説明

瞬発力発生装置及び瞬発力発生方法

【課題】簡単な構成で一定方向のみに瞬発力を発生させることができるようにする。
【解決手段】帯状の弾性体3Aと、支持台2と、アーム部材4Aと、揺動軸12と、駆動部6Aとを備えている。弾性体3Aは、その長手方向の一端を支持台2に固定され、長手方向の他端をアーム部材4Aに固定されている。アーム部材4Aは、支持台2に揺動軸12を介して揺動可能に取り付けられている。そして、駆動部6Aは、揺動軸12を支点にしてアーム部材4Aを、弾性体3Aの一端と他端が接近して弾性体3Aを撓ませて一定方向の飛び移り座屈を発生させる第1の方向Xと、弾性体3Aの一端と他端を離反させる第2の方向Yに移動させる。これにより、極めて簡単な構成で弾性体に一定方向のみに飛び移り座屈を発生させることができ、ある特定の方向のみに瞬発力を発生させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の弾性体の弾力を利用して瞬発力を発生させる瞬発力発生装置及び瞬発力発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、瞬発力発生装置としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているようなものがある。特許文献1には、エアーシリンダを利用して瞬発力を発生させる技術が記載されている。また、特許文献2には、直動ばねを圧縮させて得た弾性エネルギと偏心カムを利用して瞬発力を発生させる技術が記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、力を蓄積するためのモータを小さくできるため、小型化及び軽量化が可能であるが、大きな瞬発力を得ることが困難であるという問題があった。また、特許文献2に記載された技術では、エアーシリンダを利用して瞬発力を発生させるものであるため、大きな瞬発力を得ることができるが、装置全体が大型化し、重量が大きなものになるという問題があった。
【0004】
近年、装置全体の小型化を図りながら大きな瞬発力を得るために、柔軟物(弾性体)の力学的機能を利用した瞬発力発生装置が開発されている。この弾性体の力学的機能を利用した瞬発力発生装置としては、非特許文献3に記載されているようなものがある。非特許文献3には、弾性体を曲げることで得た弾性エネルギを、弾性体に飛び移り座屈を発生させることにより開放して瞬発力を発生させる技術が記載されている。
【0005】
次に、図7を参照して従来の弾性体を利用した瞬発力発生装置について説明する。図7は、従来の瞬発力発生装置の動作を示す説明図である。
【0006】
図7に示す従来の瞬発力発生装置100は、支持台101と、帯状の弾性体102と、2つの回動軸103,104とから構成されている。支持台101は、細長の直方体状に形成されており、弾性体102よりも剛性が高くなっている。弾性体102は、弾性を有する撓み自在な帯状に形成されている。図7(a)及び図7(c)に示すように、この弾性体102は、やや撓ませた状態で、2つの回動軸103,104を介して支持台101に取り付けられている。すなわち、弾性体102の長手方向の一端は、第1の回動軸103を介して支持台101に回動可能に取り付けられている。また、弾性体102の長手方向の他端は、第2の回動軸104を介して支持台101に回動可能に取り付けられている。
【0007】
次に、このような構成を有する瞬発力発生装置100の動作について説明する。
まず、図7(a)に示すように、弾性体102が支持台101の下方に突出して撓んでいる場合、第1の回動軸103を反時計回りに回動させる共に第2の回動軸104を時計回りに回動させる。すると、図7(b)に示すように、弾性体102は、略M字状に弾性変形し、弾性体102に弾性エネルギが蓄えられる。そして、さらに第1の回動軸103と第2の回動軸104を回動させると、弾性体102に飛び移り座屈が生じ、弾性体102は、略M字状から上向きのアーチ形状へと瞬間的に変形する(図7(c)参照)。
【0008】
