説明

硫化水素および/または硫化水素塩を含有する神経細胞分化促進剤およびその方法

【課題】新規な作用機序を有する、効果的な神経細胞用の細胞分化促進剤およびその方法を提供する。
【解決手段】硫化水素および/または硫化水素塩を有効成分として含有してなる神経細胞用の細胞分化促進剤およびその細胞分化促進方法。より好ましくは、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される硫化水素塩を有効成分として含有する細胞分化促進剤およびその細胞分化促進方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞用の細胞分化促進剤およびその方法に関する。より詳細には、硫化水素および/または硫化水素塩を含有する神経細胞分化促進剤およびその細胞分化促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素(HS)は一般的に有毒ガスとして知られ、HSに関するほとんどの研究がその毒性作用に集中し(Reiffenstein RJら, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., vol. 32, pp.109-134 (1992))、その生理学的機能については注目されていなかった。しかしながら、HSが、ラット、ヒトおよびウシの脳内で合成されることが報告され(Goodwin LRら, J. Anal. Toxicol., vol. 13, pp. 105-109(1989);Warenycia MWら, Neurotoxicology, vol. 10, pp. 191-200 (1989);Savage JCおよびGould DH, J. Chromatogr., vol. 526, pp. 540-545 (1990))、HSが神経伝達物質としての働きを初め生理機能を有し得ることが示唆されている。
【0003】
内因性の硫化水素(HS)は、シスタチオニンβ−シンターゼ(CBS)およびシスタチオニンγ−リアーゼ(CSE)を含めたピリドキサル−5'−リン酸依存性酵素によってシステインから形成し得る(Stipanuk MHおよびBeck PW, Biochem. J., vol. 206, pp. 267-277 (1982);Griffith OW, Methods in enzymology, vol. 143, pp. 366-376 (1987);Erickson PFら, Biochem. J., vol. 269, pp. 335-340 (1990);Swaroop Mら, J. Biol. Chem., vol. 267, pp. 11455-11461 (1992))。CBSおよびCSEの双方は、肝臓および腎臓におけるそれらの活性について研究されている(Stipanuk MHおよびBeck PW, Biochem. J., vol. 206, pp. 267-277 (1982);Erickson PFら, Biochem. J., vol. 269, pp. 335-340 (1990);Swaroop Mら, J. Biol. Chem., vol. 267, pp. 11455-11461 (1992))。
【0004】
また、CBSは脳内で発現され、CBS阻害薬ヒドロキシルアミンおよびアミノオキシアセテートは、HSの生成を抑制するが、CBSアクチベーターS−アデノシル−L−メチオニン(SAM)はHS生成を増強する。生理的濃度のHSは、特にNMDA受容体の活性を増強し、海馬における長期増強(LTP)を誘起する(Abe KおよびKimura H, J. Neurosci., vol. 16, pp. 1066-1071 (1996))。cAMPを媒介とした経路は、HSによってNMDA受容体の変調に関与し得る(Kimura H, Biochem. Biophys. Res. Commun., vol. 267, pp. 129-133 (2000))。また、HSは、視床下部からのコルチコトロピン放出ホルモンの放出を調節できる(Russo CDら, J. Neuroendocrinol., vol. 12, pp. 225-233 (2000))。これらの観察に基づいて、CBSが脳内のHSを生成でき、かつHSは神経調節物質として機能し得ることが提案された(Abe KおよびKimura H, J. Neurosci., vol. 16, pp. 1066-1071 (1996))。
【0005】
さらに、近年、脳を初めとする多くの細胞、組織あるいは臓器において合成酵素によって内因性に産生され多彩な生理活性を有することが知られている2種のガス、すなわち一酸化窒素(NO)および一酸化炭素(CO)との関連性について注目されている。
【0006】
しかしながら、毒性学的な側面から肝臓および腎臓、ならびに生理学的な側面から脳においてHSが注目されているが、神経細胞に対するHSの分化促進作用に関する報告は現在まで存在しない。
なお、本願発明では、溶液に溶かすことにより物理的にHSを発生させる硫化水素塩として硫化水素ナトリウムを用いた。
【非特許文献1】J. Neurosci., vol. 16(3), 1066-1071 (1996)
【非特許文献2】Biochem. Biophys. Res. Commun., vol. 237(3), 527-531 (1997)
【非特許文献3】J. Biol. Chem., vol. 274(18), 12675-12684 (1999)
【非特許文献4】J. Neurosci., vol. 22(9), 3386-3391 (2002)
【非特許文献5】FASEB J., vol. 19, 623-625 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術に鑑みて行われたものであり、本発明の目的は、効果的な神経細胞用の細胞分化促進剤およびその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、神経細胞用の細胞分化促進剤として好ましい薬剤を開発すべく研究を行い、新たな作用機序を見出すために鋭意研究した結果、硫化水素および硫化水素塩が、神経細胞の分化促進作用を有することを初めて見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 硫化水素および/または硫化水素塩を有効成分として含有してなる神経細胞用の細胞分化促進剤。
