説明

石積み体の緑化工法

【課題】 構築済みの石積み体を石を積み直すことなく緑化でき、しかも植物が良好に生育して安定的に定着できるようにする。
【解決手段】 堆積土又は堆肥化した植物廃材あるいはこれらを混合した基盤材と繊維片と水和反応で固化する固化材と植物の種子と肥料と水とを混練して植生基材6を作製し、その植生基材6を石2と石2の間の隙間3から裏込栗石層4に対して圧入するとともに石2と石2の間の隙間3に充填する。所定時間が経過すると、固化材が水和反応で固化し、基盤材と繊維片が立体網状に連結して多数の微細な空隙が形成されるとともに、植生基材6が石2と裏込栗石5に強固に固着する。その後、植生基材6内の種子が発芽し、石2と石2の間の隙間3から植物Pが伸長して生育し、石積み体1が緑化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石積み体を緑化する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川の岸壁には表土の流出を防止するために石積み体を構築している箇所がある。石積み体には、構築後に石と石の間の隙間に堆積した土壌から植物が植生することがあるが、河川の増水や強雨等で土壌が流出し、苔以外の植物が定着することは難しいものであった。この石積み体を緑化して自然の景観を回復させようとする技術が特許文献1,2に開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、可撓性及び透水性を有する網状の植生袋に植物の種子と用土を収容し、その植生袋を先端部が石積み体の壁面から露出しないように且つ後端部が裏込栗石に達するように石と石の間に配置したことを特徴としている。この技術によれば、発芽した植物が植生袋の先端部から伸長して石と石の間の隙間から生長し、根は植生袋の後端部から伸長して裏込栗石及び地盤の方に生長できるようにした、というものである。
【0004】
特許文献2に記載の技術は、泥炭に保水剤と種子と肥料を添加して緑化マットを成形し、その緑化マットを石積み体の表面に被覆して金具で石に定着したことを特徴としている。この技術によれば、緑化マットが可撓性に富むから石積み体の凹凸に柔軟に馴染んで取り付け状態が安定し、しかも石積み体の全面を被覆するから広範囲に渡って万遍なく緑化できる、というものである。
【0005】
ところで、特許文献1に記載の技術は、石の積み上げと植生袋の配置を並行して行う工法であるから、石を先に積み上げた後に石と石の間の隙間に植生袋を配置することは困難で、構築済みの石積み体を緑化する際は石を積み直す必要があり、手間と労力を伴うものであった。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術は、緑化マットは石積み体の表面に被覆しているだけであるから、肥料が枯渇すると植物が生育不良になり、保水性も不十分であった。また、河川の増水や強雨等により緑化マットが崩れて流出し易く、植物を安定的に定着させることは難しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−48823号公報
【特許文献2】特開平9−21135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、構築済みの石積み体を石を積み直すことなく緑化でき、しかも植物が良好に生育して安定的に定着できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 地盤の側面位置に石を積み上げ、その石と地盤の間に裏込栗石を充填して構築した石積み体における緑化工法であって、堆積土又は堆肥化した植物廃材あるいはこれらを混合した基盤材と繊維片と水和反応で固化する固化材と植物の種子と肥料と水とを混練して植生基材を作製し、その植生基材を石と石の間の隙間から裏込栗石の層に対して圧入するとともに石と石の間の隙間に充填し、植生基材内の固化材の固化によって基盤材と繊維片を立体網状に連結させ、植生基材内の種子を発芽させて石と石の間の隙間から伸長させるようにしたことを特徴とする、石積み体の緑化工法
2) 基盤材と繊維片と固化材と種子と肥料と水との配合比が、基盤材1000L容積に対して繊維片が10〜20kg、固化材が20〜40kg、種子が200〜500g、肥料が5〜15kg、水が0.2〜0.3mである、前記1)記載の石積み体の緑化工法
3) 石積み体が河川の堤体を構成するものである、前記1)又は2)記載の石積み体の緑化工法
にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植生基材を石と石の間の隙間から裏込栗石に対して圧入し、さらに石と石の間の隙間にも充填する。植生基材の圧入後、所定時間が経過すると固化材が水和反応で固化し、基盤材と繊維片が立体網状に連結して多数の微細な空隙が形成されるとともに、植生基材が石と裏込栗石に強固に固着する。その後、植生基材内の種子が発芽し、石と石の間の隙間から植物が伸長して生育し、石積み体が緑化される。
【0011】
このように、植生基材を石と石の間の隙間から圧入するから、構築済みの石積み体であっても石を積み直すことなく緑化できる。また、植生基材内に形成された微細な空隙により、保水性が向上するとともに空気層も形成され、植物の生育が良好なものとなる。さらに、固化材の固化で植生基材が石と裏込栗石に固着するから、河川の増水や強雨等の物理的な作用を受けても、従来技術のように容易に崩れて流出することがなく、植物を安定的に定着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例の植生基材の圧入を示す説明図である。
【図2】実施例の石積み体の緑化状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の基盤材は、植生基材の主原料となるもので、堆積土又は堆肥化した植物廃材あるいはこれらを混合したものからなる。堆積土としては、ダム湖・調整池・貯水池・浄水場等で発生したものや、建設現場等で発生した土壌などを有効利用したものである。植物廃材としては、造成工事や道路工事等で発生した樹皮・枝・根株等の木材チップが利用される。配合比は、施工面積100m当り8000〜10000Lの範囲が実用的である。
【0014】
繊維片は、植生基材を嵩高くし、固化後に基盤材と繊維片を立体網状に連結して微細な空隙を多数有する土壌を形成するためのもので、植物廃材を解繊したものや古紙、パルプ等のセルロースを主成分としたものからなる。その配合比は、施工面積100m当り100〜200kg(基盤材1000L容積に対しては10〜20kg)が実用的で、100kg以下では空隙の形成が不十分となり、200kg以上では空隙が大きくなりすぎて保水性が低下することがある。
【0015】
固化材は、水及び土と化学反応して半永久的な固化能力を持つ鎖状結束を形成し、基盤材や繊維片に浸透して植生基材を強固に安定させ、土壌安定化・団粒化・浸食防止・保水を図るためのもので、石灰系・石膏系・明礬系材料を主原料とし、これにアルミナやシリカを加えたものからなる。その配合比は、施工面積100m当り250〜350kg(基盤材1000L容積に対しては20〜40kg)が実用的であるが、作業時間や施工面積に応じて増減させる。
【0016】
肥料は主に緩効性のものが用いられ、その配合比は、施工面積100m当り60〜90kg(基盤材1000L容積に対しては5〜15kg)が実用的であるが、植物の種類や気象等に応じて適宜決定される。水は、裏込栗石の層への圧入が容易で、且つ固化前に石と石の間の隙間から容易に流出しない粘度になる量とし、基盤材1000L容積に対して0.2〜0.3mが実用的ある。
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を実施例と図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0018】
図1,2に示す実施例は、河川の岸壁に構築された石積み体を本発明の緑化工法で緑化する例である。図1は実施例の植生基材の圧入を示す説明図、図2は実施例の石積み体の緑化状態を示す説明図である。図中、1は石積み体、2は石、3は隙間、4は裏込栗石層、5は裏込栗石、6は植生基材、7はノズル、Gは地盤、Pは植物、Wは河川である。
【0019】
本実施例の植生基材6の配合比を表1に示す。混練に使用するタンクの容積は3mである。
【0020】
【表1】

