説明

石垣修復支援装置及び石垣修復支援方法

【課題】コンピュータを使用して、石垣修復の施工を事前検討することができる石垣修復支援装置を提供する。
【解決手段】石垣を構成する石材1石毎の3次元形状データを記憶する石材データ記憶手段と、石材データ記憶手段に記憶されている少なくとも2つの石材間の3次元形状データに基づいて、石材の干渉状態を求める干渉確認手段と、石材データ記憶手段に記憶されている石材の3次元形状データを参照して、復元するべき稜線を近似する近似線を求め、該近似線に基づいて、復元するべき石垣の設計法面を定義する手段と、干渉確認手段により隣り合う石材の干渉状態を確認しながら、定義された設計法面に一致するように、石材の配置位置を決定する手段と、配置が決定した石材の配置位置を出力する手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを使用して、石垣修復の施工管理を支援する石垣修復支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石垣保全・修復工事などにおいて、従来の施工管理では、表に出ている側面(石垣法面)の状態を現状として扱って保全や修復を行ってきた。例えば、施工前に石垣表面をステレオ写真撮影、あるいは3次元レーザ計測して位置の計測を行うなどの措置により、現状を確認することが一般的に行われてきた。この確認後、石垣を解体し不具合箇所などを修正のうえ、再度解体前の築造時の状態に戻すという作業の流れとなる。
【0003】
なお、先行技術として、切石整層積み構造などの既存石垣を築造当初の形状に修復するための構造図及び施工管理図を作成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3001548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、解体前の石垣の状態は、修復が必要な状態であるために、解体前の状態に戻すことが理想的な状態に修復したことになるわけではないため、石材を組み上げる復元作業においては、表面の状態はもちろんのこと、石垣内部の石材の位置、形状も重要となる。特に、方形の石材を使用した石積(布積、算木積)の復元形状を把握するためには、築石間相互の干渉の有無の確認や築石の形状から導き出される石垣修復形状の推定することが必要となる。
【0005】
また、復元する際には各石材をミリ単位で完全に元の位置に戻すことは困難であるが、この組み上げ作業において誤差が生じて石材の相互干渉などが避けられない場合、状況によっては組み直しといた手戻りが発生してしまい施工コストが増大してしまうという問題がある。また、石垣は文化財としての資産価値があり、単に干渉するからといってその部分を削り落とすという手段を選択することはできないため、事前に十分な施工計画を立案する必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、コンピュータを使用して、石垣修復の施工を事前検討することができる石垣修復支援装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、石垣を構成する石材1石毎の3次元形状データを記憶する石材データ記憶手段と、前記石材データ記憶手段に記憶されている少なくとも2つの石材間の3次元形状データに基づいて、石材の干渉状態を求める干渉確認手段と、前記石材データ記憶手段に記憶されている前記石材の3次元形状データを参照して、復元するべき稜線を近似する近似線を求め、該近似線に基づいて、復元するべき石垣の設計法面を定義する手段と、前記定義された設計法面に基づいて、前記石材の配置位置を決定する手段と、前記配置が決定した石材の配置位置を出力する手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明は、前記干渉確認手段は、干渉状態を確認する対象の前記石材のそれぞれが内部に含まれるバウンディングボックスを定義し、該バウンディングボックス同士が重なり合う場合に、前記バウンディングボックスのそれぞれを細分化したボックスに分割し、該細分化ボックス同士の重なりある場合にのみ、それぞれの石材表面を複数の三角形領域に分割して、該三角形領域同士の交差判定を行うことにより、前記石材の干渉状態を求めることを特徴とする。
【0009】
