説明

眼科装置

【課題】被検者の安全を確保しつつ検査時間の短縮を図る。
【解決手段】眼科装置1の測定ヘッド3には、被検眼に対して異なる検査を実施する複数の検査手段(眼屈折力測定部31、眼圧測定部32)が設けられている。眼科装置1は、測定ヘッド3を3次元的に移動させる駆動機構10を備える。それにより、眼科装置1は、測定ヘッド3による検査対象を一方の眼から他方の眼に切り換えつつ、左右の各眼に対して複数の検査を実施する。更に、眼科装置1は、検査対象の眼を切り換えるときに、一方の眼の検査位置に位置する検査手段の作動距離に応じた後退距離だけ測定ヘッド3を後退させる。この後退距離は、作動距離に応じて設定された基準後退距離や、被検者の鼻の高さなどに基づいて設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、左右の各眼に対して複数の検査を行う眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の検査を片眼ずつ行う眼科装置としては、たとえば特許文献1に開示されたものが知られている。この眼科装置には、作動距離(ワーキングディスタンス)が長い第1測定部と短い第2測定部とを含む測定ユニット(検査ユニット)が設けられている。これら測定部は上下に並べて配置されている。この眼科装置は、第1測定部による測定から第2測定部による測定に切り換えるときに、第2測定部を作動距離方向に移動させるようになっている。
【0003】
更に、この眼科装置は、第2測定部による測定において左右眼を切り換えるときに、測定ユニットを左右方向に移動させる途中で第2測定部を作動距離方向に移動させるようになっている。このような従来の眼科装置によれば、被検者の顔や顔支持ユニットに装置が接触する事態を回避することはできる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−282671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような眼科装置においては、左右眼の切り換えには少なくとも数秒程度の時間を要する。更に、複数の検査を片眼ずつ行う際には、2回以上の切り換え動作が必要となることもある。このような理由により検査時間が長くなり被検者の負担が増すという問題があった。特に、眼屈折力や眼圧等の実際の測定が短時間で完了する一方、左右眼を切り換える動作には実測時間を大きく超える時間が掛かることから、後者の時間短縮が検査時間全体の短縮に与える影響は大きい。
【0006】
なお、左右眼の切り換え時間を短縮するために測定ユニットを高速で移動させるといった工夫も考えられる。しかし、測定ユニットの重量などを考慮すると、測定ユニットの移動動作の精度が悪化して被検者に対する安全性が低下したり、移動時の発生音によって被検者が不安を感じたり驚いたりするおそれもある。
【0007】
この発明は、以上のような問題を解決するためになされたものであり、被検者の安全を確保しつつ検査時間の短縮を図ることが可能な眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被検眼に対して異なる検査を実施する複数の検査手段を含む検査ユニットと、前記検査ユニットを左右方向及び前後方向に移動させる駆動手段と、前記検査ユニットによる検査対象を片眼から他眼に切り換えるときに、前記片眼の検査位置に位置する検査手段の作動距離に応じた後退距離だけ前記検査ユニットを後退させるように前記駆動手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする眼科装置である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の眼科装置であって、前記制御手段は、前記複数の検査手段のそれぞれに対応する基準後退距離を記録した後退距離情報を予め記憶する記憶手段を含み、前記検査対象の切り換えを行うときに、前記片眼の検査位置に位置する検査手段に対応する基準後退距離を前記後退距離情報から選択し、該基準後退距離に基づいて前記検査ユニットを前記後退距離だけ後退させる、ことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の眼科装置であって、前記複数の検査手段は、上下方向に並んで配置され、前記駆動手段は、前記検査ユニットを上下方向に移動させ、前記制御手段は、前記検査ユニットの上下方向の位置に基づいて前記片眼の検査位置に位置する検査手段を特定する特定手段を含む、ことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼科装置であって、前記複数の検査手段のうち作動距離が異なる第1検査手段及び第2検査手段について、前記第1検査手段に対応する後退距離と前記第2検査手段に対応する後退距離との差は、前記第1検査手段の作動距離と前記第2検査手段の作動距離との差に等しい、ことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科装置であって、前記制御手段は、前記検査ユニットを前記前後方向に沿って前記片眼の検査位置から前記後退距離だけ後退させ、次に前記左右方向に沿って前記他眼側まで移動させ、次に前記前後方向に沿って前記他眼の検査位置に向けて移動させるように前記駆動手段を制御する、ことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科装置であって、前記制御手段は、前記検査ユニットを前記他眼方向かつ後方向の合成方向に沿って前記片眼の検査位置から直線的に移動させ、更に、前記他眼方向かつ前方向の合成方向に沿って前記他眼の検査位置に向けて直線的に移動させるように前記駆動手段を制御する、ことを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科装置であって、前記制御手段は、前記検査ユニットを後方側を凸とする弧状の軌跡に沿って前記片眼の検査位置から前記他眼の検査位置に向けて移動させるように前記駆動手段を制御する、ことを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の眼科装置であって、前記制御手段は、前記片眼の検査位置と前記他眼の検査位置との間の前記左右方向の距離を演算する演算手段を備え、前記検査ユニットによる検査対象を再度切り換えるときに、前記演算手段により過去に演算された距離だけ前記検査ユニットを前記左右方向に移動させるように前記駆動手段を制御する、ことを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の眼科装置であって、前記制御手段は、前記片眼に対する検査結果が得られたことに対応して前記検査対象の切り換えを開始させる、ことを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の眼科装置であって、前記制御手段は、前記検査ユニットを前方向に移動させる速度よりも後方向に移動させる速度を大きくするように前記駆動手段を制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る眼科装置の検査ユニットには、被検眼に対して異なる検査を実施する複数の検査手段が設けられている。また、眼科装置は、検査ユニットを移動させる駆動手段を備え、検査ユニットによる検査対象を一方の眼から他方の眼に切り換えることにより、左右の各眼に対して複数の検査を実施する。更に、眼科装置は、検査対象の眼を切り換えるときに、一方の眼の検査位置に位置する検査手段の作動距離に応じた後退距離だけ検査ユニットを後退させるようになっている。
