説明

石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法

【課題】石油類容器に用いる石油類容器用低合金鋼材における実機での局部腐食性(耐食性)評価を、迅速かつ簡便に、また、高精度で行う石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法を提供する。
【解決手段】石油類を収容する容器に用いられる低合金鋼材の局部腐食性評価方法において、低合金鋼材を用いて作製された金属片に、FeClおよびNaClを含む水溶液を滴下させた後、当該水溶液を滴下させた金属片を恒温恒湿状態に保持して腐食させ、当該腐食させた金属片の平均腐食深さと表面の粗さ測定値を合計して、当該腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより、低合金鋼材の局部腐食性を評価することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油および石油由来の油類の貯蔵、輸送、機器搭載等のための石油類容器に用いる石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油、重油、軽油、灯油、ガソリン、石油アスファルト、潤滑油、切削油、マシン油、グリース、石油ワックス、さび止め油、石油エーテル等の原油および石油由来の油類の貯蔵や運搬等に用いられる容器(以下、適宜「石油類容器」という)は、鋼材等の金属材料で作製されるのが一般的である。しかしながら、近年、タンク底に滞留する塩化物を含む水分等に起因して、容器に用いる金属材料である低合金鋼材が激しい局部腐食を受け、早期に穴あきに至ってしまうという問題が顕在化している。こうした石油類容器の材料の腐食は、例えば原油タンカーでは沈没事故といった重大事故を招くため、材質選定や肉厚設定等の容器設計や寿命予測のための局部腐食性評価を行う必要がある。
【0003】
このような局部腐食性評価としては、評価対象である低合金鋼材を、使用する石油類に浸漬させたり、既設の石油類容器内に暴露したりして、当該低合金鋼材の腐食損傷状況を調べることが一般的によく行われている。このような低合金鋼材の腐食損傷状況に関しては、特に実環境での暴露試験を行うことによって正確な評価が可能である。
また、石油類容器の低合金鋼材で生じる局部腐食は孔食となる場合が多いが、このような孔食を簡便に評価する方法として、塩化第二鉄溶液を用いてステンレス鋼(鋼材)の耐孔食性を調べる方法がJIS G0578に定められている。この方法は、35℃または50℃における6質量%塩化第二鉄溶液に試験片を24時間浸漬して、質量変化より腐食度を評価するものである。
【0004】
さらに、孔食の発生条件として一定温度を保持したサワー原油の満載状態を想定し、硫黄を付着させた研磨鋼板および黒皮付鋼板について孔食の発生状況を調べ、さらに、発生した孔食の形状、深さ、成長速度について検討した模擬原油タンクにおける孔食再現試験方法が開示されている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】海上安全研究領域 材料信頼性研究グループ「模擬原油タンクにおける孔食再現試験」独立行政法人海上技術安全研究所 研究発表会講演集 2003年6月 p.1‐4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した従来の腐食性を評価する方法には、以下に示す問題があった。
実環境での暴露試験では、試験期間に数年程度の長期間を要することに加えて、局部腐食は確率論的に発生するために、大面積の試験片が必要になるという問題があった。
また、JIS G0578に定められている方法は、ステンレス鋼材に対しては、短時間で耐食性を評価できる方法として有効であるが、炭素鋼材や低合金鋼材には、環境条件が厳しすぎて適用できないという問題があった。
さらに、非特許文献1に記載の方法は、タンカーの原油タンクにおける局部腐食を高精度で評価することが可能であるが、専用の評価試験設備が必要であることに加え、評価期間も6ヶ月程度と、暴露試験ほどではないが、比較的長期間を要するという問題があった。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、石油類容器に用いる石油類容器用低合金鋼材における実機での局部腐食性(耐食性)評価を、迅速かつ簡便に、また、高精度で行う石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法は、石油類容器の局部腐食が高濃度塩化物に起因して生じる浸食現象であることをふまえ、評価対象である低合金鋼材の局部腐食発生部を模擬した試験を行うことによって、実機での局部腐食性を迅速かつ簡便に、また、高精度で評価するものである。