【0021】
基盤材はテラユーズ(商品名)、繊維片はテンソイル3号(商品名)、固化材はパームグリーン(商品名)、肥料はハイコントロール700(商品名)を用いた。これらをタンクに投入し、ミキサーで混練して植生基材6を作製した。
【0022】
この植生基材6をポンプでノズル7に圧送する。図1に示すように、石2と石2の間の隙間3にノズル7を挿入して植生基材6を吐出させると、裏込栗石5と裏込栗石5の間の隙間に圧入されて充填される。さらに石2と石2の間の隙間3にも充填する。この作業を全ての隙間3と裏込栗石層4の全域に対して行う。
【0023】
植生基材6の充填後、混練から1〜2時間が経過すると、植生基材6内の固化材が水和反応で固化し、基盤材と繊維片が立体網状に連結して多数の微細な空隙が形成されるとともに、植生基材6が石2と裏込栗石5に強固に固着する。これにより、吸収した水を空隙に貯えることができて保水性が向上し、空気の出入りも容易となって植物Pの生育に良好な環境となる。また、植生基材6が河川Wの増水や強雨等の物理的な作用を受けても、従来技術のように容易に崩れて流出することがなく、恒久的に保持される。
【0024】
水は降雨によって石2と石2の間の隙間3から植生基材6に浸水し、さらに裏込栗石層4の上面や地盤Gからも浸水して植生基材6内に保水される。その後、植生基材6内の種子が発芽し、混合した肥料と保水している水を吸収して植物Pが生育し、茎や葉が石2と石2の間の隙間3から伸長して石積み体1が緑化される。植物Pの根はさらに裏込栗石層4を通じて地盤Gの方へ伸長し、植生基材6内の肥料が枯渇しても不足分は地盤Gから吸収し、大きく生育して定着が安定したものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の技術は、構築済みの石積み体の緑化に有用であるが、石積み体の構築の際に並行して施工することもできる。
【符号の説明】
【0026】
1 石積み体
2 石
3 隙間
4 裏込栗石層
5 裏込栗石
6 植生基材
7 ノズル
G 地盤
P 植物
W 河川

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の側面位置に石を積み上げ、その石と地盤の間に裏込栗石を充填して構築した石積み体における緑化工法であって、堆積土又は堆肥化した植物廃材あるいはこれらを混合した基盤材と繊維片と水和反応で固化する固化材と植物の種子と肥料と水とを混練して植生基材を作製し、その植生基材を石と石の間の隙間から裏込栗石の層に対して圧入するとともに石と石の間の隙間に充填し、植生基材内の固化材の固化によって基盤材と繊維片を立体網状に連結させ、植生基材内の種子を発芽させて石と石の間の隙間から伸長させるようにしたことを特徴とする、石積み体の緑化工法。
【請求項2】
基盤材と繊維片と固化材と種子と肥料と水との配合比が、基盤材1000L容積に対して繊維片が10〜20kg、固化材が20〜40kg、種子が200〜500g、肥料が5〜15kg、水が0.2〜0.3mである、請求項1記載の石積み体の緑化工法。
【請求項3】
石積み体が河川の堤体を構成するものである、請求項1又は2記載の石積み体の緑化工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−21348(P2012−21348A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161195(P2010−161195)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(510196877)
【出願人】(510196888)
【Fターム(参考)】