説明

睡眠改善用組成物

【課題】自然な睡眠で、かつ、質の良い深い眠りを誘導し、安全性の高い睡眠改善剤を提供する。
【解決手段】納豆菌などバシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物を有効成分とする睡眠改善組成物。また、1日の摂取量あたり、前記微生物の菌体破砕物を2.5〜100000mgの範囲で含有する前記記載の睡眠改善組成物。ストレスのために睡眠状態が悪くなっているヒトの睡眠状態を改善するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は睡眠改善用組成物に関するものであり、詳しくは、微生物の菌体破砕物を有効成分とする安全性の高い睡眠改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠はヒトなどの高等動物にとって重要な生理機能のひとつであるが、ヒトの中には充分な睡眠がとれず、いわゆる不眠症などの睡眠障害に悩まされることが知られている。特に、近年の傾向として、各種ストレスの増加や、生活の夜型化が原因で、睡眠に対する満足度が減少し、5人に1人が睡眠に対して、何らかの不満を持っており、今後も増加傾向にあると言われている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
近年、睡眠障害の対応と治療ガイドラインとして、12の指針が示されたが(例えば、非特許文献3参照)、生活改善に関する内容がほとんどであり、多忙な生活を余儀なくされている現代社会では、非常に実施困難な内容であると考えられる。その指針の中で、ベンゾジアゼピン系、バルビルレート系を含む睡眠薬の利用も提言されているが、これらの薬物は、医師の処方が必要であるという手間と、持ち越し効果や記憶障害、反跳性不眠、薬物の依存性などの副作用が見られることがあり、安全性についても問題があった。さらに、ベンゾジアゼピン系睡眠薬では、ベンゾジアゼピン速波と呼ばれる自然な睡眠では見られない脳波が出現することからも、睡眠薬で誘発された睡眠は、自然な睡眠とは言いがたかった。
【0004】
また、睡眠に関するアンケート(例えば、非特許文献4参照)で、日本においては特に、睡眠薬の使用意向が非常に低いことと、手軽に入手できるアルコールで睡眠に対処する人が非常に多いことが報告されている。
しかしながら、アルコールにより誘発された睡眠は、非常に浅い睡眠であり、中途覚醒や早朝覚醒が引き起こされるため、質の良い睡眠をとったとは言いがたかった。
上記理由より、特にストレスなどにより悪化した睡眠状態を、安全、且つ手軽に改善し、自然な眠りを誘導できる食品などが求められていた。
【0005】
現在までに、安全性の高い植物由来の睡眠作用成分を配合した睡眠導入剤がいくつか提案されている。例えば、ビャクダン精油を有効成分として含有する経口睡眠剤(例えば、特許文献1参照)、植物由来の各種精油成分を用いた睡眠導入精油組成物(例えば、特許文献2参照)、バレリアーナ属植物抽出物を含む睡眠障害用組成物(例えば、特許文献3参照)などが知られている。さらに、伝統的にハーブ類などはハーブ茶として飲用に用いられており、鎮静、不眠改善に効果があるとして知られている。
【0006】
しかしながら、これまでに提案されてきた睡眠改善剤は、入眠を誘導する効果はあるものの、睡眠の質を向上させる効果は低く、質の良い眠りを得るという点においては、必ずしも十分と言えるものではなかった。つまり、安全性が高く、質の良い眠りをもたらす睡眠改善剤として十分に満足のいくものは未だ提案されておらず、安全性が高く睡眠の質を向上させる効果の高い睡眠改善剤の開発が望まれていた。
【0007】
【非特許文献1】平成8年健康づくりに関する意識調査、財団法人健康体力づくり事業財団、1997年
【非特許文献2】平成12年度保健福祉動向調査、構成労働省、2001年
【非特許文献3】睡眠障害の対応と治療ガイドライン、じほう社、2002年
【非特許文献4】睡眠に関するアンケート、サノフィサンテラボ社、2002年
【特許文献1】特開平10−25245号公報
【特許文献2】特開2000−355545号公報
【特許文献3】特開2003−183174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、これまでに提案されてきた睡眠改善剤は、安全性および睡眠の質を向上させる効果の点において、必ずしも十分と言えるものではなかった。
そこで、本発明では、自然な睡眠で、かつ質の良い深い眠りを誘導することができ、しかも安全性の高い睡眠改善用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究重ねた結果、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物に強い睡眠改善効果を見出した。