本発明は、石垣を構成する石材1石毎の3次元形状データを記憶する石材データ記憶手段と、前記石材の配置位置を決定する配置位置決定手段と、前記配置位置決定手段により配置された少なくとも2つの石材の3次元形状データに基づいて、石材の干渉状態を求める干渉確認手段と、前記配置位置決定手段により配置された石材の前記3次元データに基づいて、復元するべき石垣の法面を定義する設計法面定義手段とを備えたコンピュータによる支援装置を用いて、石垣修復の施工を支援する石垣修復支援方法であって、前記干渉確認手段により隣り合う石材の干渉状態を確認しながら、前記配置位置決定手段を使用して、前記石垣の稜線を構成する石材が互いに干渉しないように積み上げるステップと、
設計法面定義手段が、前記稜線を構成する石材が積み上げられた状態における各石材の3次元形状データを参照して、復元するべき稜線を近似する近似線を求め、該近似線に基づいて、復元するべき石垣の設計法面を定義する法面定義ステップと、前記干渉確認手段により隣り合う石材の干渉状態を確認しながら、前記復元するべき法面を構成する石材の表面が前記設計法面に一致するように、前記配置位置決定手段を使用して前記石材の配置位置を決める配置決定ステップと、前記配置位置決定手段が、前記配置が決定した石材の配置位置を特定する情報を出力する位置情報出力ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、稜線を構成する石材が互いに干渉しないように石材を積み上げることにより、復元するべき稜線を求め、この求めた稜線に基づいて、復元するべき石垣法面を定義して、石垣を構成する石材の表面が復元するべき石垣法面と一致するように各石材の配置位置を決定するための事前検討をコンピュータ上で行うことが可能となるため、適切な石垣修復を行うことが可能となり、手戻りを極力少なくすることができるため施工コストを低減することが可能になるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態による石垣修復支援装置を図面を参照して説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号1は、石垣修復工事の施工管理を支援するためにコンピュータで構成された支援装置である。符号2は、修復対象の石垣の3次元形状データを計測して取得する計測機(石材データ取得手段)である。符号11は、後述の形状データ入力部14からの法面の座標情報や石材の形状情報を石垣法面データ記憶部15や石材データ記憶部に伝達したり、また後述の入力部12からの指示情報を表示部13、石垣法面データ記憶部15、石材データ記憶部16、設計法面定義部17、配置位置決定部18、干渉確認部19のそれぞれへ伝達するとともに後述する各種の処理(設計法面定義処理、配置位置決定処理、干渉確認処理、出力処理)を統括して制御する支援装置1の制御部である。符号12は、マウスやキーボードから構成する入力部である。符号13は、液晶のディスプレイ装置等から構成する表示部である。符号14は、計測機2において取得した石垣の形状データを計測機2から入力する形状データ入力部である。符号15は、石垣の法面データを記憶する石垣法面データ記憶部である。符号16は、石垣を構成する1つ1つの石材の形状データを記憶する石材データ記憶部である。符号17は、解体後に復元するべき石垣の法面を設計して定義する設計法面定義部である。符号18は、解体した石材それぞれの復元後の配置位置を決定する配置決定部である。符号19は、石材の配置位置を決定する際に、他の石材との干渉を確認する干渉確認部である。符号21は、レーザ光を使用して、石垣法面の形状の計測及び石垣を構成する石材それぞれの形状の計測を行う3次元形状データ計測部である。符号22は、3次元形状データ計測部21によって計測した石垣法面データを記憶する石垣法面データ記憶部である。符号23は、3次元形状データ計測部21によって計測した石材データを記憶する石材データ記憶部である。
なお、各石材の配置位置の関係の保証は、予め既知の位置に設置された少なくとも3個の基準球を3次元形状データ記憶部21によって計測し、この基準球との相対位置に基づいて、石材の配置位置を特定することによって行う。
【0012】