【0019】
このような眼科装置によれば、作動距離に応じた距離だけ検査ユニットを後退させることにより、無駄に長い後退距離を確保する必要がなく、検査時間の短縮を図ることが可能である。また、このような眼科装置によれば、作動距離に応じた後退距離を確保することができるので、被検者に検査手段が接触する事態を防止して安全性の向上を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明に係る眼科装置の実施形態の一例を説明する。
【0021】
[構成]
図1〜図6は、この実施形態に係る眼科装置の構成例を表している。眼科装置1の外観を図1に示す。眼科装置1は、従来と同様に、ベース2、測定ヘッド3、ディスプレイ4、コントロールレバー5、測定スイッチ6、顎受け7、額当て8及び顎受け移動スイッチ9などを含んで構成される。
【0022】
被検者は、顎を顎受け7に載せ、額当て8に額を当接させた状態で検査を行う。このとき、被検者は、測定ヘッド3側に顔前面を向けた状態となる。オペレータ(検者)は、顎受け移動スイッチ9を操作して顎受け7を上下移動させて被検者の顔の位置を調整する。オペレータは、ディスプレイ4やコントロールレバー5が配設されている側に位置して被検眼を検査する。
【0023】
なお、この明細書における上下方向、前後方向及び左右方向を次のように定義する。(1)上下方向は垂直方向とする。(2)前後方向は、上下方向に直交し、かつ、オペレータ側(ディスプレイ4側)と被検者側(顎受け7等の側)とを結ぶ方向とする。ここで、被検者側に向かう方向を前方向とし、その逆方向を後方向とする。(3)左右方向は、上下方向及び前後方向の双方に直交する方向とする。ここで、被検者の右眼側から左眼側に向かう方向を左方向とし、その逆方向を右方向とする。
【0024】
ベース2には、従来と同様に、演算制御回路、記憶装置、電源回路等が格納されている。測定ヘッド3は、ベース2に対して上下、前後、左右に(つまり3次元的に)移動可能とされている。測定ヘッド3の移動は、後述の駆動機構10よって実行される。
【0025】
ディスプレイ4には、被検眼の前眼部像等の画像が表示される。また、ディスプレイ4には、各種の検査情報(患者情報、検査条件、検査結果等)が表示される。なお、ディスプレイ4は、タッチパネルディスプレイであってもよい。その場合、各種のソフトウェアキーがディスプレイ4に表示され、オペレータはこれらソフトウェアキーを操作することにより眼科装置1に所望の動作を実行させることができる。
【0026】
コントロールレバー5は、測定ヘッド3を手作業で移動させるときなどに操作される。測定スイッチ6は、被検眼に対する測定を実行させるときなどに操作される。なお、ディスプレイ4の周囲(図1では上方及び下方)にもスイッチが配設されている。これらのスイッチは、たとえば被検眼に対するアライメント時や、ディスプレイ4の調整などに使用される。
【0027】
[駆動機構]
駆動機構10は、測定ヘッド3を上下、前後、左右の各方向に移動させるための構成を備えている。駆動機構10は、ベース2内に格納されている。底板11はベース2内に固定配置されている。支持部12は底板11の上面に固着されている。支持部12は中空部を有し、この中空部には支柱13が配設されている。底板11の上面には上下駆動モータ14が固定配置されている。
【0028】
上下駆動モータ14は、たとえばステッピングモータ(パルスモータ)等のアクチュエータを含んで構成される。上下駆動モータ14により発生された駆動力は、図示しない駆動力伝達機構(ギア等を含む)によって伝達されて支柱13を上下方向に移動させる。支柱13の上端には上下移動ステージ15が固着されている。上下移動ステージ15は、支柱13とともに上下方向に移動する。
【0029】
上下移動ステージ15の上面の左右方向の端部付近には、それぞれ前後レール16が設けられている。各前後レール16は、その長手方向が前後方向に沿うように配設されている。各前後レール16上には、前後移動ステージ18が前後方向に移動可能に載置されている。
【0030】
更に、上下移動ステージ15の上面には、前後駆動モータ17が設けられている。前後駆動モータ17は、たとえばステッピングモータ等のアクチュエータを含んで構成される。前後駆動モータ17により発生された駆動力は、図示しない駆動力伝達機構によって伝達され、前後移動ステージ18を前後レール16に沿って移動させる。それにより、前後移動ステージ18は、上下移動ステージ15に対して前後方向に移動される。
【0031】
前後移動ステージ18の上面の前後方向の端部付近には、それぞれ左右レール19が設けられている。各左右レール19は、その長手方向が左右方向に沿うように配設されている。各左右レール19上には、左右移動ステージ21が左右方向に移動可能に載置されている。
【0032】
更に、前後移動ステージ18の上面には、左右駆動モータ20が設けられている。左右駆動モータ20は、たとえばステッピングモータ等のアクチュエータを含んで構成される。左右駆動モータ20により発生された駆動力は、図示しない駆動力伝達機構によって伝達され、左右移動ステージ21を左右レール19に沿って移動させる。それにより、左右移動ステージ21は、前後移動ステージ18に対して左右方向に移動される。
【0033】
左右移動ステージ21上には測定ヘッド3が搭載されている。このような駆動機構10によれば、測定ヘッド3を上下方向、前後方向及び左右方向にそれぞれ独立に移動させることができる。
【0034】
[測定ヘッド]
測定ヘッド3には、被検眼に対して異なる眼科検査を実施する複数の検査手段が設けられており、この発明の「検査ユニット」の一例に相当する。この実施形態では、眼科検査として、眼屈折力検査、眼圧検査及び角膜厚検査を採用する。
【0035】
