説明

着色縫合糸

超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)のフィラメントを含む縫合糸であって、この縫合糸が、a)UHMwPE、紡糸溶媒、および顔料を含む混合物を提供するステップと、b)この混合物からマルチフィラメント糸をゲル紡糸法により紡糸するステップとを含む方法により得られるマルチフィラメント糸を含むことを特徴とする、縫合糸。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、着色縫合糸に関する。縫合糸の着色は、例えば、手術領域において縫合糸を血液や組織中でより目立たせるようにすることを目的として用いられている。複雑な手術、例えば関節鏡下手術において、異なる縫合糸の末端が狭い範囲内で用いられる場合は、この縫合糸の末端に差をつけることで手術が行いやすくなるように異なる色の縫合糸が用いられる。こうした理由から、手術、特に関節鏡下手術中に、縫合糸の進行方向を識別することで手術が行いやすくなるように、縫合糸に異なる色のフィラメントを特定のパターンで組み合わせることも可能である。
【0002】
縫合糸の製造に用いるフィラメントの選択においては、縫合糸の強度も着色に次いで考慮すべき重要な事項である。現時点において縫合糸の製造に利用することができる非常に強度の高いフィラメントは、ゲル紡糸法に従い製造された超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)のフィラメントである。
【0003】
この種のフィラメントの問題点は、その着色の難しさにある。UHMwPEは極性を有しているため、染料等の着色剤や着色されたコーティング材はフィラメント表面にうまく接着しない。接着が十分でないと、縫合糸の製造時の取扱いによって着色剤の一部または全部がフィラメントから脱離する可能性や、人間や動物の体内の所定の位置で着色剤の一部または全部が脱離する可能性があり、これは健康に害を及ぼすため望ましくない。着色剤のフィラメントに対する接着力を、フィラメントに予備処理、例えばプラズマ処理を施すことによって向上させる試みがなされている。しかしながら、このような予備処理はフィラメントの機械的性質(例えば引張強度等)に悪影響を与えるのが一般的であり、フィラメントの接着力は、縫合糸用として適したものになるほど十分に改善されない場合が多い。
【0004】
他の試みとしては、欧州特許出願公開第A−0873445号明細書に開示されているように、超臨界二酸化炭素を染料の溶剤として用いたUHMwPEフィラメントの染色が行われていた。この場合、染料がフィラメント本体内部に浸透するため、もはや接着力の問題による影響はなかった。しかしながら、このような染料は滲出する傾向があり、これは縫合糸用フィラメント用途には好ましいことではない。米国特許第5,613,987号明細書においても、UHMwPEフィラメントの着色に染料を使用することが提案された。この場合も同じ問題が発生する。
【0005】
ポリオレフィン系フィラメント(その中でもポリプロピレンフィラメントが最適な例である)は、フィラメントを押出成形する際にフィラメントのポリマー組成物中に顔料を添加することによって着色される場合が多い。Prog.Polym.Sci.、第27巻(2002)pp.853〜913には、ポリプロピレンフィラメントを顔料で着色する方法が記載されている。
【0006】
第1のステップにおいては、顔料をいわゆる担体ポリマー中に均一に分散させることによって高濃度の予備混合物が得られる。顔料を十分に分散させるために、低粘度の担体ポリマーおよび分散剤を用いることによって顔料粒子の濡れを高める必要がある。低粘度担体ポリマーは、UHMwPEフィラメントの機械的性質に悪影響を与える。さらに、この種のフィラメントは、ポリプロピレンフィラメントの直径と比較して直径が非常に小さいため、未分散または再凝集した顔料粒子の塊がフィラメントの引張強度に不利に作用するであろう。したがって、米国特許第5,613,987号明細書においても、UHMwPEフィラメントには顔料を使用しないことが勧められている。同じく、縫合糸に使用されるフィラメント中に分散剤を使用することも不利であり、それは、この種のフィラメントが生体適合性を有していなければならず、分散剤がこのことに悪影響を及ぼすためである。
【0007】
UHMwPEフィラメントの着色に関する問題を克服するために提案されている1つの解決策が、米国特許第7,029,490号明細書に開示されているような、縫合糸中でこのフィラメントを異なるポリマー(好ましくはナイロン)のフィラメントと組み合わせることである。しかしながら、このような縫合糸は構造が複雑であり、また、縫合糸の強度に対するナイロンフィラメントの寄与は、UHMwPEのフィラメントを下回る程度に過ぎない。
【0008】
本発明の目的は、上述した問題の起こらない着色された縫合糸を提供することにある。
【0009】
