説明

睡眠呼吸障害を処置するための装置のセッション毎の調整

連続的な処置セッション中に睡眠呼吸障害(SDB)を処置する装置を動作させるための方法であって、前記装置が睡眠中に持続的気道陽圧を供給する方法が開示されている。方法は、最初のセッション(20)中に一定の処置圧力を加えるステップと、最初のセッション中に起こったSDB症状の数を表わす睡眠障害指数(SDI)(22)を得るステップとを備える。SDIに基づいて処置圧力を増大すべきである場合には、その後の第2のセッション(24)中に処置圧力が増大される。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
[0001]本出願は、2004年2月11日に提出された米国仮出願第60/543,491号の利益を主張する。本発明は、睡眠呼吸障害(SDB)の処置のための装置に関する。より具体的には、本発明は、持続的気道陽圧の存在下でSDB事象を検出するとともに、検出されたSDB事象に応じて気道圧力に対する適切な調整を決定するための装置に関する。
【発明の背景】
【0002】
[0002]本発明は、部分的な、あるいは完全な上気道閉塞、すなわち、特に吸息によって生じる圧力低減下で上気道が潰れる状態の診断および処置に関する。これは、無意識、睡眠または麻酔中に起こる可能性が最も高い。
【0003】
[0003]本発明の特定の用途は、いびきおよび睡眠時無呼吸を診断および/または処置することである。睡眠時無呼吸は、睡眠中の上気道通路の完全な閉塞によって特徴付けられ、一方、いびきは、部分的な閉塞を特徴としている。閉塞型睡眠時無呼吸症候群の患者は、睡眠時間の全体にわたって自分の舌および軟口蓋で繰り返し窒息し、それにより、動脈血酸素レベルが低下するとともに、睡眠の質が悪くなる。以下の明細書は睡眠時無呼吸を詳細に説明しているが、本発明が他の形態の上気道障害の診断および処置に対しても適用できることは言うまでもない。
【0004】
[0004]持続的気道陽圧(CPAP)の印加は、閉塞型睡眠時無呼吸症候群の発生を処置する手段として使用されてきた。患者は、マウスマスクおよび鼻マスクにより、または鼻マスクだけにより、あるいは、鼻カニューレにより、陽圧供給源に対して接続される。患者により吸い込まれる供給空気は、常に、大気圧よりも僅かに大きい。例えば、治療圧力は、一般に4cmHO〜20cmHOの範囲内にある。持続的気道陽圧(CPAP)の印加が上気道を支持して安定させる「空気スプリント」として表わすことができるものを与え、それにより、上気道閉塞が発生しなくなることが分かってきた。持続的気道陽圧(CPAP)の印加は、いびきおよび閉塞型睡眠時無呼吸症候群の両方を排除する際に有効であり、多くの場合、中枢性無呼吸および混合無呼吸を処置する際に効果的である。
【0005】
[0005]効果的なCPAP治療のために必要な気道圧力は患者間で異なる。特定の個人にとって最も効果的な気道圧力を見出すために、実務において、患者は、病院、診療所または研究室などの適切な観察設備で2つの睡眠研究を受けてきた。最初の夜は、睡眠中の患者の観察に費やされるとともに、酸素飽和度、胸壁および腹部の動き、空気流量、吐き出されたCO、ECG、EEG、EMG、眼球運動などの選択されたパラメータの記録に費やされる。この情報を解明して、睡眠障害の性質を診断することができるとともに、無呼吸の存在または不存在を確かめることができ、また、存在する場合には、無呼吸症状の頻度および持続時間、並びに、関連する酸素飽和度の低下の度合いおよび持続時間を確認することができる。無呼吸は、閉塞性換気障害、中枢性無呼吸または混合性無呼吸として特定することができる。2番目の夜は、鼻CPAP治療を受ける患者に対して費やされる。無呼吸が観察されると、無呼吸を防止するためにCPAP設定が増大される。睡眠期間の最後における圧力設定、すなわち、使用される最大値は、その患者に適した設定になると考えられる。
【0006】
[0006]所定の健康状態にある所定の患者においては、閉塞を防止するために、様々な睡眠段階が異なる最小圧力を必要とする。また、これらの様々な圧力は、実際には、患者の健康状態、例えば鼻詰まり、一般的疲労、アルコール等の薬の効果、患者の睡眠姿勢に応じて日ごとに変化する。したがって、研究室で見つけられる適切な圧力は、必然的にその特定の夜における全てのこれらの最小圧力のうちの最大値であり、また、必ずしも全ての場合および全ての夜において理想的な圧力ではない。研究室で見つけられる適切な圧力は、一般に、殆どの夜にとって必要な圧力よりも高い。
【0007】
[0007]また、患者の一般的な身体的状態または健康状態が、睡眠専門クリニックにおけるそれと全く異なる場合があったり、また、日ごとに確実に変化する場合、患者は、適切な気道圧力を自宅で供給するためにCPAPシステムを操作できなければならない。患者の身体的状態は、多くの場合、CPAP治療に起因して改善する。そのような改善は、多くの場合、治療期間後に必要な気道圧力を特定量だけ減少させることができる一方で、閉塞型睡眠時無呼吸症候群の発生を防止できるケースである。