また、図7(c)に示すように、弾性体102が支持台101の上方に突出して撓んでいる場合、第1の回動軸103を時計回りに回動させると共に第2の回動軸104を反時計回りに回動させる。すると、図7(d)に示すように、弾性体102は、略W字状に弾性変形し、弾性体102に弾性エネルギが蓄えられる。そして、さらに第1の回動軸103と第2の回動軸104を回動させると、弾性体102に飛び移り座屈が生じ、弾性体102は、略W字状から下向きのアーチ形状へと瞬間的に変形する(図7(a)参照)。
【0009】
この瞬発力発生装置100は、2つの回動軸103,104を時計回り又は反時計回りに回動させることで、図7(a)〜図7(d)に示す動作を繰り返し、上下の2方向に瞬発力を発生させている。
【0010】
次に、図8を参照して従来の弾性体を利用した他の瞬発力発生装置について説明する。図8は、従来の他の瞬発力発生装置の動作を示す説明図である。
【0011】
図8に示す従来の他の瞬発力発生装置200は、支持台201と、帯状の弾性体202と、2つの回動軸203,204と、直線運動を行うための直動アクチュエータ206とから構成されている。図8(a)に示すように、弾性体202の長手方向の一端は、第1の回動軸203を介して支持台201に回動可能に取り付けられている。また、弾性体202の長手方向の他端は、第2の回動軸204と直動アクチュエータ206を介して支持台201に回動可能で且つ長手方向に水平移動可能に取り付けられている。そして、弾性体202は、2つの回動軸203,204の間において、支持台201の下方に突出するようにやや撓ませて配設されている。
【0012】
次に、このような構成を有する瞬発力発生装置200の動作について説明する。
まず、図8(a)に示すように、第1の回動軸203を反時計回りに回動させると共に第2の回動軸204を時計回りに回動させる。このとき、直動アクチュエータ206により、弾性体202の長手方向の他端を第2の回動軸204と共に支持台201の長手方向と平行に水平移動させて、弾性体202の長手方向の一端と他端を接近させる。すると、図8(b)に示すように、弾性体202は、略M字状に弾性変形し、弾性体102に弾性エネルギが蓄えられる。
【0013】
次に、さらに第1の回動軸203及び第2の回動軸204を回動させると共に弾性体202の他端を水平移動させて、弾性体202の一端と他端を接近させる。これにより、図8(c)に示すように、弾性体202に飛び移り座屈が生じ、弾性体202は、略M字状から上向きのアーチ形状へと瞬間的に変形する。
【0014】
次に、図8(d)に示すように、第1の回動軸203を時計回りに回動させると共に第2の回動軸204を反時計回りに回動させる。このとき、直動アクチュエータ206によって、弾性体202の他端と第2の回動軸204と共に支持台201の長手方向と平行に水平移動させて、弾性体202の一端と他端を離反させる。これにより、弾性体202は、突出方向が支持台201の下方を向くアーチ形状(初期状態)に戻る(図8(a)参照)。
【0015】
この瞬発力発生装置200は、2つの回動軸203,204を時計回り又は反時計回りに回動させると共に弾性体202の長手方向の他端を水平移動させることで、一定の方向のみに瞬発力を発生させている。
【0016】
【特許文献1】特開2004−9167号公報
【特許文献2】特開2007−120692号公報
【非特許文献1】望山他:閉ループ柔軟カタパルトによるインパルス型遊泳ロボット、ロボティクス・メカトロニクス講演会2007講演論文集、2P1−A09.2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
近年、ロボットの走行装置等のように、特定の方向のみに瞬発力を発生させる瞬発力発生装置が求められている。しかしながら、図7に示す従来の瞬発力発生装置では、上下の2つの方向に交互に繰り返して瞬発力を発生させている。その結果、従来の瞬発力発生装置では、必要とされる方向以外の方向にも瞬発力が発生してしまい、エネルギ効率の面で望ましくなかった。
【0018】
