説明

眼科装置

【課題】角膜の乱視軸方向を正確に測定することが可能な眼科装置を提供する。
【解決手段】眼科装置は、略円形状に配列された複数の光源からの光を患者眼の角膜に投影する投影手段を有する。撮影光学系は、光が投影された状態の角膜を撮影素子で撮影する。取得手段は、撮影光学系による撮影画像に基づいて、患者眼の乱視軸方向を取得する。算出手段は、複数の光源のうちの所定の光源からの光が投影された状態の被検物体を撮影素子で撮影して得られた撮影画像について、当該撮影画像における所定の光源からの光の投影像の位置と、当該撮影画像のフレームの向きとに基づいて、撮影光学系の光軸に対する撮影素子と複数の光源との間の回転ずれ角度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術では、混濁した水晶体を摘出し、その代わりとなる眼内レンズ(Intraocular Lens、IOL)を挿入する。眼内レンズには乱視の矯正が可能なものもある(トーリックIOLなどと呼ばれる)。トーリックIOLとしては、たとえば特許文献1、2などに開示されたものが知られている。
【0003】
周知のように、乱視矯正においては、乱視の強さ(乱視度数)だけでなく、角膜の乱視軸方向(乱視軸方向)も重要である。トーリックIOLを挿入する際には、乱視軸の方向に注意を払わなければならない。つまり、トーリックIOLが矯正効果を発揮するためには、患者の眼(患者眼と呼ぶ)の角膜の強主経線方向と、トーリックIOLの弱主経線方向とを出来るだけ合わせる必要がある。両者が10度ずれると矯正効果は65パーセント程度に低下し、30度ずれると矯正効果がほぼ0になってしまうことが知られている。
【0004】
ここで、角膜の乱視軸方向を測定する装置としてはケラトメータやリング照明器を備えた眼科装置が知られている(たとえば特許文献3、4を参照)。
【0005】
ケラトメータは、円形状の光源、または円形状に配置された複数の光源から点状の光(輝点)を角膜に投影し、これら輝点の角膜反射像を撮影し、円形に対する角膜反射像群の楕円形状に基づいて乱視軸方向を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−344990号公報
【特許文献2】特開2006−136714号公報
【特許文献3】特開2007−215956号公報
【特許文献4】特開平8−66369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、例えば、リング照明器の円形状に配列された複数の輝点の角膜反射像を撮影し、乱視軸方向を測定する場合、当該撮影を行う撮影素子(例えばCCD(Charge Coupled Devices))と、リング照明器の乱視軸を示す基準は、その相対的な位置が合わせられている必要がある。
【0008】
しかし、撮影素子を取り付ける際の緩みや、撮影素子やリング照明器にかかる外力により、その相対的な位置にずれが生じる場合がある。
【0009】
このように、撮影素子とリング照明器がずれた状態では正確な乱視軸方向の測定が困難であった。
【0010】
この発明は、以上のような問題を解消するためになされたものであり、その目的は、乱視軸方向を正確に測定することが可能な眼科装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の眼科装置は、略円形状に配列された複数の光源からの光を患者眼の角膜に投影する投影手段を有する。撮影光学系は、光が投影された状態の角膜を撮影素子で撮影する。取得手段は、撮影光学系による撮影画像に基づいて、患者眼の乱視軸方向を取得する。算出手段は、複数の光源のうちの所定の光源からの光が投影された状態の被検物体を撮影素子で撮影して得られた撮影画像について、当該撮影画像における所定の光源からの光の投影像の位置と、当該撮影画像のフレームの向きとに基づいて、撮影光学系の光軸に対する撮影素子と複数の光源との間の回転ずれ角度を算出する。
また、上記目的を達成するために、請求項2に記載の眼科装置は、請求項1記載の眼科装置であって、算出手段により算出された回転ずれ角度に基づいて報知を行う報知手段を有する。
また、上記目的を達成するために、請求項3に記載の眼科装置は、請求項2記載の眼科装置であって、報知手段は、回転ずれ角度が閾値以上である場合に報知を行う。
また、上記目的を達成するために、請求項4に記載の眼科装置は、請求項1から3のいずれかに記載の眼科装置であって、算出手段による算出結果に基づいて、撮影素子及び/または投影手段を移動させる駆動手段を有する。
また、上記目的を達成するために、請求項5に記載の眼科装置は、請求項1から4のいずれかに記載の眼科装置であって、回転ずれ角度の算出を行う第1モードと、患者眼の乱視軸方向を測定する第2モードとを切り替える切替手段を有する。制御手段は、第1モードで算出された回転ずれ角度が閾値以上である場合に、第1モードから第2モードへの切り替えを禁止する。
また、上記目的を達成するために、請求項6に記載の眼科装置は、請求項1から4のいずれかに記載の眼科装置であって、回転ずれ角度の算出を行う第1モードと、患者眼の乱視軸方向を測定する第2モードとを切り替える切替手段を有する。制御手段は、第2モードにおいて回転ずれ角度の算出が行われ、かつ当該回転ずれ角度が閾値以上である場合に、乱視軸方向の測定を禁止する。
また、上記目的を達成するために、請求項7に記載の眼科装置は、請求項1から6のいずれかに記載の眼科装置であって、取得手段により取得された乱視軸方向を算出手段で算出された回転ずれ角度に基づいて補正する補正手段を有する。
また、上記目的を達成するために、請求項8に記載の眼科装置は、請求項1から7のいずれかに記載の眼科装置であって、取得手段により求められた乱視軸方向及び算出手段による算出結果に基づいて、複数の光源のうちのいずれかを特定する特定手段を有する。光源制御手段は、特定手段により特定された光源を点灯させる。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る眼科装置は、投影手段に設けられた複数の光源のうちの所定の光源からの光が投影された状態の被検物体を撮影素子で撮影して得られた撮影画像について、当該撮影画像における所定の光源からの光の投影像の位置と、当該撮影画像のフレームの向きとに基づいて、撮影光学系の光軸に対する撮影素子と複数の光源との回転ずれ角度を算出するように構成されている。
【0013】
よって、撮影素子と投影手段との間に相対的な回転ずれが生じている場合に、その回転ずれ角度を求めることができる。
【0014】
従って、当該回転ずれ角度を考慮することにより、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る眼科装置の外観構成の一例を表す概略図である。