【0008】
[0008]CPAP治療の長期的な効果は知られておらず、そのため、特に患者が長期の処置を必要とする場合には、気道圧力をできる限り低く維持することが望ましい。また、気道圧力が低いと、それにより、フェースマスク圧力も低くなり、そのため、一般に、患者にとってより快適となる。CPAPが患者に飲み込むように促し、この飲み込みに対する誘因が気道圧力を下げることによって減少され得ることが分かってきた。したがって、患者の快適性および長期にわたる安全性を確保するため、CPAP治療中においては、気道閉塞を防止するのに有効な最も低い実行可能な気道圧力を使用することが望ましい。また、気道圧力を低くすると、エネルギ消費量が低くなるとともに複雑度も低下し、したがって、装置が安価になり、一般に、より静かになる。
【0009】
[0009]また、最初に気道圧力を低くして快適さを向上させると、患者が容易に眠り込むことができるため、各睡眠期間の初期段階前および初期段階中においては、低い気道圧力が望ましい。加圧空気が鼻を通じて導入されているためにCPAPを受けている患者が自分の口を開けてしまうと、加圧空気が口から出てしまい、不快感を引き起こす。これは、患者が眠り込む前に加圧供給源に接続されたマスクを装着しているときに起こる可能性があり、そのため、幾人かの患者は、できる限り長くマスクを外したままにし、実際にはマスクを装着しないで、したがってCPAP治療の利益を伴わないで眠り込む場合がある。
【0010】
[0010]CPAP治療を施すことに伴う問題に加えて、睡眠専門クリニック等で一晩中観察することによって生じる不都合および診断費用が存在する。そのため、患者の無呼吸問題を自宅で監視を伴うことなく診断できる簡単な手段が望ましいことは明らかであり、また、治療のほぼ全期間にわたって適切な最小圧力を連続的に供給するCPAP装置が望ましい。
【0011】
[0011]前述した睡眠専門クリニックでの診断は有益であるが、それには幾つかの欠陥がある。患者は、不慣れな環境で完全にリラックスした状態で眠れない可能性が高く、また、長期にわたって最適な圧力設定を得るには、一晩では不十分である。したがって、このようにして辿り着いた圧力設定での自宅治療は、ある場合には100%の効果を発揮できない可能性が高く、時間のかなりの部分にわたって効果が必要以上に高くなり易い。病院設定での睡眠研究の費用および不都合は、できることなら回避しなければならない。
【0012】
[0012]熟練した医師は、通常、患者を問診して検査することにより睡眠時無呼吸の症状を見分けることができる。他の指標が存在しない場合には、更なる検査が無くても、処置がフェイルセーフであり且つ非侵襲的であるため、鼻CPAP治療を試みる際の危険は殆どない。しかしながら、非常に有用な中間ステップは、眠りに付いた一晩または複数の晩全体にわたって呼吸波形(例えば、圧力、流量または音)のパターンを解析しなければならない。これらのパターンの解釈は、問診および検査と共に、多くの場合、鼻CPAP治療を処方するために無呼吸の十分な立証を与える。鼻CPAPが日中の眠気の症状(患者によって判断される)および無呼吸いびきパターンの症状(鼻CPAP治療中に記録された呼吸音の解析により判断される)を排除する場合には、処置を続けることができる。また、医師によって推奨される間隔で検査を行なうことができる。
【0013】
[0013]CPAP処置装置の最も一般的な形態において、装置がCPAP圧力増加を試みる前の中間ステップは、圧力センサや流量センサ等のセンサから得ることができる呼吸パラメータのパターンを解析することである。当業者であれば分かるように、これらのパラメータは、呼吸の音響的速度に加えて、吸気/呼気空気体積、吸気/呼気空気流量を含んでおり、また、医師が患者の状態を判断するための包括的な情報を与える。例えば圧力トランスデューサによって形成されるこの更なる情報は、更なるコストおよび複雑さをもって利用できる。気流に関連する同様の情報は、ブロワの速度を変えることにより圧力変化が引き起こされるシステムにおいてマスクに対して圧力を供給している機器のブロワの速度または機器のブロワに対して供給される電流から推定されてもよい。そのような実施例は、同一出願人による米国特許第5,740,795号、第6,332,463号、第6,237,593号に開示されており、その開示内容は参照することにより本願に組み込まれる。
【0014】
[0014]他のパラメータの測定値は、診断を助けるための更なる情報を与え、また、前述した音響および/または他の呼吸記録は、ECGおよび/またはパルス酸素測定などの他のモニタと併せて容易に使用することができる。これらの両方のパラメータを自宅で測定するために適当なモニタを利用できる。減少された酸素飽和度と無呼吸との間の相関関係は、無呼吸事象の確認から酸素飽和度を推論するように十分うまく確立される。