すなわち、ストレスにより睡眠の質が悪化したヒトをモデル化した動物実験系を用いて、様々な睡眠改善物質をスクリーニングしたところ、納豆菌体の破砕物に睡眠時のデルタ波を増加させる作用があることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、請求項1に係る発明は、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物を有効成分とする睡眠改善用組成物を提供するものである。
請求項2に係る発明は、前記微生物が納豆菌であることを特徴とする請求項1に記載の睡眠改善用組成物を提供するものである。
請求項3に係る発明は、ストレスのために睡眠状態が悪くなっているヒトの睡眠状態を改善するために用いられる、請求項1又は2に記載の睡眠改善用組成物を提供するものである。
請求項4に係る発明は、1日の摂取量あたり、前記微生物の菌体破砕物を2.5〜100000mgの範囲で含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の睡眠改善用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の睡眠改善用組成物によって、ヒトやその他の動物に、質の良い眠りをもたらすことが可能となる。特に、本発明はストレスによって睡眠状態が悪くなっているヒトの睡眠状態を改善するのに好適に用いることができる。
また、本発明は、古来より食経験のある納豆菌の属している種、すなわちバシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物を利用するものであるため、安全性が高く、安心して摂取することのできる睡眠改善用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、請求項1に係る本発明は、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物を有効成分とする睡眠改善用組成物である。
【0013】
本発明で用いる、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物は、一般的に入手できるものでよく、例えば、納豆菌、枯草菌などが利用できる。
特に、請求項2に記載のように、古来より食経験の豊富な納豆菌が最も安全性において好ましい。納豆菌としては特に限定はないが、市販の納豆に使用されているものなど、例えば、宮城野菌、成瀬菌、旭川菌、高橋菌などを利用することができる。
【0014】
本発明者らは、前記バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破壊物を摂取することにより、質の良い睡眠の指標の一つであるデルタ波を増加させることを見出した。
【0015】
デルタ波とは、深い睡眠である非急速眼球運動睡眠相(ノンレム(NREM)睡眠)中に頻繁に現れる振幅の大きい脳波で、このデルタ波を増加すると睡眠の質が向上されるとして報告されている脳波である(例えば、Psychopharmacology, 130, p.285-291 (1997)、J Pharmacol Exp Ther, 299, p.1095-1105 (2001)、参照)。
睡眠のパターンは、ヒトにおいても、動物実験の際に頻繁に使われるげっ歯類のラットにおいても、脳波(EEG)を測定することにより分析することができ、何れも脳波は周波数に基づいて分類される。すなわち、0.5〜4Hzはデルタ波、4〜8Hzはシータ波、8〜13Hzはアルファ波、13Hz以上がベータ波である。睡眠の中でもノンレム睡眠(非急速眼球運動睡眠相、以下、NREM睡眠という。)という深い睡眠時に頻繁に出現するのが、デルタ波である。NREM睡眠時は眠りが深くなるにつれ、高振幅低周波、すなわちデルタ波の成分が多くなる。
【0016】
睡眠の質を向上させるためには、単に睡眠時間を長くするだけではなく、深い睡眠を取得することが重要である。
本発明が奏する「睡眠改善」効果とは、睡眠時のデルタ波を増加させることで深い眠り(質の良い眠り)を得ることができるようになる、ということである。
さらに、本発明が奏する睡眠改善効果により、熟睡感が増し睡眠中の覚醒が起こりにくくなり、目覚めの状態が良くなるという実感を得ることが期待できる。
【0017】
なお、ヒトおよびラットにおける睡眠機構には、顕著な類似性が知られている。
例えば、GABAAレセプターのアゴニストであるmuscimolやTHIPの摂取により、ヒトにおいても、ラットにおいても、NREM睡眠時のデルタ波の強度が上昇することが報告されている(例えば、Psychopharmacology(Berl).1997 Apr;130(3):285-91.参照)。
このようなヒトおよびラットの間での睡眠機構の高い類似性の点から、ラットを用いた実験結果をヒトに応用することが可能と考えられる。
【0018】