また、図8に示す従来の他の瞬発力発生装置では、特定方向のみに瞬発力を発生させることができるが、弾性体を回動させる2つの回動軸だけでなく、弾性体の長手方向の一端を水平移動させるための機構が必要である。その結果、部品点数が増加し、装置全体の構造が複雑になる、という問題があった。
【0019】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、簡単な構成で一定方向のみに瞬発力を発生させることができる瞬発力発生装置及び瞬発力発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の瞬発力発生装置は、帯状の弾性体を備えている。また、瞬発力発生装置は、弾性体の長手方向の一端が固定される支持台と、弾性体の長手方向の他端が固定されるアーム部材と、このアーム部材を支持台に対して揺動可能に取り付けるための揺動軸とを備えた。更に、瞬発力発生装置は、揺動軸を支点にしてアーム部材を移動させる駆動部を備えた。駆動部は、アーム部材を、弾性体の長手方向の一端と他端が接近して弾性体を撓ませると共に弾性体に一定方向の飛び移り座屈を発生させる第1の方向と、飛び移り座屈が発生した弾性体の一端と他端を離反させる第2の方向に移動させる。
【0021】
また、本発明の瞬発力発生方法は、以下の(1)から(4)に示す工程を含んでいる。
(1)帯状の弾性体の長手方向の一端を支持台に固定すると共に、弾性体の長手方向の他端をアーム部材に固定する工程。
(2)アーム部材を支持台に揺動軸を介して揺動可能に取り付ける工程。
(3)弾性体の一端と他端が接近して弾性体が撓ませると共に、弾性体に一定方向の飛び移り座屈を発生させる第1の方向に揺動軸を支点にしてアーム部材を移動させる工程。
(4)飛び移り座屈が発生した弾性体の一端と他端が離反する第2の方向に揺動軸を支点にしてアーム部材を移動させる工程。
【発明の効果】
【0022】
本発明の瞬発力発生装置によれば、極めて簡単な構成でありながら、アーム部材を揺動させるだけで一定方向に弾性体に飛び移り座屈を発生させることができ、ある特定の方向のみに瞬発力を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例について、図1〜図6を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
また、説明は以下の順序で行う。
1.瞬発力発生装置の実施の形態例
1−1.走行ロボットの構成例
1−2.走行ロボットの動作
【0024】
1.瞬発力発生装置の実施の形態例
まず、本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例(以下、「本例」という。)として適用した走行ロボットの構成を図1〜図6に従って説明する
図1は本例の走行ロボットを示す斜視図、図2は本例の走行ロボットの上面図、図3は本例の走行ロボットの底面図である。図4は図2及び図3に示す走行ロボットのA−A′線断面図である。
【0025】
1−1.走行ロボットの構成例
図1〜図4に示す走行ロボット1は、2つの帯状の弾性体を交互に一定方向の飛び移り座屈を発生させて、走行するロボットである。この走行ロボット1は、支持台2と、帯状の2つの弾性体3A,3Bと、2つのアーム部材4A,4Bと、2つの駆動モータ6A,6Bとを有している。また、走行ロボット1は、制御基板8と、この制御基板8に実装された制御部9と、2つの駆動モータ6A,6Bと制御部9に電力を供給する2つの電源部11A,11Bとを有している。なお、本例では、電源部を2つ設けた例を説明した、電源部は、1つだけでもよい。
【0026】
[支持台]
図1〜図4に示すように、支持台2は、略台形状をなす枠体として構成されている。この支持台2は、短辺部2aと、この短辺部2aと略平行をなして対向する長辺部2bと、短辺部2aと長辺部2bを接続する2つの接続辺部2c、2dとを有している。第1の接続辺部2cは、短辺部2aと長辺部2bの長手方向の一端を接続している。また、第2の接続辺部2dは、短辺部2aと長辺部2bの長手方向の他端を接続している。この支持台2の材質としては、例えば、アルミニウムやステンレス鋼等の金属が好適であるが、その他の金属を用いることができることは勿論のこと、金属以外にもエンジニアリングプラスチックや木材等を用いることもできる。
