説明

石英ガラス成形体の製造用型材の組み立て方法

【課題】石英ガラス成形体製造用の型材の組み立てを簡単かつ精度良くできるようにする。
【解決手段】板材14を組み立てて正多角柱状の型材10を組み立てる方法であって、底板12の上に正多角柱状の組立治具18を載せ、さらにその上に石英ガラス母材16を載置した後に、ガイド面19に沿わせて組立治具18の辺の長さよりも大きな幅の板材14−1を密着させて設置し、次の板材14−2の一端を板材14−1の側面に当接させて設置する。これを繰り返して正多角柱状の型材10を組み立て、固定治具によって板材14を固定する。正多角柱状の型材10の構築を簡単かつ精度良くできるために、製品収率の向上や作業性の向上をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状あるいは円板状石英ガラス製品を得るための石英ガラス成形体を製造する際に使用する型材の組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス製品、特に、石英ガラスよりなる石英ガラス製品は、光学レンズなどの光学機器に限らず、その耐久性や化学的安定性などの利点を生かし、半導体製造用治具、液晶ディスプレイパネル製造用フォトマスクあるいは光通信用の精密部品などに広く用いられている。こうした石英ガラス製品の製造プロセスとしては、エッチングや研削加工などのような、加工対象物から不要な領域を除去する除去工程を主に用いるプロセスが採用されていた。
【0003】
しかしながら、エッチングによる製造プロセスは、加工対象物の表面の比較的微細な加工に限定され、得られるガラス製品が限定されてしまうという問題点があった。また、研削加工による製造プロセスは、加工対象物を少量ずつ研削して所望の形状に加工するため、加工時間が長くかかると共に、加工対象物から不要な部分を研削して除去するものなので、最終的に加工された石英ガラス製品の重量に比べ、より大きな石英ガラス材の重量が必要となり、製造効率や製造コスト上の問題点があった。
【0004】
こうした問題点を解決するため、型材を用いてガラス製品の概形を溶融成形により石英ガラス成形体を製造し、その石英ガラス成形体に研削などの機械加工を施してガラス製品を作製する手法が知られている。
【0005】
以下に、型材を用いたガラス製品の概形を溶融成形により製造する従来の方法を簡単に説明する。
【0006】
図1に示すように、溶融成形に用いる型材10は、所望の内径を有する2分割あるいはそれ以上に分割された円筒であり、底板12の上面12aに設置される。この型材10の内部に、溶融成形しようとする石英ガラス母材16を載置し、電気炉などの加熱装置により、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下において、加熱温度1500℃ないし2000℃で加熱する。これにより、石英ガラス母材16は加熱溶融され、型材の内径と同一寸法の円柱形状の石英ガラス成形体16aとして製造される。
【0007】
しかしながら、円筒形の型材10は製作が難しく、加工のために大型の装置が必要であり、製作に時間がかかり、製作コストが負担になっていた。更に、2分割あるいはそれ以上に分割した型材を組み合わせて円筒形になるようにしているために、分割型材が1つでも破損すると型材として機能しなくなるために、予備として高価な型材をストックしておかなければならないという問題点もあった。
【0008】
このような問題点を解決するため、製作が容易な共通の部材を使用できるようにするために、図2に示すように、同じ大きさの板材14を組み合わせて構成した正多角柱状の型材10を用いることを本発明者が提案した。(特願2010−26808)
【0009】
この場合も前記同様に、板材14で構成された正多角柱状の型材10内に石英ガラス母材16を載置し、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下において加熱装置で1500℃ないし2000℃で加熱溶融し、板材14の内面14aで区画された多角柱状の石英ガラス成形体16aが製造される。この石英ガラス成形体16aを切削などの機械加工によって、所望の形状の石英ガラス製品を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4054977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
板材を組み立てた正多角柱状の筒体を型材とすることにより、破損時に備えた予備品のストックが不要になり、型材の製作に費やされる加工時間を省略できると共に、板材を組み立てることによって正多角柱状体の型材ができあがるのでコストが削減できるようになった。
【0012】