驚くべきことに、縫合糸が、
a)UHMwPE、紡糸溶媒、および顔料を含む混合物を提供するステップと、
b)この混合物からゲル紡糸法によりマルチフィラメント糸を紡糸するステップと
を含む方法により得られるマルチフィラメント糸を含む場合に、このような縫合糸が得られる。
【0010】
ゲル紡糸法により調製される超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィラメントのフィラメントの調製は、例えば、欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許第2042414A号明細書、欧州特許第0200547B1号明細書、欧州特許第0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、ならびにAdvanced Fiber Spinning Technology、T.Nakajima編、Woodhead Publ.Ltd(1994年)、ISBN 1−855−73182−7およびその中に引用されている参考文献に記載されている。ゲル紡糸とは、超高分子量ポリエチレンの紡糸溶媒溶液からフィラメントを紡糸するステップと、得られたフィラメントを冷却することによりゲルフィラメントを形成するステップと、ゲルフィラメントから紡糸溶媒の少なくとも一部を除去するステップと、紡糸溶媒を除去する前、途中、または後に、少なくとも1つの延伸ステップにおいてフィラメントを延伸するステップとを少なくとも含むものと理解される。好適な紡糸溶媒としては、例えば、パラフィン類、鉱物油、ケロシン、またはデカリンが挙げられる。紡糸溶媒は、蒸発、抽出、または蒸発および抽出経路を組み合わせることによって除去してもよい。このようなフィラメントは、スペクトラ(Spectra)(登録商標)またはダイニーマ(Dyneema)(登録商標)グレードとして市販されている。
【0011】
UHMWPEは、極限粘度(IV、PTC−179法(Hercules Inc.Rev.、1982年4月29日)に従い、135℃のデカリン中で、溶解時間を16時間とし、酸化防止剤としてDBPCを2g/l溶液の量で用いて、異なる濃度における粘度を濃度ゼロに外挿することによって決定される)が5dl/gを超える場合に良好な結果が得られる。IVが約8〜40dl/g、より好ましくは10〜30、よりさらに好ましくは12〜28、最も好ましくは15〜25dl/gのUHMWPEが特に好適である。これらは、ポリマーの加工性およびフィラメントの特性が最適になる範囲を表している。極限粘度は、実際のモル質量のパラメータであるMやM等よりも容易に測定することができるモル質量(分子量とも呼ばれる)の指標である。IVとMとの間には幾つかの関係があることが経験的に見出されているが、このような関係はモル質量分布に大きく依存する。式M=5.37×10[IV]1.37(欧州特許出願第0504954A1号明細書)に基づけば、IVが8dl/gである場合、Mwは約930kg/molに相当するであろう。
【0012】
好ましくは、UHMWPEは、炭素原子100個当たりの分岐鎖が1未満、好ましくは炭素原子300個当たりの側鎖が1未満である線状ポリエチレン(分岐鎖は、通常、少なくとも10個の炭素原子を含む)である。線状ポリエチレンは、さらに、アルケン(プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、オクテン等)等の1種またはそれ以上のコモノマーを5mol%まで含んでいてもよい。
【0013】
好ましい実施形態においては、UHMWPEは、側鎖として比較的小さな基、好ましくはC1〜C4アルキル基を少量含む。この種の基を特定量含むUHMWPE由来のフィラメントは、クリープ挙動が低減されることが見出されている。しかしながら、側鎖が大き過ぎるかまたは側鎖の量が多すぎると、加工性、特にフィラメントの延伸挙動に悪影響が及ぶ。こうした理由から、UHMWPEは、好ましくは、メチルまたはエチル側鎖、より好ましくはメチル側鎖を含む。したがって、UHMWPEは、メチルまたはエチル側鎖を、好ましくは少なくとも0.2、より好ましくは少なくとも、よりさらに好ましくは少なくとも0.3、よりさらに好ましくは少なくとも0.4、最も好ましくは少なくとも0.5含む。側鎖の量は、好ましくは、炭素原子1000個当たり最大20個、より好ましくは最大10個である。
【0014】
UHMwPEは、単一のポリマーグレードであってもよいが、2種以上の異なるグレード(例えば、IVもしくはモル質量分布および/または側鎖の数が異なる)の混合物であってもよい。好ましくは、フィラメントの高分子部分は、単一のグレードのUHMwPEである。
【0015】
マルチフィラメント糸中のフィラメントの本数は、10〜1000の間であってもよい。好ましくは、マルチフィラメント糸中のフィラメントの本数は20を超え、より好ましくは30を超える。
【0016】