【0027】
また、支持台2の短辺部2aには、固定片7が設けられている(図3参照)。固定片7には、2つの弾性体3A,3Bの長手方向の一端が固定されている。
【0028】
[弾性体]
2つの弾性体3A,3Bの長手方向の一端は、固定片7と面接触し、且つ固定ねじ19によって固定されている(図4参照)。なお、2つの弾性体3A,3Bの長手方向の一端における固定方法は、固定ねじ19に限定されるものではなく、例えば、溶接や接着等のその他の固定方法を用いてもよい。第1の弾性体3Aは、支持台2の第1の接続辺部2c側に配置されており、第2の弾性体3Bは、支持台2の第2の接続辺部2d側に配置されている。
【0029】
2つの弾性体3A,3Bは、板厚が比較的薄く且つ適当な幅によって帯状に細長く形成された板状のばね材からなっている。弾性体3A,3Bの材質としては、例えば、熱処理ばね鋼SUP(例えば、Si−Mn鋼、Mn−Cr鋼、Si−Mn−Cr鋼、高合金鋼等)を挙げることができる。また、弾性体3A,3Bには、熱処理ばね鋼SUPだけでなく、炭素工具鋼(SK)、合金工具鋼(SKS,SKD)、高速度工具鋼(SKH)、みがき帯鋼、みがき特殊帯鋼、焼入れリボン鋼等を用いることもできる。この2つの弾性体3A,3Bの長手方向の略中央には、脚部13がそれぞれ配設されている。
【0030】
脚部13は、クランク状に形成されている。脚部13には、地面との接地時間を長くするために弾性を有するものを用いることが好ましい。脚部13の材質としては、例えば焼入れリボン鋼が用いられている。この脚部13を介して2つの弾性体3A,3Bに発生した飛び移り座屈による瞬発力が地面に瞬発力が伝達される。そして、脚部13から地面に伝わる瞬発力が走行ロボット1の前方への推進力となっている。
【0031】
また、2つの弾性体3A,3Bの長手方向の他端には、2つのアーム部材4A,4Bが固定されている。すなわち、第1の弾性体3Aには、第1のアーム部材4Aが固定されており、第2の弾性体3Bには、第2のアーム部材4Bが固定されている。そして、2つの弾性体3A,3Bは、支持台2の固定片7と2つのアーム部材4A,4Bの間において、脚部13が突出する方向と反対方向に突出するように撓んで設けられている(図4参照)。
【0032】
[アーム部材]
第1のアーム部材4Aは、第1の駆動モータ6Aに取り付けられる取付部14Aと、第1の弾性体3Aの他端が固定される固定部16Aと、取付部14Aと固定部16Aを連結する連結部17Aとから構成されている。固定部16Aは、第1の弾性体3Aの長手方向の他端と面接触し、且つ固定ねじ19によって第1の弾性体3Aの他端と一体に固定されている。第1のアーム部材4Aの取付部14Aは、第1の駆動モータ6Aの揺動軸12に取り付けられている。
【0033】
また、第2のアーム部材4Bは、第1のアーム部材4Aと同様に、第2の駆動モータ6Bに取り付けられる取付部14Bと、第2の弾性体3Bが固定される固定部16Bと、取付部14Bと固定部16Bを連結する連結部17Bとから構成されている。固定部16Bは、第2の弾性体3Bの長手方向の他端と面接触し、且つ固定ねじ19によって第2の弾性体3Bの他端と一体に固定されている。第2のアーム部材4Bの取付部14Bは、第2の駆動モータ6Bの揺動軸12に取り付けられている。
【0034】
駆動部の一具体例を示す2つの駆動モータ6A,6Bは、それぞれ揺動軸12を有している。この2つの駆動モータ6A,6Bは、揺動軸12を対向させて、それぞれ支持台2に固定されている。すなわち、第1の駆動モータ6Aは、揺動軸12を第1の弾性体3A側に向けて、支持台2の長辺部2b側における第1の接続辺部2cに配設されている。また、第2の駆動モータ6Bは、揺動軸12を第2の弾性体3B側に向けて、支持台2の長辺部2b側における第2の接続辺部2dに配設されている。これにより、第1のアーム部材4Aは、第1の駆動モータ6Aの揺動軸12を介して支持台2に揺動可能に支持されている。また、第2のアーム部材4Bは、第2の駆動モータ6Bの揺動軸12を介して支持台2に揺動可能に支持されている。
