石化遺骨灰の製造方法
【課題】溶融坩堝内の遺骨灰を溶融させる溶融工程にて、溶融した遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減させることで、安定して石化遺骨灰を製造することのできる石化遺骨灰の製造方法を提供すること。
【解決手段】火葬した人または愛玩動物の遺骨灰を粉砕する粉砕工程S4と、粉砕した遺骨灰のみが投入された溶融坩堝の周囲雰囲気を減圧雰囲気とする減圧工程S8と、減圧雰囲気に配置された溶融坩堝内の遺骨灰を加熱して溶融させる溶融工程S9と、溶融工程S9にて溶融させた溶融遺骨灰を徐冷して石化させる徐冷工程S11と、を含む石化遺骨灰の製造方法であって、遺骨灰から金属成分を除去する除去工程S1〜3,S6〜7をさらに含み、除去工程にて金属成分が除去された遺骨灰を、溶融工程S9にて溶融させる。
【解決手段】火葬した人または愛玩動物の遺骨灰を粉砕する粉砕工程S4と、粉砕した遺骨灰のみが投入された溶融坩堝の周囲雰囲気を減圧雰囲気とする減圧工程S8と、減圧雰囲気に配置された溶融坩堝内の遺骨灰を加熱して溶融させる溶融工程S9と、溶融工程S9にて溶融させた溶融遺骨灰を徐冷して石化させる徐冷工程S11と、を含む石化遺骨灰の製造方法であって、遺骨灰から金属成分を除去する除去工程S1〜3,S6〜7をさらに含み、除去工程にて金属成分が除去された遺骨灰を、溶融工程S9にて溶融させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火葬した人骨や愛玩動物の骨灰のみを含む石化遺骨灰の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亡くなられた人や愛玩動物(ペット)を追悼する手法としては、生前の写真等を写真立て等に入れて飾ることが一般的になされているが、近年にあっては、これら亡くなられた人や愛玩動物(ペット)をより身近に感じていられるようにと、これら火葬に付された遺骨または骨灰の一部を身につけていられるように、高温にて焼成して石状の焼成体としたものがある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、これら焼成体の製造を依頼する遺族等にとってみれば、得られる焼成体に、ほんど微量の遺骨または骨灰が含まれているのみでは、その焼成体から亡くなられた人や愛玩動物(ペット)を感じることが希薄となることから、より多くの遺骨または骨灰が含まれていること、好ましくは、遺骨または骨灰のみ(100%)から成るものを望む遺族が多く、これらの遺族の要望に答えるために、遺骨灰のみしか含まない石化遺骨灰を製造することができる石化遺骨灰の製造方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−167135号公報
【特許文献2】特開2008−1577号公報
【特許文献3】特開2009−136418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の石化遺骨灰の製造方法にあっては、溶融坩堝内の遺骨灰を溶融させる溶融工程にて、溶融された遺骨灰が突沸する突沸現象が発生し、この突沸現象によって溶融された遺骨灰が飛散してしまうことがあり、このような現象が生じると良好な形状の石化遺骨灰を得ることができず、安定して石化遺骨灰を製造できないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、溶融坩堝内の遺骨灰を溶融させる溶融工程にて、溶融した遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減させることで、安定して石化遺骨灰を製造することのできる石化遺骨灰の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
火葬した人または愛玩動物の遺骨灰を粉砕する粉砕工程と、粉砕した遺骨灰のみが投入された溶融坩堝の周囲雰囲気を減圧雰囲気とする減圧工程と、減圧雰囲気に配置された溶融坩堝内の遺骨灰を加熱して溶融させる溶融工程と、該溶融工程にて溶融させた溶融遺骨灰を徐冷して石化させる徐冷工程と、を含む石化遺骨灰の製造方法であって、
遺骨灰から金属成分を除去する除去工程をさらに含み、該除去工程にて金属成分が除去された遺骨灰を、前記溶融工程にて溶融させることを特徴としている。
この特徴によれば、副葬品や火葬用具等に使用される金属部材や歯科治療や外科治療等に使用される金属部材などの様々な金属成分が遺骨灰には含まれているが、これら遺骨灰に含まれる金属成分を、除去工程にて予め除去することにより、これら金属成分が溶融工程の最中において、例えば、加熱によって急激に気化したり、或いは、遺骨灰中の成分と反応する等によって突沸現象が発生することを著しく低減できるようになるので、安定して石化遺骨灰を製造することができる。
【0008】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、磁力によって除去する磁力除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、遺骨灰に含まれる着磁可能な金属を、磁力を有する磁石等により吸着して遺骨灰から容易に除去することができ、これら着磁可能な金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0009】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、該遺骨灰を水洗いすることで除去する水洗除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、遺骨灰に含まれる金属が、例えば、火葬時等にガス化または粉末化して遺骨灰に付着することで磁石等により除去することが困難であっても、水洗いによって水に溶解(イオン化)させて遺骨灰から容易に除去することができ、これら遺骨灰に付着している金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0010】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、錯体試薬を用いて除去する試薬除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、遺骨灰に含まれる金属が、例えば、磁石による吸着や水洗いによっても良好に除去できない金属であっても、錯体試薬によってこれら金属を錯体化させることによって遺骨灰から容易に除去することができ、これらの金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0011】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰から金属の含有量が多い多含有部位を選別して除去する選別除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、骨には、部分的に金属を比較的多く含む多含有部位が存在するので、これら多含有部位を選別して除去することにより、金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を更に低減できる。
【0012】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記多含有部位は、関節部または骨髄部であることを特徴としている。
この特徴によれば、関節部は関節強度を確保するための金属が多く含まれる部位であり、骨髄部は造血のための鉄分等の金属が多く含まれる部位であり、これら多含有部位を除去することで、遺骨灰に含まれる金属を効率良く低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ボールミル、真空溶融炉、振動ふるい機を示す正面図である。
【図2】ボールミル、真空溶融炉、振動ふるい機を示す側面図である。
【図3】真空溶融炉の内部構造を示す縦断正面図である。
【図4】真空溶融炉の内部構造を示す縦断側面図である。
【図5】耐熱坩堝及び坩堝ソケットを示す縦断側面図である。
【図6】火葬後の遺骨に付着した金属製分を説明する図である。
【図7】骨の各部位を説明する図である。
【図8】遺骨を水洗いする状況を示す図である。
【図9】金属成分を錯体試薬を用いて遺骨灰粉体から除去する状況を示す図である。
【図10】耐熱坩堝内での遺骨灰粉体を溶融状況を示す概念図である。
【図11】石化遺骨灰の製造方法を示すフローチャート図である。
【図12】完成した石化遺骨灰を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る石化遺骨灰の製造方法を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0015】