【0015】
[0015]これらのパラメータから決定される1つの指数は無呼吸・呼吸低下指数である。無呼吸・呼吸低下指数(“AHI”)は、患者の睡眠呼吸障害の重症度の指標である。AHIは、例えば睡眠専門クリニック研究中などの特定の期間にわたって患者が経験した無呼吸の総数と呼吸低下の総数とを加えることにより決定される。様々な形態のAHI指数は、当業者には既知である。
【0016】
[0016]しかしながら、自動装置において、高性能のセンサ、および、SDB事象を検出し且つ検出された事象に対する適切な応答を決定するための関連するアルゴリズムは、装置に対して所定レベルの複雑さを付加し、これによりコストが増大する場合があり、一部の患者にとっては非常に高価となる可能性がある。したがって、SDB事象に応じて治療圧力を正確に調整してSDB事象を軽減できるとともに、最小限のハードウェアを利用し且つハードウェアを制御するための最低限の方法論を利用する装置が必要である。
【発明の目的および概要】
【0017】
[0017]本発明の目的は、SDB事象を検出できるとともに、適切な圧力応答を自動的に且つ効率的に決定することができる装置を提供することである。
【0018】
[0018]本発明の目的は、加圧処置を最小限に抑えるが患者の処置に必要な最小レベルのサポートを行なう装置を提供することである。
【0019】
[0019]部品を最小限に抑えて、開発および製造を安価に且つ高い費用効率で行なえる装置の提供が更なる目的である。
【0020】
[0020]本発明は、SDB事象を検出するとともに、呼吸毎を基本としてではなく一晩毎を基本とするなどセッション毎をベースとして圧力を調整することによりそのような事象を防止するための装置である。装置では、最初のセッションにおいて、所定レベルの処置圧力を与えながら、SDB事象の重症度の指標が検出される。例えば、最初のセッションにおいて、装置は、無呼吸および呼吸低下の総数を検出して記録する。そのような事象の検出により、そのセッション中に処置圧力が変わらないことが好ましい。その後のセッションにおいては、装置が前のセッション中に学習したことに基づいて、処置圧力が調整される。したがって、現在のセッションにおいては、前のセッションからの履歴的なSDB指数が閾値と比較され、履歴的な指数に基づいて処置圧力が調整される。すなわち、その後のセッションにおける圧力変化は、履歴的なSDB指標の性質に基づいて増加され、あるいは減少されてもよい。例えば、前の夜のAHIが8という閾値よりも大きい場合には、新たなセッション中にわたって使用するために圧力が自動的に増大される。圧力が8未満の場合には、圧力が減少されてもよく、あるいは、圧力が同じままであってもよい。一実施形態においては、現在のセッションにおける圧力設定を自動的に決定するため、連続する夜などの幾つかの前のセッションにわたる変化のパターンが解析されてもよい。例えば、2つの連続する夜にわたってAHIが0の場合、次の夜の処置のため、あるいは当該処置において圧力が減少されてもよい。
【0021】
[0021]本発明の好ましい実施形態においては、AHI指数が流量信号から決定され、前記流量信号は、差圧トランスデューサ型流量センサを使用することなくブロワの速度またはブロワに対する電流から計算されることが好ましい。同様に、マスク内の圧力の設定においては圧力センサが使用されないことが好ましい。そのような構成は、前述した目的を満たすのに役立つ。ここで、本発明の更なる態様について詳細に説明する。
【0022】
[0022]列挙した目的を満たすため、添付図面を参照しながら本発明の説明を行なう。これらの添付図面は、本発明の典型的な実施形態を示すが、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【発明の説明】
【0023】
[0027]図1を参照すると、呼吸気流計および差圧トランスデューサまたは同様の装置を用いて流量センサ4fおよび/または圧力センサ4pによりマスク流量が測定される。流量信号F(t)が得られ、マスク圧力は、圧力信号Pmask(t)を得るために圧力トランスデューサを使用して圧力タップで測定される。圧力センサ4pおよび流量センサ4fは、図1では単に象徴的にのみ示されている。これは、当業者であれば流量および圧力の測定方法を理解できるからである。流量F(t)信号および圧力Pmask(t)信号はコントローラまたはマイクロプロセッサ6に対して送られ、その後、コントローラ6はブロワの調整方法を決定する。あるいは、米国特許第5,740,795号、第6,332,463号または第6,237,593号に開示されるように、前述した流量センサや圧力センサを設けることなく、モータに対して供給される電力および/またはモータの速度を監視することにより、流量信号f(t)および圧力信号Pmask(t)がブロワモータに関して評価され、あるいは計算されることが好ましい。
【0024】
