説明

瞳孔計測装置

【課題】 被験者の自然な状態における瞳孔径を計測することができる瞳孔計測装置を提供する。
【解決手段】 被験者の眼球位置が固定された状態で、左眼と右眼のうちの少なくとも一方の眼球の眼前に配置されたハーフミラー21と、ハーフミラー21を介した入射光から眼球を撮影する撮影部2と、撮影された眼球画像から瞳孔領域を抽出し、抽出された瞳孔領域から瞳孔径を算出する制御部1と、算出された瞳孔径の値を提示する提示部3とを有し、被験者の眼球位置が固定した状態で、被験者の上方から眼球に差し込む光Lを遮らないよう額当て及び顎置き、ハーフミラー21及び撮影部2が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の瞳孔径を計測する瞳孔計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、瞳孔を検査する技術としては、下記の特許文献1−4などが知られている。
【0003】
特許文献1,2には、光刺激による瞳孔反応を計測することを目的とした瞳孔径計測技術が記載されている。これらの特許文献1,2に記載された技術は、視界を遮断した暗状態にて、瞳孔対光反応に関する視標などを計測する。
【0004】
特許文献3には、外部環境を目視しているときの瞳孔径を計測することを目的とした技術が記載されている。この特許文献3には、筐体内部を覗き込む構造となっており、当該筐体における視線方向を開放することによって外部環境の目視を可能としている。
【0005】
特許文献4には、日常の瞳孔径を計測することを目的とした技術が知られている。この特許文献4には、日常状態を再現するため、広視野構造で構成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−238853号公報
【特許文献2】実用新案登録第3137375号
【特許文献3】特開2002−325734号公報
【特許文献4】特開2010−268900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1,2に記載された技術では、視界を遮蔽して暗闇状態となっており、被験者の自然な状態での瞳孔を計測しているとは言えない。
【0008】
特許文献3に記載された技術では、被験者の顔にゴーグルを押しつけて装着させたり、被験者が筐体を覗き込む構成となっているので、筐体の側面が眼球に差し込む光を遮断する。したがって、眼球の周辺が暗くなり、被験者の自然な状態での瞳孔を計測しているとは言えない。
【0009】
また、上述した構成では、被験者が自然な状態で計測できないために、自然な状態での瞳孔径が計測できない可能性がある。具体的には、被験者の眼球の周囲が暗くなるために散瞳が誘発され、自然な状態よりも瞳孔が大きく計測されるという問題がある。さらに、片眼で計測する構成の特許文献1,3の構成では、片眼散瞳が誘発され、上記と同様に自然な状態よりも瞳孔が大きく計測されるという問題がある。また、他の問題として、撮影対象の眼球に撮影用の照明を照射すると、縮瞳が誘発され、自然な状態よりも瞳孔が小さく計測されるという問題がある。
【0010】
更に、特許文献4に記載された装置は、日常状態における被験者の瞳孔径を計測するため、広視野構造で構成されているが、装置を被験者の顔に装着するゴーグルタイプの構成である。このため、被験者にとっては装着に手間がかかり、さらに、被験者の顔面形状によってはゴーグルがフィットせず苦痛を感じるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、被験者の自然な状態における瞳孔径を計測することができる瞳孔計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する第1の発明に係る瞳孔計測装置は、被験者の眼球位置を固定する眼球固定部と、
前記眼球固定部により被験者の眼球位置が固定された状態で、左眼と右眼のうちの少なくとも一方の眼球の眼前に配置されたハーフミラーと、
前記ハーフミラーを介した入射光から眼球を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔径を算出する瞳孔径算出手段と、
前記瞳孔径算出手段で算出された瞳孔径の値を提示する提示手段とを有し、
前記眼球固定部により被験者の眼球位置が固定した状態で、被験者の上方から眼球に差し込む光を遮らないよう前記眼球固定部、前記ハーフミラー及び前記撮影手段が配置されていることを特徴とする。
【0013】
第1の発明に係る瞳孔計測装置であって、第2の発明は、前記瞳孔径算出手段は、前記撮影手段により撮影された眼球画像を用いて瞳孔径の長さを推定することを特徴とする。
【0014】
第1又は第2の発明に係る瞳孔計測装置であって、第3の発明は、前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔中心を通る水平方向の径の一部又は全部の欠けを検出する瞳孔欠け検出手段を備えることを特徴とする。
【0015】
第1乃至第3の何れかの発明に係る瞳孔計測装置であって、第4の発明は、前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔領域を抽出する瞳孔抽出手段を備え、前記瞳孔抽出手段は、前記抽出された瞳孔領域に重なった異物を除去し、当該瞳孔領域を補間することを特徴とする。
【0016】
第1乃至第4の何れかの発明に係る瞳孔計測装置であって、第5の発明は、前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔領域を抽出する瞳孔抽出手段を備え、前記瞳孔抽出手段は、前記瞳孔領域が2以上抽出された場合に、予め設定された判断条件によって瞳孔領域を一箇所に確定することを特徴とする。
【0017】
第1乃至第5の何れかの発明に係る瞳孔計測装置であって、第6の発明は、前記瞳孔径算出手段により算出された瞳孔径の値を保存する保存手段と、前記瞳孔径算出手段により算出された瞳孔径を前記保存手段に保存する任意の時間間隔を設定する時間間隔設定手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
第6の発明に係る瞳孔計測装置であって、第7の発明は、前記瞳孔径を計測する任意の計測時間を設定する計測時間設定手段と、前記計測時間設定手段により設定された計測時間に亘って前記瞳孔径算出手段により算出されて前記保存手段に保存された瞳孔径の値の平均値を求める平均瞳孔径算出手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