UHMwPE、紡糸溶媒、および顔料を含む混合物は、ゲル紡糸法の異なる段階で供給してもよい。例えば、第1ステップにおいて、UHMwPE粉末および顔料の乾燥混合物を生成させ、第2ステップにおいて、その混合物を紡糸溶媒でスラリー化させたスラリーを生成させ、第3ステップにおいて、UHMwPEを紡糸溶媒に溶解させることにより、UHMwPEの紡糸溶媒溶液に顔料がスラリー化したスラリーを得、その溶液からマルチフィラメント糸を紡糸することが可能である。UHMwPEの紡糸溶媒溶液をまず最初に生成させ、その溶液に顔料を添加することも可能である。
【0017】
UHMwPEフィラメントに含まれる残留紡糸溶媒の量は、好ましくは800ppm未満、より好ましくは500未満、よりさらに好ましくは250未満、最も好ましくは100ppm未満(80ppm未満、60ppm未満等)である。残留紡糸溶媒量の少ないフィラメントおよび縫合糸は、移植により適しているという点で非常に有利である。
【0018】
好適な顔料としては、有機および無機顔料が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料およびフタロ顔料が挙げられる。C.I.バットブラウンlおよびC.I.ソルベントイエロー18を用いた場合に良好な結果が得られる。無機顔料の例としては、二酸化チタン、酸化鉄、および酸化クロムを含む顔料が挙げられる。アルミニウム−クロム−コバルトオキシド(aluminum−chromium−cobalt oxide)を用いると、良好な機械的性質が縫合糸に付与され、かつ滲出の度合いが低くなるため、良好な結果が得られる。
【0019】
使用される顔料の量は、縫合糸の製造に用いられる最終フィラメントの0.1〜7重量%であってもよい。好ましくは、最終フィラメントは、顔料を少なくとも0.3重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%、よりさらに好ましくは少なくとも0.7重量%含む。好ましくは、最終フィラメントは、顔料を最大で5.0重量%、より好ましくは最大で3重量%、よりさらに好ましくは少なくとも2.5重量%、最も好ましくは最大で2重量%含む。これは、鮮明な色および良好な機械的性質を得ることを考慮したものである。
【0020】
本発明による縫合糸のUHMwPEフィラメントは、好ましくは、UHMwPE、顔料、および1000ppm未満のさらなる構成成分、好ましくは500ppm未満のさらなる構成成分、より好ましくは200ppm未満のさらなる構成成分、最も好ましくは100ppm未満のさらなる構成成分(80ppm未満、60ppm未満等)からなる。
【0021】
本発明による縫合糸のサイズには、USPの縫合糸の全種類(例えば、12−0〜10)が適しているであろう。USPの値が10であることは、最大径が1.3mmであることに対応する。好ましい一実施形態においては、縫合糸部材は、繊度が25〜500dtexである。この場合、縫合糸は、心臓血管手術に非常に適している。他の好ましい実施形態においては、縫合糸の繊度は500〜3000dtexである。この場合、縫合糸は、整形外科用途に用いるのに非常に適している。さらなる他の好ましい実施形態においては、縫合糸の繊度は3000〜9000dtexである。この場合、縫合糸は、負荷の大きな(heavy)整形外科用途に用いるのに非常に適している。
【0022】
縫合糸は、超高分子ポリオレフィンフィラメントに加えて、さらなる構成成分、例えば、ある種の機能的効果(抗菌または抗炎症作用等)を付与するかまたは結紮性(knotting performance)をさらに改善する化合物を含んでいてもよい。このような他の構成成分の量は、通常、最大で20質量%(ケーブルの総質量に対する)、好ましくは最大で10、より好ましくは最大で5質量%に制限される。
【0023】
本発明による縫合糸は、好ましくは、超高分子量ポリオレフィンフィラメントを少なくとも50質量%含む。超高分子量ポリオレフィンフィラメントは、部材の強度特性の大半部分を担っている。さらにこのフィラメントは、組織内を通過する縫合糸の滑り性を向上させる。したがって、より好ましくは、縫合糸は、超高分子量ポリオレフィンフィラメントを少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも70、80、または少なくとも90質量%含む。縫合糸は、結節の滑り挙動(knot slip behaviour)や見た目の目立ちやすさを改善するなどの他の何らかのさらなる特性を縫合糸に付与することを目的とした、他の繊維、例えば、他の生体適合性を有する材料(ポリマー等)をさらに含んでいてもよい。このような他の繊維は、1本またはそれ以上の撚り糸の形態で縫合糸中に存在してもよい。しかしながら、好ましくは、各撚り糸は、各撚り糸が同量のポリオレフィンフィラメントおよび他のフィラメントを含むように、同一組成を有する。こうすることによって、縫合糸に均質な構造が確保される。