[0028]コントローラ6は、本明細書で詳細に説明する方法論を実行するように構成されて適合されており、また、集積チップ、メモリおよび/または他の命令またはデータ記憶媒体を含んでいてもよい。例えば、制御方法を伴うプログラム命令が、装置(例えばファームウェア)のメモリ中の集積チップにコード化され、あるいは、ソフトウェアとしてロードされてもよい。
【0025】
[0029]圧力供給装置は、インペラであることが好ましいブロワ8を含んでいる。インペラ8は、サーボ10によって制御され、吸気口12を通じて外気を受けるとともに、空気供給管路16と排気穴20を一体に有するマスク18とによって形成される排気口14を通じて加圧空気を供給する。インペラ、モータ、コントローラアセンブリは、ブロワアセンブリを形成するとともに、ブロワハウジング22内に配置されている。ブロワハウジングには様々なスイッチ24およびディスプレイ26が設けられている。特に流量10、いびき28、モータ速度30、モータ電流32を監視するため、ブロワ内には多数のセンサが設けられている。技術的に周知の様々なデバイスがこれらのタイプのセンサとしての機能を果たすことができる。通信インタフェース34は、コンピュータやコントローラ等の外部装置と機器との間でデータを転送することができる。
【0026】
[0030]好ましくは、装置は、任意の所定の処置セッション中に略一定の治療レベルの持続的気道陽圧(CPAP)を供給する。しかしながら、本明細書で説明する本発明の制御原理にしたがって、2レベルCPAP処置や、患者と同期する自然な圧力変化の他の変形などの、他のタイプの加圧処置が機器内で実施されてもよい。
【0027】
A.履歴的なAHI決定に基づく圧力調整の制御
[0031]図2に示されるように、加圧処置機器は、履歴的なAHI決定に基づいて制御を実行する。ステップ20に示されるように、第1の処置セッション中に患者に対して気道加圧処置が行なわれる。そのようなセッションにおいて、履歴的なAHIが無い場合、加圧処置レベルは、デフォルト低レベルまたは最小レベル、あるいは、医師または臨床医により処方されるレベルに設定される。現在のセッション中にSDB事象の現在の検出に応じて治療のレベルを変えるためには、処置圧力の調整が行なわれないことが好ましい。処置セッション中に、ステップ22では、睡眠呼吸障害事象が検出され、これらの事象の指数が決定される。好ましくは、無呼吸事象および呼吸低下事象が検出され、そのような検出事象の数だけ、現在のセッションのために初期化されるAHIがインクリメントされる。ステップ24においては、機器を用いて新たな、あるいはその後の処置セッションが開始される。このその後のセッションにおいて、処置の治療レベルは、前の処置セッションで決定されたSDB事象関連指数に応じて自動的に設定される。
【0028】
[0032]本発明の好ましい実施形態では、前述した処置セッションのそれぞれが、装置を用いた異なる夜間の処置である。したがって、AHIは、一晩中にわたって処置機器の使用中に記録されてもよく、また、セッションの終わりに保存されてもよい。この保存されたAHIは、その後、次の晩などの装置の次の使用時に処置圧力を設定するために利用されてもよい。そのようなセッションを区別するため、装置は、電源切断時にAHIを記憶するように構成されてもよい。その後、装置は、前に記録されたAHIが存在する場合には、そのAHIを、装置の電源が投入された後で且つ処置が開始される前の処置圧力設定時に利用する。あるいは、前に記録されたセッションからのAHIの使用を確保するための他の方式が実施されてもよい。代替の一方式では、全てのセッションからの全ての決定されたAHIの日付および/または時間が記録されて記憶される。その後の使用中に、最新のAHIのチェックが行なわれる。同様に、これは、内部クロックに対してAHIの日付をチェックして、処置圧力設定時に前の日のAHIの使用を許容することにより行なわれてもよい。
【0029】
[0033]現在のAHI決定に基づいて、あるいは、SDB関連事象の検出に基づいて、現在のセッションにおいて更なる加圧処置調整が行なわれてもよいが、そのような調整はその後のセッションまで行なわれないことが好ましい。同様に、治療レベルに達する前に患者が寝入ることができるように装置により圧力を低圧から設定治療処置圧力まで徐々に増大させてもよい。
【0030】
B.最初のセッションにおける無呼吸・呼吸低下指数(AHI)の決定
[0034]前述したように、加圧処置装置は、無呼吸・呼吸低下指数を決定することにより、無呼吸および呼吸低下を含む睡眠呼吸障害事象を検出することが好ましい。場合によって、他のSDB関連指数、例えば無呼吸指数、呼吸低下指数または何らかの他のSDB関連指数が使用されてもよい。好ましい決定方式が図3のフローチャートに示されている。装置を用いた処置セッションの初めに、ステップ30において、現在のSDB指数またはAHIがリセットされ、あるいは初期化される。ステップ32では、加圧処置を与えている最中に、流量が連続的に測定され、あるいは決定される。ステップ34では、(差圧トランスデューサから得られ、あるいはブロワ速度またはブロワモータに対する電力から得られる)流量情報または流量信号を用いて、換気量の測定値(例えば、所定の時間にわたって決定される平均流量)が計算される。