【0035】
更に、第1の駆動モータ6Aの上面部には、第1の電源部11Aが載置されている。また、第2の駆動モータ6Bの上面部には、第2の電源部11Bが載置されている。この2つの電源部11A,11Bは、例えば接着剤によって第1の駆動モータ6A、第2の駆動モータ6Bに固定されている。
【0036】
この2つの駆動モータ6A,6Bを駆動することで、その回転力が揺動軸12を介して2つのアーム部材4A,4Bに伝達される。そして、この2つのアーム部材4A,4Bは、揺動軸12を支点にして、連結部17A,17Bが支持台2の2つの接続辺部2c,2dと略平行をなす状態と、2つの接続辺部2c,2dと略直交なす状態に揺動する。すなわち、2つの弾性体3A,3Bの長手方向の一端と他端を接近させる第1の方向Xと、2つの弾性体3A,3Bの長手方向の一端と他端を離反させる第2の方向Yに揺動軸12を支点にして移動する(図5及び図6参照)。
【0037】
なお、本例では、2つの駆動モータ6A,6Bには、サーボモータが用いられている。また、駆動部として駆動モータを用いた例を説明したが、揺動軸を回動することができるハンドルを設けてもよい。そして、ユーザが手動操作でハンドルを回すことで、アーム部材を揺動させるようにしてもよい。
【0038】
また、図4に示すように、支持台2の固定片7から揺動軸12までの長さTは、第1のアーム部材4Aの固定部16Aから揺動軸12までの長さSよりも長く設定されている(T>S)。本例では、固定片7から揺動軸12までの長さTと固定部16から揺動軸12までの長さSの比は、T:S=2:1に設定されている。なお、第1のアーム部材4Aの固定部16Aから揺動軸12までの長さと第2のアーム部材4Bの固定部16Bから揺動軸12までの長さは、同一である。
【0039】
この2つのアーム部材4A,4Bの材質としては、例えば、アルミニウムやステンレス鋼等の金属が好適であるが、その他の金属を用いることができるし、金属以外にもエンジニアリングプラスチックや木材等を用いるようにしてもよい。
【0040】
なお、2つのアーム部材4A,4Bと2つの弾性体3A,3Bとの固定方法は、固定ねじ19に限定されるものではなく、例えば溶接や接着等のその他の固定方法を用いてもよい。また、2つの駆動モータ6A,6Bで2つのアーム部材4A,4Bを揺動する例を説明したが、複数のギアを用いて1つの駆動モータで2つのアーム部材4A,4Bを揺動するように構成してもよい。
【0041】
[制御基板]
また、支持台2の短辺部2a側には、制御基板8が固定片7の上方を覆うように取り付けられている。制御基板8は、略台形状をなす平板部材として構成されている。この制御基板8は、略四角形状に開口した開口部8aを有している。開口部8aは、2つの弾性体3A,3Bを避けるようにして、制御基板8の長辺から短辺側に向けて略四角形状に切り欠くことで形成されている。この開口部8aによって、制御基板8と2つの弾性体3A,3Bの接触を防止することができる。また、この制御基板8には、制御部9が実装されている。
【0042】
[制御部]
制御部9は、2つの駆動モータ6A,6B及び2つの電源部11A,11Bと、不図示の接続コードを介して電気的に接続されている。そして、この制御部9は、2つの駆動モータ6A,6Bを駆動させるための制御信号を生成し、2つの駆動モータ6A,6Bに出力している。
【0043】
なお、本例では、弾性体、アーム部材及び揺動軸をそれぞれ2つ設けた例を説明したが、弾性体、アーム部材及び揺動軸は、1つだけでもよく、または3つ以上設けてもよいことは言うまでもない。
【0044】
1−2.走行ロボットの動作
図5及び図6は、本例の走行ロボットの動作について説明する説明図である。
次に、図5及び図6を参照して、上述の構成を有する走行ロボット1の動作について説明する。なお、第1の弾性体3Aの動きと第2の弾性体3Bの動きは、同一であるため、ここでは第1の弾性体3Aの動きについてのみ説明する。