しかしながら、板材を組み立てて正多角柱状体とした型材を用いる場合、所望の外径の石英ガラス成形体を得るためには、外径に応じた幅の板材を複数枚準備する必要があり、また、板材の寸法精度を高くし、正確に組み立てないと歪んだ正多角柱となり、所望の外径の石英ガラス成形体が得られないことがあるため、板材を用いた正多角柱状の型材の組み立てには多大の労力と時間を必要としていた。
【0013】
また、同じ大きさの板材をセットとして使用して正多角柱状体を組み立てているものであるので、近年増大しつつある、石英ガラス製品のサイズ、あるいは、形状の多様化に対応するためには、これらに応じた大きさの板材のセットを予め準備しておかなければならないが、使用頻度の低いサイズについても準備しておくことは、保存場所の問題、更に、その管理が煩雑となり現実的ではない。
【0014】
本発明は、正多角柱状の型材の組み立てを簡単にかつ精度良くおこなうことができるようにすると共に、石英ガラス製品のサイズ、あるいは、形状の多様化に簡単に対応できる型材の組み立て方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、正多角柱状体の型材の組み立て方法であって、詳しくはその側面にガイド面を有する正多角柱状体の組立治具を底板上に載せ、さらにその上に溶融成形しようとする石英ガラス母材を載置した後、組立治具のガイド面に正多角柱の組立治具の一辺の長さよりも大きな幅の板材を密着させて板材の他端が組立治具の角部を越えるようにし、次の板材の一端面を隣接する板材の側面部に接触させて組立治具のガイド面に密着させ、この作業を全ての辺についておこなって板材の内部形状を多角柱状体とする型材の組み立て方法である。
【発明の効果】
【0016】
石英ガラス成形体の製造の際に用いる型材の構成要素である板材からなる正多角柱状の型材の組み立てを、ガイド面を有する多角柱状体の組立治具を使用して作業することにより、型材の組み立てが簡単になるだけでなく、精度良くおこなうことが可能となるために、正多角柱内径の歪みがなくなり、所望の外径の石英ガラス成形体が得られることから、収率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の円筒部材を型材とした石英ガラス成形体製造用型材の斜視図、上面平面図、及び製造工程図。
【図2】正多角柱状体を型材とした石英ガラス成形体製造用型材の斜視図、上面平面図、及び製造工程図。
【図3】本発明の組立治具を使用した型材の組み立て方法の説明図及び製造工程図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図3に示すように、組立治具18は、正多角柱状体(図示の例は正八角柱状体)であり、1辺の長さは、製作する正多角柱状体の型材10の辺の長さに合致させたものである。
【0020】
組立治具18の正多角形の大きさにより、得られる石英ガラス成形体の外径が決まるため、種々の外径の石英ガラス成形体を得るためには、目的の径に応じた大きさの組立治具18を用意する必要がある。
【0021】
組立治具18の高さは、所望とする正多角柱状の型材の大きさにもよるが、1cmないし5cmが望ましい。組立治具18の高さが1cmよりも低いと板材14と接触しているガイド面の面積が小さいため、板材14の組み立て作業が円滑におこなわれないだけでなく、板材14が垂直とならず傾斜してしまい、正多角柱型材内面の精度が低下するので好ましくない。すなわち、板材14が傾くと、正多角柱型材の内径が小さくなり、所望とする径の石英ガラス成形体が得られなくなる恐れがある。
【0022】
また、組立治具18の高さが、5cm以上になると、板材14と接触しているガイド面の面積が大きくなるために、正多角柱型材内面の精度が向上するだけでなく、設置のための労力は小さくなるが、組立治具の重量が大きくなり、取り扱いが困難になるだけでなく、石英ガラス母材16を溶融する際の熱量が組立治具18の加熱に消費され、非効率なものとなる。
【0023】
実際の製造現場においては、上述の点を鑑み、組立治具18の大きさ及び高さは正多角柱状の型材の高さや径、作業スペース、所望とする石英ガラス成形体の大きさなどの兼ね合いで決定する。
【0024】
板材の一方の端部を組立治具18の頂点に合わせた場合には、石英ガラス成形体の外径を変更するために、種々の大きさの組立治具18を用いる場合であっても、同じ板材14を使用することができる。
【0025】
板材14の厚さは、溶融成形の際に充分な強度を有していれば特に限定されず、0.5cmないし5.0cmの範囲であれば必要強度が得られる。更に、望ましくは1.0cmないし3.0cmである。板材14の厚さが1.0cmより薄くなると、板材14の製造方法にもよるが、機械的強度が小さくなること、及び耐久性に問題が生じる可能性が大きい。
【0026】
板材14の厚さが3.0cmより厚くなると板材14を加熱するための熱量の増加やそれに伴う冷却時間の増大、また板材14の重量の増大による作業性の低下などの問題が生じるので好ましくない。
【0027】