この発明に係る眼科装置により実施可能な眼科検査は、これらに限定されるものではなく、たとえば次に例示するような任意の検査(測定や撮影)を含んでいてもよい:視力検査、角膜曲率検査、色覚検査、視野検査、前眼部撮影、角膜内皮撮影、眼底撮影、OCT(Optical Coherence Tomography)検査、SLO(Scanning Laser Ophthalmoscope)検査、超音波検査、放射線検査など。また、この発明に係る眼科装置により実行可能な眼科検査の数も2以上の任意の数でよい。
【0036】
測定ヘッド3に格納される光学系の構成を図3〜図5に示す。図3に示す眼屈折力測定系100は、被検眼Eの眼屈折力(球面度数、乱視度数、乱視軸角度等)を測定するための光学系である。図4及び図5に示す眼圧測定系200は、被検眼Eの眼圧を測定するための光学系である。眼圧測定系200は、被検眼Eの角膜厚の測定にも用いられる。各測定系100、200には、図示された部材(光学素子等)以外にも、部材を駆動させる機構や電気回路などが設けられている。
【0037】
眼屈折力測定系100と眼圧測定系200は、たとえば、それぞれ個別のケース(図示せず)内に格納されている。眼屈折力測定系100と眼圧測定系200は、たとえば上下方向に並んで配置されている。この実施形態では、眼屈折力測定系100が上方に、眼圧測定系200が下方に配置されているものとする。
【0038】
〔眼屈折力測定系〕
眼屈折力測定系100は、図3に示すように、従来の眼屈折力測定装置(オートレフラクトメータ)と同様の構成を備えている(たとえば特許第2937373号明細書を参照)。眼屈折力測定系100は、対物レンズ105、投影系110、結像系120、固視標投影系130及び前眼部観察系140を含んで構成されている。
【0039】
投影系110は、孔開きミラー117の反射光軸111に沿って配設された、赤外LED(Light Emitting Diode)112、リレーレンズ113、円錐状プリズム114、リング状開口絞り115及びリレーレンズ116を含んで構成される。赤外LED112と孔開きミラー117は、リレーレンズ113、116に関して共役に配置されている。孔開きミラー117と被検眼Eの瞳Epは、対物レンズ105に関して共役に配置されている。更に、円錐状プリズム114と眼底Erは、リレーレンズ116及び対物レンズ105に関して共役に配置されている。
【0040】
結像系120は、光軸121上に沿って配設された光学素子を含んで構成される。孔開きミラー117の後方の光軸121上には、リレーレンズ122とCCDイメージセンサ123が設けられている。対物レンズ105に関して眼底Erに共役な位置をAとすると、位置AとCCDイメージセンサ123の受光面124は、リレーレンズ122に関して共役となっている。
【0041】
固視標投影系130は、位置Aと孔開きミラー117との間の光軸121上の位置から分岐した光軸131に沿って配置された、固視標呈示部132、リレーレンズ133及びダイクロイックミラー134を含んで構成される。ダイクロイックミラー134は、光軸121上に斜設されており、赤外光を透過させ、可視光を反射させる。固視標呈示部132は、光軸131に沿って移動可能とされている。固視標呈示部132は、リレーレンズ133に関して位置Aに共役な位置に配置される。
【0042】
前眼部観察系140は、対物レンズ105と位置Aとの間の光軸121上の位置から分岐した光軸141に沿って配置された、ハーフミラー142、リレーレンズ143及び撮像装置144を含んで構成される。ハーフミラー142は、光軸121上に斜設されている。撮像装置144は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等の固体撮像素子、又は撮像管などを含んで構成される。撮像装置144の受光面145は、対物レンズ105及びリレーレンズ143に関して前眼部Efに共役に配置される。
【0043】
眼屈折力測定系100による眼屈折力の測定態様について説明する。なお、被検眼Eに対する眼屈折力測定系100のアライメントは完了しているものとする。測定中には前眼部観察系140により前眼部Efの画像が取得される。この画像はディスプレイ4に表示され、前眼部Efが適当な位置に配置されているか確認できるようになっている。また、固視標投影系130により眼底Erに固視標が投影され、それにより被検眼を雲霧状態で固視させる。
【0044】
この状態で赤外LED112を点灯させて、眼底Erにリング像R1を結像させる。リング像R1の眼底反射光は、CCDイメージセンサ123の受光面124に投影される。CCDイメージセンサ123は、この投影像(リング像R2)を検出する。眼科装置1(図6の眼屈折力演算部41)は、従来と同様に、リング像R2の形状を解析することにより被検眼Eの眼屈折力を求める。
【0045】
〔眼圧測定系〕
眼圧測定系200は、図4及び図5に示すように、従来の非接触式眼圧計と同様の構成を備えている(たとえば特開2002−102170号公報を参照)。眼圧測定系200は、前眼部観察系210、XYアライメント視標投影系220、固視標投影系230、XYアライメント検出系240、角膜変形検出系250、スリット投影系260、受光系270及びZアライメント視標投影系280を含んで構成される。
【0046】
ここで、X、Y、Zは、3次元座標系の座標軸を表し、X方向は左右方向、Y方向は上下方向、Z方向は前後方向にそれぞれ対応する。
【0047】
前眼部観察系210は、複数個の前眼部照明光源211、気流吹付ノズル212、前眼部窓ガラス213、チャンバ窓ガラス214、ハーフミラー215、対物レンズ216、ハーフミラー217、218、及びCCDイメージセンサ219を含んで構成される。前眼部照明光源211以外の部材212〜219は、光軸O1上に配置されている。気流吹付ノズル212は、図示しない空気圧縮機構により生成される気流(エアパフ)を被検眼Eに向けて吹き付ける。
【0048】
複数個の前眼部照明光源211は、被検眼Eの左右位置に配置されて前眼部を直接に照明する。前眼部照明光源211から発せられた照明光は、被検眼Eの前眼部にて反射され、気流吹付ノズル212の内外を通過し、前眼部窓ガラス213、チャンバ窓ガラス214及びハーフミラー215を通過し、対物レンズ216により集束される。この集束光は、ハーフミラー217、218を透過してCCDイメージセンサ219の受光面に投影される。CCDイメージセンサ219は、この投影像を検出することにより被検眼Eの前眼部像を撮影する。
【0049】
XYアライメント視標投影系220は、アライメント用光源221、集光レンズ222、開口絞り223、ピンホール板224、ダイクロイックミラー225、投影レンズ226を含んで構成される。これらの部材221〜226は、ハーフミラー215により光軸O1から分岐された光軸上に配置されている。ダイクロイックミラー225は、赤外光を反射させ、可視光を透過させる。
【0050】