実施例に係る石化遺骨灰の製造方法につき、図1から図12を参照して説明する。図1に示したのは、本発明の石化遺骨灰の製造方法を実施するために必要なボールミル1と、振動ふるい機3、真空溶融炉2である。尚、ボールミル1は遺骨を粉砕するために用いられ、振動ふるい機3は、粉砕した遺骨灰を分級するために用いられ、真空溶融炉2は遺骨を加熱溶融するために用いられる。
【0016】
本実施例では、遺骨灰(遺骨)を粉砕するための手段として、ボールミル1を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら粉砕するための手段はとしては、その他の粉砕機を使用しても良い。また、振動ふるい機は一般的な卓上型の振動ふるい機を使用することができる他、音波ふるい機等も使用することが可能である。
【0017】
尚、振動ふるい機3には、3段のナイロンメッシュふるいを用いて分級を実施しており、1段目は、投入した遺骨灰をふるい面の前面に拡散させて効率良くふるいを行うとともに、遺骨灰中に混入している夾雑物を取り除くための非常に粗いメッシュ(30メッシュ)のふるいを配置し、その下方(2段目)に、100メッシュのふるいを配置し、さらにその下方(3段目)に、150メッシュのふるいを配置して、150メッシュを通過した遺骨灰を外部に取り出せるようになっている。
【0018】
図1に示すように、真空溶融炉2には、略円筒体状の真空チェンバ4と、真空チェンバ4に接続されて真空チェンバ4内の気圧を低減させて真空状態にするための真空ポンプ5と(図2参照)、真空チェンバ4と真空ポンプ5を支持し、かつ真空チェンバ4全体に振動を与えることができる加振動台6とが設けられている。これら真空チェンバ4と真空ポンプ5と加振動台6が電気ケーブル7,8,9を介して制御ユニット10に接続され、作業者は制御ユニット10を操作することにより真空溶融炉2の制御が行えるようになっている。
【0019】
図2に示すように、真空チェンバ4の正面には、作業者が真空チェンバ4内部の様子を監視するための監視窓11が形成された開閉可能な蓋体13が設けられている。真空チェンバ4の上部には接続部14が形成され、この接続部14に監視窓12や温度センサ(図示略)等が設けられたアダプタ15が接続されている。
【0020】
また、真空チェンバ4と真空ポンプ5とを連結する連結管16には、リークバルブ17が設けられており、このリークバルブ17を開放することにより真空チェンバ4内の減圧状態を解除できる。
【0021】
図3及び図4に示すように、真空チェンバ4は二重壁のデュワー瓶構造をなしており、真空チェンバ4の内部と外部とを断熱できる。真空チェンバ4の内部には、真空チェンバ4の内面に設けられた枢軸18を中心として垂直方向に揺動可能な揺動台19が設けられており、この揺動台19は真空チェンバ4の側部に取り付けられた駆動モータ20の駆動によって揺動される。
【0022】
揺動台19上には、耐熱坩堝21を保持するための坩堝ソケット22が取り付けられており、坩堝ソケット22の周囲には、高周波コイル23が捲きつけられている。高周波コイル23は駆動モータ20の軸心を貫通して設けられた同軸電極24に接続されており、同軸電極24には電気ケーブル7を介して制御ユニット10から電力が供給されるようになっている(図1参照)。尚、本実施例では、高密度炭素坩堝などの耐熱坩堝21を用いている。
【0023】
本実施例では、耐熱坩堝21が用いられ、この耐熱坩堝21は、有底円筒状とされて、その内部にボールミル1によって遺骨26を粉砕した遺骨灰粉体27が投入される。これら遺骨灰粉体27を投入して、この遺骨灰粉体27を溶融させる炭素坩堝21としては、その炭素密度が低いと、坩堝21の熱伝導率が比較的低く、加熱による温度ムラが生じ易くなることから、熱伝導率の良い耐熱坩堝21を使用することが好ましい。
【0024】
また、これら耐熱坩堝21の厚みとしては、これが薄いと、後述する高周波加熱コイルからの熱が、局部的に遺骨灰粉体27に加わり、遺骨灰粉体27内での温度ムラによる過度の対流発生による変形や、溶融遺骨灰27の突沸現象による飛散等を生じ易くなる一方、これが厚いと、原因は定かではないが、溶融遺骨灰27が部分的に飛散する現象が頻発するので、この厚みとしては3mm前後のものを使用することが好ましい。
【0025】
図5に示すように、坩堝ソケット22(外筒坩堝ともいう)と坩堝21との間には、セラミックウール等の耐熱性断熱材31が介在されている。この耐熱性断熱材31は、後述する徐冷工程にて、溶融遺骨灰27の溶融坩堝21に接触される部位27bの温度低下速度と、溶融遺骨灰27の減圧雰囲気に暴露される部位27aの温度低下速度と、を略同一にする温度低下速度同一手段となっている。
【0026】
次に、前述した本実施例におけるボールミル1、振動ふるい機3、真空溶融炉2を用いて、遺骨26から石化遺骨灰28を製造するための工程を図11に示すフローチャートに基づいて以下に説明する。
【0027】
火葬場で火葬された遺骨26には、副葬品等に使用される金属部材や歯科治療に使用される金属部材などの様々なの金属成分が遺骨灰に含まれており、これら遺骨26に含まれる金属部材を除去する。
【0028】
図11に示すように、先ず、火葬場で火葬された遺骨26に含まれる鉄釘等の着磁可能な金属成分を、磁力を有する永久磁石等(電磁石でもよい)により吸着して手作業で除去する(S1,磁力除去工程)。また、磁石に吸着されない金属成分は、目視により除去を行う(S2,目視除去工程)。尚、耐火材、土、砂、石、ガラス、石灰、煉瓦屑などの金属以外の外的混入物も可能な限り除去するようにする。
【0029】
金属成分が遺骨26に含まれた状態であると、後述する加熱溶融時において、金属成分が高周波の影響を受けたり、周辺温度により高温化したりして、金属成分が急激に気化などされることで、溶融された溶融遺骨灰27が突沸する突沸現象が発生し、この突沸現象によって溶融された溶融遺骨灰27が飛散することがあり、このような現象が生じると完成した石化遺骨灰28に形状不良が生じる虞がある。そのため可能な限り金属成分を除去する。
【0030】
火葬された遺骨26には、アルミニウム、クロム、コバルトなどの様々な金属成分が含まれる。これらの金属成分は、副葬品等に含まれる衣類やアクセサリーなどの外的混入物が火葬の際に燃焼されて遺骨26に付着したものである。例えば、図6に示すように、遺骨26には、アルミ箔32のような銀色のものが付着していたり、銅の溶融物33のような茶褐色のものが付着していたり、種類は不明であるが、青色の溶着物34が付着されたりしている。これら遺骨26の着色部位は、手作業にて遺骨26から削り落とすようにする。
【0031】
尚、この目視除去工程には、石化遺骨灰28の製造に用いる遺骨26の部位を選別する選別工程が含まれる。遺骨26には、主成分であるリン酸カルシウム以外に、様々な物質成分が含まれており、特に、遺骨26に含まれる金属成分は、突沸現象の原因にもなっているが、製造後の石化遺骨灰28の色合いに影響を与えるようになっている。
【0032】
そこで、遺骨26を金属成分の含有量が多い多含有部位と金属成分の含有量が少ない少含有部位とに適宜選別して、所定の部位を用いるようにする。図7は、人間の大腿骨等の長骨25を示しており、このような骨25において、多含有部位とは、関節部25aまたは骨髄部25bのような部位となっている。関節部25aは関節の強度を確保するために金属成分が多く含まれる部位であり、骨髄部25bは造血のために鉄分等の金属成分が多く含まれる部位である。尚、関節部25aの内部及び骨髄部25bの構造は、多数の空隙を有する多孔質な部位となっているため、この部位に火葬時にガス化若しくは粉末化した金属成分が付着し易くなっているとも考えられる。また、少含有部位とは、骨幹部25c(特にその表面)のような部位となっている。この少含有部位は骨26の主成分が密になっていると考えられる。
【0033】
尚、本実施例では、多含有部位及び少含有部位の例として長骨25を参照したが、頭蓋骨や骨盤や脊椎等の骨であっても、金属成分の含有量が多い多含有部位と金属成分の含有量が少ない少含有部位とが存在しているため、これらは適宜選別して用いるようにする。更に尚、多含有部位を用いた場合には、製造後の石化遺骨灰28が有色系(黒色系、茶色系、灰色系、緑色系、青色系、紫色系等)の色合いになり、少含有部位を用いた場合には、製造後の石化遺骨灰28が白色系の色合いになる。
【0034】
本実施例では、白色系の色合いの石化遺骨灰28を製造する目的、及び加熱溶融時の突沸現象を低減させる目的で、少含有部位を用いるようにする。尚、微量の金属成分であれは、突沸現象の発生を抑えられるため、副葬品等の他の金属成分を完全に除去した状態であれば、遺骨26の多含有部位をあえて用いて有色系の石化遺骨灰28を製造するようにしてもよい。
【0035】
次に、遺骨26を水洗いする。ザル35の中に遺骨26を投入し(図8(a)参照)、このザル35を水36(お湯)が入った容器37に沈めて遺骨26を水洗いする(図8(b)参照)。この水洗いにより火葬時にガス化または粉末化して遺骨26に付着したの金属成分を水洗いにより洗い流すことができる(S3,水洗除去工程)。