すなわち、請求項1に係る石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法は、石油類を収容する容器に用いられる低合金鋼材の局部腐食性評価方法において、前記低合金鋼材を用いて作製された金属片に、FeClおよびNaClを含む水溶液を滴下させた後、当該水溶液を滴下させた金属片を恒温恒湿状態に保持して腐食させ、当該腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより、前記低合金鋼材の局部腐食性を評価することを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、低合金鋼材を用いて作製された金属片に、FeClおよびNaClを含む水溶液を滴下させた後、当該水溶液を滴下させた金属片を恒温恒湿状態に保持することで、低合金鋼材の金属片が腐食する。そして、この腐食した金属片の最大腐食深さを測定することにより評価対象材料の局部腐食性を評価することで、石油類容器用低合金鋼材における実機での局部腐食性の評価を迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
【0009】
請求項2に係る石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法は、前記FeClおよびNaClを含む水溶液中のFe3+濃度が1〜5質量%、Cl濃度が5〜10質量%であり、前記恒温恒湿状態における温度が40〜80℃、湿度が80〜100%であることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、水溶液中のFe3+濃度およびCl濃度を所定範囲に規制することで、低合金鋼材の金属片の腐食が促進され、また、試験における各金属片の耐食性の差異が現れやすくなる。さらに、恒温恒湿状態における温度および湿度を所定範囲に規制することで、腐食速度が大きくなるとともに腐食が促進され、また、試験溶液が蒸発しにくくなる。
【0011】
請求項3に係る石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法は、前記低合金鋼材が、タンカーの原油タンク底板に用いられるものであることを特徴とする。
このような構成によれば、低合金鋼材を用いたタンカーの原油タンクでの局部腐食性評価を、迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法によれば、評価対象である金属片(低合金鋼材)において局部腐食発生部を模擬した試験を行い、得られた金属片の最大腐食深さを測定することにより低合金鋼材の局部腐食性を評価することで、石油類容器用低合金鋼材における実機での局部腐食性を迅速かつ簡便に、また、高精度で評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
本発明の評価方法では、まず、評価対象材料である低合金鋼材の金属片に、FeClおよびNaClを含む水溶液(以下、適宜「試験溶液」という)を滴下させた後、この水溶液を滴下させた金属片を恒温恒湿状態に保持して腐食させる(腐食試験)。次に、この腐食試験で腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより局部腐食性を評価する。
【0014】
[腐食試験]
試験片として用いる低合金鋼材の金属片は、実機における局部腐食部を模擬するものである。この金属片は、転炉溶製により低合金鋼材の原料を溶製して、所定の化学成分を有する低合金鋼材を作製し、この鋼材から所定の大きさに切り出して作製する。そして、この金属片の全面を研磨仕上げし、水洗およびアセトン洗浄を行って腐食試験用の試験片とする。
【0015】
金属片の大きさは、小さすぎると腐食試験前後の質量変化の測定において測定精度が悪くなるため好ましくない。また、金属片の大きさが大きすぎると、腐食試験後の粗さ測定に時間がかかるため好ましくない。さらに、厚さが薄い場合には、貫通によって正確な腐食深さが測定できないので好ましくない。このような観点から、試験片として用いる金属片の大きさは、概ね10×10×3mmから50×50×50mm程度の範囲が好ましく、20×20×5mmから30×30×10mm程度の範囲がより好ましい。
【0016】
ここで、評価対象材料である低合金鋼材は、タンカーの原油タンク底板に用いられるものであることが好ましい。
