説明

眼鏡フレーム及びその製造方法

【課題】美観に優れ、特に、これまでにない金属の輝きを有する眼鏡フレームを提供する。
【解決手段】チタン又はチタン合金、ステンレス、洋白、マグネシウムその他の眼鏡用金属材料からなる眼鏡フレーム部材の金属表面に蒸着膜が形成された眼鏡フレームである。蒸着膜の表面に撥水性膜が形成されていてもよい。また、金属表面にスクリーン印刷により表示部が形成され、この表示部を覆って蒸着膜が形成されていてもよい。蒸着膜は、例えばAl23層、ZrO2層、SiO2層が積層されたものである。このような眼鏡フレームは、金属表面に蒸着膜を蒸着形成することにより作製される。このとき、例えば金属表面を蒸気流に対して斜めに傾けて設置すれば、グラデーション効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡フレーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡フレームには、特許文献1−4に示すように、強度が高く軽量であるチタン又はチタン合金のほか、ステンレス、洋白、マグネシウムその他の眼鏡用金属材料が広く用いられ、その表面は、塗装により装飾されている。
【0003】
しかし、例えばチタン又はチタン合金の表面を塗装すると、チタン又はチタン合金の有する金属感が損なわれ、重厚さに欠けるという欠点がある。
【0004】
さらに、チタン又はチタン合金の表面には、いわゆる撥水コートを形成することができず、汚れ易いという欠点もある。
【特許文献1】特開2005−113227号公報
【特許文献2】特開2003−337306号公報
【特許文献3】特開2001−220631号公報
【特許文献4】特開平7−239454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来のチタン又はチタン合金その他の眼鏡用金属材料を用いた眼鏡フレームは、外観上の不満が多く、汚れも付着し易いものであった。
【0006】
そこで本発明は、美観に優れ、特に、これまでにない金属の輝きを有する眼鏡フレーム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
さらに、本発明は、金属表面に汚れが付着し難い眼鏡フレーム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の眼鏡フレームは、眼鏡フレーム部材の表面に蒸着膜が形成されていることを特徴とする。
【0009】
眼鏡フレーム部材は、フロント及びテンプルの少なくともいずれかの表面に蒸着膜が形成されていればよい。また、フロントのリムとブリッジの少なくともいずれかの表面に蒸着膜が形成されていてもよい。
【0010】
このように、薄い蒸着膜を金属表面に形成することで、これまでにない輝きを有する美観に優れた外観が得られる。
【0011】
また、この蒸着膜を形成することで、金属表面では不可能であった撥水性膜の形成が可能となる。したがって、この蒸着膜の上に撥水性膜を形成することで、美観に優れるのみならず、汚れの付着が少ない表面が形成される。
【0012】
前記蒸着膜を構成する蒸着物質としては、SiO2、TiO2、Ti23、MgF2、ZrO2、CrO2、Cr23、Cr、Al23等が挙げられ、通常はこれらの積層膜、多層膜とされる。具体的には、Al23層、ZrO2層、SiO2層が積層されたものや、Al23層、TiO2層、SiO2層が積層されたものを挙げることができる。
【0013】
前記蒸着膜を構成する蒸着物質は、一般に無色透明であるが、各物質によって屈折率が異なり、これらを積層すると、各層の厚みによる光の屈折と干渉によって特定の波長の光に対する反射率が変化する。したがって、蒸着物質の組み合わせや膜厚設定を変えることで、青、黄色等、所望の色に輝いて見え、非常に美感に優れるものとなる。
【0014】
また、前記蒸着膜は、金属表面に金、銀、カラーのメッキを施した場合に、その退色を防止するという効果も有する。通常、金属表面にメッキを施すことが行われる。この場合、単なるメッキだけではその退色が著しいが、前記蒸着膜を形成することで、これを大幅に抑えることができる。
【0015】
さらに、前記蒸着膜は、例えばスクリーン印刷した文字や図柄を覆って形成すると、これを浮き出させて見える効果を有する。したがって、スクリーン印刷後に蒸着膜、撥水性膜を形成することが可能であり、これによって文字や図柄等の表示部を、独特な雰囲気で表示することが可能である。通常、撥水性膜の上にスクリーン印刷することは難しく、この点でも画期的である。