本発明の睡眠改善用組成物の有効成分である「バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物」とは、細胞壁が破壊した菌体はもちろんのこと、微生物の細胞壁を破壊して細胞質を抽出したものから菌体を取り除いた物をも含む。
【0019】
なお、特開2006−160697号公報には、酪酸菌、納豆菌、有胞子性乳酸菌などのプロバイオティクスを用いる睡眠健康改善剤が紹介されているが、これは上記の微生物を生きた菌として腸内フローラに到達させ、整腸作用に作用した結果として、安眠効果をもたらすものである。
これに対して、本発明の睡眠改善用組成物は、前記バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物(すなわち、生きた菌ではなく死んだ状態の菌)を有効成分として摂取することにより、含有される有効成分物質が具備する生理的な機能によって、質の高い睡眠効果をもたらすものである。従って、上記公開公報記載の発明とは、発明構成およびそれにより奏される効果も全く異なる発明であると言える。
【0020】
本発明における菌体破砕方法としては、菌体の細胞壁を破壊できる方法であれば特に限定はない。例えば、高圧ホモジェナイザー、フレンチプレス、ブレンダーミル、超音波破砕機、オートクレーブによる加熱、凍結融解、ガンマ線処理、リゾチウムなどの酵素処理、有機溶媒・界面活性剤・酸処理などを用いた化学的処理(薬剤処理)などを用いることができる。特に、破砕させる菌体を水に懸濁後、フレンチプレスで2回処理する方法は、菌体成分の変性を起こしにくいため好ましい。
【0021】
本発明の睡眠改善用組成物は、前記バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物1種類のみを含んでいても、或いは2種類を含んでいてもよい。
本発明の睡眠改善用組成物を提供する形態としては、前記バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物を経口で摂取できる形態であれば特に限定されず、例えば従来から用いられてきた医薬品補助剤等を配合して製剤化したものでもよく、また、食品に配合したものでも良い。また、液体状、固形状などの形状を限定しない。
製剤としては、錠剤、液剤、カプセル剤など形態を問わず、また製剤化に際して、賦形剤、安定剤など常用の添加剤を配合することができる。
また、機能性食品、健康食品、スナック食品等の飲食品とすることもできる。飲食品としては、例えばクッキー状、フレーク状、ウェハー状、錠剤、顆粒剤などの形態が挙げられ、スナック菓子、調味料、飲料などとして用いることができる。
なお、本発明における睡眠改善用組成物とは、睡眠改善効果として謳う商品はもちろんのこと、直接は睡眠改善効果を謳わない場合でも睡眠改善効果を実質的に発揮している商品も含むものである。
【0022】
本発明における睡眠改善用組成物は、請求項3に記載したように、ストレスのために睡眠状態が悪くなっているヒトの睡眠状態を改善するためにも好適に用いることができる。すなわち、本発明における睡眠改善剤を摂取することにより、「ストレスのために睡眠状態が悪くなっているヒト」の睡眠状態を、質の良い深い眠りに改善することができる。
【0023】
また、本発明における睡眠改善用組成物の効果を十分に発揮するためには、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物を、ヒト一人あたり2.5〜100000mg/日を摂取できる形態であることが好ましいが、より好ましくは25〜10000mg/日、さらに好ましくは250〜1000mg/日を摂取できる形態であることが望ましい。
すなわち、請求項4に係る本発明は、1日の摂取量あたり、前記微生物の菌体破砕物を2.5〜100000mgの範囲で含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の睡眠改善用組成物である。
【0024】
本発明における睡眠改善用組成物は、摂取回数や摂取時刻に特に限定はなく、例えば、1日分を就寝1時間前と就寝直前に分けて摂取してもよいし、就寝直前に一度に摂取してもよい。また、1個の睡眠改善用組成物で一日分の菌体破砕物を含有していなくとも、それを複数摂取することで、一日分の菌体破砕物を摂取できるような形態であっても構わない。
特に、摂取の容易さや効果の発揮しやすさから、一日分の菌体破砕物を1〜数個の睡眠改善用組成物に含有させて、それを就寝前の1時間以内に1度に摂取することが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0026】
実施例1(納豆菌体破砕物の睡眠改善効果および納豆菌生菌との比較)
(1)納豆菌体破砕物の調製