【図2】実施形態に係る投影像形成部が眼科装置に取り付けられた構成の一例を表す概略図である。
【図3】実施形態に係る投影像形成部の構成の一例を表す概略図である。
【図4】実施形態に係る眼科装置の光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図5】実施形態に係る眼科装置の光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図6】実施形態に係る眼科装置の制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図7】実施形態に係る眼科装置の制御系の構成の一例を表すテーブル情報である。
【図8】実施形態に係る算出部の動作説明を行うための図である。
【図9】実施形態に係る算出部の動作説明を行うための図である。
【図10】実施形態に係る算出部の動作説明を行うための図である。
【図11】実施形態に係る算出部の動作説明を行うための図である。
【図12】実施形態に係る眼科装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る眼科装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態では、この発明に係る構成を眼科手術用顕微鏡に適用した場合について説明する。なお、この発明に係る構成の適用対象は、眼科手術用顕微鏡には限定されず、ケラトメータ、オートレフラクトメータ/ケラトメータを始めとする、乱視軸を測定可能な任意の眼科装置であればよい。被検物体には、患者眼及び患者眼を模した無乱視角膜模型眼が含まれる。「模型眼」とは、人眼を模した工具であり、眼科装置を使用する際の基準設定等に用いられるものである。
【0017】
<外観構成>
眼科手術用顕微鏡1の外観構成について図1を参照しつつ説明する。眼科手術用顕微鏡1は、従来と同様に、支柱2、第1アーム3、第2アーム4、駆動装置5、顕微鏡6及びフットスイッチ8を含んで構成される。
【0018】
これらに加え、眼科手術用顕微鏡1は、従来と同様の助手用顕微鏡を備えていてもよい。助手用顕微鏡は、術者が使用する顕微鏡6と異なる向きに装着される。助手用顕微鏡の装着位置は、手術室のレイアウトや患部位置などに応じて適宜に変更可能とされている。
【0019】
駆動装置5は、モータ等のアクチュエータを含んで構成される。駆動装置5は、フットスイッチ8等を用いた操作に応じて顕微鏡6を上下方向や水平方向に移動させる。それにより顕微鏡6は3次元的に移動可能とされる。
【0020】
顕微鏡6の鏡筒部10には、各種の光学系、駆動系、制御系などが収納されている。鏡筒部10の上部にはインバータ部12が設けられている。インバータ部12は、患者眼(被検眼)E(被検眼)の観察像が倒像として得られる場合に、この観察像を正立像に変換する。インバータ部12の上部には、左右一対の接眼部11L、11Rが設けられている。観察者(術者等)は、左右の接眼部11L、11Rを覗き込むことにより、患者眼Eを双眼視することができる。
【0021】
眼科手術用顕微鏡1は、その特徴的な構成として投影像形成部13を備えている。投影像形成部13は、患者眼Eに光束を投射して所定の投影像を患者眼E上に形成する。この実施形態における投影像は、略円形状に配列された複数の輝点像とされる。投影像形成部13は、この発明の「投影手段」の一例を構成している。
【0022】
投影像形成部13の構成例を図2及び図3に示す。撮影部14には後述のTVカメラ56等が格納されている。また、図3は、投影像形成部13のヘッド部131を下方(つまり、患者眼Eの側、換言すると鏡筒部10の反対側)から見たときの構成を表している。
【0023】
図2及び図3に示すように、ヘッド部131は円盤状の部材である。図3に示すように、ヘッド部131の下面には複数のLED(LED群)131−i(i=1〜N)が設けられている。LED群131−iは概ね円形状に配列されている。この実施形態では、36個のLED131−iが概ね等間隔に設けられている(N=36)。すなわち、LED群131−iの中心位置に対して、LED群131−iは概ね10度間隔の角度で配置されている。換言すると、各LED131−iと当該中心位置とを結ぶ線分を考慮すると、隣接する2個のLED131−i、131−(i+1)に関する線分は当該中心位置において概ね角度10度を成して交わる。LED群131−iは、対物レンズ15と患者眼Eとの間において、照明光の光路及びその患者眼Eによる反射光の光路から外れた位置に配置されて使用される。
【0024】
LED群131−iのうち、水平方向と垂直方向に相当するものが、他の方向に相当するものと異なる色を出力するように構成することができる。つまり、乱視軸方向(乱視軸角度)が0度、90度、180度、270度に相当する位置のLED(それぞれLED131−1、131−10、131−19、131−28)が、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)と異なる色の光束を出力するように構成することが可能である。たとえば、LED131−1、131−10、131−19、131−28として赤色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることができる。それにより、乱視軸の水平方向と垂直方向とを容易に認識することが可能となる。なお、水平方向とは観察者(術者)側から見て顕微鏡6の視界における横方向(左右方向)を意味し、垂直方向とは水平方向に直交する方向を意味する。
【0025】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28のうちの幾つかを他のLEDと異なる色の光束を出力するようにしてもよい。たとえば、角度0度に相当するLED131iのみを他のLED(i≠1)と異なる色を出力するように構成することが可能である。
【0026】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28の全てが同じ色(上記例では赤色)の光束を出力するように構成する必要はない。たとえば、各LED131−1、131−19として赤色LEDを用い、各LED131−10、131−28として白色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることが可能である。それにより、水平方向と垂直方向とを容易に識別することが可能となる。
【0027】
なお、上記のように光源の出力色によって水平方向と垂直方向を認識可能にする代わりに、他の構成によって同様の効果を奏することも可能である。たとえば、出力光の明るさを違えることによって方向を識別可能にすることができる。
