説明

眼組織治療用眼科手術システム

【課題】水晶体嚢の迅速且つ正確な開放及び水晶体核及び皮質の迅速且つ正確な破砕を行う眼組織治療用眼科手術システムを提供する。
【解決手段】眼組織治療用眼科手術システムであって、複数のレーザーパルスを含む光ビーム11を発生させる光源10と、眼組織の標的部分を特定することができる眼組織像を発生させる撮像装置と、前記光ビームを前記眼組織上に合焦させ、該光ビームをパターンで曲折させる送出システム16と、前記光源及び前記送出システムを制御して前記光ビームを前記眼組織内の合焦点に合焦させ、眼組織内の識別部分で前記パターンをなして走査を行い、水晶体内の前部嚢切開を行うコントローラ12とを有する、システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼組織治療用眼科手術システムに関する。
【0002】
なお、本願は、2005年1月10日に出願された米国仮特許出願第60/643,056号の権益主張出願である。
【背景技術】
【0003】
白内障摘出術は、世界で最も一般的に行なわれている手術手技のうちの1つであり、推定250万の症例が毎年米国で実施され、世界中では910万の症例が行なわれている。
これは、2006年だけで世界的に約1,330万の症例まで増大すると予測される。この市場は、植え込み用の眼内レンズ、手術手技を容易にする粘弾性ポリマー、超音波水晶体乳化吸引チップ、管類、種々の小刀や鉗子を含む使い捨て器具類を含む種々の要素で構成されている。現代の白内障手術は、典型的には、超音波水晶体乳化吸引法と呼ばれる技術を用いて行なわれ、かかる技術においては、前方被膜切開術又は最近では破嚢と呼ばれている前方水晶体嚢に開口を作る手技の実施後に、冷却目的のための関連の水流方式の超音波チップを用いて水晶体の比較的硬い核を彫り刻む。これらステップ並びに破砕を行なわないで吸引法により残っている軟らかい水晶体皮質の取り出しに続き、小さな切開創を通して合成の折り畳み可能な眼内レンズ(IOL)を眼内に挿入する。この技術では、大抵の症例では95%を超える非常に高い解剖学的及び視覚的成功率と迅速な視覚的リハビリテーションが得られる。
【0004】
この手技における最も最初期で且つ最も重要なステップのうちの1つは、破嚢の実施である。このステップは、缶切り式被膜切開術(can-opener capsulotomy)と呼ばれている初期の技術から発展したものであり、かかる缶切り式被膜切開術では、鋭利な刃を用いて前方水晶体嚢に円形に穴開けし、次に、典型的には直径が5〜8mmの水晶体嚢の円形断片を除去する。これにより、超音波水晶体乳化吸引法による次の核彫刻ステップが容易になる。初期の缶切り方式と関連した種々の合併症により、乳化ステップに先立って前方の水晶体嚢の除去を行なうより良好な技術を開発しようとする試みが当該技術分野における第一人者たちによって行なわれた。これらは、ニューハン(Neuhann)及びジンベル(Gimbel)によって開拓され、1991年の刊行物において脚光を浴びた(ジンベル、ニューハン(Gimbel, Neuhann)共著,「ディベロップメント・アドバンテージズ・アンド・メソッズ・オブ・ザ・コンティニュアス・カービリニア・カプスローヘキシス(Development Advantages and Methods of the Continuous Curvilinear Capsulorhexis)」,ジャーナル・オブ・カタラクト・アンド・リフラクティブ・サージェリー( Journal of Cataract and Refractive Surgery),1991年,p.17:110〜111(この論文を参照により引用し、その記載内容を本明細書の一部とする))。破嚢のコンセプトは、核の超音波水晶体乳化吸引法を安全且つ容易に実施できるだけでなく、眼内レンズの容易な挿入を可能にするスムーズな連続した円形開口部を設けることにある。この開口部は、挿入のための邪魔の無い中央の接近と患者による網膜への像の伝達を可能にする永続的なアパーチュアの両方を提供し、更に、転位の恐れを制限する残っている嚢内のIOLの支持体となる。
【0005】
旧式の技術である缶切り式被膜切開術を用い又は連続破嚢によっても、赤色反射が無いために嚢を適切に視覚化できないので外科医が嚢を十分な自信を持って掴むことができず、半径方向裂け目や伸びを生じさせないで又は最初の穴開け部における前眼房深さの維持、瞳孔の小さなサイズの維持又は水晶体混濁に起因して赤色反射が無いということに関連した技術上の問題を生じさせないで、適当なサイズのスムーズな円形開口部を裂いて形成することができないという問題が生じる場合がある。視覚化と関連したこれら問題のうちの幾つかは、染料、例えばメチレンブルー又はインドシアニングリーンを用いることにより極力抑えられた。小帯が弱い患者(典型的には、老人患者)や機械的に破裂させるのが非常に困難な非常に軟らかくて弾力に富んだ嚢を有する非常に小さな子供に厄介な問題が別途生じる。
【0006】
最後に、術中手術手技の際、又、代表的には直径が5〜7mmの前方連続曲線状破嚢ステップ後であってIOL挿入前に、水力離断(hydrodissection )ステップ、ハイドロジリニエーション(hydrodilineation)ステップ、及び超音波水晶体乳化吸引ステップが行なわれる。これらは、眼からの除去の目的で核を識別してこれを軟化させることを目的としている。これらは、最も時間のかかるステップであり、超音波パルスが用いられるので手技において最も危険なステップであると考えられ、かかる超音波パルスの使用により、後方水晶体嚢の偶発的破裂、水晶体断片の後方転位、及び角膜内皮及び(又は)虹彩並びに他のデリケートな眼内組織に対する前方からの潜在的な損傷が生じる場合がある。殆どの場合混濁を生じ、それ故殆どの場合視覚的障害を生じる水晶体の中央核は、構造的に最も硬いものであり、特別な技術を必要とする。超音波破砕を用い、更に、外科医の側に相当な技術的器用さを要求する種々の手術手技が発達したが、かかる手術手技としては、水晶体の彫刻、所謂「分割征服法(divide and conquer technique)」、及び多くの同様に創造的に命名された技術、例えばファコ・チョップ(phaco chop)等が挙げられる。これらは、全て、デリケートな眼内手技と関連して起こる通常の合併症を生じる(ジンベル(Gimbel)著,「プリンシプルズ・オブ・ニュークリア・ファコエミュルシフィケイション(Principles of Nuclear PhacoEmulsifcation)」,第15章,イン・カタラクト・サージェリー・テクニークス・コンプリケーションズ・アンド・マネージメント(In Cataract Surgery Techniques Complications and Management),ステイナート他( Steinert et al.)編,第2版,2004年,p.153〜181(この論文を参照により引用し、その記載内容を本明細書の一部とする))。
【0007】
白内障手術に続く主要な視覚的罹患源のうちの1つは、IOLの良好な中央配置をもたらすようレンズを支持する方法及び硝子体腔内への後方からの不全転位を阻止する手段として白内障手術中に一般に元のままの状態にしておかれる後方水晶体嚢に混濁がゆっくりと進行することである。合併症としての後方水晶体嚢の混濁が患者のほぼ28%〜50%に生じることが推定された(ステイナート及びリヒター(Steinert and Richter)共著,「イン・カタラクト・サージェリー・テクニークス・コンプリケーションズ・アンド・マネージメント(In Cataract Surgery Techniques Complications and Management)」,第44章,ステイナート他( Steinert et al. )編,第2版,2004年,p.531〜544(この論文を参照により引用し、その記載内容を本明細書の一部とする))。水晶体の赤道近くの定位置に残された残留上皮細胞の小さな島から中央に後方水晶体嚢に沿って起こる上皮性及び線維性形成異常の結果として生じると考えられるこの問題の結果として、最初に手術による離断を用い、最近においては、Nd(ネオジミウム):YAGレーザを用いて開口部を中央に非侵襲的に作る技術が開発された。しかしながら、これら技術のうち大抵のものは、依然として比較的原始的であると考えることができ、外科医の側に高度の手の器用さを必要とすると共に眼内レンズへの損傷を回避するために多大な疼痛を与えながら後方水晶体嚢上に手作業で与えられる1〜10mJの一連の高エネルギーパルスの生成を必要とする。結果的に行なわれる開口がどのような道筋を辿るかということについては、ステイナート及びリヒター(Steinert and Richter)共著,「イン・カタラクト・サージェリー・テクニークス・コンプリケーションズ・アンド・マネージメント(In Cataract Surgery Techniques Complications and Management)」,第44章,第2版(上記引用全体を参照されたい)の図44−10及び537ページに明確に示されている。