【0036】
特に、水溶性のイオン化傾向のある金属成分を除去することができる。尚、金属成分のイオン化を促進させるために高温のお湯36を用いて水洗するとよい。更に尚、高温のスチームを遺骨26に吹き付けて水洗してもよい。また、遺骨26が投入されたザル35にシャワー水をかけ流して水洗することもできる。尚、水洗後の遺骨26を充分に乾燥させた後に次の工程に移る。
【0037】
次に、金属成分が除去され、かつ選別された遺骨26のみをボールミル1内に投入し、遺骨26が粉末状になるまで粉砕する(S4,粉砕工程)。ボールミル1としては、個体粉体の粉砕力に優れる遊星型ボールミルを好適に使用することができ、その処理時間は、遺骨灰の状況等により、適宜に選択すれば良く、本実施例では、この粉砕した遺骨灰が、ナイロンメッシュふるい(#150)を適宜に通過できる粉体となるまで実施した。尚、遺骨26を乳鉢等を用いて手作業にて粉体にしてもよい。尚、遺骨26を粉砕することで、遺骨26の各部位(多含有部位及び少含有部位等)が均一化される。また、後述する工程にて、遺骨26に含まれる骨髄や血液等に含まれる金属成分を除去し易くなる。
【0038】
次に、これらボールミル1にて粉砕、均一化した遺骨灰粉体27を振動ふるい機3の上部投入口から投入して分級する(S5,分級工程)。具体的には、前述したように、150メッシュ(約120ミクロン)を通過した遺骨灰粉体27が振動ふるい機3の下方から排出される。
【0039】
次に、金属成分の含有量が多い多含有部位を、磁力を有する磁石等により吸着させて選別して、遺骨灰粉体27から除去する(S6,磁力選別工程)。前述した目視除去工程にて、ある程度の多含有部位を手作業により除去しているが、さらに金属成分を除去するために、この磁力選別工程を行う。遺骨灰粉体27は粉末状になっているため、微量の金属成分を含む遺骨灰粉体27が磁石に吸着されるようになり、多含有部位と少含有部位の選別を行うことができる。
【0040】
次に、金属成分を錯体試薬液38を用いて遺骨灰粉体27から除去する(S7,試薬除去工程)。この工程では、錯体形成能を有するキレート試薬等の錯体試薬液38が入ったビーカー39に遺骨灰粉体27を投入する(図9(a)参照)。尚、本実施例では、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテルなどの錯体試薬液38を用いることができるが、その他の錯体試薬液38を用いてもよい。
【0041】
そして、遺骨灰粉体27が投入された錯体試薬液38を攪拌棒40を用いて充分攪拌する(図9(b)参照)。遺骨灰粉体27を錯体試薬液38に含浸させることで、遺骨灰粉体27の多含有部位から金属成分が除去され、多含有部位が少含有部位に変化するようになる。尚、除去された金属成分は錯体試薬液38に溶け込み、錯体試薬液38の色が変化するため、作業者が金属成分が除去されたことを容易に判別できる。
【0042】
その後、漏斗41を用いて錯体試薬液38から遺骨灰粉体27を分離する(図9(c)参照)尚、漏斗41のフィルタ42に溜まった遺骨灰粉体27を充分に乾燥させた後に次の工程に移る。また、錯体試薬液38に浸された遺骨灰粉体27のうち、多含有部位は錯体反応により着色されるため、作業者が目視により多含有部位を識別できるようになる。そのため、次の工程に移る前に、これら着色された多含有部位を目視により除去するようにしてもよい。
【0043】
次に、遺骨灰粉体27を耐熱坩堝21内に投入し(図10(a)参照)、真空チェンバ4の蓋体13を開放して真空チェンバ4内の坩堝ソケット22に坩堝21を取り付ける。そして、真空チェンバ4の蓋体13を閉塞して真空ポンプ5を稼動させ、真空チェンバ4内を減圧して真空状態(減圧雰囲気状態)にする(S8,減圧工程)。
【0044】
この真空チェンバ4内の真空度としては、本発明のように、遺骨灰が100%であって、融点降下剤や結剤等を何も含んでいない場合には、遺骨灰を溶融させるために、後述するように摂氏1500度(1500℃)以上の超高温が必要となり、これら1500℃以上の温度においては、遺骨灰の周囲に空気、特には酸素が存在すると、湿度等を含む通常雰囲気において分解しやすい物質に、粉砕された遺骨灰の組成が変化し易く、得られた石化遺骨灰を通常雰囲気中に放置しておくと、亀裂や、割れ、白化、更には粉体化して崩れてしまい、良好な石化遺骨灰とならないので、これら酸素が少ない比較的低い圧力、具体的には、100パスカル(Pa)以下の減圧雰囲気とすれば良く、安定して石化遺骨灰を得るために、好ましくは40パスカル(Pa)以下、より好ましくは10パスカル(Pa)以下の減圧雰囲気とすれば良い。
【0045】
真空チェンバ4内が前述した所定圧力の真空状態(減圧状態)になったら高周波コイル23に電流を流し、耐熱坩堝21内の遺骨灰粉体27の加熱を開始する(S9,高周波加熱溶融工程)。本実施例の真空溶融炉2では、約15〜20分程度で1400℃程度に到達する。そして、遺骨灰の種類等にも依るが、一般的に、約1420℃近傍において粉体の軟化が始まり、約1480℃近傍で、一部の粉体の溶融が認められるようになる。
【0046】
この1480℃の温度以降は、耐熱坩堝21内の溶融遺骨灰27の状況を目視にて良く注視しながら、突沸等を生じないように、徐々に温度を上げていき、遺骨灰粉体全体が溶融する1550〜1650℃の範囲の温度まで、約3〜5分程度をかけて上昇させる。この際、加振動台6を稼動させて真空チェンバ4に振動を与えることで、局部的に溶融が生じて突沸等が発生しないようにしても良い。
【0047】
これら加熱により、1480℃近傍で溶融を開始した溶融遺骨灰27は、低いものでは1550℃程度で均一に溶融するものもあれば、高いものであれば1650℃近傍まで、均一に溶融しないものもあるが、その殆どが摂氏1550度〜1650度の範囲において均一に溶融するので、溶融遺骨灰27の溶融温度としては、摂氏1550度〜1650度の範囲とすれば良い。
【0048】
尚、これら摂氏1550度〜1650度の範囲においても、前述したように、溶融遺骨灰27の種類によっては、均一に溶融する温度が異なるので、耐熱坩堝21内の溶融遺骨灰27の溶融状況を確認して、これら温度範囲における、均一に溶融する温度よりやや高い温度に加熱を留め、これら摂氏1550度〜1650度の範囲であって、できるだけ均一に石化できる温度に溶融温度を抑えることが好ましい。
【0049】
これら均一溶融までは、図10(a)に示すように、耐熱坩堝21が立設されており、溶融遺骨灰27は耐熱坩堝21の底部21aに溜まっている。作業者は真空チェンバ4の上部に設けられた監視窓12から耐熱坩堝21内を監視し、溶融遺骨灰27が充分に溶融されたら、加振動台6を稼動させて真空チェンバ4に振動を与えることで、真空チェンバ4内部に配置された耐熱坩堝21に振動を与える(S10,加振工程)。
【0050】
このように耐熱坩堝21に振動を印加、すなわち、均一溶融した溶融遺骨灰27に振動を印加することは、溶融遺骨灰27内部に含まれるガス等が外部に排出され易くなるととともに、溶融した溶融遺骨灰27の比重差により、比重の重い物質が下方に集中することで、組成のムラが発生することによる割れやかけ、並びに形状不良の発生を低減でききることから好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、適宜、これら加振工程を省くようにしても良い。
【0051】
次いで、加振動台6の稼働による耐熱坩堝21の振動を停止させた後、図5及び図10(b)に示すように、揺動台19を斜めに傾けることで耐熱坩堝21を傾斜させると、底部21aと内周側壁21bとに亘って、溶融遺骨灰27が溜まった状態となり、この状態で加熱を停止して徐冷に移行する(S11,徐冷工程)。尚、徐冷としては、例えば、自然冷却により行えば良く、温度低下速度が大きければ、固化(石化)した石化遺骨灰28が割れ等を生じないように、適宜、再加熱を実施しても良い。
【0052】
尚、坩堝ソケット22(外筒坩堝ともいう)と坩堝21との間に温度低下速度同一手段としてのセラミックウールで構成された耐熱性断熱材31が設けられることで、断熱材31によって溶融坩堝21から坩堝ソケット22に熱伝導され難くなり、断熱材31によって溶融坩堝21の温度低下速度が小さくなるため、溶融遺骨灰27の溶融坩堝21に接触される部位27bの温度低下速度を小さくすることができ、この温度低下速度が、溶融遺骨灰27の減圧雰囲気に暴露される部位27aの温度低下速度と略同一になる。また、セラミックウールという溶融工程における高温にも耐えうる材質で断熱材31を構成して、溶融工程と徐冷工程の両工程で断熱材31を使用すること可能になっている。
【0053】
そして、徐冷により溶融遺骨灰27が固化(石化)して石化遺骨灰28となり、充分に温度が低下したことを確認した後、リークバルブ17を開放して減圧状態を解除した後、真空チェンバ4の蓋体13を開放して耐熱坩堝21を取り出す。
