説明

石炭ガス化システム

【課題】チャー回収装置におけるチャーの回収効率を高めた石炭ガス化システムを提供する。
【解決手段】石炭をガス化させることで少なくとも水素ガスおよび一酸化炭素ガスを製造する石炭ガス化システム1であって、下段に配置され石炭を部分燃焼させる部分酸化部21、および部分酸化部21に連通して上段に配置され石炭を熱分解させる熱分解部22を有する二段構造の石炭ガス化反応炉11と、熱分解部22で発生したチャーを含むガス状体を冷却する急冷装置12と、急冷装置12で冷却されたガス状体からチャーを回収するチャー回収装置14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を原料として一酸化炭素ガスなどを製造する石炭ガス化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭をガス化して可燃性ガスなどを効率的に製造するために、固定床型、流動床型、および気流床型(気流床型)などの様々な構成の石炭ガス化反応炉を有する石炭ガス化システムが検討されている。その例として、特許文献1および2に開示された石炭の水素化熱分解装置(石炭ガス化反応炉)を用いた石炭ガス化システムが知られている。
【0003】
この石炭の水素化熱分解装置は、下段に配置された高温ガス化炉(部分酸化部)と上段に配置された水素化熱分解炉(熱分解部)とで構成されている。
高温ガス化炉に吹き込まれた炭素質原料、酸素ガス、および水蒸気から、水素ガス、一酸化炭素ガス、および二酸化炭素ガスを主成分とするガス化ガスが発生する。ガス化ガスは石炭とともに水素化熱分解炉に導入され、熱分解によりガスとともにチャー(未ガス化石炭残滓または熱分解残滓)が発生する。
水素化熱分解炉で発生したチャーは、サイクロン(チャー回収装置)で回収され、チャーリサイクル設備により高温ガス化炉に投入されガス化される。チャーを高温ガス化炉に投入することで、石炭のC転換率(ガス中の炭素の質量を原料中の炭素の質量で割った値に100を掛けた値。)が向上し、メタンやメタノールなど合成ガスを効率的に製造することができるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4334326号公報
【特許文献2】特許第3287603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の石炭ガス化システムでは、水素化熱分解炉で発生したチャーは、高温下では軟化溶融しやすいため、その表面の粘着性が高い。このため、チャーが配管の内面などに付着して配管閉塞を起こしたり、熱回収器の伝熱管に付着して熱交換効率を低下させたりするとともに、サイクロンにおけるチャーの回収効率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、チャーの付着トラブルを防止するとともに、チャー回収装置におけるチャーの回収効率を高めた石炭ガス化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の石炭ガス化システムは、石炭をガス化させることで少なくとも水素ガスおよび一酸化炭素ガスを製造する石炭ガス化システムであって、下段に配置され前記石炭を部分燃焼させる部分酸化部、および前記部分酸化部に連通して上段に配置され前記石炭を熱分解させる熱分解部を有する二段構造の石炭ガス化反応炉と、前記熱分解部で発生したチャーを含むガス状体を所定の冷却速度以上で冷却する急冷装置と、前記急冷装置で冷却された前記ガス状体から前記チャーを回収するチャー回収装置と、を備えることを特徴としている。この場合、熱分解部で発生したガス状体を急冷装置で冷却することで、チャー表面の軟化溶融による粘着性が低減する。
【0008】
また、上記の石炭ガス化システムにおいて、前記熱分解部で950℃以上1200℃以下に加熱された前記ガス状体を、前記急冷装置において900℃以下まで冷却することがより好ましい。
また、上記の石炭ガス化システムにおいて、前記急冷装置における前記ガス状体を冷却する速度は、1秒当たり200℃以上であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明において、請求項1に記載の石炭ガス化システムによれば、チャーが配管の内面や熱回収器の伝熱管などに付着するのを防止し、チャー回収装置におけるチャーの回収効率を高めることができる。
請求項2に記載の石炭ガス化システムによれば、チャー表面の粘着性をより低減させ、チャー回収装置におけるチャーの回収効率を高めることができる。