第1乃至第7の何れかの発明に係る瞳孔計測装置であって、第8の発明は、前記撮影手段は、赤外線カメラであり、被験者の眼球に赤外線光を照射する照明手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
第6乃至第8の何れかの発明に係る瞳孔計測装置であって、第9の発明は、前記瞳孔径算出手段により算出された瞳孔径の値のうち、排除する値の条件を設定する排除条件設定手段と、前記排除条件設定手段により設定された条件に適合する値を排除するデータ排除手段とを備え、前記保存手段は、前記データ排除手段で排除されたデータを保存しないことを特徴とする。
【0021】
第1乃至第9の何れかの発明に係る瞳孔計測装置であって、第10の発明は、前記撮影手段により撮影された眼球画像に単位長さの目盛を重畳する目盛重畳手段を備えることを特徴とする。
【0022】
第1乃至第10の何れかの発明に係る瞳孔計測装置であって、第11の発明は、前記眼球固定部により被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の視線方向を中心として、水平方向において100度以上、下方向に50度以上の開放視野を有するよう前記眼球固定部、前記ハーフミラー及び前記撮影手段が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の上方から被験者の眼球に差し込む光を遮らないよう構成されているので、被験者が日常生活と変わりない自然な状態で瞳孔径を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置の外観構成を示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置の外観構成を示す背面図である。
【図5】本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置の外観構成を示す側面図である。
【図6】(a)は本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置における被験者の眼球と撮影部との位置関係を示す図であり、(b)は本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置における被験者の眼球と撮影部との他の位置関係を示す図である。
【図7】(a)は被験者の瞳孔が散瞳している状態を示す図であり、(b)は被験者の瞳孔が縮瞳している状態を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態として示す瞳孔計測装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2実施形態として示す瞳孔計測装置による横径を求める走査処理を説明する図である。
【図10】本発明の第2実施形態として示す瞳孔計測装置による縦径を求める走査処理を説明する図である。
【図11】本発明の第2実施形態として示す瞳孔計測装置による縦径を求める他の走査処理を説明する図である。
【図12】本発明の第3実施形態として示す瞳孔計測装置の構成を示すブロック図である。
【図13】(a)は瞳孔に眼瞼が重なっていない時の撮影画像を示す図であり、(b)は眼瞼が瞳孔に重なった時の撮影画像を示す図である。
【図14】本発明の第3実施形態として示す瞳孔計測装置において、瞳孔径を推定する処理を説明する図である。
【図15】本発明の第3実施形態として示す瞳孔計測装置の他の構成を示すブロック図である。
【図16】本発明の第3実施形態として示す瞳孔計測装置において、横径より上が欠けている様子を示す図である。
【図17】本発明の第3実施形態として示す瞳孔計測装置において、横径より下が欠けている様子を示す図である。
【図18】本発明の第3実施形態として示す瞳孔計測装置において、瞳孔に欠けがあるかを判断する処理を説明する図であり、(a)は横径が最大値となる走査線及び瞳孔中心を通る中央線が欠けている状態、(b)は横径が最大値となる走査線における実際の瞳孔中心及び中央線が欠けている状態、(c)は横径が最大値となる走査線のみが欠けている状態を示す。
【図19】本発明の第4実施形態として示す瞳孔計測装置において、撮影画像に睫毛が混入した様子を示す図である。
【図20】本発明の第4実施形態として示す瞳孔計測装置において、ノイズがある場合に走査線を補間する処理を示す図である。
【図21】本発明の第5実施形態として示す瞳孔計測装置において、複数の瞳孔領域が検出された様子を示す図である。
【図22】本発明の第6実施形態として示す瞳孔計測装置の構成を示すブロック図である。
【図23】本発明の第7実施形態として示す瞳孔計測装置の構成を示すブロック図である。
【図24】本発明の第8実施形態として示す瞳孔計測装置の構成を示すブロック図である。
【図25】本発明の第8実施形態として示す瞳孔計測装置における照明ユニットの正面図である。
【図26】本発明の第9実施形態として示す瞳孔計測装置の構成を示すブロック図である。
【図27】本発明の第10実施形態として示す瞳孔計測装置において、目盛フィルタを配置した様子を示す側面図である。
【図28】本発明の第10実施形態として示す瞳孔計測装置において、目盛フィルタを配置したときの撮影画像である。
【図29】本発明の第10実施形態として示す瞳孔計測装置において、画像処理によって瞳孔領域に目盛を重畳した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0026】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態として示す瞳孔計測装置は、例えば図1に示すように構成される。
【0027】
この瞳孔計測装置は、制御部1、撮影部2、及び、提示部3を備える。制御部1は、例えばCPU、入出力I/F、メモリ及びハードディスク等からなるパーソナルコンピュータにより構成される。制御部1は、例えばCPUが所定のプログラムに従って動作することによって、瞳孔抽出部11及び瞳孔径算出部12を実現する。なお、瞳孔計測装置において、瞳孔を抽出せずに瞳孔径算出部12のみによって瞳孔径を算出できるものについては、後述する。
【0028】
この瞳孔計測装置は、図2に概略構成を示すように、被験者の眼球Eの上方からの光Lを遮らないよう構成されている。瞳孔計測装置は、被験者の眼球Eの眼前にハーフミラー21が配置される。ハーフミラー21は、被験者の眼球Eからの光を下方向に反射するよう、被験者の眼球Eに対して傾けて配置されている。
【0029】