次に、図2を参照して、石垣の形状データを計測する動作を説明する。まず作業者は、石垣を構成する石材A1の四隅に計測機2によって読み取り可能な4つのマーキングP1〜P4を付けるとともに、石材のそれぞれを一意に識別可能な石材識別番号を付与する。ここでは、石材識別番号には、図面上で付与した符号を用いることにする。作業者は、石垣を解体する前に、計測機2によってマーキングP1〜P4が付け入られた石材で構成する石垣法面の修復前の現状の3次元形状データを計測する。この石垣法面の3次元形状データ計測は、石材が積み上げられた状態の法面の形状データと、各石材の配置位置のデータを取得するものである。このとき、作業者は、石垣の内面部分についても形状データを計測しておく。また、計測機2は、予め既知の位置に配置された基準球BPについても石垣法面と一緒に計測する。そして、計測機2は、各法面の形状データを石垣法面データ記憶部22に記憶する。続いて、作業者は、石垣を上部から順に解体し、解体した石材1つ1つについて、3次元形状データ計測部21によって石材の形状を計測する。計測機2は、計測して得られた石材の3次元形状データを石材データ記憶部23に記憶する。この動作によって、計測機2の石垣法面データ記憶部22には、解体前の石垣の法面形状のデータが記憶され、石材データ記憶部23には、解体した石材1つ1つの3次元形状データが記憶されたことになる。
【0013】
次に、作業者は、支援装置1の入力部12を操作して、形状データ入力を指示する。これを受けて、制御部11は、形状データ入力部14を介して計測機2内の石垣法面データ記憶部22と石材データ記憶部23に記憶されている形状データを読み込む。この形状データ読み込みは、専用のインタフェースを用いてもよいし、計測機2において記録媒体に形状データを書き込み、この記録媒体を支援装置1において読み取るようにしてもよい。
【0014】
制御部11は、計測機2から入力した形状データをそれぞれ石垣法面データ記憶部15と石材データ記憶部16に書き込む。これによって、支援装置1内の石垣法面データ記憶部15には、解体前の石垣の法面形状のデータが記憶され、石材データ記憶部16には、解体した石材1つ1つの3次元形状データが記憶されたことになる。ここで、図3、図4を参照して、石垣法面データ記憶部15と石材データ記憶部16のテーブル構造を説明する。
【0015】
図3は、図1に示す石垣法面データ記憶部22のテーブル構造を示す図である。石垣法面データ記憶部22は、石垣を構成する法面(2つ稜線で挟まれる面)のそれぞれを一意に識別可能な法面識別番号と、基準球とこの法面上の計測点との相対位置座標値の集合とが関連付けられて記憶される。図4は、図1に示す石材データ記憶部23のテーブル構造を示す図である。石材データ記憶部23は、石垣を構成する石材のそれぞれを一意に識別可能な石材識別番号と、石材それぞれに付けられた4つのマーキングP1〜P4の座標値(基準球との相対座標)及び石材表面上の計測点座標値の集合とが関連付けられて記憶される。
【0016】
次に、図1を参照して、図1に示す配置位置決定部18の動作を説明する。作業者が、入力部12を操作して、石垣を構成する石材の配置位置を決定する機能を選択すると、制御部11は、配置位置決定機能(手段)のメニューを表示部13に表示し、作業者が選択した機能を配置決定部18が石垣法面データ記憶部15と石材データ記憶部16から石材の3次元形状データや法面形状データを呼び出して処理して実行する。ここで選択することができる機能は、(1)「目視により手動で石材を移動する機能」、(2)「石材間の間隔表示機能」、(3)「均等配置機能」、(4)「設計法面に石材の表面を一致させるための回転・移動機能」、(5)「石材毎の移動の可否設定機能」と石材の配置位置出力機能(図示なし)である。
【0017】
(1)「目視により手動で石材を移動する機能」は、表示部13に表示されている石材を作業者が目視して、入力部2のマウス等で回転を含む移動を指定する機能である。(2)「石材間の間隔表示機能」は、選択した2つの石材の間隔量を表示部13に表示する機能である。(3)「均等配置機能」は、表示部13上に表示されている2つの石材で挟まれている石材列(少なくとも1つの石材)を配置位置決定部18が計算して自動的に均等配置する機能である。(4)「設計法面に石材の表面を一致させるための回転・移動機能」は、後述する設計法面定義部17において設計した石垣の設計法面(復元するべき法面)に石垣を構成する石材の表面を、例えば、マーキングP1〜P4を所定の範囲内に一致されるべく計算して、自動的に石材を回転・移動させて配置する機能である。(5)「石材毎の移動の可否設定機能」は、石材毎に移動の可否を設定する機能であり、移動することを禁止した石材は、他の配置位置決定機能を使用することによる移動ができなくなる。「石材の配置位置出力機能(手段)」は、上記(1)〜(5)の機能を使用して配置した石材の座標値(マーキングP1〜P4の座標値)、設計法面DSの座標値、後述の設計法面DSに対する石材表面の一致状況、石材相互の干渉状況を、数値であるいは図表で画面(表示部)上に表示したりプリンタ(図示なし)で紙に印刷出力したりする機能である。作業者は、上記の配置位置決定機能を使用して、設計した法面に石垣を構成する石材の表面が一致するように石材の配置位置を決定する。