【0028】
概ね円形状に配列されたLED群131−iの個々のLEDは、この発明の「光源」の一例である。ここで、各光源はLEDである必要はなく、光束を出力可能な任意のデバイスを用いることが可能である。また、複数の光源は等間隔に配置されていなくてもよい。なお、図3は下面図なので、一般的な乱視軸の設定方向とは逆向き(逆回り)にLED群131−iの配置順が設定されている。それにより、LED群131−iから出力された光束の角膜反射光(プルキンエ像)は一般的な乱視軸の設定方向として観察又は撮影される。
【0029】
また、この実施形態では光源が36個設けられているが、設置される光源の個数は任意である。ただし、後述のように、この実施形態では、LED群131−iから出力される光束のプルキンエ像に基づいて患者眼Eの乱視軸方向を測定するので、この測定の精度や確度を担保できるだけの個数の光源が設けられていることが望ましい。
【0030】
また、乱視軸方向やトーリックIOL(Intra Ocular Lens:眼内レンズ)の主経線の配置方向を術者が視認する際に要求される精度に応じて、光源の個数を適宜に設定することが可能である。たとえば、この実施形態では10度間隔で光源を配置しているので、乱視軸方向等を少なくとも10度単位で提示することが可能である。より高い精度で乱視軸方向等を提示するためには、その精度に応じた個数(たとえば5度単位であれば72個)の光源を設けるようにする。より低い精度の場合も同様である。
【0031】
また、この実施形態では各々個別に構成された複数の光源(LED群131−i)を設けているが、この発明はこれに限定されるものではない。たとえば、ヘッド部131の下面に表示デバイス(たとえばLCD(液晶ディスプレイ))を設け、この表示デバイスによって複数の輝点を表示することで同様の機能を得ることが可能である。この場合、各輝点を形成する表示デバイスの画素が「光源」に相当する。
【0032】
鏡筒部10の下端には対物レンズ部16が設けられている。対物レンズ部16には、口述の対物レンズ15が格納されている。対物レンズ部16の近傍には支持部材17が設けられている。支持部材17は対物レンズ部16から側方に向けて形成されている。
【0033】
支持部材17の先端部17aには、上下方向に延びる貫通孔が形成されている。この貫通孔にはアーム133が挿入されている。アーム133はこの貫通孔内を摺動可能とされている。それにより、先端部17aに対し、アーム133を上下方向(図2中の両側矢印Aが示す方向)に移動させることができる。ここで、顕微鏡6側を上方向とし、患者眼E側を下方向としている。
【0034】
アーム133の上端には落下防止部134が設けられている。落下防止部134は、上記貫通孔の口径よりも大きな径を有する板状部材である。それにより、落下防止部134は、アーム133が先端部17aから外れて落下することを防止している。
【0035】
アーム133の下端にはヘッド接続部132が設けられている。ヘッド接続部132は、LED131−iが設けられている面が下方を向くように、ヘッド部131をアーム133に接続している。
【0036】
このような構成により、ヘッド部131、ヘッド接続部132、アーム133及び落下防止部134(つまり投影像形成部13)は、先端部17aに対して上下方向に移動自在とされている。投影像形成部13の移動は、たとえば、ユーザがアーム133等を把持して行う。また、モータ等を用いることにより、投影像形成部13を電動で移動させるように構成することも可能である。
【0037】
支持部材17の下面には連結フック18が設けられている。連結フック18は、投影像形成部13の係合部(図示せず)と係合可能に構成されている。この係合部は、たとえばヘッド接続部132に設けられる。投影像形成部13を上方に移動させると、係合部と連結フック18とが係合して投影像形成部13の上下移動を禁止する。この係合関係は所定の操作(たとえば所定のボタンの押下)によって解除できるようになっている。連結フック18及び上記係合部の構成は任意である。
【0038】
以上のような構成により、LED群131−iは、対物レンズ15の光軸方向に沿って移動できるように保持されている。
【0039】
ヘッド部131は、顕微鏡6(の鏡筒部10や対物レンズ部16)に対して着脱可能に構成されている。ここで、ヘッド部131がヘッド接続部132に対して着脱可能に構成してもよいし、ヘッド接続部132がアーム133に対して着脱可能に構成してもよいし、先端部17aが支持部材17に対して着脱可能に構成してもよいし、支持部材17が対物レンズ部16(又は鏡筒部10)に対して着脱可能に構成してもよい。このような着脱を可能とする機構としては、公知の任意の構成を適用できる。
【0040】
<光学系の構成>
続いて、図4及び図5を参照しつつ、眼科手術用顕微鏡1の光学系について説明する。ここで、図4は、術者から見て左側から光学系を見た図である。また、図5は、術者側から光学系を見た図である。なお、図4及び図5に示す構成に加えて、助手が患者眼Eを観察するための光学系、つまり助手用顕微鏡が設けられていてもよい。
【0041】
助手用顕微鏡については、たとえば特開2006−280805号公報に開示されている。この文献には、助手用顕微鏡を着脱可能に構成することや、助手用顕微鏡の装着位置を変更可能にすることが記載されている。
【0042】
この実施形態において、上下、左右、前後等の方向は、特に言及しない限り術者側から見た方向とする。なお、上下方向については、対物レンズ15から観察対象(患者眼E)に向かう方向を下方とし、これの反対方向を上方とする。
【0043】
対物レンズ15の下方位置(対物レンズ15と患者眼Eとの間の位置)には、前述のLED群131−iが設けられている。図4及び図5には、その視点方向から見て両端に位置するLED131−i、131−j(i、j=1〜N、i≠j)のみ記載してある。
【0044】
なお、対物レンズ15と患者眼Eとの間とは、上下方向における対物レンズの位置(高さ位置)と患者眼Eの位置(高さ位置)との間という意味である(つまり左右方向や前後方向における位置は考慮しない)。LED群131−iは、照明光やその反射光を遮蔽しないように、概ね円環状に配列されている。この略円環の径は、略円環状に配列された投影像(輝点像)を患者眼Eの角膜に形成可能な範囲で任意に設定できる。
【0045】
観察光学系30について説明する。観察光学系30は、図5に示すように左右一対設けられている。左側の観察光学系30Lを左観察光学系と呼び、右側の観察光学系30Rを右観察光学系と呼ぶ。符号OLは左観察光学系30Lの光軸(観察光軸)を示し、符号ORは右観察光学系30Rの光軸(観察光軸)を示す。左右の観察光学系30L、30Rは、対物レンズ15の光軸Oを挟むように配設されている。