請求項3に記載の石炭ガス化システムによれば、チャーを配管により付着しにくくし、チャーの回収効率をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の石炭ガス化システムのブロック図である。
【図2】同石炭ガス化システムにおける急冷器の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る石炭ガス化システムの一実施形態を、図1および図2を参照しながら説明する。本石炭ガス化システムは、石炭をガス化させることで少なくとも水素ガスおよび一酸化炭素ガスを製造するプラント設備である。
本実施形態の石炭ガス化システム1は、ガス化反応器(石炭ガス化反応炉)11と、急冷器(急冷装置)12と、熱回収器13と、チャー回収器(チャー回収装置)14と、シフト反応器15とを備えている。
【0012】
本実施形態の石炭ガス化システム1には、亜瀝青炭や褐炭など、様々な種類の石炭を用いることができる。一般に、石炭は外径が不均一であり、亜瀝青炭や褐炭には、たとえば30〜60%程度もの多量の水分が含有されている。そこで、不図示の粉砕・乾燥器において加熱し、含有水分を2%〜20%まで乾燥させるとともに外径をたとえば10μm以上100μm以下程度の粒状となるように粉砕された石炭を、不図示の石炭供給器に供給する。
石炭供給器は、一般的には、窒素ガスなどを搬送ガスとして、石炭をガス化反応器11に気流搬送により供給する。
【0013】
ガス化反応器11は、下段に配置された部分酸化部21、および部分酸化部21に連通した状態で上段に配置された熱分解部22を有して二段構造に構成されている。部分酸化部21の下方には、部分酸化部21に連通する不図示のスラグ冷却水槽が設けられている。部分酸化部21および熱分解部22は、内部に所定の大きさの空間が設けられた反応容器であり、スラグ冷却水槽とともに耐熱性の耐火物や水冷壁などで形成されている。
部分酸化部21内には、不図示のガス化バーナーを通して、石炭供給器により石炭が供給され、不図示の空気分離器で分離した酸素ガス、および熱回収器13で発生した水蒸気がそれぞれ供給される。また、部分酸化部21内には、ガス化バーナー若しくは不図示のチャーバーナーを通してチャー回収器14によりチャーが供給される。
【0014】
部分酸化部21内に供給された粒状の石炭、チャー、酸素ガスおよび水蒸気は、部分酸化部21内を旋回しながら上昇する。このとき、部分酸化部21内は、高温・高圧(たとえば、温度が1250℃以上(好ましくは、1300℃以上1600℃以下)であって、圧力が1MPa以上(好ましくは、2.0MPa以上4.0MPa以下)。)になっている。
この環境下で石炭およびチャーが加熱され、まず、揮発成分と炭素分に分解する。タールおよび水蒸気などを含む揮発成分は、酸素や水蒸気と反応して高温の一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素ガスに分解し、石炭およびチャー中の炭素が下記の化学反応式(1)〜(3)によりガス化することで、高温の一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素ガスおよびスラグ(灰分)が発生する。
2C+O→2CO ・・・(1)
C+O→CO ・・・(2)
C+HO→CO+H ・・・(3)
【0015】
部分酸化部21内で発生した高温の一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素ガス、水蒸気、および未反応カーボンなどは旋回しながら部分酸化部21内を上昇し、熱分解部22内に移動する。
部分酸化部21内で発生したスラグは溶融した状態となっているが、一部が部分酸化部21の内面で冷やされてこの内面に付着し、その他の部分がスラグ冷却水槽の水中に落ちて冷やされ、回収される。
【0016】
熱分解部22内には、石炭供給器から石炭が供給される(熱回収器13から水蒸気が供給されてもよい。)。
熱分解部22内に供給される石炭は、熱分解によりチャーと一酸化炭素ガスと水素ガスとメタンガスとに分解される。
【0017】
また、熱分解部22内に供給された石炭中の炭素の一部は、熱分解部22内の二酸化炭素ガスや水蒸気と反応して下記の化学反応式(4)および(5)により一酸化炭素ガスになる。
C+HO→CO+H ・・・(4)
C+CO→2CO ・・・(5)
【0018】