【0031】
[0035]これらの換気量測定値は短期測定値および長期測定値を含んでいることが好ましい。一実施形態において、適当な最近の換気量測定値または短期平均値は、呼吸の持続時間に対して短い例えば約2〜8秒の時定数を有するローパスフィルタを利用してローパスフィルタ処理された流量信号であってもよい。適当な長期換気量または長期平均流量測定値は、呼吸の持続時間に対して長い例えば約110秒の時定数を有するローパスフィルタを利用してローパスフィルタ処理された流量信号であってもよい。
【0032】
[0036]短期測定値と長期測定値とを含むこれらの換気量測定値は、より最近の平均測定値を長期平均値と比較するためのものである。そのような比較の結果から、ステップ36Aおよび/またはステップ36Bのそれぞれにおいて、無呼吸または呼吸低下のいずれかが検出されてもよい。例えば、呼吸低下の検出時に、短期平均測定値が長期平均値を下回って、短期平均測定値が長期平均値の50%未満となる場合には、呼吸低下が記録され、あるいは検出されてもよい。同様に、短期平均値が長期平均値を下回って、短期平均値が長期平均値の20%未満となる場合には、無呼吸が記録され、あるいは検出されてもよい。
【0033】
[0037]本発明の一実施形態では、以下のようにAHI記録方式が実施されてもよい。
i.2秒移動平均換気量が少なくとも10秒間連続して最近の平均換気量(時定数=100s)の25%を下回る場合には、無呼吸が記録される。
ii.8秒移動平均値が10秒間連続して最近の平均換気量の50%を下回るが25%を超えて下回らない場合には、呼吸低下が記録される。
【0034】
[0038]当業者であれば、呼吸低下または無呼吸を検出し且つ患者のSDB症状の重症度を示すAHI指数またはSDB指数を決定するための他の方法または変形を認識できる。
【0035】
[0039]無呼吸事象または呼吸低下事象のいずれかを検出した後、ステップ37においてAHIがインクリメントされてもよい。AHIをインクリメントした後、ステップ38において、システムは、セッションが終了したかどうかを決定する。この時点で、ステップ39において、システムの処理が終了する。セッションが係属している場合には、システムは、ステップ32に戻って繰り返し、無呼吸事象および呼吸低下事象を検出し且つAHIをインクリメントし続ける。
【0036】
[0040]所定のセッションにおけるこれらの検出された無呼吸および呼吸低下の全ては、その後のセッションにおける処置圧力の調整で使用されるAHIを形成する。AHIは、一晩中に及ぶ処置期間にわたって患者が経験した無呼吸および呼吸低下の総数を加えることによって決定されることが好ましい。場合によって、AHIは、時間の関数、例えば、所定期間の睡眠または一晩の睡眠などの装置を用いた任意の所定の処置セッションにおける総使用時間にわたって決定された平均時間当たりのAHIなどであってもよい。
【0037】
C.その後のセッションにおけるAHIに応じた処置圧力の調整
[0041]前述したように、処置のその後のセッションまたはその後の夜の処置においては、処置の前のセッションまたは前の夜において決定されたAHIに基づいて、処置圧力の治療レベルの自動調整が行なわれ、あるいは実施されるだけであることが好ましい。すなわち、自動による動的な圧力変更は、呼吸毎に行われるのではなく、一晩を区切りとして行なわれる。したがって、装置は、その後のセッションにおいて処置圧力を調整するためのアルゴリズムを実行する。例えば、図4に示されるように、ステップ40において新たな処置セッションを開始した後あるいは処置セッションに入った後、装置は、評価ステップ42において、前に記録されたAHIを評価してもよい。前のセッションからの検出されたAHIに基づいて、新たな処置圧力が設定される。場合によって、最初の使用または最初のセッションにおいては、処置圧力の変更が最初のセッションにおいて実施されないように、AHIが0のデフォルトを有していてもよい。同様に、最初の使用のためのデフォルト圧力設定は、低い非治療的な値(例えば約1〜3cmHO)であってもよく、あるいは、約4〜20cmHOの治療範囲で医師または臨床医が設定した何らかの他の値であってもよい。
【0038】