原油タンカーでは沈没事故といった重大事故を招くため、材質選定や肉厚設定等の容器設計や寿命予測のための局部腐食性評価を行うことが重要である。そのため、タンカーの原油タンク底板に用いられる低合金鋼材を用いることにより、低合金鋼材を用いたタンカーの原油タンクでの局部腐食性評価を、迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
【0017】
金属片(試験片)上に滴下するFeCl(塩化第二鉄、塩化鉄(III))およびNaClを含む水溶液(試験溶液)は、局部腐食を起こす石油類容器の先端環境を模擬するものである。試験溶液は、試験の再現性確保の点から、FeClおよびNaClの特級試薬とイオン交換水あるいは蒸留水とを混合したものを用いることが好ましい。試験溶液の配合としては、試験溶液(水溶液)中のFe3+濃度が1〜5質量%、Cl濃度が5〜10質量%となるようにFeClおよびNaClを混合することが好ましい。
FeClおよびNaClの特級試薬としては、一般的に市販されている特級試薬を用いることができ、例えば、和光純薬工業(株)製のFeCl・6HO(コードNo.095−00875)、和光純薬工業(株)製のNaCl(コードNo.191−01665)等が挙げられる。
【0018】
試験溶液中のFe3+は、下記式(1)の反応式を腐食のカソード反応として付加することによって腐食を促進させるために必要であるが、Fe3+濃度が1質量%未満であると、その促進作用が小さく、評価試験に長時間を要しやすい。また、Fe3+濃度が5質量%を超えると、腐食促進が激しすぎて、試験における各低合金鋼材の耐食性の差異が現れにくい。このような観点から、溶液中のFe3+濃度は1〜5質量%が好ましく、2〜4質量%がより好ましい。
Fe3+ + e → Fe2+・・・(1)
【0019】
試験溶液中のClは、低合金鋼材の表面に形成される不働態皮膜を破壊して、局部腐食を促進するために必要であるが、Cl濃度が5質量%未満であると、その促進作用が小さく評価試験に長時間を要しやすい。また、Cl濃度が10質量%を超えると、腐食促進が激しすぎて低合金鋼材の耐食性の差異が現れにくい。このような観点から、溶液中のCl濃度は5〜10質量%が好ましく、6〜9質量%がより好ましい。
【0020】
局部腐食性評価方法においては、前記水溶液を試験片に滴下して腐食させるものであるが、本発明の局部腐食性評価方法は、試験片に滴下する溶液条件(濃度、量)を工夫することによって、JIS G0578の塩化第二鉄による腐食試験の問題点である環境条件が厳しすぎる点を改善したものである。
滴下する水溶液の量は、試験面積1m当たり0.1〜1Lが好ましい。滴下量が0.1L/m未満であると、前記式(1)の反応式によってFe3+が短時間で消費され、十分な腐食促進が得られない。一方、滴下量が1L/mを超えると、腐食環境として厳しすぎるため低合金鋼材の耐食性の差異が現れにくい。このような観点から、滴下する水溶液の量は、試験面積1m当たり0.1〜1Lが好ましく、0.2〜0.9Lがより好ましい。
【0021】
局部腐食性評価方法においては、前記水溶液を滴下した試験片を恒温恒湿状態に保持して腐食させる。このときの温度は40〜80℃、湿度は80%以上(100%以下)が好ましい。温度が40℃未満であると、腐食速度は小さく、また、腐食促進が十分でなく、評価試験に長時間を要しやすい。また、温度は高いほど腐食促進は大きく好ましいが、温度が80℃を超えると、湿度調整による水分補給を行っても液滴の蒸発が起こって実態の腐食状態を再現しにくい。このような観点から、温度は40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。また、このように腐食促進のための加温を行うと、試験片上の試験溶液(液滴)が蒸発して水分がなくなり、逆に腐食は進展しなくなる。このような液滴の蒸発を防ぐために、湿度は80%以上、好ましくは90%以上に調整する必要がある。なお、湿度の上限は100%である。
【0022】
[最大腐食深さの測定]
最大腐食深さを測定する方法としては、腐食試験前後の試験片(金属片)の質量変化から平均腐食深さを求め、さらに腐食試験後の表面の粗さを測定して測定値を求め、この平均腐食深さと表面の粗さの測定値を合計することにより、最大腐食深さを測定することが好ましい。また、精度の良い測定を行うために、腐食試験後の質量および表面の粗さの測定の前には、腐食生成物を除去することが好ましい。腐食生成物の除去方法としては、インヒビターを添加した酸等、適切な除去液に浸漬させる方法、クエン酸水素二アンモニウム水溶液等を用いた陰極電解法、あるいはウォータージェット法等を用いることが可能である。