【0008】
白内障及び他の眼科生理学的症状の治療基準を向上させる眼科的方法、技術及び装置が要望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ジンベル、ニューハン(Gimbel, Neuhann)共著,「ディベロップメント・アドバンテージズ・アンド・メソッズ・オブ・ザ・コンティニュアス・カービリニア・カプスローヘキシス(Development Advantages and Methods of the Continuous Curvilinear Capsulorhexis)」,ジャーナル・オブ・カタラクト・アンド・リフラクティブ・サージェリー( Journal of Cataract and Refractive Surgery),1991年,p.17:110〜111
【非特許文献2】ジンベル(Gimbel)著,「プリンシプルズ・オブ・ニュークリア・ファコエミュルシフィケイション(Principles of Nuclear PhacoEmulsifcation)」,第15章,イン・カタラクト・サージェリー・テクニークス・コンプリケーションズ・アンド・マネージメント(In Cataract Surgery Techniques Complications and Management),ステイナート他( Steinert et al.)編,第2版,2004年,p.153〜181
【非特許文献3】ステイナート及びリヒター(Steinert and Richter)共著,「イン・カタラクト・サージェリー・テクニークス・コンプリケーションズ・アンド・マネージメント(In Cataract Surgery Techniques Complications and Management)」,第44章,第2版の図44−10及び537ページ
【発明の概要】
【0010】
本明細書において開示する技術及びシステムは、多くの利点を提供する。具体的に言えば、水晶体嚢の迅速且つ正確な開放及び水晶体核及び皮質の迅速且つ正確な破砕は、3次元パターン付けレーザ切断法を用いて実施可能になる。これら手技の持続時間及び水晶体の開放及び硬い核の破砕に関連した危険性は、減少し、他方手技の正確さが高くなる。小さなセグメントの状態に離断された水晶体の除去は、パターン付けレーザ走査及び実に薄い吸引針を用いて行なわれる。小さなセグメントの状態に離断された水晶体の除去は、パターン付けレーザ走査を用いると共に、従来型超音波水晶体乳化吸引法又はセグメント状にした水晶体を容易に除去しやすい(即ち、必要とされる手術精度又は器用さが低い)ことを認識して改造された技術によると共に(或いは)少なくとも超音波水晶体乳化出力、精度及び(又は)持続時間を顕著に減少させた状態で超音波乳化剤を用いて実施される。
水晶体嚢上の正確な場所に非常に小さくて且つ幾何学的に正確な開口部を形成できる手術方式が存在し、この場合、水晶体嚢に設けられる開口部は、従来の純粋に手作業による技術を用いては形成することが不可能ではないまでも非常に困難である。かかる開口部により、従来型眼科手技に高い精度又は改造を施すことができると共に新たな手技の実現が可能である。例えば、本明細書において説明する技術を用いると、前方及び(又は)後方水晶体取り出し、注入可能又は小さな折り畳み可能なIOLの植え込み及び順応性IOLの形成に合った配合物又は構造体の注入を容易にすることができる。
【0011】
本明細書において説明する技術によって実現可能な別の手技は、前方水晶体表面に半円形又は曲線状フラップ(組織弁)の制御された形成を可能にする。これは、完全に円形又はほぼ完全に円形の切れ目を必要とする従来手技とは対照的である。従来の手作業による破嚢技術を用いて形成される開口部は、主として、水晶体嚢組織の機械的剪断特性及び開口部を形成するための水晶体嚢の制御できない裂離を利用している。これら従来技術は、中央レンズ部分又は機械的切断器具を用いて接近できる領域に限られると共に様々な制限された程度まで、裂離の形成中、正確な解剖学的測定を利用する。これとは対照的に、本明細書において説明する制御可能なパターン付けレーザ法を用いると、前方水晶体表面上の事実上任意の位置及び事実上任意の形状で半円形嚢フラップを作ることができる。かかるレーザ法は、自発的に又は自己又は合成組織グルー又は他の方法により密封可能である。さらに、本明細書において説明する制御可能なパターン付けレーザ法は又、水晶体嚢サイズ、周囲組織への衝撃を最小限に抑えながらフラップ又は開口部の形成を可能にする測定値及び他の寸法情報を役立たせると共に(或いは)利用する。フラップは、半円形には限られず、例えば複雑な若しくは新型IOL器具又は所謂注入可能ポリマー又は固定順応性IOLの注入又は形成のような手技に利用できるようになった任意の形状であってもよい。
【0012】
本明細書において開示する技術は、白内障手術の際に前方嚢の全て又は一部を除去するよう使用でき、更に、前方嚢が術中に除去されることが必要な状況、例えば、特定の状況、例えば子供に関し、又は、核を除去した後では吸引によっては除去できない濃厚な前方嚢混濁がある場合に使用できる。白内障手術後の最初の1年間、第2の1年間及び第3の1年間において、前方水晶体嚢の二次的混濁は、よく見られることであり、本明細書において開示する技術の特徴を用いて実施され又は改良できる後方被膜切開術により恩恵を受ける。
【0013】
本明細書において開示する技術を用いて形成される切開創が高精度であって、非外傷性であるので、新たな意味が低侵襲眼科手術及び自己治癒性の水晶体切開部に与えられると考えられる。
【0014】
一特徴では、眼組織に切開創を作る方法は、光のビームを発生させるステップと、ビームを眼組織内の第1の深さのところに位置する第1の焦点に合焦させるステップと、ビームを第1の深さのところに合焦させながら眼上にパターンをなして走査するステップと、ビームを第1の深さと異なる眼組織内の第2の深さのところに位置する第2の焦点に合焦させるステップと、ビームを第2の深さのところに合焦させながら眼上にパターンをなして走査するステップとを有する。
【0015】
別の特徴では、眼組織に切開創を作る方法は、光のビームを発生させるステップと、ビームが多焦点距離光学素子を通過するようにしてビームの第1の部分を眼組織内の第1の深さのところに位置する第1の焦点に合焦させると共にビームの第2の部分を第1の深さとは異なる眼組織内の第2の深さのところに位置する第2の焦点に合焦させるようにするステップとを有する。
【0016】
さらに別の特徴では、眼組織に切開創を作る方法は、少なくとも第1の光パルス及び第2の光パルスを有する光のビームを発生させるステップと、第1の光パルス及び第2の光パルスを眼組織中に連続して合焦させるステップとを有し、第1のパルスは、眼組織内の第1の深さのところにプラズマを生じさせ、第2のパルスは、プラズマが消える前に到達してプラズマにより吸収され、それによりプラズマをビームに沿って眼組織内に伸長させる。
【0017】
さらに別の特徴では、眼組織に切開創を作る方法は、光のビームを発生させるステップと、光を眼組織中に合焦させて眼組織内に細長い合焦光柱を生じさせるステップとを有し、合焦ステップは、光に非球面レンズ、球面収差のある高合焦レンズ、湾曲ミラー、円柱レンズ、適応光学素子、プリズム、及び回折光学素子のうちの少なくとも1つの作用を受けさせるステップを含む。
【0018】
別の特徴では、眼から水晶体及び残屑を取り出す方法は、光のビームを発生させるステップと、光を眼中に合焦させて水晶体をばらばらにして小片の状態にするステップと、水晶体小片を取り出すステップと、光を眼中に合焦させて眼内の残屑を焼灼するステップとを有する。
【0019】
もう一つの特徴では、眼内の水晶体嚢から水晶体を取り出す方法は、光のビームを発生させるステップと、光を眼中に合焦させて水晶体に切開創を形成するステップと、超音波プローブを切開創中に通して水晶体嚢内に挿入して水晶体を壊して小片の状態にするステップと、水晶体小片を水晶体嚢から取り出すステップと、水晶体嚢をすすぎ洗いして内皮細胞を水晶体嚢から取り出すステップと、合成の折り畳み可能な眼内レンズ又は光学的に透明なゲルのうちの少なくとも一方を水晶体嚢内に挿入するステップとを有する。