【0045】
まず、図5(a)に示すように、第1の駆動モータを駆動し、揺動軸12を時計回りである矢印Rの方向に回動させる。そして、図5(b)に示すように、揺動軸12が回動することで、第1のアーム部材4Aは、この揺動軸12を支点にして、第1の弾性体3Aの長手方向の一端と他端を接近させる第1の方向Xに移動する。第1の弾性体3Aは、一端と他端が接近することで略S字状に弾性変形する。
【0046】
次に、図5(c)に示すように、第1のアーム部材4Aの連結部17Aが支持台2の第1の接続辺部2cと略直交するように、更に第1のアーム部材4Aを第1の方向Xに移動させる。これにより、第1の弾性体3Aの一端と他端が更に接近すると共に第1の弾性体3Aは、略S字状から略W字状に弾性変形する。
【0047】
図5(c)に示す状態から揺動軸12を介して第1のアーム部材4Aを更に移動させると、図6(a)に示すように、第1の弾性体3Aに飛び移り座屈が生じる。これにより、第1の弾性体3Aが略W字状から支持台2の下方を向くアーチ形状へと瞬間的に変形する。そして、このとき発生した瞬発力は、第1の弾性体3Aに設けた脚部13から地面に伝達され、走行ロボット1の推進力となる。
【0048】
次に、図6(b)に示すように、第1の駆動モータ6Aを駆動し、揺動軸12を反時計回りである矢印Kの方向に回動させる。揺動軸12を矢印Kの方向に回動させることで、第1のアーム部材4Aは、揺動軸12を支点にして、第1の弾性体3Aの一端と他端を離反させる第2の方向Yに移動する。次に、揺動軸12を介して第1のアーム部材4Aを更に第2の方向Yへ移動させる。これにより、図6(c)に示すように、第1の弾性体3Aは、上向きの飛び移り座屈をほとんど発生させることなく、上向きのアーチ形状(初期状態)に戻る。
【0049】
本例の走行ロボット1は、第1の駆動モータ6Aと第2の駆動モータ6Bは、互いに逆位相で駆動している。そのため、第1のアーム部材4Aと第2のアーム部材4Bは、交互に第1の方向Xと第2の方向Yに揺動する。その結果、第1の弾性体3Aと第2の弾性体3Bには、交互に飛び移り座屈が発生する。
【0050】
なお、第1の駆動モータ6Aと第2の駆動モータ6Bを逆位相で駆動させた例を説明したが、これに限定されるものではなく。例えば、第1の駆動モータ6Aと第2の駆動モータ6Bを同位相で駆動させて、第1の弾性体3Aと第2の弾性体3Bに同時に飛び移り座屈が発生するようにしてもよい。また、第1の駆動モータ6Aと第2の駆動モータ6Bの位相を制御することにより、進行方向を制御することが可能である。
【0051】
ここで、図8に示す従来の瞬発力発生装置200では、2つの回動軸を回動させると共に直動アクチュエータを用いて弾性体の他端を水平移動させる必要があった。しかしながら、本例の走行ロボット1によれば、第1のアーム部材4Aを第1の方向Xと第2の方向Yに揺動させるだけで、第1の弾性体3Aに一定方向の瞬発力を極めて簡単に生じさせることができる。これにより、直動アクチュエータや回動軸等の部品点数を削減することができ、装置全体の構成を簡略化することが可能である。
【0052】
また、第1のアーム部材4Aを第1の方向Xと第2の方向Yに揺動させるだけという少ない工程数で、第1の弾性体3Aに飛び移り座屈を発生させると共に初期状態に戻すことができる。そのため、本例の走行ロボット1は、非常に短い周期で第1の弾性体3Aに飛び移り座屈を発生させることができるという効果を有している。
【0053】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。上述した実施の形態例では、瞬発力発生装置の具体例として走行ロボットを適用した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、プレス装置の加圧機構、対象物に高加速度を加えて投擲するカタパルト装置等の一定方向の瞬発力が求められる装置に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例として適用した走行ロボットの斜視図である。