【0023】
局部腐食性評価方法は、腐食試験で腐食させ金属片の最大腐食深さを極値解析法によってデータ解析を行うことで、実機の最大腐食深さを推定することが可能であるため、この最大腐食深さを測定することにより評価する。すなわち、前記腐食試験に複数個の試験片を用いて、各々の試験片の最大腐食深さを求め、極値プロットを行って実機の最大腐食深さを求める。これは、局部腐食における最大腐食深さがガンベル分布に従うということに基づくものである。
【0024】
本発明の評価方法においては、ある材料の腐食発生面積率が既知である場合には、再帰期間(T)を用いて、実機での使用面積に相当する最大腐食深さを求めることが可能である。ここで、実機での使用面積をA、腐食発生面積率をB、評価試験に用いる試験片面積をCとすると、「T=A×B/C」に相当する最大腐食深さが実機における最大腐食深さの推定値となる。この推定は、材種が異なった場合にも腐食発生面積率は変わらないという前提条件において成り立つものである。
なお、実機での使用面積とは、本発明で評価対象としている環境、すなわち、実機において、石油類と接触している材料の総面積を意味する。また、腐食発生面積とは、発生した局部腐食の総面積を意味する。
【実施例】
【0025】
次に、本発明に係る石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法の実施例について、図面を参照して説明する。
参照する図面において、図1は、試験溶液を滴下した試験片のイメージ図、図2は、腐食試験後の試験片断面における最大腐食深さを示す説明図、図3は、最大腐食深さの極値プロットを示す極値プロット図である。
なお、本発明の評価方法における評価結果と、従来の評価方法における評価結果との整合性を示すため、従来の評価方法(暴露試験)における評価結果を合わせて示す。
【0026】
<本発明に係る評価方法>
[試験方法]
転炉溶製により低合金鋼材の原料を溶製して、表1に示すA〜Cの化学成分を有する低合金鋼材を作製し、この鋼材から30×30×5(mm)の大きさの金属片を切り出した。切り出した金属片の全面を湿式回転研磨機(研磨紙;#600)で研磨仕上げし、水洗およびアセトン洗浄を行って腐食試験用の試験片とした。試験面以外の面はシリコンシーラントにより被覆を施して、腐食するのを防止した。この試験片を使用して、以下の腐食試験を行った。
【0027】
【表1】

【0028】
腐食試験の試験溶液は、FeCl・6HOの特級試薬(和光純薬工業(株)製:コードNo.095−00875)を150gと、NaClの特級試薬(和光純薬工業(株)製:コードNo.191−01665)40gを、全体が1000gとなるようにイオン交換水に添加して混合したものであり、Fe3+濃度およびCl濃度はそれぞれ3.1質量%および8.3質量%である。当該試験溶液を前記の試験片1個に対して0.7mL(0.78L/m)を滴下して、試験片の片面全面に界面張力を利用してこぼれないように広げた(図1参照)。次に、試験溶液を滴下した試験片を、温度60℃、湿度95%RHに保持した恒温恒湿試験器に設置して、試験片を腐食させた。なお、試験時間は168時間である。
【0029】
そして、図2に示すように、腐食試験前後の質量変化から平均腐食深さ(A)を求め、さらに試験後の試験片表面の3次元粗さ測定を行って、粗さ測定値(B)を求め、これらを合計して試験片の最大腐食深さ(A+B)を求めた。なお、試験終了後に試験片表面に生成している腐食生成物は、10質量%クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法によって除去した。
【0030】
[試験結果]
前記腐食試験を行って求めた鋼材A、BおよびCの最大腐食深さについて、極値プロットを行った。この極値プロット(ガンベル分布)を図3に示す。図3は、Aは24個、Bは10個、Cは10個の試験片について、最大腐食深さを求め、それぞれ小さい順に並べて平均ランク法によりプロットした結果である。なお、縦軸は、再帰期間および累積確率、横軸は、最大腐食深さである。最大腐食深さは確率論的にばらついており、ガンベル分布に従っている。すなわち、実機での使用面積が広ければ広いほど、最大腐食深さは深くなることを意味するものである。
【0031】
次に、実機での使用面積に相当する最大腐食深さを求める。本実施例では、試験片の大きさは30×30mmであるから、用いた試験片面積Cは9.0×10mmである。そして、例えば、実機容器の面積(実機での使用面積)が9.0×10mm、腐食発生面積率が0.01%であれば、T=9.0×10×0.0001÷(9.0×10)=100に相当する最大腐食深さが実機での最大腐食深さと見積もることができる。