【0020】
別の特徴では、眼組織を治療するための眼科用手術システムは、光のビームを発生させる光源と、ビームを眼組織上に合焦させる送出システムと、光源及び送出システムを制御して光ビームを眼組織内の多数の深さのところで眼組織内の多数の焦点に合焦させるようにするコントローラとを有する。
【0021】
さらに別の特徴では、眼組織を治療するための眼科用手術システムは、少なくとも第1の光パルス及び第2の光パルスを有する光のビームを発生させる光源と、ビームを眼組織上に合焦させる送出システムと、光源及び送出システムを制御して第1の光パルス及び第2の光パルスを連続的に眼組織上に合焦させるようにするコントローラとを有し、第1のパルスは、眼組織内の第1の深さのところにプラズマを生じさせ、第2のパルスは、プラズマが消える前に到達してプラズマにより吸収され、それによりプラズマをビームに沿って眼組織内に伸長させる。
【0022】
もう一つの特徴では、眼組織を治療するための眼科用手術システムは、光のビームを発生させる光源と、ビームを眼組織上に合焦させる送出システムとを有し、送出システムは、非球面レンズ、球面収差のある高合焦レンズ、湾曲ミラー、円柱レンズ、適応光学素子、プリズム、及び回折光学素子のうちの少なくとも1つを有し、眼科用手術システムは、光源及び送出システムを制御して眼組織内に細長い合焦光柱を生じさせるようにするコントローラを更に有する。
【0023】
本発明の他の目的及び特徴は、明細書、特許請求の範囲、及び添付の図面の記載を検討すると明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光ビームを患者の眼の中に投射し又は走査するシステムの平面図である。
【図2】眼の前眼房及びプラズマを水晶体嚢上の焦点に生じさせるレーザビームの略図である。
【図3】前方被膜切開術(破嚢)のための円形パターンを備えた虹彩及び水晶体の平面図である。
【図4】前眼房の軸方向プロフィールのOCT測定を可能にするためのレンズを横切って施されたラインパターンの略図である。
【図5】眼の前眼房及び水晶体嚢を横切って施された3次元レーザパターンの略図である。
【図6】プラズマの寿命よりも短い遅延によりパルスのバースト(1,2,及び3)の連続適用により焦点領域に生じた軸方向に細長いプラズマ柱を示す図である。
【図7A】レーザビームを同一軸線に沿う3つの点に合焦させるマルチセグメント状レンズの略図である。
【図7B】レーザビームを同一軸線に沿う3つの点に合焦させるマルチセグメント状レンズの略図である。
【図7C】同軸及び軸外れセグメントが同一軸線上に沿う焦点を有するが互いに異なる焦点距離F1,F2,F3を有するマルチセグメント状レンズの略図である。
【図7D】同軸及び軸外れセグメントが同一軸線上に沿う焦点を有するが互いに異なる焦点距離F1,F2,F3を有するマルチセグメント状レンズの略図である。
【図8】1組のレンズにより多数の点(1,2,3)に合焦され、かくして、プラズマを組織の内部の互いに異なる深さ(1,2,3)のところに生じさせるファイバ(1,2,3)の軸方向アレイを示す図である。
【図9A】核セグメント化のために施すことができるパターンの例を示す略図である。
【図9B】核セグメント化のために施すことができるパターンの例を示す略図である。
【図10A】セグメント化被膜切開術及び破砕のための組み合わせパターンのうちの1つの平面図である。
【図10B】セグメント化被膜切開術及び破砕のための組み合わせパターンのうちの別の1つの平面図である。
【図10C】セグメント化被膜切開術及び破砕のための組み合わせパターンのうちの別の1つの平面図である。
【図11】光ビームを患者の眼の中に投射し又は走査する一システム実施形態の平面図である。
【図12】光ビームを患者の眼の中に投射し又は走査する別のシステム実施形態の平面図である。
【図13】光ビームを患者の眼の中に投射し又は走査する更に別のシステム実施形態の平面図である。
【図14】物体除去のための「追跡及び治療」方式で利用されるステップを示す流れ図である。
【図15】ユーザ入力を用いる物体除去のための「追跡及び治療」方式で利用されるステップを示す流れ図である。
【図16】アナモルフィック光学方式により作られる横方向焦点ゾーンの斜視図である。
【図17A】逆ケプラー式望遠鏡を構成するためのアナモルフィック望遠鏡形態の斜視図である。
【図17B】逆ケプラー式望遠鏡を構成するためのアナモルフィック望遠鏡形態の斜視図である。
【図17C】逆ケプラー式望遠鏡を構成するためのアナモルフィック望遠鏡形態の斜視図である。
【図18】ビームを単一の子午線に沿って伸長させるために用いられるプリズムの側面図である。
【図19】眼の水晶体上の横方向焦点ボリュームの位置及び運動を示す平面図である。
【図20】本発明の一実施形態により得られる接眼レンズの破砕パターンを示す図である。
【図21】本発明の一実施形態に従って作られる接眼レンズの円形切開創を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、光ビームを患者の眼1内に投射し又は走査するシステム、例えば図1に示すシステムにより具体化できる。このシステムは、光ビーム11(持続波かパルス化かのいずれか)を生じさせるよう入力及び出力装置14を介して制御エレクトロニクス12によって制御できる光源10(例えば、レーザ、レーザダイオード等)を有する。制御エレクトロニクス12は、コンピュータ、マイクロコンピュータ等であるのがよい。走査を達成するには、1つ又は2つ以上の可動光学素子(例えば、レンズ、格子又は図1に示すようにミラー16)を用いるのがよく、かかる光学素子も又、入力及び出力装置14を介して制御エレクトロニクス12によって制御できる。ミラー16を傾斜させて光ビーム11を図1に示すように逸らしてビーム11を患者の眼1の方へ差し向けるのがよい。オプションとしてのオフサルミックレンズ18を用いると、光ビーム11を患者の眼1内に合焦させることができる。光ビーム11及び(又は)この光ビームが眼の上に形成する走査パターンの位置決め及び性質は、入力装置20、例えばジョイスティック又は任意他の適当なユーザ入力装置を用いることにより更に制御できる。
【0026】
本明細書において開示する技術は、以下のパラメータのうちの1つ又は2つ以上を提供するよう構成された光源10、例えば外科用レーザを用いることが挙げられる。
1)最高1μJまでのパルスエネルギー、最高1MHzまでの繰返し率、パルス持続時間<1ps
2)最高10μJまでのパルスエネルギー、最高100kHzまでの繰返し率、パルス持続時間<1ps
3)最高1,000μJまでのパルスエネルギー、最高1kHzまでの繰返し率、パルス持続時間<3ps
加うるに、レーザは、近赤外範囲である800〜1,100nmを含む種々の範囲の波長を使用できる。一特徴では、近赤外波長は、組織吸収及び散乱が減少するので選択される。加うるに、レーザは、10ps又は1ps未満のパルス持続時間で単独で又は100μJ以下のパルスエネルギーと組み合わせて1kHzを超える高い繰返し率及び10kHzを超える高い繰返し率で近赤外線の低エネルギー超短パルスを提供するよう構成されているのがよい。
【0027】
眼組織2内に合焦される短パルスレーザ光は、焦点のところで絶縁破壊を生じさせ、光誘導プラズマの付近で組織2を破断させる(図2参照)。焦点の直径dは、d=λF/Dbによって与えられ、この場合、Fは、最後の合焦素子の焦点距離であり、Dbは、最後のレンズ上のビーム直径であり、λは、波長である。焦点距離F=160mm、最後のレンズ上のビーム直径Db=10mm、波長λ=1.04μmである場合、焦点直径は、d≒λ/(2・NA)≒λF/Db=15μmであり、合焦光学系の開口数NA≒Db/(2F)である。
【0028】
連続切断を可能にするためには、レーザスポットは、レーザパルスにより組織中に作られるクレータの幅以上には分離されてはならない。破断ゾーンがR=15μmであり(低エネルギー状態では、イオン化がレーザスポットの中央に生じ、全スポットサイズまで拡張しない場合がある)、被膜切開術円の最大直径Dc=8mmであると仮定すると、所要のパルス数は、図3に示すように眼水晶体3の周囲に沿って円形切断線22を設けるにはN=πDc/R=1,675であろう。これよりも小さな直径である5〜7mmの場合、パルスの所要数は、これよりも少ないであろう。破断ゾーンが大きい場合(例えば、50μm)、パルス数は、N=503まで低下するであろう。