【図2】本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例として適用した走行ロボットの上面図である。
【図3】本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例として適用した走行ロボットの底面図である。
【図4】本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例として適用した走行ロボットに係る図2及び図3のA−A′線断面図である。
【図5】本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例として適用した走行ロボットの動作を説明する形状遷移図である。
【図6】本発明の瞬発力発生装置の実施の形態例として適用した走行ロボットの動作を説明する形状遷移図である。
【図7】従来の瞬発力発生装置の動作を説明する形状遷移図である。
【図8】従来の他の瞬発力発生装置の動作を説明する形状遷移図である。
【符号の説明】
【0055】
1…走行ロボット(瞬発力発生装置)、 2…支持台、 3A…第1の弾性体(弾性体)、 3B…第2の弾性体(弾性体)、 4A…第1のアーム部材(アーム部材)、 4B…第2のアーム部材(アーム部材)、 6A…第1の駆動モータ(駆動部)、 6B…第2の駆動モータ(駆動部)、 7…固定片、 9…制御部、 11A…第1の電源部、 11B…第1の電源部、 12…揺動軸、 13…脚部、 X…第1の方向、 Y…第2の方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の弾性体と、
前記弾性体の長手方向の一端が固定される支持台と、
前記弾性体の長手方向の他端が固定されるアーム部材と、
前記アーム部材を前記支持台に対して揺動可能に取り付けるための揺動軸と、
前記アーム部材を移動させるための駆動部と、を備え、
前記駆動部は、
前記弾性体の長手方向の一端と他端が接近して前記弾性体を撓ませると共に、前記弾性体に一定方向の飛び移り座屈を発生させる第1の方向と、
前記飛び移り座屈が発生した前記弾性体の一端と他端を離反させる第2の方向に、前記揺動軸を支点にして前記アーム部材を移動させる、
ことを特徴とする瞬発力発生装置。
【請求項2】
前記弾性体は、前記支持台と前記アーム部材の間において、飛び移り座屈が発生する方向と反対方向に突出して撓むように設定される、
請求項1に記載の瞬発力発生装置。
【請求項3】
前記弾性体の一端が固定された前記支持台の箇所から前記揺動軸までの距離は、前記弾性体の他端が固定された前記アーム部材の箇所から前記揺動軸までの距離よりも長く設定されている
請求項1または2に記載の瞬発力発生装置。
【請求項4】
前記弾性体の一端は、前記支持台に面接触して固定され、前記弾性体の他端は、前記アーム部材に面接触して固定される、
請求項1〜3のいずれかに記載の瞬発力発生装置。
【請求項5】
帯状の弾性体の長手方向の一端を支持台に固定すると共に、前記弾性体の長手方向の他端をアーム部材に固定する工程と、
前記アーム部材を前記支持台に揺動軸を介して揺動可能に取り付ける工程と、
前記弾性体の前記一端と前記他端が接近して前記弾性体が撓ませると共に、前記弾性体に一定方向の飛び移り座屈を発生させる第1の方向に前記揺動軸を支点にして前記アーム部材を移動させる工程と、
前記飛び移り座屈が発生した前記弾性体の一端と他端が離反する第2の方向に、前記揺動軸を支点にして前記アーム部材を移動させる工程と、
を含む瞬発力発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133499(P2010−133499A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310283(P2008−310283)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)