【0016】
上述の眼鏡フレームは、眼鏡フレーム部材の金属表面に蒸着膜を蒸着形成することで製造される。
【0017】
特に、撥水性膜を形成する場合には、蒸着膜を蒸着形成した後、同一真空槽内で撥水性膜を蒸着する。また、スクリーン印刷により表示部を形成する場合、表示部をスクリーン印刷した後、蒸着膜を蒸着形成する。
【0018】
なお、蒸着膜を蒸着形成する際に、金属表面を蒸気流に対して斜めに傾けて設置すれば、金属表面に形成される蒸着膜が膜厚分布を有し場所によって膜厚が変化するようになり、いわゆるグラデーション効果により、見る角度によって色が微妙に変化して見えるようになる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、軽量で、且つこれまでにない金属感、輝き、発色を有する、美観に優れた眼鏡フレームを提供することができる。
【0020】
また、汚れが付き難く、退色も抑えることができ、長期に亘り前記美観が維持される眼鏡フレームを提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を適用した具体的な例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本例の眼鏡フレームは、チタン又はチタン合金、ステンレス、洋白、マグネシウムその他の眼鏡用金属材料からなるフロント及びテンプルの少なくともいずれかの眼鏡フレーム部材の金属表面(外側が好ましいが外側と内側の両表面でも構わない)に、Al23、ZrO2、SiO2を交互に蒸着し、合わせて9層からなる蒸着膜を形成してなるものであり、さらに、この蒸着膜の上にシリコンのフッ化物からなる撥水性膜を形成してなるものである。
【0023】
この眼鏡フレームは、蒸着膜の層構成、各層の厚みを変えることで、例えば青色、若しくは黄色に輝くこれまでにない外観を呈し、美観に優れたものであった。また、手指等で触れても汚れが付着し難く、長期に亘り美観が維持された。
【0024】
前記の眼鏡フレームにおいて、金属表面に、予めスクリーン印刷により文字や図形等の表示部を形成したところ、次のような現象が見られた。
【0025】
先ず、黒色の文字、図形を印刷した場合、この上に蒸着膜を形成すると、色調が変わり、金属感のある,いわゆるメタリックな外観を呈した。
【0026】
一方、白色、あるいはシルバーの文字、図形を印刷した場合、この上に蒸着膜を形成することができる。
【0027】
このような現象は、これまでの表面処理では見られなかったものであり、前記蒸着膜を形成したことによる特有の効果と言える。
【0028】
次に、上述の眼鏡フレームの作製方法について説明する。
【0029】
前記眼鏡フレームを作製するには、先ず、所定の形状に作成したチタン又はチタン合金、ステンレス、洋白、マグネシウムその他の眼鏡用金属材料からなるフロント及びテンプルの少なくともいずれかの眼鏡フレーム部材を洗浄カゴに入れ、受入検査をした後、超純水により超音波洗浄する。
【0030】
次いで、コート前検査を行い、問題のないものを蒸着工程に移行する。コート前検査では、目視により油分等が付着していないことを確認した。
【0031】
蒸着工程は、蒸着装置を用いて行うが、ここで用いた蒸着装置の概略構成を図1に示す。
【0032】
この蒸着装置は、真空チャンバ1内に蒸着源2を設置し、この蒸発源2と対向して被蒸着物を設置する蒸着ドーム3を配置してなるものである。
【0033】
真空チャンバ1の底部には、蒸発源2を加熱するための電子銃4が設けられており、また真空チャンバ1の頂部には、蒸着膜の膜厚をモニターするための膜厚計5が設けられている。
【0034】
蒸着膜を形成する際には、前記蒸着装置から蒸着ドーム3を取り外し、これに眼鏡フレーム部材をセットする。
【0035】
そして、この蒸着ドーム3を真空チャンバ1にセットし、真空チャンバ1内を減圧する。このとき、真空チャンバ1内の真空度は、蒸着物質の種類等に応じて適宜設定すればよいが、ここでは10-3パスカルとした。
【0036】
このような条件下で、蒸着物質を蒸着して蒸着膜を形成し、さらには、必要に応じて撥水性膜を成膜する。
【0037】
本例では、Al23、ZrO2、SiO2、シリコンのフッ化物からなる4種類の蒸発源2を真空チャンバ1内に設置し、これらを順次電子銃4で加熱することにより、9層の積層膜からなる蒸着膜、及び撥水性膜を同一真空チャンバ1内で連続して形成した。
【0038】