撮影部2は、ハーフミラー21により反射された光が供給されるよう配置されている。撮影部2は、ハーフミラー21の光反射面の下方に配置されている。このようなハーフミラー21及び撮影部2の配置は、筐体20によって位置決めされている。
【0030】
この撮影部2の撮影範囲は、予め被験者の眼球E付近に限定しておく。これにより、撮影画像に瞳孔と類似するまつげやホクロなどの物体が映り込むことを抑制し、瞳孔領域の抽出精度を向上させる。例えば、瞳孔以外の物体を瞳孔として抽出してしまう誤検出を抑制することができる。
【0031】
具体的には、瞳孔計測装置は、図3の正面図、図4の背面図、図5の側面図に示すように構成されている。
【0032】
図3、図4、図5に示すように、ハーフミラー21は、被験者の眼球Eの眼前に配置されるよう筐体20aに取り付けられる。このハーフミラー21は、図5に示すように、被験者の眼球Eに対して傾けて筐体20aに取り付けられている。また、図3、図5に示すように、ハーフミラー21の下方向に撮影部2が設けられている。
【0033】
なお、ハーフミラー21は、左眼と右眼のうちの少なくとも一方の瞳孔径のみを計測する場合、左眼と右眼のうちの少なくとも一方の眼球の眼前に配置されていればよい。
【0034】
図4に示すように、瞳孔計測装置の背面には、被験者の眼球位置を固定する眼球固定部としての額当て22a、顎置き22bが設けられている。これにより、図5に示すように被験者Pは、瞳孔計測時において、額当て22aに額を押しつけ、顎置き22bに顎を載せる状態とすることによって頭部位置を固定して、眼球位置を固定できる。
【0035】
この瞳孔計測装置は、被験者に自然な状態で瞳孔径計測を行うために、できるだけ広い有効視野となるよう額当て22a及び顎置き22b、ハーフミラー21及び撮影部2が配置されていることが望ましい。具体的には、額当て22a及び顎置き22bにより被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の開放視野は視線方向を中心として、誘導視野に相当する水平方向100度以上210度以下、上方向35度以上60度以下、下方向50度以上75度以下有することが望ましい。なお、これら前記した上限値210度、60度、75度は、それぞれ水平方向、上方向、下方向の人間の視野の上限値である。水平方向において100度以上、下方向に50度以上の開放視野とすることにより、日常視に近い状態を再現し、自然な瞳孔径を計測する。なお、この瞳孔計測装置は、被験者の眼球Eの上方が開放されているため、上方の視野はすでに35度以上を有する。
【0036】
このように、瞳孔計測装置は、眼球固定部としての額当て22a及び顎置き22bにより眼球位置が固定された状態で、ハーフミラー21によって、被験者の眼球Eからの光を撮影部2に反射する。これにより、撮影部2は、ハーフミラー21を介した入射光から眼球を撮影する。
【0037】
撮影部2により撮影が行われると、制御部1における瞳孔抽出部11は、撮影部2から撮影画像が供給される。瞳孔抽出部11は、撮影部2により撮像された撮影画像から、瞳孔領域を抽出する。このとき、瞳孔抽出部11は、撮影画像内の輝度に基づいて瞳孔領域を抽出する。瞳孔領域を抽出する2値化閾値は、予め設定されている。例えば、撮影画像内で最も暗い輝度の円領域を瞳孔領域として抽出する。
【0038】
なお、二値化の閾値を変更することで個人差を吸収することができる。また、瞳孔領域以外の領域を瞳孔領域として抽出する誤抽出を抑制するために、一般的な瞳孔の大きさから推測される領域幅を予め設定しておくことが望ましい。これにより、瞳孔領域以外の領域を除去したり、瞳孔がほぼ円形であることから抽出された領域を円形近似したりするなどの処理により、瞳孔領域の抽出精度を上げることができる。
【0039】
瞳孔径算出部12は、瞳孔抽出部11により抽出された瞳孔領域を用いて、瞳孔径を求める。この瞳孔径を求める動作は、後述するように、瞳孔の横径又は縦径を算出することや、瞳孔径を推定することも含む。このとき、瞳孔径算出部12は、瞳孔領域の横幅及び縦幅を算出し、最大値を瞳孔径として算出する。この瞳孔径は、瞳孔領域の横幅又は縦幅の画素数で特定することができる。
【0040】
瞳孔径算出部12は、瞳孔径を実測値で提示するために、実測値を算出しても良い。瞳孔径算出部12は、図6(a)に示すように、撮影部2の撮影画角(水平画角:θ、垂直画角:θ)と、撮影部2から被験者の眼球Eまでの投影距離Dとから、下記の式1a、式1bを用いて撮影範囲(横幅の長さ:L、縦幅の長さ:L)を算出する。ここで、撮影部2の撮影画角は、水平画角のθ、垂直画角のθの双方を含む。また、撮影部2の撮影範囲は、横幅の長さL、縦幅の長さLとなる。
【0041】
=2×D×tan(θ/2) (式1a)
=2×D×tan(θ/2) (式1b)
ここで、図2乃至図5のような構成では、撮影部2の投影距離D’は、図6(b)のように、被験者の眼球Eからハーフミラー21までの距離と、ハーフミラー21から撮影部2までの距離の加算値となる。
【0042】
上記の式1a、式1bで特定される撮影範囲に占める画素数は、撮影部2の解像度(横の解像度:P、縦の解像度:P)で特定される。このため、撮影部2の撮影範囲を特定する横幅L又は縦幅Lを、横方向解像度P又は縦方向解像度Pで割る。これにより、瞳孔径算出部12は、下記の式2a、式2bによって、撮影画像における横方向の一画素単位長さS又は縦方向の一画素単位長さSを算出できる。
【0043】
=L/P=(2×D×tan(θ/2))/P (式2a)
=L/P=(2×D×tan(θ/2))/P (式2a)
このように、瞳孔計測装置は、瞳孔径算出部12により算出された瞳孔径の画素数に、画素当たりの単位長さを乗数することによって、瞳孔径の実測値を算出できる。なお、この瞳孔径の算出方法は、あくまでも一例であり、後述の第2実施形態で示す方法を採用して瞳孔径を算出しても良い。
【0044】
そして、制御部1は、計測された瞳孔径を提示部3に供給する。提示部3は、制御部1から供給された瞳孔径を表示又は音声出力する。このとき、提示部3は、実測値を提示しても良く、画素数を提示しても良い。これにより、瞳孔計測装置は、計測者に被験者の瞳孔径を通知する。
【0045】
また、この瞳孔計測装置は、撮影部2による撮影画像の取得動作、瞳孔抽出部11による瞳孔領域の抽出処理、瞳孔径算出部12による瞳孔径の算出処理、及び、提示部3による瞳孔径の提示動作を任意の周期で行っても良い。これにより、瞳孔計測装置は、計測者に任意の瞳孔径の値を提示することができる。
【0046】