【0029】
正確な円形切れ目を作るためには、これらパルスを短い眼固定時間の間組織に送る必要がある。固定時間t=0.2sであると仮定すると、レーザの繰返し率は、r=N/t=8.4kHzであることが必要である。固定時間がこれよりも長い場合、所要の繰返し率を3.4kHzまで減少させることができる。50μmの破断ゾーンの場合、繰返し率は、更に1kHzまで低下する場合がある。
【0030】
4nsパルスによる絶縁破壊のしきい照射量は約Φ=100J/cm2である。焦点直径d=15μmの場合、しきいパルスエネルギーは、Eth=Φ・πd2/4=176μJとなろう。安定性があり且つ再現性のある動作のためには、パルスエネルギーは、少なくとも2倍しきい値よりも大きいことが必要であり、従って、標的のパルスエネルギーは、E=352μJであることが必要である。キャビテーションによる泡の生成は、パルスエネルギーの最高10%まで、即ち、Eb=35μJ吸収する場合がある。これは、次の泡直径dbに相当する。
【数1】

【0031】
角膜内皮の損傷を回避するためにエネルギーレベルを調節するのがよい。したがって、パルス持続時間を例えば約0.1〜1ps減少させることにより絶縁破壊のしきいエネルギーを最小限に抑えることができる。100fsに関する絶縁破壊のしきい照射量Φは、約Φ=2J/cm2であり、1psの場合、これは、Φ=2.5J/cm2である。上述のパルス持続時間を用い、焦点直径d=15μmの場合、しきいパルスエネルギーは、100fsパルス及び1psパルスの場合、それぞれ、Eth=Φ・πd2/4=3.5μJ及び4.4μJであろう。これとは異なり、パルスエネルギーは、しきいエネルギーの倍数、例えば少なくとも2倍であるように選択されてもよい。2倍が用いられる場合、標的に対するパルスエネルギーは、それぞれ、Eth=7μJ及び9μJであろう。これらは、2つの例に過ぎない。他のパルスエネルギー持続時間、焦点サイズ、及びしきいエネルギーレベルが可能であり、これらは、本発明の範囲に含まれる。
【0032】
レーザビームのより厳格な合焦を得るには高い繰返し率及び低パルスエネルギーを利用するのがよい。特定の一例では、直径が約4μmのスポットに合焦させるためには、焦点距離F=50mmが用いられると共にビーム直径は、Db=10mmである。非球面光学系も又利用できる。約32kHzの繰返し率を用いると、直径8mmの開口部を0.2sの時間で完成させることができる。
【0033】
レーザ10及びコントローラ12は、嚢の表面の存在場所を突き止めてビームを所望の開口部の全ての箇所で水晶体嚢上に合焦させるようにするよう設定されるのがよい。本明細書において説明する画像化方式及び技術、例えば、光干渉断層法(OCT)又は超音波断層法を用いると、水晶体及び水晶体嚢の存在場所を突き止めてその厚さを測定して2D及び3Dパターン付けを含むレーザ合焦法に高い精度をもたらすことができる。レーザ合焦は又、照準ビームの直接観察、光干渉断層法(OCT)、超音波断層法、又は他の公知の眼科又は医用画像化方式及びこれらの組み合わせを含む1つ又は2つ以上の方法を用いて達成できる。
【0034】
図4に示すように、前眼房のOCT画像化は、切断のためのパターンを得るために用いられたのと同一のレーザ及び(又は)同一のスキャナを用いて水晶体の端から端まで単純な直線走査24に沿って実施できる。この走査により、前方及び後方水晶体嚢の軸方向存在場所、白内障核の境界、及び前眼房の深さに関する情報が得られる。次に、この情報をレーザ3−D走査システムにロードしてこれを利用すると、次のレーザ支援手術手技をプログラムして制御できる。情報を用いると、手技に関連した多様なパラメータ、例えば、とりわけ、水晶体嚢を切断して水晶体皮質及び核のセグメント化を行なうための焦点面の軸方向上限及び下限、水晶体嚢の厚さを求めることができる。画像化データを図9に示すように3ラインパターンについて平均するのがよい。
【0035】
実際のヒトの水晶体に関するかかるシステムの結果の一例が、図20に示されている。1,045nmの波長で動作するレーザから50kHzのパルス繰返し率で送出された10μJで1psのパルスのビームをNA=0.05のところに合焦させ、8つの軸方向ステップで4つの円のパターンをなして下から上へ走査した。これにより、図20に示された接眼レンズに破砕パターンが作られた。図21は、測定値が直径〜10μm、長さが〜100μmの結果として得られた円形切開創を詳細に示している。
【0036】
図2は、水晶体を解剖学的に規定するために本明細書において説明する方法を用いて利用できる例示の描写図である。図2で理解できるように、嚢の境界及び厚さ、皮質、エピニュークレウス(epinucleus)、及び核(nucleus)の決定が可能である。OCT画像化を用いると、水晶体の核の境界、皮質の境界及び他の構造的特徴の境界を定めることができると考えられ、かかる他の構造的特徴としては、例えば、前方又は後方嚢の全て又は一部を含む水晶体嚢の厚さが挙げられる。最も一般的な意味において、本発明の一特徴は、本明細書において説明するように、レーザ走査及び(又は)パターン治療アルゴリズム、又は新規なレーザ支援眼科手技においてレーザエネルギーの投与における案内として用いられる技術への入力として得られる眼画像化データの使用にある。事実、画像化及び治療は、同一のレーザ及び同一のスキャナを用いて実施できる。レーザ用として説明するが、他のエネルギー方式も又利用できる。
【0037】
プラズマ生成がビームのくびれ(ウエスト)のところに生じることが理解されるべきである。切断ゾーンの軸方向広がりは、レーザビームくびれの半分の長さ(半長)Lによって定められ、この半長は、L〜λ/(4・NA2)=dF/Dbとして表わすことができる。かくして、合焦光学系のNAが小さければ小さいほど、合焦ビームのくびれがそれだけ一層長くなり、かくして、得られる破砕ゾーンをそれだけ一層長くすることができる。F=160mm、最後のレンズに関するビーム直径Db=10mm、焦点直径d=15μmの場合、レーザビームのくびれの半長Lは、240μmとなろう。
【0038】
図5を参照すると、例えば以下の多くの方法でレーザにより引き起こされる絶縁破壊によって得られるパターンに沿って水晶体の端から端までレーザエネルギー26の3次元投与を行なうことができる。
【0039】
1)幾つかの円形又は他のパターンを生じさせることにより、破断ゾーンの軸方向長さに等しいステップで種々の深さのところで連続的に走査を行なう。かくして、組織中の焦点(くびれ)の深さを各連続走査の場合に増大させ又は減少させる。レーザパルスを例えば、合焦要素の軸方向走査又は合焦要素の光出力を調節しながら任意的にそれと同時に又は順次側方パターンの走査を行なう手法を用いて組織の種々の深さのところで同一の側方パターンに連続的に与える。焦点に達する前の泡、亀裂及び(又は)組織断片に対するレーザビーム散乱のマイナスの結果は、まず最初に組織中の最大所要深さのところにパターン/合焦を生じさせ、次に、後のパスでより浅い組織空間に合焦させることにより回避できる。この「ボトムアップ」治療法は、標的組織層の上方における組織中の望ましくないビーム減衰を減少させるだけでなく、標的組織層の下の組織を保護するのに役立つ。先の走査により生じたガスの泡、亀裂及び(又は)組織断片に焦点を越えて送られたレーザ放射線を散乱させることにより、これら欠陥は、下に位置する網膜を保護するのに役立つ。同様に、水晶体をセグメント化した場合、レーザを水晶体の最も後方の部分に合焦させ、次に、手技が続いているときにより前方側に移動させるのがよい。
【0040】
2)次のようにすることにより軸方向に細長い破断ゾーンを固定点のところに作る。
a)数psだけ離された各スポット中の一連の2〜3個のパルスを用いる。各パルスは、先のパルスにより生じたプラズマ28により吸収され、かくして、プラズマ28を図6Aに示すようにビームに沿って上方に伸長させる。この方式では、レーザエネルギーは、2倍又は3倍高い、即ち、20〜30μJであることが必要である。連続したパルス相互間の遅延は、プラズマ生成時間(0.1psオーダ)よりも長いことが必要であるが、プラズマ再結合時間(ナノ秒のオーダ)を超えてはならない。