【0046】
従来と同様に、左右の観察光学系30L、30Rは、それぞれ、ズームレンズ系31、ビームスプリッタ32(右観察光学系30Rのみ)、結像レンズ33、像正立プリズム34、眼幅調整プリズム35、視野絞り36及び接眼レンズ37を有する。
【0047】
ズームレンズ系31は複数のズームレンズ31a、31b、31cを含んでいる。各ズームレンズ31a〜31cは、図示しない駆動機構によって観察光軸OL(又は観察光軸OR)に沿う方向に移動可能とされる。それにより患者眼Eを観察又は撮影する際の拡大倍率が変更される。
【0048】
右観察光学系30Rのビームスプリッタ32は、患者眼Eから観察光軸ORに沿って導光された観察光の一部を分離してTVカメラ撮像系に導く。TVカメラ撮像系は、結像レンズ54、反射ミラー55及びTVカメラ56を含んで構成される。テレビカメラ撮像系は撮影部14に格納されている。
【0049】
TVカメラ56は撮影素子56aを備えている。撮影素子56aは、たとえば、CCDイメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等によって構成される。撮影素子56aとしては2次元の受光面を有するもの(エリアセンサ)が用いられる。
【0050】
眼科手術用顕微鏡1の使用時には、撮影素子56aの受光面は、術者が観察したい部位(結像位置)と光学的に共役な位置に配置される。
【0051】
対物レンズ15、ズームレンズ系31、ビームスプリッタ32、及びTVカメラ撮像系は、本実施形態における「撮影光学系」を構成する。患者眼Eからの反射光が撮影素子56aに至る経路を「撮影光学系の光路」という。また当該光路の中心軸を「撮影光学系の光軸」という。
【0052】
像正立プリズム34は倒像を正立像に変換する。眼幅調整プリズム35は、術者の眼幅(左眼と右眼との間の距離)に応じて左右の観察光の間の距離を調整するための光学素子である。視野絞り36は、観察光の断面における周辺領域を遮蔽して術者の視野を制限する。
【0053】
続いて、照明光学系20について説明する。照明光学系20は、図4に示すように、照明光源21、光ファイバ21a、出射口絞り26、コンデンサレンズ22、照明野絞り23、スリット板24、コリメータレンズ27及び照明プリズム25を含んで構成される。
【0054】
照明野絞り23は、対物レンズ15の前側焦点位置と光学的に共役な位置に設けられている。また、スリット板24のスリット穴24aは、この前側焦点位置に対して光学的に共役な位置に形成されている。
【0055】
照明光源21は、顕微鏡6の鏡筒部10の外部に設けられている。照明光源21には光ファイバ21aの一端が接続されている。光ファイバ21aの他端は、鏡筒部10内のコンデンサレンズ22に臨む位置に配置されている。照明光源21から出力された照明光は、光ファイバ21aにより導光されてコンデンサレンズ22に入射する。
【0056】
光ファイバ21aの出射口(コンデンサレンズ22側のファイバ端)に臨む位置には、出射口絞り26が設けられている。出射口絞り26は、光ファイバ21aの出射口の一部領域を遮蔽するように作用する。出射口絞り26による遮蔽領域が変更されると、照明光の出射領域が変更される。それにより、照明光による照射角度、つまり患者眼Eに対する照明光の入射方向と対物レンズ15の光軸Oとが成す角度などを変更することができる。
【0057】
スリット板24は、遮光性を有する円盤状の部材により形成されている。スリット板24には、照明プリズム25の反射面25aの形状に応じた形状を有する複数のスリット穴24aからなる透光部が設けられている。スリット板24は、図示しない駆動機構により、照明光軸O′に直交する方向(図4に示す両側矢印Bの方向)に移動される。それによりスリット板24は照明光軸O′に対して挿脱される。
【0058】
コリメータレンズ27は、スリット穴24aを通過した照明光を平行光束にする。平行光束になった照明光は、照明プリズム25の反射面25aにて反射されて対物レンズ15を経由して患者眼Eに投射される。患者眼Eに投射された照明光(の一部)は角膜にて反射される。患者眼Eによる照明光の反射光(観察光と呼ぶことにがある)は、対物レンズ15を経由して観察光学系30に入射する。このような構成により、患者眼Eの拡大像の双眼観察が可能となる。
【0059】
<制御系の構成>
次に、図6を参照しつつ眼科手術用顕微鏡1の制御系について説明する。なお、図6においては制御系の一部が省略されている。
【0060】
<制御部>
眼科手術用顕微鏡1の制御系は制御部60を中心に構成される。制御部60は、眼科手術用顕微鏡1の任意の部位(たとえば支柱2の内部)に設けられる。なお、図1に示した構成とは別にコンピュータを設け、これを制御部60として用いるようにしてもよい。
【0061】
制御部60は眼科手術用顕微鏡1の各部を制御する。制御部60は、通常のコンピュータと同様にマイクロプロセッサやメモリを含んで構成される。制御部60にはLED制御部61が設けられている。
【0062】
<LED制御部>
LED制御部61はLED群131−iを制御する。特に、LED制御部61は、LED群131−iのうちの特定のLED131−nを制御して、他のLED群131−i(i≠n)と異なる点灯状態にする。
【0063】
この点灯状態の制御例として、LED制御部61は、特定のLED131−nを点滅させるとともに、他のLED群131−iを連続点灯させる。ここで、点滅とは、所定の時間間隔(たとえば1秒間隔)でLED131−i、131−(i+18)の点灯と消灯とを繰り返すことである。また、連続点灯とは、消灯させるための指示がなされるまでLED131−jを点灯させたままの状態にすることである。
【0064】
他の例として、LED制御部61は、特定のLED131−nからの出力光の色と、他のLED群131−iからの出力光の色とを異ならせることができる。また、特定のLED131−nからの出力光の明るさや輝点のサイズを、他のLED群131−iと異ならせるようにしてもよい。この場合、特定のLED131−nと他のLED群131−iとを、異なるタイプのLEDで構成することができる。
【0065】
以上は点灯状態の制御の一例に過ぎない。点灯状態の制御は、全てのLED群131−i(の輝点像)において、特定のLED131−n(の輝点像)の識別が可能となるものであれば、その手法や構成は問わない。この点灯状態の制御を行うLED制御部61は、この発明の「光源制御手段」の一例である。
【0066】
更に、LED制御部61は、後述の光源特定部63により特定されたLED131−mの点灯状態を変更する。この制御の例として、LED制御部61は、特定されたLED131−mを点滅させたり、他のLED131−iと異なる色の光をLED131−mに出力させたりする。