アライメント用光源221は赤外光を出力する。この赤外光は、集光レンズにより集光されつつ開口絞り223を通過してピンホール板224に導かれる。ピンホール板224を通過した光束は、ダイクロイックミラー225により反射され、ダイクロイックミラー225により反射され、投影レンズ226により平行光束にされる。この平行光束は、ハーフミラー215により反射され、光軸O1に沿って被検眼Eに照射される。この照射光は、XY方向のアライメントを行うためのXYアライメント視標光として用いられる。
【0051】
固視標投影系230は、ハーフミラー215により光軸O1から分岐された光軸上に配置された、固視標用光源231、ピンホール板232及び投影レンズ226を含んで構成される。
【0052】
固視標用光源231から出力された可視光は、ピンホール板232とダイクロイックミラー225を通過し、投影レンズ226により平行光束にされる。この平行光束は、ハーフミラー215により反射され、光軸O1に沿って被検眼Eの眼底に投射される。この投射光は固視標として用いられる。
【0053】
XYアライメント検出系240は、ハーフミラー218と光センサ241を含んで構成される。光センサ241は、たとえばPSD(Position Sensitive Detector)のように位置検出が可能なセンサにより構成される。
【0054】
XYアライメント視標投影系220により被検眼Eに照射されたXYアライメント視標光は、角膜Ec(の表面)で反射される。この角膜反射光は、気流吹付ノズル212の内部、前眼部窓ガラス213、チャンバ窓ガラス214、ハーフミラー215を通過し、対物レンズ216により集束光とされる。ハーフミラー217を透過した当該集束光は、ハーフミラー218により分割される。ハーフミラー218により反射された成分は、光センサ241の受光面に輝点像T1を形成する。また、ハーフミラー218を透過した成分は、CCDイメージセンサ219の受光面に輝点像T2を形成する。
【0055】
眼科装置1(たとえば図6の演算部40)は、光センサ241による輝点像T1の検出結果に基づいて、角膜Ecに対する眼圧測定系200のXY方向のズレを演算する。一方、CCDイメージセンサ219による輝点像T2の検出結果は、被検眼Eの前眼部像とともにディスプレイ4に表示される。それにより、XY方向のアライメントの状態を目視で確認できる。
【0056】
ハーフミラー217により反射された光束は、角膜変形検出系250に導かれ、ピンホール板251を介して光センサ252により検出される。光センサ252は、フォトダイオード等の光量検出が可能なセンサである。光センサ252は、気流吹付ノズル212からのエアパフにより圧平された状態の角膜Ecによる反射光の光量を検出する。眼科装置1(眼圧演算部42)は、この検出結果から角膜Ecの変形量を求めることにより被検眼Eの眼圧値を求める。
【0057】
スリット投影系260は、スリット光源261、集光レンズ262、スリット263、矩形開口絞り264、ハーフミラー285及び投影レンズ265を含んで構成される。これらの部材は光軸O2上に配置されている。スリット263は、投影レンズ265に関して角膜Ecの裏面に共役に配置される。
【0058】
スリット光源261は赤外光を出力する。この赤外光は、集光レンズ262により集光されてスリット263に導かれる。スリット263を通過した赤外光(スリット光束L)は、矩形開口絞り264、ハーフミラー285を通過し、投影レンズ265により角膜Ecに投影される。角膜Ecに投影されたスリット光束Lは角膜表面や角膜裏面にて反射される。
【0059】
受光系270は、結像レンズ271とラインセンサ272を含んで構成される。これらの部材は光軸O3上に配置されている。なお、光軸O2、O3は、光軸O1に対して左右方向の逆方向に角度θを成すように設けられている。
【0060】
スリット光束Lの角膜反射光(表面反射、裏面反射)は、結像レンズ271により集光され、ラインセンサ272の受光面に結像される。眼科装置1(演算部40)は、ラインセンサ272からの出力信号に基づいて、この角膜反射光の光量分布を求め、この光量分布に基づいてZ方向のアライメントを実行する。また、眼科装置1(角膜厚演算部43)は、この角膜反射光の光量分布の二つのピーク位置に基づいて角膜Ecの厚さを求める。
【0061】
Zアライメント視標投影系280は、アライメント用光源281、集光レンズ282、開口絞り283、ピンホール板284、ハーフミラー285及び投影レンズ265を含んで構成される。ピンホール板284は、投影レンズ265の焦点位置に配置されている。開口絞り283は、投影レンズ265に関して角膜頂点Pに共役に配置されている。
【0062】
アライメント用光源281から出力された赤外光は、集光レンズ282により集光されて開口絞り283に到達する。開口絞り283を通過した赤外光の一部は、ピンホール板284を通過し、ハーフミラー285により反射され、投影レンズ265により角膜Ecに投射される。この赤外光の角膜Ec(の表面)での反射光は、結像レンズ271により集光されてラインセンサ272の受光面に輝点像Qを形成する。この輝点像Qの検出結果は、Z方向のアライメント(粗調整)に利用される。
【0063】
[制御系]
眼科装置1の制御系の構成例を図6に示す。
【0064】
〔測定ヘッド〕
測定ヘッド3には、眼屈折力測定部31と眼圧測定部32が設けられている。眼屈折力測定部31は、図3に示す眼屈折力測定系100など、被検眼Eの眼屈折力を測定するための構成を含んで構成される。眼圧測定部32は、図4、図5に示す眼圧測定系200など、被検眼Eの眼圧を測定するための構成を含んで構成される。なお、この実施形態に係る眼圧測定部32は、被検眼Eの角膜厚の測定も可能である。測定ヘッド3の各部は、制御部60により制御される。眼屈折力測定部31と眼圧測定部32は、それぞれ、この発明の「検査手段」の一例に相当する。
【0065】
〔駆動機構〕
駆動機構10には、図2に示す上下駆動モータ14、前後駆動モータ17及び左右駆動モータ20が設けられている。制御部60(駆動制御部66)は、これらモータ14、17、20を個別に制御することにより、測定ヘッド3を上下方向、前後方向及び左右方向にそれぞれ独立に移動させる。
【0066】
〔演算部〕
演算部40は、測定ヘッド3により得られた情報に基づいて所定の測定結果を演算する。眼屈折力演算部41は、眼屈折力測定部31により得られた情報に基づいて、被検眼Eの球面度数、乱視度数、乱視軸角度等を演算する。眼圧演算部42は、眼圧測定部32により得られた情報に基づいて、被検眼Eの眼圧値を演算する。角膜厚演算部43は、眼圧測定部32により得られた情報に基づいて、被検眼Eの角膜厚を演算する。これらの演算処理は、従来と同様にして実行される。
【0067】
〔ユーザインターフェイス〕
ユーザインターフェイス(UI)50は、表示デバイス、操作デバイス、入力デバイス等を含んで構成される。特に、ユーザインターフェイス50には、ディスプレイ4、コントロールレバー5、測定スイッチ6、顎受け移動スイッチ9などが含まれる。