【0018】
次に、図5を参照して、図1に示す設計法面定義部17の動作を説明する。最初に、石垣法面データ記憶部15と石材データ記憶部16に記憶したそれぞれのデータを基に、表示部13に修復前の現状の石垣を表示するよう入力部12から制御部11に指示する。この画面に表示された現状の石垣を見ながら作業者は、入力部12を操作して、設計法面を定義する機能を選択する。ここで作業者は、前述した配置位置決定機能を使用して、現状の石垣の稜線を構成する石材だけに着目して石垣の稜線を定義する。この石垣の稜線の定義にあたり、作業者は、石垣の稜線を構成する石材の積み上げ修正を行う。図5(a)は、石垣の稜線を構成する石材A1〜A5を下から順に積み上げ修正した状態を表示部13に表示した例である。この積み上げ修正作業は、まず地面(GL)より下の基礎石を基にその上の石材A5を相互の面が一致するように配置し、この石材A5の上に石材A4と同様に石材A4を積み上げる。このとき、作業者は、石材A5と石材A4が干渉していないように後述する干渉確認機能を使用して石材A4の配置位置を決定する。そして、同様の手順で石材A3、A2、A1を積み上げる。
【0019】
次に、石材A1〜A5を下から順に積み上げ修正した状態における稜線を求める操作を行う。すると、設計法面定義部17は、配置された石材の縁を結んだ仮想の稜線(近似線)を計算によって求める。この近似線は、図5(b)に示すように、石垣の法面S1に沿った稜線C1となる。続いて、設計法面定義部17は、求めた稜線C1から設計法面DSを計算によって求める。この設計法面DSは、稜線C1と修復範囲外の既存石垣の法勾配から3次元的に設定することができる。この動作によって設計法面定義部17は、図5(a)に示す設計法面DSを定義することができる。この設計法面DSが、復元するべき石垣の法面となる。作業者は、ここで定義した設計法面DSに、復元するべき法面を構成する石材の表面を一致させ、石材相互の干渉がないように、前述した配置位置決定機能を使用して全ての石材の配置位置を決定する。図6(a)は石材の配置位置出力機能を用いて表示部13に表示した例である。この図では各石材の表面が設計法面DSに一致しているか否かを示す表示と、他の石材と干渉している状態であることを示す表示を行った石垣の全体像を表示している。この図において、設計法面DSと石材の表面が一致している領域は、石材の表面が表示され、設計法面DSと石材の表面が一致していない領域は、設計法面DSの表面が表示される。また、各石材において、他の石材と干渉している(重なっている)状態である石材は、石材の表面、設計法面DSと区別できる色で着色されて表示される。この他の石材と干渉している石材は、干渉している詳細位置を確認するための表示(図6(b)参照)を行うことが可能である。
【0020】
なお、この設計法面DSの決定は、一義的に決定できるものではなく現実的には試行錯誤的に決定されるものである。例えば、設計法面DSを構成する石材以外の石材の中で移動できない石材がある場合、最初に決定した稜線による設計法面DSでは、その石を移動させることになり、現実的に採用できない場合がある。そのような場合には、改めて先に定義した稜線を若干修正して新たな稜線を定義し、そして新たな設計法面DSを決定することになる。そしてこれは、移動できない石材を移動しなくても済むようになるまで稜線の定義と設計法面DSの決定は繰り返される。また、本実施の形態では、石垣の稜線は2つの法面の交差線になっているが、1つの法面しかない場合でも、まずその法面に沿う上下方向の1本の線を最初に定義することになるので、これも稜線に含むものとする。
【0021】
次に、図7〜図8を参照して、図1に示す干渉確認部19の動作を説明する。まず、作業者が、石材間の干渉を確認する機能を選択すると、干渉確認部19は、干渉確認を行う対象の石材について、移動後の座標を求める(ステップS1)。次に、干渉確認部19は、石垣を構成する石材の中から1つの石材を選択し(ステップS2)、この選択した石材が干渉計算対象であるか(隣り合う石材であるか)否かを判定する(ステップS3)。この判定の結果、干渉計算対象でなければ次の石材選択を行う(ステップS14、S2)。一方、選択した石材が干渉計算対象であれば、干渉確認部19は、2つの石材(干渉確認を行う対象の石材と選択した石材)のバウンディングボックスの重なりを求める(ステップS4)。バウンディングボックスとは、対象の石材の表面に外接し、石材を内部に含む仮想の直方体(図8(a)参照)である。干渉確認部19は、この2つの仮想の直方体(バウンディングボックス)の互いの重なりを算出して求め、重なり合っているか否かを判定する(ステップS5)。この重なり(干渉)の判定は、以下のように行う。隣り合う2つのバウンディングボックスの内、1番目のバウンディングボックスのX座標値が小さいところに位置する2番目のバウンディングボックスのX座標の最大値が、1番目のバウンディングボックスのX座標の最小値よりも大きいときにX座標について干渉していることになる。このためこの比較処理を、XYZ座標の全てについて最大値と最小値の比較をし、全ての座標で上記条件になるときに干渉していると判定する。この判定の結果、重なり合っていなければ、次の石材選択を行う(ステップS14、S2)。