【0054】
この取り出された耐熱坩堝21内から、固化(石化)した遺骨灰粉体である石化遺骨灰28を取り出せば良く、この石化遺骨灰28の表面29が、溶融した液面であり、鏡面となる。また、必要であれば表面29にYAGレーザ等を用いて文字30等を飾刻しても良い。尚、本実施例で製造した石化遺骨灰28は、フローライト(蛍石)に似た成分構成となっていると考えられる。
【0055】
以上、本実施例における石化遺骨灰の製造方法によれば、副葬品や火葬用具等に使用される金属部材や歯科治療や外科治療等に使用される金属部材などの様々な金属成分が遺骨灰粉体27には含まれているが、これら遺骨灰粉体27に含まれる金属成分を、除去工程S1,S2,S3,S6,S7にて予め除去することにより、これら金属成分が溶融工程S9の最中において、例えば、加熱によって急激に気化したり、或いは、溶融遺骨灰27中の成分と反応する等によって突沸現象が発生することを著しく低減できるようになるので、安定して石化遺骨灰28を製造することができる。尚、本実施例の金属成分には、火葬時に使用される金属部材等のみならず、遺骨26の骨髄等に凝縮された血液等の体内金属成分も含まれる。
【0056】
また、金属成分を磁力によって遺骨灰粉体27から除去する磁力除去工程S1,S6を含むことで、副葬品等に使用される着磁可能な金属成分を、磁力を有する磁石等により吸着して遺骨灰粉体27から容易に除去することができ、溶融された遺骨灰粉体27の突沸現象の発生を著しく低減できる。尚、遺骨灰粉体27における血液等の体内金属成分を多く含んだ部位も磁石等により除去できる。
【0057】
また、遺骨26を水洗いする水洗除去工程S3を含むことで、遺骨26に含まれる金属が、例えば、火葬時等にガス化または粉末化して遺骨26に付着することで磁石等により除去することが困難であっても、水洗いによって水に溶解(イオン化)させて遺骨26から容易に除去することができ、これら遺骨26に付着している金属による溶融遺骨灰27の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0058】
また、金属成分を錯体試薬液38を用いて遺骨灰粉体27から除去する試薬除去工程S7を含むことで、遺骨灰粉体27に含まれる金属が、例えば、磁石による吸着や水洗いによっても良好に除去できない金属であっても、錯体試薬液38によってこれら金属を錯体化させることによって遺骨灰粉体27から容易に除去することができ、これらの金属による溶融遺骨灰27の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0059】
また、遺骨26の金属成分の含有量が多い多含有部位を選別して除去する選別除去工程S2,S6を含むことで、骨25には、主成分であるリン酸カルシウム以外に、部分的に金属を比較的多く含む多含有部位が存在するので、これら多含有部位を選別して除去することにより、金属による溶融遺骨灰27の突沸現象の発生を更に低減できる。
【0060】
また、骨25の多含有部位は、関節部25aまたは骨髄部25bとなっていることで、関節部25aは関節強度を確保するための金属成分が多く含まれる部位であり、骨髄部25bは造血のための鉄分等の金属成分が多く含まれる部位であり、これら多含有部位を除去することで、遺骨灰粉体27から金属成分を除去することができる。尚、遺骨26の多含有部位を選別して除去する選別除去工程とは、作業者が目視により関節部25aまたは骨髄部25bを選別して除去する目視除去工程S2のみならず、磁力選別工程S6などのように、粉末化された遺骨灰粉体27から多含有部位を磁石等により吸着させて選別して除去する工程も含まれる。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例では、本発明の石化遺骨灰の製造方法が、故人の遺骨を焼成して石化遺骨灰28を製造するときに用いられていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、犬や猫などの愛玩動物等を火葬にした際の骨灰を焼成して石化遺骨灰28を製造するときに用いてもよい。
【0063】
また、前記実施例では、真空チェンバ4内の遺骨灰粉体27を加熱溶融する際に、高周波コイル23を用いた高周波加熱を行っているが、遺骨灰粉体27を加熱溶融する際に用いる加熱手段は高周波加熱に限らず、レーザ光線を用いた光加熱によって遺骨灰粉体27を加熱溶融してもよいし、電気抵抗による発熱を利用した電気加熱によって遺骨灰粉体27を加熱溶融してもよい。
【0064】
更に、加熱溶融工程における遺骨灰粉体27の加熱溶融を全て高周波加熱によって行う必要はなく、例えば、加熱溶融工程の初めに電気加熱を用いて遺骨灰粉体27を所定の温度になるまで加熱し、その後、高周波加熱による加熱に切り替えることで、遺骨灰粉体27をより高温になるまで加熱してもよい。尚、加熱溶融工程中に複数の加熱手段を交互に切り替えて使用したり、同時に使用したりしてもよい。
【0065】
また、前記実施例では、石化遺骨灰28を図12に示すように、おむすび状のプレート(置物)としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら石化遺骨灰28の形状を、種々の形状の炭素鋳型内に溶融した溶融遺骨灰27を導入することで、例えば、勾玉状としたり、ペンダント、ブレスレット、指輪、イヤリング、ピアス、数珠、厨子、携帯電話等のストラップ、キーホルダー、オブジェなどの装飾品を形成してもよい。
【0066】
また、前記実施例では、試薬除去工程にて、錯体試薬液38が入ったビーカー39に遺骨灰粉体27を投入するようにしているが、例えば、粉砕工程にて用いたボールミル1に遺骨26を投入するときに、錯体試薬液38も一緒にボールミル1に投入し、遺骨26を粉砕しながら錯体試薬液38に含浸させるようにしてもよい。この場合には、漏斗41を用いてボールミル1から取り出した遺骨灰粉体27と錯体試薬液38とを分離し、よく乾燥させるようにする。
【0067】
また、前記実施例では、粉砕工程の後に、試薬除去工程を設けているが、遺骨26を粉砕する前に、遺骨26を錯体試薬液38に含浸させてもよく、多含有部位は錯体反応により着色されるため、作業者が目視により多含有部位を識別し、これら着色された部位を遺骨26から削り落とす等の処置をしてもよい。
【0068】
また、前記実施例では、金属成分の含有量が多い多含有部位と金属成分の含有量が少ない少含有部位とを、選別工程S2,S6,S7にて選別して、選別された一方の部位である少含有部位の遺骨灰粉体27を溶融工程S9にて溶融させているが、遺族が要望する色合いの石化遺骨灰28になるように、多含有部位と少含有部位とを適宜混ぜ合わせて調合し、この調合された遺骨灰粉体27を溶融工程S9にて溶融させるようにしてもよい。
【0069】
また、本発明における遺骨灰とは、火葬して収骨した骨(実際には火葬時の灰分をその表面に含む)のみを粉砕したものでも良いし、収骨後に残存する未収骨の骨と灰分とが混合されたものであっても良く、遺骨が100%のもの(灰分が0%のもの)をも含むものである。
【0070】
尚、前記実施例では、粉砕工程S4にて、遺骨26が粉末状になるまで粉砕しているが、溶融固化させるためには必ずしも粉末状になるまで粉砕する必要はなく、遺骨26の一部が所定の大きさの断片となっていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 ボールミル
2 真空溶融炉
3 振動ふるい機
21 耐熱坩堝
25 骨
25a 関節部
25b 骨髄部
25c 骨幹部
26 遺骨
27 遺骨灰粉体,溶融遺骨灰
28 石化遺骨灰
36 水(お湯)
38 錯体試薬液
【技術分野】
【0001】
本発明は、火葬した人骨や愛玩動物の骨灰のみを含む石化遺骨灰の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亡くなられた人や愛玩動物(ペット)を追悼する手法としては、生前の写真等を写真立て等に入れて飾ることが一般的になされているが、近年にあっては、これら亡くなられた人や愛玩動物(ペット)をより身近に感じていられるようにと、これら火葬に付された遺骨または骨灰の一部を身につけていられるように、高温にて焼成して石状の焼成体としたものがある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、これら焼成体の製造を依頼する遺族等にとってみれば、得られる焼成体に、ほんど微量の遺骨または骨灰が含まれているのみでは、その焼成体から亡くなられた人や愛玩動物(ペット)を感じることが希薄となることから、より多くの遺骨または骨灰が含まれていること、好ましくは、遺骨または骨灰のみ(100%)から成るものを望む遺族が多く、これらの遺族の要望に答えるために、遺骨灰のみしか含まない石化遺骨灰を製造することができる石化遺骨灰の製造方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−167135号公報