【0067】
このLED131−mは、患者眼Eの乱視軸方向に対応する位置に配置されたものである。当該位置は、患者眼Eの角膜の主経線方向(強主経線方向又は弱主経線方向)に相当する位置、或いはトーリックIOLの主経線(強主経線又は弱主経線)の配置方向に相当する位置などである。
【0068】
<駆動制御部>
駆動制御部62は、撮影素子56a及び投影像形成部13を相対的に回転させる駆動機構(図示なし)を制御する。それにより、投影像形成部13と撮影素子56aとが相対的に移動する。駆動機構は、撮影素子56a及び投影像形成部13の少なくとも一方を撮影光学系(対物レンズ15)の光軸を中心として回転させるものであり、その構成は任意である。駆動制御部62及び駆動機構は、この発明の「駆動手段」の一例である。
【0069】
<光源特定部63>
光源特定部63は、乱視情報演算部81により求められた乱視軸方向に基づいて、乱視軸方向の情報に対応する位置のLED131−iを特定する。なお、各LED131−iは各輝点像を形成するので、LED131−iを特定することと、輝点像を特定することとは同義である。光源特定部63はこの発明の「特定手段」の一例である。
【0070】
光源特定部63は、たとえば次のようにして目的のLED131−iを特定する。まず、光源特定部63は、各LED131−iと乱視軸方向との対応関係が記録された光源/乱視軸方向情報をあらかじめ記憶している。光源/乱視軸方向情報は、たとえば、各LED131−iに対して乱視軸方向を対応付けたテーブル情報である。
【0071】
このテーブル情報の一例を図7に示す。テーブル情報64には「光源ID」欄と「乱視軸方向」欄とが設けられている。「光源ID」欄には、各LED131−iに対してあらかじめ付与された識別情報(ID情報)が列挙されている。テーブル情報64では、図3に示す各LED131−iにおける符号「i」を識別情報としている。「乱視軸方向」欄には、各LED131−iに対応する乱視軸方向の値が列挙されている。
【0072】
光源特定部63は、乱視情報演算部81により求められた乱視軸方向を受けると、テーブル情報64の「乱視軸方向」欄における当該乱視軸方向を特定し、更に、この特定された乱視軸方向に対応する「光源ID」欄の識別情報を特定する。
【0073】
更に、光源特定部63は、当該乱視軸方向に180度を加算し、この和に対応する識別情報をテーブル情報64に基づいて特定する。このときの加算処理は、360度を法(modulo)として行う。つまり、加算処理により得られた和の値が360度を超えた場合には、この和の値から360を減算して剰余を求め、この剰余の値に対応する識別情報を求める。このようにして、互いに対向する位置(すなわち180度ずれた位置)に配置された二つのLED131−iが特定される。
【0074】
具体例として、求められた乱視軸方向が90度であった場合、光源特定部63は、まず90度に対応する識別情報として「10」を特定し、更に、90度+180度=270度に対応する識別情報として「28」を特定する。それにより、互いに対向する位置に配置された一対のLED131−10、131−28が特定される。
【0075】
特定手段は上記の構成には限定されない。たとえば、図7のテーブル情報64の代わりに、各乱視軸方向に対して上記した互いに対向する一対のLED131−i(i=1〜18)、131−(i+18)を対応付けたテーブル情報をあらかじめ記憶しておくことができる。それにより、光源の識別情報を特定する処理を一回で済ませることができる。
【0076】
<記憶部>
記憶部70は各種情報を記憶する。制御部60は、記憶部70に情報を記憶させる処理と、記憶部70から情報を読み出す処理とを実行する。記憶部70には例えば、回転ずれ角度(後述)に対応する情報が記憶される。
【0077】
<演算処理部>
演算処理部80は、乱視情報演算部81、算出部82、及び補正部83を含んで構成されている。
【0078】
<乱視情報演算部>
乱視情報演算部81は、たとえば特開平11−225963に記載されているように、楕円形状に配列された複数の輝点像の楕円主軸方向に基づいて乱視軸方向(乱視軸角度)の情報を取得する。つまり、乱視情報演算部81は、撮影光学系による撮影画像に基づいて、患者眼Eの乱視軸方向の情報を取得することができる。なお、これに加えて、乱視情報演算部81は、楕円率(短径と長径との比)から乱視度数を求めたり、楕円の大きさから球面度数を求めたりすることも可能である。乱視情報演算部81は、「取得手段」の一例である。
【0079】
<算出部>
算出部82は、LED群131−iのうちの所定の光源からの光が投影された状態の被検物体(無乱視角膜模型眼や患者眼E)を撮影素子56aで撮影して得られた撮影画像について、当該撮影画像における所定の光源からの光の投影像の位置と、当該撮影画像のフレームの向きとに基づいて、撮影光学系の光軸に対する撮影素子56aとLED群131−i(投影手段)との間の回転ずれ角度を算出する。「フレームの向き」は、例えばエリアセンサからなる撮影素子56aについては、その画素の配列に基づいて設定される。本実施形態では、縦横に配列された画素に基づいてその横方向をX方向とし、縦方向をY方向とすることでフレームの向きを定義する。「回転ずれ角度」とは、撮影光学系の光軸を基準として、撮影素子56a(投影手段)が投影手段(撮影素子56a)に対してどれくらい回転しているかを示す角度である。算出部82は、「算出手段」の一例である。
【0080】
ここで図8から図11を用いて、算出部82における具体的な回転ずれ角度の算出方法の一例について説明を行う。図8から図11は、撮影素子56aで撮影して得られた撮影画像を示す。図8から図11では、横方向を撮影素子56aのフレームのX方向とし、縦方向を撮影素子56aのフレームのY方向とする。「α」は、撮影素子56aのフレームを示す。この例においては、「所定の光源」としてヘッド部131に設けられたLED131−1、LED131−10、LED131−19、及びLED131−28の4点を点灯させ、被検物体に光を投影するものとする。また、所定の光源に対して、撮影素子56aが回転しているものとして説明を行う。
【0081】
なお、撮影素子56aと複数の光源との間に回転ずれがない場合、例えば、無乱視角膜模型眼を撮影素子56aで撮影して得られた撮影画像は図8のようになる。すなわち、LED131−1の輝点像とLED131−19の輝点像とを結ぶ線分、及び、LED131−10の輝点像とLED131−28の輝点像とを結ぶ線分が、それぞれ撮影素子56aの辺(つまり、X方向・Y方向)に対して平行となる。
【0082】