なお、左眼と右眼の両方の眼球を撮影する場合は、1台の撮影部2で両眼を撮影してもよく、2台の撮影部2で左眼及び右眼の眼球をそれぞれ独立に撮影してもよい。1台の撮影部2で両眼を同時に撮影する場合には、撮影範囲のうちの眼球位置を予め設定することが望ましい。これにより、撮影部2により撮影した撮影画像における左右の眼球付近を特定でき、当該眼球付近となる領域をトリミングできる。また、撮影画像に瞳孔と類似する物体(まつげ、ホクロなど)が映り込むことを排除し、瞳孔領域の抽出精度を向上させることができ、瞳孔以外を抽出してしまう誤動作を避けることができる。
【0047】
以上のように、この瞳孔計測装置は、被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の上方から被験者の眼球Eに差し込む光を遮らないよう額当て22a及び顎置き22b、ハーフミラー21及び撮影部2が配置されている。したがって、この瞳孔計測装置によれば、被験者が日常生活と変わりない自然な状態で瞳孔径を計測することができる。
【0048】
すなわち、ゴーグルの装着や、筒状の筐体内を覗き込む構造を採用した場合は、被験者の眼球Eに差し込む周囲の光を装置が遮ってしまう。このため、被験者の眼球Eの周辺が暗くなり、図7(a)のように、撮影画像100における瞳孔領域101aが大きくなる散瞳が誘発される。また、片眼を遮蔽する構造の瞳孔計測装置では、片眼散瞳が誘発される。一方、明瞭な眼球撮影画像を取得するために、被験者の眼球Eに対して撮影照明を照射すると、図7(b)のように、撮影画像100における瞳孔領域101aが小さくなる縮瞳が誘発される。したがって、自然な瞳孔径を計測することができない。
【0049】
これに対し、第1実施形態として示す瞳孔計測装置によれば、(1)被験者の眼球Eの上方から差し込む光Lを遮らない構造となっており、且つ、(2)視線を遮らず両眼を開放して被験者の眼球Eを撮像できる。この(1)、(2)の構成を併用することにより、瞳孔計測装置は、日常生活と変わらない自然な状態で瞳孔径を計測できる。
【0050】
また、この瞳孔計測装置によれば、被験者の眼球Eと撮影部2との位置関係を固定するために、ゴーグルタイプのように被験者の顔に装置を装着する必要なく、装置の装着によって被験者の精神状態が日常と変わることなく、自然な状態で瞳孔径を計測できる。
【0051】
[第2実施形態]
つぎに、第2実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の第1実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0052】
第2実施形態に係る瞳孔計測装置は、制御部1における瞳孔抽出部11を使用せずに瞳孔径を算出するものである。この瞳孔計測装置は、例えば図8に示すように、制御部1に瞳孔抽出部11を備えていない。
【0053】
この瞳孔計測装置における瞳孔径算出部12は、図9に示すように、瞳孔が含まれる撮影画像に対して水平方向に伸びる走査線を設定して、瞳孔径を上から下方向に走査する。図9に示す例では、上から走査線L1,L2,L3,L4,L5を示している。各走査線L1〜L5は、瞳孔を横切る左側端点PL及び右側端点PRが検出される。瞳孔径算出部12は、各走査線L1〜L5のうち瞳孔を示す画素であると認識される暗い画素の端点を検出することで、左側端点PL及び右側端点PRを検出する。
【0054】
次に瞳孔径算出部12は、走査線L1〜L5の左側端点PLと右側端点PRとの距離のうち、最大値を特定する。この最大値Xmaxは、ピクセル数で表される。これにより、瞳孔径算出部12は、撮影部2により撮影された撮影画像を用いて瞳孔の水平方向の径である横径を求めることができる。
【0055】
瞳孔径算出部12は、上述の走査処理により求めた瞳孔の横径Xmax[ピクセル]に実寸換算処理を施すことが望ましい。このため、瞳孔径算出部12は、予め単位ピクセルの横幅A[mm]を設定しておく。そして、瞳孔径算出部12は、走査処理によって横径Xmax[ピクセル]を求めて、単位ピクセルの横幅A[mm]を乗算して、横径の実測値W(Xmax×A)[mm]を算出できる。
【0056】
この瞳孔計測装置において、瞳孔径算出部12は、瞳孔抽出部11を使用せずに、瞳孔の垂直方向の径である縦径を算出することができる。
【0057】
瞳孔径算出部12は、上述した走査処理によって、図10に示すように、撮影画像に対して複数の走査線を設定する。なお、図10のCは、瞳孔の理想的な中央線であり、Soは走査線上における瞳孔の幅の中央位置である。瞳孔径算出部12は、走査線のうち、瞳孔であると認識できる暗い画素を含む走査線の数が特定できる。図10の例では、瞳孔に、走査線がL〜Lだけ設定され、瞳孔を含む走査線の数は、Nとなる。したがって、瞳孔径算出部12は、瞳孔上に設定された走査線の数としてのY[ピクセル]を特定でき、当該Y[ピクセル]を瞳孔の縦径として算出できる。
【0058】
瞳孔径算出部12は、上述の走査処理により求めた瞳孔の縦径Y[ピクセル]に実寸換算処理を施すことが望ましい。このため、瞳孔径算出部12は、予め単位ピクセルの縦幅B[mm]を設定しておく。瞳孔径算出部12は、走査処理によって横径Y[ピクセル]を求めて、単位ピクセルの縦幅B[mm]を乗算して、縦径の実測値H(Y×B)[mm]を算出できる。
【0059】
瞳孔径算出部12は、瞳孔の縦径を算出するために他の方法を使用しても良い。瞳孔径算出部12は、図11に示すように、走査処理によって特定した横径Xmaxが得られる走査線から、瞳孔の横径が最小となる走査線までの数[ピクセル]を特定する。瞳孔の横径が最小となる走査線は、瞳孔が点のように認識され、瞳孔の最下線に相当する。瞳孔径算出部12は、横径Xmaxからの走査線の数[ピクセル]を2倍することによって、縦径Hを算出できる。
【0060】
図11に示すように、瞳孔径算出部12は、横径Xmaxが得られる走査線より下方向における走査線の数を使用して縦径を算出することが望ましい。この縦径の算出方法によれば、瞼と瞳孔が重なって瞳孔の上部が欠けても精度の高い縦径を算出できる。
【0061】
また、瞳孔径算出部12は、走査処理によって算出した瞳孔の横径Xmax又は縦径から瞳孔の面積を算出して、瞳孔の大きさを面積として表しても良い。
【0062】
以上のように、この瞳孔計測装置は、第1実施形態と同様に、被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の上方から被験者の眼球Eに差し込む光を遮らないよう額当て22a及び顎置き22b、ハーフミラー21及び撮影部2が配置されている。したがって、この瞳孔計測装置によれば、被験者が日常生活と変わりない自然な状態で瞳孔径を計測することができる。
【0063】