【0068】
〔制御部〕
制御部60は、眼科装置1の各部の制御を行う。特に、制御部60は、駆動機構10の制御、すなわち測定ヘッド3の移動制御において特徴を有する。制御部60は、たとえば、CPU等のマイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等を含んで構成される。
【0069】
制御部60には、記憶部61、検査完了検知部62、ヘッド位置取得部63、検査内容特定部64、移動距離演算部65及び駆動制御部66が設けられている。
【0070】
(記憶部)
記憶部61は、眼科装置1の制御に関する各種の情報を記憶する。特に、記憶部61は、たとえば後退距離情報61aなど、駆動機構10の制御に関する情報を記憶する。記憶部61は、この発明の「記憶手段」の一例に相当する。
【0071】
後退距離情報61aは、測定ヘッド3に設けられた各検査手段に対応する基準後退距離を記録した情報である。この実施形態では、眼屈折力測定部31と眼圧測定部32のそれぞれに対応する基準後退距離が後退距離情報61aに記録されている。
【0072】
基準後退距離とは、鼻の高さや眼窩の深さや額の高さ等の個人差を考慮せずに、検査手段の作動距離に応じて設定された当該検査手段の後退距離である。更に、基準後退距離は、鼻の高さ等の標準値(たとえば多数の被検者の計測結果)などを参照して設定することも可能である。また、異なる検査手段の間の基準後退距離の差は、たとえば、それらの作動距離の差と等しくなるように設定される。
【0073】
なお、後退距離とは、被検眼Eを左眼から右眼に又は右眼から左眼に切り換えるときに、測定ヘッド3(又は各測定部31、32)を後方(オペレータ側)に移動させる際の移動距離を意味する。
【0074】
また、作動距離とは、検査手段により被検眼Eを検査するときの当該検査手段と被検眼Eとの距離である。作動距離は、各検査手段毎に(各検査毎に)予め設定され、一般にワーキングディスタンスなどと呼ばれている。たとえば、眼屈折力測定部31(眼屈折力検査)の作動距離Drは50mmに設定され、眼圧測定部32(眼圧検査、角膜厚検査)の作動距離Dtは11mmに設定されている。この実施形態では、たとえば、眼屈折力測定部31に対応する基準後退距離と、眼圧測定部32に対応する基準後退距離との差が、これら測定部31、32の作動距離の差(Dr−Dt=39mm)に等しくなるように設定される。なお、作動距離は、検査手段に搭載された光学系の先端位置と被検眼Eとの間の距離として設定することもできるし、検査手段自体の先端位置と被検眼Eとの間の距離として設定することもできる。ただし、この実施形態では、各検査手段について、作動距離の定義は一貫して用いられるものとする(作動距離の差を考慮するため)。
【0075】
(検査完了検知部)
検査完了検知部62は、眼屈折力測定部31や眼圧測定部32による検査が完了したことを検知する。特に、検査完了検知部62は、被検眼Eの切り換えを行う直前の検査が完了したことを検知する。
【0076】
眼科装置1を用いた眼科検査においては、所定の検査フローにしたがって複数の検査を左右眼に対して実施する。検査フローの一例として、次の順序で検査を実施する:(1)右眼の眼屈折力測定;(2)左眼の眼屈折力測定;(3)左眼の眼圧測定(角膜厚測定);(4)右眼の眼圧測定。この検査フローが適用される場合、検査完了検知部62は、少なくとも(1)と(3)が完了したことを検知する。なお、眼屈折力検査を眼圧検査より先に実施するのは、眼圧検査により角膜形状を変形(圧平)した後に眼屈折力検査を行うと、検査結果に誤差が生じるおそれがあるからである。
【0077】
検査完了検知部62は、たとえば、検査結果が取得されたことに基づいて検査の完了を検知する。より具体的には、検査完了検知部62は、検査が実施されて検査結果が得られ、この検査結果が記憶部61に保存されたことに対応して当該検査が完了したものと判断する。
【0078】
なお、左右眼に対する複数の検査を自動的に実施するように検査フローが設定されている場合、つまり「被検眼の切り換え」のステップが検査フローに予め含まれている場合には、検査の完了を検知する必要はなく、よって検査完了検知部62についても設けられていなくてもよい。
【0079】
(ヘッド位置取得部)
ヘッド位置取得部63は、現時点における測定ヘッド3の位置を取得する。なお、眼屈折力測定部31と眼圧測定部32が各々独立に移動可能な場合には、ヘッド位置取得部63は、各測定部31、32の現時点における位置を取得する。また、ヘッド位置取得部63は、特に、測定ヘッド3の上下方向における位置を取得するようになっている(検査内容特定部64の説明を参照)。
【0080】
測定ヘッド3の位置の取得方法の例を説明する。第1の例として、駆動制御部66による駆動機構10の制御内容に基づいて測定ヘッド3の位置を取得する方法がある。駆動機構10は、駆動制御部66からの制御信号を受けて動作する。すなわち、各駆動モータ14、17、20(ステッピングモータを含む)は、駆動制御部66からパルス信号を受け、そのパルス数に応じた距離だけ測定ヘッド3を移動させる。なお、1パルスに対応する移動距離は予め設定されている。また、たとえば検査開始時には、測定ヘッド3は所定の初期位置に配置されるものとする。このような構成によれば、測定ヘッド3が初期位置に配置された状態から現時点までの間に駆動制御部66が送信した制御信号の履歴を参照することにより、現時点における測定ヘッド3の3次元的な位置を取得することが可能である。なお、測定ヘッド3の初期位置は、適宜に設定することができる。たとえば、ユーザが手動操作で初期位置を設定することもできるし、瞳孔間距離を指定(入力、選択等)し、この瞳孔間距離の半分の値に対応する位置を初期位置として設定することもできる。
【0081】
第2の方法は、測定ヘッド3の位置を実際に検出するものである。すなわち、測定ヘッド3の位置を検出するセンサを設けることにより、測定ヘッド3の位置を取得する方法である。
【0082】
(検査内容特定部)
検査内容特定部64は、ヘッド位置取得部63により取得された測定ヘッド3の位置に基づいて、被検眼Eに対する検査内容を特定する。この実施形態の測定ヘッド3には、前述のように、眼屈折力測定部31と眼圧測定部32が上下方向に並んで配置されている。検査内容特定部64は、測定ヘッド3の上下方向の位置に基づいて被検眼Eに対する検査内容(被検眼Eに対向配置されている検査手段)を特定する。検査内容特定部64は、この発明の「特定手段」の一例を構成するものである。
【0083】
なお、検査完了検知部62により完了したものと判断された検査内容に基づいて、検査内容を特定することも可能である。また、複数の検査のフローが予め設定されている場合には、検査内容の特定処理を行う必要がなく、よって、ヘッド位置取得部63や検査内容特定部64も不要である。