[0042]ステップ42において履歴的なAHIを評価する際に、前のセッションにより無呼吸または呼吸低下が検出されない場合、あるいは僅かしか検出されない場合(例えば、AHI=0または8未満)には、圧力の変更が行なわれず、処置圧力設定が前のセッションのままに保たれる。あるいは、SDBを防止するために必要な最小圧力を決定するため、前のセッションからのAHIが0または8未満である場合、装置は、新たなセッションにおいて圧力を下げてもよい。圧力を下げる際、装置は、所定量(例えば0.25cmHO)だけ圧力をデクリメントしてもよい。前記所定量は、圧力増大よりも低いことが好ましいが、同じであっても構わない。したがって、ステップ44において処置圧力を設定する際、現在の設定のための新たな圧力は、所定のデクリメント量を下回る前のセッションからの圧力となる。
【0039】
[0043]しかしながら、前のセッションからのAHIが0よりも大きい場合または何らかの低い非調整範囲(例えば1〜8個の事象)よりも大きい場合には、処置圧力が自動的に上側にインクリメントされる。これは、そのようなAHIスコアが処置における増大の必要性の表示だからである。したがって、前の夜からの高いAHIに基づいて、処置圧力を特定の増分(インクリメント)だけ増大させることができる。処置圧力の増大は、その後の夜においてAHIを臨床的に望ましいレベルに向かって減少させる目的をもって行なわれる。理想的な処置圧力は、AHIを臨床的に望ましいレベルまで減少させるが、この程度までは不必要な不快感を引き起こす最小所要圧力を超えない。そのため、圧力増加の増分量は、認識されたAHIの臨床的重症度に応じて変化してもよい。例えば、増分圧力増加の選択は、患者が比較的低いAHIを有している場合には比較的小さいインクリメント(増分)が臨床的に重大な変化を引き起こし(例えば、5〜19の範囲のAHIにおいては、0.5cmHOの圧力増分)、一方、患者が比較的高いAHIを有している場合には臨床的に重大な変化を引き起こすために比較的大きいインクリメント(増分)が適している(例えば、40以上のAHIにおいては、2cmHOの圧力増分)という臨床的な観察結果を反映してもよい。
【0040】
[0044]図4を参照すると、ステップ44における処置圧力設定では、新たなセッションにおいて、処置圧力が、前のセッションの圧力設定+インクリメント(増分)となるように自動的に設定される。その後、ステップ46において現在のセッション中に処置圧力が供給された後、ステップ48において、システムは、ステップ30(図3)に戻って繰り返し、新たなAHIを決定するプロセスを開始する。新たなAHIは、次のセッションまたは次の夜の処置あるいは今後のセッションのための処置圧力に影響を与える。そのような方式によれば、装置は、患者のニーズと共に発達しながら、無制限の数の夜にわたってそれ自体を調整することができる。
【0041】
[0045]一実施形態において、圧力を調整する他の方式は、一晩よりも長い期間、例えば2晩以上にわたるAHIのパターンに基づいていてもよい。例えば、2つ以上の連続するセッションにわたってAHIが0となっていた場合に圧力が下げられてもよい。同様に、複数の連続する夜、例えば2晩または3晩にわたってAHIが増大の必要性を示している場合に限り圧力が増大されてもよい。経時的な任意の圧力減少は、経時的な圧力増大よりも遅いことが好ましい。
【0042】
[0046]場合によって、装置は、前の夜のAHI決定に基づいて装置が自動的に実施できる処置圧力の変更を制限する適応範囲をもって構成されていてもよい。この適応範囲は、医師によって決定される予め設定された変数であってもよく、また、ユーザまたは患者に対する多くの処置セッション中に変更されないことが好ましい。デフォルト範囲は、医師によるそのような設定が無い場合には、装置に設定されていてもよい。例えば、医師は、適応範囲を予め10cmHOの値に設定してもよい。圧力変更が装置によって実施される場合、装置によって試みられる任意のインクリメント(増分)が医師の当初の圧力設定を範囲の量だけ決して超えないことを確認するために範囲がチェックされる。したがって、患者に対する最初のセッションにおいて圧力が5cmHOに設定され且つ適応範囲が10cmHOに設定される場合、15cmHOを超えて処置圧力をインクリメントしようとする任意の自動処置圧力変更は防止される。また、装置は、試みられた増大が適応範囲を超えていることを患者または医師に報知するために、任意の警告インジケータをもって構成されてもよい。
【0043】
[0047]前述の処置方式を実施する装置は、SDB患者にとって多くの利点がある。例えば、前述したアルゴリズムを利用すると、より複雑な検出・調整方式と比べた場合、費用効率が更に高くなる。また、装置は、一晩毎をベースに調整できるため、患者の状態に影響を及ぼす場合がある季節の変動に適合させることもできる。また、装置は、患者の病気の進行に適合させることもできる。
【0044】
[0048]本発明は、その思想または本質的特徴から逸脱することなく他の特定の形式で具現化されてもよい。前述した実施形態は、あらゆる点で、単なる例示であり限定的なものではないと見なされなければならない。したがって、本発明の範囲は、先の説明によって表わされるのではなく、添付の請求項およびこれらの請求項の全体的または部分的な組みあわせによって表わされる。請求項の意味および等価物の範囲内に入る全ての変更は、請求項の範囲内に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の方法を実施するのに適した加圧処置機器の一実施形態の構造を示している。