【特許文献2】特開2008−1577号公報
【特許文献3】特開2009−136418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の石化遺骨灰の製造方法にあっては、溶融坩堝内の遺骨灰を溶融させる溶融工程にて、溶融された遺骨灰が突沸する突沸現象が発生し、この突沸現象によって溶融された遺骨灰が飛散してしまうことがあり、このような現象が生じると良好な形状の石化遺骨灰を得ることができず、安定して石化遺骨灰を製造できないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、溶融坩堝内の遺骨灰を溶融させる溶融工程にて、溶融した遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減させることで、安定して石化遺骨灰を製造することのできる石化遺骨灰の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
火葬した人または愛玩動物の遺骨灰を粉砕する粉砕工程と、粉砕した遺骨灰のみが投入された溶融坩堝の周囲雰囲気を減圧雰囲気とする減圧工程と、減圧雰囲気に配置された溶融坩堝内の遺骨灰を加熱して溶融させる溶融工程と、該溶融工程にて溶融させた溶融遺骨灰を徐冷して石化させる徐冷工程と、を含む石化遺骨灰の製造方法であって、
遺骨灰から金属成分を除去する除去工程をさらに含み、該除去工程にて金属成分が除去された遺骨灰を、前記溶融工程にて溶融させることを特徴としている。
この特徴によれば、副葬品や火葬用具等に使用される金属部材や歯科治療や外科治療等に使用される金属部材などの様々な金属成分が遺骨灰には含まれているが、これら遺骨灰に含まれる金属成分を、除去工程にて予め除去することにより、これら金属成分が溶融工程の最中において、例えば、加熱によって急激に気化したり、或いは、遺骨灰中の成分と反応する等によって突沸現象が発生することを著しく低減できるようになるので、安定して石化遺骨灰を製造することができる。
【0008】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、磁力によって除去する磁力除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、遺骨灰に含まれる着磁可能な金属を、磁力を有する磁石等により吸着して遺骨灰から容易に除去することができ、これら着磁可能な金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0009】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、該遺骨灰を水洗いすることで除去する水洗除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、遺骨灰に含まれる金属が、例えば、火葬時等にガス化または粉末化して遺骨灰に付着することで磁石等により除去することが困難であっても、水洗いによって水に溶解(イオン化)させて遺骨灰から容易に除去することができ、これら遺骨灰に付着している金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0010】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、錯体試薬を用いて除去する試薬除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、遺骨灰に含まれる金属が、例えば、磁石による吸着や水洗いによっても良好に除去できない金属であっても、錯体試薬によってこれら金属を錯体化させることによって遺骨灰から容易に除去することができ、これらの金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0011】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記除去工程は、前記遺骨灰から金属の含有量が多い多含有部位を選別して除去する選別除去工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、骨には、部分的に金属を比較的多く含む多含有部位が存在するので、これら多含有部位を選別して除去することにより、金属による溶融遺骨灰の突沸現象の発生を更に低減できる。
【0012】
本発明の石化遺骨灰の製造方法は、
前記多含有部位は、関節部または骨髄部であることを特徴としている。
この特徴によれば、関節部は関節強度を確保するための金属が多く含まれる部位であり、骨髄部は造血のための鉄分等の金属が多く含まれる部位であり、これら多含有部位を除去することで、遺骨灰に含まれる金属を効率良く低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ボールミル、真空溶融炉、振動ふるい機を示す正面図である。
【図2】ボールミル、真空溶融炉、振動ふるい機を示す側面図である。
【図3】真空溶融炉の内部構造を示す縦断正面図である。
【図4】真空溶融炉の内部構造を示す縦断側面図である。
【図5】耐熱坩堝及び坩堝ソケットを示す縦断側面図である。
【図6】火葬後の遺骨に付着した金属製分を説明する図である。
【図7】骨の各部位を説明する図である。
【図8】遺骨を水洗いする状況を示す図である。
【図9】金属成分を錯体試薬を用いて遺骨灰粉体から除去する状況を示す図である。
【図10】耐熱坩堝内での遺骨灰粉体を溶融状況を示す概念図である。
【図11】石化遺骨灰の製造方法を示すフローチャート図である。
【図12】完成した石化遺骨灰を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る石化遺骨灰の製造方法を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0015】
実施例に係る石化遺骨灰の製造方法につき、図1から図12を参照して説明する。図1に示したのは、本発明の石化遺骨灰の製造方法を実施するために必要なボールミル1と、振動ふるい機3、真空溶融炉2である。尚、ボールミル1は遺骨を粉砕するために用いられ、振動ふるい機3は、粉砕した遺骨灰を分級するために用いられ、真空溶融炉2は遺骨を加熱溶融するために用いられる。
【0016】
本実施例では、遺骨灰(遺骨)を粉砕するための手段として、ボールミル1を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら粉砕するための手段はとしては、その他の粉砕機を使用しても良い。また、振動ふるい機は一般的な卓上型の振動ふるい機を使用することができる他、音波ふるい機等も使用することが可能である。
【0017】
尚、振動ふるい機3には、3段のナイロンメッシュふるいを用いて分級を実施しており、1段目は、投入した遺骨灰をふるい面の前面に拡散させて効率良くふるいを行うとともに、遺骨灰中に混入している夾雑物を取り除くための非常に粗いメッシュ(30メッシュ)のふるいを配置し、その下方(2段目)に、100メッシュのふるいを配置し、さらにその下方(3段目)に、150メッシュのふるいを配置して、150メッシュを通過した遺骨灰を外部に取り出せるようになっている。
【0018】
図1に示すように、真空溶融炉2には、略円筒体状の真空チェンバ4と、真空チェンバ4に接続されて真空チェンバ4内の気圧を低減させて真空状態にするための真空ポンプ5と(図2参照)、真空チェンバ4と真空ポンプ5を支持し、かつ真空チェンバ4全体に振動を与えることができる加振動台6とが設けられている。これら真空チェンバ4と真空ポンプ5と加振動台6が電気ケーブル7,8,9を介して制御ユニット10に接続され、作業者は制御ユニット10を操作することにより真空溶融炉2の制御が行えるようになっている。
【0019】
図2に示すように、真空チェンバ4の正面には、作業者が真空チェンバ4内部の様子を監視するための監視窓11が形成された開閉可能な蓋体13が設けられている。真空チェンバ4の上部には接続部14が形成され、この接続部14に監視窓12や温度センサ(図示略)等が設けられたアダプタ15が接続されている。
【0020】
また、真空チェンバ4と真空ポンプ5とを連結する連結管16には、リークバルブ17が設けられており、このリークバルブ17を開放することにより真空チェンバ4内の減圧状態を解除できる。
【0021】
図3及び図4に示すように、真空チェンバ4は二重壁のデュワー瓶構造をなしており、真空チェンバ4の内部と外部とを断熱できる。真空チェンバ4の内部には、真空チェンバ4の内面に設けられた枢軸18を中心として垂直方向に揺動可能な揺動台19が設けられており、この揺動台19は真空チェンバ4の側部に取り付けられた駆動モータ20の駆動によって揺動される。
