝度以外にも、実際に出力されたスリット光の光量を含めることが好ましい。この場合、過去と現在で角膜測定の機器が異なる場合において、記憶している光量と現在のスリット光の光量との比を用いることで、より正確な基準光量を用いることができる。ただし、過去と現在の測定で、角膜測定の機器が同じであれば、被検者の角膜の散乱率の情報として角膜断面像の輝度を用いれば良い。
即ち、本実施形態において、角膜厚測定手段は、得られた角膜断面像の幅と光量、及び被検者の角膜の散乱率の情報と、に基づいて、被検眼の角膜厚を測定する。また、この場合の角膜の散乱率に関する情報は、上述したように得られた角膜断面像の幅が所定値以上の場合に得られている輝度値に基づいて求められたものである。
【0043】
以上より、過去に角膜が充分厚い状態で測定を行い、角膜が薄くなった状態で再測定を行った場合、過去の測定時の角膜の散乱率を用いることで、より精度の高い測定値を算出することができる。したがって、屈折力矯正手術などで角膜が薄くなった被検者に対して精度の高い測定が可能となる。
【0044】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0045】
101 角膜裏面
102 角膜表面
103 スリット投影光
104 散乱部分
105 受光素子上の光量分布
106 無光量の光路
107 角膜裏面中央からの光路
108 角膜裏面からの最大光量を持つ光路
109 角膜表面からの最大光量を持つ光路
110 角膜表面中央からの光路
111 無光量の光路
112 角膜裏面中央からの光路
113 角膜裏面、表面からの最大光量を持つ光路
114 角膜表面中央からの光路
115 角膜裏面中央からの光路
116 角膜表面中央からの光路
301 光路111に対応する角膜断面像輪郭
302 光路109に対応する角膜断面像輪郭
303 光路108に対応する角膜断面像輪郭
304 光路106に対応する角膜断面像輪郭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の角膜にスリット光を投影するスリット光投影光学系と、
前記スリット光が角膜で散乱した光を受ける受光素子を含むスリット光受光光学系と、
前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅と前記受光素子が受光した光量とに基づいて、前記被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定手段と、
を有することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記角膜厚測定手段は、前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅が所定値未満の場合には、該受光素子が受光した光量に基づいて前記被検眼の角膜厚を測定することを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記角膜厚測定手段は、前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅が所定値以上の場合には、該幅に基づいて前記被検眼の角膜厚を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記角膜厚測定手段は、前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅と前記受光素子が受光した光量と、及び前記被検眼の角膜の散乱率の情報と、に基づいて、前記被検眼の角膜厚を測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記被検眼の角膜の散乱率の情報は、前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅が所定値以上の場合において前記受光素子が受光した光量に基づく情報であることを特徴とする請求項4に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記角膜厚測定手段は、前記受光素子が受光した前記散乱した光の像の光量に基づいて算出された基準光量をもちいて前記角膜厚を測定することを特徴とする請求項4又は5に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記被検眼の角膜の散乱率の情報の有無を判定する情報判定手段を有し、
前記情報判定手段が前記被検眼の角膜の散乱率の情報が存在すると判断した場合に、前記角膜厚測定手段は、前記角膜の散乱率の情報を前記基準光量として前記角膜厚を測定することを特徴とする請求項6に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記角膜厚測定手段が、
前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅に基づいて前記被検眼の角膜厚を測定する第一角膜厚測定手段と、
前記受光素子上の前記散乱した光の像の光量に基づいて前記被検眼の角膜厚を測定する第二角膜厚測定手段と、
を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記受光素子からの出力に基づいて前記第二角膜厚測定手段を用いるか否かを判定する使用出力判定手段を有し、
前記角膜厚測定手段は、前記使用出力判定手段の判定結果に基づいて前記被検眼の角膜厚を測定することを特徴とする請求項8に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅が所定値未満か否かを判定する幅判定手段を有し、
前記角膜厚測定手段は、前記幅判定手段の判定結果に基づいて前記被検眼の角膜厚を測定することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項11】
前記被検眼の眼圧を測定する眼圧測定手段と、
前記角膜厚測定手段の出力に基づいて前記眼圧の補正を行う補正手段と、
を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項12】
被検眼の角膜にスリット光を投影するスリット光投影光学系と、
前記スリット光が角膜で散乱した光を受ける受光素子を含むスリット光受光光学系と、前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅と前記受光素子が受光した光量とに基づいて前記被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定手段と、
を有することを特徴とする眼科システム。
【請求項13】
被検眼の角膜にスリット光を投影するスリット光投影工程と、
前記スリット光が角膜で散乱した光を受ける受光素子を含むスリット光受光工程と、
前記受光素子上の前記散乱した光の像の幅と前記受光素子が受光した光量とに基づいて、前記被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定工程と、
を有することを特徴とする角膜厚測定方法。
【請求項14】
請求項13に記載の角膜厚測定方法の各工程をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31639(P2013−31639A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121488(P2012−121488)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)