【0022】
一方、2つのバウンディングボックスが重なりあっている場合、干渉確認部19は、2つの石材(バウンディングボックス)をそれぞれ細分割(この例では、9×9の81分割とした)し(ステップS6;図8(b)、(c)参照)、この細分割したそれぞれの分割ボックス同士の重なりを求める(ステップS7)。そして干渉確認部19は、細分割ボックスが重なり合っているか否かを判定する(ステップS8)。この判定は、細分割していないバウンディングボックスの重なり判定と同様に、隣り合う2つの細分割ボックスの内、1番目の細分割ボックスのX座標値が小さいところに位置する2番目の細分割ボックスのX座標の最大値が、1番目の細分割ボックスのX座標の最小値よりも大きいときにX座標について干渉していることになる。このためこの比較処理を、XYZ座標の全てについて最大値と最小値の比較をし、全ての座標で上記条件になるときに干渉していると判定する。この判定の結果、重なっていなければ、次の細分割ボックスを選択して、処理を繰り返す(ステップS13、S7)。
【0023】
なお、この1つの石材についての細分割ボックスを含むバウンディングボックスの設定プログラムは、干渉確認部19に保持されている。そして各バウンディングボックスの座標データは、石材データ記憶部に16に記憶され、干渉確認部19から呼び出されて使用される。また、上記の各バウンディングボックス同士の干渉判定プログラムは、干渉確認部に保持されている。
【0024】
次に、細分割ボックスが互いに重なりあっている場合、干渉確認部19は、石材の3次元形状データに基づいて、表面の細かい凹凸を近似した三角形領域同士の交差(図8(d)参照)を求め(ステップS9)、三角形領域が交差しているか否かを判定する(ステップ10)。ここで、石材の表面を小さな多数の三角形領域に分割することの設定は、石材データ記憶部16に記憶された石材の3次元形状データに基づいて、制御部11に保持された公知の3D解析ソフト(例えば「Polyworks」)によって行われ、この三角形領域で分割された石材データは石材データ記憶部16に記憶される。そして、干渉確認部19は、判定対象とする細分割(バウンディング)ボックスに属する多数の三角形領域の1つ1つのデータを呼び出して、その三角形領域相互が交差しているかどうかを、Tomas Mollerの「Practical Analysis of Optimized Ray-Triangle Intersection」に記載された交差判定手法を用いて行う。これに基づいた交差判定プログラムは、干渉確認部19に保持されている。
【0025】
この判定の結果、三角形領域が交差していれば、交差していた三角形領域を着色(ステップS11)して表示(図6(b)参照)し、交差していなければ着色を行わない。この処理を全ての三角形領域について行う(ステップS12)とともに、全ての細分割ボックスについて行う(ステップS13)。そして、全ての石材について処理を繰り返し行う(ステップS14)ことにより、干渉確認処理を行うことができる。
【0026】
このように、干渉状態を確認する対象の石材のそれぞれが内部に含まれるバウンディングボックスを定義し、このバウンディングボックス同士が重なり合う場合に、バウンディングボックスのそれぞれを細分化したボックスに分割し、この細分化ボックス同士の重なりある場合にのみ詳細な重なり領域を求める処理(三角形領域の交差判定処理)を実行するようにしたため、干渉位置を求める処理を高速に行うことが可能となる。
【0027】
以上説明したように、稜線を構成する石材が互いに干渉しないように石材を積み上げることにより、復元するべき稜線を求め、この求めた稜線に基づいて、復元するべき石垣法面を定義して、石垣を構成する石材の表面が復元するべき石垣法面と一致するように各石材の配置位置を決定するための事前検討をコンピュータ上で行うことが可能となるため、適切な石垣修復を行うことが可能となり、手戻りを極力少なくすることができ、施工コストを低減することが可能になる。
【0028】