【0022】
揺動台19上には、耐熱坩堝21を保持するための坩堝ソケット22が取り付けられており、坩堝ソケット22の周囲には、高周波コイル23が捲きつけられている。高周波コイル23は駆動モータ20の軸心を貫通して設けられた同軸電極24に接続されており、同軸電極24には電気ケーブル7を介して制御ユニット10から電力が供給されるようになっている(図1参照)。尚、本実施例では、高密度炭素坩堝などの耐熱坩堝21を用いている。
【0023】
本実施例では、耐熱坩堝21が用いられ、この耐熱坩堝21は、有底円筒状とされて、その内部にボールミル1によって遺骨26を粉砕した遺骨灰粉体27が投入される。これら遺骨灰粉体27を投入して、この遺骨灰粉体27を溶融させる炭素坩堝21としては、その炭素密度が低いと、坩堝21の熱伝導率が比較的低く、加熱による温度ムラが生じ易くなることから、熱伝導率の良い耐熱坩堝21を使用することが好ましい。
【0024】
また、これら耐熱坩堝21の厚みとしては、これが薄いと、後述する高周波加熱コイルからの熱が、局部的に遺骨灰粉体27に加わり、遺骨灰粉体27内での温度ムラによる過度の対流発生による変形や、溶融遺骨灰27の突沸現象による飛散等を生じ易くなる一方、これが厚いと、原因は定かではないが、溶融遺骨灰27が部分的に飛散する現象が頻発するので、この厚みとしては3mm前後のものを使用することが好ましい。
【0025】
図5に示すように、坩堝ソケット22(外筒坩堝ともいう)と坩堝21との間には、セラミックウール等の耐熱性断熱材31が介在されている。この耐熱性断熱材31は、後述する徐冷工程にて、溶融遺骨灰27の溶融坩堝21に接触される部位27bの温度低下速度と、溶融遺骨灰27の減圧雰囲気に暴露される部位27aの温度低下速度と、を略同一にする温度低下速度同一手段となっている。
【0026】
次に、前述した本実施例におけるボールミル1、振動ふるい機3、真空溶融炉2を用いて、遺骨26から石化遺骨灰28を製造するための工程を図11に示すフローチャートに基づいて以下に説明する。
【0027】
火葬場で火葬された遺骨26には、副葬品等に使用される金属部材や歯科治療に使用される金属部材などの様々なの金属成分が遺骨灰に含まれており、これら遺骨26に含まれる金属部材を除去する。
【0028】
図11に示すように、先ず、火葬場で火葬された遺骨26に含まれる鉄釘等の着磁可能な金属成分を、磁力を有する永久磁石等(電磁石でもよい)により吸着して手作業で除去する(S1,磁力除去工程)。また、磁石に吸着されない金属成分は、目視により除去を行う(S2,目視除去工程)。尚、耐火材、土、砂、石、ガラス、石灰、煉瓦屑などの金属以外の外的混入物も可能な限り除去するようにする。
【0029】
金属成分が遺骨26に含まれた状態であると、後述する加熱溶融時において、金属成分が高周波の影響を受けたり、周辺温度により高温化したりして、金属成分が急激に気化などされることで、溶融された溶融遺骨灰27が突沸する突沸現象が発生し、この突沸現象によって溶融された溶融遺骨灰27が飛散することがあり、このような現象が生じると完成した石化遺骨灰28に形状不良が生じる虞がある。そのため可能な限り金属成分を除去する。
【0030】
火葬された遺骨26には、アルミニウム、クロム、コバルトなどの様々な金属成分が含まれる。これらの金属成分は、副葬品等に含まれる衣類やアクセサリーなどの外的混入物が火葬の際に燃焼されて遺骨26に付着したものである。例えば、図6に示すように、遺骨26には、アルミ箔32のような銀色のものが付着していたり、銅の溶融物33のような茶褐色のものが付着していたり、種類は不明であるが、青色の溶着物34が付着されたりしている。これら遺骨26の着色部位は、手作業にて遺骨26から削り落とすようにする。
【0031】
尚、この目視除去工程には、石化遺骨灰28の製造に用いる遺骨26の部位を選別する選別工程が含まれる。遺骨26には、主成分であるリン酸カルシウム以外に、様々な物質成分が含まれており、特に、遺骨26に含まれる金属成分は、突沸現象の原因にもなっているが、製造後の石化遺骨灰28の色合いに影響を与えるようになっている。
【0032】
そこで、遺骨26を金属成分の含有量が多い多含有部位と金属成分の含有量が少ない少含有部位とに適宜選別して、所定の部位を用いるようにする。図7は、人間の大腿骨等の長骨25を示しており、このような骨25において、多含有部位とは、関節部25aまたは骨髄部25bのような部位となっている。関節部25aは関節の強度を確保するために金属成分が多く含まれる部位であり、骨髄部25bは造血のために鉄分等の金属成分が多く含まれる部位である。尚、関節部25aの内部及び骨髄部25bの構造は、多数の空隙を有する多孔質な部位となっているため、この部位に火葬時にガス化若しくは粉末化した金属成分が付着し易くなっているとも考えられる。また、少含有部位とは、骨幹部25c(特にその表面)のような部位となっている。この少含有部位は骨26の主成分が密になっていると考えられる。
【0033】
尚、本実施例では、多含有部位及び少含有部位の例として長骨25を参照したが、頭蓋骨や骨盤や脊椎等の骨であっても、金属成分の含有量が多い多含有部位と金属成分の含有量が少ない少含有部位とが存在しているため、これらは適宜選別して用いるようにする。更に尚、多含有部位を用いた場合には、製造後の石化遺骨灰28が有色系(黒色系、茶色系、灰色系、緑色系、青色系、紫色系等)の色合いになり、少含有部位を用いた場合には、製造後の石化遺骨灰28が白色系の色合いになる。
【0034】
本実施例では、白色系の色合いの石化遺骨灰28を製造する目的、及び加熱溶融時の突沸現象を低減させる目的で、少含有部位を用いるようにする。尚、微量の金属成分であれは、突沸現象の発生を抑えられるため、副葬品等の他の金属成分を完全に除去した状態であれば、遺骨26の多含有部位をあえて用いて有色系の石化遺骨灰28を製造するようにしてもよい。
【0035】
次に、遺骨26を水洗いする。ザル35の中に遺骨26を投入し(図8(a)参照)、このザル35を水36(お湯)が入った容器37に沈めて遺骨26を水洗いする(図8(b)参照)。この水洗いにより火葬時にガス化または粉末化して遺骨26に付着したの金属成分を水洗いにより洗い流すことができる(S3,水洗除去工程)。
【0036】
特に、水溶性のイオン化傾向のある金属成分を除去することができる。尚、金属成分のイオン化を促進させるために高温のお湯36を用いて水洗するとよい。更に尚、高温のスチームを遺骨26に吹き付けて水洗してもよい。また、遺骨26が投入されたザル35にシャワー水をかけ流して水洗することもできる。尚、水洗後の遺骨26を充分に乾燥させた後に次の工程に移る。
【0037】
次に、金属成分が除去され、かつ選別された遺骨26のみをボールミル1内に投入し、遺骨26が粉末状になるまで粉砕する(S4,粉砕工程)。ボールミル1としては、個体粉体の粉砕力に優れる遊星型ボールミルを好適に使用することができ、その処理時間は、遺骨灰の状況等により、適宜に選択すれば良く、本実施例では、この粉砕した遺骨灰が、ナイロンメッシュふるい(#150)を適宜に通過できる粉体となるまで実施した。尚、遺骨26を乳鉢等を用いて手作業にて粉体にしてもよい。尚、遺骨26を粉砕することで、遺骨26の各部位(多含有部位及び少含有部位等)が均一化される。また、後述する工程にて、遺骨26に含まれる骨髄や血液等に含まれる金属成分を除去し易くなる。
【0038】
次に、これらボールミル1にて粉砕、均一化した遺骨灰粉体27を振動ふるい機3の上部投入口から投入して分級する(S5,分級工程)。具体的には、前述したように、150メッシュ(約120ミクロン)を通過した遺骨灰粉体27が振動ふるい機3の下方から排出される。
【0039】
次に、金属成分の含有量が多い多含有部位を、磁力を有する磁石等により吸着させて選別して、遺骨灰粉体27から除去する(S6,磁力選別工程)。前述した目視除去工程にて、ある程度の多含有部位を手作業により除去しているが、さらに金属成分を除去するために、この磁力選別工程を行う。遺骨灰粉体27は粉末状になっているため、微量の金属成分を含む遺骨灰粉体27が磁石に吸着されるようになり、多含有部位と少含有部位の選別を行うことができる。
【0040】
次に、金属成分を錯体試薬液38を用いて遺骨灰粉体27から除去する(S7,試薬除去工程)。この工程では、錯体形成能を有するキレート試薬等の錯体試薬液38が入ったビーカー39に遺骨灰粉体27を投入する(図9(a)参照)。尚、本実施例では、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテルなどの錯体試薬液38を用いることができるが、その他の錯体試薬液38を用いてもよい。
【0041】