【図2】以前の処置セッションから得られた無呼吸・呼吸低下(AHI)指数に基づいて処置セッション中に圧力調整を行なうための加圧処置機器の制御方法のステップのフローチャートである。
【図3】処置セッション中にAHIを決定するための加圧処置機器の制御方法のステップの更に詳細なフローチャートである。
【図4】以前の処置セッション中に得られたAHIに基づくその後のセッションにおける処置圧力調整の制御方法のステップの更に詳細なフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的な処置セッション中に睡眠呼吸障害(SDB)を処置するための装置を動作させる方法であり、前記装置が睡眠中に持続的気道陽圧を供給する方法であって、
最初のセッション中に一定の処置圧力を加えるステップと、
前記最初のセッション中に起こったSDB症状の数を表わす睡眠障害指数(SDI)を得るステップと、
得られたSDIに基づいて、前記処置圧力を増大すべきかどうかを決定するステップと、
前記処置圧力を増大すべきであることが前記最初のセッション中に決定された場合には、その後の第2のセッション中に前記処置圧力を増大させるステップと、
を備える方法。
【請求項2】
前記SDIが、前記最初のセッション中の無呼吸事象および呼吸低下事象の数を表わす無呼吸・呼吸低下指数(AHI)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最小期間にわたって換気量の短期移動平均値が長期平均値の選択された割合を下回るときにAHI事象が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
最小期間にわたって前記短期平均値が前記長期平均値の第1の割合と第2の割合との間に降下するときに呼吸低下事象が決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記無呼吸・呼吸低下指数(AHI)が最小数値未満の場合に、前記処置圧力がその後のセッションにおいて下げられる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
連続的なセッションにわたる処置圧力の増加率が、連続的なセッションにわたる前記処置圧力の減少率よりも大きい、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記無呼吸・呼吸低下指数(AHI)が最小数値よりも大きい場合に、前記処置圧力がその後のセッションにおいて増大される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記処置圧力が、得られた無呼吸・呼吸低下指数(AHI)の大きさの関数である量だけ、その後のセッションにおいて増大される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記無呼吸・呼吸低下指数(AHI)が最小数値よりも大きく且つ前記処置圧力が最大値未満の場合に限って前記処置圧力が増大される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
最小期間にわたって換気量の短期移動平均値が長期平均値の選択された割合を下回るときにSDI事象が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記SDIが最小数値未満の場合に、前記処置圧力がその後のセッションにおいて下げられる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
連続的なセッションにわたる処置圧力の増加率が、連続的なセッションにわたる前記処置圧力の減少率よりも大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記SDIが最小数値よりも大きい場合に、前記処置圧力がその後のセッションにおいて増大される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記処置圧力が、得られたSDIの大きさの関数である量だけ、その後のセッションにおいて増大される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記SDIが最小数値よりも大きく且つ前記処置圧力が最大値未満の場合に限って前記処置圧力が増大される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