本実施形態では、熱分解部22で発生した、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、および水素ガスなどからなる粗合成ガスとチャーとを含むガス状体は、熱分解部22で950℃以上1200℃以下(好ましくは、1000℃以上1150℃以下)に加熱されている。
熱分解部22では部分酸化部21に対して内部の温度が低下した状態となっていて、熱分解部22で1次冷却が行われる。
そして、熱分解部22でガス状体が製造され、急冷器12に供給される。
【0019】
図2に示すように、本実施形態では急冷器12としてクエンチャーが用いられ、急冷器12で2次冷却が行われる。急冷器12は、管状に形成された本体31と、本体31の内面を覆う断熱物32a、32bと、本体31内に冷却水を噴霧する複数(3つ以上が好ましい。ここでは3つとする。)のスプレーノズル33(2つのスプレーノズル33は不図示)とを有している。
本体31の内側は、耐熱性の耐火物で形成されている。断熱物32a、32bとしては、不定形耐火物やレンガなどを好適に用いることができる。
スプレーノズル33の先端には不図示のチップが設けられていて、このチップにより、高い圧力が印加された冷却用の水(図1参照)は、150μm以下(好ましくは100μm以下)の噴霧径となって本体31内に噴霧することができる。3つのスプレーノズル33は、本体31の中心軸線C回りに等角度ごとに配置されている。
【0020】
このように構成された急冷器12は、本体31内に供給されたガス状体を水の蒸発潜熱により、900℃以下(好ましくは、300℃以上700℃以下)に冷却する。急冷器12におけるガス状体を冷却する速度は、1秒当たり200℃以上に調節されている。急冷器12で急速に冷却されたチャーは、微粉形状のまま軟化溶融性がなくなり、配管の内面などに付着しなくなり、全て下流に搬送されていく。
急冷器12で冷却されたガス状体は、図1に示すように熱回収器13に搬送される。
【0021】
熱回収器13では、ガス状体が冷却水と熱交換することで冷却されるとともに、冷却水が水蒸気となる。熱回収器13で発生した水蒸気は、部分酸化部21および熱分解部22に供給される。
熱回収器13で冷却されたガス状体は、チャー回収器14に供給される。チャー回収器14には不図示のサイクロンやフィルタが内蔵されていて、このサイクロンやフィルタは、搬送されるガス状体中に配置される。サイクロンやフィルタによってガス状体より分離回収されたチャーは、搬送ガスとともに部分酸化部21内に供給される。
チャー回収器14を通過したガス状体は、シフト反応器15に供給される。そして、ガス状体中における一酸化炭素ガスに対する水素ガスの比率を一定の値まで高めるために、ガス状体中に水蒸気が供給され、下記の化学反応式(6)で示されるシフト反応により、ガス状体中の一酸化炭素ガスが消費されて水素ガスが発生する。
CO+HO→CO+H ・・・(6)
【0022】
シフト反応器15で成分を調節されたガス状体は、不図示のガス冷却・ガス精製器によりガス状体中に含まれる硫黄を成分として含むガスや二酸化炭素ガスなどが回収される。
ガス冷却・ガス精製器でガス状体から分離された水素ガスおよび一酸化炭素ガスなどは、合成ガスとして下流の工程に搬送され、メタンやメタノールなどが製造される。
【0023】
以上説明したように、本実施形態の石炭ガス化システム1によれば、熱分解部22で発生したチャーを含むガス状体を急冷器12で冷却することで、チャー表面の粘着性が低減する。したがって、チャーが配管の内面などに付着するのを防止し、チャー回収器14におけるチャーの回収効率を高めることができる。
熱分解部22で950℃以上1200℃以下に加熱されたガス状体を、急冷器12において900℃以下まで冷却する。このようにすることで、チャーの軟化溶融による粘着性をより低減させ、チャー回収器14におけるチャーの回収効率を高めることができる。
【0024】
また、急冷器12におけるガス状体を冷却する速度は、1秒当たり200℃以上である。このため、チャーを配管により付着しにくくし、チャーの回収効率をさらに高めることができる。
チャーは、高温下では付着しやすい性質があり、壁への衝突などにより容易に付着する。そこで、チャーが付着しなくなる温度まで速やかに冷却する必要がある。
しかしながら、チャーのような粉体はガスを媒体として冷却されるので、ガスの温度を速やかに下げることがチャーの冷却にとって重要となる。従来のガス冷却の知見から、ガスを速やかに冷却するためには、噴霧水の液滴径を150μm以下のように小さくすればよいことが知られている。その冷却速度を基準に、ガス状体を1秒当たり200℃以上の冷却速度で冷却することが、チャーの付着等を最も少なくする方法である。