石英ガラス成形体製造用型材の材質は、石英ガラスの溶融条件においてなんら反応しないものであればよく、特に限定されるものではないが、その加工の容易さ、物理的・化学的安定性、高温での膨張度合い、不純物含有量の少なさ、及び材料価格の面から、カーボンを用いることが望ましい。
【0028】
カーボン製板材14の溶融石英ガラスと接触する面に、カーボンと溶融石英ガラスとの反応を防止するために、カーボン製フェルトを介在させたり、アルミナ(A12O3)、窒化珪素(Si34)、あるいは炭化珪素(SiC)などからなる保護膜を被覆してもなんら問題ない。これらの保護膜は、湿式法や乾式法により作製することができる。例えば、湿式法では、それぞれの粉末に水を加え、スラリー化した後に、スプレーを用いて被覆したり、刷毛などを用いてスラリーを塗布した後に乾燥することにより作製することができる。また、乾式法では、アルミナターゲットなどを用いたスパッタ法や珪素ターゲットを用いた反応性イオンプレーティング法などにより作製することができる。
【0029】
本発明の組み立て手順は、型材10を設置しようとする場所に底板12を置き、その中央部に組立治具18および石英ガラス母材16を順次載置する。続いて、組立治具18の正八角柱の各辺に対応する組立治具18の側面のガイド面19に幅が組立治具18の辺の長さよりも大きな幅を有する板材14−1を密着させて設置する。板材14−1の一端は組立治具18の角部18−1に合わせて設置し、他端を組立治具18の隣接する角部18−2を越えるようにする。次に2枚目の板材14−2の一端部が板材14−1の側面に当接させ、板材14−2の側面を組立治具18のガイド面19に密着させて設置する。これを各辺についておこなうことにより、正八角柱状の型材10が組み立てられる。
【0030】
正八角柱状に組み立てられた板材を適宜の手段、例えば、板材14と同じ材質からなる固定治具を用いて固定する。
【0031】
また、特に筒型形状の石英ガラス成形体を得ようとする場合には、収率向上のために、石英ガラス母材の下面及び/あるいは上面に所望とする石英ガラス成形体の内径よりも小さな外径を有する円柱形状の治具を設置することが望ましい。
【0032】
このようにして組み立てた、その内部に石英ガラス母材16を設置した石英ガラス成形体製造用型材10を加熱炉などに移し、溶融成形をおこなうことにより外周形状が正八角形である石英ガラス成形体が得られる。
【0033】
石英ガラス母材の溶融成形は、1500℃ないし2000℃に加熱することによりおこなわれるが、より好ましい加熱温度は1700℃ないし1900℃である。これは1700℃より低いと石英ガラスの溶融粘度が大きいために、溶融成形に時間がかかるためであり、1900℃を超えると石英ガラスとカーボンとの反応が起きやすくなってしまうためである。
【0034】
表1に正六角形、正八角形及び正十二角形の正多角柱状の型材10を構築する際に使用した組立治具18の材質、大きさ、及び構築に要した時間を示す。また、併せて、この型材を用いて円柱状の石英ガラス母材を溶融成形した結果を示す。更に、表1には、組立治具を使用しないケースを比較例として示した。
【0035】
表1から明らかなように、組立治具18を使用することにより、正多角柱状の型材の構築に要する時間は大きく減少し、得られる石英ガラス成形体16aの形状も安定していた。
【0036】
【表1】

【符号の説明】
【0037】
10 型材
12 底板
12a 底板上面
14 板材
14a 板材内周面
16 石英ガラス母材
16a 石英ガラス成形体
18 組立治具
19 ガイド面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス母材を型材内に設置して加熱溶融炉内で加熱溶融し、溶融石英ガラスを型材の形状に合致させた石英ガラス材を成形するための正多角柱状の型材の組み立て方法であって、ガイド面をその側面に有する正多角柱状の組立治具を底板に設置し、その上に石英ガラス母材を載置した後に、一辺が組立治具の辺の長さよりも大きな板材の一端を組立治具の角部に合わせてガイド面に密着させ、板材の他端を組立治具の角部を越えて位置させ、続いて2枚目の板材の一端を組立治具の角部において隣接する板材の側面に当接させ、これを繰り返すことによって内面形状が正多角柱状体とした型材の組み立て方法。
【請求項2】
請求項1において、板材及び組立治具の材質がカーボンであることを特徴とする型材の組み立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−18658(P2013−18658A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150798(P2011−150798)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(390005072)東ソー・クォーツ株式会社 (46)