なお、図1における処理部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより石垣修復支援処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0029】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す計測機2のデータ計測動作を示す説明図である。
【図3】図1に石垣方面データ記憶部15のテーブル構造を示す説明図である。
【図4】図1に石材データ記憶部16のテーブル構造を示す説明図である。
【図5】図1に示す設計法面定義部17の動作を示す説明図である。
【図6】図1に示す干渉確認部19における処理結果の画面表示例を示す説明図である。
【図7】図1に示す干渉確認部19の動作を示すフローチャートである。
【図8】図1に示す干渉確認部19の動作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1・・・支援装置、11・・・制御部、12・・・入力部、13・・・表示部、14・・・形状データ入力部、15・・・石垣法面データ記憶部、16・・・石材データ記憶部、17・・・設計法面定義部、18・・・配置位置決定部、19・・・干渉確認部、2・・・計測機、21・・・3次元形状データ計測部、22・・・石垣法面データ記憶部、23・・・石材データ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石垣を構成する石材1石毎の3次元形状データを記憶する石材データ記憶手段と、
前記石材データ記憶手段に記憶されている少なくとも2つの石材間の3次元形状データに基づいて、石材の干渉状態を求める干渉確認手段と、
前記石材データ記憶手段に記憶されている前記石材の3次元形状データを参照して、復元するべき稜線を近似する近似線を求め、該近似線に基づいて、復元するべき石垣の設計法面を定義する手段と、
前記定義された設計法面に基づいて、前記石材の配置位置を決定する手段と、
前記配置が決定した石材の配置位置を出力する手段と
を備えたことを特徴とする石垣修復支援装置。
【請求項2】
前記干渉確認手段は、干渉状態を確認する対象の前記石材のそれぞれが内部に含まれるバウンディングボックスを定義し、該バウンディングボックス同士が重なり合う場合に、前記バウンディングボックスのそれぞれを細分化したボックスに分割し、該細分化ボックス同士の重なりある場合にのみ、それぞれの石材表面を複数の三角形領域に分割して、該三角形領域同士の交差判定を行うことにより、前記石材の干渉状態を求めることを特徴とする請求項2に記載の石垣修復支援装置。
【請求項3】
石垣を構成する石材1石毎の3次元形状データを記憶する石材データ記憶手段と、前記石材の配置位置を決定する配置位置決定手段と、前記配置位置決定手段により配置された少なくとも2つの石材の3次元形状データに基づいて、石材の干渉状態を求める干渉確認手段と、前記配置位置決定手段により配置された石材の前記3次元データに基づいて、復元するべき石垣の法面を定義する設計法面定義手段とを備えたコンピュータによる支援装置を用いて、石垣修復の施工を支援する石垣修復支援方法であって、
前記干渉確認手段により隣り合う石材の干渉状態を確認しながら、前記配置位置決定手段を使用して、前記石垣の稜線を構成する石材が互いに干渉しないように積み上げるステップと、
設計法面定義手段が、前記稜線を構成する石材が積み上げられた状態における各石材の3次元形状データを参照して、復元するべき稜線を近似する近似線を求め、該近似線に基づいて、復元するべき石垣の設計法面を定義する法面定義ステップと、
前記干渉確認手段により隣り合う石材の干渉状態を確認しながら、前記復元するべき法面を構成する石材の表面が前記設計法面に一致するように、前記配置位置決定手段を使用して前記石材の配置位置を決める配置決定ステップと、
前記配置位置決定手段が、前記配置が決定した石材の配置位置を特定する情報を出力する位置情報出力ステップと
を有することを特徴とする石垣修復支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−196231(P2008−196231A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33525(P2007−33525)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(591248223)株式会社計測リサーチコンサルタント (12)
【Fターム(参考)】