(2) 該神経細胞が、Tタイプのカルシウムチャネルを発現する神経細胞である(1)記載の細胞分化促進剤。
(3) 該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される(1)または(2)に記載の細胞分化促進剤。
(4) 該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウムである(3)記載の細胞分化促進剤。
(5) DDS製剤化されている(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞分化促進剤。
(6) 神経細胞と、硫化水素および/または硫化水素塩とを接触させて、該神経細胞の細胞分化を促進することを特徴とする神経細胞の細胞分化促進方法。
(7) 該神経細胞が、Tタイプのカルシウムチャネルを発現する神経細胞である(6)記載の細胞分化促進方法。
(8) 該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される(6)または(7)記載の細胞分化促進方法。
(9) 該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウムである(8)記載の細胞分化促進方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新規な作用機序を有し、かつ優れた神経細胞の分化促進作用を有する細胞分化促進剤ならびにその分化促進方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
硫化水素および硫化水素塩は、天然に存在するか、または化学反応もしくは微生物(硫酸還元細菌)反応等により人工的に合成されてもよい。硫化水素塩として、例えば、硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化水素カリウム(KHS)、硫化水素カルシウム(Ca(HS))、硫化水素アンモニウム(NHHS)のごときHSイオンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられ、好ましくは、硫化水素ナトリウムである。
【0012】
神経細胞とは、情報の伝達と処理を担う神経系の形態的および機能的単位をいう。神経細胞の形態学的特徴として、神経細胞体、樹状突起、軸索等が挙げられ、神経細胞の興奮活動性は、細胞上でイオンを透過させる役割を有するタンパク質である種々のイオンチャネル群(例えば、T−、L−またはN−タイプのカルシウムチャネル、カリウムチャネル、ナトリウムチャネル等)により調節されている。
【0013】
T−タイプのカルシウムチャネルを発現する神経細胞系の例として、TT、IMR−32およびY79のごときヒト細胞系、C−セル 6−23、GH3のごときラット細胞系、ならびにMAb−7B、N1E−115、NG108−15、ND7−23およびAT−1のごときマウス細胞系が挙げられる。
【0014】
神経細胞の「分化」とは、個々の神経細胞が神経回路を形成するために特殊化した細胞になることをいい、特に、神経回路を形成するための神経細胞の神経突起伸長等の形態学的変化ならびに電気生理学的変化を意味する。
【0015】
神経細胞の分化促進のために用いる場合、本発明の細胞分化促進剤を、そのままあるいは適当な溶媒(例えば、水)に希釈する等の各種処理を施して、ヒトおよび動物について、in vivoまたはin vitroにて使用することができ、医薬品、医薬部外品等に配合して使用することもできる。
【0016】
硫化水素(HS)相当量とは、硫化水素塩をモル量に換算し、そのモル量に対応する硫化水素の質量をいう。
【0017】
本発明の細胞分化促進剤のヒトまたは動物への投与方法としては、脳および脊髄への直接投与や経口投与、静脈内投与以外に、経粘膜投与、経皮投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与、脊髄腔内投与等が適宜選択でき、その投与方法に応じて、種々の製剤として用いることができる。
以下に、各製剤について記載するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種製剤として用いることができる。
【0018】
投与の用量は、治療されるべき特定の疾患、治療されるべき疾患の重篤度、特定の対象の年齢、体重、一般的身体状態、当業者によく知られるような対象が取り得る他の薬物療法に依存し、対象の血液中の化合物および/または代謝物の血中レベルまたは濃度、および/または治療されるべき特定の疾患に対する対象の応答を測定することに応じて広く変更できる。典型的には、神経細胞用の細胞分化促進剤として用いる場合には、経口投与量は、硫化水素塩として、3mg/kg〜360mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは10mg/kg〜180mg/kgである。全身投与を行う場合、特に静脈内投与の場合には老若男女または体型等により変動があるが、有効血中濃度が、硫化水素塩として、3mg/mL〜360mg/mL、より好ましくは10mg/mL〜180mg/mLの範囲となるように投与される。
【0019】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤等があり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。また、口腔内局所投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、バッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤等があり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0020】
上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書でいうDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠等)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤等、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用等を勘案した上で、最適の製剤形態にした製剤をいう。
【0021】