【0025】
本実施形態の急冷器12で冷却されたチャーは微粉形状のままとなるため、チャー回収器14で回収されたチャーを部分酸化部21に100%リサイクルすることができる。
チャーが配管の内面などに付着しにくくなることで、熱回収器13およびチャー回収器14などの急冷器12より下流(後段)の設備にチャーが付着するのを抑え、熱回収器13などが故障する(能力低下する)のを防止することができる。
急冷器12では、冷却用の水が気化して水蒸気となる。この水蒸気は、シフト反応器15において上述の化学反応式(6)で示されるシフト反応に用いられるため、シフト反応器15で外部から供給する水蒸気量を低減させることができる。
【0026】
なお、本実施形態の石炭ガス化システム1において熱分解部22を備えない場合には、製造ガスの熱が主な転換熱ロスとなり、約80%の冷ガス効率しか得られないことが分かっている。ここで、冷ガス効率とは、原料投入石炭の熱量に対する製造ガスの熱量に100を掛けた値であり、投入した石炭の熱量が製造したガスの熱量にどれだけ転換できたかを表す指標である。
本実施形態のガス化反応器11は熱分解部22を備えることで、部分酸化部21のガスの熱を熱分解部22の石炭の熱分解に利用して、冷ガス効率を5%程度向上することができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。
たとえば、本発明の急冷器を従来の石炭ガス化炉からのチャーを含むガス状体に適用することで、チャーの付着性を低減することができ、チャーを高回収率で回収することも可能である。
【0028】
(実施例)
前記石炭ガス化システム1を用いて試験を行い、急冷器12においてガス状体を700℃まで冷却する条件で石炭ガス化システム1を運転した。このとき、急冷器12から搬送されるガス状体は塊状化せずに微粉形状を維持し、ガス状体を搬送する配管の内面にチャーは付着しないことが分かった。
熱分解部22で発生したチャーは、チャー回収器14で99%以上回収することができ、チャー回収器14で回収されたチャーは、部分酸化部21に100%リサイクルすることができた。これにより、石炭ガス化システム1のC転換率(ガス中の炭素の質量を原料中の炭素の質量で割った値に100を掛けた値。)を99%以上にするとともに、冷ガス効率を85%にすることができた。
【0029】
これに対して、比較例として、石炭ガス化システム1において急冷器12を備えないものを用いて運転した。この場合、配管の内面などにチャーが付着して石炭ガス化システムを継続的に運転できなくなることが分かった。比較例の石炭ガス化システムのC転換率は、97%に低下し、冷ガス効率も約1%低下した。
【符号の説明】
【0030】
1 石炭ガス化システム
11 ガス化反応器(石炭ガス化反応炉)
12 急冷器(急冷装置)
14 チャー回収器(チャー回収装置)
21 部分酸化部
22 熱分解部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭をガス化させることで少なくとも水素ガスおよび一酸化炭素ガスを製造する石炭ガス化システムであって、
下段に配置され前記石炭を部分燃焼させる部分酸化部、および前記部分酸化部に連通して上段に配置され前記石炭を熱分解させる熱分解部を有する二段構造の石炭ガス化反応炉と、
前記熱分解部で発生したチャーを含むガス状体を冷却する急冷装置と、
前記急冷装置で冷却された前記ガス状体から前記チャーを回収するチャー回収装置と、
を備えることを特徴とする石炭ガス化システム。
【請求項2】
前記熱分解部で950℃以上1200℃以下に加熱された前記ガス状体を、前記急冷装置において900℃以下まで冷却することを特徴とする請求項1に記載の石炭ガス化システム。
【請求項3】
前記急冷装置における前記ガス状体を冷却する速度は、1秒当たり200℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の石炭ガス化システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−241106(P2012−241106A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112515(P2011−112515)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)