【0084】
(移動距離演算部)
移動距離演算部65は、右眼の検査位置と左眼の検査位置との間の左右方向の距離を演算する。ここで、検査位置とは、被検眼Eに対して検査を行う位置、すなわち、被検眼Eに対してX、Y、Zの各方向のアライメントが為された状態における検査手段の位置を意味する。検査位置に配置された検査手段と被検眼Eとの間の距離は、上記の作動距離に相当する。移動距離演算部65は、この発明の「演算手段」の一例を構成するものである。
【0085】
移動距離演算部65が実行する処理の具体例を説明する。移動距離演算部65が動作する前に、ヘッド位置取得部63は、右眼の検査における検査位置と、左眼の検査における検査位置とを取得する。このとき、各眼について少なくとも1つの検査位置が取得されていれば十分である。移動距離演算部65は、ヘッド位置取得部63による取得結果を受け、右眼の検査位置に示す左右方向の位置と、左眼の検査位置における左右方向の位置との差を演算する。この演算結果(左右移動距離)は、被検者の瞳孔間距離に相当するものである。詳細については後述するが、左右移動距離は、測定ヘッド3を次回移動させるときに利用される。
【0086】
(駆動制御部)
駆動制御部66は、前述のように、各駆動モータ14、17、20に制御信号(パルス信号)を送信することにより、測定ヘッド3の移動制御を行う。
【0087】
[動作]
眼科装置1の動作について説明する。図7のフローチャートは、眼科装置1の動作の一例を表している。
【0088】
まず、検査開始を指示する(S1)。この指示は、たとえば眼科装置1の電源を投入する動作であってもよいし、被検者の指定(患者IDの入力等)する動作であってもよい。また、検査開始を指示するための操作部(ハードウェアキーやソフトウェアキー)を設けてもよい。
【0089】
また、この段階で、被検者の鼻の高さ等のデータを入力してもよい。
【0090】
検査開始が指示されると、駆動制御部66は、駆動機構10を制御して測定ヘッド3を上下方向に移動させ、眼屈折力測定部31を所定の高さ位置まで移動させる(S2)。この高さ位置は、たとえば、眼屈折力検査を実施する際の標準的な高さに相当するもので、予め設定されている。この高さ位置は、たとえば、Y方向の原点として用いられる。
【0091】
次に、駆動制御部66は、駆動機構10を制御して測定ヘッド3を左右方向に移動させ、測定ヘッド3を所定の初期位置に配置させる(S3)。この初期位置は、たとえば、予め設定されたX、Yの各方向の原点に相当する位置とされる。この原点は、たとえば、X、Yの各方向への可動範囲の中心位置に設定される。
【0092】
次に、被検者の右眼の眼屈折力検査の検査位置まで測定ヘッド3(眼屈折力測定部31)を移動させる(S4)。この処理は、たとえば次のようにして実行される。
【0093】
第1の例として、測定ヘッド3を自動的に移動させる方法がある。この方法は、たとえば、駆動制御部66の制御により測定ヘッド3を右眼方向に所定距離(たとえば瞳孔間距離の半分の距離)だけ移動させ、従来と同様のアライメントを実行して眼屈折力測定部31を右眼の検査位置に配置させるものである。なお、被検者の画像を撮影することにより、右眼を検出するまで測定ヘッド3を移動させるようにしてもよい。
【0094】
第2の例として、測定ヘッド3を半自動で移動させる方法がある。この方法は、たとえば、オペレータがコントロールレバー5を操作することにより右眼の対向位置まで測定ヘッド3を移動させ、更に、従来と同様のアライメントを実行して眼屈折力測定部31を右眼の検査位置に配置させるものである。
【0095】
次に、右眼の眼屈折力検査を実施する(S5)。この処理は、眼屈折力測定部31が右眼のデータを取得し、眼屈折力演算部41がこのデータを解析して右眼の眼屈折力を演算することにより実行される。なお、眼屈折力検査は、アライメントの完了に対応して自動的に開始するようにしてもよいし、オペレータが測定スイッチ6を操作するなどして手作業で開始するようにしてもよい。検査完了検知部62は、右眼の眼屈折力検査の完了を検知する。
【0096】
ヘッド位置取得部63は、右眼の眼屈折力検査の実施時における測定ヘッド3の位置を取得する(S6)。更に、検査内容特定部64は、測定ヘッド3の位置(特に上下方向の位置)に基づいて、右眼に対して実施された検査内容を特定する(S7)。このとき、なお、ステップ6、7の処理は、ステップ5の前や後などの任意のタイミングで実行可能である。
【0097】
駆動制御部66は、特定された検査内容(検査手段)に対応する基準後退距離を後退距離情報61aから選択し(S8)、この基準後退距離に基づいて測定ヘッド3の後退距離を算出する(S9)。このとき、基準後退距離とともに、被検者の鼻の高さ等の情報を考慮して後退距離を算出することが可能である。
【0098】
更に、駆動制御部66は、駆動機構10を制御し、測定ヘッド3を被検者から後退させつつ左眼側に移動させる(S10)。
【0099】
測定ヘッド3を右眼側から左眼側に移動させるときの態様例を図8〜図10に示す。図8に示す例では、まず前後駆動モータ17を制御して、右眼の検査位置に配置されている測定ヘッド3を後方向に移動させ(軌跡a1)、次に左右駆動モータ20を制御して、測定ヘッド3を左方向に左眼側まで移動させ(軌跡a2)、次に前後駆動モータ17を制御して、左眼の眼前まで測定ヘッド3を前方向に移動させる(軌跡a3)。ここで、軌跡a1に沿っての後退距離は、ステップ9での算出結果に相当する。また、軌跡a2に沿っての移動は、たとえば、所定距離(たとえば瞳孔間距離の標準値や当該被検者の瞳孔間距離の過去の測定結果)だけ自動的に移動させてもよいし、オペレータが手作業で移動させてもよい。軌跡a3に沿った移動の後には、左眼に対するアライメントを従来と同様に実行して、測定ヘッド3を左眼の検査位置に配置させる。
【0100】
図9に示す例では、まず前後駆動モータ17と左右駆動モータ20とを同時に制御して、右眼の検査位置に配置されている測定ヘッド3を後方向と左方向との合成方向(左後ろ方向)に直線的に移動させ(軌跡b1)、次に前後駆動モータ17と左右駆動モータ20とを同時に制御して、測定ヘッド3を左眼の眼前まで前方向と左方向との合成方向(左前方向)に直線的に移動させる(軌跡b2)。ここで、軌跡b1に沿って移動させるときの後退距離、つまり軌跡b1の前後方向成分は、ステップ9での算出結果に相当する。また、各軌跡b1、b2に沿っての移動における左右方向成分は、たとえば、図8の場合と同様の所定距離に設定される。軌跡b2に沿った移動の後には、アライメントを実行して測定ヘッド3を左眼の検査位置に配置させる。
【0101】