DDSの構成要素には基本的に薬物、薬物放出モジュール、被膜および治療プログラムから成り、各々の構成要素について、特に放出を停止させた時に速やかに血中濃度が低下する半減期の短い薬物が好ましく、投与部位の生体組織と反応しないおおいが好ましく、さらに、設定された期間において最良の薬物濃度を維持する治療プログラムを有するのが好ましい。薬物放出モジュールは基本的に薬物貯蔵庫、放出制御部、エネルギー源および放出孔または放出表面を有している。これら基本的構成要素は全て揃っている必要はなく、適宜追加あるいは削除等を行い、最良の形態を選択することができる。
【0022】
DDSに使用できる材料としては、高分子、シクロデキストリン誘導体、レシチン等がある。高分子には不溶性高分子(シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテート等)、水溶性高分子およびヒドロキシルゲル形成高分子(ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート架橋体、ポリアクリル架橋体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、水溶性セルロース誘導体、架橋ポロキサマー、キチン、キトサン等)、徐溶解性高分子(エチルセルロース、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステル等)、胃溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマー等)、腸溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、アクリル酸系ポリマー等)、生分解性高分子(熱凝固または架橋アルブミン、架橋ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ポリシアノアクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトン等)があり、剤型によって適宜選択することができる。
【0023】
特に、シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、メチルビニルエーテル・無水マレインサン共重合体の部分エステルは薬物の放出制御に使用でき、セルロースアセテートは浸透圧ポンプの材料として使用でき、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースは徐放性製剤の膜素材として使用でき、ポリアクリル架橋体は口腔粘膜あるいは眼粘膜付着剤として使用できる。
また、製剤中にはその剤形(経口投与剤、注射剤、座剤等の公知の剤形)に応じて、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤等の添加剤を加えて製造することができる。
【0024】
これら各添加剤について、それぞれ具体例を挙げて例示するが、これらに特に限定されるものではない。
溶剤:精製水、注射用水、生理食塩水、ラッカセイ油、エタノール、グリセリン、
賦形剤:デンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトール、
コーティング剤:白糖、ゼラチン、酢酸フタル酸セルロースおよび上記記載した高分子、
基剤:ワセリン、植物油、マクロゴール、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性基剤、
結合剤:デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴム等の天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン等の合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、
滑沢剤:ステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類、コムギデンプン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、
崩壊剤:デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、セルロースおよびその誘導体、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロース、
【0025】
溶解補助剤:シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、
懸濁化剤:アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤、
粘稠剤:カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ホドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、
乳化剤:アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、各種界面活性剤、レシチン、
安定剤:亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、キレート剤、不活性ガス、還元性物質、
緩衝剤:リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸、
等張化剤:塩化ナトリウム、ブドウ糖、
無痛化剤:塩酸プロカイン、リドカイン、ベンジルアルコール、
保存剤:安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサール、
矯味剤:白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリン、
芳香剤:トウヒチンキ、ローズ油、
着色剤:水溶性食用色素、レーキ色素。
【0026】
上記したように、医薬品を徐放化製剤、腸溶性製剤または薬物放出制御製剤等のDDS製剤化することにより、薬物の有効血中濃度の持続化、バイオアベイラビリティーの向上等の効果が期待できる
製剤中には、上記以外の添加物として通常の組成物に使用されている成分を用いることができ、これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0027】
つぎに、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