前記蒸着に際しては、蒸着膜の密着性を良くするために被蒸着物(眼鏡フレーム部材)を加熱することが好ましく、本例では、真空チャンバ1にヒート線を通すことで真空チャンバ1内を加熱し、眼鏡フレーム部材を60〜70℃に加熱した。
【0039】
また、前記蒸着膜の蒸着に際して、眼鏡フレーム部材の蒸着すべき金属表面を蒸着物質の蒸気流に対して斜めになるように設置すれば、いわゆるグラデーション効果が得られる。
【0040】
例えば、図2に示すように、眼鏡フレーム部材であるフロント部Fの上辺側を基準面から距離A、下辺側を基準面から距離Bだけ離して斜めに設置し、全体が基準面に対して45度程度までの範囲になるように設置することで、良好なグラデーション効果が得られる。一般に、濃くしたい部分を下(図1の蒸発源2の近く)に設置する。具体的には、フロント部Fの上辺をグリーン、下辺をブルーに発色させる場合には、距離A,Bとも6mm、角度を20度に設定することで良好な結果が得られた。
【0041】
テンプル部Tでは、図3に示すように、上辺側を基準面から距離A、下辺側を基準面から距離Bだけ離して斜めに設置すると、上辺を濃く、下辺を薄く発色させることができた。また、図4に示すように、前側を基準面から距離A、後側を基準面から距離Bだけ離して斜めに設置すると、前側部を濃く、後側部を薄く発色させることができた。
【0042】
以上により蒸着膜を形成した後、真空チャンバ1内を大気圧に戻し、蒸着ドーム3を真空チャンバ1から取り出す。
【0043】
そして、この蒸着ドーム3から眼鏡フレーム部材を取り外し、検査を行って完成する。
【0044】
以上が眼鏡フレームの作製工程の一例であるが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば蒸着装置の構造や蒸着条件等は任意である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】蒸着装置の一構成例を示す模式図である。
【図2】眼鏡フレーム部材のフロント部Fの取り付け状態を示す模式図である。
【図3】眼鏡フレーム部材のテンプル部Tの取り付け状態を示す模式図である。
【図4】眼鏡フレーム部材のフロント部Tの他の取り付け状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 真空チャンバ
2 蒸発源
3 蒸着ドーム
4 電子銃
5 膜厚計
F 眼鏡フレーム部材フロント部
T 眼鏡フレーム部材テンプル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡フレーム部材の金属表面に蒸着膜が形成されていることを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項2】
前記蒸着膜の表面に撥水性膜が形成されていることを特徴とする請求項1記載の眼鏡フレーム。
【請求項3】
前記金属表面にスクリーン印刷により表示部が形成され、この表示部を覆って前記蒸着膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡フレーム。
【請求項4】
前記蒸着膜がAl23層、ZrO2層、SiO2層が積層されたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の眼鏡フレーム。
【請求項5】
眼鏡フレーム部材の金属表面に蒸着膜を蒸着形成することを特徴とする眼鏡フレームの製造方法。
【請求項6】
前記蒸着膜を蒸着形成した後、同一真空槽内で撥水性膜を蒸着することを特徴とする請求項5記載の眼鏡フレームの製造方法。
【請求項7】
前記金属表面に表示部をスクリーン印刷した後、この表示部を覆って前記蒸着膜を蒸着形成することを特徴とする請求項5又は6に記載の眼鏡フレームの製造方法。
【請求項8】
前記蒸着膜を蒸着形成する際に、前記金属表面を蒸気流に対して斜めに傾けて設置することを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の眼鏡フレームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−225699(P2007−225699A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44089(P2006−44089)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(596167055)株式会社エツミ光学 (5)
【出願人】(399123258)マリビジョン株式会社 (3)
【Fターム(参考)】