【0024】
他の繊維性材料の好適な例としては、非吸収性ポリマー(他のポリオレフィン、フルオロポリマー、ポリエチレンテレフタレート等の半芳香族ポリエステル等)、吸収性ポリマー(例えばラクチドをベースとする脂肪族ポリエステル等)から作製されたフィラメントまたはステープル繊維が挙げられる。
【0025】
最も好ましくは、縫合糸は、ポリオレフィンフィラメントからなる。本発明はまた、本発明による縫合糸の外科的手法における使用にも関する。
【0026】
実施例において本発明をさらに説明するが、この実施例に限定されるものではない。
【0027】
[方法]
[極限粘度]
極限粘度(IV)は、PTC−179法(Hercules Inc.Rev.、1982年4月29日)に従い、135℃のデカリン中で、溶解時間を16時間とし、酸化防止剤としてDBPCを2g/l溶液の量で用いて、異なる濃度で測定された粘度を濃度ゼロに外挿することによって決定される。
【0028】
[引張特性]
引張特性:ASTM D885Mに準ずる手順を用いて、マルチフィラメント糸の強度、引張弾性率(または弾性率)、および破断伸び(またはeab)の定義および測定を行う。繊維の公称標線間距離を500mm、クロスヘッド速度を50%/分とし、Fibre Grip D5618C型のインストロン(Instron)2714つかみ具を使用する。測定された応力−歪み曲線に基づき、弾性率を0.3〜1%歪みの傾きとして決定する。弾性率および強度を求める場合は、測定された引張力を繊度(10メートルの繊維を秤量することにより決定される)で除し、GPa単位の値は、密度を0.97g/cmと仮定して求める。
【0029】
[滲出試験]
ISO 10993−12:2002(E)の要件に従い、マルチフィラメント糸試料の抽出を、極性溶媒(蒸留水)中および無極性溶媒(綿実油)中の両方で実施した。抽出条件を、37℃で24および72時間とした。
【0030】
アセトニトリルで希釈した後、液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)およびガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)を用いて顔料の存在に関し異なる相を分析した。滲出lが認められなかった場合、これは、滲出が10ppb未満であったことを意味する。
【0031】
[細胞毒性]
ISO 10993−5、1999:医療用具の生物学的評価−第5部:in vitro細胞毒性試験(Biological Evaluation of Medical Devices−Part5:Tests for in vitro cytotoxicity)に従い細胞毒性試験を実施した。試験品の抽出物(試料は顔料を2.0重量%まで含む)に対する、哺乳動物(L929マウス線維芽細胞培養物)の単層の生物学的反応を測定した。抽出物は、COを5±1%含む加湿雰囲気中、37℃(±1)、24時間で調製した。陽性(天然ゴム)および陰性(シリコーン)対照品を調製することにより、試験系が適正に機能していることを確認した。細胞培養物の維持培地を試験品または対照品の抽出物に交換してトリプリケートとし、培養物を37℃(±1)で48時間インキュベートした。生物学的反応を以下の尺度で評価した。
グレード0(反応なし)
グレード1(軽微な反応)
グレード2(軽度の反応)
グレード3(中等度の反応)
グレード4(強度の反応)
【0032】
[実施例1〜4]
デカリン、IVがそれぞれ14、0.5、1、1.5のUHMwPE粉末を6質量%、アルミニウム−クロム−コバルトオキシド顔料(カチオンは、Co32.5%、Al32%、およびCr35.5)を含むスラリーをミキサーで調製した。
【0033】
このスラリーを、温度を180℃に設定した、ギアポンプを備えた直径25mmの二軸押出機に供給した。この押出機内でUHMwPEをデカリンに溶解させ、こうして得られた、デカリン中に溶解したUHMwPEおよび顔料の混合物を、24個の紡糸孔を有する紡糸口金を通じて窒素雰囲気中に1孔当たり1.0g/分の速度で押出した。こうして得られた溶液状態の(solution)フィラメントを約35℃に維持された水浴中で冷却し、水の流速を、浴に送入されるフィラメントに対し垂直に約5cm/秒とし、15mmのエアギャップ内の紡糸されたままの(as−spun)フィラメントに適用される延伸倍率が15になる速度で引き取った。次いで、フィラメントを130℃のオーブンに送入した。フィラメントをさらに延伸し、この処理の間、デカリンをフィラメントから蒸発させた。延伸処理後のフィラメントを、100℃の無酸素環境下で24時間緊張状態に維持した。
【0034】
こうして得られたマルチフィラメント糸について、機械的性質、滲出、および細胞毒性を測定した。
【0035】
機械的性質を表1に記載する。好ましい機械的性質が得られた。
【0036】