また、この瞳孔計測装置によれば、瞳孔抽出部11によって撮影画像から瞳孔領域を抽出することなく瞳孔径を算出できる。
【0064】
[第3実施形態]
つぎに、第3実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0065】
第3実施形態として示す瞳孔計測装置は、図12に示すように、上述した瞳孔径算出部12を使用せず、瞳孔径推定部12’によって瞳孔径を推定するものである。
【0066】
瞳孔径の計測において、被験者が日常生活と変わりない自然な状態で瞳孔径を計測するため、被験者の眼瞼が下垂している場合でも被験者の瞼を手などで引き上げるなどの行為をしない方が望ましい。
【0067】
例えば図13(a)に示すように、眼瞼が下垂していない時には瞳孔部分には眼瞼が重ならず、撮影画像の瞳孔部分には欠けがないものとなる。一方、被験者が高齢者等である場合などには、眼瞼が下垂して瞳孔の一部が隠れてしまう。この場合、図13(b)のように、撮影画像には瞳孔部分に欠けが現れる。図13(b)のように瞳孔に欠けが現れた場合、上述したような走査処理によって瞳孔径を計測しても正確な瞳孔径が計測できない可能性がある。
【0068】
瞳孔径推定部12’は、図14に示すように、三平方の定理によって瞳孔径を推定する。図14において、瞳孔の直径をd、半径をrとする。瞳孔が欠けている時の瞳孔の直径dは、下記の式3のように、
d=(y+(Xmax/2))/y (式3)
によって推定できる。この式3において、Xmaxは、撮影画像に現れている瞳孔部分において水平方向の走査線ACを設定したときの最大長さである。yはXmaxの垂線であって瞳孔部分の最下部を通る線分DBの長さである。
【0069】
図14において、(Xmax/2)>yの時、
AC=Xmax、AD=DC=Xmax/2、OA=OB=r、DB=y
となる。また、三角形OADにおいて三平方の定理を用いると、式4の関係式が成り立つ。
【0070】
OA=OD+AD=(OB−DB)+AD (式4)
上記の式4より、
=(r−y)+(Xmax/2)=r−2ry+y+(Xmax/2) (式5)
となる。実際の瞳孔中心からの半径rは、式5より、
r=(y+(Xmax/2))/2y (式6)
となる。よって、瞳孔の直径dは、式6より、
d=2r=(y+(Xmax/2))/y (式7)
となる。
【0071】
以上より、瞳孔計測装置は、撮影部2により撮影された瞳孔画像と、上記の式7から、瞳孔径を推定することができる。したがって、この瞳孔計測装置によれば、図13(b)のように眼瞼が下垂していても、瞳孔径を推定できる。
【0072】
また、この瞳孔計測装置は、撮影部2から得られた瞳孔画像における瞳孔が欠けていると判定したときのみ、上述した瞳孔径の推定をしても良い。
【0073】
この瞳孔計測装置は、図15に示すように、制御部1に、瞳孔欠け検出部13を備えている。瞳孔欠け検出部13は、撮影画像を用いて瞳孔部分が欠けた状態となっているかを検出する。
【0074】
瞳孔欠け検出部13は、上述した第2実施形態のように、撮影画像に対して水平方向に走査処理を行う。瞳孔欠け検出部13は、図16に示すように、走査線における左側端点PLと右側端点PRを求め、水平方向における瞳孔の幅S[ピクセル]を検出する。瞳孔欠け検出部13は、当該瞳孔の幅Sの中央位置Soを算出する。
【0075】
撮影画像内における瞳孔に欠けが無い場合、この中央位置Soは、瞳孔の理想的な中央線Cと一致する。しかし、撮影画像内における瞳孔に欠けが現れた場合、この中央位置Soは、中央線Cからずれる。
【0076】
瞳孔径推定部12’は、中央位置Soが中央線C上に存在する場合に、当該走査線が欠けていないと判定できる。また、瞳孔径推定部12’は、第2実施形態において算出された横径Xmaxの上方から瞳孔領域の最下部まで中央位置Soが水平方向に対して一定になった場合、瞳孔中心を通る水平方向の径に欠けが無いと判定できる。
【0077】
瞳孔径推定部12’は、図17に示すように、横径Xmaxが算出できる位置又はその下方を始点として最下部まで中央位置Soが一定になった場合、瞳孔中心を通る水平方向の径に欠けがあると判定できる。
【0078】
このように、瞳孔径推定部12’は、走査処理を行って、複数の走査線における中央位置Soの変化から瞳孔の欠けを検出できる。なお、瞳孔径推定部12’は、中央位置Soが一定となる領域が瞳孔の上部と下部で2つ以上存在した場合は、より下部の領域を採用する。
【0079】
また、瞳孔欠け検出部13は、図18(a)、(b)、(c)に示すように、撮影画像において瞳孔が欠けている場合には、(Xmax/2)>yが成り立つ。図18(a)は横径が最大値Xmaxとなる走査線及び瞳孔中心Oを通る中央線Cが欠けている状態を示す。図18(b)は横径が最大値Xmaxとなる走査線における実際の瞳孔中心O及び中央線Cが欠けている状態を示す。図18(c)は横径が最大値Xmaxとなる走査線のみが欠けている状態を示す。これらの何れかの状態であっても、撮影画像における瞳孔が欠けている場合には、(Xmax/2)>yの関係が成り立つ。
【0080】
よって、瞳孔欠け検出部13は、当該関係が成り立つ場合には瞳孔に欠けが現れていると判定できる。一方、瞳孔欠け検出部13は、当該関係が成り立たない場合には瞳孔に欠けが現れていないと判定できる。
【0081】
なお、瞳孔計測装置は、走査線における中央位置Soから瞳孔の欠けを検出するのみならず、瞳孔の上半分と下半分との面積差分、瞳孔の曲率変化によって瞳孔の欠けを検出することもできる。
【0082】
瞳孔欠け検出部13は、撮影画像における瞳孔に欠けが現れていると判定した場合、その旨を瞳孔径推定部12’に供給する。これにより、瞳孔径推定部12’は、撮影画像における瞳孔に欠けが現れていると判定した場合にのみ、瞳孔径を推定する。一方、この瞳孔計測装置においては、撮影画像における瞳孔に欠けが現れていないと判定した場合には、瞳孔径を推定することなく、瞳孔径を算出する。このとき、瞳孔径推定部12’は、瞳孔径算出部12と同様に動作する。すなわち、瞳孔径推定部12’は、上述した式1a〜式2bによって瞳孔径を算出しても良く、図9乃至図11に示した走査処理によって瞳孔径を算出しても良い。
【0083】
以上のように、この瞳孔計測装置によれば、撮影部2により撮影された撮影画像を用いて瞳孔径の長さを推定できる。これにより、瞳孔計測装置によれば、図13(b)のように、喩え眼瞼が下垂したことによって撮影画像における瞳孔が欠けていても、瞳孔径を求めることができる。したがって、この瞳孔計測装置によれば、被験者が日常生活と変わりない自然な状態で瞳孔径を計測することができる。
【0084】