一方、撮影素子56aと複数の光源とが回転ずれ角度θCAMだけずれている場合、図9のように撮影素子56aのフレームの辺に対して上記の線分が傾いた状態となる。
【0083】
算出部82は、まずLED131−1の輝点像及びLED131−19の輝点像のフレーム内における座標値を求め、その座標値に基づいてピクセル差(x、y)を算出する(図10参照)。同様に、算出部82は、LED131−10の輝点像及びLED131−28の輝点像のフレーム内における座標値を求め、その座標値に基づいてピクセル差(x、y)を算出する(図11参照)。
【0084】
次に、算出部82は、ピクセル差(x、y)から撮影素子56aのフレームのX方向に対する角度θを算出する(図10参照)。同様に、算出部82は、ピクセル差(x、y)から撮影素子56aのフレームのY方向に対する角度θを算出する(図11参照)。
【0085】
そして、算出部82は、(θ+θ)/2を回転ずれ角度θCAMとして算出する。なお、図8の場合には、回転ずれ角度θCAMは0°となる。
【0086】
なお、算出部82による回転ずれ角度θCAMの算出方法はこれに限られない。フレームの向きと輝点像の位置(投影像の位置)とに基づいて算出するものであればよい。
【0087】
また、回転ずれ角度θCAMの向き付けは任意であるが、本実施形態では反時計回りを正方向(プラス方向)とする。
【0088】
<補正部>
補正部83は、乱視情報演算部81により求められた乱視軸方向を、算出部82で算出された回転ずれ角度θCAMに基づいて補正する。補正部83は、「補正手段」の一例である。
【0089】
例えば、回転ずれ角度θCAMがある状態で患者眼Eに対して乱視軸測定を行う場合、補正部83は、乱視情報演算部81により得られた測定結果(乱視軸方向の情報)に対して、回転ずれ角度θCAMを加味して乱視軸方向の補正を行う。
【0090】
<操作部>
操作部90は、眼科手術用顕微鏡1を操作するために術者等により使用される。操作部90には、顕微鏡6の筺体などに設けられた各種のハードウェアキー(ボタン、スイッチ等)や、フットスイッチ8が含まれる。また、タッチパネルディスプレイが設けられている場合、これに表示される各種のソフトウェアキーも操作部90に含まれる。また、操作部90は、調整モードM1(後述)と取得モードM2(後述)とを切り替えるための指示入力に用いられる。制御部60は、この指示を受けて動作モードを切り替える。制御部60及び操作部90は、「切替手段」の一例である。
【0091】
<表示部>
表示部100は、眼科手術用顕微鏡1による撮影画像等を表示させることができるモニタ等の表示装置である。
【0092】
<報知手段>
本実施形態では、制御部60、LED制御部61、及び表示部100が「報知手段」を形成する。
【0093】
すなわち、制御部60は、算出部82により算出された回転ずれ角度を閾値と比較する。そして、制御部60は、当該回転ずれ角度が閾値以上であると判断した場合には、LED制御部61を制御して撮影素子56aの回転方向を呈示させる。ここでの「閾値」は、撮影素子56aと複数の光源(投影手段)とが回転ずれをおこしていてもほぼ正確な乱視軸方向を求めることができるか否かを区別する値である。当該閾値は、装置の測定精度などによって予め定まっている。例えば、閾値としては±2.5°という値を用いることができる。
【0094】
例えば、図9において、反時計回りに回転ずれ角度θCAMだけずれている場合には、時計回りに回転ずれ角度θCAMだけ撮影素子56aを回転移動させればよい。従って、LED制御部61は、LED群131−iを時計回りに順次点灯させるよう制御する。
【0095】
このように点灯制御されたLED群131−iからの光の角膜投影像を表示部100に表示させることにより、術者は撮影素子56aを回転補正する方向を容易に把握することができる。
【0096】
<動作>
次に、図9〜図12を参照して本実施形態に係る眼科手術用顕微鏡1の動作について説明を行う。本実施形態では、乱視軸測定を開始する前に無乱視角膜模型眼などを使用して所定の光源からの投影像を撮影し、算出部82により回転ずれを算出する第1モードである調整モードM1、及び実際に患者眼Eの乱視軸方向を測定する第2モードである取得モードM2の異なる2つのモードを有する。また、本実施形態では、投影手段に対して撮影素子56aを移動させる場合について述べる。
【0097】
まず、LED制御部61は所定の光源を点灯させ、無乱視角膜模型眼に対して当該所定の光源の像を投影する(S10)。本実施形態では、所定の光源としてヘッド部131に設けられたLED131−1、LED131−10、LED131−19、及びLED131−28の4つが点灯されるものとする。
【0098】
撮影素子56aは、S10で投影された光源の像(投影像)を撮影する(S11)。
【0099】
次に、算出部82は、横方向のLED131−1及びLED131−19のフレーム内における座標値を求め、その座標値に基づいてピクセル差を算出する。同様に、算出部82は、縦方向のLED131−10及びLED131−28のフレーム内における座標値を求め、その座標値に基づいてピクセル差を算出する。更に、算出部82は、当該ピクセル差から撮影素子56aのフレームのX方向に対する角度θ、及びフレームのY方向に対する角度θを算出する。そして、角度θ及び角度θから算出部82は、回転ずれ角度θCAMを算出する(S12)。
【0100】
制御部60は、S12で算出された回転ずれ角度θCAMが閾値以上か否かを判断する(S13)。なお、S13の判断は術者が手動で行ってもよい。この場合には、S12で算出された回転ずれ角度θCAMが表示部100等に表示される。当該表示された回転ずれ角度θCAMを見た術者が、撮影素子56aを回転させてずれを補正するかどうかを決定する。
【0101】
回転ずれ角度θCAMが閾値よりも小さいと判断された場合(S13でNの場合)、記憶部70は、当該角度θCAMを補正値として記憶する(S14)。その後、制御部60は、LED制御部61を制御し、LED群131−iを点滅させる等により、調整モードM1が完了したことを術者に示す(S15)。
【0102】
その後、操作部90を操作することにより、制御部60は、取得モードM2に切り替えを行う。取得モードM2において、乱視情報演算部81は、患者眼Eの乱視軸方向を求める。この際、補正部83は、乱視情報演算部81で求められた乱視軸方向をS13で記憶された角度θCAMで補正することにより、回転ずれを考慮した乱視軸方向を求めることができる(S16)。
【0103】
一方、回転ずれ角度θCAMが閾値よりも大きいと判断された場合(S13でYの場合)、報知手段による報知が行われる(S17)。例えば、制御部60は、LED制御部61を制御し、LED群131−iを撮影素子56aの回転方向が分かるように点灯させる。