1.細胞培養
神経細胞は、グルコース 4.5g/L、ペニシリン−ストレプトマイシン50 単位/mL、10% FCS、アミノプテリン 1μM、ヒポキサンチン 0.1mM、チミジン 16μMを含むダルベッコ変法イーグル培地にて37℃、5%CO下培養した。
【0029】
2.神経突起伸長を指標とした神経分化促進作用
上記条件で神経細胞NG108-15を培養し、実験当日FCS濃度を1%にした培地に交換した。培地交換3時間後にNaHSあるいはジブチリルcAMPを添加し、その16時間後にランダムに視野を選び視野ごとに全細胞数に対して細胞の直径より長い樹状突起を持つ細胞数の割合をもとめた。結果を図1および図2に示す。図2は、神経細胞の神経突起伸長を促すことが知られるジブチリルcAMPと同様に、NaHS添加により、神経突起の伸長が用量依存的に促進されたことを示す。 P<0.05、**P<0.01(1%FCS存在下のビヒクル(HO)に対する)。
【0030】
3.電気生理学的手法(Whole-cell patch clamp法)を指標とした神経分化促進作用
ポリ−L−オルニチンコーティングした35mm皿に細胞を 1 dishあたり10000個撒き、1〜3日培養した。培養後、培地を細胞外溶液 (97mM N−メチル−D−グルカミン(NMDG)、10mM BaCl、10mM HEPES、40mMテトラエチルアンモニウム(TEA)−Cl、5.6mMグルコース(pH7.4))に交換し、下記の条件でランプパルスあるいはステップパルス刺激を行い、カルシウムチャネル電位を測定してTタイプのカルシウムチャネルおよびHVA(L、N、P/Q、R−タイプのカルシウムチャネル)の発現について検討した。なお、ランプおよびステップパルスの条件は、下記のとおり。
・ランプパルス:保持電位を−90mVとし、1000msの三角波で−120から70mVで刺激した。
・ステップパルス:保持電位を−90mVとし、200msの長さで電気刺激を与えた。結果を図3〜7に示す。それらは、電機生理学的指標からNaHSが、神経突起伸長を促すことを示す。
【0031】
細胞分化促進剤の調製
1)錠剤
以下の処方に従い、常法により錠剤を調製した。
結晶セルロース 100mg
NaHS 100mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 100mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 20mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
乳糖 適量

合計 400mg
【0032】
2)カプセル剤
以下の処方に従い、常法によりカプセル剤を調製した。
NaHS 100mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 100mg
架橋型カルボキシメチルセルロースナトリウム 10mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
乳糖 85mg

合計 300mg
【0033】
3)注射剤
以下の処方に従い、常法により注射剤を調製した。
ブドウ糖 10mg
NaHS 100mg
注射用精製水 適量

合計 100mL
上記1)〜3)で得られた剤は、いずれも本発明の神経細胞用の細胞分化促進剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、未分化、およびジブチリルcAMPにより分化した神経細胞の光顕像を示す。
【図2】図2は、神経細胞の神経突起の伸長に対するNaHSおよびジブチリルcAMPの作用を示す。
【図3】図3は、未分化神経細胞における典型的なTタイプカルシウムチャネル依存性電流記録(A)およびステップパルスに応じたカルシウムチャネル依存電位(B)を示す。
【図4】図4は、ジブチリルcAMPで処理した神経細胞におけるランプパルス刺激によるHVA(L、N、P/Q、R−タイプのカルシウムチャネル)依存電流の増強を示す。
【図5】図5は、NaHSで処理した神経細胞におけるランプパルス刺激によるHVA依存電流の増強を示す。
【図6】図6は、NaHSで処理した神経細胞におけるステップパルス刺激によるHVA依存電流の増強を示す。
【図7】図7は、NaHSで処理による神経細胞におけるHVA依存電流の増強を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素および/または硫化水素塩を有効成分として含有してなる神経細胞用の細胞分化促進剤。
【請求項2】
該神経細胞が、Tタイプのカルシウムチャネルを発現する神経細胞である請求項1記載の細胞分化促進剤。
【請求項3】
該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される請求項1または2記載の細胞分化促進剤。
【請求項4】
該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウムである請求項3記載の細胞分化促進剤。
【請求項5】
DDS製剤化されている請求項1〜4のいずれか1記載の細胞分化促進剤。
【請求項6】
神経細胞と、硫化水素および/または硫化水素塩とを接触させて、該神経細胞の細胞分化を促進することを特徴とする神経細胞の細胞分化促進方法。
【請求項7】
該神経細胞が、Tタイプのカルシウムチャネルを発現する神経細胞である請求項6記載の細胞分化促進方法。
【請求項8】
該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される請求項6または7記載の細胞分化促進方法。
【請求項9】
該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウムである請求項8記載の細胞分化促進方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−100948(P2008−100948A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285195(P2006−285195)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000238201)扶桑薬品工業株式会社 (42)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】