肉エキス培地(狂牛病フリー肉エキス、塩、ポリペプトン)を用い、納豆菌体 Bacillus subtilis OUV23481株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター FERM BP-6659)を37度で5時間、回転数120rpmの条件で培養し、遠心分離後、蒸留水で洗浄した。その後、湿菌体を凍結乾燥させた。納豆菌体の破砕は、この凍結乾燥物を適量の水に懸濁し、菌体の懸濁液、破砕液両方を冷却しながら、圧力が7252〜20000psiかかるように設定したフレンチプレスで2回処理し破砕した。
一方、本実施例の比較対照として用いる納豆菌体の未破砕物(納豆菌体生菌を含む)は、上記の破砕処理は行わず、凍結乾燥物をそのまま用いた。
【0027】
(2)ラットによる脳波測定試験
本実施例における脳波測定実験には、体重350〜450gの大人のオスのSDラット(日本SLC社)を用いた。まず、ラットを手術し、その脳波(EEG)および筋電図(EMG)を記録するための電極を頭部に埋め込み、さらに投与物質が外部から胃に直接投与できるように、内径0.55mmのポリエチレン製のカニューレチューブを胃に接続し、その逆の端を対外に出した。該システムは、動物を自由に動くことを許容するものであった。手術後、回復期として、1週間以上の期間を置き、試験を実施した。
この睡眠実験を行う上で、ラットは19:00にライト消灯、7:00にライトが点灯する環境で飼育され、湿度60±6%、温度25±1℃にコントロールできるようなチャンバー内に置かれた。なお、本実施例において、ライト点灯時である7:00〜19:00の間には、ラットの睡眠期が含まれる。
【0028】
上記(1)で得られた納豆菌体の破砕物500mgを12mlの水に懸濁したものを本実施例における投与サンプル1(納豆菌体破砕物:本発明)とした。また、上記(1)で得られた未破砕の納豆菌体500mgを12mlの水に懸濁したものを投与サンプル2(未破砕の納豆菌体:比較対照1)とした。さらに、12mlの水のみを投与したものを投与サンプル3(水のみ:比較対照2)とした。
【0029】
〔投与サンプル1〜3〕
・投与サンプル1(本発明) :納豆菌体破砕物500mg/ラット
・投与サンプル2(比較対照1):未破砕の納豆菌体500mg/ラット
・投与サンプル3(比較対照2):水(12ml)/ラット
【0030】
これら投与サンプルの効果の測定開始時刻(9:00)の直前に、ストレス負荷を与え続けた。すなわち、ラットが入ったケージのグリッド(足場)の隙間を、0.8mm幅から2cm幅にし、さらにグリッドの1cm下に水面が来るように水を張った。
なお、投与サンプルの投与形態としては、各サンプル12mlを上記のストレス負荷した直後の9:00から10:00の間に、12ml/hrの速度でカニューレを通してラットの胃に直接投与した。
各試験の実施は、5日間以上の期間をあけて行った。いずれのサンプルもN=5で実施した。
【0031】
(3)結果
脳波、筋電図記録を解析し、覚醒相、NREM相(低周波高振幅脳電図、及び非常に深い眠りを特徴付ける低筋電)、及びREM相(高周波低振幅脳電図、及び筋弛緩状態を示す、NREM相より低い筋電)の3段階により分類した。分類後、NREM相を示した時間における脳波を高速フーリエ変換し、各周波数のデルタ波の強度を計算した。0.5〜5Hzの領域をデルタ波として、その出現頻度を比較した。
図1では、納豆菌体破砕物、未破砕の納豆菌体および水のみをそれぞれ投与した各処理区の間において、9:00から15:00(睡眠期を含む)の間のデルタ波の出現頻度を、比較したグラフを示した。なお、グラフ上の時間を示す数字は、例えば「9」であれば、9時台を示している。
図中、●で示したものが納豆菌体破砕物(本発明)、▲で示したものが未破砕の納豆菌体(比較対照1)および■で示したものが水のみ(比較対照2)を投与した時のデルタ波の出現頻度である。
【0032】
図1より、納豆菌体破砕物(本発明)、未破砕の納豆菌体(比較対照1)および水のみ(比較対照2)をそれぞれ投与した時におけるデルタ波の出現頻度を比較すると、納豆菌体破砕物(本発明)を投与した場合にのみ、デルタ波出現頻度が有意に増加していることが分かる。
この結果から、納豆菌生菌を含む未破砕の納豆菌体(比較対照1)を投与した場合、デルタ波の出現頻度は、水のみ(比較対照2)を投与した時に比べて有意差を示さず、睡眠の質を向上させる効果が認められないことが分った。それに対して、納豆菌体破砕物(本発明)を投与した場合には、デルタ波の出現頻度が有意に増加し、睡眠改善効果が認められることが分かった。
【0033】
実施例2(納豆菌体破砕物を用いた用量依存性試験)
(1)納豆菌体破砕物の調製
実施例1の(1)で記載した方法と同様な方法により、納豆菌体の破砕物を調製した。
(2)ラットによる脳波測定試験
下記した投与サンプル4〜7を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ラットを用いた脳波測定試験を実施し、その脳波(EEG)および筋電図(EMG)を記録した。