【0104】
術者は、当該点灯の状態を参照しながら撮影素子56aを回転させ、回転ずれ角度が閾値よりも小さくなるように補正する(S18)。なお、当該補正は手動でも自動でもよい。自動の場合、算出部82で算出された回転ずれ角度θCAMに基づいて、駆動制御部62が前述の駆動機構(図示なし)を制御することにより撮影素子56aを当該角度θCAMだけ回転させる。
【0105】
その後、操作部90を操作することにより、制御部60は、取得モードM2に切り替えを行う。取得モードM2において、乱視情報演算部81は、患者眼Eの乱視軸方向を求める(S19)。
【0106】
なお、本実施形態では回転ずれ角度を補正する際に、撮影素子56aを回転する例について述べたが、これに限られない。例えば、投影手段(投影像形成部13、或いは回転可能に設けられたヘッド部131等)を回転ずれ角度分を打ち消すように回転させることにより同様の補正が可能となる。更には、撮影素子56aと投影手段の双方を回転させて回転ずれ角度を打ち消すことも可能である。
【0107】
<作用・効果>
本実施形態に係る眼科手術用顕微鏡1を含む眼科装置の作用及び効果について説明する。
【0108】
眼科装置は、略円形状に配列された複数の光源(LED群131−i)からの光を患者眼Eの角膜に投影する投影像形成部13を有する。撮影光学系に設けられた撮影素子56aは、LED群131−iから光が投影された状態の角膜を撮影する。乱視情報演算部81は、撮影素子56aにより撮影された撮影画像に基づいて、患者眼Eの乱視軸方向を取得する。算出部82は、LED群131−iのうちの所定の光源からの光が投影された状態の無乱視角膜模型眼を撮影素子56aで撮影して得られた撮影画像について、当該撮影画像における所定の光源からの光の投影像の位置と、当該撮影画像のフレームの向きとに基づいて、撮影光学系の光軸に対する撮影素子56aとLED群131−iとの間の回転ずれ角度を算出する。
【0109】
よって、撮影素子56aとLED群131−i(投影像形成部13)との間に相対的な回転ずれが生じている場合に、その回転ずれ角度を求めることができる。
【0110】
従って、当該回転ずれ角度を考慮することにより、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0111】
また、眼科装置は、算出部82により算出された回転ずれ角度に基づいて報知を行う報知手段を有する。そして、当該報知手段は、回転ずれ角度が閾値以上である場合に報知を行う。
【0112】
よって、撮影素子56aとLED群131−i(投影像形成部13)との間に生じた相対的な回転ずれが閾値以上である場合であっても、容易に把握することができる。
【0113】
従って、当該報知に基づいて回転ずれの補正を行うことにより、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0114】
また、眼科装置は、算出部82による算出結果に基づいて、撮影素子56a及び/または投影像形成部13を移動させる駆動手段を有してもよい。
【0115】
その場合、撮影素子56aとLED群131−i(投影像形成部13)との間に相対的な回転ずれが生じている場合であっても、当該回転ずれを打ち消すように撮影素子56a及び/または投影像形成部13を移動させることにより、その回転ずれ角度を補正することができる。
【0116】
従って、回転ずれ角度を補正することにより、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0117】
また、眼科装置は、乱視情報演算部81により求められた乱視軸方向を算出部82で算出された回転ずれ角度に基づいて補正する補正部83を有する。
【0118】
よって、撮影素子56aとLED群131−i(投影像形成部13)との間に相対的な回転ずれが生じている場合であっても、乱視軸方向を回転ずれ角度で補正することができる。
【0119】
従って、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0120】
<変形例>
以上に説明した内容は、この発明を実施するための一構成例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内において適宜に変形を加えることが可能である。
【0121】
<変形例1>
上記実施形態において説明した通り、回転ずれ角度θCAMが閾値よりも大きい場合には、調整モードM1の段階で撮影素子56aをLED群131−i(投影像形成部13)に対して回転させ、ずれを補正しないと乱視軸方向を正確に測定することができない。
【0122】
しかし、調整モードM1から取得モードM2への切り替えは操作部90等を操作することにより容易に行うことができる。
【0123】
従って、術者が回転ずれ角度θCAMが閾値よりも大きいことを認識できない場合には、回転ずれが生じたままで取得モードM2へ切り替えられ、乱視軸方向の測定がおこなわれる可能性がある。
【0124】
そこで、本変形例に係る制御部60は、算出部82により算出された回転ずれ角度が閾値以上である場合には、調整モードM1から取得モードM2への切り替えを禁止する制御を行う。
【0125】
つまり、回転ずれ角度θCAMが閾値よりも大きい場合には、取得モードM2に切り替えることができない。従って、乱視軸方向の測定を行うことができない。
【0126】
このように、調整モードM1から取得モードM2への切り替えを規制することによっても、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0127】
また、制御部60は、取得モードM2での乱視軸測定中にも回転ずれ角度を算出するよう算出部82を制御することも可能である。取得モードM2中における算出処理は、所定のトリガに対応して実行される。例えば、術者が操作部90により処理を開始する入力を行うことが可能である。或いは、所定時間毎に算出処理を実行するよう予め設定しておき、制御部60が当該所定時間毎に算出処理を実行するよう算出部82を自動制御することも可能である。
【0128】
そして、算出部82で算出された回転ずれ角度が閾値以上である場合には、制御部60は、取得モードM2での動作を禁止する制御、すなわち乱視軸測定を禁止する制御を行う。つまり、乱視軸測定中であっても何らかの要因で撮影素子56aとLED群131−i(投影像形成部13)との間に相対的な回転ずれが生じた場合には、乱視軸測定を中止させる。
【0129】
このように、取得モードM2中の動作を制御することによっても、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0130】
<変形例2>