b)互いに異なる予備合焦又は多焦点光学素子により多数の同軸ビームを用いて互いに僅かに異なる焦点で軸方向に連続したパルスを生じさせる。これは、多焦点光学素子(レンズ、ミラー、回折光学部品等)を用いることにより達成できる。例えば、多セグメント化レンズ30を用いると、例えば同軸(図7A〜図7C参照)又は軸外れ(図7D参照)セグメントを用いてビームを同一軸線に沿って多数の点(例えば、3つの別々の点)に合焦させて様々な焦点距離(例えば、F1,F2,F3)を生じさせることができる。多焦点素子30は、同軸素子、又は軸外れセグメント化素子、又は回折素子であるのがよい。同軸素子は、軸対称焦点を有するのがよいが、各セグメントのビーム直径の差に起因して互いに異なるサイズを有することになる。軸外れ素子は、対称性の低い焦点を有する場合があるが、全ての素子は、同一サイズの焦点を生じさせることができる。
c)(1)球面ではない(非球面)光学部品、若しくは(2)Fナンバーの高いレンズの球面収差の利用、又は(3)回折光学素子(ホログラム)を用いることにより細長い合焦光柱(まさにとびとびの多くの焦点とは対照的である)を生じさせる。
d)多数の光ファイバを用いて細長いイオン化ゾーンを生じさせる。例えば、異なる長さの光ファイバ32のアレイを1組のレンズ34により図8に示すように組織の内部の互いに異なる深さのところの多数の焦点に画像化することができる。
【0041】
走査のパターン
前方及び後方被膜切開術の場合、走査パターンは、円形及び螺旋であるのがよく、垂直方向ステップは、破断ゾーンの長さとほぼ同じである。眼水晶体3のセグメント化の場合、パターンは、直線状、平面状、半径方向、半径方向セグメント、円形、螺旋状、曲線状及びこれらの組み合わせであるのがよく、かかるパターンとしては、2次元及び(又は)3次元のパターン付けが挙げられる。走査は、連続直線若しくは曲線、又は1つ若しくは2つ以上のオーバーラップし若しくは間隔を置いたスポット及び(又は)線分であるのがよい。幾つかの走査パターン36が、図9A及び図9Bに示されており、走査パターン38の組み合わせが、図10A〜図10Cに示されている。多焦点合焦及び(又は)パターン付けシステムによるビーム走査が、首尾よい水晶体セグメント化にとって特に有利である。というのは、水晶体厚さは、ビームくびれの軸方向距離よりも非常に大きいからである。加うるに、これらの2D及び3Dパターン並びに他の2D及び3DパターンをOCTと組み合わせて用いると、追加の画像化、解剖学的構造若しくは組成(即ち、組織密度)又は眼の水晶体、皮質、網膜及び他の部分を含む眼に関する他の寸法上の情報を得ることができる。
【0042】
例示のパターンは、水晶体皮質及び核を吸引針で簡単に除去できるような寸法の断片に水晶体皮質及び核を離断させることができ、かかる例示のパターンを単独で用いて被膜切開術を行なうことができる。変形例として、レーザパターン付けを用いて核をあらかじめ破砕し又はセグメント状にして後で従来型の超音波水晶体乳化吸引法を行なってもよい。しかしながら、この場合、従来型の超音波水晶体乳化吸引法は、本発明のセグメント化技術を用いないで実施される典型的な超音波水晶体乳化吸引法よりも効果は低い。というのは、水晶体がセグメント化されているからである。したがって、超音波水晶体乳化吸引法手技では、眼に投与することが必要な超音波エネルギーは少ない可能性が多分にあり、短縮化された手技が可能であり又は必要とされる手術に関する器用さは低い。
【0043】
手術中の眼の運動に起因する合併症は、パターン付けされたレーザ切断を非常に迅速に(例えば、自然な眼固定時間よりも短い期間内に)行なうことにより軽減させることができ又は無くすことができる。レーザ出力及び繰返し率に応じて、パターン付け切断を、1kHzを超えるレーザ繰返し率を用いて5〜0.5秒(又はそれ以下)で完了させることができる。
【0044】
本明細書において説明する技術を用いると、新規な眼科手技を実施でき又は前方及び後方被膜切開術、水晶体破砕及び軟化、後方極(浮遊物、メンブレン、網膜)中の組織の離断、並びに眼の他の領域、例えば強膜や虹彩(これらには限定されない)の切開創を含む既存の手技を改良することができる。
【0045】
後方被膜切開術中におけるIOLへの損傷は、有利には、当初、後方極を越えて合焦され、次に、外科医による視覚的制御下単独で又は本明細書において説明する技術を用いて収集される画像化データと組み合わせて前方に次第に動かされるレーザパターンを利用することにより減少させることができ又は無くすことができる。
【0046】
治療ビームパターンの適切な位置合わせのため、まず最初に、位置合わせビーム及び(又は)パターンを可視光(治療パターンが投影される場所を指示する)で標的組織上に投影するのがよい。これにより、外科医は、治療パターンの寸法、場所及び形状を調節することができる。しかる後、治療パターンを、自動3次元パターン発生器(制御エレクトロニクス12内に設けられている)を用いて高い繰返し率を有する短いパルス切断レーザにより標的組織に迅速に施すのがよい。
【0047】
加うるに、特に被膜切開術及び核破砕のため、画像化方式、例えば、電気光学的画像化、OCT画像化、音響画像化、超音波画像化又は他の測定法を採用した自動化方法を用いてまず最初に、切断の最大深さ及び最小深さ並びに白内障核の寸法及び光学密度を確かめるのがよい。かかる技術により、外科医は、水晶体の厚さ及び硬さの個々の差を計算に入れて患者の最適切断輪郭を定めることができる。OCTを用いてライン及び(又は)パターン(2D若しくは3D又は本明細書において記載されている他のもの)に沿う前眼房の寸法形状を測定するシステムは、手技中、レーザを制御するために用いられる走査システムと一体的に同一であるのがよい。したがって、例えば切断の上限及び下限並びに核の寸法及び存在場所を含むデータを走査システムにロードして切断(即ち、セグメント化又は破砕)パターンのパラメータを自動的に求めるのがよい。加うるに、所望の組織のみ(例えば、水晶体核、白内障を含む組織等)を正確に切断し、セグメント化し、又は破砕し、他方、周囲の組織への損傷を最小限に抑え又は回避するための眼中の組織(例えば、前方及び後方水晶体嚢、中間の核及び水晶体皮質)の絶対的及び相対的位置及び(又は)寸法の自動的測定(光学装置、電気光学装置、音響装置又はOCT装置若しくは上述した幾つかの組み合わせを用いて)を現在及び(又は)将来の手術手技のために行なうのがよい。加うるに、低パルスエネルギーで画像化し、次に高パルスエネルギーで手術を行なうために同一の超音波パルス化レーザを用いるのがよい。
【0048】
治療ビームを案内するための画像化装置の使用は、例えば上述した多くの仕方で且つ次に説明する追加の例(これは、全て、組織を特徴付け、標的が除去されるまで組織の処理を続けるよう機能する)で達成できる。例えば、図11では、レーザ源LS及び(任意的に)照準ビーム源AIMは、ミラーDM1(例えば、ダイクロイックミラー)を用いて組み合わされる出力を有する。この形態では、レーザ源LSを治療と診断の両方に用いることができる。これは、ミラーM1によって達成され、このミラーM1は、光ビームB(中心線が示されている)をレーザ源LSから分割することにより、基準入力Rとサンプル入力Sの両方をOCT干渉計に与えるのに役立つ。OCT干渉計の固有の感度に鑑みて、ミラーM1は、送られた光のほんの僅かな部分を反射するよう構成されるのがよい。変形例として、偏光感応性ピックオフミラーを採用した方式を四分の一波長板(図示せず)と関連して用いてシステムの全体的光効率を増大させてもよい。レンズL1は、点Pのところで標的に合わせて配置されたビームBのz軸に沿う極限サイズ又は最終的配置場所を調節することができる。X軸及びY軸における走査と関連して用いられる場合、この形態により、3次元走査及び(又は)可変スポット直径の実現が可能である(即ち、光の焦点をz軸に沿って動かすことにより)。
【0049】
この例では、1対の直交検流計ミラーG1,G2を用いることにより達成され、これら検流計ミラーは、標的の2次元ランダムアクセス走査をもたらすことができる。注目されるべきこととして、走査は、種々の方法、例えば、ミラーM2を移動させ、多角形を回転させ、レンズ又は湾曲ミラーを並進させ、ウェッジを回転させる等して達成でき、検流計スキャナを用いても、設計全体の範囲が制限されることはない。光が、スキャナを出た後、レンズL2に当たり、このレンズは、光を患者の眼EYE内部の点Pのところの標的上に合焦させるのに役立つ。オプションとしてのオフサルミックレンズOLを用いて光の合焦を助けるのがよい。オフサルミックレンズOLは、コンタクトレンズであるのがよく、このオフサルミックレンズは、更に、眼EYEの運動を減衰させるのに役立ち、それにより、より安定性のある治療が可能になる。レンズL2は、光学系の残部と協調してz軸に沿って動いて3次元走査を可能にして治療と診断の両方を可能にするよう構成されているのがよい。図示の形態では、レンズL2は、理想的には、テレセントリック性を維持するようスキャナG1,G2と一緒に動かされる。このことを念頭に置いて、光学組立体全体を動かして深さをz軸に沿って調節することができる。オフサルミックレンズOLと共に用いられた場合、作業距離を正確に保持することができる。例えばThorlabs EAS504高精度ステッピングモータのような装置を用いると、移動距離と所要の精度及び正確さの両方をもたらして臨床上有意味な解像力で確実に画像化して治療することができる。図示のように、この装置は、テレセントリック走査を生じさせるが、かかる設計に限定される必要はない。