図10に示す例では、前後駆動モータ17と左右駆動モータ20とを同時に制御することにより、右眼の検査位置に配置されている測定ヘッド3を後方側を凸とする弧状の軌跡に沿って左眼の眼前まで移動させる。すなわち、この例では、後方側を凸とする曲線状の軌跡に沿って、右眼の検査位置から左眼の眼前まで測定ヘッド3を移動させる。ここで、軌跡cに沿って移動させるときの後退距離、つまり後方向への移動距離は、ステップ9での算出結果に相当する。また、軌跡cに沿っての移動における左右方向への移動距離は、たとえば、図8の場合と同様の所定距離に設定される。軌跡cに沿った移動の後には、アライメントを実行して測定ヘッド3を左眼の検査位置に配置させる。
【0102】
測定ヘッド3が左眼の検査位置に配置されると、ヘッド位置取得部63は測定ヘッド3の位置を取得する(S11)。移動距離演算部65は、ステップ6とステップ11でそれぞれ取得された位置に基づいて、測定ヘッド3の左右方向への移動距離を演算する(S12)。
【0103】
次に、ステップ5と同様にして、左眼の眼屈折力検査を実施する(S13)。
【0104】
左眼の眼屈折力検査が完了したら、駆動制御部66は、上下駆動モータ14を制御して測定ヘッド3を上下方向(この実施形態では上方向)に移動させて眼圧測定部32を左眼の眼前に配置させ、更に、従来と同様のアライメントを実行して眼圧測定部32を左眼の検査位置に配置させる(S14)。このとき、駆動制御部66は、測定ヘッド3を所定距離だけ後方に移動させる。これは、眼圧検査の作動距離の方が眼屈折力検査の作動距離よりも短いことによる。
【0105】
アライメントが完了したら、眼圧測定部32は、左眼の眼圧検査を実施する(S15)。この処理は、眼圧測定部32が左眼のデータを取得し、眼圧演算部42がこのデータを解析して左眼の眼圧を演算することにより実行される。なお、眼圧検査とともに角膜厚検査を実施してもよい。また、眼圧検査は、アライメントの完了に対応して自動的に開始するようにしてもよいし、オペレータが測定スイッチ6を操作するなどして手作業で開始するようにしてもよい。検査完了検知部62は、左眼の眼圧検査の完了を検知する。
【0106】
検査内容特定部64は、ステップ11で取得された測定ヘッド3の位置(特に上下方向の位置)に基づいて、左眼に対して実施された検査内容(眼圧検査)を特定する(S16)。駆動制御部66は、特定された検査内容に対応する基準後退距離を後退距離情報61aから選択し(S17)、この基準後退距離に基づいて測定ヘッド3の後退距離を算出する(S18)。このとき、基準後退距離とともに、被検者の鼻の高さ等の情報を考慮して後退距離を算出することが可能である。
【0107】
更に、駆動制御部66は、駆動機構10を制御し、測定ヘッド3を被検者から後退させつつ右眼側に移動させる(S19)。このときの後退距離は、ステップ18での算出結果に相当し、また、右方向への移動距離は、ステップ12での演算結果に相当する。また、このときの移動態様は、ステップ10と同様に図8〜図10に示したものを適用することが可能である。
【0108】
右眼に対する眼圧測定部32のアライメントが完了したら、右眼の眼圧検査(及び角膜厚検査)を実施する(S20)。以上で、眼科装置1による左右眼の眼屈折力検査及び眼圧検査は終了となる。
【0109】
[作用・効果]
眼科装置1の作用及び効果について説明する。
【0110】
眼科装置1の測定ヘッド3には、被検眼に対して異なる検査を実施する複数の検査手段(眼屈折力測定部31、眼圧測定部32)が設けられている。眼科装置1は、測定ヘッド3を3次元的に移動させることが可能である。それにより、眼科装置1は、測定ヘッド3による検査対象を一方の眼から他方の眼に切り換えつつ、左右の各眼に対して複数の検査を実施する。更に、眼科装置1は、検査対象の眼を切り換えるときに、一方の眼の検査位置に位置する検査手段の作動距離に応じた後退距離だけ測定ヘッド3を後退させるようになっている。
【0111】
このように作用する眼科装置1によれば、作動距離(検査時における被検眼Eと検査手段との距離)に応じた距離だけ測定ヘッド3を後退させることにより、無駄に長い後退距離を確保する必要がなく、検査時間の短縮を図ることが可能である。
【0112】
また、作動距離に応じた後退距離を確保するようになっているので、被検者に検査手段が接触する事態を防止することができ、安全性の向上を図ることが可能である。
【0113】
また、眼科装置1は、各検査手段に対応する基準後退距離を記録した後退距離情報61aを予め記憶し、一方の眼の検査位置に位置する検査手段に対応する基準後退距離を選択的に参照して測定ヘッド3を後退させるようになっている。それにより、検査手段に応じた後退距離を容易にかつ確実に適用することが可能である。更に、眼科装置1によれば、基準後退距離とともに、被検者の鼻の高さ等の個別データを参照して後退距離を求めることができるので、検査時間の短縮及び安全性の確保の双方において好適である。
【0114】
また、この実施形態によれば、異なる検査手段の後退距離の差が、それらの作動距離の差に等しくなるように設定することができるので、左右眼の切り換えを行うときに測定ヘッド3を無駄に長く後退させることなく、検査時間の短縮を図ることができる。
【0115】
また、眼科装置1によれば、図8〜図10に示したような各種の軌跡に沿って測定ヘッド3を移動させることが可能である。いずれの軌跡を適用しても、好適な後退距離を実現することが可能である。特に図9や図10に示す軌跡を適用して移動距離を短縮することにより、左右眼の切り換え時間の短縮を図ることが可能になる。なお、これら以外の任意の軌跡を適宜に採用することも可能である。たとえば、まず測定ヘッド3を斜め後方に移動し、次に左右方向に移動し、更に斜め前方に移動させることによって、検査対象を一方の眼から他方の眼に切り換えることができる。
【0116】
また、眼科装置1によれば、両眼の検査位置の間の左右方向の距離を演算することができる。この距離は、被検者の瞳孔間距離を近似するものである。眼科装置1は、左右眼の切り換えを再度行うときに、上記演算により得られた距離だけ測定ヘッド3を左右方向に移動させるようになっている。それにより、当該左右眼の検査における測定ヘッド3の左右方向への移動距離を好適に求めることが可能である。特に、左右眼の切り換え時間の短縮を図ることにより、その間に被検眼の位置が移動する可能性が少なくなるため、従来と比較して瞳孔間距離を高確度で求めることができる。それにより、アライメント時間の短縮、ひいては検査時間の短縮を図ることが可能になる。
【0117】
また、眼科装置1によれば、検査の完了を検知して左右眼の切り換えを自動的に開始することが可能である。それにより、更なる検査時間の短縮を図ることができる。
【0118】
[変形例]
以上に詳述した内容は、この発明を好適に実施するための構成や動作の一例に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形を適宜に施すことが可能である。
【0119】
上記の実施形態では、2つの検査手段を有する眼科装置について説明したが、この発明に係る眼科装置に搭載する検査手段の個数は任意である。