また、この瞳孔計測装置によれば、撮影部2により撮影された撮影画像から瞳孔中心を通る水平方向の径の一部又は全部の欠けを検出できる。これにより、この瞳孔計測装置によれば、撮影画像における瞳孔に欠けがある場合には瞳孔径を推定し、欠けが無い場合には、撮影画像から瞳孔径を算出できる。
【0085】
更に、この瞳孔計測装置によれば、撮影画像において瞳孔に欠けが発生した場合に、計測者に通知することができる。これにより、計測者に対して正しい瞳孔径が計測できない可能性や、瞳孔径を推定することや、撮影画像の取り直しを促すことを通知できる。
【0086】
[第4実施形態]
つぎに、第4実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0087】
第4実施形態として示す瞳孔計測装置は、撮影部2により撮影された撮影画像から瞳孔領域を抽出し、抽出された瞳孔領域に重なった異物を除去し、当該瞳孔領域を補間するものである。この瞳孔領域に重なる異物としては、主として、瞳孔以外の睫毛などが挙げられる。
【0088】
例えば図19に示すように、撮影部2により撮影した撮影画像に睫毛が混入した場合、瞳孔抽出部11によって瞳孔領域の抽出のために、撮影画像に対して2値化を行うと、睫毛部分は、瞳孔領域としては認識されない。すなわち、2値化後の撮影画像において、瞳孔領域は黒となるが、睫毛部分は白となる。図19は、睫毛部分がノイズN1〜N5として現れている様子を示している。睫毛が混入した状態で抽出された瞳孔領域は、当該睫毛のために、各走査線L1,・・・が分断されてしまう。
【0089】
そこで、瞳孔抽出部11は、抽出された瞳孔領域に重なった異物を除去し、当該瞳孔領域を補間する。例えば、図20に示すように、走査線上における睫毛部分によるノイズNの横幅Xn[ピクセル]が、所定の設定値[ピクセル]よりも小さいか否かを判定する。この所定の設定値は、例えば実際に睫毛が混入した様子に基づいて数個のピクセルと設定する。瞳孔抽出部11は、ノイズNの横径Xnが所定の設定値よりも小さい場合には瞳孔領域が連続しているものとして走査線を補間する。このとき、瞳孔抽出部11は、ノイズNの横径Xnが所定の設定値よりも小さい部分を瞳孔領域として塗りつぶしても良い。
【0090】
このように、瞳孔抽出部11は、瞳孔領域に重なった異物を除去し、瞳孔領域を補間するので、瞳孔に睫毛が重なった状態で撮影部2により撮影しても、当該睫毛によって瞳孔領域が算出できないことを回避することができる。したがって、瞳孔計測装置によれば、被験者が日常生活と変わりない自然な状態において睫毛が瞳孔に重なることが多くても、睫毛を強制的に持ち上げるなどの処置をする必要が無い。よって、上述した実施形態と同様に、日常生活と変わりない自然な状態で瞳孔径を計測することができる。
【0091】
[第5実施形態]
つぎに、第5実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0092】
第5実施形態として示す瞳孔計測装置は、瞳孔抽出部11によって瞳孔領域が2以上抽出された場合に、予め設定された判断条件によって瞳孔領域を一箇所に確定するものである。
【0093】
上述の第1実施形態で説明したように、本願の瞳孔計測装置は、被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の上方から被験者の眼球Eに差し込む光を遮らないよう額当て22a及び顎置き22b、ハーフミラー21及び撮影部2が配置されている。しかし、瞳孔計測装置が設置された光環境によっては、被験者の眼における目尻や目頭に影が発生してしまう。この場合、瞳孔抽出部11によって瞳孔領域が2以上抽出されてしまう。
【0094】
そこで、瞳孔計測装置は、撮影画像から瞳孔領域を抽出した後に、目尻や目頭付近において瞳孔領域と抽出された部分を除くように、予め設定された判断条件によって瞳孔領域を一箇所に確定する。この判断条件は、瞳孔領域の形状、撮影画像内における位置、上述の横径Xmaxの大きさが挙げられる。例えば、撮影画像内における略中心位置に現れ、略真円形状であり、他の瞳孔領域よりも大きいサイズのものを、正しい瞳孔領域として一箇所に確定する。
【0095】
以上のように、瞳孔抽出部11は、撮影画像に影等が発生して2以上の瞳孔領域が抽出されても、1つの瞳孔領域を確定できる。したがって、この瞳孔計測装置によれば、被験者の眼の周りの光環境に拘わらず、日常生活と変わりない自然な状態で瞳孔径を計測することができる。
【0096】
[第6実施形態]
つぎに、第6実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0097】
この瞳孔計測装置は、図22に示すように、瞳孔径算出部12により算出された瞳孔径の値を保存する保存部14と、瞳孔径算出部12により算出された瞳孔径を保存する任意の時間間隔を設定する時間間隔設定部15とを備える。
【0098】
この瞳孔計測装置は、時間間隔設定部15によって瞳孔径算出部12により算出された瞳孔径を算出する間隔を設定する。この時間間隔設定部15は、例えば計測者によって任意の時間間隔が入力される。この時間間隔は、瞳孔が周囲の明るさや揺らぎによって常に変化しているため、当該変化が計測できるような短い時間間隔であることが望ましい。そして、時間間隔設定部15は、保存部14によって、設定された任意の時間間隔ごとに瞳孔径算出部12により算出された瞳孔径を保存させる。
【0099】
これにより、瞳孔計測装置によれば、制御部1によって、任意の時間間隔ごとに保存部14に保存した瞳孔径を時系列に提示部3に出力する。これによって、計測者に時間経過に対する瞳孔径の変化を通知できる。ここで、瞳孔は、周囲の明るさや揺らぎによって常に変化している。これに対し、この瞳孔計測装置は、時間経過による瞳孔の変化を提示することができる。
【0100】
また、提示部3は、数値の羅列によって瞳孔径の変化を提示しても良く、グラフに加工して瞳孔径の変化を提示してもよい。また、制御部1は、任意の時間間隔で保存された瞳孔径の値を用いて、時間的に前後する複数の瞳孔径の差分を演算し、瞳孔径の変化量を提示することもできる。
【0101】
[第7実施形態]
つぎに、第7実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0102】
第7実施形態として示す瞳孔計測装置は、図23に示すように、第6実施形態に対して、平均瞳孔径算出部16及び計測時間設定部17を更に備える。
【0103】