そして、遺骨灰粉体27が投入された錯体試薬液38を攪拌棒40を用いて充分攪拌する(図9(b)参照)。遺骨灰粉体27を錯体試薬液38に含浸させることで、遺骨灰粉体27の多含有部位から金属成分が除去され、多含有部位が少含有部位に変化するようになる。尚、除去された金属成分は錯体試薬液38に溶け込み、錯体試薬液38の色が変化するため、作業者が金属成分が除去されたことを容易に判別できる。
【0042】
その後、漏斗41を用いて錯体試薬液38から遺骨灰粉体27を分離する(図9(c)参照)尚、漏斗41のフィルタ42に溜まった遺骨灰粉体27を充分に乾燥させた後に次の工程に移る。また、錯体試薬液38に浸された遺骨灰粉体27のうち、多含有部位は錯体反応により着色されるため、作業者が目視により多含有部位を識別できるようになる。そのため、次の工程に移る前に、これら着色された多含有部位を目視により除去するようにしてもよい。
【0043】
次に、遺骨灰粉体27を耐熱坩堝21内に投入し(図10(a)参照)、真空チェンバ4の蓋体13を開放して真空チェンバ4内の坩堝ソケット22に坩堝21を取り付ける。そして、真空チェンバ4の蓋体13を閉塞して真空ポンプ5を稼動させ、真空チェンバ4内を減圧して真空状態(減圧雰囲気状態)にする(S8,減圧工程)。
【0044】
この真空チェンバ4内の真空度としては、本発明のように、遺骨灰が100%であって、融点降下剤や結剤等を何も含んでいない場合には、遺骨灰を溶融させるために、後述するように摂氏1500度(1500℃)以上の超高温が必要となり、これら1500℃以上の温度においては、遺骨灰の周囲に空気、特には酸素が存在すると、湿度等を含む通常雰囲気において分解しやすい物質に、粉砕された遺骨灰の組成が変化し易く、得られた石化遺骨灰を通常雰囲気中に放置しておくと、亀裂や、割れ、白化、更には粉体化して崩れてしまい、良好な石化遺骨灰とならないので、これら酸素が少ない比較的低い圧力、具体的には、100パスカル(Pa)以下の減圧雰囲気とすれば良く、安定して石化遺骨灰を得るために、好ましくは40パスカル(Pa)以下、より好ましくは10パスカル(Pa)以下の減圧雰囲気とすれば良い。
【0045】
真空チェンバ4内が前述した所定圧力の真空状態(減圧状態)になったら高周波コイル23に電流を流し、耐熱坩堝21内の遺骨灰粉体27の加熱を開始する(S9,高周波加熱溶融工程)。本実施例の真空溶融炉2では、約15〜20分程度で1400℃程度に到達する。そして、遺骨灰の種類等にも依るが、一般的に、約1420℃近傍において粉体の軟化が始まり、約1480℃近傍で、一部の粉体の溶融が認められるようになる。
【0046】
この1480℃の温度以降は、耐熱坩堝21内の溶融遺骨灰27の状況を目視にて良く注視しながら、突沸等を生じないように、徐々に温度を上げていき、遺骨灰粉体全体が溶融する1550〜1650℃の範囲の温度まで、約3〜5分程度をかけて上昇させる。この際、加振動台6を稼動させて真空チェンバ4に振動を与えることで、局部的に溶融が生じて突沸等が発生しないようにしても良い。
【0047】
これら加熱により、1480℃近傍で溶融を開始した溶融遺骨灰27は、低いものでは1550℃程度で均一に溶融するものもあれば、高いものであれば1650℃近傍まで、均一に溶融しないものもあるが、その殆どが摂氏1550度〜1650度の範囲において均一に溶融するので、溶融遺骨灰27の溶融温度としては、摂氏1550度〜1650度の範囲とすれば良い。
【0048】
尚、これら摂氏1550度〜1650度の範囲においても、前述したように、溶融遺骨灰27の種類によっては、均一に溶融する温度が異なるので、耐熱坩堝21内の溶融遺骨灰27の溶融状況を確認して、これら温度範囲における、均一に溶融する温度よりやや高い温度に加熱を留め、これら摂氏1550度〜1650度の範囲であって、できるだけ均一に石化できる温度に溶融温度を抑えることが好ましい。
【0049】
これら均一溶融までは、図10(a)に示すように、耐熱坩堝21が立設されており、溶融遺骨灰27は耐熱坩堝21の底部21aに溜まっている。作業者は真空チェンバ4の上部に設けられた監視窓12から耐熱坩堝21内を監視し、溶融遺骨灰27が充分に溶融されたら、加振動台6を稼動させて真空チェンバ4に振動を与えることで、真空チェンバ4内部に配置された耐熱坩堝21に振動を与える(S10,加振工程)。
【0050】
このように耐熱坩堝21に振動を印加、すなわち、均一溶融した溶融遺骨灰27に振動を印加することは、溶融遺骨灰27内部に含まれるガス等が外部に排出され易くなるととともに、溶融した溶融遺骨灰27の比重差により、比重の重い物質が下方に集中することで、組成のムラが発生することによる割れやかけ、並びに形状不良の発生を低減でききることから好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、適宜、これら加振工程を省くようにしても良い。
【0051】
次いで、加振動台6の稼働による耐熱坩堝21の振動を停止させた後、図5及び図10(b)に示すように、揺動台19を斜めに傾けることで耐熱坩堝21を傾斜させると、底部21aと内周側壁21bとに亘って、溶融遺骨灰27が溜まった状態となり、この状態で加熱を停止して徐冷に移行する(S11,徐冷工程)。尚、徐冷としては、例えば、自然冷却により行えば良く、温度低下速度が大きければ、固化(石化)した石化遺骨灰28が割れ等を生じないように、適宜、再加熱を実施しても良い。
【0052】
尚、坩堝ソケット22(外筒坩堝ともいう)と坩堝21との間に温度低下速度同一手段としてのセラミックウールで構成された耐熱性断熱材31が設けられることで、断熱材31によって溶融坩堝21から坩堝ソケット22に熱伝導され難くなり、断熱材31によって溶融坩堝21の温度低下速度が小さくなるため、溶融遺骨灰27の溶融坩堝21に接触される部位27bの温度低下速度を小さくすることができ、この温度低下速度が、溶融遺骨灰27の減圧雰囲気に暴露される部位27aの温度低下速度と略同一になる。また、セラミックウールという溶融工程における高温にも耐えうる材質で断熱材31を構成して、溶融工程と徐冷工程の両工程で断熱材31を使用すること可能になっている。
【0053】
そして、徐冷により溶融遺骨灰27が固化(石化)して石化遺骨灰28となり、充分に温度が低下したことを確認した後、リークバルブ17を開放して減圧状態を解除した後、真空チェンバ4の蓋体13を開放して耐熱坩堝21を取り出す。
【0054】
この取り出された耐熱坩堝21内から、固化(石化)した遺骨灰粉体である石化遺骨灰28を取り出せば良く、この石化遺骨灰28の表面29が、溶融した液面であり、鏡面となる。また、必要であれば表面29にYAGレーザ等を用いて文字30等を飾刻しても良い。尚、本実施例で製造した石化遺骨灰28は、フローライト(蛍石)に似た成分構成となっていると考えられる。
【0055】
以上、本実施例における石化遺骨灰の製造方法によれば、副葬品や火葬用具等に使用される金属部材や歯科治療や外科治療等に使用される金属部材などの様々な金属成分が遺骨灰粉体27には含まれているが、これら遺骨灰粉体27に含まれる金属成分を、除去工程S1,S2,S3,S6,S7にて予め除去することにより、これら金属成分が溶融工程S9の最中において、例えば、加熱によって急激に気化したり、或いは、溶融遺骨灰27中の成分と反応する等によって突沸現象が発生することを著しく低減できるようになるので、安定して石化遺骨灰28を製造することができる。尚、本実施例の金属成分には、火葬時に使用される金属部材等のみならず、遺骨26の骨髄等に凝縮された血液等の体内金属成分も含まれる。
【0056】
また、金属成分を磁力によって遺骨灰粉体27から除去する磁力除去工程S1,S6を含むことで、副葬品等に使用される着磁可能な金属成分を、磁力を有する磁石等により吸着して遺骨灰粉体27から容易に除去することができ、溶融された遺骨灰粉体27の突沸現象の発生を著しく低減できる。尚、遺骨灰粉体27における血液等の体内金属成分を多く含んだ部位も磁石等により除去できる。
【0057】
また、遺骨26を水洗いする水洗除去工程S3を含むことで、遺骨26に含まれる金属が、例えば、火葬時等にガス化または粉末化して遺骨26に付着することで磁石等により除去することが困難であっても、水洗いによって水に溶解(イオン化)させて遺骨26から容易に除去することができ、これら遺骨26に付着している金属による溶融遺骨灰27の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0058】
また、金属成分を錯体試薬液38を用いて遺骨灰粉体27から除去する試薬除去工程S7を含むことで、遺骨灰粉体27に含まれる金属が、例えば、磁石による吸着や水洗いによっても良好に除去できない金属であっても、錯体試薬液38によってこれら金属を錯体化させることによって遺骨灰粉体27から容易に除去することができ、これらの金属による溶融遺骨灰27の突沸現象の発生を著しく低減できる。
【0059】