連続的な処置セッション中に睡眠呼吸障害(SDB)を処置するためのシステムであり、睡眠中に持続的気道陽圧を供給するシステムであって、
ブロワおよびブロワコントローラと、
前記ブロワと患者との間で加圧空気を伝えるためのマスクと、
圧力および流量を示す信号を前記コントローラへ通信するためのセンサと、
を備え、
前記コントローラが、
最初のセッション中に加えられる一定の処置圧力を制御し、
前記最初のセッション中に起こったSDB症状の数を表わす睡眠障害指数(SDI)を取得し、
前記得られたSDIに基づいて、前記処置圧力の増大が必要とされるかどうかを決定し、
前記増大の必要性が決定された場合には、その後の第2のセッション中に前記処置圧力の増大を制御する、
システム。
【請求項17】
前記SDIが、前記最初のセッション中に起こった無呼吸事象および呼吸低下事象の数を表わす無呼吸・呼吸低下指数(AHI)である、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記コントローラが、最小期間にわたって換気量の短期移動平均値が換気量の長期移動平均値を下回るときに無呼吸事象を決定する、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記コントローラが、最小期間にわたって前記短期平均値が前記長期平均値の第1の割合と第2の割合との間に降下するときに呼吸低下事象を決定する、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記無呼吸・呼吸低下指数(AHI)が最小数値未満であることを前記コントローラが決定する場合に、前記処置圧力がその後のセッションにおいて下げられる、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
連続的なセッションにおける処置圧力の増加率が、連続的なセッションにおける前記処置圧力の減少率よりも大きい、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記無呼吸・呼吸低下指数(AHI)が最小数値未満であった場合に、前記コントローラが、前記その後のセッションにおいて前記処置圧力を維持する、請求項17に記載のシステム。
【請求項23】
前記無呼吸・呼吸低下指数(AHI)が最小数値よりも大きかった場合に、前記コントローラが、前記その後のセッションにおいて前記処置圧力を増大させる、請求項17に記載のシステム。
【請求項24】
前記コントローラが、前記得られた無呼吸・呼吸低下指数(AHI)の大きさの関数である量だけ、前記処置圧力をその後のセッションにおいて増大させる、請求項17に記載のシステム。
【請求項25】
前記無呼吸・呼吸低下指数(AHI)が最小数値よりも大きく且つ前記処置圧力が最大値未満であった場合に限って前記コントローラが前記処置圧力を増大させる、請求項17に記載のシステム。
【請求項26】
前記コントローラが、最小期間にわたって換気量の短期移動平均値が換気量の長期移動平均値を下回るときにSDI事象を決定する、請求項16に記載のシステム。
【請求項27】
前記SDIが最小数値未満であることを前記コントローラが決定する場合に、前記処置圧力が前記その後のセッションにおいて下げられる、請求項16に記載のシステム。
【請求項28】
連続的なセッションにおける処置圧力の増加率が、連続的なセッションにおける前記処置圧力の減少率よりも大きい、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記SDIが最小数値未満の場合に、前記コントローラが、前記その後のセッションにおいて前記処置圧力を維持する、請求項16に記載のシステム。
【請求項30】
前記SDIが最小数値よりも大きかった場合に、前記コントローラが、前記その後のセッションにおいて前記処置圧力を増大させる、請求項16に記載のシステム。
【請求項31】
前記コントローラが、前記得られたSDIの大きさの関数である量だけ、前記処置圧力を前記その後のセッションにおいて増大させる、請求項16に記載のシステム。
【請求項32】
前記SDIが最小数値よりも大きく且つ前記処置圧力が最大値未満であって場合に限って前記コントローラが前記処置圧力を増大させる、請求項16に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−521889(P2007−521889A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552422(P2006−552422)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000174
【国際公開番号】WO2005/077447
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(500046450)レスメド リミテッド (192)