計測時間設定部17は、瞳孔径を計測する任意の計測時間を設定する。この計測時間は、例えば、計測者によって任意の値が入力される。この計測時間は、瞳孔が周囲の明るさや揺らぎによって常に変化しているため、当該揺らぎ間隔や揺らぎ度合いを考慮して、被験者本来の瞳孔径が計測できる時間とすることが望ましい。
【0104】
平均瞳孔径算出部16は、計測時間設定部17により設定された計測時間に亘って瞳孔径算出部12により算出され保存部14に保存された複数の瞳孔径の値を用いて、瞳孔径の値の平均値を求める。このとき、平均瞳孔径算出部16は、任意の計測時間において、任意の時間間隔ごとに算出された瞳孔径の保存回数と、保存された瞳孔径の値とから、瞳孔径の平均値を取得する。
【0105】
これにより、この瞳孔計測装置によれば、瞳孔が周囲の明るさや揺らぎによって常に変化していても、瞳孔径の平均値を求めることによって、被験者本来の瞳孔径に対して精度の高い瞳孔径を計測できる。すなわち、瞬間の計測値を用いて精度の高い瞳孔径を確定することが困難であっても、瞳孔径の平均値を提示できる。
【0106】
[第8実施形態]
つぎに、第8実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0107】
第8実施形態として示す瞳孔計測装置は、撮影部2を赤外線カメラとし、被験者の眼球Eに赤外線光を照射する照明ユニット23を備えている。
【0108】
この照明ユニット23は、図3及び図4、図24に示すように、頭部固定部としての額当て22a及び顎置き22bによって被験者の眼球Eが固定された状態で、被験者の視線を妨げないよう設置されている。図24に示すように、照明ユニット23は、被験者の眼球E上方の赤外線LED31a、被験者の眼球E下方の赤外線LED31bを含む。
【0109】
更に具体的には、照明ユニット23は、図25に示すように、中央が開口部23bとされて被験者の眼球Eの視線を通過させるよう成形された本体部23aを有する。この本体部23aは、開口部23bにおける縁部を被験者の眼球E側に傾斜した面に、複数の赤外線LED23cが設けられている。この赤外線LED23cは、右眼用の上方LEDが4個、右眼用の下方LEDが4個、左眼用の上方LEDが4個、左眼用の下方LEDが4個設けられている。このように小型の赤外線LED23cを被験者の眼球Eの周囲に複数設けることによって、視界を遮ることなく効率的に被験者の眼球Eを照射する。
【0110】
この瞳孔計測装置は、撮影部2による撮影画像の取得時に、照明ユニット23によって赤外線LEDを点灯させる。ここで、赤外線光は、被験者には見えないので、瞳孔を縮瞳させることはない。これにより、被験者の眼球Eが鮮明に撮像された撮影画像を得る。この撮影画像は、瞳孔以外の画像部分を白飛びさせて、周囲の状況に拘わらず瞳孔抽出をコンスタントに行うことができるようにする。
【0111】
このような瞳孔計測装置は、被験者の眼球Eに赤外線光を照射して、赤外線カメラで被験者の眼球Eを撮影することにより、瞳孔を縮瞳させることなく、撮影環境を明るくでき、瞳孔が明瞭な撮影画像を取得することができる。これにより、瞳孔計測装置は、自然な状態の瞳孔で、精度の高い瞳孔径を算出できる。
【0112】
[第9実施形態]
つぎに、第9実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0113】
第9実施形態として示す瞳孔計測装置は、被験者による瞼の瞬きやノイズ等で誤計測が生ずる撮影画像を排除するものである。この瞳孔計測装置は、図26に示すように、第7実施形態に対して、データ排除部18及び排除条件設定部19を備える。
【0114】
排除条件設定部19は、瞳孔径算出部12により算出された瞳孔径値データのうち、排除する瞳孔径値データの条件を設定する。
【0115】
データ排除部18は、瞳孔径算出部12により算出された瞳孔径値データのうち、排除条件設定部19により設定された条件に適合する値を排除する。このとき、データ排除部18は、排除条件設定部19により設定された条件に適合する瞳孔径値データを保存部14に保存させないようにする。これにより、保存部14は、データ排除部18で排除された瞳孔径値データを保存しない。
【0116】
具体的には、被験者の生理的な瞳孔の大きさは、一般的に直径2〜4mmである。このため、排除条件設定部19は、排除する瞳孔径値データの条件を1mm以下且つ6mm以上と設定する。なお、この具体的な値はあくまで一例である。この具体的な値は、計測者による入力操作等によって設定される。
【0117】
被験者の眼の瞬きによって瞳孔抽出部11が瞳孔領域を抽出できずに、瞳孔径算出部12によって瞳孔径が0mmと出力される場合がある。また、ノイズなどの外乱によって瞳孔径算出部12によって6mm以上の瞳孔径が出力された場合がある。これら場合の瞳孔径値データは、排除する瞳孔径値データの条件としての1mm以下且つ6mm以上の条件に該当する。したがって、データ排除部18は、当該瞳孔径値データを保存部14には保存させない。
【0118】
また、排除条件設定部19は、瞳孔径値データの排除条件を、前回の算出値との差分として設定してもよい。例えば、排除条件設定部19によって差分を2mmと設定すると、データ排除部18は、前回に保存部14に保存した瞳孔径値データと今回に瞳孔径算出部12で算出された瞳孔径値データとの差分を演算する。2mm以上の差分が発生した場合は、データ排除部18は、今回の瞳孔径値データを排除する。この時、データ排除部18は、差分が発生する前に算出された瞳孔径値データと現在に算出された瞳孔径値データとの差分が2mm以下になるまで、瞳孔径値データを排除し続ける。
【0119】
以上のように、この瞳孔計測装置によれば、被験者の瞬きや、撮影画像に発生したノイズによって瞳孔径が誤検出されても、排除条件設定部19によって設定した条件によってデータ排除部18が、誤検出された瞳孔径値データを排除する。これにより、この瞳孔計測装置によれば、瞳孔径値データの計測精度を向上させることができる。
【0120】
また、この瞳孔計測装置は、被験者ごとに瞳孔径値データを排除する条件を変更することが望ましい。これにより、被験者の個性に応じて精度の高い瞳孔径値データを保存することができる。
【0121】
具体的には、生理的な瞳孔の大きさは、年齢、性別、精神状態など、いろいろな影響を受ける。一般的な瞳孔径は、直径2〜4mmであり、左右ほぼ同じ大きさである。しかし、正常者のおよそ20%の者は、多少の左右差を認めるものもある。したがって、このような被験者では、左眼と右眼とで排除条件を変更しても良い。また、瞳孔径は、新生児期には小さく、5〜25歳で最も大きくなり、老年になると再び小さくなる。したがって、被験者が新生児期や老年である場合には、排除条件としての大きさ[mm]の上限値を低くしても良い。
【0122】