【0032】
前記の実験結果より、実機での使用面積に相当する最大腐食深さを推測した結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2は、図3のプロットの最小自乗法で求めた外挿線を外挿して、再帰期間T=100における最大腐食深さを読んだものである。
なお、本結果によれば、鋼材Bおよび鋼材Cの最大腐食深さは、ぞれぞれ、鋼材Aの48.6%、34.4%と評価される。
【0035】
<従来の評価方法(暴露試験)>
[試験方法]
重油貯蔵容器内に、表3に示すA、BおよびCの鋼材を暴露して、本発明に係る評価方法との相関関係を調べた。用いた試験片は、大きさが1000×1000×19(mm)であり、重油貯蔵容器底に平行に設置して重油に暴露した。なお、使用した鋼材は、前記の本発明に係る評価方法と同様の方法で作製した。内容物の重油は、JIS K2205において3種2号に分類される重油である。3年間の暴露後に試験片を取り出して、ウォータージェット法により錆等の腐食生成物を除去し、デプスゲージを用いて腐食部の腐食深さを測定した。
【0036】
[試験結果]
前記試験を行って求めた鋼材A、BおよびCの最大腐食深さを表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示すように、最大腐食深さの比率は、本発明による評価結果(表2)とほぼ一致する結果であり、本発明が迅速かつ簡便に、また、暴露試験と同様に高精度で腐食状況を評価できることがわかる。
以上説明したように、本発明に係る石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法によれば、各種鋼材の実機での使用面積における最大腐食深さを簡便に求めることがでる。この最大腐食深さを元に、各鋼材での最大腐食深さの違い等から、石油類容器用低合金鋼材における実機での耐食性評価を迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態、実施例について説明してきたが、本発明は前記実施形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲において広く変更、改変して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】試験溶液を滴下した試験片のイメージ図である。
【図2】腐食試験後の試験片断面における最大腐食深さを示す説明図である。
【図3】最大腐食深さの極値プロットを示す極値プロット図である。
【符号の説明】
【0041】
1 試験片(低合金鋼材の金属片)
2 試験溶液(水溶液)
A 質量変化(平均腐食深さ)
B 粗さ測定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油類を収容する容器に用いられる低合金鋼材の局部腐食性評価方法において、
前記低合金鋼材を用いて作製された金属片に、FeClおよびNaClを含む水溶液を滴下させた後、当該水溶液を滴下させた金属片を恒温恒湿状態に保持して腐食させ、当該腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより、前記低合金鋼材の局部腐食性を評価することを特徴とする石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法。
【請求項2】
前記FeClおよびNaClを含む水溶液中のFe3+濃度が1〜5質量%、Cl濃度が5〜10質量%であり、前記恒温恒湿状態における温度が40〜80℃、湿度が80〜100%であることを特徴とする請求項1に記載の石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法。
【請求項3】
前記低合金鋼材が、タンカーの原油タンク底板に用いられるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の石油類容器用低合金鋼材の局部腐食性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−39599(P2008−39599A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214611(P2006−214611)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】