顔料に関係する化合物も、他の未知の化合物も認められなかった。顔料<10μg/kg(<10ppb)。
【0037】
これらの結果から、マルチフィラメント糸を含む本発明による縫合糸からの滲出に起因する顔料の生物学的利用能は無視してよいと結論づけることができる。
【0038】
着色された試料の抽出物はいずれも、細胞毒性試験に付しても細胞培養物の反応は認められなかった(グレード0)。陽性対照品には強力な反応(グレード4)が認められた。陰性対照品は反応の徴候が見られなかった(グレード0)。したがって、マルチフィラメント糸を含む本発明による縫合糸は、細胞毒性を示さないと結論づけることができる。
【0039】
この糸はさらに、均質で鮮明な色を有している。
【0040】
[比較試験A]
顔料を使用しなかったことを除いて、実施例1〜4に従いマルチフィラメント糸を製造した。
【0041】
このマルチフィラメント糸を、D&CブルーNo6(米国のシグマ・アルドリッチ(Sigma Aldrich,USA)提供)を用いて、染料の超臨界二酸化炭素溶液にマルチフィラメント糸を120℃で7時間浸けることにより染色した。
【0042】
結果として得られた糸は不均質な色の分布パターンを示した。
【0043】
機械的性質および滲出を測定した。
【0044】
機械的性質を表1に記載する。機械的性質の深刻な低下が認められた(強度が約40%低下)。
【0045】
かなりの滲出が起こっており、このことは、ヤシ油中でマルチフィラメント糸の色が消失していたことから既に明らかであった。
【0046】
これらの結果から、比較試験Aによるマルチフィラメント糸を含む縫合糸が手術に適していないことが明らかである。
【0047】
[比較試験B]
顔料を使用しなかったことを除いて、実施例1〜4に従いマルチフィラメント糸を製造した。
【0048】
マルチフィラメント糸を、アゾ染料(スーダンレッドD、シグマ・アルドリッチ提供)を含むポリウレタンコーティングでディップコーティングした。
【0049】
マルチフィラメント糸について測定された試験データを表1に記載した。かなりの滲出が起こったことと、フィラメントの細胞毒性が不十分であることとが明らかである。したがって、比較試験Bに従うマルチフィラメント糸を含む縫合糸は手術に使用するのに適していない。
【0050】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)のフィラメントを含む縫合糸であって、前記縫合糸が、
a)UHMwPE、紡糸溶媒、および顔料を含む混合物を提供するステップと、
b)前記混合物からゲル紡糸法によってマルチフィラメント糸を紡糸するステップと
を含む方法により得られるマルチフィラメント糸を含むことを特徴とする、縫合糸。
【請求項2】
前記UHMwPEの極限粘度(IV)が、少なくとも5dl/gであることを特徴とする、請求項1に記載の縫合糸。
【請求項3】
前記縫合糸の製造に用いられる最終フィラメント中における顔料の使用量が、0.1〜7.0重量%であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の縫合糸。
【請求項4】
顔料の使用量が、5.0重量%未満であることを特徴とする、請求項3に記載の縫合糸。
【請求項5】
顔料の使用量が、2.0重量%未満であることを特徴とする、請求項4に記載の縫合糸。
【請求項6】
使用される前記顔料が、無機顔料であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の縫合糸。
【請求項7】
前記顔料が、酸化クロムを含むことを特徴とする、請求項6に記載の縫合糸。
【請求項8】
前記顔料が、アルミニウム−クロム−コバルトオキシドを含むことを特徴とする、請求項7に記載の縫合糸。
【請求項9】
前記フィラメントが、残留量が800ppm未満である紡糸溶媒、好ましくは残留量が500ppm未満である紡糸溶媒、より好ましくは残留量が250ppm未満である紡糸溶媒、最も好ましくは残留量が100ppm未満である紡糸溶媒(残留量が80ppm未満である紡糸溶媒、残留量が60ppm未満である紡糸溶媒等)を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の縫合糸。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の縫合糸の、外科的手法における使用。

【公表番号】特表2010−527669(P2010−527669A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508747(P2010−508747)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004135
【国際公開番号】WO2008/141835
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】