投影像形成部13が、眼科手術用顕微鏡1に対して着脱可能なアタッチメント方式の場合やLED群131−iが回転可能な構成を採用する場合等には、撮影素子56aに対する投影像形成部13(LED群131−i)の回転ずれが生じるおそれがある。
【0131】
このような場合に対処するため、上述の通り、投影像形成部13を回転ずれ角度θCAMに基づいて回転させることにより、ずれを補正することができる。しかし、投影像形成部13を回転させると撮影素子56aに対してLED群131−iが回転することになるため、回転ずれ角度θCAMを求めた際に点灯させた所定の光源を含むLED群131−iの位置が回転方向にずれることになる。
【0132】
そこで、本変形例に係る眼科装置における光源特定部63は、乱視情報演算部81により求められた乱視軸方向及び算出部82による算出結果から複数の光源のうちのいずれかを特定する。
【0133】
光源特定部63は、乱視情報演算部81により求められた乱視軸方向を受けると、当該乱視軸方向の角度に対して、算出部82による算出結果である回転ずれ角度θCAMを加味して補正した乱視軸方向を求める。
【0134】
そして、光源特定部63はテーブル情報64から当該補正した乱視軸方向を特定し、更に、この特定された乱視軸方向に対応する識別情報を特定する。この後の処理は実施形態で説明した内容と同じであるため説明を省略する。
【0135】
LED制御部61は、LED群131−iを制御し、光源特定部63により特定された光源を点灯させる。
【0136】
このように、光源特定部63で光源を特定し、当該特定された光源をLED制御部61で点灯させることにより、投影像形成部13を移動させた場合であっても乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0137】
<変形例3>
LED群131−iの縦方向と横方向の点灯形態(色、点滅・点灯のさせ方等)が異なるようLED制御部61が制御することにより、LED群131−iの縦横方向を判別可能とすることができる。
【0138】
このようにLED群131−iを点灯させることにより、撮影素子56aとLED群131−iとの相対的な回転ずれが大きい場合(例えば回転ずれ角度が45°以上の場合)であっても、そのずれ方向を正確に把握することができる。従って、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【0139】
<変形例4>
実施形態のS18で行った補正が適切になされたかどうかを確認する処理を行ってもよい。すなわち、S18で補正を行った後、各構成に再度S10以降の処理を実行させることも可能である。
【0140】
この場合、撮影素子56aとLED群131−iとの相対的な回転ずれを補正することができているかどうかを確認することができる。従って、乱視軸方向を正確に測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0141】
1 眼科手術用顕微鏡(眼科装置)
13 投影像形成部
131 ヘッド部
131−i LED群(LED)
132 ヘッド接続部
133 アーム
134 落下防止部
15 対物レンズ
20 照明光学系
30 観察光学系
32 ビームスプリッタ
56 TVカメラ
60 制御部
61 LED制御部
62 駆動制御部
63 光源特定部
70 記憶部
80 演算処理部
81 乱視情報演算部
82 算出部
83 補正部
90 操作部
100 表示部
E 患者眼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形状に配列された複数の光源からの光を患者眼の角膜に投影する投影手段と、
前記光が投影された状態の前記角膜を撮影素子で撮影する撮影光学系と、
前記撮影光学系による撮影画像に基づいて、前記患者眼の乱視軸方向を取得する取得手段と、
前記複数の光源のうちの所定の光源からの光が投影された状態の被検物体を前記撮影素子で撮影して得られた撮影画像について、当該撮影画像における前記所定の光源からの光の投影像の位置と、当該撮影画像のフレームの向きとに基づいて、前記撮影光学系の光軸に対する前記撮影素子と前記複数の光源との間の回転ずれ角度を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記算出手段により算出された回転ずれ角度に基づいて報知を行う報知手段を有することを特徴とする請求項1記載の眼科装置。
【請求項3】
前記報知手段は、前記回転ずれ角度が閾値以上である場合に報知を行うことを特徴とする請求項2記載の眼科装置。
【請求項4】
前記算出手段による算出結果に基づいて、前記撮影素子及び/または前記投影手段を移動させる駆動手段を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項5】
前記回転ずれ角度の算出を行う第1モードと、患者眼の乱視軸方向を測定する第2モードとを切り替える切替手段と、
前記第1モードで算出された回転ずれ角度が閾値以上である場合に、前記第1モードから前記第2モードへの切り替えを禁止する制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項6】
前記回転ずれ角度の算出を行う第1モードと、患者眼の乱視軸方向を測定する第2モードとを切り替える切替手段と、
前記第2モードにおいて前記回転ずれ角度の算出が行われ、かつ当該回転ずれ角度が閾値以上である場合に、前記乱視軸方向の測定を禁止する制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項7】
前記取得手段により取得された前記乱視軸方向を前記算出手段で算出された回転ずれ角度に基づいて補正する補正手段を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項8】
前記取得手段により求められた前記乱視軸方向及び前記算出手段による算出結果に基づいて、前記複数の光源のうちのいずれかを特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された光源を点灯させる光源制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の眼科装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−152454(P2012−152454A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15363(P2011−15363)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)