また、遺骨26の金属成分の含有量が多い多含有部位を選別して除去する選別除去工程S2,S6を含むことで、骨25には、主成分であるリン酸カルシウム以外に、部分的に金属を比較的多く含む多含有部位が存在するので、これら多含有部位を選別して除去することにより、金属による溶融遺骨灰27の突沸現象の発生を更に低減できる。
【0060】
また、骨25の多含有部位は、関節部25aまたは骨髄部25bとなっていることで、関節部25aは関節強度を確保するための金属成分が多く含まれる部位であり、骨髄部25bは造血のための鉄分等の金属成分が多く含まれる部位であり、これら多含有部位を除去することで、遺骨灰粉体27から金属成分を除去することができる。尚、遺骨26の多含有部位を選別して除去する選別除去工程とは、作業者が目視により関節部25aまたは骨髄部25bを選別して除去する目視除去工程S2のみならず、磁力選別工程S6などのように、粉末化された遺骨灰粉体27から多含有部位を磁石等により吸着させて選別して除去する工程も含まれる。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例では、本発明の石化遺骨灰の製造方法が、故人の遺骨を焼成して石化遺骨灰28を製造するときに用いられていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、犬や猫などの愛玩動物等を火葬にした際の骨灰を焼成して石化遺骨灰28を製造するときに用いてもよい。
【0063】
また、前記実施例では、真空チェンバ4内の遺骨灰粉体27を加熱溶融する際に、高周波コイル23を用いた高周波加熱を行っているが、遺骨灰粉体27を加熱溶融する際に用いる加熱手段は高周波加熱に限らず、レーザ光線を用いた光加熱によって遺骨灰粉体27を加熱溶融してもよいし、電気抵抗による発熱を利用した電気加熱によって遺骨灰粉体27を加熱溶融してもよい。
【0064】
更に、加熱溶融工程における遺骨灰粉体27の加熱溶融を全て高周波加熱によって行う必要はなく、例えば、加熱溶融工程の初めに電気加熱を用いて遺骨灰粉体27を所定の温度になるまで加熱し、その後、高周波加熱による加熱に切り替えることで、遺骨灰粉体27をより高温になるまで加熱してもよい。尚、加熱溶融工程中に複数の加熱手段を交互に切り替えて使用したり、同時に使用したりしてもよい。
【0065】
また、前記実施例では、石化遺骨灰28を図12に示すように、おむすび状のプレート(置物)としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら石化遺骨灰28の形状を、種々の形状の炭素鋳型内に溶融した溶融遺骨灰27を導入することで、例えば、勾玉状としたり、ペンダント、ブレスレット、指輪、イヤリング、ピアス、数珠、厨子、携帯電話等のストラップ、キーホルダー、オブジェなどの装飾品を形成してもよい。
【0066】
また、前記実施例では、試薬除去工程にて、錯体試薬液38が入ったビーカー39に遺骨灰粉体27を投入するようにしているが、例えば、粉砕工程にて用いたボールミル1に遺骨26を投入するときに、錯体試薬液38も一緒にボールミル1に投入し、遺骨26を粉砕しながら錯体試薬液38に含浸させるようにしてもよい。この場合には、漏斗41を用いてボールミル1から取り出した遺骨灰粉体27と錯体試薬液38とを分離し、よく乾燥させるようにする。
【0067】
また、前記実施例では、粉砕工程の後に、試薬除去工程を設けているが、遺骨26を粉砕する前に、遺骨26を錯体試薬液38に含浸させてもよく、多含有部位は錯体反応により着色されるため、作業者が目視により多含有部位を識別し、これら着色された部位を遺骨26から削り落とす等の処置をしてもよい。
【0068】
また、前記実施例では、金属成分の含有量が多い多含有部位と金属成分の含有量が少ない少含有部位とを、選別工程S2,S6,S7にて選別して、選別された一方の部位である少含有部位の遺骨灰粉体27を溶融工程S9にて溶融させているが、遺族が要望する色合いの石化遺骨灰28になるように、多含有部位と少含有部位とを適宜混ぜ合わせて調合し、この調合された遺骨灰粉体27を溶融工程S9にて溶融させるようにしてもよい。
【0069】
また、本発明における遺骨灰とは、火葬して収骨した骨(実際には火葬時の灰分をその表面に含む)のみを粉砕したものでも良いし、収骨後に残存する未収骨の骨と灰分とが混合されたものであっても良く、遺骨が100%のもの(灰分が0%のもの)をも含むものである。
【0070】
尚、前記実施例では、粉砕工程S4にて、遺骨26が粉末状になるまで粉砕しているが、溶融固化させるためには必ずしも粉末状になるまで粉砕する必要はなく、遺骨26の一部が所定の大きさの断片となっていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 ボールミル
2 真空溶融炉
3 振動ふるい機
21 耐熱坩堝
25 骨
25a 関節部
25b 骨髄部
25c 骨幹部
26 遺骨
27 遺骨灰粉体,溶融遺骨灰
28 石化遺骨灰
36 水(お湯)
38 錯体試薬液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火葬した人または愛玩動物の遺骨灰を粉砕する粉砕工程と、粉砕した遺骨灰のみが投入された溶融坩堝の周囲雰囲気を減圧雰囲気とする減圧工程と、減圧雰囲気に配置された溶融坩堝内の遺骨灰を加熱して溶融させる溶融工程と、該溶融工程にて溶融させた溶融遺骨灰を徐冷して石化させる徐冷工程と、を含む石化遺骨灰の製造方法であって、
遺骨灰から金属成分を除去する除去工程をさらに含み、該除去工程にて金属成分が除去された遺骨灰を、前記溶融工程にて溶融させることを特徴とする石化遺骨灰の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、磁力によって除去する磁力除去工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、該遺骨灰を水洗いすることで除去する水洗除去工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、錯体試薬を用いて除去する試薬除去工程を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項5】
前記除去工程は、前記遺骨灰から金属の含有量が多い多含有部位を選別して除去する選別除去工程を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項6】
前記多含有部位は、関節部または骨髄部であることを特徴とする請求項5に記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項1】
火葬した人または愛玩動物の遺骨灰を粉砕する粉砕工程と、粉砕した遺骨灰のみが投入された溶融坩堝の周囲雰囲気を減圧雰囲気とする減圧工程と、減圧雰囲気に配置された溶融坩堝内の遺骨灰を加熱して溶融させる溶融工程と、該溶融工程にて溶融させた溶融遺骨灰を徐冷して石化させる徐冷工程と、を含む石化遺骨灰の製造方法であって、
遺骨灰から金属成分を除去する除去工程をさらに含み、該除去工程にて金属成分が除去された遺骨灰を、前記溶融工程にて溶融させることを特徴とする石化遺骨灰の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、磁力によって除去する磁力除去工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、該遺骨灰を水洗いすることで除去する水洗除去工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程は、前記遺骨灰に含まれる金属を、錯体試薬を用いて除去する試薬除去工程を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項5】
前記除去工程は、前記遺骨灰から金属の含有量が多い多含有部位を選別して除去する選別除去工程を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の石化遺骨灰の製造方法。
【請求項6】
前記多含有部位は、関節部または骨髄部であることを特徴とする請求項5に記載の石化遺骨灰の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−229649(P2011−229649A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101997(P2010−101997)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(504126787)日本炉機工業株式会社 (5)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(504126787)日本炉機工業株式会社 (5)
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