なお、上記(1)で得られた納豆菌体の破砕物が、ラット1匹あたり乾燥菌体重量で250mg、500mg、1000mg含むように、それぞれ12mlの懸濁液に調製し、それぞれ、本実施例における投与サンプル4,5,6、とした。さらに、12mlの水のみを投与したものを本実験の投与サンプル7(水のみ:比較対照3)とした。
【0034】
〔投与サンプル4〜7〕
・投与サンプル4(本発明) :納豆菌破砕物250mg/ラット
・投与サンプル5(本発明) :納豆菌破砕物500mg/ラット
・投与サンプル6(本発明) :納豆菌破砕物1000mg/ラット
・投与サンプル7(比較対照3):水(12ml)/ラット
【0035】
これら投与サンプルの効果の測定開始時刻(9:00)の直前に、ストレス負荷を与え続けた。すなわち、ラットが入ったケージのグリッド(足場)の隙間を、0.8mm幅から2cm幅にし、さらにグリッドの1cm下に水面が来るように水を張った。
なお、投与サンプルの投与形態としては、各サンプル12mlを上記のストレス負荷した直後の9:00から10:00の間に、12ml/hrの速度でカニューレを通してラットの胃に直接投与した。
各試験の実施は、5日間以上の期間をあけて行った。いずれのサンプルもN=5で実施した。
【0036】
(3)結果
実施例1と同様にして、各周波数のパワー値を計算し、0.5〜5Hzの領域をデルタ波として、その出現頻度を比較した。
図2では、納豆菌体破砕物ラット1匹あたり乾燥菌体重量で250mg、500mg、1000mgおよび水のみを投与した各処理区の間において、9:00から15:00(睡眠期を含む)の間のデルタ波の出現頻度を、比較したグラフを示した。なお、グラフ上の時間を示す数字は、例えば「9」であれば、9時台を示している。
図中、◆で示したものが納豆菌体破砕物250mg(本発明)、●で示したものが納豆菌体破砕物500mg(本発明)、○で示したものが納豆菌体破砕物1000mg(本発明)および■で示したものが水のみ(比較対照3)を投与した時のデルタ波の出現頻度である。
【0037】
図2より、納豆菌体破砕物250mg、500mg、1000mg(いずれも本発明)および水のみ(比較対照3)をそれぞれ投与した時におけるデルタ波の出現頻度を比較すると、納豆菌体破砕物のいずれの用量を投与した場合においても、デルタ波の出現頻度が有意に増加していることが分かる。
この結果から、納豆菌体破砕物をラット1匹あたり250〜1000mgの範囲で投与した場合においても、デルタ波の出現頻度を有意に増やすことにつながり、充分に睡眠が改善されることが示された。
【0038】
これらのラットを用いた脳波測定実験結果を基に、ヒトにおける摂取量を導いた。すなわち、ラットとヒトの吸収効率の違い、及びヒトの個体差(年齢差、体重差、効果効率の違い等)を考慮すると、ヒト一人あたり2.5〜100000mgの破砕物を1日あたりに摂取することにより、ヒトにおいても睡眠改善の効果を得ることができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、睡眠に不満をいだいている人、特に、ストレスによって睡眠状態が悪くなっている人に、安全で質の良い眠りをもたらすことが可能となる。
また、本発明は、人だけでなく、動物の睡眠改善にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1のサンプル1〜3投与時における、9:00〜15:00のNREM相でのデルタ波の出現頻度を示した図である。
【図2】実施例2のサンプル4〜7投与時における、9:00〜15:00のNREM相でのデルタ波の出現頻度を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)に属する微生物の菌体破砕物を有効成分とする睡眠改善用組成物。
【請求項2】
前記微生物が納豆菌であることを特徴とする、請求項1に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項3】
ストレスのために睡眠状態が悪くなっているヒトの睡眠状態を改善するために用いられる、請求項1又は2に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項4】
1日の摂取量あたり、前記微生物の菌体破砕物を2.5〜100000mgの範囲で含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の睡眠改善用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−137941(P2008−137941A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325392(P2006−325392)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【出願人】(390000745)財団法人大阪バイオサイエンス研究所 (32)
【Fターム(参考)】