【0120】
上記の実施形態では、左右眼の切り換え(ステップ10、19)と、検査手段の切り換え(ステップ14)とを別々のタイミングで行っているが、これらの2つの切り換え動作をまとめて実行することも可能である。その場合、どちらの動作を先に行ってもよい。また、双方の動作を同時に行ってもよい。
【0121】
上記の実施形態では、測定ヘッド3の移動速度については特に言及していないが、移動速度についても工夫を施すことが可能である。たとえば、測定ヘッド3を前方向に移動させるときの速度よりも、後方向に移動させるときの速度を大きくするように制御を行うことができる。すなわち、測定ヘッド3を比較的高速で後退させ、比較的高速で前進させるように制御を行うことが可能である。それにより、移動時間の更なる短縮と、安全性の更なる向上を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】この発明に係る眼科装置の実施の形態の外観構成の一例を表す概略斜視図である。
【図2】この発明に係る眼科装置の実施の形態の駆動機構の構成の一例を表す概略斜視図である。
【図3】この発明に係る眼科装置の実施の形態の光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図4】この発明に係る眼科装置の実施の形態の光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図5】この発明に係る眼科装置の実施の形態の光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図6】この発明に係る眼科装置の実施の形態の制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図7】この発明に係る眼科装置の実施の形態の動作の一例を表すフローチャートである。
【図8】この発明に係る眼科装置の実施の形態による測定ヘッドの移動態様の一例を表す概略上面図である。
【図9】この発明に係る眼科装置の実施の形態による測定ヘッドの移動態様の一例を表す概略上面図である。
【図10】この発明に係る眼科装置の実施の形態による測定ヘッドの移動態様の一例を表す概略上面図である。
【符号の説明】
【0123】
1 眼科装置
3 測定ヘッド
10 駆動機構
14 上下駆動モータ
17 前後駆動モータ
20 左右駆動モータ
31 眼屈折力測定部
32 眼圧測定部
40 演算部
41 眼屈折力演算部
42 眼圧演算部
43 角膜厚演算部
50 ユーザインターフェイス(UI)
60 制御部
61 記憶部
61a 後退距離情報
62 検査完了検知部
63 ヘッド位置取得部
64 検査内容特定部
65 移動距離演算部
66 駆動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に対して異なる検査を実施する複数の検査手段を含む検査ユニットと、
前記検査ユニットを左右方向及び前後方向に移動させる駆動手段と、
前記検査ユニットによる検査対象を片眼から他眼に切り換えるときに、前記片眼の検査位置に位置する検査手段の作動距離に応じた後退距離だけ前記検査ユニットを後退させるように前記駆動手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記複数の検査手段のそれぞれに対応する基準後退距離を記録した後退距離情報を予め記憶する記憶手段を含み、前記検査対象の切り換えを行うときに、前記片眼の検査位置に位置する検査手段に対応する基準後退距離を前記後退距離情報から選択し、該基準後退距離に基づいて前記検査ユニットを前記後退距離だけ後退させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記複数の検査手段は、上下方向に並んで配置され、
前記駆動手段は、前記検査ユニットを上下方向に移動させ、
前記制御手段は、前記検査ユニットの上下方向の位置に基づいて前記片眼の検査位置に位置する検査手段を特定する特定手段を含む、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記複数の検査手段のうち作動距離が異なる第1検査手段及び第2検査手段について、前記第1検査手段に対応する後退距離と前記第2検査手段に対応する後退距離との差は、前記第1検査手段の作動距離と前記第2検査手段の作動距離との差に等しい、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記検査ユニットを前記前後方向に沿って前記片眼の検査位置から前記後退距離だけ後退させ、次に前記左右方向に沿って前記他眼側まで移動させ、次に前記前後方向に沿って前記他眼の検査位置に向けて移動させるように前記駆動手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検査ユニットを前記他眼方向かつ後方向の合成方向に沿って前記片眼の検査位置から直線的に移動させ、更に、前記他眼方向かつ前方向の合成方向に沿って前記他眼の検査位置に向けて直線的に移動させるように前記駆動手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記検査ユニットを後方側を凸とする弧状の軌跡に沿って前記片眼の検査位置から前記他眼の検査位置に向けて移動させるように前記駆動手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記片眼の検査位置と前記他眼の検査位置との間の前記左右方向の距離を演算する演算手段を備え、前記検査ユニットによる検査対象を再度切り換えるときに、前記演算手段により過去に演算された距離だけ前記検査ユニットを前記左右方向に移動させるように前記駆動手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記片眼に対する検査結果が得られたことに対応して前記検査対象の切り換えを開始させる、
ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記検査ユニットを前方向に移動させる速度よりも後方向に移動させる速度を大きくするように前記駆動手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の眼科装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−153569(P2009−153569A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332060(P2007−332060)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)