【0050】
ミラーM2は、光を標的に差し向けるのに役立ち、かかるミラーは、種々の仕方で使用できる。ミラーM2は、ダイクロイック素子であるのがよく、このダイクロイック素子を通してユーザが見て標的を直接又はカメラを用いて視覚化し、或いは、ミラーM2は、ユーザが恐らくは双眼顕微鏡を用いてその周りを見る機会を与えるようできるだけ小型に作られるのがよい。ダイクロイック素子が用いられる場合、これは、ユーザの視界を遮るのを回避するよう明所視的に中立であるよう作られるのがよい。標的組織を視覚化する装置が、素子Vとして概略的に示されており、この装置は、好ましくは、標的組織の像を造るオプションとしての光源を備えたカメラである。この場合、オプションとしての照準ビームAIMは、ユーザに治療ビームの所在又は識別された標的の存在場所の視界を与えることができる。標的のみを表示するため、AIMをスキャナが標的を標的であると思われる領域上に位置決めしたときにパルス化するのがよい。視覚化装置Vの出力を入力/出力装置IOを介してシステムに戻してスクリーン、例えばグラフィカルユーザインターフェイスGUI上に表示するのがよい。この例では、システム全体は、コントローラCPUにより制御され、データは入力/出力装置IOを介して送られる。グラフィカルユーザインターフェイスGUIを用いると、ユーザの入力を処理し、視覚化装置VとOCT干渉計の両方により集められた画像を表示することができる。米国特許第5,748,898号明細書、同第5,748,352号明細書、同第5,459,570号明細書、同第6,111,645号明細書、及び同第6,053,613号明細書に記載されているように、OCT干渉計の形態については多くの可能性があり、かかる可能性としては、時間及び周波数領域方式、シングル及びデュアルビーム法が挙げられる(これら米国特許を参照により引用し、これらの記載内容を本明細書の一部とする)。
【0051】
次に、白内障の側方及び軸方向広がり並びに水晶体嚢の境界部の局所化に関する情報を用いて破砕手順のための最適走査パターン、合焦方式及びレーザパラメータを求める。この情報のうちの全てではなくても大部分を標的組織の視覚化から得ることができる。例えば、単一パルスの破砕ゾーンの軸方向広がりは、(a)白内障と後方嚢との間の距離及び(b)前方嚢と角膜内皮との間の距離を超えてはならない。前眼房が浅く且つ(或いは)白内障が大きい場合、短い破砕ゾーンを選択すべきであり、かくして、一層多くの走査平面が必要となる。これとは逆に、前眼房が深く且つ(或いは)白内障と後方嚢との間の離隔距離が大きい場合、長い破砕ゾーンを用いるのがよく、かくして、必要とされる走査平面は、少なくなる。この目的のため、適当な合焦素子が利用可能な組から選択される。光学素子の選択により、破砕ゾーンの幅が定められ、それにより、連続したパルス相互間の間隔が定められる。これにより、レーザパルスの走査率と繰返し率の比が定められる。加うるに、白内障の形状は、破砕ゾーンの境界を定め、かくして、破砕ゾーンの軸方向及び側方広がり、走査の極限形状、走査平面の数等を含むスキャナの最適パターンを定めることになる。
【0052】
図12は、画像化源及び治療源が互いに異なる変形実施形態を示している。ダイクロイックミラーDM2が、画像化光と治療光を組み合わせるために図11の形態に加えられており、ミラーM1に代えて、ビームスプリッタBSが用いられており、このビームスプリッタは、治療波長に対して非常に透過性であるが、OCT干渉計に用いることができるよう画像化源SLDからの光を効果的に分離する。画像化源SLDは、幅が公称50nmであり、850nmに中心又は中心付近が位置するスペクトル出力を備えた超光ダイオード、例えばSuperLum SLD-37であるのがよい。かかる光源は、臨床用途に良好にマッチしており、スペクトル的に治療源とは十分に区別され、かくして、素子DM,BSを必ずしも複雑で且つ高価な光学膜を用いないで高信頼度で製作でき、かかる光学膜は、画像化源と治療源が波長において互いに近い場合に必要である。
【0053】
図13は、画像化システムとして用いることができる共焦点(コンフォーカル)顕微鏡CMを有する変形実施形態を示している。この形態では、ミラーM1は、後方散乱された光の一部をビームBからレンズL3に反射させる。レンズL3は、この光をアパーチュアA(空間フィルタとして役立つ)を通して最終的に検出器D上に合焦させるのに役立つ。したがって、アパーチュアAと点Pは、光学的に共役であり、検出器Dにより受け取られた信号は、アパーチュアAが実質的にバックグラウンド信号全体を拒絶するに足るほど小さく作られている場合極めて特異性がある。かくして、この信号は、当該技術分野において知られているように画像化のために利用できる。さらに、蛍光体を標的に導入して標的組織又は健常な組織のいずれかの特定の印付けを可能にするのがよい。この方式では、超高速レーザを用いて多光子過程を介して蛍光体の吸収帯をポンピングするのがよく、又は、別の源(図示せず)を図12の仕方と類似した仕方で用いるのがよい。
【0054】
図14は、物質除去のための「追跡及び治療(track and treat )」方式で利用されるステップの概要を記載した流れ図である。まず最初に、点から点へ走査することにより像を作り、潜在的な標的を識別する。治療ビームを標的上に配置すると、システムは、治療ビームを送るのがよく、治療を開始させる。システムは、これが進むにつれて常時治療しながら動き又は次の点に動く前に標的を完全に治療するまで特定の場所にとどまる。
【0055】
図14のシステムの動作方式を改造してユーザ入力を取り込んでもよい。図15に示すように、画像全体をユーザに表示し、ユーザが標的を識別できるようにする。いったん識別すると、システムは、次の画像を位置合わせすることができ、かくして、ユーザに規定された標的を追跡する。かかる位置合わせ方式は、種々の多くの仕方で、例えば、周知であってコンピュータ処理上効率的なソーベル(Sobel)又はキャニー(Canny)エッジ検出法を用いることにより具体化できる。変形例として、治療レーザを用いて1つ又は2つ以上の容易に識別可能なマークを標的組織に入れて患者の危険を生じさせないで信頼上の基準を作るのがよい(というのは、標的組織は、取り出される運命にあるからである)。
【0056】
従来型レーザ法とは対照的に、上述の技術は、(a)パターンをなしてレーザエネルギーを投与でき、(b)高い繰返し率を提供して自然な眼固定時間内でパターンを完了させ、(c)サブpsのパルスを適用してしきいエネルギーを減少させ、(d)自動化手順を得るために画像化と治療を統合することができるようにする。
【0057】
レーザ送出システム
図1のレーザ送出システムを種々の仕方で変形させることができる。例えば、レーザ源は、外科用顕微鏡に設けられてもよく、顕微鏡の光学系は、外科医によりレーザ光を恐らくは提供されたコンソールの使用により適用するために用いられる。変形例として、レーザ及び送出システムは、外科用顕微鏡とは別体であり、切断のために照準ビームを位置合わせする光学系を有する。かかるシステムは、手術の開始時にレーザを有するコンソールに取り付けられた関節運動アームを用いて揺動して定位置に位置することができ、次に、揺動して離れて外科用顕微鏡が定位置に揺動することができるようにする。
【0058】
付けられるべきパターンは、可視照準ビームにより作られた制御エレクトロニクス12中のパターンの集まりから選択でき、次に、外科医により標的組織上に位置合わせでき、パターンパラメータ(例えばサイズ、平面又は軸方向要素の数等)を特定の患者の手術術野のサイズ(瞳孔拡大レベル、眼のサイズ等)に合わせて必要に応じて調節する。しかる後、システムは、パターンのサイズに応じて与えられるべきパルスの数を計算する。パターン計算が完了すると、外科用レーザによるパターンの迅速な付与を行なうためにレーザ治療がユーザによって開始できる(即ち、ユーザがペダルを押す)。