[第10実施形態]
つぎに、第10実施形態として示す瞳孔計測装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0123】
第10実施形態として示す瞳孔計測装置は、撮影部2により撮影された撮影画像に単位長さの目盛を重畳するものである。瞳孔計測装置は、目盛重畳手段として、図27に示すように、眼球Eとハーフミラー21との間に、目盛フィルタ24を配置している。この目盛フィルタ24は、第1実施形態と同様に、被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の上方から被験者の眼球Eに差し込む光を遮らないよう配置されている。
【0124】
具体的には、図3乃至図5に示した構成において、眼球固定部としての額当て22a、顎置き22bの枠に目盛フィルタ24を取り付けることができる。目盛フィルタ24は、図28に示すように、瞳孔領域の上部及び下部に目盛が含まれるようになっている。
【0125】
また、目盛フィルタ24と同じように瞳孔領域に目盛を重畳するための構成としては、図29に示すように、画像処理によって、瞳孔領域に目盛が重畳するようにしても良い。
【0126】
以上のように、この瞳孔計測装置によれば、上述したように、瞳孔径算出部12又は瞳孔径推定部12’によって瞳孔径を求めると共に、瞳孔に対する目盛を視認可能とできる。
【0127】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0128】
1 制御部
2 撮影部
3 提示部
11 瞳孔抽出部
12 瞳孔径算出部
12’ 瞳孔径推定部
13 瞳孔欠け検出部
14 保存部
15 時間間隔設定部
16 平均瞳孔径算出部
17 計測時間設定部
18 データ排除部
19 排除条件設定部
20 筐体
20a 筐体
21 ハーフミラー
23 照明ユニット
23a 本体部
23b 開口部
23c LED
24 目盛フィルタ
31a LED
31b LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の眼球位置を固定する眼球固定部と、
前記眼球固定部により被験者の眼球位置が固定された状態で、左眼と右眼のうちの少なくとも一方の眼球の眼前に配置されたハーフミラーと、
前記ハーフミラーを介した入射光から眼球を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔径を算出する瞳孔径算出手段と、
前記瞳孔径算出手段で算出された瞳孔径の値を提示する提示手段とを有し、
前記眼球固定部により被験者の眼球位置が固定した状態で、被験者の上方から眼球に差し込む光を遮らないよう前記眼球固定部、前記ハーフミラー及び前記撮影手段が配置されていること
を特徴とする瞳孔計測装置。
【請求項2】
前記瞳孔径算出手段は、前記撮影手段により撮影された眼球画像を用いて瞳孔径の長さを推定することを特徴とする請求項1に記載の瞳孔計測装置。
【請求項3】
前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔中心を通る水平方向の径の一部又は全部の欠けを検出する瞳孔欠け検出手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の瞳孔計測装置。
【請求項4】
前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔領域を抽出する瞳孔抽出手段を備え、
前記瞳孔抽出手段は、前記抽出された瞳孔領域に重なった異物を除去し、当該瞳孔領域を補間することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の瞳孔計測装置。
【請求項5】
前記撮影手段により撮影された眼球画像から瞳孔領域を抽出する瞳孔抽出手段を備え、
前記瞳孔抽出手段は、前記瞳孔領域が2以上抽出された場合に、予め設定された判断条件によって瞳孔領域を一箇所に確定することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の瞳孔計測装置。
【請求項6】
前記瞳孔径算出手段により算出された瞳孔径の値を保存する保存手段と、
前記瞳孔径算出手段により算出された瞳孔径を前記保存手段に保存する任意の時間間隔を設定する時間間隔設定手段と
を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の瞳孔計測装置。
【請求項7】
前記瞳孔径を計測する任意の計測時間を設定する計測時間設定手段と、
前記計測時間設定手段により設定された計測時間に亘って前記瞳孔径算出手段により算出されて前記保存手段に保存された瞳孔径の値の平均値を求める平均瞳孔径算出手段と
を備えることを特徴とする請求項6に記載の瞳孔計測装置。
【請求項8】
前記撮影手段は、赤外線カメラであり、
被験者の眼球に赤外線光を照射する照明手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の瞳孔計測装置。
【請求項9】
前記瞳孔径算出手段により算出された瞳孔径の値のうち、排除する値の条件を設定する排除条件設定手段と、
前記排除条件設定手段により設定された条件に適合する値を排除するデータ排除手段とを備え、
前記保存手段は、前記データ排除手段で排除されたデータを保存しないことを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか一項に記載の瞳孔計測装置。
【請求項10】
前記撮影手段により撮影された眼球画像に単位長さの目盛を重畳する目盛重畳手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の瞳孔計測装置。
【請求項11】
前記眼球固定部により被験者の眼球位置を固定した状態で、被験者の視線方向を中心として、水平方向において100度以上、下方向に50度以上の開放視野を有するよう前記眼球固定部、前記ハーフミラー及び前記撮影手段が配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか一項に記載の瞳孔計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−210394(P2012−210394A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151231(P2011−151231)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)