【0059】
レーザシステムは、外科医により選択されたパターンの実際の側方サイズに応じて或る特定のパターンを作るのに必要なパルスの数を自動的に計算することができる。これは、単一パルスによる破断ゾーンが固定され(パルスエネルギー及び合焦光学系の構成によって定められ)、従って、或る特定のセグメントを切断するのに必要なパルスの数をそのセグメントの長さを破断ゾーンの幅及び各パルスによって除算した商として決定されるという理解に基づいて実施できる。この走査率をレーザの繰返し率にリンクさせると、所望の距離により定められた組織上のパルス間隔をもたらすことができる。走査パターンの軸方向ステップは、破断ゾーンの長さによって定められ、この破断ゾーンの長さは、パルスエネルギー及び合焦光学系の形態によって設定される。
【0060】
固定に関する検討事項
本明細書において説明する方法及びシステムを単独で又はアプラナティック(不遊)レンズ(例えば米国特許第6,254,595号明細書に記載されており、かかる米国特許を参照により引用し、その記載内容を本明細書の一部とする)若しくは本明細書において説明しているレーザ法を助けるために角膜の形状を構成する他の装置と組み合わせて使用できる。リング、鉗子又は他の固定手段を用いて手技が眼の通常の固定時間を超えた場合に眼を固定するのがよい。眼の固定装置が用いられるかどうかとは無関係に、本明細書において説明するパターン付け及びセグメント化方法を自然な眼の固定時間内で実施できる持続時間に更に細分するのがよい。
【0061】
水晶体皮質の密な切断パターンと関連した別の潜在的な問題は、治療の持続時間であり、即ち、水晶体の体積が6×6×4mm=144mm3である場合、これにはN=722,000個のパルスが必要である。50kHzで送出される場合、これには15秒かかり、10kHzで送出された場合、これには72秒を要する。これは、自然な眼の固定時間よりも非常に長く、従って、これには、眼のための何らかの固定手段が必要である。かくして、硬化した核だけをその取り出しを容易にするためにセグメント化されるよう選択するのがよい。OCT診断によるその境界部の決定が、セグメント化ゾーンのサイズを最小限に抑え、かくして、パルスの数、累積的加熱レベル及び治療時間を最小限に抑えるのに役立つ。手技の持続時間のセグメント化コンポーネントが自然な固定時間よりも長い場合、従来型眼固定装置を用いて眼を安定化させるのがよい。
【0062】
熱に関する検討事項
非常に密な切断パターンが必要とされ又は所望される場合、水晶体中の熱の過剰の蓄積は、周りの組織に損傷を与える場合がある。最大加熱を推定するため、水晶体のバルクをサイズが1mmの立方体片に切断すると仮定する。パルス1つあたり直径が15μm、長さが200μmの体積を破砕するE1=10μJパルスで組織を離断する場合、パルスは、各々15μmで加えられる。かくして、1×1mmの平面は、66×66=4,356個のパルスを必要とするであろう。2つの側壁は、2×66×5=660個のパルスを必要とし、かくして、全部でN=5,016個のパルスが、組織の1立方mmあたり必要となろう。切断中に蓄えられたレーザエネルギーは全て、最終的には、熱に変換されるので、温度の上昇は、DT=(E1・N)/pcV=50.16mJ/(4.19mJ/K)=12Kとなろう。これにより、最大温度T=37+12℃=49℃となろう。この熱は、熱拡散により約1分以内に消散するであろう。水晶体の周辺領域は、セグメント化されないので(水晶体嚢への損傷を回避するため)、水晶体の境界部のところの平均温度は、実際にはこれよりも低いであろう。例えば、水晶体体積の半分だけが破砕される場合、水晶体の境界部のところでの平均温度上昇は、6℃(T=43℃)を超えず、網膜上では、0.1℃以下であろう。かかる温度上昇は、細胞及び組織により十分許容できる。しかしながら、これらの非常に高い温度は、危険である場合があり、回避されるべきである。
【0063】
加熱を軽減するため、幅は同一であるが軸方向長さが大きいパターンを形成し、従って、これら小片を吸引により針を介して依然として取り出すことができる。例えば、レンズをサイズが1×1×4mmの小片に切断した場合、組織の4立方mmにつき全部でN=6,996個のパルスが必要であろう。温度上昇は、DT=(E1・N)/pcV=69.96mJ/(4.19mJ/K)/4=1.04Kであろう。かかる温度上昇は、細胞及び組織によって十分に許容できる。
【0064】
熱的制限に対する別の解決策は、レーザビームの厳密な合焦によるセグメント化のために必要な全エネルギーを減少させることである。この方式では、高い繰返し率及び低パルスエネルギーを用いるのがよい。例えば、焦点距離F=50mm、ビーム直径Db=10mmであれば、直径が約4μmのスポットへの合焦が可能となる。この特定の例では、約32kHzの繰返し率は、約0.2sで直径が8mmの円が得られる。
【0065】
短いレーザパルスの吸収後のメラノソームの爆発的な揮発による網膜損傷を回避するため、RPEへのレーザ照射量は、100mJ/cm2以下であるべきである。かくして、合焦光学系のNAは、網膜へのレーザ照射量がその安全限度を超えないように調節される必要がある。パルスエネルギーが10μJの場合、網膜上のスポットサイズは、直径が0.1mm以上である必要があり、1mJパルスの場合、これは、1mmよりも小さいものであってはならない。水晶体と網膜との間の距離が20mmであると仮定すると、これらの値は、それぞれ、0.0025及び0.025の最小開口数に相当する。
【0066】
水晶体破砕中の熱蓄積に起因する網膜への熱による損傷を回避するため、網膜へのレーザ照射は、近IR放射線の場合、0.6W/cm2のオーダの熱的安全限度を超えてはならない。網膜ゾーンの直径が約10mmの場合(発散に起因して水晶体の8mmパターンサイズ+エッジ上の1mm)、レーザ照射は、網膜上で全部で0.5Wの電力に相当する。
【0067】
横方向焦点ボリューム
また、上述した軸方向焦点ボリュームではなく、横方向焦点ボリューム15を作ることが可能である。アナモルフィック光学方式を用いると、球面対称要素(図16参照)にはよく見られるように、単一の点ではなく「線」である焦点ゾーン39を作ることができる。光学設計の分野では標準的なことであるが、「アナモルフィック」という用語は、各子午線における互いに異なる等価な焦点距離を有する任意のシステムを説明する用語である。注目されるべきこととして、どの焦点も別々の焦点深度を有する。しかしながら、厳密に合焦されたビームに関し、例えば、超短パルス(tpulse<10psとして定義される)で生物学的材料を分断するのに十分な電界強度を達成するのに必要なビームに関し、焦点の深さは、それに比例して短い。
【0068】
かかる1次元焦点を、円柱レンズ及び(又は)ミラーを用いて作ることができる。適応光学部品、例えばMEMSミラー又はフェーズドアレイも又使用できる。しかしながら、フェーズドアレイを用いる場合、かかる回折素子のクロマチック効果に綿密な注意を払う必要がある。図17A〜図17Cは、アナモルフィック式望遠鏡形態を示しており、この場合、円柱光学素子40a/b及び球面レンズ42が、単一の子午線(図17A)に沿う逆ケプラー式望遠鏡を構成し、かくして、光軸(図17C参照)に対して横方向の細長い焦点ボリュームを提供する。複合レンズを用いると、ビームの最終寸法を調節することができる。
【0069】
図18は、ビームをCAとして示された単一の子午線に沿って伸長させるための1対のプリズム46a/bの使用法を示している。この例では、CAは、直線焦点ボリュームを作るために、拡大されるのではなく減少している。
【0070】
焦点は又、パターンを最終的に作るよう走査されるのがよい。軸方向変化を行なうために、最終のレンズは、システムのz軸に沿って動いて焦点を組織中に並進させるよう構成されるのがよい。同様に、最終のレンズは、複合レンズであるのがよく、調節可能であるように作られるのがよい。また、1次元焦点を回転させるのがよく、かくして、1次元焦点を整列させて種々のパターン、例えば、図9及び図10に示すパターンを作ることができる。円柱光学素子それ自体を回転させることにより回転を行なうことができる。当然のことながら、2つ以上の素子を用いることができる。また、追加の要素、例えばドーブプリズム(図示せず)を用いることにより焦点を回転させることができる。適応光学部品を用いる場合、デバイスを書き換え、かくして、可動部品を無くすことによりシステム設計を合理化して回転を達成してもよい。
【0071】
横方向線状焦点を用いることにより、水晶体の前方部分から後方部分を焼灼し、かくしてこれを平らにすることにより白内障にかかっている水晶体を離断させることができる。また、更に、直線状焦点を用いると、水晶体嚢を迅速に開き、これをいつでも取り出すことができるようにすることができる。また、直線状焦点は、任意他の眼切開創、例えば結膜等の切開創(図19参照)のために用いることができる。
【0072】
追跡及び治療方式を用いる白内障除去
「追跡及び治療」方式は、IOLの挿入に先立って、残屑、例えば白内障及び細胞物質を除去する自動化方式を提供するために光学眼手術の画像化特性と治療特性を一体化した方式である。超高速レーザを用いて、水晶体嚢を必ずしも離断させることなく、最小サイズの灌注/吸引プローブを用いて除去するのに十分小さな小片に破砕する。例えば、小さくて自己閉鎖性の切開創を用いる方式を用いると、ゲル又はエラストマーIOLで充填可能な嚢を提供することができる。大きな切開創を必要とする伝統的な硬いIOLSとは異なり、嚢全体を充填するのにゲルまたは液体を用いることができ、かくして、体自体の順応プロセスを良好に利用する。したがって、この方式は、白内障の問題に取り組むだけでなく、老視の問題にも取り組む。
【0073】
変形例として、水晶体嚢は、手つかずのままであってもよく、この場合、両側切開創を水晶体のバルクを除去するための吸引チップ、灌注チップ、及び超音波チップのために作る。しかる後、袋/嚢の内容物全体を首尾よくすすぎ洗い/水洗することができ、それにより、二次白内障を招く恐れのある残屑を除去する。次に、水晶体嚢が元のままの状態で、袋/嚢を充填するために切開創を通って注入された折り畳み可能なIOL又は光学的(Dove)に透明なゲルのいずれかのために最小切開創を作る。ゲルは、広い順応範囲で生まれつき備わっている水晶体のような動きをする。
【0074】
本発明は、上述すると共に本明細書において説明した実施形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲に属する全ての変形例を含むことは理解されるべきである。例えば、上述した材料、プロセス、及び数値の例は、例示に過ぎず、特許請求の範囲に記載された本発明を限定するものと見なされてはならない。マルチセグメント状レンズ30を用いると、軸方向にオーバーラップさせないでビームを多数の点で同時に合焦させる(即ち、ビームを標的組織上の互いに異なる側方場所に位置する多数の焦点に合焦させる)ことができる。さらに、特許請求の範囲の記載及び明細書の記載から明らかなように、説明すると共にクレーム請求した順序そのもので全ての方法ステップを実施する必要はなく、さらに適切に言えば手術手技の目的を達成する任意の順序で実施できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼組織治療用眼科手術システムであって、
複数のレーザーパルスを含む光ビーム(11)を発生させる光源(10,LS)と、
眼組織の標的部分を特定することができる眼組織像を発生させる撮像装置と、
前記光ビームを前記眼組織上に合焦させ、該光ビームをパターンで逸らせる送出システム(16,L1,G1,G2)と、
前記光源及び前記送出システムを制御して前記光ビームを前記眼組織内の合焦点に合焦させ、眼組織内の識別部分で前記パターンをなして走査を行い、水晶体内の前方水晶体嚢を切開する、コントローラ(12,CPU)とを有する、システム。
【請求項2】
前記送出システムが、前記光ビームを前記パターンで逸らせ、前記眼内の合焦点の深さを変化させるために、前記コントローラによって制御される少なくとも一つの移動光学素子を有し、
前記コントローラが、第1回目に、焦点が前記眼組織内の第1の深さのところに位置した状態で、2回目には、前記焦点が前記第1の焦点とは異なる前記眼組織内の第2の深さの位置した状態で、前記眼組織を横切って前記パターンをなして走査する、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラが、第2の深さの合焦点を走査する前に、第1の深さの合焦点の走査を行わせる、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記光ビーム(11)が、800nm及び1100nmの間の波長である、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記光ビーム(11)が、1KHz及び100KHzの間のパルス繰返し率である、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記光ビーム(11)が、100mJを超えないパルスエネルギーのパルスを有する、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記コントローラが、前記合焦点を走査して、レンズ中心をパターン化した小片にセグメント化する、請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラが、前記送出システム(16,L1,G1,G2)を制御して、一つ又は複数の走査パターンによって走査し、前記レンズをパターン化した小片にセグメント化する、請求項7記載のシステム。
【請求項9】
前記一つ又は複数の走査パターンが、オーバーラップした線セグメントを有する、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記一つ又は複数の走査パターンが、一つ又は複数の二次元走査パターンまたは一つ又は複数の三次元走査パターンを含む、請求項8記載のシステム。
【請求項11】
前記一つ又は複数の走査パターンが、直線状、平面状、半径方向、円形、螺旋状、曲線状のパターンのうちの少なくとも一つ、あるいは二つ以上の重なった線セグメントを含む、請求項8記載のシステム。
【請求項12】
前記合焦点の一つ又は複数の走査パターンによる走査が、レンズ中心の異なった深さにレーザ−パルスを連続して照射することを含み、
前記レーザーパルスが、最初に、レンズ中心の最大深さに照射し、次にレンズ中心部のより浅い深さに照射する、請求項8記載のシステム。
【請求項13】
前記パターン化した破片が、吸引針で除去することができる程度の寸法である、請求項1記載のシステム。
【請求項14】
前記撮像装置が、レンズ中心の少なくとも一部または水晶体の境界の三次元像データを測定するための光干渉断層法(OCT)装置を有し、
前記コントローラが、前記光干渉断層法(OCT)装置によって得られた三次元像データに基づいてレンズ中心を前記パターン化された小片に基づいてセグメント化し、前記光干渉断層法(OCT)装置によって得られた三次元像データに基づいて前方水晶体嚢を切開する、請求項7記載のシステム。
【請求項15】
前記撮像装置が、
水晶体の境界の三次元像データを測定するための光干渉断層法(OCT)装置を有し、
前記コントローラが、前記光干渉断層法(OCT)装置によって得られた三次元像データに基づいて前方水晶体嚢を切開する、請求項1記載のシステム。
前記多焦点距離光学素子は、複数個のセグメントを有し、前記第1の焦点距離と前記第2の焦点距離は、互いに側方にずらされている、請求項1記載のシステム。
【請求項16】
前記送出システムが、光ビームのz軸に沿った合焦点の位置を調整する一つまたは複数のレンズ(L1)、またはz軸を横切る合焦点の位置を調整する一つまたは複数の横断走査装置(G1,G2)を包含する、請求項1記載のシステム。
【請求項17】
前記一つまたは複数の横断走査装置が,一対のガルバノミラー(G1,G2)を有する請求項16記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−81821(P2013−81821A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−7879(P2013−7879)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2007−550571(P2007−550571)の分割
【原出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(506237436)オプティメディカ・コーポレイション (12)
【氏名又は名称原語表記】OPTIMEDICA CORPORATION